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Home > 政策・施策 > 審議会情報 > 中央教育審議会初等中等教育分科会 > (第16回)及び教育行財政部会(第14回)議事録・配付資料 > 資料1


1章 学校の管理運営をめぐる課題と検討の基本的視点について

 検討の背景 −今なぜ学校の管理運営の在り方が問い直されているのか−

 我が国の初等中等教育は、戦後、6・3・3制の施行などを通じて質的な面での大幅な改善と飛躍的な量的拡大を遂げてきた。学校教育の充実を通じた国民の教育水準の向上は、経済社会の成長・発展に大きく貢献し、生活に豊かな文化をもたらすとともに、我が国が国際社会に貢献し存在感を発揮する上でも大きな役割を果たし、諸外国からも高い評価を受けてきた。

 一方、近年、グローバル化、情報化、都市化、少子化など社会構造の急速かつ大きな変化や、国民の意識や価値観の多様化等に伴い、学校教育に対する要請がこれまでになく多様で高度なものになってきている。
 例えば、グローバル化や情報化などの社会の変化に的確に対応する国際競争力のある教育の実現が求められている。個性や能力の伸長をより一層重視した教育を実現することが求められている。家庭や地域の教育力の低下を反映して、豊かな情操や社会規範意識をはぐくむ教育の充実が求められている。さらには、不登校状態にある児童生徒や、LD、ADHDなど特別な配慮を必要とする児童生徒に対するきめ細かな指導の充実も求められるようになっている。

 こうした学校教育に対する児童生徒や保護者の期待の高まりに対し、現在の学校教育、とりわけ公立学校における教育は十分に応えていないのではないかとの批判が、様々な方面から出てくるようになった。
 これらの批判の具体的な内容や立場はそれぞれ異なるものの、全体を通じて、我が国の公立学校教育は硬直的で画一的であり、変化に対応する柔軟性や多様性に乏しいこと、自ら改革に取り組むインセンティブが働きにくく、効率性が十分に意識されていないこと、閉鎖性が強く、地域の一員としての意識や地域社会との連携を欠きがちであることなどが指摘されている。
 その上で、学校教育をより質が高く、多様性と柔軟性に富むものとするために、例えば、多様な主体による学校教育の提供を認めることや、外部の人材や資源を学校教育に積極的に活用すること、公立学校の管理運営に保護者や地域住民を参画させる仕組みを構築すること、公立学校の包括的な運営を外部に委託することなど、学校の管理運営の在り方についての様々な見直しが提言されている。

 公立学校の管理運営の在り方に対する批判は、最近になって初めて起こったものではない。中央教育審議会においても、学校の管理運営の在り方の改善について、これまで様々な観点から提言を行ってきた。特に、平成10年の答申「今後の地方教育行政の在り方について」においては、各学校の自主性・自律性の確立と、自らの責任と判断による創意工夫を凝らした特色ある学校づくりの実現のために、人事や予算、教育課程の編成に関する学校の裁量権限を拡大することや、学校が保護者や地域住民に対してより一層開かれたものとなるよう「学校評議員制度」を導入することなどについて提言を行ったところである。教育委員会や学校においては、これらの提言を踏まえた様々な改善の取組が進められており、学校は着実に変化してきている。

 しかしながら、改善の取組の進捗状況やその内容は一様ではなく、また、時代や社会がますますその変化の速度を増し、社会の様々な分野で抜本的な構造改革が進められる中にあって、学校に対しても、社会の要請に応え、より良い教育の実現に向けた更なる改革を遂げることが求められている。このためには、学校教育として果たすべき役割の本質を見極めつつ、これまでの改革の取組を推進し、より深めていくことに加え、従来とは異なる角度から学校の管理運営の在り方に光を当て、新しい制度の導入の可能性も含めた検討を行うことが必要と考える。

 学校教育の役割とは何か

 学校が、公教育として果たすべき役割を全うしつつ、社会の多様な要請に応えていくために求められる管理運営の在り方について具体的な検討を行うに当たっては、学校教育、とりわけ義務教育の意義・役割について改めて確認しておく必要がある。

(1) 学校教育の意義・役割
 学校は、教育の目的を達成するために、一定の計画に従って、年齢や能力をほぼ同じくする多数の人間に対し組織的・継続的に教育活動を行うものである。さらに学校は、その継続的な活動を通じて、社会的伝統を維持し、前の世代の文化的遺産を受け継いでいくという役割をも担うものである。

 教育の目的について、教育基本法第1条は次のように規定している。
 教育は、人格の完成をめざし、平和的な国家及び社会の形成者として、真理と正義を愛し、個人の価値をたつとび、勤労と責任を重んじ、自主的精神に充ちた心身ともに健康な国民の育成を期して行われなければならない。
 この規定を踏まえ、教育の基本的な使命は、
1  一人一人の自己実現、個人の資質・能力の向上の観点から、人格の完成を目指し、個人の能力を伸長し、自立した人間を育てること
2  国家・社会の存立、国際社会の一員としての観点から、国家・社会の形成者としての資質を育成すること
の2点に大きく集約することができる。
 教育は個人にとって生涯を通じての課題であり、教育の使命は、家庭や学校、社会生活の様々な場面を通じて達成されるべきものであるが、中でも学校における教育には中心的な役割を果たすことが期待されている。

 学校教育の基本的な役割は、端的に言えば、教育を受ける者の発達段階に応じて、知・徳・体の調和のとれた教育を行うとともに、生涯学習の理念の実現に寄与することである。とりわけ、基礎・基本を徹底し、確かな学力の定着を図り、生涯にわたる学習の基盤をつくることや、同世代の仲間との共同生活を通じて、人間性や社会性など豊かな心と健やかな体を育成すること、さらには一人一人の個性・能力の伸長を図っていくことなどは、今後の社会においても普遍的な学校教育の役割と考えられる。

(2) 義務教育の意義・役割

 義務教育については、日本国憲法第26条第2項において、次のように規定されている。
 すべて国民は、法律の定めるところにより、その保護する子女に普通教育を受けさせる義務を負ふ。義務教育は、これを無償とする。
 この規定を受けて、教育基本法では、国民は、その保護する子女に9年の普通教育を受けさせる義務を負うこと、国又は地方公共団体の設置する学校における義務教育については授業料を徴収しないことが定められている。

 義務教育は、国民が共通に身に付けるべき公教育の基礎的部分を、誰もが等しく享受し得るように制度的に保障するものである。
 民主的で健全な社会は、その構成員が高い意識を持ち、ともに責任を分かち合うことによってしか維持され得ない。国民一人一人が、心身ともに健康で、個人として、また国民として必要な知識や徳性等を有することは、個人の幸福の実現に不可欠の要素であるだけでなく、民主国家の存立のための必須条件でもある。義務教育は、こうした国家・社会の要請とともに、親が本来有している子を教育すべき義務を国として全うさせるために設けられているものであり、近代国家における最も基本的かつ根幹的な制度である。

 我が国では、保護者にその子どもを就学させる義務を課すとともに、義務教育に係る学校の設置を地方公共団体の義務とし、また、国としても、教育課程の基準である学習指導要領を定めるとともに、義務教育費国庫負担制度や教科書無償制度等の制度的措置を講じることにより、国内のどの地域に住んでいても、国民の誰もが一定水準の教育を受けることのできる仕組みを構築してきた。
 現在、我が国の義務教育就学率はほぼ100%であり、こうした堅固な義務教育制度は、戦後の我が国社会の発展を支えてきた柱の一つとして国際的にも高く評価されている。

 義務教育の基本的な役割は、人間として、家族の一員として、更には社会の一員として、国民として共通に身に付けるべき基礎・基本を習得させることということができる。義務教育には、社会的自立に向けて「知・徳・体」の調和のとれた基本的な能力を習得させ、生涯にわたる学習や職業・社会活動の基盤を形成するとともに、個性・能力を発見・伸長していくことが求められている。
 今後の検討においては、義務教育が有する、国家・社会の要請としての側面と、個人の個性や才能を伸ばし、その人格を完成させるという側面のバランス、また、国家・社会の責務と親が子を教育する義務との関係を常に念頭に置きながら、個人の発達段階や社会状況の変化を踏まえた義務教育の在り方を考えていく必要がある。

 学校の管理運営の原則と改善の流れ

(1) 学校の管理運営の原則

 学校の管理運営は、教育活動そのものの運営と、教育を効果的に行うための教職員等の人事、学校の施設設備等の財産の管理などその他の必要な業務から成り立っている。

 教育基本法において、学校は「公の性質」をもつものであると規定されているとおり、学校はその公共性にかんがみ、内容においても条件においても一定の水準を確保した教育を、国民に対して公平かつ安定的・継続的に保障することが求められている。
 このため、学校教育法をはじめとする関係法令や学習指導要領等により、学校の備えるべき要件がそれぞれ具体的に規定されており、また、学校の設置者は、原則として、国、地方公共団体及び学校法人に限定されているところである。
 また、学校については、その設置者が、学校の行う教育活動の事業主体として、学校の運営に責任を持ち、学校を管理し、経費を負担するという「設置者管理主義」及び「設置者負担主義」の原則が法律で定められている。

 地方公共団体が設置する公立の学校については、当該地方公共団体の教育委員会が学校の管理運営について最終的な責任を負うが、教育委員会は、学校の管理運営に関する事務をすべて直接執行するのではなく、学校管理規則を定めて、学校の判断により処理する事項と教育委員会の判断により処理する事項とを区別し、具体的、日常的な学校運営は校長に委ねている。また、教育課程の編成や健康診断の実施のように、法令の規定により直接校長の権限とされている事項もある。これらにより、学校が教育機関として一定の主体性を保持しつつ、最終的には教育委員会が学校の管理運営の責任を負う仕組みとなっている。

 さらに、学校には、学校教育法に基づき、校長、教頭、教諭、養護教諭、事務職員等の職員が置かれ、校長は、学校運営の責任者として、校務をつかさどり、所属職員を監督するものとされている。学校が組織として一体的に教育活動を展開できるよう校務分掌が定められ、教職員が学級担任、教科担任等の校務を分担するとともに、校務分掌に係る連絡調整・指導助言を行う主任が置かれている。

 公立の義務教育諸学校については、都道府県教育委員会が任命権者になることで教職員の広域的人事が可能となっている。服務監督を行う市町村教育委員会は、教職員の任免等について内申を行い、また、校長は、所属する教職員の任免等についての意見を市町村教育委員会に対し具申することができる。教職員の給与費等については、義務教育費国庫負担制度により、都道府県が負担した経費の2分の1を国が負担し、教育の機会均等とその水準の維持向上が図られている。義務教育費国庫負担制度についても、地方の自由度を高める観点から改善のための検討が進められているところである。

(2) 学校の管理運営に関する改革の動向

 学校の管理運営に関し、近年、様々な観点からの改革が進められている。また、市町村合併の推進等の地方における行財政改革や、国と地方の役割分担の在り方の見直しが進む中で、教育行政における、国と地方、そして教育委員会と学校の関係も変化しつつある。
 例えば、学校管理規則の見直しによって従来教育委員会の承認が必要であった事項を届け出制に改めたり、校長の裁量で執行できる経費を拡大するなど、学校の裁量の拡大を図る取組が進んでいる。ただ、限られた予算の中から公費を支出する以上、その執行に当たっては責任ある体制を整えるとともに、対外的な説明責任を果たす必要がある。また、学校の自己評価とその結果の公表が努力義務化されるとともに、教育活動など学校運営の状況について保護者等に積極的に情報を提供することが義務化されるなど、学校の説明責任の遂行を求める観点からの制度改正が行われ、各学校で取組が進んでいる。

 また、地域との積極的な連携・協力や、学校外の活力を導入する観点からの取組も進められている。学校評議員制度が多くの学校で導入されている。優れた知識や技術等を有する社会人や地域住民等を、社会人講師やスクールカウンセラーとして学校に招く取組や、校長、教頭の資格要件の緩和を踏まえ、民間人を校長に登用するなど幅広い人材の活用による学校運営の改革も進められているところである。

 検討の基本的な視点

 中央教育審議会では、先に述べた、公教育の基本原則である公共性、継続性、安定性の確保や、公立学校における教育としての公平性、中立性の確保を前提としつつ、近年の改革の流れを加速し、各学校が、国民の期待に応えて、地域の創意工夫を生かしつつ、自主的・自発的な取組を進め、その担うべき役割を十分に果たすことができるよう、学校の管理運営の在り方をより柔軟で弾力的なものとするためにはどのような改革が必要かという視点から検討を行った。

 その上で、
1  地域との連携の推進、学校の裁量権の拡大という観点から、地域が運営に参画する新しいタイプの公立学校運営の在り方について
2  民間の活力の活用という観点から、公立学校の管理運営の包括的な委託について
の2点を中心に、次章以下に示すとおり基本的な考え方を取りまとめた。


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