第1章 時代の変化に伴う学校と地域の在り方について

第1節 教育改革、地方創生等の動向から見る学校と地域の連携・協働の必要性

ポイント

  • 地域社会のつながりや支え合いの希薄化等による地域社会の教育力の低下が指摘されるとともに、家庭教育も困難な現状が指摘。また、子供たちの規範意識等に関する課題に加え、学校が抱える課題は複雑化・困難化している状況。
  • 「社会に開かれた教育課程」の実現に向けた学習指導要領の改訂や、チームとしての学校の実現、教員の資質能力の向上等、昨今の学校教育を巡る改革の方向性や地方創生の動向において、学校と地域の連携・協働の重要性が指摘。
  • これからの厳しい時代を生き抜く力の育成、地域から信頼される学校づくり、社会的な教育基盤の構築等の観点から、学校と地域はパートナーとして相互に連携・協働していく必要があり、そのことを通じ、社会総掛かりでの教育の実現を図る必要。

1.社会の動向と子供たちの教育環境を取り巻く状況等

(1)社会の動向

(少子高齢化、グローバル化等の進行)

 我が国は、現在、急激な少子化・高齢化の中にあり、2030年には、65歳以上の割合は総人口の3分の1に達し、そうなると生産年齢人口は総人口の約58%にまで減少すると見込まれている。日本全体として、人口減少を克服し、地方創生を成し遂げるため、人口、経済、地域社会の課題に一体的に取り組むことが求められている。
 また、グローバル化や情報化が進展する社会の中で、多様な主体が速いスピードで相互に影響し合い、一つの出来事が広範囲かつ複雑に伝播し、先を見通すことが一層困難になっている※1。


※1 子供たちが将来就くことになる職業の在り方についても、技術革新等の影響により大きく変化することになると予測されている。子供たちの65%は将来、今は存在していない職業に就く(キャシー・デビッドソン氏(ニューヨーク市立大学大学院センター教授)、2011)との予測や、今後10年~20年程度で半数近くの仕事が自動化される可能性が高い(マイケル・オズボーン氏(オックスフォード大学准教授)、2013)などの予測がある。また、2045年には人工知能が人類を越える「シンギュラリティ」に到達するという指摘もある。

(地域社会の教育力の低下)

 都市化や過疎化の進行、家族形態の変容、価値観やライフスタイルの多様化等を背景とした地域社会等のつながりや支え合いの希薄化によって、「地域の学校」「地域で育てる子供」という考え方が次第に失われてきたことが指摘されている。教育は、言うまでもなく、単に学校だけで行われるものではない。家庭や地域社会が、教育の場として十分な機能を発揮することなしに、子供の健やかな成長はあり得ない。家庭教育が困難なケースの増加や地域社会の教育力の低下に伴い、子供の教育に関する当事者意識も失われていくことで、学校だけに様々な課題や責任が課される事態になっていないだろうか。家庭や地域社会での教育の充実を図るとともに、社会の幅広い教育機能を活性化していくことは、喫緊の課題となっていると言わなければならない。また、特に地域を巡る状況は、上述の現代的事情を背景に、世論調査結果によれば、国や社会のことに目を向けるよりも個人生活の充実など個人個人の利益を大切にする傾向にあり、そのため、互助・共助の意識も希薄なことから、貴重な学びや成長の機会・場が失われ、地域社会の停滞につながる一因となっている。これまで活躍してきた社会教育関係団体も、活動への参加者が十分集まらず、その役割を十分に果たせていないケースが見られる。これからの時代においては、地域社会での教育の充実に向けて、様々な機関や団体等が連携しネットワーク化を図っていくことが求められている。

(地域コミュニティを創出する動きの広がり)

 その一方で、各種の取組を通じて、保護者や地域住民の側に、自ら子供たちに積極的に関わり支援することによって、自分たちの手で学校をより良くし、子供たちを育てていこうとする意識や志が生まれつつある。また、いくつかの地域では、子供も大人も自らが主体となって地域を活性化する取組に挑戦し、学校を核に、地域全体を「学びの場」と捉え、まち全体の元気を取り戻しつつある。こうした意識の高まりを的確に受け止め、あるいは、一層醸成していくこと等を通じ、かつての地縁を再生するという視点にとどまることなく、新たに地域コミュニティを創り出すという視点に立って、学校と地域の人々、保護者等が力を合わせて子供たちの学びや育ちを支援する地域基盤を再構築していくこと、さらには、こうした取組を広げ、常に社会全体で互いの幸せについて考え、そのために何ができるかを問い、学び続ける社会の形成を進めていくことが課題となっている。

(家庭教育が困難な現状等)

 家庭を巡る状況としては、核家族やひとり親家庭、共働き世帯の増加など、家族形態の変容やつながりの希薄化等を背景に、生活保護世帯の増加に見られる貧困問題の深刻化、子育ての不安や問題を抱え孤立する保護者の増加、児童虐待相談対応件数の増加など、家庭教育が困難な現状が指摘されており、決してこれらは一部の特別な家庭の問題ではない。
 このほか、昨今、子供が被害者や加害者となる様々な事件が発生しており、地域で家庭や子供を見守り支えることの必要性が指摘されている。こうした観点からも、学校と地域の連携・協働を一層進めることの重要性が増している。

(2)子供たちの教育環境を取り巻く状況

(児童生徒数の減少等の状況)

 現在、児童生徒数の減少や多様化・複雑化する社会状況の変化等を背景に、小・中学校の統廃合や、高等学校の再編・統合が進んでいる。今後少子化の更なる進行により、学校の小規模化に伴う教育上のデメリットの顕在化や、学校がなくなることによる地域コミュニティの衰退が懸念されており、各市町村の実情に応じた活力ある学校づくりの推進が求められている。

(子供たちの規範意識等に関する課題)

 地域社会や家庭を巡る問題が深刻化している中、多様な価値観を持った人々との交流や体験の減少などを背景として、子供たちの規範意識や社会性、自尊意識等に対する課題、生活習慣の乱れによる学習意欲や体力・気力の低下の課題等が指摘されている。その一方で、社会貢献への高い意欲や、柔軟で豊かな感性と国際性を備えている一面も見受けられるなど、子供たちは、未来をつくっていく主役として大きな可能性に満ちており、自らがこれからの未来を創り出していくという主体性とともに、その可能性を最大限引き出し、開花させていくことが求められている。

(学校が抱える課題の複雑化・困難化等の状況)

 学校における状況に目を転じると、いじめや暴力行為等の問題行動の発生、不登校児童生徒数、特別支援学級・特別支援学校に在籍する児童生徒数、日本語指導が必要な外国人児童生徒数等の増加等、多様な児童生徒への対応が必要な状況となっているなど、その環境は複雑化・困難化を極めており、教員だけで対応することが、質的な面でも量的な面でも難しくなってきている。また、子供が自ら課題を発見し、解決に向けて主体的・協働的に学ぶ学習の充実など、授業革新を図っていくことが求められている。
 このような中、中学校等の教員を対象としたOECD国際教員指導環境調査(TALIS)において、我が国の教員は、課外活動の指導や事務作業に多くの時間を費やし、調査参加国中で勤務時間が最も長いという結果が出るなど、教員の勤務負担の軽減が課題となっている。教員が新たな教育課題に的確に対応し、教員としての本来の職務を着実に遂行していくためには、教員が子供と向き合える時間を確保するとともに、教員一人一人が持っている力を高め、発揮できる環境を整えていくことが急務となっている。
 このほか、これまで学校のガバナンス強化の視点から、学校評議員※2、学校運営協議会※3、学校関係者評価※4の制度化等により、地域住民や保護者等の意見を学校運営に反映させる仕組みの構築が推進されてきたが、子供たちの育成の視点、学校運営の改善・充実の視点からも、地域との一層の連携・協働が課題となっている。


※2 平成12年に学校教育法施行規則の改正により設けられた制度で、校長の求めに応じ、当該学校の職員以外の者で教育に関する理解及び識見を有する者が学校運営に関して意見を述べることができる仕組み。

※3 平成16年に地方教育行政の組織及び運営に関する法律の改正により設けられた制度で、地域住民や保護者等が学校運営に参画する仕組み。

※4 平成19年に学校教育法及び同法施行規則の改正により設けられた制度で、地域住民や保護者等の学校関係者等が、自己評価の客観性・透明性を高めるとともに、学校・家庭・地域が学校の現状と課題について共通理解を深めて相互の連携を促し、学校運営の改善への協力を促進することを目的として行うものとして、学校に対し努力義務が課されている。

(3)教育改革、地方創生等の動向

  昨今の学習指導要領の改訂や教員の資質能力の向上等、様々な学校教育を巡る教育改革の方向性や地方創生の動向において、子供の成長過程における地域・社会との関わりの重要性や学校と地域の連携・協働の重要性などが示されている。学校と地域の連携・協働の在り方を検討する上で押さえるべき主な動向は、以下のとおりである。

(学習指導要領の改訂について)

 学習指導要領の改訂については、その基本的な方向性について教育課程企画特別部会で審議が進められ、本年8月に「論点整理」が取りまとめられたところである。ここでは、社会の加速度的な変化の中でも、社会的・職業的に自立した人間として、伝統や文化に立脚し、高い志や意欲を持って、蓄積された知識を礎としながら、膨大な情報から何が重要かを主体的に判断し、自ら問いを立ててその解決を目指し、他者と協働しながら新たな価値を生み出していくことが求められるとしている。
 同部会の「論点整理」では、これからの教育課程には、社会の変化に開かれ、教育が普遍的に目指す根幹を堅持しつつ、社会の変化を柔軟に受け止めていく「社会に開かれた教育課程」※5としての役割が期待されている。


※5 「論点整理」においては、「社会に開かれた教育課程」として、次の点が重要であると示している。

  1. 社会や世界の状況を幅広く視野に入れ、よりよい学校教育を通じてよりよい社会を創るという目標を持ち、教育課程を介してその目標を社会と共有していくこと。
  2. これからの社会を創り出していく子供たちが、社会や世界に向き合い関わり合い、自らの人生を切り拓(ひら)いていくために求められる資質・能力とは何かを、教育課程において明確化し育んでいくこと。
  3. 教育課程の実施に当たって、地域の人的・物的資源を活用したり、放課後や土曜日等を活用した社会教育との連携を図ったりし、学校教育を学校内に閉じずに、その目指すところを社会と共有・連携しながら実現させること。

 また、「論点整理」においては、各学校には、学習指導要領等を受け止めつつ、子供たちの姿や地域の実情等を踏まえて、各学校が設定する教育目標を実現するために、学習指導要領等に基づきどのような教育課程を編成し、どのようにそれを実施・評価し改善していくのかという「カリキュラム・マネジメント」の確立が求められていると示している。その上で、「カリキュラム・マネジメント」を捉える三つの側面として、

  1. 各教科等の教育内容を相互の関係で捉え、学校の教育目標を踏まえた教科横断的な視点で、その目標の達成に必要な教育内容を組織的に配列していくこと。
  2. 教育内容の質の向上に向けて、子供たちの姿や地域の現状等に関する調査や各種データ等に基づき、教育課程を編成し、実施し、評価して改善を図る一連のPDCAサイクルを確立すること。
  3. 教育内容と、教育活動に必要な人的・物的資源等を、地域等の外部の資源も含めて活用しながら効果的に組み合わせること。

を挙げており、また、「社会に開かれた教育課程」の観点からは学校内だけではなく、保護者や地域の人々等を巻き込んだ「カリキュラム・マネジメント」を確立していくことが重要であるとされている。

 

(チームとしての学校の在り方の検討)

 従来よりも複雑化・多様化している学校の課題に対応し、学校組織全体の総合力を一層高めていく必要性から、「チームとしての学校・教職員の在り方に関する作業部会」において、これからの学校教育を担う教職員やチームとしての学校の在り方について審議が進められている。同作業部会で審議された答申(素案)では、学校は、複雑化・困難化した課題に対応し、子供たちに求められる力を身に付けさせるため、教職員が心理や福祉などの専門家や関係機関、地域と連携し、チームとして課題解決に取り組むことが必要とされている。また、学校と地域の連携を推進するため、学校内において地域との連携の推進を担当する教職員を地域連携担当教職員(仮称)として法令上明確化することを検討するとされている。

(これからの学校教育を担う教員の資質能力の向上に関する検討)

 現在、教員養成部会において、これからの学校教育を担う教員の資質能力の向上について審議が進められている。同部会で審議された答申案では、学校は、「チーム学校」の考え方のもと、学校現場以外での様々な専門性を持つ地域の人々と効果的に連携しつつ、教員とこれらの者がチームを組んで組織的に諸課題に対応するとともに、保護者や地域の力を学校運営に生かしていくことが必要であること、また、新たな教育的課題に対応していくためには、学校が地域づくりの中核を担うという意識を持ち、学校教育と社会教育の連携の視点から、学校と地域の連携・協働を円滑に行うための資質を養成していくことも重要であるとされている。

(小中一貫教育の制度化)

 平成27年6月、「学校教育法等の一部を改正する法律(平成27年法律第46号)」が公布され、28年4月から施行される。本改正は、学校教育制度の多様化及び弾力化を推進するため、小中一貫教育を実施する義務教育学校の制度を創設するものである。組織上独立した小学校及び中学校が義務教育学校に準じた形で一貫した教育を施す小中一貫型小学校・中学校(仮称)についても、今後、省令改正により制度化される。
 これらの制度改正の基本的な考え方は、平成26年12月の中央教育審議会答申※6にまとめられているが、同答申では、小中一貫教育の総合的な推進方策として、地域ぐるみで子供たちの9年間の学びを支える仕組みとして、小中一貫教育とコミュニティ・スクールを組み合わせて実施することが有効であり、中学校区内の小・中学校における一体的な学校運営協議会の設置を促進する必要がある旨、提言されている。

(高大接続の実現に向けた高等学校教育、大学教育、大学入学者選抜の一体的改革)

 高等学校教育及び大学教育において、義務教育までの成果を確実につなぎ、それぞれの学校段階において「生きる力」「確かな学力」を確実に育み、初等中等教育から高等教育まで一貫した形で、一人ひとりに育まれた力を更に発展・向上させる観点から、中央教育審議会答申※7を踏まえ、平成27年1月「高大接続改革実行プラン」が公表された。現在、同プランに基づき、具体的な方策が検討されている。
 高校生を地域の活動に積極的に参画させ、地域課題の解決に取り組む学習は、「確かな学力」を構成する思考力・判断力・表現力等の育成に寄与するとともに、学びへの興味と努力し続ける意志を喚起することにつながると期待される。
(高等学校の特性を踏まえた在り方については第2章第2節2(3)参照)


※6 「子供の発達や学習者の意欲・能力等に応じた柔軟かつ効果的な教育システムの構築について」

※7 「新しい時代にふさわしい高大接続の実現に向けた高等学校教育、大学教育、大学入学者選抜の一体的改革について」(平成26年12月22日中央教育審議会答申)

(教育委員会制度の改革)

 平成27年4月、教育委員会制度改革を柱とする「地方教育行政の組織及び運営に関する法律の一部を改正する法律(平成26年法律第76号)」が施行された。新たな制度では、全ての地方公共団体に、首長と教育委員会を構成員とする総合教育会議を設けることとなり、同会議においては、教育を行うための諸条件の整備その他の地域の実情に応じた教育等の振興を図るための重点施策等について協議を行うこととなる。
  今後、総合教育会議の活用をはじめ、首長と教育委員会がともに手を取りながら、子供たちの豊かな学びと成長を一層支援していくことが重要視されており、両者のパートナーシップの構築は、学校と地域の連携・協働を推進していく力となる。

(まち・ひと・しごと創生総合戦略等の決定)

 人口急減・超高齢化という我が国が直面する大きな課題に対し政府一体となって取り組み、各地域がそれぞれの特徴を生かした自律的で持続的な社会を創生できるよう、平成26年11月、地方創生の理念等を定めた「まち・ひと・しごと創生法」が公布・施行され、同年12月には、同法に基づき、今後目指すべき将来の方向を提示した「まち・ひと・しごと創生長期ビジョン」と、これを実現するための目標や施策等を提示した「まち・ひと・しごと創生総合戦略」が閣議決定された。同戦略の中には、学校を核とした地域活性化及び地域に誇りを持つ教育を推進するとともに、公立小・中学校の適正規模化、小規模校の活性化、休校した学校の再開支援を行う旨が盛り込まれた※8。
 また、平成27年6月に閣議決定された「まち・ひと・しごと創生基本方針2015」では、学校を核とした地域力強化の観点から、全公立小・中学校において、学校と地域が連携・協働する体制を構築するために、コミュニティ・スクールや学校支援地域本部等の取組を一層促進する旨が示されている。地方創生の実現という観点からも、これからの子供たちには、地域への愛着や誇り、地域課題を解決していく力が求められるとともに、生涯にわたる学習能力の育成の視点から学校教育を捉えていく必要がある。


※8 これに基づき、平成27年1月に策定された「公立小学校・中学校の適正規模・適正配置等に関する手引」においては、地域コミュニティの核としての学校の役割を重視しつつ活力ある学校づくりを実現する観点から、市町村が、1.学校統合を検討する場合の魅力ある学校づくりの一環として、統合検討プロセスから対象校に学校運営協議会を設置し、地域の意見を最大限反映させることや、2.小規模校を存続させる場合の小規模デメリットの緩和策として、コミュニティ・スクールの導入を契機として学校教育活動への地域人材の効果的な参画を促すなどの工夫が盛り込まれている。

2.学校と地域の連携・協働の必要性

 教育は、地域社会を動かしていくエンジンの役割を担っており、教育により、子供たちの一人一人の潜在能力を最大限に引き出し、全ての子供たちが幸福に、より良く生きられるようにすることが求められている。
 学校は、全ての子供が自立して社会で生き、個人として豊かな人生を送ることができるよう、その基礎となる力を培う場であり、子供たちの豊かな学びと成長を保障する場としての役割のみならず、地域コミュニティの拠点として、地域の将来の担い手となる人材を育成する役割を果たしていかなければならない。一方、地域は実生活・実社会について体験的・探究的に学習できる場として、子供たちの学びを豊かにしていく役割を果たす必要がある。
 今なぜ、学校と地域の連携・協働が必要なのか。主な理由は以下のとおりである。

(これからの時代を生き抜く力の育成の観点)

 これからの子供たちには、厳しい挑戦の時代を乗り越え、高い志や意欲を持つ自立した人間として、他者と協働しながら未来を創り出し、課題を解決する力が求められているからである。子供たちの生きる力は、学校だけで育めるものではなく、多様な人々と関わり、様々な経験を重ねていく中で育まれるものであり、地域社会とのつながりや信頼できる大人との多くの関わりを通して、心豊かにたくましく成長していく。地域住民や企業、NPOなど様々な専門知識・能力を持った地域人材が関わることで、将来を生き抜く子供たちに実社会に裏打ちされた幅広い知識・能力を育成することができる。 

(地域に信頼される学校づくりの観点)

 次に、学校が抱える課題が複雑化・困難化している状況の中、困難な課題を解決していくためには、より一層地域に開かれ、地域と積極的に向き合うことで、地域に信頼される学校づくりを進めていく必要がある。保護者や地域住民が学校運営に積極的に参画することで、学校をより良いものにしていこうという当事者意識を高め、子供の教育に対する責任を社会的に分担していくことができる。

(地域住民の主体的な意識への転換の観点) 

 現代社会の変容の中、子供の教育に対する責任を分担していくためには、地域社会において、社会教育関係団体の努力等の他に、行政サービスなどの維持といったいわゆる「公助」を期待する地域住民の「受け身の意識」から、「互助・共助」の視点を持って自ら生活する地域を創っていくという地域住民の「主体的な意識」に転換していくことが必要である。こうした意識の醸成のためには、地域住民が「学び」を通じて新たな関係を作り、それぞれで考え、成長していくことが必要である。

(地域における社会的な教育基盤の構築の観点)

 地域の未来を担う子供たちの成長は、その地域に住む人々の希望である。地域社会を構成する一人一人が当事者としての役割と責任を自覚し、主体的・自主的に子供たちの学びに関わり、支えていく中で、地域住民の学びを起点に地域の教育力を再生・向上し、ふるさとに根付く子供たちを育て、地域振興・再生につなげるためにも、社会的な教育の基盤を構築していく必要がある。

(子供たちを守り、支える観点) 

 課題を抱えた保護者や子供の孤立化に対応する観点から、保健福祉部局等との連携を図りながら、全ての子供たちを守り、支える地域社会の在り方が問われている。子供たちの安全・安心の確保という観点からも、まずは、学校に関する活動の中で、気軽に子供たちに声をかける取組から始めてみることも重要であり、学校と地域の連携の中で子供の様子を見守っていくことが重要である。個人や個々の機関だけでは対応が困難な課題についても、学校と地域の連携・協働により保護者や子供に必要な支援を行うことで、家庭や子供の変化をもたらすことにつながる。

(学校と地域の「パートナーとしての連携・協働関係」への発展)

 こうした観点を踏まえた上で、今後、学校や地域が抱える様々な課題に社会総がかりで対応するには、学校と地域の関係を、新たな関係として、相互補完的に連携・協働していくものに発展させていくことが必要である。すなわち、学校と地域は、お互いの役割を認識しつつ、対等な協働関係を築くことが重要であり、パートナーとして相互に連携・協働していくことを通じて、社会総掛かりでの教育の実現を図っていくことが必要である。

第2節 これからの学校と地域の連携・協働の在り方

ポイント

  • これからの学校と地域の連携・協働の姿として、以下の姿を目指す。
    • 地域の人々と目標やビジョンを共有し、地域と一体となって子供たちを育む「地域とともにある学校」への転換
    • 地域の様々な機関や団体等がネットワーク化を図りながら、地域全体で学びを展開していく「子供も大人も育ち合う教育体制」の構築
    • 学校を核とした協働の取組を通じて、地域の将来を担う人材を育成し、自立した地域社会の基盤の構築を図る「学校を核とした地域づくり」の推進
  • 上記の姿を具現化していくためには、学校と地域の双方で連携・協働を推進するための組織的・継続的な仕組みの構築が必要。

1.これからの学校と地域の連携・協働の姿

(1)地域とともにある学校への転換

 社会総掛かりでの教育の実現を図る上で、学校は、地域社会の中でその役割を果たし、地域とともに発展していくことが重要であり、とりわけ、これからの公立学校は、「開かれた学校」から更に一歩踏み出し、地域の人々と目標やビジョンを共有し、地域と一体となって子供たちを育む「地域とともにある学校」へと転換していくことを目指して、取組を推進していくことが必要である。すなわち、学校運営に地域の人々や保護者等が参画することを通じて、学校・家庭・地域の関係者が目標や課題を共有し、学校の教育方針の決定や教育活動の実践に、地域のニーズを的確かつ機動的に反映させるとともに、地域ならではの創意や工夫を生かした特色ある学校づくりを進めていくことが求められる。
 これまでの提言※9では、地域とともにある学校の運営に備えるべき機能として「熟議」「協働」「マネジメント」の三つが挙げられており、これらはこれからの学校運営に欠かせない機能として、再認識していく必要がある。


※9 「コミュニティ・スクールを核とした地域とともにある学校づくりの一層の推進に向けて」(平成27年3月 コミュニティ・スクールの推進等に関する調査研究協力者会議)、「子どもの豊かな学びを創造し、地域の絆をつなぐ~地域とともにある学校づくりの推進方策~」(平成23年7月 学校運営の改善の在り方等に関する調査研究協力者会議)

  • 地域とともにある学校の運営に備えるべき機能
    1. 関係者がみな当事者意識を持ち、子供たちがどのような課題を抱えているのかという実態を共有するとともに、地域でどのような子供を育てていくのか、何を実現していくのかという目標・ビジョンを共有するために「熟議(熟慮と議論)」を重ねること。
    2. 学校と地域の信頼関係の基礎を構築した上で、学校運営に地域の人々が「参画」し、共有した目標に向かってともに「協働」して活動していくこと。
    3. その中核となる学校は、校長のリーダーシップのもと教職員全体がチームとして力を発揮できるよう、組織としての「マネジメント」力を強化すること。

(2)子供も大人も育ち合う教育体制の構築

 教育の担い手となることが社会的な文化となっていくためにも、地域の一部の人々だけが参画し協力するのではなく、地域全体で子供たちの学びを展開していく環境を整えていくことが必要であり、子供との関わりの中で、大人もともに学び合い育ち合う教育体制の構築が必要である。
 地域には、学校、教育機関、首長部局等の行政機関、社会教育施設、PTA、NPO・民間団体、企業・経済団体など、様々な機関や団体等がある。また、個人として学校支援ボランティアに関わっている地域の人々もいる。子供や学校の抱える様々な課題に対応していくためにも、子供たちの生命や安全を守っていくためにも、子供を中心に据え、様々な関係機関や団体等がネットワーク化を図り、子供を支える一体的・総合的な教育体制を構築していくことが重要である。学校と地域が連携・協働するだけでなく、子供の育ちを軸に据えながら、地域社会にある様々な機関や団体等がつながり、住民自らが学習し、地域における教育の当事者としての意識・行動を喚起していくことで、大人同士の絆が深まり、学びも一層深まっていく。
 家庭教育の支援の観点からも、家庭教育の支援を視野に入れた地域と学校の連携が進むことで、課題を抱えた保護者に対する支援の充実につながるとともに、孤立感を抱えた保護者を含む多くの保護者に対し、学校との協働による活動に参画していく機会をつくることにつながる。

(3)学校を核とした地域づくりの推進

 地方創生の観点からも、地域とともにある学校づくりを進めるに当たっては、学校という場を核とした協働の取組を通じて、地域への愛着や誇りを育み、地域の将来を担う人材の育成を図るとともに、地域の人々のつながりを深め、自立した地域社会の基盤の構築・活性化を図る「学校を核とした地域づくり」を推進していく視点も持つことが重要である。成熟した地域が創られていくことは、子供の豊かな成長にもつながり、人づくりと地域づくりの好循環を生み出すことにもつながっていく。
 一方的に、地域が学校・子供たちを応援・支援するという関係ではなく、子供の育ちを軸として、学校と地域がパートナーとして連携・協働し、互いに膝を突き合わせて、意見を出し合い、学び合う中で、地域も成熟化していく視点が重要である。子供たちも総合的な学習の時間や、放課後・土曜日、夏期休業中等の教育活動等を通じて地域に出向き、地域で学ぶ、あるいは、地域課題の解決に向けて学校・子供たちが積極的に貢献するなど、学校と地域の双方向の関係づくりが期待される。
 地域によっては、公民館等の社会教育施設を一つの拠点として、高齢者の健康維持や文化の伝承等の地域課題に関わる社会教育活動を住民が主体となって活発に行っているところもある。このような拠点が学校とつながり、双方向の関係を持つことも有益である。

2.学校と地域の連携・協働を推進するための組織的・継続的な仕組みの構築

 本節1.で示した「これからの学校と地域の連携・協働の姿」を具現化していくためには、学校と地域の双方で連携・協働を推進するための組織的・継続的な仕組みを構築していく必要がある。まず、学校においては、地域とともにある学校に転換していくための持続可能な仕組みを導入していく必要がある。また、地域においても、地域社会にある様々な機関や団体等がネットワーク化を図り、子供を支える一体的な教育体制とするとともに、学校を核とした地域づくりを推進していくための仕組みを構築していく必要がある。
 現在、学校と地域の連携・協働を推進する仕組みとして、コミュニティ・スクール※10(学校運営協議会制度)や「学校支援地域本部」による様々な教育活動、「放課後子供教室」の体験活動等を行う既存の体制※11がある。
 コミュニティ・スクールは、地域住民や保護者等が学校運営に参画する仕組みとして、育てたい子供像、目指すべき教育のビジョンを保護者や地域と共有するための有効な仕組みであり、学校と地域の協働の基盤となるものである。
 また、上記の地域の側の体制は、学校や地域の教育力の双方を協働して高めるなどの目的で置かれ、地域の教育資源を組織化・ネットワーク化するとともに、様々な教育活動等を組織的に支援する有効な仕組みであり、地域の課題に向き合い解決していく住民を育てることをも目指すものである。
 学校と地域がパートナーとして連携・協働するには、両者がビジョンを共有し、協働して子供が見える学びを展開していくことが重要であり、上記の既存の体制による取組を一層推進していくとともに、地域における様々な体制等をつなぐコーディネーターを配置する等の仕組みの構築や、既存の仕組みの更なる工夫が不可欠である。
 このような視点に立ち、「これからの学校と地域の連携・協働の姿」を踏まえながら、地域とともにある学校の在り方に関する作業部会では、これからのコミュニティ・スクールの在り方を、学校地域協働部会では、地域における様々な体制等の在り方を中心に審議した。(コミュニティ・スクールの在り方については第2章、地域における様々な体制等の在り方については第3章で言及)
 なお、子供たちの生きる力を育成する観点等からすれば、学校と地域の連携・協働は、公立学校にとどまらず、国立学校や私立学校においても重要なものである。第2章では、学校運営協議会の制度が公立学校の管理運営の改善を図るための仕組みであること等を念頭に、公立学校を中心に述べているものである。また、第3章における地域学校協働活動についても公立学校を中心に述べているが、国立学校や私立学校が所在する地域においては、それらの学校の教育方針や地域の実情を踏まえつつ、地域学校協働活動に取り組むことが期待される。


※10 地方教育行政の組織及び運営に関する法律第47条の5に基づき、当該学校の所在する地域の住民や当該学校に在籍する児童生徒等の保護者で構成される委員が当該学校の運営に関して協議する機関を置く学校。

※11 国及び地方自治体で分担する補助事業「学校・家庭・地域の連携協力推進事業」における学校支援地域本部や放課後子供教室等(地域コーディネーターの企画調整により地域人材の協力を得て、授業補助や学校環境整備、放課後の体験活動等、様々な教育活動の支援を実施)を行う体制。第2期教育振興基本計画(平成25年6月14日)においては、これらの取組など「保護者はもとより、地域住民の参画により子供たちの学びを支援するための体制」と記載されている。また、この他、公民館等による地域課題解決等の取組を含む様々な学校づくり、地域づくりのための活動を行う体制も含まれる。

3.学校と地域の連携・協働を推進するための体制整備

 学校と地域の連携・協働を一層推進していくためには、教育委員会内において、コミュニティ・スクールや学校運営改善施策を担当する学校教育担当部局と、学校支援地域本部や放課後子ども教室などの施策を担当する社会教育担当部局との連携・協働体制の構築が不可欠である。
 また、首長部局等との協働は、これからの教育改革の大きな柱となるものであり、学校と地域の協働による取組は、地域のまちづくりや青少年健全育成、福祉、防災等の分野とも関連するものである。協働による取組を円滑かつ効果的に進めていくためにも、総合教育会議を積極的に活用しつつ、教育委員会と首長部局との協働体制として、部局横断で子供の育ちを総合的・一体的に支援する体制を構築していくことが重要である。
 さらに、学校と地域の双方に、連携・協働を推進する窓口となる人材を配置することで、相互の役割分担を進めながら、連携・協働体制を構築・強化していくことが必要である。(地域連携の推進を担当する教職員は第2章、地域コーディネーターは第3章で言及)

お問合せ先

初等中等教育局初等中等教育企画課教育制度改革室

(初等中等教育局初等中等教育企画課教育制度改革室)

-- 登録:平成28年01月 --