第5節 今後の幼児教育の取組の方向性

教育改革の優先課題としての幼児教育

  • 幼児教育は,子どもの基本的な生活習慣や態度を育て,道徳性の芽生えを培い,学習意欲や態度の基礎となる好奇心や探求心を養い,創造性を豊かにするなど,小学校以降における生きる力の基礎や生涯にわたる人間形成の基礎を培う重要な役割を担っている。このことは,前節で述べたような近年の幼児期から学齢期にかけての子どもの育ちの課題については,幼児教育がその機能を十分に発揮できれば,その解決に大きな役割を果たすことができることを意味する。
     したがって,今後は,学齢期の子どものみならず,幼児期の子どもの育ちの重要性を意識し,幼児教育を教育改革の優先課題として捉え,長期的な視野に立って幼児期からの取組を充実していくとともに,こうした方針に基づいて今日的な課題にも対応していくなど,幼児教育の機能を抜本的に強化する視点を持つことが必要である。

幼児教育の構成

  • 第2節で述べたように,幼児教育は,家庭における教育,地域社会における教育,幼稚園等施設における教育の三者がバランスを保ちながら,全体として豊かなものになって,幼児の健やかな成長を保障している。
     この考え方に基づいて,幼稚園の1日の教育時間は,4時間を標準とし,残りの幼児の生活時間は,家庭や地域社会における活動を行う時間として捉えている。また,幼稚園に就園する前に,家庭や地域社会において,ある程度の生活習慣の習得等がなされ,これを前提に幼稚園における集団生活を通した教育が行われている。同様に保育所等においても,幼稚園とは対象とする年齢や時間等の違いはあるものの,幼児に対する教育については,家庭や地域社会との役割分担が重要である。つまり,幼稚園等施設における教育は,家庭や地域社会における教育力が十分にあることを前提に,はじめてその効果が発揮されるものとして構築されている。
     そして,この家庭・地域社会・幼稚園等施設の三者の教育が揃って,幼児の日々の生活や発達・学びの連続性を確保していけるとともに,そこでの幼児教育の成果を小学校以降の学習や生活にもつなげていけるのである。

家庭や地域社会における教育力の再生・向上

  • しかしながら,前節で述べたように,社会環境の急速かつ大きな変化や,人々の意識や価値観の多様化等に伴い,家庭や地域社会における教育力の低下が指摘されている。このような状況は,家庭や地域社会における教育力が十分にあることを前提に構築されている幼稚園等施設における幼児教育についても,その教育効果を低下させている。このように,家庭・地域社会・幼稚園等施設を含む我が国社会全体の教育力の低下が,子どもの育ちに変化を及ぼしているものといえる。
     このため,幼児の視点からみると,幼児の日々の生活や発達・学びの連続性を確保することが困難になっている。例えば,家庭や地域社会での受け皿が不足しがちなために,幼児が日々の生活の中で,幼稚園等施設での生活後,家庭や地域社会での生活に円滑に移ることが困難になっている。また,幼稚園等施設への就園時に,本来なら家庭や地域社会から得られるはずの生活習慣が身についていないことなどから,幼稚園等施設への発達の連続性を確保することができなくなってきている。さらには,家庭や地域社会の教育力の低下,幼稚園等施設の教員等の資質の問題などから,幼児教育の成果を小学校以降に効果的につなげることなどが難しくなっている。
  • このため,家庭や地域社会における教育力を再生し,向上させるためには,幼稚園等施設が,これまでに培ってきた幼児教育のノウハウや成果等を,家庭や地域社会の支援のために十分に活用していくことが必要である。併せて,幼稚園等施設についても,教員等の資質や専門性について研修などを通じた一層の向上を図ることが必要である。このように,総合的に幼児教育を充実させていく方向とすることが,以前にも増して求められている。

今後の幼児教育の取組の方向性

  • ここで幼児教育を取り巻く我が国経済社会全体の趨勢を捉えてみれば,我が国は,農耕社会から工業社会へ,そして現在は,情報社会へと大きな構造変化の渦中にある。このような社会構造の変化に伴い,現在,共働き世帯が半数を超え,両親が家庭にいる時間が少なくなり,また,地域社会の連帯感も希薄になっている。
     このような中で,今,改めて幼児教育を問い直さねばならないのは,従来からの幼稚園等施設における教育はもとより,これまで以上に家庭における教育力,地域社会における教育力の現状に心を砕き,その再生・向上のための取組を講じていかなければ,教育が目的とする「将来にわたる子どもの健やかな成長」を保障することができなくなってしまうのではないかという強い危機感を抱いているからである。
     このように,子どもの育ちを巡る環境が著しく変化している中で,家庭や地域社会における教育力が十分にあることを前提に構築されている幼稚園等施設における教育も含め,幼児教育全体の在り方を根本から見直すことが必要になっている。
  • 以上を踏まえ,今後の幼児教育の取組の方向性としては,幼稚園等施設を中心とした幼児教育の機能の拡大や教員等の資質の向上を図るとともに,家庭や地域社会が,自らその教育力を再生・向上し,家庭・地域社会・幼稚園等施設の三者がそれぞれの教育機能を発揮し,総合的に幼児教育を提供することによって,子どもの健やかな成長を支えていくものとすることが必要である。

 具体的には,以下の2つの方向性から取組を進めることを提唱する。

1 家庭・地域社会・幼稚園等施設の三者による総合的な幼児教育の推進

 幼稚園等施設に家庭・地域社会を加えた三者が連携しながら総合的に幼児教育を推進していく方向性である。
この場合,幼稚園等施設においては,これまでの役割に加え,

  1. 家庭や地域社会における教育力を補完する役割(「失われた育ちの機会」を補完する役割),
  2. 家庭や地域社会が,自らその教育力を再生,向上していく取組を支援する役割(「幼児教育の牽引力」として家庭や地域社会を支援する役割)

 を担うことが求められる。
また,家庭や地域社会についても,幼稚園等施設による取組に加え,生涯学習振興施策等を通じて,その教育力を向上させていくことが必要である。

2 幼児の生活や発達・学びの連続性を踏まえた幼児教育の充実

 家庭・地域社会・幼稚園等施設におけるそれぞれの教育機能が連携することにより,幼児の日々の生活や発達・学びの連続性を確保するとともに,その成果を円滑に小学校に引き継ぐために(幼児教育の成果の連続性の確保),幼児教育の充実を図る方向性である。家庭・地域社会・幼稚園施設等の三者の連携は,「子どもの健やかな成長」を保障するという視点に立って以下の観点から進められることが必要である。

  1. 幼児の「日々の生活」という観点からは,幼稚園等施設での生活と家庭や地域社会における生活の連続性が確保されていることが必要。
  2. 幼児の「発達・学び」という観点からは,幼稚園等施設への就園前の家庭や地域社会での生活を通した発達から,幼稚園等施設の教育を通した学び,さらには小学校以上の学習へと連続的につながっていくことが必要。

 こうした「生活」や「発達・学び」の連続性の確保に向けて,幼児教育全体を充実していくことが求められている。

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