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資料5

中央教育審議会「今後の学校の管理運営の在り方について(答申)」(抜粋)

第1章 学校の管理運営をめぐる課題と検討の基本的視点について

2 学校教育の役割とは何か

 学校が,公教育として果たすべき役割を全うしつつ,社会の多様な要請に応えていくために求められる管理運営の在り方について具体的な検討を行うに当たっては,学校教育,とりわけ義務教育の意義・役割について改めて確認しておく必要がある。

(1) 学校教育の意義・役割

 学校は,教育の目的を達成するために,一定の計画に従って,年齢や能力をほぼ同じくする多数の人間に対し組織的・継続的に教育活動を行うものである。さらに学校は,その継続的な活動を通じて,社会的伝統を維持し,前の世代の文化的遺産を受け継いでいくという役割をも担うものである。

 教育の目的について,教育基本法第1条は次のように規定している。
 教育は,人格の完成をめざし,平和的な国家及び社会の形成者として,真理と正義を愛し,個人の価値をたつとび,勤労と責任を重んじ,自主的精神に充ちた心身ともに健康な国民の育成を期して行われなければならない。
 この規定を踏まえ,教育の基本的な使命は,
1 一人一人の自己実現,個人の資質・能力の向上の観点から,人格の完成を目指し,個人の能力を伸長し,自立した人間を育てること
2 国家・社会の存立,国際社会の一員としての観点から,国家・社会の形成者としての資質を育成すること
の2点に大きく集約することができる。
 教育は個人にとって生涯を通じての課題であり,教育の使命は,家庭や学校,社会生活の様々な場面を通じて達成されるべきものであるが,中でも学校における教育には中心的な役割を果たすことが期待されている。

 学校教育の基本的な役割は,端的に言えば,教育を受ける者の発達段階に応じて,知・徳・体の調和のとれた教育を行うとともに,生涯学習の理念の実現に寄与することである。とりわけ,基礎・基本を徹底し,確かな学力の定着を図り,生涯にわたる学習の基盤をつくることや,同世代の仲間との共同生活を通じて,人間性や社会性など豊かな心と健やかな体を育成すること,さらには一人一人の長所を見出し,その個性・能力の伸長を図っていくことなどは,今後の社会においても普遍的な学校教育の役割と考えられる。

(2) 義務教育の意義・役割

 日本国憲法第26条第1項は,すべての国民に教育を受ける権利があることについて,次のように宣明している。
 すべて国民は,法律の定めるところにより,その能力に応じて,ひとしく教育を受ける権利を有する。
 その上で,義務教育については,同条第2項において次のように規定され,国民の権利に対応した具体的な法律上の義務を国が負っていることが示されている。
 すべて国民は,法律の定めるところにより,その保護する子女に普通教育を受けさせる義務を負ふ。義務教育は,これを無償とする。
 この規定を受けて,教育基本法では,国民は,その保護する子女に9年の普通教育を受けさせる義務を負うこと,国又は地方公共団体の設置する学校における義務教育については授業料を徴収しないことが定められている。

 義務教育は,国民が共通に身に付けるべき公教育の基礎的部分を,誰もが等しく享受し得るように制度的に保障するものである。
 民主的で健全な社会は,その構成員が高い意識を持ち,ともに責任を分かち合うことによってしか維持され得ない。国民一人一人が,心身ともに健康で,個人として,また国民として必要な知識や徳性等を有することは,個人の幸福の実現に不可欠の要素であるだけでなく,民主国家の存立のための必須条件でもある。義務教育は,こうした国家・社会の要請とともに,親が本来有している子を教育すべき義務を国として全うさせるために設けられているものであり,近代国家における最も基本的かつ根幹的な制度である。

 我が国では,保護者にその子どもを就学させる義務を課すとともに,義務教育に係る学校の設置を地方公共団体の義務とし,また,経済的な理由で就学困難な学齢児童生徒の保護者に対する援助を市町村の義務としている。さらに,国としても,教育課程の基準である学習指導要領を定めるとともに,義務教育費国庫負担制度や教科書無償制度等の制度的措置を講じることにより,国内のどの地域に住んでいても,国民の誰もが一定水準の教育を受けることのできる仕組みを構築してきた。
 現在,我が国の義務教育就学率はほぼ100%であり,こうした堅固な義務教育制度は,戦後の我が国社会の発展を支えてきた柱の一つとして国際的にも高く評価されている。

 義務教育の基本的な役割は,人間として,家族の一員として,さらには社会の一員として,国民として共通に身に付けるべき基礎・基本を習得させることと言うことができる。義務教育には,社会的自立に向けて「知・徳・体」の調和のとれた基本的な能力を習得させ,生涯にわたる学習や職業・社会活動の基盤を形成するとともに,個性・能力を発見・伸長していくことが求められている。
 今後の検討においては,義務教育が有する,国家・社会の要請としての側面と,個人の個性や能力を伸ばし,その人格を完成させるという側面のバランス,また,国家・社会の責務と親が子を教育する義務との関係を常に念頭に置きながら,個人の発達段階や社会状況の変化を踏まえた義務教育の在り方を考えていく必要がある。



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