3 義務教育学校制度(仮称)創設の是非について

○ 第2章においては、現行の小・中学校制度を基本としつつ、それらの連携や一貫教育を推進するための諸方策についての委員意見を整理したが、本章においては、現行の小・中学校制度とは異なる、新たな学校制度として、義務教育学校制度(仮称)を創設することの是非及び創設しようとする場合の論点に関する委員の意見を整理する。

1.義務教育学校制度(仮称)に関するこれまでの指摘等

○ 義務教育学校制度(仮称)については、学校教育法第1条に規定する「学校」として、現行の小・中学校の課程に相当する課程を併せ持ち、義務教育として行われる普通教育を一貫して施す9年制の学校を想定しており、『新しい時代の義務教育を創造する』(平成17年10月26日中央教育審議会答申)には以下のような指摘がある。

『新しい時代の義務教育を創造する』(平成17年10月26日中央教育審議会答申)(抜粋)
 第1章 教育の目標を明確にして結果を検証し質を保証する
 -義務教育の使命の明確化及び教育内容の改善-
(3)義務教育に関する制度の見直し
○ 義務教育を中心とする学校種間の連携・接続の在り方に大きな課題があることがかねてから指摘されている。また、義務教育に関する意識調査では、学校の楽しさや教科の好き嫌いなどについて、従来から言われている中学校1年生時点のほかに、小学校5年生時点で変化が見られ、小学校の4~5年生段階で発達上の段差があることがうかがわれる。研究開発学校や構造改革特別区域などにおける小中一貫教育などの取組の成果を踏まえつつ、例えば、設置者の判断で9年制の義務教育学校を設置することの可能性やカリキュラム区分の弾力化など、学校種間の連携・接続を改善するための仕組みについて種々の観点に配慮しつつ十分に検討する必要がある。

○ 上記答申以外にも、『幼稚園、小学校、中学校、高等学校及び特別支援学校の学習指導要領等の改善について』(平成20年1月17日中央教育審議会答申)のほか、政府の各種会議においても、小中一貫校の制度化や義務教育学校の法制化を検討する、又は望むと指摘されている(※1)。

○ 一方で、平成16、17年に文部科学省が委嘱して実施した『義務教育に関する意識調査』(※2)結果においては、以下のようになっている。

(「賛成」+「まあ賛成」と回答した割合)

  • 「6-3制を5-4制などに変更する」
     保護者13.2%、学校評議員17.1%、一般教員14.2%、校長・教頭24.0%、教育長22.3%、首長17.3%
  • 「9年制の小中一貫校をつくる」
     保護者30.6%、学校評議員42.1%、一般教員27.3%、校長・教頭33.5%、教育長46.7%、首長51.1%

  (反対よりは賛成が多かったが、保護者や一般教員の約半数は意見を明確にしていない)


※1 参考資料1参照

※2 文部科学省より株式会社ベネッセコーポレーション・ベネッセ教育研究開発センターに委嘱して実施。義務教育に関する評価や期待、子どもの家庭での生活状況等に関して質問紙調査を実施。

2.諸外国の義務教育制度等

○ 本作業部会においては、アメリカ、イギリス、フランス、ドイツ、韓国、フィンランド、シンガポールの義務教育制度について確認した。(※3)

○ アメリカとドイツにおいては州ごとに学校制度が異なり、国として一律に述べられないが、シンガポールを除き、義務教育年限としては概ね9~11年となっている。シンガポールについては、初等教育段階の6年間のみが義務教育となっている。また、シンガポールを除き、初等教育段階は学級担任制で、中等教育段階は教科担任制が基本となっている。

○ 初等教育及び前期中等教育の9年間一貫した教育を施す学校を制度化している国として、フィンランドが挙げられる。フィンランドにおいては、9年制の総合制学校において、初等教育段階である前期課程6年間と前期中等教育段階である後期課程3年間を一貫した9年間の教育が行われている。ただし、校舎に着目すると、前期課程用と後期課程用が別々に存在する場合が多くあり、また、前期課程が学級担任制であり、後期課程が教科担任制となっている。

○ フランス、韓国、フィンランドにおいては、初等教育段階及び前期中等教育段階において、それぞれの段階が単一の学校種となっている。
 アメリカでは州又は学区ごとに学校制度は異なるが、初等教育段階においては小学校に就学し、その後、中等教育段階でハイスクールに進学する場合が一般的であり、それ以外には、初等教育の5、6年次においてミドルスクールに進学した後にハイスクールに進学する場合等がある。
 イギリスにおいては、初等教育及び前期中等教育段階において、それぞれ初等学校及び総合制中等学校に就学する児童生徒がほとんどである。ただし、一部の地域においては、それらの代わりにファースト・スクール、ミドル・スクール、アッパー・スクールが設置されている。また、一部の地域では総合制中等学校の代わりにグラマー・スクールやモダン・スクールが設置されている。
 ドイツにおいては、大半の児童生徒は初等教育段階の基礎学校を卒業後、2年間の観察指導段階を経て、前期中等教育段階からハウプトシューレ、実科学校、ギムナジウムに分かれて進学することとなる。一部、上述の学校種に代えて、総合制学校が設置されている。
 シンガポールにおいては、義務教育である初等教育段階は学校種としてはほとんどが初等学校となっている。中等教育段階で、中等学校の様々なコースに進学するのが一般的である。

○ 以上のことから、今回取り上げた諸外国において、一般的に初等教育段階から学校制度を複線化している国はなく、また、初等教育段階と中等教育段階では学校種が異なるのが一般的であることが分かる。


※3 諸外国の義務教育制度の概要については参考資料7参照

3.義務教育学校制度(仮称)創設の是非

○ こうした状況を踏まえた上で、本作業部会において義務教育学校制度(仮称)について検討した。その際、以下の論点等を参考に義務教育学校制度(仮称)創設の是非について検討した。

(1)義務教育学校制度(仮称)を創設する意義、必要性は何か。新たな学校種を創設しないと実現できないことは何か。

(2)義務教育学校制度(仮称)を創設することのメリット・デメリットとして何が考えられるか。

(3)既存の小・中学校制度との関係をどのように考えるか。義務教育学校制度(仮称)を創設した上で、既存の小・中学校制度と併存させるのか、将来的に義務教育学校制度に収斂することを目指すのか。

将来的に義務教育学校制度(仮称)に収斂することを目指す場合であっても、当面は、実態上、既存の小・中学校制度と併存させることとなる。既存の小・中学校制度と併存させる際には、例えば、以下のような論点について検討する必要がある。

  1. 初等教育段階から、児童生徒の就学先が小・中学校と義務教育学校に分かれること、すなわち学校制度を複線化することとなる点をどのように考えるか。
  2. 市町村に課せられる小・中学校の設置義務について、義務教育学校の設置により、小・中学校の設置に代えることとしてよいか。
  3. (ア)市町村が義務教育学校を設置する場合、従来どおり教育委員会が就学校を指定するのか。その場合、児童生徒は選択の余地なく、住所地によって小・中学校か義務教育学校に就学することとなることをどのように考えるか。
    (イ)義務教育学校への就学を保護者の選択に委ねることとするのか。義務教育学校又は小・中学校のいずれかの就学希望者が多数の場合、入学者の決定についてはどのように考えるか。
  4. 教育課程についてどのように考えるか。義務教育学校学習指導要領(仮称)を新たに作成するのか、小・中学校学習指導要領を準用するのか。
  5. 教員免許についてどのように考えるか。義務教育学校教諭免許状(仮称)を新たに設けるのか、小学校教諭免許状及び中学校教諭免許状を併有させることとするのか。
  6. 教職員定数についてどのように考えるか。義務教育学校の教職員定数の標準を新たに設けるのか、小・中学校の教職員定数の標準を準用するのか。
  7. 校地・校舎は一体とするのか。分離した校地・校舎も認めるのか。
  8. 以上の他、検討すべき点はないか。

(4)中高一貫教育制度との関係をどのように考えるか。

各委員からは次のような意見が出された。

<義務教育学校制度(仮称)の創設に賛成との意見>

  • 地域の実情に応じて制度を選択できるようにするため、義務教育学校制度(仮称)を創設し、各学校、設置者が義務教育学校の設置について判断するような仕組みとするのが望ましい。
  • 国の役割として義務教育修了時の学力保証があり(※4)、義務教育を一体的に捉え9年間で児童生徒の学力向上を図っていく観点からは、義務教育学校制度(仮称)の創設は極めて自然な発想である。義務教育学校制度(仮称)を創設した上で、9年間の学年区分(4・3・2や5・2・2等)については、学習指導要領を満たしながら、設置者が判断できるようにするとともに、児童生徒が転学又は編入学した場合の対応を、学校において責任を持って行うこととするのが望ましい。
  • 義務教育学校制度(仮称)を創設した上で、教員免許の在り方を、現行の小・中学校教員免許の在り方のように大きく異なるものから、義務教育段階の児童生徒に教授する教員のための免許となるよう見直すとともに、学習指導要領の在り方も、各学校段階別に作成するのではなく、義務教育段階の学習指導要領として作成するようにすることが望ましい。
  • 義務教育学校制度(仮称)を創設した上で、教育課程については弾力的に編成できるようにする必要がある。
  • 小・中学校における教育課程上の無用な重複が省略できるのであれば、義務教育学校制度(仮称)を創設する意義があるのではないか。
  • 義務教育学校制度(仮称)を創設した場合、地域レベルでは既存の小・中学校が集約されるのかが最大の問題になると思われ、その意味で、新しい町作りをする地域においては義務教育学校を導入してもきめ細かく配慮することができてよい。

※4 平成17年の中央教育審議会答申においても「国は、このような義務教育の目標が確実に実現されるよう、義務教育段階への十分な投資を行い、教育条件の整備に万全を期すとともに、示した目標が実現されているかどうかについて評価し、それを踏まえ、義務教育の質の保証と更なる向上に取り組んでいく必要がある。」(第1章(1)ア義務教育の目標の明確化)とされている。

<義務教育学校制度(仮称)の創設には慎重であるべきとの意見>

  • 義務教育学校制度(仮称)を創設した場合、9年間ほとんど同一の集団で学んでいくこととなるが、児童生徒が9年間の途中で挫折した場合等、学校が変わることによる再チャレンジの機会がないこととなり、心配である。
  • 特に地方においては、学校が町の中心となっており、小・中学校が義務教育学校に一本化することで、学びの拠点である学校の数が減ることとなるのは、大きな問題であり、義務教育学校制度(仮称)については慎重に検討する必要がある。
  • 小中連携・一貫教育に取り組んでいる学校のねらいは、いわゆる中1ギャップの解消、学力向上、コミュニティの育成、小規模校の活性化等であり、義務教育学校制度(仮称)の創設によりこうした課題が解決されるとは思えず、結論として制度の創設は時期尚早である。
  • 義務教育学校制度(仮称)の創設に関しては、1.9年間一貫した教育を施すことの是非、2.一部の学校に9年制を導入することの是非に分けて検討する必要があり、1.については小学校6年、中学校3年の教育効果を検証する必要があり、2.については事実上学校制度の複線化となり、選択させるというが、小学校入学時の6歳の児童などでは通学できる範囲が限られ選択不可能である上、一つの自治体の中に小学校、中学校、中等教育学校、義務教育学校があることがシステムとしてどのような効果をもたらすのかが不明であることから、小・中学校教育の連携の在り方として義務教育学校制度(仮称)の創設は疑問である。
  • 児童生徒は義務教育段階を9年一貫の学校とした場合、人間関係が固定化し、新たに出発する機会が失われる等により閉塞感等を感じるものと思われ、そうした児童生徒の目線に合わせて制度の是非について検討すると、義務教育学校制度(仮称)の創設には慎重にならざるを得ない。
  • 中高一貫教育について、制度化当時、国会の附帯決議で受験エリート校化、受験競争の低年齢化を招かないよう配慮する旨指摘があるが、それと同様、義務教育段階で小・中学校と異なる義務教育学校を創設することにより、上記指摘のような事態が懸念される。

○ 以上を総合すると、本作業部会においては、地域の実情に応じた教育の実現や、義務教育9年間を一体的に捉え児童生徒の学力向上等を図っていく観点から、義務教育学校制度(仮称)の創設に賛成する意見もある一方で、義務教育学校制度(仮称)を創設した場合の、人間関係の固定化による再チャレンジの機会の喪失や、学びの拠点である学校の数の減少、初等教育段階からの複線化等への懸念が示された。
 これらを踏まえると、義務教育学校制度(仮称)の創設には、慎重な検討が必要である。

○ そもそも、義務教育学校制度(仮称)を創設することに期待されていることとして、上記委員意見にあるとおり、義務教育の継続性の確保、小・中学校の教育課程に関する柔軟な対応、小・中学校教員の他校種の児童生徒に対する指導力の向上といったことや、それ以外にも、校地・校舎の一体的運用といったことがあり得る。
 こうした点については、『新しい時代の義務教育を創造する』(平成17年中央教育審議会答申)が出されて以降も、様々な対応がなされてきている。義務教育の継続性の確保については、平成18年の教育基本法の改正、平成19年の学校教育法の改正において新たに義務教育の目的、目標を規定し、小・中学校における教育の継続性が確保されるような手当てが講じられた。小・中学校の教育課程については、平成20年の教育課程特例校制度の創設により、より一般的に地域の発意による柔軟な対応が可能となっている。また、小・中学校教員の他校種の児童生徒に対する指導力の向上のため、平成14年に隣接校種の免許状を取得する際の要修得単位数の軽減措置が講じられ、校地・校舎の一体的運用は現に複数の市町村においてなされている。
 以上の通り、義務教育学校制度の創設に期待されていることはいずれも、現行制度において対応可能な面が多い。さらに、教育課程について設置者の判断で一定の教育課程の基準の特例を活用できるようにすることや、校舎や屋内運動場の一体化に当たっての国庫補助率の引上げ等により、義務教育学校制度(仮称)に期待されているものの現行制度においては十分対応できていない点について、一定の改善が図られるものと考えられる。

○ 以上のことから、国としては、学校、市町村において積極的に小中一貫教育を推進できるよう、現行の小・中学校制度を基本としつつ、設置者の判断に基づき、一定の教育課程の基準の特例を活用できることとするとともに、校舎や屋内運動場を小・中学校で一体的に整備するために改築する場合、小学校同士又は中学校同士の統合と同等程度の補助を行うこと等について検討することが望ましい。

○ このような措置の実施により、小中一貫教育の豊富な実践が蓄積された上で、将来的に改めて義務教育学校制度(仮称)の創設について検討する場合には、教育課程の基準の特例を活用して小中一貫教育を推進する学校、設置者の取組、ニーズ、成果や課題等について把握、検証した上で、「初等教育」と「中等教育」のいずれの段階も含む形態で、一つの学校種として「義務教育学校」を制度化することの是非、初等教育段階から学校制度が複線化することに対する考え方、既に制度化されている「中等教育学校」との制度的整合性等について、十分な検討を進めることが必要である。

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初等中等教育局初等中等教育企画課教育制度改革室義務教育改革係

(初等中等教育局初等中等教育企画課教育制度改革室義務教育改革係)

-- 登録:平成24年09月 --