1.我が国における「学校」の現状

(1)これまでの学校指導体制

  •   学校教育はいずれの国においても重要な社会システムであるが,日本と諸外国の学校の在り方は大きく異なる。諸外国では,教員の業務が主に授業に特化しているのに対し,日本では,教員が,教科指導,生徒指導,部活動指導等を一体的に行うことが特徴となっている。
  •   これは,日本の学校が,それぞれの時代において社会の要請に応えながら,子供たちに必要とされる資質・能力を育むことができるよう発展してきた姿であり,こうした「日本型学校教育」は,国際的にも高く評価され(※1) ,学力面では,OECD・PISA調査等の各種国際調査を通じて世界トップレベルとなっているとともに,勤勉さ,礼儀正しさなど道徳面,人格面でも評価されてきた(※2) 。このようなことから,「日本型学校教育」の海外展開が要望されるようになっている。今後も,このような「日本型学校教育」の有効性が生かされることが重要である。
  •   日本では,教員が一人一人の子供の状況を総合的に把握して指導し,学校が子供の人格的成長に大きな役割を果たしている。加えて,通学路の安全確保や,夜回り指導など,教員は学校外での子供の活動にも対応している場合もある。このように,日本社会においては,学校や教員の熱心な取組や大きな負担の上で,子供に関する諸課題に対応してきた。
  •   こうした教員の献身的な取組は,日本の学校教育の高い成果に貢献している一方で,教員に大きな負担を強いている状況にある。
  •   こうした教員にかかる負担の現状は,平成26年6月に公表されたOECD国際教員指導環境調査(TALIS)の結果にも表れている。日本の教員の1週間当たりの勤務時間は参加国中で最長となっているが,勤務時間の内訳を見ると,授業時間は参加国平均と同程度であるのに対し,課外活動の指導時間や事務業務の時間が長いことが示されている。
  •   このように,教員が,教科指導,生徒指導,部活動指導等を一体的に担う「日本型学校教育」は,大きな成果を上げる一方,現在の教員の勤務実態や,後述の「更なる対応が必要な課題」を踏まえると,現状のままの指導体制で,これまでと同様の効果を上げていくことは困難になっている。

(2)更なる対応が必要な課題

  •   今後の社会の在り方を考えると,グローバル化の進展や人工知能(AI)の飛躍的な進化など,社会の加速度的な変化を受け止め,将来の予測が難しい社会の中でも,伝統や文化に立脚した広い視野を持ち,志高く未来を創り出していくために必要な資質・能力を子供たちに確実に育む学校教育の実現が重要である。
  •   これまでの真摯な取組が着実に成果を上げつつある一方,日本の子供たちについては,判断の根拠や理由を示しながら自分の考えを述べることなどについて課題が指摘されることや,自己肯定感や主体的に学習に取り組む態度,社会参画の意識等が国際的に見て相対的に低いことなど,子供が自らの力を育み,自ら能力を引き出し,主体的に判断し行動するという点については、今後の我が国の発展に向けた大きな課題となっている。また,日本の教員については,諸外国の教員に比べて,子供たちの主体的な学びを引き出すことに対する自信が低いことに加え,指導の中でICTを活用することができていないといった早急に対応すべき課題がある(※3) 。
  •   基本的な知識・技能を習得し,それを活用する力とともに,膨大な情報から何が重要かを主体的に判断し,自ら問いを立ててその解決を目指し,他者と協働しながら新たな価値を生み出していくことは,将来の予測が困難な時代を生き抜く上で最も必要な資質・能力である。また,こうした課題の発見や解決の過程において,手段としてICTを効果的に活用できる力を育成することも必要である。
  •   こうした資質・能力を育成するため,社会の変化に目を向け,教育が普遍的に目指す根幹を堅持しつつ,社会の変化を柔軟に受け止めていく「社会に開かれた教育課程」の実現に向け,学習指導要領の改訂を進めているところである。その中では,主体的・対話的で深い学びの実現(「アクティブ・ラーニング」の視点からの授業改善),カリキュラム・マネジメントの充実等が重要であるとされており,指導体制もそれにふさわしいものとなるよう,大きく転換を図っていく必要がある。
  •   また,社会全体が,グローバル化の進展,生産年齢人口の減少などにより急速に変化するとともに,格差の再生産・固定化,社会のつながりの希薄化といった課題に直面する中,これらの社会的変化が学校にも影響を及ぼし,学校の抱える
    課題も複雑化・困難化してきている。具体的には,

* 特別支援教育の対象となる児童生徒数は約36万人に上り(※4) ,そのうち小・中学校の通常の学級に在籍しながら障害の状態に応じた特別の指導(通級による指導)を受けている児童生徒は,10年間で2.3倍に増加しているが(※5) ,これらに必要な教員は十分に措置されていない。
* 我が国の在留外国人の増加や長期化・定住化などを反映し,日本語指導が必要な外国人児童生徒等は10年間で1.6倍に増加している(※6) が,約2割(※7) が日本語指導を受けることができていない(※8) 。
* 児童生徒の学力に家庭状況等の社会経済的背景が影響を与える一方で,経済的援助を受ける困窮家庭が,平成7年度には16人に1人の割合だったのに対し,平成25年度には6人に1人の割合にまで急増している(※9) 。さらに,日本の子供の貧困率は年々悪化し,16.3%に及んでいる(※10) (OECD平均13.3%)(※11) 。
* いじめ,児童生徒の暴力行為,不登校,児童虐待など,児童生徒を取り巻く諸課題は複雑化・多様化している。なお,平成26年度に発生したいじめ重大事態(※12) は449件(※13) ,平成26年度の小中学校の不登校児童生徒数は約12.3万人(※14) ,平成26年度の小学校の暴力行為発生件数は約1.1万件(国が調査を開始した平成9年度の約8倍)となっている(※15) 。また、中学校3年生で不登校であった者の高校中退率は一般生徒の約10倍との調査もある(※16) 。

こと等が挙げられる。

  • こうした課題への対応は,格差の解消や「一億総活躍社会」の実現の観点からも重要である。教職員配置や関係機関との連携の充実等を通じて,学校の機能を強化し,課題の克服を図ることが必要である。

(3)これまでの教職員配置について

  • 教職員配置については,昭和33年の「公立義務教育諸学校の学級編制及び教職員定数の標準に関する法律」(昭和33年法律第116号。以下「義務標準法」という。)の制定以来,過去に7次にわたる教職員定数改善計画による計画的な教職員定数改善等の努力が進められてきた。こうした計画的な教育条件の充実によって,大都市とへき地の間における学力格差の解消(※17) や,ティーム・ティーチング,習熟度別少人数指導や小学校における専科指導の拡充(※18) など指導方法の改善が一定程度図られた。しかし,第7次教職員定数改善計画(平成13~17年度)が完成してから10年以上,新たな定数改善計画は策定されていない。
  • 義務標準法による教職員配置の基本的な考え方は,標準的な授業時数等に基づき,学級数等に応じて算定される「基礎定数」と,政策目的や各学校が個々に抱える課題等を踏まえて配分される「加配定数」とに分類される。平成28年度予算では,基礎定数は約62.7万人,加配定数は約6.5万人である。
  • 全教職員定数の1割を占めるようになった加配定数については,政策目的や地域の事情等に応じたきめ細かな定数措置を可能とするものとして,重要な機能を果たしている。一方,その人数については毎年度の予算措置によって決まることから,地方自治体にとって,安定的・計画的な教職員の採用・配置につながりにくいという課題がある。




(※1)日本の学校においては,授業が始まる前のあいさつや授業中の発表の仕方など学習に当たっての規律の習得が重視されており,これによって学習に向けた秩序がしっかりと確立されるため,教員が授業中に秩序維持のために多くの時間を費やす必要がなく,効果的に学習指導を行うことができると指摘されている(Stevenson, H. W. & Stigler, J. W. (1992). The Learning Gap: Why our schools are failing and what can we learn from Japanese and Chinese Education.)。また,掃除や当番などの労働的活動や委員会活動を通じて児童生徒が学校の運営に参加することにより,責任感や主体性がかん養されたり,様々な学校行事により児童生徒の帰属意識や達成感が高められるなど,授業以外の活動が児童生徒の人格的成長に重要な意義を有していると評価されている(Cummings, W. K.(1980). Education and Equality in Japan.)。
(※2)例えば電通「ジャパンブランド調査(第3回)」(2012)によれば16の国・地域の20~59歳男女に聞いた「日本人」のイメージとして,「勤勉」(55.9%),「礼儀正しい」(55.4%),「気さくな」40.9%などが上位に並んでいる。
(※3)OECD国際教員指導環境調査(TALIS)(2014年6月公表)
(※4)文部科学省「平成27年度学校基本調査」(平成27年5月1日現在)ほか
(※5)文部科学省「平成27年度通級による指導実施状況調査」
(※6)平成26年5月現在,公立の小・中・高校等に在籍する外国人児童生徒数は73,289人である。このうち日本語指導が必要な児童生徒数は約4割の29,198人となっており、これらの外国人児童生徒と日本語指導が必要な日本国籍を有する児童生徒数(7,897人)と合わせると、37,095人に上る。
(※7)約6,700人(うち小・中学校に通う児童生徒は5,800人)
(※8)文部科学省「日本語指導が必要な児童生徒の受入状況等に関する調査(平成26年度)」
(※9)文部科学省「平成25年度就学援助実施状況調査」
(※10)厚生労働省「平成25年国民生活基礎調査」
(※11)OECD(2014)Family database “Child Poverty”(データは2010年の値)
(※12)いじめ防止対策推進法第28条第1項に規定する「重大事態」(1いじめにより当該学校に在籍する児童等の生命,心身又は財産に重大な被害が生じた疑いがあると認めるとき 2いじめにより当該学校に在籍する児童等が相当の期間学校を欠席することを余儀なくされている疑いがあると認めるとき)。
(※13)文部科学省「平成26年度児童生徒の問題行動等生徒指導上の諸問題に関する調査」
(※14)同上
(※15)同上
(※16)文部科学省「不登校に関する実態調査(平成18年度不登校生徒に関する追跡調査)」「平成19~22年度児童生徒の問題行動等生徒指導上の諸問題に関する調査」
(※17)昭和37年度全国中学校学力調査報告書によれば,全国平均と比べ,へき地平均の方が低学力層の生徒が多くなっている。一方,平成19年度全国学力・学習状況調査の結果によれば,中学校国語Aの全国平均が81.6点であるのに対し,へき地平均は81.1点である。
(※18)教育課程編成・実施状況調査の結果によれば,専科指導が行われている割合は,平成15年度には理科20.5%,音楽34.5%であるのに対し,平成27年度には理科48.9%,音楽60.2%である。

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(初等中等教育局初等中等教育企画課教育制度改革室)

-- 登録:平成28年11月 --