○ 「共生社会」とは、これまで必ずしも十分に社会参加できるような環境になかった障害者等が、積極的に参加・貢献していくことができる社会である。それは、誰もが相互に人格と個性を尊重し支え合い、人々の多様な在り方を相互に認め合える全員参加型の社会である。このような社会を目指すことは、我が国において最も積極的に取り組むべき重要な課題である。
○ 障害者の権利に関する条約第24条によれば、「インクルーシブ教育システム」(inclusive education system、署名時仮訳:包容する教育制度)とは、人間の多様性の尊重等の強化、障害者が精神的及び身体的な能力等を可能な最大限度まで発達させ、自由な社会に効果的に参加することを可能とするとの目的の下、障害のある者と障害のない者が共に学ぶ仕組みであり、障害のある者が「general education system」(署名時仮訳:教育制度一般)から排除されないこと、自己の生活する地域において初等中等教育の機会が与えられること、個人に必要な「合理的配慮」が提供される等が必要とされている。
○ 共生社会の形成に向けて、障害者の権利に関する条約に基づくインクルーシブ教育システムの理念が重要であり、その構築のため、特別支援教育を着実に進めていく必要があると考える。
○ インクルーシブ教育システムにおいては、同じ場で共に学ぶことを追求するとともに、個別の教育的ニーズのある幼児児童生徒に対して、自立と社会参加を見据えて、その時点で教育的ニーズに最も的確に応える指導を提供できる、多様で柔軟な仕組みを整備することが重要である。小・中学校における通常の学級、通級による指導、特別支援学級、特別支援学校といった、連続性のある「多様な学びの場」を用意しておくことが必要である。
○ 特別支援教育は、共生社会の形成に向けて、インクルーシブ教育システム構築のために必要不可欠なものである。そのため、以下の1.から3.までの考え方に基づき、特別支援教育を発展させていくことが必要である。このような形で特別支援教育を推進していくことは、子ども一人一人の教育的ニーズを把握し、適切な指導及び必要な支援を行うものであり、この観点から教育を進めていくことにより、障害のある子どもにも、障害があることが周囲から認識されていないものの学習上又は生活上の困難のある子どもにも、更にはすべての子どもにとっても、良い効果をもたらすことができるものと考えられる。
○ 基本的な方向性としては、障害のある子どもと障害のない子どもが、できるだけ同じ場で共に学ぶことを目指すべきである。その場合には、それぞれの子どもが、授業内容が分かり学習活動に参加している実感・達成感を持ちながら、充実した時間を過ごしつつ、生きる力を身に付けていけるかどうか、これが最も本質的な視点であり、そのための環境整備が必要である。
○ 今後の進め方については、施策を短期(「障害者の権利に関する条約」批准まで)と中長期(同条約批准後の10年間程度)に整理した上で、段階的に実施していく必要がある。
短期:就学相談・就学先決定の在り方に係る制度改革の実施、教職員の研修等の充実、当面必要な環境整備の実施。「合理的配慮」の充実のための取組。それらに必要な財源を確保して順次実施。
中長期:短期の施策の進捗状況を踏まえ、追加的な環境整備や教職員の専門性向上のための方策を検討していく。最終的には、条約の理念が目指す共生社会の形成に向けてインクルーシブ教育システムを構築していくことを目指す。
○ 「共生社会」とは、これまで必ずしも十分に社会参加できるような環境になかった障害者等が、積極的に参加・貢献していくことができる社会である。それは、誰もが相互に人格と個性を尊重し支え合い、人々の多様な在り方を相互に認め合える全員参加型の社会である。このような社会を目指すことは、我が国において最も積極的に取り組むべき重要な課題である。
○ 学校教育は、障害のある幼児児童生徒の自立と社会参加を目指した取組を含め、「共生社会」の形成に向けて、重要な役割を果たすことが求められている。その意味で、共生社会の形成に向けたインクルーシブ教育システムの構築のための特別支援教育の推進についての基本的考え方が、学校教育関係者をはじめとして国民全体に共有されることを目指すべきである。
○ 障害者の権利に関する条約第24条によれば、「インクルーシブ教育システム」(inclusive education system、署名時仮訳:包容する教育制度)とは、人間の多様性の尊重等の強化、障害者が精神的及び身体的な能力等を可能な最大限度まで発達させ、自由な社会に効果的に参加することを可能とするとの目的の下、障害のある者と障害のない者が共に学ぶ仕組みであり、障害のある者が「general education system」(署名時仮訳:教育制度一般)から排除されないこと、自己の生活する地域において初等中等教育の機会が与えられること、個人に必要な「合理的配慮」が提供される等が必要とされている。(参考資料2:障害者の権利に関する条約(抄)、参考資料3:general education system(教育制度一般)の解釈について)
○ 共生社会の形成に向けて、障害者の権利に関する条約に基づくインクルーシブ教育システムの理念が重要であり、その構築のため、特別支援教育を着実に進めていく必要があると考える。
○ インクルーシブ教育システムにおいては、同じ場で共に学ぶことを追求するとともに、個別の教育的ニーズのある幼児児童生徒に対して、自立と社会参加を見据えて、その時点で教育的ニーズに最も的確に応える指導を提供できる、多様で柔軟な仕組みを整備することが重要である。小・中学校における通常の学級、通級による指導、特別支援学級、特別支援学校といった、連続性のある「多様な学びの場」を用意しておくことが必要である。(参考資料4:日本の義務教育段階の多様な学びの場の連続性)
○ インクルーシブ教育システムの構築については、諸外国においても、それぞれの課題を抱えながら、制度設計の努力をしているという実情がある。各国とも、インクルーシブ教育システムの構築の理念に基づきながら、漸進的に対応してきており、日本も同様である。教育制度には違いはあるが、各国ともインクルーシブ教育システムに向かうという基本的な方向性は同じである。(参考資料5:諸外国におけるインクルーシブ教育システムの構築状況)
○ 障害者の権利に関する条約第8条には、障害者に関する社会全体の意識を向上させる必要性が示され、教育制度のすべての段階において障害者の権利を尊重する態度を育成することが規定されている。こうした規定を踏まえれば、学校教育において、障害のある人と障害のない人が触れ合い、交流していくという機会を増やしていくことが、特に重要であり、障害のある人と触れ合うことは、共生社会の形成に向けて望ましい経験となる。(参考資料2:障害者の権利に関する条約(抄))
○ 特別な指導を受けている児童生徒の割合を比べてみると、英国が約20%(障害以外の学習困難を含む)、米国は約10%となっており、これに対して、日本は、特別支援学校、特別支援学級、通級による指導を受けている児童生徒を合わせても約3%に過ぎない。これは、特別な教育支援を必要とする児童生徒の多くは通常の学級で学んでおり、これらの児童生徒への対応が早急に求められていると考える。そこで、今後、実態把握を行い、それを踏まえた効果的な支援を一層推進していくことが必要である。また、日本の義務教育段階での就学率は極めて高く、障害を理由として就学免除・猶予を受けている者がほとんどいない点について高く評価すべきである。(参考資料6:日、英、米の特別支援教育として特別な指導を受けている児童生徒の割合)
○ 平成17年12月の中央教育審議会答申「特別支援教育を推進するための制度の在り方について」においては、「特別支援教育の理念と基本的考え方」が以下のように述べられている。
○ このように、同答申においては、特殊教育から特別支援教育へ発展させ、発達障害のある幼児児童生徒を支援の対象とする方向性が示されるとともに、我が国が目指すべき社会の方向性が示された。同答申に基づき、平成18年6月に学校教育法が改正され、特別支援教育は、平成19年度から本格的に開始されたところであり、これにより、障害のある幼児児童生徒の教育の基本的な考え方について、特別な場で教育を行う「特殊教育」から、一人一人のニーズに応じた適切な指導及び必要な支援を行う「特別支援教育」に発展的に転換したと言える。(参考資料7:特別支援教育を推進するための制度の在り方について(答申)概要)
○ 現在、日本においては、義務教育段階で、特別支援学校に在籍している児童生徒は約65,000人で全体の0.6%程度、特別支援学級に在籍している児童生徒は約155,000人で全体の1.5%程度、通級による指導を受けている児童生徒は約65,000人で全体の0.6%程度となっている。また、小・中学校には、就学基準に該当する児童生徒が、特別支援学級で約17,000人、通常の学級で約3,000人在籍している。さらに、通常の学級には、LD、ADHD、高機能自閉症等の発達障害の可能性のある児童生徒が6.3%程度在籍していると考えられる。(参考資料8:特別支援教育の現状)
○ 特別支援教育は、共生社会の形成に向けて、インクルーシブ教育システム構築のために必要不可欠なものである。そのため、以下の考え方に基づき、特別支援教育を発展させていくことが必要である。このような形で特別支援教育を推進していくことは、子ども一人一人の教育的ニーズを把握し、適切な指導及び必要な支援を行うものであり、この観点から教育を進めていくことにより、障害のある子どもにも、障害があることが周囲から認識されていないものの学習上又は生活上の困難のある子どもにも、更にはすべての子どもにとっても、良い効果をもたらすことができるものと考えられる。
○ 我が国においては、これまで、「障害の種類及び程度」に応じて学びの場を整備してきた。これは、医学や科学技術の進歩等に応じて見直されてきている。平成14年には、就学基準の見直しが行われ、それとともに、医学的な診断に基づいて就学先を定めることだけではなく、小学校等の教育環境等を考慮し、就学基準に該当する障害のある子どもであっても認定就学者(※1)として小学校等に就学ができるよう、就学手続の見直しが行われた。平成18年には、通級による指導の対象に、学習障害者及び注意欠陥多動性障害者を加えるとともに、それまでの情緒障害者についても、自閉症者、情緒障害者と整理した。また、平成21年には、情緒障害学級の名称を自閉症・情緒障害学級と改めた。(参考資料9:これまでの制度改正の状況、参考資料10:通常の学級に在籍する学校教育法施行令第22条の3に該当する特別な教育的支援を必要とする児童生徒の数等に関する実態調査の結果について)
○ 平成19年度から特別支援教育が本格的に開始されて以来、各教育委員会や各学校における特別支援教育の体制整備は一定程度進みつつあるが、共生社会の形成、インクルーシブ教育システムの構築という観点からは、これらの取組は今後更に時間をかけて進めるべきものであり、特別支援教育の更なる質的な充実を図るためには、なお多くの課題がある。これらは、平成22年3月に取りまとめられた、「特別支援教育の推進に関する調査研究協力者会議」の審議経過報告においても、以下のとおり整理されているところである。
※1 就学基準に該当する障害のある子どもについて、市町村教育委員会が、その者の障害の状態に照らして、小学校又は中学校において適切な教育を行うことができる特別の事情があると認める者。
※2 障害のある幼児児童生徒一人一人のニーズを正確に把握し、教育の視点から適切に対応していくという考え方の下に、医療、保健、福祉、労働等の関係機関との連携を図りつつ、乳幼児期から学校卒業後までの長期的視点に立って、一貫して的確な教育的支援を行うために、障害のある幼児児童生徒一人一人について作成した支援計画。
※3 幼児児童生徒一人一人の障害の状態等に応じたきめ細かい指導が行えるよう、学校における教育課程や指導計画、当該幼児児童生徒の個別の教育支援計画等を踏まえて、より具体的に幼児児童生徒一人一人の教育的ニーズに対応して、指導目標や指導内容・方法等を盛り込んだ指導計画。
○ 基本的な方向性としては、障害のある子どもと障害のない子どもが、できるだけ同じ場で共に学ぶことを目指すべきである。その場合には、それぞれの子どもが、授業内容が分かり学習活動に参加している実感・達成感を持ちながら、充実した時間を過ごしつつ、生きる力を身に付けていけるかどうか、これが最も本質的な視点であり、そのための環境整備が必要である。
○ 共に学ぶことを進めることにより、生命尊重、思いやりや協力の態度などを育む道徳教育の充実が図られるとともに、同じ社会に生きる人間として、互いに正しく理解し、共に助け合い、支え合って生きていくことの大切さを学ぶなど、個人の価値を尊重する態度や自他の敬愛と協力を重んずる態度を養うことが期待できる。
○ 障害のある子どもにとっても、障害のない子どもにとっても、障害に対する適切な知識を得る機会を提供するとともに、バランスのとれた自己理解、達成感の積み重ねから得られる自己肯定感、自己の感情等の管理する方法を身に付けつつ、他者理解を深めていくことが適当であり、子どもの多様性を踏まえた学級づくりや学校づくりが望まれる。
○ 個々の子どもの障害の状態や教育的ニーズ、学校や地域の実情等を十分に考慮することなく、すべての子どもに対して同じ場での教育を行おうとすることは、同じ場で学ぶという意味では平等であるが、実際に学習活動に参加できていなければ、子どもには、健全な発達や適切な教育のための機会を平等に与えることにはならず、そのことが、将来、その子どもが社会参加することを難しくする可能性がある。財源負担も含めた国民的合意を図りながら、大きな枠組みを改善する中で、「共に育ち、共に学ぶ」体制を求めていくべきである。(参考資料11:OECD各国との初等中等教育段階における一学級当たり児童生徒数及び公財政支出の比較)
○ 障害のある子どもが、多様な子どもの中で共に学び、社会で生きる力を身に付けることと同時に、同じ障害のある子ども同士が共に学ぶことにより、それぞれの障害固有のコミュニケーション能力を高めるなどして、相互理解を深めていくことも重要である。学校教育の場でも学校教育以外の場でも、それらの機会を提供していくことが重要である。
○ 共生社会の形成のためには、障害のある者が、どれだけ社会に参加・貢献できるかということが問われる。インクルーシブ教育システムの推進に当たっては、普段から地域に障害のある人がいるということが認知され、障害のある人と地域住民や保護者との相互理解が得られていることも重要であり、また、学校のみならず地域の様々な場面において、どう生活上の支援を行っていくかという観点も必要である。学校運営協議会制度(コミュニティ・スクール)や学校支援地域本部など、地域と連携した学校づくりを進めるに際しても、各学校は、障害のある子どもへの対応も念頭に置き、地域の理解と協力を得ながら連携して取り組んでいく必要がある。また、特別支援学校に在籍する子どもについて、一部の自治体で実施されている居住地校に副次的な籍を置く取組については、居住地域との結び付きを強めるために意義がある。(参考資料12:コミュニティ・スクール(学校運営協議会制度)について、参考資料13:学校・家庭・地域の連携による教育支援活動促進事業)
○ 共生社会の形成に当たっては、上記のように学校を中核としたコミュニティづくりを進めることに加えて、保護者、親の会等の障害者関係団体、NPO、ボランティア等を巻き込んだ地域の力で、地域において「共に生きる」ことを推進していくことが重要である。
○ 地域の実情(交通アクセス、医療や福祉サービスが充実している都市部、その対極的な地域など)は様々であるが、国における制度設計は、どの地域の学校においても等しく達成されるべきもの(ナショナルミニマム)は何であるかという点に留意して行わなければならない。また、それを踏まえた上で、地域の状況に応じた柔軟な選択肢があっても良い。
○ 今後の進め方については、施策を短期(「障害者の権利に関する条約」批准まで)と中長期(同条約批准後の10年間程度)に整理した上で、段階的に実施していく必要がある。短期的には、就学相談・就学先決定の在り方に係る制度改革の実施、教職員の研修等の充実、当面必要な環境整備の実施を図るとともに、「合理的配慮」の充実のための取組が必要であり、それらに必要な財源を確保して順次実施していく。また、中長期的には、短期の施策の進捗状況を踏まえ、追加的な環境整備や教職員の専門性向上のための方策を検討していく必要がある。最終的には、条約の理念が目指す共生社会の形成に向けてインクルーシブ教育システムを構築していくことを目指す。
○ 国においては、共生社会の形成に向けた国民の共通理解を一層進め、社会的な機運を醸成していくことが必要である。学校教育においても、共生社会の形成に向けた理解の促進を図る教育の一層の充実を図っていく必要がある。また、財政的な措置を図る観点を含め、インクルーシブ教育システム構築のために、国としての施策の優先順位を上げる必要がある。
○ インクルーシブ教育システム構築に当たっては、上記の施策を推進していくと同時に、前述(2)2.の「インクルーシブ教育システム構築のための特別支援教育の推進」を踏まえた評価・検証を行いながら進めていく必要がある。また、各学校においても、特別支援教育の体制充実のための組織強化を図る学校経営を行うとともに、その評価を検討していく必要がある。例えば、各学校においては、学校評価の項目にインクルーシブ教育システム構築に向けた取組を盛り込むことが考えられる。また、国において行われている特別支援教育体制整備状況調査の項目をそのような観点から見直すことが考えられる。
初等中等教育局初等中等教育企画課教育制度改革室義務教育改革係
-- 登録:平成24年09月 --