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.5.で述べたように、教育を取り巻く社会状況の変化等の中で、この変化や諸課題に対応し得るより高度な専門性と豊かな人間性・社会性を備えた力量ある教員が求められるようになってきている。
このため、今後の教員養成の在り方としては、学部以下の段階で、教科指導や生徒指導など教員としての基礎的・基本的な資質能力を確実に育成することに加え、大学院段階で、現職教員の再教育も含め、特定分野に関する深い学問的知識・能力を有する教員や、教職としての高度の実践力・応用力を備えた教員を幅広く養成していくことが重要である。
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大学院段階における教員養成についてはこれまで、昭和50年代以降、いわゆる新教育大学が現職教員の再教育に道筋を付け、既存大学にも同様の目的の修士課程が整備されたが、我が国の大学院制度が研究者養成と高度専門職業人養成との機能区分を曖昧にしてきたこともあり、また実態面でも、高度専門職業人養成の役割を果たす教育の展開が不十分であったことから、教員養成分野でも、ともすれば個別分野の学問的知識・能力が過度に重視される一方、学校現場での実践力・応用力など教職としての高度の専門性の育成がおろそかになっており、本来期待された機能を十分に果たしていない。
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このような教員養成の課題を踏まえ、教員養成システム全体の充実・強化を図っていくためには、学部段階における教員養成の着実な改善・充実を図ることとあわせ、とりわけ大学院段階における養成・再教育の在り方を見直し、制度的な検討を含め、その格段の充実を図ることが必要である。
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近年の様々な専門的職種や領域における高度専門的職業人材に対する社会的要請を踏まえ、従来、研究者養成と高度専門職業人養成の機能が渾然一体で不分明だった我が国の大学院制度について、諸機能を明確に区分し、各機能にふさわしい教員組織、教育内容・方法等を整えることにより、全体としての機能強化を図る方向で制度の見直しが進められている。
その見直しの一環として、平成15年度に、従来の大学院制度とは異なり、目的、教育内容、指導方法、指導教員、修了要件、学位等を高度専門職業人の養成に特化した「専門職大学院」制度が創設された。これを契機に、各分野における既設の大学院の機能や組織体制の見直しが始まっており、法曹、ビジネス、会計、知的財産、公共政策、公衆衛生など様々な分野で、既設の専攻からの改組転換や新設も含め専門職大学院の整備が急速に進んでいる。
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教員養成の分野についても、 .4.で指摘した大学院段階も含めた課題を克服するためには、大学院の諸機能を整理し、
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研究者養成・学術研究コースとして各分野における深い学問的知識・能力の育成等に重点を置くもの |
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専門職大学院制度を活用して高度専門職業人養成コースとして学校現場における実践力・応用力など教職としての高度な専門性の育成に重点を置くもの |
等に区分し、その上で、各大学の方針に基づきコースの選択と必要な教育体制が整備されることが必要である。
このため、専門職大学院制度の中に教員養成の専門職大学院として必要な枠組み、すなわち「教職大学院」制度を創設することにより、専門職大学院制度を活用した教員養成教育の改善・充実を図ることとすることが必要である。
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この教職大学院制度の創設に当たっては、我が国の教員養成が「開放制の教員養成」の原則の下に、一般大学・学部と教員養成系大学・学部とがそれぞれ特色を発揮して行われ、人材を幅広く教育界に送り出してきた実績を踏まえ、
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引き続き「開放制の教員養成」の原則の下、教員としての基礎的・基本的な資質能力の育成は学部段階で行うことを基本としつつ |
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大学院段階の教員養成・再教育の格段の充実を図るための有力な方策の一つとして、 |
各大学の判断により教職大学院制度が活用されることが適当である。
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教職大学院制度の創設により、学部段階及び修士課程など他の教職課程に対して、この大学院が、後に述べるように、実践的指導力の育成に特化した教育内容、事例研究や模擬授業など効果的な教育方法、これらの指導を行うのにふさわしい指導体制など、力量ある教員の養成のためのモデルを制度的に提示することにより、より効果的な教員養成のための取組を促すことが期待される。
また、この大学院は、学部段階において養成される教員としての基礎的・基本的な資質能力を基盤として、その上に、高度専門職業人としての教員に求められる高度な実践力・応用力を育成することとなる。このことから、入学段階において学生に求められる資質能力が明確に示されることにより、学部修了段階において養成されていることが求められる到達基準がより明確に学部段階に対し示されることとなる。
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また、教職大学院制度の創設により、実務家教員(教職等としての実務経験を有する教員)も含め、高度専門職業人としての教員の養成を目的とする課程としての意識を共有した指導教員が確保されることが期待される。
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なお、教職大学院制度が創設された場合、修士課程との関係は各大学における修士課程の現在の位置付けや役割、専攻等の構成や特色・得意分野、設置目的等により異なる。しかしながら、教員養成を行う研究科・学部として、修士課程においても、高度の専門的知識・技能を背景に優れた指導力を有する高度専門職業人としての教員を養成するとともに、教員が優れた指導力を発揮する上でその背景となる高度の知識・技能や、教員が広い視野を持ち複雑な現状を的確に分析し理解する上で必要となる理論等の研究や指導を行うことが期待される。
また、修士課程におけるこのような教育研究を通じて、教育学分野において実践的視野を兼ね備えた大学教員の養成の一段階としての機能を果たすことが期待される。
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さらに、学校現場において教職としての高度の専門性を発揮するためには、その背景としての十分な学問的知識・能力に基づく授業の展開力等を伴うことが重要であることはいうまでもない。教職大学院制度の創設に当たって、現在の学校現場が直面する課題に対応し得る実践力・応用力の育成という観点から、いわゆる「教科専門」としての専門性が教職としての高度な専門性の育成に資することが期待される。 |