4.学習指導要領等の理念を実現するために必要な方策

(1)「カリキュラム・マネジメント」の重要性

  • 教育課程とは、学校教育の目的や目標を達成するために、教育の内容を子供の心身の発達に応じ、授業時数との関連において総合的に組織した学校の教育計画であり、その編成主体は各学校である。各学校には、学習指導要領等を受け止めつつ、子供たちの姿や地域の実情等を踏まえて、各学校が設定する教育目標を実現するために、学習指導要領等に基づきどのような教育課程を編成し、どのようにそれを実施・評価し改善していくのかという「カリキュラム・マネジメント」の確立が求められる。
  • 特に、今回の改訂が目指す理念を実現するためには、教育課程全体を通した取組を通じて、教科横断的な視点から教育活動の改善を行っていくことや、学校全体としての取組を通じて、教科等や学年を越えた組織運営の改善を行っていくことが求められており、各学校が編成する教育課程を核に、どのように教育活動や組織運営などの学校の全体的な在り方を改善していくのかが重要な鍵となる。

三つの側面

  • こうした「カリキュラム・マネジメント」については、これまで、教育課程の在り方を不断に見直すという下記2.の側面から重視されてきているところであるが、「社会に開かれた教育課程」の実現を通じて子供たちに必要な資質・能力を育成するという新しい学習指導要領等の理念を踏まえ、これからの「カリキュラム・マネジメント」については、以下の三つの側面から捉えられる。
    1. 各教科等の教育内容を相互の関係で捉え、学校の教育目標を踏まえた教科横断的な視点で、その目標の達成に必要な教育の内容を組織的に配列していくこと。
    2. 教育内容の質の向上に向けて、子供たちの姿や地域の現状等に関する調査や各種データ等に基づき、教育課程を編成し、実施し、評価して改善を図る一連のPDCAサイクルを確立すること。
    3. 教育内容と、教育活動に必要な人的・物的資源等を、地域等の外部の資源も含めて活用しながら効果的に組み合わせること。

教育課程全体を通しての取組

  • これからの時代に求められる資質・能力を育むためには、各教科等の学習とともに、教科横断的な視点で学習を成り立たせていくことが課題となる。そのため、各教科等における学習の充実はもとより、教科等間のつながりを捉えた学習を進める観点から、教科等間の内容事項について、相互の関連付けや横断を図る手立てや体制を整える必要がある。
  • このため、「カリキュラム・マネジメント」を通じて、各教科等の教育内容を相互の関係で捉え、必要な教育内容を組織的に配列し、更に必要な資源を投入する営みが重要となる。個々の教育活動を教育課程に位置付け、教育活動相互の関係を捉え、教育課程全体と各教科等の内容を往還させる営みが、「カリキュラム・マネジメント」を支えることになる。
  • 特に、特別活動や総合的な学習の時間の実施に当たっては、カリキュラム・マネジメントを通じて、子供たちにどのような資質・能力を育むかを明確にすることが不可欠である。

学校全体としての取組

  • 「カリキュラム・マネジメント」については、校長又は園長を中心としつつ、教科等の縦割りや学年を越えて、学校全体で取り組んでいくことができるよう、学校の組織及び運営についても見直しを図る必要がある。そのためには、管理職のみならず全ての教職員がその必要性を理解し、日々の授業等についても、教育課程全体の中での位置付けを意識しながら取り組む必要がある。また、学習指導要領等を豊かに読み取りながら、各学校の子供たちの姿や地域の実情等と指導内容を照らし合わせ、効果的な年間指導計画等の在り方や、授業時間や週時程の在り方等について、校内研修等を通じて研究を重ねていくことも考えられる。
  • こうした「カリキュラム・マネジメント」については、管理職のみならず、全ての教職員が責任を持ち、そのために必要な力を、下記(2)に示す支援方策等を通じて、教員一人一人が身に付けられるようにしていくことが必要である。また、「社会に開かれた教育課程」の観点からは、学校内だけではなく、保護者や地域の人々等を巻き込んだ「カリキュラム・マネジメント」を確立していくことも重要である。

「アクティブ・ラーニング」の視点と連動させた学校経営の展開

  • なお、2.(3)2.に示した「アクティブ・ラーニング」は、形式的に対話型を取り入れた授業や特定の指導の型を目指した技術の改善に留(とど)まるものではなく、子供たちの質の高い深い学びを引き出すことを意図するものであり、さらに、それを通してどのような資質・能力を育むかという観点から、学習の在り方そのものの問い直しを目指すものである。また、「カリキュラム・マネジメント」は、学校の組織力を高める観点から、学校の組織及び運営について見直しを迫るものである。
  • その意味において、次期改訂に向けて提起された「アクティブ・ラーニング」と「カリキュラム・マネジメント」は、授業改善や組織運営の改善など、学校の全体的な改善を行うための鍵となる二つの重要な概念として位置付けられるものであり、相互の連動を図り、機能させることが大切である。教育課程を核に、授業改善及び組織運営の改善に一体的・全体的に迫ることのできる組織文化の形成を図り、「アクティブ・ラーニング」と「カリキュラム・マネジメント」を連動させた学校経営の展開が、それぞれの学校や地域の実態を基に展開されることが求められる。

教育課程の実施状況の把握

  • 教育課程を核に、教育活動や組織運営の不断の見直しを図っていくためには、子供たちの姿や地域の現状等を把握できる調査結果や各種データ等が必要となる。国、教育委員会等及び学校それぞれにおいて、学習指導要領等に基づく教育課程の実施状況を定期的に把握していくことが求められる。

(2)学習指導要領等の理念の実現に向けて必要な支援方策等

  • 先を見通すことが難しい社会の中で、新しい社会の在り方を創造することができる資質・能力を子供たちに育むためには、教育に携わる教員一人一人の力量を高めていく必要がある。

教員への国際的評価と課題

  • 我が国の教員に対する国際的な評価はもともと高く、特に、各教科等における授業改善に向けて行われる多様な研究に関しては、海外からも極めて高い関心が寄せられている。とりわけ、各学校における教員の学び合いを基調とする「授業研究」は、我が国において独自に発展した教員研修の仕組みであるが、近年「レッスン・スタディ」として国際的な広がりを見せている。
  • こうした従来の強みを生かしつつ、これからの教員には、学級経営や幼児・児童・生徒理解等に必要な力に加え、教科等を越えた「カリキュラム・マネジメント」のために必要な力や、「アクティブ・ラーニング」の視点から学習・指導方法を改善していくために必要な力、学習評価の改善に必要な力等が求められる。教員一人一人が社会の変化を見据えながら、これからの時代に必要な資質・能力を子供たちに育むことができるよう、教員の養成・採用・研修を通じて改善を図っていくことが必要である。
  • 教員養成・採用・研修の改善のために必要な改革等の方向性については、中央教育審議会初等中等教育分科会教員養成部会が取りまとめた「これからの学校教育を担う教員の資質能力の向上について(中間まとめ)」(※1)においても示されているところである。この中では、国、教育委員会、学校、大学等が目標を共有して互いに連携しながら、次期学習指導要領等に向けて教員に求められる力を効果的に育成できるよう、教員に求められる能力を明確化する教員育成指標や、それを踏まえた研修指針の策定などが提言されているところである。教員研修自体を、主体的・協働的な学びの要素を一層含んだものに転換していこうとする提言なども含まれており、今後とも、下記5.において示される新科目の設置等を受けた対応も含め、教育課程の改善に向けた議論と歩調を合わせて具体化していくことが求められる。

  • ※1 補足資料42・43ページ参照。

環境の整備

  • こうした取組を通じて、教員一人一人が校内研修、校外研修などの様々な研修の機会を活用したり、自主的な学習を積み重ねたりしながらその力量を向上させていくとともに、教員一人一人の力量が発揮されるよう、必要な環境を整備していくことも必要である。
  • 上述のような教員の研修機会を確保するとともに、次期学習指導要領等を踏まえた「カリキュラム・マネジメント」の実現や、「アクティブ・ラーニング」の視点に立った学びを推進するための少人数によるきめ細かな指導の充実など、新たな学習・指導方法等に対応するため、必要な教職員定数の拡充を図ることが求められる。ICTも含めた必要なインフラ環境の整備を図ることも重要である。
  • また、学校を取り巻く新たな課題に対応していくためには、初等中等教育分科会に置かれた「チームとしての学校・教職員の在り方に関する作業部会」が取りまとめた「チームとしての学校の在り方と今後の改善方策について(中間まとめ)」(※2)が示すように、事務体制の強化を図るとともに、教員以外の専門スタッフも参画した「チームとしての学校」の実現を通じて、複雑化・多様化した課題を解決に導いたり、教員が子供と向き合う時間的・精神的な余裕を確保したりしていくことが重要である。加えて、校長又は園長のリーダーシップのもと、「カリキュラム・マネジメント」を核に学校の組織運営を改善・強化していくことや、教育課程の実施をはじめとした学校運営を、「コミュニティ・スクール」や様々な地域人材との連携等を通じて地域で支えていくことなどについても、積極的に進めていくことが重要である。
  • さらに、教科書を含めて必要な教材や情報機器についても、2.(3)2.1)~3)に示した視点を踏まえて改善を図り、新たな学びや多様な学習ニーズに対応したものとしていく必要がある(※3)。
  • 国や各教育委員会等においても、教科等別の学習指導に関する改善のみならず、教科等を横断した教育課程全体の改善について助言を行うことができるような体制を整えていくことが必要であり、教育委員会における指導担当部課長や指導主事等の力量の向上が求められる(※4)。加えて、学習・指導方法の改善について、モデル校の先進事例等を動画も含めて参照できるようなアーカイブを整備していくことも考えられる。
  • また、経済的状況に関わらず教育を受けられる機会を整えていくことや、家庭環境や家族の状況の変化等を踏まえた適切な配慮を行っていくことも不可欠である。

  • ※2 補足資料44ページ参照。
  • ※3 教科書の図版や写真を、動画や音声などのデジタル教材と関連付ける「拡張現実(Augmented Reality:AR)」技術等の活用も、学習者の理解の向上に効果があるものと考えられる。
  • ※4 伝達講習などの機会のみならず、学校の環境の中でいかに教員が育っていくかという視野を持った体制の充実が求められる。

新しい教育課程が目指す理念の共有

  • こうした取組を進めるに当たっては、新しい教育課程が目指す理念を、学校や教育関係者のみならず、保護者や地域の人々、産業界等を含め広く共有し、子供の成長に社会全体で協働的に関わっていくことが必要である。
  • 地域社会と教育の理念を共有していくことは、様々な教育課題に対して、学校教育だけではなく社会教育と連携・分担しながら地域ぐるみで対応していくことにつながる。また、保護者の理解と協力を得ることは、学校教育の質の向上のみならず、家庭教育を充実させていくためにも大きな効果があると考えられる。国には、本「論点整理」を広く広報し、その成果を今後の審議まとめ等に生かしていくことが求められる。

お問合せ先

初等中等教育局初等中等教育企画課教育制度改革室

(初等中等教育局初等中等教育企画課教育制度改革室)

-- 登録:平成27年11月 --