第1章でも述べたように、未来を担う子供たちは、厳しい挑戦の時代を乗り越え、高い志や意欲を持つ自立した人間として、他者と協働しながら未来を創り出し、課題を解決する能力が求められている。「社会に開かれた教育課程」の実現に向けた学校のパートナーとして、地域の側も広く子供の教育に関わる当事者として、子供たちの成長を共に担っていくことが必要である。さらに、子供たちの成長に向けて、多くの住民が参加して地域と学校とが連携・協働していくことは、子供たちの教育環境の充実にとどまらず、地域住民の学びを起点に地域の教育力を高め、持続可能な地域社会をつくっていくことにもつながる。
このため、今後、より多くの、より幅広い層の住民が参画し、子供たちの成長を地域で担うため、地域における学校との連携・協働を積極的に推進していくことが必要である。
地域における学校との連携・協働を進めていく際には、子供たちの将来、子供たちの成長・発達に向けて、何よりも子供を中心の軸において検討することが必要である。すなわち、変化の激しい社会の中で、次代を担っていく子供に対して、どのような資質を育むのかという目標を共有して、地域社会と学校が協働して子供の教育に取り組んでいく必要がある。
このように、子供の教育という共通の旗印の下に、地域住民がつながり、地域と学校が協働することで、従来の地縁団体だけではない新しい人と人のつながりも生まれるであろう。さらに、地域社会の課題解決にも、地域の一員として学校も関わっていくことにつながる。このため、真の意味で地域と学校が協働することを目標としていく必要がある。
地域社会の側においても、これまでの単なる「学校支援」を超えた体制整備が必要である。社会教育の実施体制を強化しつつ、それぞれの地域の状況に合ったコーディネート機能を構築するとともに、学校のパートナーとしての機能・実態を持った地域社会を維持することが必要である。例えば、郷土の伝統文化や地域防災、子供との接し方などについて、大人が子供に教えるためには、まず大人が学ばなければならない。学校に関わることは、すなわち大人の学びが豊かになることであり、子供の教育を軸として、学校教育と社会教育は表裏一体の関係であると言える。
そのため、公民館などの社会教育施設をはじめとする学びの場やICTを活用したものも含め、多様な形態による学習機会を整備することなど、今後も社会教育の役割の重要性を踏まえた取組を推進していく必要がある。
さらに、地域の教育力の再生・充実は、地域の課題解決や地域振興に向けた連携・協働につながり、持続可能な地域社会の源となる。また、人々が、生涯のいつでも、自由に学習機会を選択して学ぶことができ、その成果が適切に評価される「生涯学習社会」の構築に資するものである。
学校週5日制への移行、少子化の進展ともあわせて、学校・家庭・地域社会の相互の連携が重要になってきており、地域における学校との連携・協働に関しては、これまでに以下のような取組が行われてきている。
平成27年度、地域が学校と連携・協働して行う様々な活動の中でも、学校支援活動を行っている学校支援地域本部は、公立小・中学校の約34%の約4,200本部が設置されている(約10,100校)。放課後等に地域住民等の参画により、子供たちに学習支援や様々な体験活動の機会を提供する放課後子供教室は、公立小学校で約14,000教室である。地域の人材・企業等の協力を得て行われる土曜日の教育支援活動は、公立小中高等学校の35%の約12,000校で実施されている。
これらについては、取組が始まって10年以上※1が経過しており、その顕著な成果としては、例えば、登下校の見守り、花壇整備といった、地域住民にとっても比較的参画しやすい学校支援活動を通じて、地域の大人たちが、学校という場で子供に寄り添い、成長を支える「最初の一歩」となる活動として定着してきていることが挙げられる。地域によっては、その後、より多くのボランティアの参画を得て、より組織的な取組へと発展しながら、活動の充実につながってきているところもある。
また、こうした様々な活動への長期の参画を経て、その間に構築した学校との信頼関係や、地域における人的ネットワークを活用して、特定の取組に参画するボランティアの一員から、学校を核とした地域活動の企画、連絡調整、人員配置等の調整を行うコーディネーター役を務めるに至るケースも次第に増えてきている。
なお、保護者や地域住民が学校支援活動に関わることで、学校の教育水準の向上に効果があると回答している小・中学校は約90%とほとんどである(平成25年度 全国学力・学習状況調査より)。
こうした活動の効果を示すものとして、東日本大震災の時に、避難所となった宮城県内の中学校で学校支援地域本部が設置されていた学校は自治組織が速やかに組織されるなど、緊急時の分担と協働作業につながった事例もあり、それを契機に、被災した各地において学校支援地域本部の設置が拡大した。
さらに、長期にわたってこうした活動に取り組んできた地域では、様々な個々の活動の開始時の苦労や、その後の活動定着までの努力などを知る、特定活動へのボランティアを出自としたコーディネーター等の企画調整により、学校支援活動を各学校ごとだけでなく、幼稚園と小学校、小学校と中学校が連携・協働して中学校区全体の活動とすることで、幼稚園・小学校の連携、小学校・中学校の連携も進展してきている事例もある。
これらのそれぞれにおける活動や、その活動の長期にわたる蓄積等を通じて、参画するボランティアやコーディネーターに、地域の高齢者や子育て経験者をはじめとする一層多様な人材の参画が得られるようになってきた地域もあり、子供たちに多様性のある豊かな学習や体験活動を行う取組が全国各地で広まりつつある。
また、こうした取組は、ここ10年程度の間に進められてきたものであるが、地域によっては、こうした取組がはじまる以前から公民館等の社会教育施設により長年にわたり社会教育活動を通じた地域の活性化のための諸活動が進められてきており、このような活動が、地域における学校支援活動等の円滑なスタートや、その後の速やかな定着につながっている。このような公民館等の社会教育施設による社会教育活動は、現在においても、地域の実情に応じた学校支援活動の連携の場の一つとして機能している。
※1 平成16年度から「放課後子供教室」の前身である「地域子ども教室推進事業」が始まっている。
(地域における学校との連携・協働の課題)
平成25年に策定された第2期教育振興基本計画では、今後取り組むべき具体的方策として、「全ての学校区において、学校支援地域本部や放課後子供教室の取組の実施など、学校と地域が連携・協働する体制が構築されることを目指す」とされており、更なる取組の充実と普及が必要である。
そのためには、長期に取り組んでいる地域も、始めてまだ数年の地域も、学校支援地域本部等による活動が、学校を核とした地域活動への参画の「最初の一歩」としての役割を果たすことを十分に生かし、まずはしっかりとその活動を定着させることが重要である。しかしながら、地域によっては、参画する地域住民や保護者が一部の限られた者にとどまり、活動内容についても限定的な内容になってしまっていることもある。また、活動に参画する住民は子供と接する教育活動に関わることとなるため、地域で子供の成長を支えるということを自覚し、学校等の関係者と協力して取り組むことが重要であるが、そのような意識が必ずしも十分でない者も見られる。
より多くの、より幅広い層の住民の参画を得ながら、活動間の連携・協働を促進することにより個々の活動の幅を広げることによってはじめて、様々な可能性を持つ子供たちの成長を支える地域の活動が真に地域全体としての活動につながっていく。子供たちの成長を支える持続的な活動としていくには、単に学校を支援するという活動を超えて、子供たちの成長のための目標を地域で共有しつつ、様々な活動を全体的に俯瞰して、子供たちの成長にとって地域が果たすことのできる活動を地域と学校が協働しながら実現していくことが必要である。
そのためには、地域住民自らが、活動実施のための適切なコーディネートを行い、無理なく、できる時に、できる人材が力を結集して効果的に活動できるよう進めていくこと、多くの地域住民の参画を得て学校を核とした地域協働の在り方について熟議・検討することが有効であるが、そのための企画立案、コーディネート機能を発揮する体制の整備が十分に行われている地域はまだ限られている。
現状の活動では、それぞれの活動ごとにコーディネートがなされる状況もある。この場合、例えば、放課後の支援活動、学校支援活動、学校と連携した公民館活動等の活動が、それぞれ個別に行われており、それぞれ互いの活動の目標や、主に参画している関係者等の情報の共有などについて、必ずしも連携が十分でなく、調整ができていないことによる地域人材や活動機会、場所の偏り、不足などの場合が生じている。
さらに、コーディネート機能の大部分を特定の個人に依存し、結果として、持続可能な体制がつくられていない場合が多いことも挙げられる。
(地域における学校との新たな関係(連携・協働)への発展)
学校支援地域本部については、当初からの事業の目的※2として、「多様な教育機会やきめ細かな教育の実現、教員の負担軽減による子どもと向き合う時間の確保」、「生涯学習社会の実現のため、地域住民自らの知識や経験を生かす場の拡充」、「地域の教育力の向上のため、学校を核とした地域の活性化」といったものがある。
このうち、各地域における取組の開始当初、まずは地域住民の参画を得るため、登下校の見守りやドリルの丸付け等の授業補助などの、比較的容易に地域住民が参画できる内容から始めた地域が多く、そのような取組を通じて学校と地域の関係構築につながるなど、一定の成果を上げてきたことは評価されるものであり、今後も学校支援活動や放課後や土曜日の学習支援等の様々な取組を継続していくことが必要である。
一方で、依然として地域から学校への一方向の活動内容にとどまっている場合もあり、子供と住民が共に活動することで地域の教育力の向上や地域の振興にもつながるという意識は必ずしも十分ではなく、地域の活性化に向けた取組はなお発展途上にあるという課題が挙げられる。
また、10年以上の取組を経ても、学校と地域の連携・協働により取り組むべき課題である次代を担う子供たちに求められる「生きる力」の育成に向けて地域の住民等がより主体的に参画していくこと、活動を通じて地域の振興・再生につなげていくという、持続可能な地域づくりには至っていない地域が少なくない状況にある。
既に述べたとおり、学校や地域が抱える複雑化・多様化した現代的課題に社会総がかりで対応するには、いわゆる「教育は学校の役割」といった固定化された観念から離れ、子供の成長に対する責任を社会的に分担し、学校における「社会に開かれた教育課程」の実現に向けて、地域の住民等がそのパートナーとして子供たちの成長を支える活動により主体的に参画するとともに、教育課程の内外の活動の中で地域の住民等が持続可能な地域社会の創生につなげていくため、地域における学校との関係を新たな関係(連携・協働)に発展させていくことが必要である。
※2 「学校支援地域本部事業」は、平成20年度から国の委託事業として取組を開始。平成21年度からは、国と自治体の分担による補助事業(「学校・家庭・地域の連携協力推進事業」)における取組の一つとして実施されている。
「支援」から「連携・協働」、「個別の活動」から「総合化・ネットワーク化」へ
今後、国全体として、各地域を支援しつつ、目指すべき整備の方向性は、第一に、第1章第2節で既に述べたとおり、地域と学校がパートナーとして、共に子供を育て、そのことを通じて共にこれからの地域を創るという理念に立つことである。「支援」を超えて、目的を共有し長期的な双方向性のある展望を持った「連携・協働」に向かうことを目指す。第1章第1節でも述べたように地域の人的・物的資源を活用するなど、学校教育の目指すところを社会と共有・連携しながら実現する必要がある。例えば、郷土学習の場合は、地域住民と学校とが相互に知識と経験、物や施設を提供し合って教育活動を行うことが望ましい。その際、話合いの過程と継続的な実施を通じて、地域の伝統文化の継承者が生まれ、地域の持続・発展の芽が育つこととなる。さらに、地域住民が「学び」を通じて子供や学校と新たな関係を作り、それぞれで考え、成長していくことが期待できる。
また、これらの学習については、基礎的な教育を学校の授業でも行った上で、放課後や土曜日における社会教育の場で更に発展的な活動を行うことも考えられる。これは、学校教育と社会教育の連携によって学びを深める一例である。また、地域住民の身近な学習・交流の場である公民館等の社会教育施設には、多様な人々が集い、地域活動の歴史やノウハウが集積されており、世代間の絆をつなぐ協働の場の一つとして期待される。
第二に、活動やコーディネート機能のつながりを深めることが重要である。地域によっては、既に、授業への地域人材の協力、放課後子供教室、土曜学習、親子が参加する地域行事等を複数のコーディネーターが手分けしながら一体の組織で企画・実施している例がある。多様な活動の違いを超えて総合的な運営を進めることにより、地域の人的なネットワークが広がり、協力体制が手厚くなると考える。
このように、活動を広げながら、学校・地域社会それぞれの特性を生かした「連携」と、共通の目標に向かって相互に意見を交わしつつそれぞれの資源を最適に組み合わせて達成を目指す「協働」の双方の、地域における基盤となる体制が、今後の教育には必要である。そのためには、従来の学校支援地域本部活動や放課後子供教室などの個別の取組を有機的に結びつけていくことが必要である。このように、「支援」から「連携・協働」、個別の活動から総合化・ネットワーク化を目指し、地域と学校が連携・協働して、地域全体で未来を担う子供たちの成長を支えていくそれぞれの活動を合わせて「地域学校協働活動」と総称し、その活動を推進する今後の新たな体制を、地域が学校と協働する枠組みとして、「地域学校協働本部(仮称)※3」に発展させていくこととしたい。
※3 第2期教育振興基本計画(平成25年6月14日)において、学校支援地域本部や放課後子供教室等の取組など「保護者はもとより、地域住民の参画により子供たちの学びを支援するための体制」を平成29年度までに全国に整備することとなっている。
(地域学校協働本部(仮称)に必須の要素)
地域学校協働本部(仮称)についての特徴は、社会教育のフィールドにおいて、地域の人々や団体により「緩やかなネットワーク」を形成した、任意性の高い体制としてイメージされるものである。一方で、より多くの、より幅広い層の地域住民が参加しやすいつながりの緩やかなものではあるが、参加者の世代交代なども経ながら永く持続していくものでもある。
各地域で展開されている活動の実態、組織の現状と課題から考察すると、この体制が恒常的、組織的、安定的に実質を伴ったものとして持続するためには、地域と学校が子供の育成の方針など目指すべき方向性を共有しつつ、「支援」から「連携・協働」、「個別」の活動から「総合化・ネットワーク化」へと発展させていくことを前提とした上で、次の3要素が必須となる。
具体的にどのような内容の活動が行われるかは、地域の実情、本体制の発展段階に応じ、多様であるものと考える。例えば、放課後子供教室から始まり、次に学校の授業の支援が加わり、さらに郷土学習の共同企画や学校と地域の行事の共催等を実施するという場合もあれば、学校の環境整備や登下校の見守りから始まり、放課後や土曜日の教育に拡張する場合もある。このように、地域学校協働本部(仮称)の構築に向けては、このような様々な活動の全てを最初から行うことを求めるのではなく、それぞれの地域における学校との協働活動の進展状況に応じて、まずはその地域と学校の子供たちの成長にとって何が重要であるかを地域で共有しつつ、ある程度の期間を見越したビジョンを持つことが重要である。その上で、コーディネート機能を強化し、より多くのより幅広い層の活動する地域住民の参画を得て、活動を広げ、継続的な活動を行っていく中で、徐々に活動の幅を広げ、活動間の横の連携を促進し、学校と地域との連携・協働関係を構築していくことが重要である。
(これまでの学校支援地域本部等から地域学校協働本部(仮称)への発展)
地域によっては学校支援地域本部が既に設置され、中心となって、地域と連携した学校支援活動を展開している場合がある。このような場合においては、学校支援地域本部の機能をベースとして、引き続きその活動を発展させながら、徐々に、1.コーディネート機能を強化し、2.より多くのより幅広い層の活動する地域住民の参画を得て、活動の幅を広げ、3.継続的な地域学校協働活動を実施していくことで、内容も充実するなど取組が成熟していくことで、徐々に地域学校協働本部(仮称)へと体制が進化していくことが期待される。
また、地域や学校の実情やそれまでの経緯によって、地域学校協働活動を実施する組織体制や発達の度合いは様々な違いがあり、それぞれの違いを踏まえつつ、整備を進めていくことが望まれる。例えば、地域によっては、放課後子供教室における企画運営会議等の機能を生かして学校支援や地域活性化のための活動を展開している地域もあり、放課後子供教室における地域と学校との協働活動を担う部門が学校支援活動や地域社会における地域活動等のコーディネート機能を発展的に整備していくことで、地域学校協働本部(仮称)へと体制が進化する場合など、地域学校協働本部(仮称)の整備には様々なケースが考えられる。
なお、このような機能を担う主体が、それぞれの経緯や特色を踏まえて独自の名称を使用しているケースもみられ、地域学校協働本部(仮称)として活動する際にもそのような独自の名称を使用することを妨げるものではない。
現在の機能を更に進めるものとして、学校教育部局との連携強化や、教育委員会だけではなく首長部局の各部局との連携強化を推進することが挙げられる。これにより、取組の幅が広がっていき、子供の教育内容等の充実につながることが期待される。さらに、地域にある高等学校等と連携することは、設置者の違いを超え、高等学校や高校生等も協働の輪に入ってもらうことで、ネットワークのつながりが広がっていくことになる。
具体的には、高等学校等の所在する地域の小学校や中学校に係る地域学校協働活動に高等学校等や高校生等が参画する、若しくは高等学校等がその所在する市町村の住民等と地域学校協働活動を実施するといったような取組が考えられる。このような取組を促進していくためには、学校が所在する地域において、都道府県教育委員会と市町村教育委員会とが密に連携をとって、子供、学校、地域のそれぞれにとって地域学校協働活動がより有意義なものとなるよう努めていくことが必要である。
また、自分の卒業した小学校や中学校のある地域から離れた地域で暮らす場合において、自分の卒業校でなくとも、「地域の学校も自分の学校」として自分の暮らす地域の学校に対しても関心を持って協働の輪に入っていくことにより、ネットワークのつながりが広がることとなり、今後は、このような意識の醸成も重要である。
さらに、地域学校協働本部(仮称)への参加者一人一人が学び合う場を持って、子供の教育や地域の課題解決に関して、共に学び続けていくことは、正に生涯学習社会の実現のために求められることである。
(地域学校協働本部(仮称)の有する可能性と留意点)
地域が学校との連携を深める中で、子供にとって、地域は学校や家庭ではない第三の場所として安心な居場所になることが考えられ、また孤立した保護者にとっても、地域における学校との連携協働体制があることで、様々な悩みなどを相談できる心の居場所となる。このため地域学校協働本部(仮称)には、子供や家庭にとってもよい関係となることが期待される。
なお、このような協働体制を目指すに当たり、最初の段階から学校に対して地域づくりへの過度な関与を求めることは、学校現場における負担を増大させる可能性もあることから、そのような協働の取組の基礎は、まず、地域住民等による学校支援の取組によって地域との接点が作られ、地域と学校が子供の教育に関わることを通じ、相互の信頼関係が醸成されていく中で徐々に形成されていくものであることに留意する必要がある。加えて、学校と地域住民、地域住民同士の信頼関係の醸成には、どの地域においても相当数の時間と経験の蓄積を要するものと十分に認識し、地域の特色や実情を踏まえつつ、協働体制をつくっていくことが重要である。
今後、地域における学校との関係を連携・協働へと発展させるとともに、地域住民自らが生活する地域を創っていくという考え方の下、全国どの地域においても子供たちが地域の協力を得て成長していくことができるようにすること、また住民が子供たちの成長を支える地域学校協働活動に参画する機会を得ることができるようにすることが必要である。この達成に向けて、地域における学校との協働の取組を強く推進していくため、地域が学校と協働する枠組みである地域学校協働本部(仮称)が、早期に、全小・中学校区をカバーして構築されることを目指す。その際には、複数の小学校や中学校等を対象とするなどして地域学校協働本部(仮称)を整備していくなど、それぞれの地域や学校の特色に応じて効果的な協働体制の整備を図っていくことが重要である。また、小・中学校のみならず、高等学校、幼稚園、特別支援学校、高等専修学校においても有効な取組であるため、地域の実情に応じてこれらの学校も巻き込んだものとしていくことが重要である。
このように、全国どの地域においても地域学校協働活動が推進されていくよう、地域による学校支援活動等を含む社会教育に関する事務を行う都道府県及び市町村の教育委員会において、域内の地域学校協働活動を円滑かつ効果的に推進するための体制の整備その他の必要な施策(例えば、地域学校協働本部(仮称)等の体制の整備、コーディネーターの配置、地域住民に対する地域学校協働活動に関する情報提供や理解促進等)を講じることとすることが必要である。
他方、地域や学校の実情、特色、経緯によって、地域学校協働活動を実施する体制の在り方は異なり、その進展状況にも幅がありうる。また、地域学校協働本部(仮称)は、学校支援本部等のこれまでの地域による学校支援活動等の主体の機能をベースにして、「支援」から「連携・協働」への理念の転換を図りながら、コーディネート機能の強化、より多くの地域住民の参画、継続的な地域学校協働活動の実施を経て次第に発展していくことが期待される。このため、地域学校協働活動を推進するための体制整備としては、都道府県や市町村の教育委員会において、それぞれの地域や学校の特色や、域内における体制整備の進捗状況に応じて、地域学校協働活動の推進に係る様々な体制の整備のための施策を講じることが必要である。
都道府県や市町村の教育委員会としては、それぞれの域内の地域や学校の実情・特色や域内における整備状況を踏まえて、地域学校協働活動の推進に関する方針を定めて、どのような施策を講じていくべきかを検討し、実施していくことが必要である。
このため、今後、都道府県や市町村の教育委員会は、まず、各学校区の活動を把握し、既に学校支援地域本部や放課後子供教室の活動、また、公民館を中心とした社会教育活動等が行われている場合も含め、今後、地域学校協働活動の推進に向けて、どのような活動を充実していくべきか、どのような体制で地域と学校との連携・協働を促進していくかについて検証を行うとともに、自治体全体としての今後の推進の方向性を示していくことが重要である。
また、このような地域学校協働本部(仮称)は、将来的には、子供たちを社会の主体的な一員として受け入れ、様々な実践への参加を促す機能を有する体制の構築へと進化・発展することが考えられる。その中で、子供も大人も加わって、ワークショップ等の手法を用いつつ、地域課題や地域の将来の姿、さらには子供たちの体験活動やキャリア教育などについて議論を重ね、評価を加え、修正を繰り返すなどして、実践を継続し、改善の方向を探ることも期待される。そのような営みによって、より多くの、より幅広い層の地域の構成員が参画し、住民の意思を作っていくことは、地域の様々な課題に対して、それを解決しつつ、地域を経営することにもつながるものである。
体制の整備において重要となるのは、コーディネート機能の強化である。地域学校協働活動としては、地域の住民、保護者、企業、団体等、様々な関係者が、学校支援活動、放課後や土曜日の学習支援活動、家庭教育支援活動、学びによるまちづくり等の地域活動といった様々な活動に参画することが想定され、学校や学校運営協議会と連携を図りつつ、時には学校との連絡窓口となり、時には住民、保護者間の調整役となって協働活動を推進していくコーディネーターの役割が重要である。
これまで、地域による学校支援活動等に際しては、主に学校区における活動の連絡調整役として地域人材が務める「地域コーディネーター」がその機能を果たしており、地域の実情に応じた様々な学校づくりや地域づくり活動等の企画調整を担ってきている。
また、域内の各学校区の協働活動の進展に応じて、学校区ごとのコーディネーター間の連絡調整を行ったり、域内の地域コーディネーターの育成を支援する統括的なコーディネーターの必要性も高まってきている。
今後は、両コーディネーターの配置促進や機能強化が重要である。
(地域コーディネーターの持続可能な体制の整備)
地域における学校との連携・協働の課題でも述べたとおり、これまでの体制では、多くは学校支援活動、放課後子供教室や土曜日の学習支援といった活動ごとに企画調整がなされ、活動間の効果的な連携によるそれぞれの活動の充実の視点が不足している傾向があった。今後、地域コーディネーターの役割は、これまでのように学校支援活動や放課後子供教室といった各活動ごとの担当にとどまらず、より広い視野で地域における学校との協働体制を作っていくことが必要である。
また、地域コ-ディネーターによるコーディネートは、
など地域や学校の実情に応じて、様々な態様で行われている。どのような場合であっても、地域に根付いていく継続的な取組を行うことができるよう、持続可能な体制を整備していくことが必要である。具体的には、たとえ地域コーディネーターを務める人物に交代があっても、担当していた地域学校協働活動が継続した取組となるよう、都道府県や市町村の教育委員会において地域コーディネーターの活動を行うための研修会等を通じて候補となる人材を育成・確保していきながら、必要な研修を修了したことなどを踏まえた職能的な要件を課し、資質・能力等が備わった別の地域人材がコーディネーターを引き継ぐ仕組みとするなどの工夫が必要である。
(地域コーディネーターとなる人材の育成・確保)
地域学校協働本部(仮称)の中核を担う地域コーディネーターは、様々な人々や活動をつなぐ役割が大きく、それぞれの地域コーディネーターの経験の共有と継承が重要であるため、地域コーディネーター間の十分な情報共有や研修などを通じて、相互に学び合うことが有効である。
さらに、地域コーディネーターは、地域社会と関連の深い教育改革の動向を把握することが大事であり、学校教育で今後期待されていることについて、地域コーディネーターに対する十分な研修の機会が提供される必要がある。また、その際、大学や専門学校等との連携を図ることも有効である。
なお、地域コーディネーターは、子供の状況に触れることになるため、守秘義務を重視し、責任の所在の明確化を図る場合は、地域の実情に応じて、委嘱等の契約を行うなどのルールを設けることで、学校との情報共有が円滑になるものと考えられる。
また、地域コーディネーターとなる地域人材の確保は最も重要である。地域コーディネーターは、PTA関係者・PTA活動経験者、地域の自治会等でネットワークを持っている人、社会教育も経験している元校長・教職員など、地域の実情に応じて様々な人が考えられる。それぞれの地域や学校の実情に応じて、求められる役割には幅がありうるが、効果的なコーディネート活動を行うことができるよう、例えば、
といった能力・資質を有していることが望まれる。都道府県や市町村においては、このような資質・能力を有する地域人材の確保に努めるとともに、このような資質・能力を育成していくことを目指して、地域コーディネーターに対する研修会等の人材育成を進めていくことが重要である。また、国や都道府県においては、各市町村で活躍する地域コーディネーターの参考となるよう、効果的なコーディネート活動の具体的な事例収集や分析を行い、その情報提供を行っていくことが必要である。
(統括的なコーディネーターの必要性)
これまで、地域における学校支援活動等において、地域や学校に深い理解と関心を持ち、熱意を持って献身的に活動に取り組む地域コーディネーターの活躍により、学校支援活動、放課後子供教室、土曜日の学習支援活動等が徐々に発展を遂げてきている。
今後、このような学校と地域との連携が生じ発展を遂げてきた都道府県や市町村において、新たなステージとして地域学校協働本部(仮称)の体制の整備を目指していく上で、地域コーディネーターの資質向上・ネットワーク化促進、各学校区における地域学校協働活動の充実・活性化、地域学校協働活動の未実施地域の取組開始の支援等を図っていくため、都道府県若しくは市町村の学校地域協働に関する統括的なコーディネート機能の強化が必要である。そのために、地域コーディネーターに加えて、統括的なコーディネーターを配置していくことが重要である。
(統括的なコーディネーターの役割)
地域における学校支援活動等が充実・発展してきている自治体によっては、地域コーディネーターに加え、このような統括的なコーディネーターを配置することにより、実際に、地域コーディネーター同士のネットワークづくり、地域コーディネーターの負担軽減、地域コーディネーター人材の確保、地域における学校支援活動の拡大等につながったといった効果が上がった例も見られる。統括的なコーディネーターの役割は、地域や学校の実情・特色に応じて様々なケースが在り得るが、主として、
(統括的なコーディネーターに求められる資質・能力)
また、各学校区で活躍する地域コーディネーターの確保と同じく、こうした市町村域を統括的にコーディネートする役割を担う地域人材の確保も重要である。統括的なコーディネーターについては、地域コーディネーターのリーダー的な存在となることから、こうした役割を担う人材は、上記1(1)の地域コーディネーターに求められる能力・資質に加え、
も求められる。
(統括的なコーディネーターの役割・資質能力等の明確化)
自治体によっては、既にこのような統括的なコーディネーターを活用しているところもあるが、その主な役割や資質能力については、明確になっていない。今後、自治体の判断により、このような新たな機能を担う統括的なコーディネーターを委嘱するなどして活用し、効果的で質の高い活動を行い、都道府県・市町村の広い範囲において学校地域協働の促進が図っていくことができるようにするためには、国は、統括的なコーディネーターに求められる資質・能力や主な役割といった事項について、明確化していくことが必要である。
都道府県及び市町村の教育委員会に置かれる社会教育主事は、社会教育を行う者に対して専門的技術的な助言・指導や、教育委員会主催の社会教育事業の企画・立案等の職務を担っており、地域の学習課題を把握する能力や企画立案能力、組織化・援助の能力、調整者としての能力等を有するとともに、地域住民の主体的な問題意識を喚起し、多様で複雑な問題や課題を明確化して、自主的・自発的な学習を促進・援助するといった専門性を有することが期待されている。地域と学校の協働活動が円滑に進むよう、社会教育主事は、統括的なコーディネーター等と積極的に情報共有を図っていくことが望まれる。加えて、社会教育主事は、その経験に基づき、統括的なコーディネーター等に対して必要に応じて助言等を行うことが求められる。また、都道府県及び市町村の教育委員会から委嘱された社会教育委員は、教育委員会に助言するため、地域の社会教育に関する諸計画の企画・立案、職務に必要な調査研究を行う等の職務を担うことが社会教育法に規定されている。社会教育委員については、今後その活動の活性化を図るとともに、活動の実態に応じつつ、統括的なコーディネーター等に対して、必要に応じて、助言や情報提供を行うことが期待される。
地域における学校と協働した活動の「内容」は、現状では、授業の補助として、大勢の地域人材の一斉支援によるドリルの丸付け補助や、地域人材の得意分野を生かした書道や家庭科の裁縫などの個別支援などが行われており、また、放課後や土曜日等では、例えば、読み聞かせ、昔遊び、実験・工作教室、自然体験活動、スポーツ・文化活動や地域の伝統芸能などのほか、宿題や基本的な学習習慣づくりなどが行われている。今後はさらに、活動に参加する子供の発達段階に応じつつ、例えば、より発展的な内容、自ら企画して行うもの、将来の職業に参考となるキャリア教育、地域の大人と協働する地域活動への参加など、豊富な内容としていくことが考えられる。
なお、その活動「時間帯」は、学校の授業への協力のほか、平日の学校の放課後や登下校中等の時間帯、土曜日、日曜日、長期休業中等が挙げられる。
活動に参画する「子供」については、幼稚園・保育所、小学校、中学校、高等学校、特別支援学校、高等専修学校などの幼児・児童・生徒が考えられ、これからの地域を担う一員としての観点からは、特に中学生や高校生等の参加が重要である。
その際、例えば、共働きなどで留守家庭の子供、経済的な事情や家庭の事情などで家庭での学習が困難であったり、学習習慣が十分に身に付いていなかったりする子供への学習支援や体験活動の機会の充実も重要である。このことにより、子供の学習する環境が整い、学習習慣が身に付いていくことで、多くの子供を見守り、育てていくことにつながるとともに、孤立してしまう保護者も、地域学校協働本部(仮称)があることで、気軽に悩みを相談しやすくなるなど、家庭教育への重要な支援となる。
活動に参画する「大人」については、保護者、PTA、社会教育関係団体、地域の自治会、NPО等や青年会議所、商工会等の団体、大学や専門学校などの高等教育機関、学校の元教職員や自治体の元職員等の協力を得ることが挙げられるが、より多くの、より幅広い層の人々で取り組むことが重要である。これからは、多様な職業体験、生活体験を経た60代後半以上の人々が増えていく時期でもあり、多くの人々が学び合いながら、地域の教育活動に参画していくことが望まれる。また、活動に参画する地域住民等は、地域で子供の成長を支えるということを自覚し、学校等の関係者と協力して取組を行っていくことが重要である。
子供たちの教育に対する責任を社会的に分担する観点から、放課後の時間帯や土曜日、日曜日、長期休業中などに行われる地域における活動については、基本的には、地域が主体となって行っていくべきものである。教職員の多忙化が大きな課題となっている状況の中で、こうした活動について地域と学校が情報を共有することは重要であるが、教職員が子供と向き合う時間を確保する観点等からも、教職員が様々な地域活動に参加し地域課題の解決に取り組むことを過度に求めていくことのないよう十分に留意する必要がある。
地域における学校との協働による活動の場所は、「放課後子供教室」など学校の教室やグラウンド等で実施する方が適当と考えらえるもののほか、学校外で行うことが適当なものもあるが、いずれにしても、その趣旨、内容に応じて最も適切な活動場所を確保することが求められる。
学校内の施設で活動を行う方が適当と考えられるものについては、1.施設整備面での工夫、2.余裕教室の活用など施設の有効利用を図ることによる工夫、3.施設管理面での管理責任などの課題の解決を図るための行政側でのモデル例の提示などの工夫について、積極的に教育委員会や学校と地域学校協働本部(仮称)が連携・協働して行うことが求められる。
特に、上記3.については、既に活動を学校内の施設を利用して行う場合の管理責任を学校に委ねるのではなく、教育委員会の責任とすることを明確にするといった工夫を行っている実例も見られるところであり、こうした実例を他に情報提供することも有効であると考えられる。
学校は、子供たちの学習・生活の場であるのみならず、地域コミュニティ形成の核となったり、災害時に地域住民の避難所となったりと、多様な役割を担っているものである。学校がこうした多様な役割を担うことを踏まえ、教育環境の改善を図りつつ、地域の実情に応じ、地域住民が利用することも念頭におきながら、安全・安心で質の高い施設整備を行い、その活用を進めることが重要である。例えば、学校施設を整備する際には、地域への学校開放を前提としたコミュニティスペースを設けることや、社会教育施設等と複合化した施設とすること、既存の学校施設において余裕教室が生じている場合には地域住民が必要とする他の公共施設の用途に転用することなどにより、日常的に地域住民が集う地域コミュニティの拠点となるものにすることが考えられる。
なお、学校外で活動を行う場合の活動の場所は、公民館などの社会教育施設や、児童館その他の公共施設、商店街など、地域との協力の下で様々な場合が考えられ、活動場所を広げることは、活動内容の充実にもつながるものである。
幼稚園、高等学校、特別支援学校や高等専修学校については、小・中学校と比べると地域の概念が異なるが、社会全体で子供たちを育むことの重要性はどの段階でも変わらないことから、学校種の特徴を生かしつつ、幼児・児童・生徒の発達段階等に応じて、地域における学校との協働体制を構築する必要がある。
幼稚園については、地域との協働による幼児期の豊かな体験活動の充実、保護者も参加する小学校との円滑な接続に向けた取組の充実、近隣の地域との協働による保育所との円滑な連携の推進等が期待される。また、平成27年4月からは、幼児期の学校教育・保育の質の向上をはじめ、預かり保育や子育て相談などの地域の子供・子育て支援を総合的に推進する「子ども・子育て支援新制度」が開始されており、こうした新制度の取組を進め、幼児期の子供一人一人の健やかな成長を着実に支援するためにも、地域学校協働本部(仮称)における幼稚園等との連携・協働体制の構築を進めることが重要である。
高等学校等については、今後望まれる学習活動である「アクティブ・ラーニング※4」の有効な展開の観点からも、地域学校協働本部(仮称)との連携・協働体制の構築を進めることが重要である。こうした体制構築が進むことにより、高校生等が地域の商店街や企業等と連携し、地域課題の解決に参画する取組が進めば、キャリア教育の推進や地域貢献にもつながるとともに、地域に愛着を持ち、自分が学んだ地域で働きながらその地域を活性化していくことにつながっていくことも期待される。また、高校生等が、地域小学校や中学校に係る地域連携活動にボランティアとして協働の輪に入ることで、ネットワークのつながりが広がっていくことも期待される。
特別支援学校については、当該学校に通う子供が自立し社会参加できる環境の充実には、保護者のみならず、地域、医療、福祉等の関係機関との連携が必要であり、ここでも地域学校協働本部(仮称)との連携・協働体制の構築を進めることが重要である。
なお、今後このような学校種との連携・協働による地域活動を充実していくに当たり、地域においては、地域学校協働本部(仮称)の活動を通じて、幼稚園、小・中学校、高等学校等、特別支援学校の各段階の学習を全体的に理解する視点を持つことが重要である。
こうした視点を持つことにより、例えば、「高等学校でこのような学習が成り立つためには、小・中学校段階でこのような活動が必要であり、また、地域と連携・協働した支援活動は、子供たちが地域に目を向けるようになり、将来的に必ず自分たち地域に返ってくるものである」という関連性が理解されるようになり、地域住民のモチベーションが高まるとともに、活動の充実に結びつくものである。
※4 中央教育審議会教育課程企画特別部会の論点整理では、(「アクティブ・ラーニング」の意義)として、「思考力・判断力・表現力等は、学習の中で(中略)思考・判断・表現が発揮される主体的・協働的な問題発見・解決の場面を経験することによって磨かれていく。身に付けた個別の知識や技能も、そうした学習経験の中で活用することにより定着し構造化されていき、ひいては生涯にわたり活用できるような物事の深い理解や方法の熟達に至ることが期待される。また、こうした学びを推進するエンジンとなるのは、子供の学びに向かう力であり、これを引き出すためには、実社会や実生活に関連した課題などを通じて動機付けを行い、子供たちの学びへの興味と努力し続ける意志を喚起する必要がある。」と挙げられている。
地域が学校との連携を深める中で、地域は、子供にとって、学校や家庭ではない第三の場所として安心な居場所になることが考えられる。
地域における学校との地域学校協働本部(仮称)には、直面する子供たちの課題等にもよるが、教育関係者のみならず福祉、医療の関係者との連携強化や、孤立しがちな保護者の支援という観点からも、地域の人材で構成する家庭教育支援チームと連携していくことが重要である。地域学校協働本部(仮称)の中に家庭教育支援の機能も組み込むことで、家庭教育支援の充実を図るとともに、学校支援の観点からも、困難を抱える保護者への対応の充実を図ることが可能となる。また、孤立しがちな保護者が学校支援などの地域と学校が連携・協働した活動に参画するよう促し、実際に活動に関わることで、こうした保護者が前向きになり、家庭教育の充実につながることも期待される。
家庭教育支援チームによる取組としては、保護者が主体的な家庭教育ができるよう、家庭教育支援チームによる学習機会や情報の提供、様々な相談への対応、地域における居場所づくり、さらに訪問型の家庭教育支援等の取組を推進することが重要である。
本章第3節において述べた今後の方向性に基づき、第4節に記載した地域における学校との協働活動を推進していくためには、地域住民、保護者等が様々な学校支援活動、放課後や土曜日の学習支援活動、地域の行事や文化・スポーツ活動等の地域活動に自ら積極的に参加していくことが何よりも重要である。これらの住民等の地域における学校との協働活動への参加を促し、活動を推進していくためには、国や都道府県・市町村により、それぞれの役割を踏まえつつ、コミュニティ・スクールの推進とも連携しながら、地域学校協働本部(仮称)の整備を図っていくことが重要である。
地域における学校との協働活動を全国的に充実していくための推進方策として、有効と考えられる方策は以下のとおりであり、国は、以下の推進方策を着実に実行することが必要である。各都道府県・市町村は、地域における学校との協働活動の促進に向けて、それぞれの地域の特色や方針を踏まえつつ、地域学校協働本部(仮称)の整備その他の必要な施策を講じ、各地域において積極的な取組を進めていくことが必要である。
これまでに述べてきた提言を踏まえ、国は、地域における学校との協働活動の全国的な推進を図るため、以下のように、制度面・財政面を含めた条件整備やこれらの活動の質の向上に向けた方策を総合的に推進していくことが必要である。
地域における学校との協働活動の推進のため、第3節で述べた地域学校協働本部(仮称)を全国的に整備していくことが重要である。国は、地域学校協働本部(仮称)の全国的な整備の推進のため、同体制の整備の基本的な目的、方向性について明確化し、その趣旨を広く普及していくことが必要である。
第4節で述べたように、地域学校協働活動とは、学校支援活動、放課後や土曜日の学習支援、家庭教育支援及び学びによるまちづくり等の地域活動等により、地域と学校が協働して、未来を担う子供たちの成長を支えるとともに持続可能な社会をつくっていく取組である。このような地域学校協働活動を全国的に推進していくに当たっては、単に活動の数が増えればよいということではなく、学校や参画する住民にとって有意義な活動となり、子供たちの成長につながる効果的で質の高い活動となることが必要である。このような目標・理念の下に、全国的に質の高い地域学校協働活動が継続的に行われ、子供たちが地域の協力を得て成長できるよう、また、継続的・安定的に地域の住民、保護者等がその活動に参加することができるよう、国は、都道府県や市町村において地域学校協働活動を推進するための体制整備その他の必要な施策(例えば、地域学校協働本部(仮称)等の体制の整備、コーディネーターの配置、地域住民に対する地域学校協働活動に関する情報提供や理解促進等)を図っていくことについて、法令若しくはガイドライン等において明確にすることが必要である。
また、第2期教育振興基本計画において、学校支援地域本部や放課後子供教室などの取組を充実するための体制を全国の小・中学校区に構築することが施策目標とされているが、国はこの着実な実施を通じて、地域学校協働本部(仮称)への発展を目指して体制の整備を推進していくことが必要である。また継続的な整備を図るため、第3期教育振興基本計画において、地域学校協働活動の推進及び地域学校協働本部(仮称)の整備に係る目標を掲げることを検討すべきである。
第4節でも述べたとおり、地域学校協働活動の全国的な推進のためには、それぞれの地域において学校との協働活動を実施する住民等の活動を支援し、連絡調整する地域コーディネーター及び統括的なコーディネーターによるコーディネート機能が非常に重要である。これらのコーディネーターの資質の維持・向上に向けて、国は、都道府県・市町村や社会教育関係団体等と協力しつつ、地域コーディネーターの研修プログラムの開発・普及等の地域コーディネーターの育成施策を支援することが必要である。
また、地域学校協働活動を推進していく上で、地域コーディネーターや統括的なコーディネーターの役割が重要となってきており、全国的に質の高い活動が行われるためには、それぞれのコーディネーターの質の確保が重要である。特に、地域における地域学校協働活動の進展により、地域コーディネーター間の連絡調整、地域コーディネーターの育成・資質向上、地域学校協働活動未実施の地域における地域学校協働活動の取組開始の促進等を行う統括的なコーディネート機能が重要となってきている。今後、都道府県や市町村において適切な人材を統括的なコーディネーターに委嘱することができるようにするためには、その求められる主な役割や資質等が明確となっていることが重要である。
このため、国は、都道府県・市町村の教育委員会において適切な人材を育成・確保、配置することができるよう、統括コーディネーター等に求められる主な役割・求められる資質等について法令若しくはガイドライン等において明確化することが必要である。
その際には、それぞれの自治体の実情や方針によっては、統括的なコーディネーター等に関する職務を、地域学校協働活動に関する業務や調整の経験を有する社会教育主事や教育委員会の職員によって行うこともあることを踏まえて検討することが重要である。
さらに、国は、都道府県・市町村の教育委員会において地域コーディネーターや統括コーディネーターの整備の促進の参考となるよう、国は、それぞれのコーディネーターの活躍によって地域学校協働活動の促進に効果を上げている事例を収集し、市町村・都道府県教育委員会に情報提供を行うなど、その役割や効果的な活動内容について理解を図ることも重要である。
地域学校協働活動の推進に伴う体制面・財政面において、国は以下の取組を支援していくことが重要である。
国は、地域学校協働活動の全国的な推進・充実に向けて、都道府県、市町村、コーディネーター間における情報共有、ネットワーク化を支援するため、以下の取組を支援していくことが重要である。
今後、全国どの地域においても子供たちが地域の協力を得て成長していくことができるよう、また住民が地域学校協働活動に参画する機会を得られるようにするためには、各地方公共団体において、域内の子供たちの成長や地域の振興・創生に向けたビジョンを掲げ、域内の住民、保護者、学校及び様々な関係機関や団体間でそれを共有しつつ、積極的に地域学校協働活動を推進していくことが必要である。
その上で都道府県・市町村(特別区を含む。以下、本項目において「市町村」という。)の教育委員会は、それぞれの地域の特色や方針を踏まえつつ、域内における地域学校協働活動を円滑かつ効果的に推進するための体制の整備その他の必要な施策(例えば、域内の地域学校協働本部(仮称)等の体制の整備、コーディネーターの配置、地域住民等に対する地域学校協働活動に関する情報提供や理解促進等)を講じることが求められる。
それぞれの地域において、子供の成長を支え、地域づくりにもつながる地域学校協働活動を推進していくためには、都道府県、市町村における社会教育部局と学校教育部局の連携強化が不可欠であり、両者の連携・協働による取組が必要となるとともに、総合教育会議の活用等を通じた地域振興、福祉、医療等を担当する首長部局とのパートナーシップを構築していくことも重要である。
都道府県・市町村は、計画的・継続的に地域における学校との協働活動に取り組んでいくため、それぞれの地域の実情や特色を踏まえつつ、教育振興基本計画等に、域内の地域学校協働活動の推進に向けて、その体制の整備をはじめとする地域における学校との協働活動の推進について基本的な方針を掲げることが期待される。
都道府県の教育委員会は、域内全域において地域学校協働活動が推進されるよう、域内の各市町村における地域学校協働活動に対して市町村間の調整や広域的な観点からの支援にその役割を重点化しつつ、域内全域での地域学校協働活動の充実・拡大や質の確保・向上に責任を果たしていくことが重要である。
その前提の上で、都道府県の教育委員会は、域内のそれぞれの地域や学校の特色や実情を踏まえつつ、各都道府県内全域での地域と学校との協働活動を継続的かつ効果的に推進するため、その推進に係る体制の整備その他の必要な施策を講じることが必要である。地域学校協働活動の推進に向けてどのような施策を講じていくかについては、それぞれの域内の地域や学校の実情・特色や域内における整備状況を踏まえて、それぞれ必要な施策を検討していくことが必要であるが、例えば、以下のような方策が考えられる。
特に都道府県教育委員会の重要な役割は、域内の市町村における地域学校協働活動の推進を広域的な観点から支援することであり、当該都道府県における子供たちの成長や地域づくりのビジョンに基づき、社会福祉や家庭教育を担当する首長部局とも連携しつつ、域内の市町村における取組を広域的に支援することにより、都道府県全域において地域学校協働活動の活性化をリードしていくことが期待される。
また、これまでの地域による学校支援活動等はより住民に身近な市町村の小・中学校が主な中心となって行われてきたが、今後、都道府県は、特に地域とのつながりが深い域内の高等学校等の都道府県立学校に係る地域学校協働活動を中心として、当該学校が所在する地域におけるニーズを踏まえつつ、高等学校等特色を生かした取組を進めていくこと、この場合において、その学校が所在する市町村教育委員会との連携を図ることが重要である。
市町村の小学校や中学校は、住民にとって身近な存在であり、多くの地域住民等がアクセス可能であることから、これまでの地域における学校支援活動等において小学校区や中学校区等における地域による学校支援等の活動にとって重要な場となっており、今後も地域学校協働活動の推進にとって、市町村の教育委員会は重要な役割を果たすことが期待される。今後、市町村教育委員会は、域内のそれぞれの地域や学校の特色や実情を踏まえつつ、域内全域での地域と学校との協働活動を推進するため、その推進に係る体制の整備その他の必要な施策を講じることが必要である。都道府県と同様に、市町村においても、域内のそれぞれの地域や学校の実情・特色や地域学校協働活動の推進体制の整備状況には違いがあるため、重要なことは、域内の子供たちの成長に向けたビジョンをそれぞれの地域で共有しつつ、子供の成長のために何が求められるか、地域住民にとって何ができるかを検討しつつ、それぞれにとって必要な施策を検討していくことが必要である。地域学校協働活動の推進に係る体制の整備に関しては、様々な方策が考えられるが、市町村にとっては、例えば、以下のような方策が考えられる。
特に、地域と学校との協働活動が進んでいない地域においては、それぞれの地域の実情や抱える課題も踏まえつつ、例えば、統括的なコーディネーターの配置、当該地域の地域と学校との協働活動を担う人材の確保・育成、好事例の提供、様々なメディアを活用した効果的な情報発信、企画・立案の助言等を通じて、地域と学校との協働活動が展開されるよう必要な措置を講じていくことが重要である。
初等中等教育局初等中等教育企画課教育制度改革室
-- 登録:平成28年01月 --