第1章 時代の変化に伴う学校と地域の在り方について 第1節 教育改革,地方創生等の動向から見る学校と地域の連携・協働の必要性

ポイント

  • 地域社会のつながりや支え合いの希薄化等による地域社会の教育力の低下が指摘されるとともに,家庭教育も困難な現状が指摘。また,子供たちの規範意識等に関する課題に加え,学校が抱える課題は複雑化・困難化している状況。
  • 「社会に開かれた教育課程」の実現に向けた学習指導要領の改訂や,チームとしての学校の実現,教員の資質能力の向上等,昨今の学校教育を巡る改革の方向性や地方創生の動向において,学校と地域の連携・協働の重要性が指摘。
  • これからの厳しい時代を生き抜く力の育成,地域から信頼される学校づくり,社会的な教育基盤の構築等の観点から,学校と地域はパートナーとして相互に連携・協働していく必要があり,そのことを通じ,社会総掛かりでの教育の実現を図る必要。

1.社会の動向と子供たちの教育環境を取り巻く状況等

(1)社会の動向

少子高齢化,グローバル化等の進行

 我が国は,現在,急激な少子化・高齢化の中にあり,2030年には,65歳以上の割合は総人口の3分の1に達し,そうなると生産年齢人口は総人口の約58%にまで減少すると見込まれている。日本全体として,人口減少を克服し,地方創生を成し遂げるため,人口,経済,地域社会の課題に一体的に取り組むこと,また,そのために国民一人一人がより主体的に社会を創り出していくことが求められている。
 また,グローバル化や情報化が進展する社会の中で,多様な主体が速いスピードで相互に影響し合い,一つの出来事が広範囲かつ複雑に伝播(ぱ)してきているために,先を見通すことが一層困難になっている(※1)。


  • ※1 子供たちが将来就くことになる職業の在り方についても,技術革新等の影響により大きく変化することになると予測されている。子供たちの65%は将来,今は存在していない職業に就く(キャシー・デビッドソン氏(ニューヨーク市立大学大学院センター教授),2011)との予測や,今後10年~20年程度で半数近くの仕事が自動化される可能性が高い(マイケル・オズボーン氏(オックスフォード大学准教授),2013)などの予測がある。また,2045年には人工知能が人類を越える「シンギュラリティ」に到達するという指摘もある。

地域社会の教育力の低下

 都市化や過疎化の進行,家族形態の変容,価値観やライフスタイルの多様化等を背景とした地域社会等のつながりや支え合いの希薄化によって,「地域の学校」「地域で育てる子供」という考え方が次第に失われてきたことが指摘されている。教育は,言うまでもなく,単に学校だけで行われるものではない。家庭や地域社会が,教育の場として十分な機能を発揮することなしに,子供たちの健やかな成長はあり得ない。家庭教育が困難なケースの増加や地域社会の教育力の低下に伴い,子供の教育に関する当事者意識も失われていくことで,学校だけに様々な課題や責任が課される事態になっていないだろうか。家庭や地域社会での教育の充実を図るとともに,社会の幅広い教育機能を活性化していくことは,喫緊の課題となっていると言わなければならない。また,特に地域を巡る状況は,上述の現代的事情を背景に,世論調査結果によれば,国や社会のことに目を向けるよりも,個人生活の充実など個人個人の利益を大切にする傾向にあり,そのため,互助・共助の意識も希薄なことから,貴重な学びや成長の機会・場が失われ,地域社会の停滞につながる一因となっている。これまで活躍してきた社会教育関係団体も,活動への参加者が十分集まらず,その役割を十分に果たせていないケースが見られる。これからの時代においては,地域社会での教育の充実に向けて,様々な機関や団体等が連携し,ネットワーク化を図っていくことが求められている。

地域コミュニティを創出する動きの広がり

 その一方で,各種の取組を通じて,地域住民や保護者等の側に,自ら子供たちに積極的に関わり支援することによって,自分たちの手で学校をより良くし,子供たちを育てていこうとする意識や志が生まれつつある。また,幾つかの地域では,子供も大人も自らが主体となって地域を活性化する取組に挑戦し,学校を核に,地域全体を「学びの場」と捉え,街全体の元気を取り戻しつつある。こうした意識の高まりを的確に受け止め,あるいは,一層醸成していくこと等を通じ,かつての地縁を再生するという視点にとどまることなく,新たに地域コミュニティを創り出すという視点に立って,学校と地域住民や保護者等が力を合わせて子供たちの学びや育ちを支援する地域基盤を再構築していくこと,さらには,こうした取組を広げ,常に社会全体で互いの幸せについて考え,そのために何ができるかを問い,学び続ける社会の形成を進めていくことが課題となっている。

家庭教育が困難な現状等

 家庭教育は全ての教育の出発点であり,子供たちが基本的な生活習慣・生活能力,人に対する信頼感,豊かな情操,思いやりや善悪の判断等の基本的倫理観,自立心や自制心,社会的マナー等を身につける上で重要な役割を担っている。
 しかしながら,昨今の家庭を巡る状況としては,核家族やひとり親家庭,共働き世帯の増加など,家族形態の変容やつながりの希薄化等を背景に,生活保護世帯の増加に見られる貧困問題の深刻化,子育ての不安や問題を抱え孤立する保護者の増加,児童虐待相談対応件数の増加など,家庭教育が困難な現状が指摘されており,決してこれらは一部の特別な家庭の問題ではない。
 このほか,昨今,子供たちが被害者や加害者となる様々な事件が発生しており,地域で家庭や子供たちを見守り支えることの必要性が指摘されている。こうした観点からも,学校と地域の連携・協働を一層進めることの重要性が増している。

(2)子供たちの教育環境を取り巻く状況

児童生徒数の減少等の状況

 現在,児童生徒数の減少や多様化・複雑化する社会状況の変化等を背景に,小・中学校の統廃合や,高等学校の再編・統合が進んでいる。今後,少子化の更なる進行により,学校の小規模化に伴う教育上のデメリットの顕在化や,学校がなくなることによる地域コミュニティの衰退が懸念されており,各市町村の実情に応じた活力ある学校づくりの推進が求められている。

子供たちの規範意識等に関する課題

 地域社会や家庭を巡る問題が深刻化している中,多様な価値観を持った人々との交流や体験の減少等を背景として,子供たちの規範意識や社会性,自尊意識等に対する課題,生活習慣の乱れによる学習意欲や体力・気力の低下の課題等が指摘されている。その一方で,社会貢献への高い意欲や,柔軟で豊かな感性と国際性を備えている一面も見受けられるなど,子供たちは,未来を創っていく主役として大きな可能性に満ちており,自らがこれからの未来を創り出していくという主体性とともに,その可能性を最大限引き出し,開花させていくことが求められている。

学校が抱える課題の複雑化・困難化等の状況

 学校における状況に目を転じると,いじめや暴力行為等の問題行動の発生,不登校児童生徒数,特別支援学級・特別支援学校に在籍する児童生徒数,日本語指導が必要な外国人児童生徒数等の増加など,多様な児童生徒への対応が必要な状況となっているなど,その環境は複雑化・困難化を極めており,教員だけで対応することが,質的な面でも量的な面でも難しくなってきている。また,子供たちが自ら課題を発見し,解決に向けて主体的・協働的に学ぶ学習の充実など,授業革新を図っていくことが求められている。
 このような中,中学校等の教員を対象としたOECD国際教員指導環境調査(TALIS)において,我が国の教員は,課外活動の指導や事務作業に多くの時間を費やし,調査参加国中で勤務時間が最も長いという結果が出るなど,教員の勤務負担の軽減が課題となっている。教員が新たな教育課題に的確に対応し,教員としての本来の職務を着実に遂行していくためには,教員が子供と向き合える時間を確保するとともに,教員一人一人が持っている力を高め,発揮できる環境を整えていくことが急務となっている。
 このほか,これまで,学校のガバナンス強化の視点から,学校評議員(※2),学校運営協議会(※3),学校関係者評価(※4)の制度化等により,地域住民や保護者等の意見を学校運営に反映させる仕組みの構築が推進されてきたが,子供たちの育成の視点,学校運営の改善・充実の視点からも,地域との一層の連携・協働が課題となっている。


  • ※2 平成12年に学校教育法施行規則の改正により設けられた制度で,校長の求めに応じ,当該学校の職員以外の者で教育に関する理解及び識見を有する者が学校運営に関して意見を述べることができる仕組み。
  • ※3 平成16年に地方教育行政の組織及び運営に関する法律の改正により設けられた制度で,地域住民や保護者等が学校運営に参画する仕組み。
  • ※4 平成19年に学校教育法及び同法施行規則の改正により設けられた制度で,地域住民や保護者等の学校関係者が,自己評価の客観性・透明性を高めるとともに,学校・家庭・地域が学校の現状と課題について共通理解を深めて相互の連携を促し,学校運営の改善への協力を促進することを目的として行うものとして,学校に対し努力義務が課されている。

(3)教育改革,地方創生等の動向

 昨今の学習指導要領の改訂や教員の資質能力の向上等,様々な学校教育を巡る教育改革の方向性や地方創生の動向において,子供たちの成長過程における地域・社会との関わりの重要性や学校と地域の連携・協働の重要性等が示されている。学校と地域の連携・協働の在り方を検討する上で押さえるべき主な動向は,以下のとおりである。

学習指導要領の改訂について

 学習指導要領の改訂については,その基本的な方向性について教育課程企画特別部会で審議が進められ,本年8月に「論点整理」が取りまとめられたところである。ここでは,社会の加速度的な変化の中でも,社会的・職業的に自立した人間として,伝統や文化に立脚し,高い志や意欲を持って,蓄積された知識を礎としながら,膨大な情報から何が重要かを主体的に判断し,自ら問いを立ててその解決を目指し,他者と協働しながら新たな価値を生み出していくことが求められるとしている。
 同部会の「論点整理」では,これからの教育課程には,社会の変化に開かれ,教育が普遍的に目指す根幹を堅持しつつ,社会の変化を柔軟に受け止めていく「社会に開かれた教育課程」(※5)としての役割が期待されている。「論点整理」においては,「社会に開かれた教育課程」として,次の点が重要であると示している。

  1. 社会や世界の状況を幅広く視野に入れ,より良い学校教育を通じてより良い社会を創るという目標を持ち,教育課程を介してその目標を社会と共有していくこと。
  2. これからの社会を創り出していく子供たちが,社会や世界に向き合い関わり合い,自らの人生を切り拓(ひら)いていくために求められる資質・能力とは何かを,教育課程において明確化し育んでいくこと。
  3. 教育課程の実施に当たって,地域の人的・物的資源を活用したり,放課後や土曜日等を活用した社会教育との連携を図ったりし,学校教育を学校内に閉じずに,その目指すところを社会と共有・連携しながら実現させること。

 このような状況を踏まえ,今後,学校は,「社会に開かれた教育課程」の実現に向けて,地域との連携・協働を一層進めていくとともに,地域においても,子供たちの成長を支える活動により主体的に参画していくことが求められる。


  • ※5 「論点整理」においては,各学校には,学習指導要領等を受け止めつつ,子供たちの姿や地域の実情等を踏まえて,各学校が設定する教育目標を実現するために,学習指導要領等に基づきどのような教育課程を編成し,どのようにそれを実施・評価し改善していくのかという「カリキュラム・マネジメント」の確立が求められていると示している。その上で,「カリキュラム・マネジメント」を捉える三つの側面として,
    1. 各教科等の教育内容を相互の関係で捉え,学校の教育目標を踏まえた教科横断的な視点で,その目標の達成に必要な教育内容を組織的に配列していくこと。
    2. 教育内容の質の向上に向けて,子供たちの姿や地域の現状等に関する調査や各種データ等に基づき,教育課程を編成し,実施し,評価して改善を図る一連のPDCAサイクルを確立すること。
    3. 教育内容と,教育活動に必要な人的・物的資源等を,地域等の外部の資源も含めて活用しながら効果的に組み合わせること。
    を挙げており,また,「社会に開かれた教育課程」の観点からは学校内だけではなく,保護者や地域の人々等を巻き込んだ「カリキュラム・マネジメント」を確立していくことが重要であるとされている。

チームとしての学校の在り方の検討

 従来よりも複雑化・多様化している学校の課題に対応し,学校全体の総合力を一層高めていく必要性から,本審議会では,これからの学校教育を担う教職員やチームとしての学校の在り方について審議が進められてきた。「チームとしての学校の在り方と今後の改善方策について」(答申(案))では,学校は,複雑化・困難化した課題に対応し,子供たちに求められる力を身に付けさせるため,教職員が心理や福祉等の専門家や関係機関,地域と連携し,チームとして課題解決に取り組むことが必要とされている。また,学校と地域の連携を推進するため,学校内において地域との連携の推進を担当する教職員を地域連携担当教職員(仮称)として法令上明確化することを検討するとされている。

これからの学校教育を担う教員の資質能力の向上に関する検討

 本審議会では,これからの学校教育を担う教員の資質能力の向上について審議が進められてきた。「これからの学校教育を担う教員の資質能力の向上について」(答申案)では,学校は,「チーム学校」の考え方の下,学校現場以外での様々な専門性を持つ地域の人々と効果的に連携しつつ,教員とこれらの者がチームを組んで組織的に諸課題に対応するとともに,保護者や地域の力を学校運営に生かしていくことが必要であること,また,新たな教育的課題に対応していくためには,学校が地域づくりの中核を担うという意識を持ち,学校教育と社会教育の連携の視点から,学校と地域の連携・協働を円滑に行うための資質を養成していくことも重要であるとされている。

小中一貫教育の制度化

 平成27年6月,「学校教育法等の一部を改正する法律(平成27年法律第46号)」が公布され,28年4月から施行される。本改正は,学校教育制度の多様化及び弾力化を推進するため,小中一貫教育を実施する義務教育学校の制度を創設するものである。組織上独立した小学校及び中学校が義務教育学校に準じた形で一貫した教育を施す小中一貫型小学校・中学校(仮称)についても,今後,省令改正により制度化される。
 これらの制度改正の基本的な考え方は,平成26年12月の中央教育審議会答申(※6)にまとめられているが,同答申では,小中一貫教育の総合的な推進方策として,地域ぐるみで子供たちの9年間の学びを支える仕組みとして,小中一貫教育とコミュニティ・スクールを組み合わせて実施することが有効であり,中学校区内の小・中学校における一体的な学校運営協議会の設置を促進する必要がある旨,提言されている。


  • ※6 「子供の発達や学習者の意欲・能力等に応じた柔軟かつ効果的な教育システムの構築について」

高大接続の実現に向けた高等学校教育,大学教育,大学入学者選抜の一体的改革

 高等学校教育及び大学教育において,義務教育までの成果を確実につなぎ,それぞれの学校段階において「生きる力」「確かな学力」を確実に育み,初等中等教育から高等教育まで一貫した形で,一人一人に育まれた力を更に発展・向上させる観点から,中央教育審議会答申(※7)を踏まえ,平成27年1月「高大接続改革実行プラン」が公表された。現在,同プランに基づき,具体的な方策が検討されている。
 高校生を地域の活動に積極的に参画させ,地域課題の解決に取り組む学習は,「確かな学力」を構成する思考力・判断力・表現力等の育成に寄与するとともに,学びへの興味と努力し続ける意志を喚起することにつながると期待される。(高等学校の特性を踏まえた在り方については第2章第2節2(3)及び第3章第4節2(3)参照)


  • ※7 「新しい時代にふさわしい高大接続の実現に向けた高等学校教育,大学教育,大学入学者選抜の一体的改革について」(平成26年12月22日中央教育審議会答申)

教育委員会制度の改革

 平成27年4月,教育委員会制度改革を柱とする「地方教育行政の組織及び運営に関する法律の一部を改正する法律(平成26年法律第76号)」が施行された。新たな制度では,全ての地方公共団体に,首長と教育委員会を構成員とする総合教育会議を設けることとなり,同会議においては,教育を行うための諸条件の整備その他の地域の実情に応じた教育等の振興を図るための重点施策等について協議を行うこととなる。
 今後,総合教育会議の活用をはじめ,首長と教育委員会が共に手を取りながら,子供たちの豊かな学びと成長を一層支援していくことが重要視されており,両者のパートナーシップの構築は,学校と地域の連携・協働を推進していく力となる。

まち・ひと・しごと創生総合戦略等の決定

 人口急減・超高齢化という我が国が直面する大きな課題に対し政府一体となって取り組み,各地域の特徴を生かした自律的で持続的な社会を創生できるよう,平成26年11月,地方創生の理念等を定めた「まち・ひと・しごと創生法」が公布・施行され,同年12月には,同法に基づき,今後目指すべき将来の方向を提示した「まち・ひと・しごと創生長期ビジョン」と,これを実現するための目標や施策等を提示した「まち・ひと・しごと創生総合戦略」が閣議決定された。同戦略の中には,学校を核とした地域活性化及び地域に誇りを持つ教育を推進するとともに,公立小・中学校の適正規模化,小規模校の活性化,休校した学校の再開支援を行う旨が盛り込まれた(※8)。
 また,平成27年6月に閣議決定された「まち・ひと・しごと創生基本方針2015」では,学校を核とした地域力強化の観点から,全公立小・中学校において,学校と地域が連携・協働する体制を構築するために,コミュニティ・スクールや学校支援地域本部等の取組を一層促進する旨が示されている。地方創生の実現に向けて,これからの子供たちには,地域への愛着や誇り,地域課題を解決していく力が求められる。


  • ※8 これに基づき,平成27年1月に策定された「公立小学校・中学校の適正規模・適正配置等に関する手引」においては,地域コミュニティの核としての学校の役割を重視しつつ活力ある学校づくりを実現する観点から,市町村が,1.学校統合を検討する場合の魅力ある学校づくりの一環として,統合の検討プロセスから対象校に学校運営協議会を設置し,地域の意見を最大限反映させることや,2.小規模校を存続させる場合のデメリットの緩和策として,コミュニティ・スクールの導入を契機として学校教育活動への地域人材の効果的な参画を促すなどの工夫が盛り込まれている。

2.学校と地域の連携・協働の必要性

 教育は,地域社会を動かしていくエンジンの役割を担っており,教育により,子供たち一人一人の潜在能力を最大限に引き出し,全ての子供たちが幸福に,より良く生きられるようにすることが求められている。
 学校は,全ての子供たちが自立して社会で生き,個人として豊かな人生を送ることができるよう,その基礎となる力を培う場であり,子供たちの豊かな学びと成長を保障する場としての役割のみならず,地域コミュニティの拠点として,地域の将来の担い手となる人材を育成する役割を果たしていかなければならない。一方,地域は実生活・実社会について体験的・探究的に学習できる場として,子供たちの学びを豊かにしていく役割を果たす必要がある。
 今なぜ,学校と地域の連携・協働が必要なのか。主な理由は以下のとおりである。

これからの時代を生き抜く力の育成の観点

 これからの子供たちには,厳しい挑戦の時代を乗り越え,高い志や意欲を持つ自立した人間として,他者と協働しながら未来を創り出し,課題を解決する力が求められている。子供たちの生きる力は,学校だけで育まれるものではなく,家庭における教育はもちろんのこと,多様な人々と関わり,様々な経験を重ねていく中で育まれるものであり,地域社会とのつながりや信頼できる大人との多くの関わりを通して,子供たちは心豊かにたくましく成長していく。地域住民や企業,NPOなど様々な専門知識・能力を持った地域人材が関わることで,将来を生き抜く子供たちに,実社会に裏打ちされた幅広い知識・能力を育成することができる。

地域に信頼される学校づくりの観点

 次に,学校が抱える課題が複雑化・困難化している状況の中,困難な課題を解決していくためには,より一層地域に開かれ,地域と積極的に向き合うことで,地域に信頼される学校づくりを進めていく必要がある。地域住民や保護者等が学校運営に対する理解を深め,積極的に参画することで,学校をより良いものにしていこうという当事者意識を高め,子供の教育に対する責任を社会的に分担していくことができる。

地域住民の主体的な意識への転換の観点

 現代社会の変容の中,子供の教育に対する責任を地域住民が家庭や学校とともに分担していくためには,地域社会において,行政サービス等の「公助」を期待する地域住民の「受け身の意識」から,「互助・共助」の視点を持って,自ら生活する地域を創っていくという地域住民の「主体的な意識」に転換していくことが必要である。こうした意識の醸成のためには,地域住民が「学び」を通じて新たな関係を作り,それぞれで考え,成長していくことが必要である。また,今後は,子供たちを社会の主体的な一員として受け入れ,子供も大人も含め,より多くの,より幅広い層の地域住民が参画し,地域課題や地域の将来の姿等について議論を重ね,住民の意思を形成し,様々な実践へとつなげていくことが重要である。

地域における社会的な教育基盤の構築の観点

 地域の未来を担う子供たちの成長は,その地域に住む人々の希望である。地域社会を構成する一人一人が当事者としての役割と責任を自覚し,主体的・自主的に子供たちの学びに関わり,支えていく中で,地域住民の学びを起点に地域の教育力を向上させるとともに,ふるさとに根付く子供たちを育て,地域の振興・再生につなげるためにも,社会的な教育の基盤を構築していく必要があり,社会教育の体制を整備し,強化していくことが重要である。

社会全体で,子供たちを守り,安心して子育てできる環境を整備する観点

 課題を抱えた保護者や子供の孤立化に対応する観点から,全ての子供たちを守り,支える地域社会の在り方が問われている。子供たちの安全・安心の確保,非行防止,健全育成という観点からも,まずは,学校に関する活動の中で,気軽に子供たちに声を掛ける取組から始めてみることや,学校と地域の連携の中で子供たちの様子を見守っていくことが重要である。個人や個々の機関だけでは対応が困難な課題についても,学校と地域の連携・協働により保護者や子供に必要な支援を行うことで,家庭や子供の変化をもたらすことにつながる。
 また,幅広い分野における女性の活躍を促進していくため,学校と地域との連携・協働により,社会全体として子供の教育を支えていくことにより,安心して子育てできる環境を整備し,育児と仕事が両立する社会を実現していくことが必要である。

学校と地域の「パートナーとしての連携・協働関係」への発展

 こうした観点を踏まえ,今後,学校や地域が抱える様々な課題に社会総掛かりで対応するには,学校と地域の関係を,新たな関係として,相互補完的に連携・協働していくものに発展させていくことが必要である。すなわち,学校と地域は,お互いの役割を認識しつつ,共有した目標に向かって,対等な立場の下で共に活動する協働関係を築くことが重要であり,パートナーとして相互に連携・協働していくことを通じて,社会総掛かりでの教育の実現を図っていくことが必要である。

お問合せ先

初等中等教育局初等中等教育企画課教育制度改革室

(初等中等教育局初等中等教育企画課教育制度改革室)

-- 登録:平成28年01月 --