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日本国憲法第26条第1項は,すべての国民に教育を受ける権利があることについて,次のように宣明している。
すべて国民は,法律の定めるところにより,その能力に応じて,ひとしく教育を受ける権利を有する。
その上で,義務教育については,同条第2項において次のように規定され,国民の権利に対応した具体的な法律上の義務を国が負っていることが示されている。
すべて国民は,法律の定めるところにより,その保護する子女に普通教育を受けさせる義務を負ふ。義務教育は,これを無償とする。
この規定を受けて,教育基本法では,国民は,その保護する子女に9年の普通教育を受けさせる義務を負うこと,国又は地方公共団体の設置する学校における義務教育については授業料を徴収しないことが定められている。
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義務教育は,国民が共通に身に付けるべき公教育の基礎的部分を,誰もが等しく享受し得るように制度的に保障するものである。
民主的で健全な社会は,その構成員が高い意識を持ち,ともに責任を分かち合うことによってしか維持され得ない。国民一人一人が,心身ともに健康で,個人として,また国民として必要な知識や徳性等を有することは,個人の幸福の実現に不可欠の要素であるだけでなく,民主国家の存立のための必須条件でもある。義務教育は,こうした国家・社会の要請とともに,親が本来有している子を教育すべき義務を国として全うさせるために設けられているものであり,近代国家における最も基本的かつ根幹的な制度である。
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我が国では,保護者にその子どもを就学させる義務を課すとともに,義務教育に係る学校の設置を地方公共団体の義務とし,また,経済的な理由で就学困難な学齢児童生徒の保護者に対する援助を市町村の義務としている。さらに,国としても,教育課程の基準である学習指導要領を定めるとともに,義務教育費国庫負担制度や教科書無償制度等の制度的措置を講じることにより,国内のどの地域に住んでいても,国民の誰もが一定水準の教育を受けることのできる仕組みを構築してきた。
現在,我が国の義務教育就学率はほぼ100%であり,こうした堅固な義務教育制度は,戦後の我が国社会の発展を支えてきた柱の一つとして国際的にも高く評価されている。
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義務教育の基本的な役割は,人間として,家族の一員として,さらには社会の一員として,国民として共通に身に付けるべき基礎・基本を習得させることと言うことができる。義務教育には,社会的自立に向けて「知・徳・体」の調和のとれた基本的な能力を習得させ,生涯にわたる学習や職業・社会活動の基盤を形成するとともに,個性・能力を発見・伸長していくことが求められている。
今後の検討においては,義務教育が有する,国家・社会の要請としての側面と,個人の個性や能力を伸ばし,その人格を完成させるという側面のバランス,また,国家・社会の責務と親が子を教育する義務との関係を常に念頭に置きながら,個人の発達段階や社会状況の変化を踏まえた義務教育の在り方を考えていく必要がある。 |