第4節 子どもの育ちの現状と背景

子どもの育ちの現状

  • 近年の幼児の育ちについては,基本的な生活習慣や態度が身についていない,他者とのかかわりが苦手,自制心や耐性,規範意識が十分に育っていない,運動能力が低下しているなどの課題が指摘されている。
     また,小学校1年生などのクラスにおいて,学習に集中できない,教員の話が聞けずに授業が成立しないなど学級がうまく機能しない状況が見られる。
     加えて,近年の子どもたちは,多くの情報に囲まれた環境にいるため,世の中についての知識は増えているものの,その知識は断片的で受け身的なものが多く,学びに対する意欲や関心が低いとの指摘がある。

子どもの育ちの変化の社会的背景

  • 少子化,核家族化,都市化,情報化,国際化など我が国経済社会の急激な変化を受けて,人々の価値観や生活様式が多様化している一方で,社会の傾向としては,人間関係の希薄化,地域社会のコミュニティー意識の衰退,過度に経済性や効率性を重視する傾向,大人優先の社会風潮などの状況が見られるとの指摘がある。
  • このような社会状況が,地域社会などにおける子どもの育ちを巡る環境や家庭における親の子育て環境を変化させている。さらには,このような変化に伴い,後述するとおり,幼稚園等施設の教員等にも新たな課題が生じている。
     そして,これらのことが複合的に絡み合って,子どもの育ちに影響を及ぼしている要因になっているものと考えられる。

子どもの育ちを巡る環境の変化 -地域社会の教育力の低下-

  • 第1に,地域社会などにおいて子どもが育つ環境が変化している。
     子どもが成長し自立する上で,実現や成功などのプラス体験はもとより,葛藤や挫折などのマイナス体験も含め,「心の原風景」となる多様な体験を経験することが不可欠である。
  • しかしながら,少子化,核家族化が進行し,子ども同士が集団で遊びに熱中し,時には葛藤しながら,互いに影響しあって活動する機会が減少するなど,様々な体験の機会が失われている。
     また,都市化や情報化の進展によって,子どもの生活空間の中に自然や広場などといった遊び場が少なくなる一方で,テレビゲームやインターネット等の室内の遊びが増えるなど,偏った体験を余儀なくされている。
     さらに,人間関係の希薄化等により,地域社会の大人が地域の子どもの育ちに関心を払わず,積極的にかかわろうとしない,または,かかわりたくてもかかわり方を知らないという傾向が見られる。

親の子育て環境などの変化 -家庭の教育力の低下-

  • 第2に,幼児教育が行われる一つの場としての家庭における子育てについても,その環境などが変化している。
     言うまでもなく,子育てとは,子どもに限りない愛情を注ぎ,その存在に感謝し,日々成長する子どもの姿に感動して,親も親として成長していくという大きな喜びや生きがいをもたらすものである。実際,子どもの成長が感じられたとき,子どもの笑顔を見たときなどに,特に喜びを感じるなど,自分の子育てに満足している親は半数を超えている。
  • このような子育ての喜びや生きがいは,家庭や地域社会の人々との交流や支えあいがあってこそ実感できるものである。
     しかしながら,一方で,核家族化の進行や地域における地縁的なつながりの希薄化などを背景に,本来,我が子を自らの手で育てたいと思っているにもかかわらず,子どもにどのようにかかわっていけばよいかわからず悩み,孤立感を募らせ,情緒が不安定になっている親も増えている。
     こうした状況の中,児童相談所における虐待に関する相談処理件数も増加している。
  • また,女性の社会進出が一般的になり,仕事と子育ての両立のための支援が進み,子育ての他にも,仕事やその他の活動を通じた自己実現の道が選択できる社会環境にある中で,子育てに専念することを選択したものの,そのような生き方で良いのか不安を覚え,子育ては「自分の人生にとってハンディキャップではないか」と感じてしまう親がいるとの指摘もある。
  • 一方で,物質的に豊かで快適な社会環境の中で育ち,合理主義や競争主義などの価値観の中で育った者が多い今の親世代にとって,必ずしも効率的でも,楽でもなく,自らが努力してもなかなか思うようにはならないことが多い子育ては,困難な体験であり,その喜びや生きがいを感じる前に,ストレスばかりを感じてしまいがちであるとの指摘もある。
  • また,経済状況や企業経営を取り巻く環境が依然として厳しい中,労働時間の増加や過重な労働などの問題が生ずる傾向にあり,親が子どもと一緒に食事を取るなどの子どもと過ごす時間が十分ではなくなり,これも親の子育て環境に影響を与えている要因であるとの指摘もある。
  • このような子育て環境を改善し,家庭や子育てに夢を持てる社会を実現するため,現在,子育て支援の取組が行われている。
     しかしながら,その取組の結果として,親や企業の際限のない保育ニーズをも受け入れ,単なる親の育児の肩代わりになってしまうことがあると懸念する声もある。この場合,特に低年齢児にあっては,人を愛し,人を信じる心など,人との関係性の根幹を形成する上で必要となる信頼できる大人との1対1による絶対的な依存関係を確保することが難しくなり,子どもの健やかな成長にとって何らかの影響があるのではないかと懸念される。
  • したがって,「父母その他の保護者が子育てについて第一義的責任を有する」という少子化対策における基本理念を踏まえ,親の育児を単に肩代わりするのではなく,親の子育てに対する不安やストレスを解消し,その喜びや生きがいを取り戻して,子どものより良い育ちを実現する方向となるような子育て支援を進めていくことが必要とされている。
     加えて,親が,子どもを育て,その喜びや生きがいを感じながらも,仕事やボランティア活動等,様々な形で社会とのかかわりを持つことで,子育ての他にも様々な活動を通じて自己実現を果たせる環境を整備することも求められている。

幼稚園等施設の教員等の今日的課題

  • 第3に,現在の幼稚園等施設における教員等には,社会環境の変化等に伴う新たな課題に対応するための能力が必要とされている。一方で,近年の教員等には,幼児教育を実践する上で必要となる資質が十分に備わっていない者も見られるとの指摘がある。
  • 前述したように,現在の幼稚園等施設の教員等には,子どもの育ちを巡る環境や親の子育て環境などの変化に対応する力,具体的には,幼児の家庭や地域社会における生活や発達・学びの連続性を保ちつつ教育を展開する力,特別な教育的配慮を要する幼児に対応する力,小学校等との連携を推進する力などの総合的な力量が必要とされている。さらに,子育てに関する保護者の多様で複雑な悩みを受けとめ,適切なアドバイスができる力など,深い専門性も求められている。
     このように,今後の幼児教育がより一層,総合的かつ専門的なものになる中で,現在の教員等の資質や専門性では十分に対応できるのか懸念される面もある。
  • 加えて,近年は,幅広い生活体験や自然体験を十分に積むことなく教員等になっている場合も見られるため,多様な体験を取り入れながら自ら具体的に保育を構想し,実践することがうまくできない者,あるいは教職員同士や保護者との良好な関係を構築することを苦手としている者も少なからずいる。

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