教育課程部会 国語ワーキンググループ(第1回) 議事録

1.日時

令和7年9月29日(月曜日)15時30分~18時00分

2.場所

WEB会議と対面による会議を組み合わせた方式

3.議題

  1. 国語ワーキンググループにおける主な検討事項について
  2. その他

4.議事録

【荻野教育課程課課長補佐】  文部科学省初等中等教育局教育課程課課長補佐の荻野でございます。
 定刻となりましたので、ただいまから、中央教育審議会初等中等教育分科会教育課程部会国語ワーキンググループを開催いたします。
 本日は、大変御多忙の中、御参加をいただきまして、誠にありがとうございます。
 開会に当たり、文部科学省初等中等教育局教育課程課長、武藤久慶より御挨拶申し上げます。
【武藤教育課程課長】  教育課程課長の武藤でございます。
 本日、国語ワーキンググループ第1回ということで、委員の先生方には大変御多忙の中、御参加をいただきましたことに、心より感謝を申し上げたいと思います。
 御案内のとおり、2017年に改訂いたしました学習指導要領に基づいて、現在、全国の学校現場で教育が行われているところでございますけれども、本日から次の改訂、すなわち2027年の改訂に向けた御審議をお願いしたいと思っております。
 後ほど御説明申し上げますけれども、この改訂に向けた基本的な考え方等々が、論点整理ということで、教育課程企画特別部会でまとまっているところでございます。この中では、現行の指導要領が目指しております、「主体的・対話的で深い学び」の一層の具現化・深化を図るという方針、「深い学び」の実装というのが1点目。それから、多様な個性や特性を持っている子供たちが多くなっている実態に向き合うということ、そして、その多様性を個人と社会の力に変えるという観点で、多様性の包摂というのが2点目。そして、そういった中、教育課程の実施に伴って先生方に過度な負担と負担感が生じにくいやり方を追求するということで、実現可能性の確保というのが3点目。この3つの、大きな方向性を基本的な考え方として示しているところでございます。
 まさに、この3つの考え方も踏まえながら、これを土台にしながら、国語科における新しい指導要領という建物を築き上げていくということでございまして、ぜひ先生方に、その柱を立てて、構造を組立てていく作業のお力添えをいただきながら進めてまいりたいということを考えております。
 スケジュールとしては、令和8年度の夏頃までに、審議のまとめを出していただくということでございまして、本当にお忙しい中でございますけれども、活発な御議論を賜りまして、現場で質の高い多様な教育活動が創発されるような、そういった指導要領を築いてまいりたいと思います。
 簡単ではございますけれども、どうぞよろしくお願いいたしまして、私からの挨拶とさせていただきます。
【荻野教育課程課課長補佐】  議事に先立ちまして、本ワーキンググループの主査及び主査代理について御報告いたします。資料4の初等中等教育分科会教育課程部会運営規則に基づき、本ワーキンググループは、教育課程部会の決定により設置されており、主査及び主査代理につきましては、奈須正裕教育課程部会長と御相談の上、島田康行委員を主査に、石黒圭委員を主査代理にそれぞれ指名し、御就任いただいておりますので御報告いたします。
 なお、国語ワーキンググループの委員の皆様につきましては、資料6として、委員名簿を配付させていただいておりますので御覧ください。
 それでは、議事に入る前に、島田主査から御挨拶をいただきたいと思います。島田主査、よろしくお願いいたします。
【島田主査】  筑波大学の島田でございます。
 このたび、大役を仰せつかりました。先生方のお力添えにすがりながら務めてまいりたいと存じます。来年の夏までということで、大変な長丁場の議論になるかと存じます。最後まで、どうぞよろしくお願いいたします。
【荻野教育課程課課長補佐】  ありがとうございました。
 それでは、本ワーキンググループの進行は、これより島田主査にお願いいたします。
【島田主査】  よろしくお願いいたします。
 これより議事に入ります。本日は、進行資料としてお配りしております流れに基づいて議事を進めます。委員の皆様におかれましては、適宜御参照ください。
 なお、本ワーキンググループの審議等については、資料4の教育課程部会運営規則第3条に基づき、原則公開により議事を進めさせていただきますとともに、第6条に基づき、議事録を作成し、原則公開するものとして取り扱います。
 それでは、事務局より会議の留意事項を御説明願います。よろしくお願いします。
【荻野教育課程課課長補佐】  本ワーキンググループは、ウェブ会議と対面を組み合わせた形で開催をしております。御発言の際は、挙手ボタンを押していただき、ミュートを解除してから御発言をお願いいたします。また、御発言が終わりましたら、再度ミュートにしていただきますようよろしくお願いいたします。
 事務局からの説明は以上でございます。
【島田主査】  ありがとうございました。
 それでは、議題の(1)に移ります。国語ワーキンググループにおける主な検討事項について、これもまず、事務局より御説明をお願いいたします。
【髙見主任教育企画調整官】  主任教育企画調整官をしております髙見と申します。
 私のほうからは、現行の学習指導要領と今回の諮問事項、企画特別部会の論点整理の概要、本ワーキンググループにおける課題と検討事項について説明いたします。
 初めに、資料の1を御覧ください。25ページ目から28ページ目にかけまして、学習指導要領の基本的な考え方や法的な位置づけ、編成などについて、29ページ、30ページ目には、現行指導要領として改訂の大きな柱となった知識・技能の習得、思考力・判断力・表現力等の育成、学びに向かう力・人間性等の涵養といった資質・能力の明確化や、主体的・対話的で深い学びの視点からの学習課程の改善等について示しております。
 また、34ページ目になりますけれども、国語科の目標、内容の構成、35ページ目、36ページ目には、現行学習指導要領における国語の改善、37ページ目には、これまでの内容の構成と高校の科目の変遷、こういった関連の資料も示しておりますので、審議に当たっての参考として御参照いただければと存じます。
 続きまして、資料の3-2を御覧ください。昨年12月25日に文部科学大臣より中央教育審議会に対して、初等中等教育における教育課程の基準等の在り方についての諮問がなされました。この中では、この2ページ目の中にあるとおりでございますけれども、第1に、より質の高い、深い学びを実現し、分かりやすく使いやすい学習指導要領の在り方、第2に、多様な子供たちを包摂する柔軟な教育課程の在り方、第3に、これからの時代に育成すべき資質・能力等を踏まえた各教科等やその目標・内容の在り方、第4に、教育課程の実施に伴う負担への指摘に真摯に向き合うことを含む、学習指導要領の趣旨の着実な実現のための方策、こういったことを中心といたしまして、これらに関連する事項を含め、初等中等教育における教育課程の基準の在り方について幅広く検討することが、この諮問の中で求められております。
 続きまして、資料の2-1を御覧ください。先ほど説明いたしました諮問を受けまして、教育課程の枠組みに関する事項や教科横断的な事項を中心として、教育課程企画特別部会において、本年1月以降、13回にわたって集中的な審議が行われ、9月19日でございますけれども、論点整理として取りまとめられ、先週26日の教育課程部会で了承されました。論点整理の詳細につきましては、先日、事務局より委員の皆さんに関連の動画をお送りしておりますので、全体の説明は割愛させていただきますけれども、特に本ワーキンググループでの検討に当たって重要な点に絞って説明させていただきます。
 まず、初めに、5ページ目を御覧ください。次期学習指導要領に向けた検討の基盤となる考え方といたしまして、深い学びの実装、多様性の包摂、実現可能性の確保という3つの視点を一体的に具現化していくことによって、多様な子供たちの深い学びを確かなものとし、生涯にわたって主体的に学び続け、多様な他者と協働しながら、自らの人生を舵取りすることができる民主的で持続可能な社会の創り手をみんなで育むこととしております。
 6ページ目を御覧ください。各教科等で検討するイメージが、ちょうど真ん中、中ほどに示されておりますが、特に本ワーキンググループにおきましては、各教科等の欄にございますとおり、生きて働く「確かな知識」の習得、興味・関心が広がる教材・学習方法の選択を促進、自分の意見を表現する活動の充実、探究的な要素を持つ学習活動の充実、家庭学習の内容を自律的に決められるような段階的指導、こういった視点にも留意いただきながら検討を進めていただきたいと存じます。
 続いて、12ページを御覧ください。より「深い学び」を実現する授業のイメージを教師が持てるよう、前回改訂の構造化をさらに発展させ、知識・技能、思考力・判断力・表現力等の資質・能力の深みを示す縦の関係、知識・技能と思考力・判断力・表現力等の相互の関係を示す横の関係を教師がつかみ取りやすくする観点から、中核的な概念の深い理解と複雑な課題の解決の具体について、各教科等の特性を踏まえて検討していくこととされております。
 具体的なイメージといたしましては、現行の学習指導要領ベースでありますけれども、13ページ目に中学校の数学の例、14ページ目には、中学校の国語の例というのが示されております。今後、別途設けられております総則・評価特別部会での検討を踏まえまして、本ワーキンググループにおきましても、具体的な中核的な概念等に関する議論を行っていただくことになります。
 続きまして、18ページを御覧ください。今次の改訂によって新たに設けられた資質・能力の1つである学びに向かう力、人間性等につきまして、主要な要素、要素間の関係を構造化して分かりやすくする観点から、図のように、初発の思考や行動を起こす力・好奇心、学びの主体的な調整、他者との対話や協働、学びを方向づける人間性の4つの区分で内容・関係性の整理がなされております。これらの内容につきましては、各教科においても反映していくことになりますので、今後、本ワーキンググループでも御審議いただければと存じます。
 続きまして、21ページを御覧ください。見方・考え方の部分でございますけれども、従前の見方・考え方の整理につきましては、見方・考え方が資質・能力の一部と誤解される遠因となっていた、こういった指摘もあったことも踏まえまして、中核的な概念等といった資質・能力の育成を適切な方向に導くとともに、よりよい社会や幸福な人生につなげていける学びの本質的な意義として整理することとされております。なお、具体の改善イメージにつきましては、右のほうに記載がありますが、各教科を通しての全体的な方針は、別途設けられております総則・評価特別部会での今後の検討を踏まえて、本ワーキンググループにおいても議論を行っていただく予定です。
 続いて、34ページを御覧ください。義務教育段階におきまして、多様な個性や特性、背景を有する子供たちを包摂する柔軟な教育課程編成を促進するため、児童生徒や地域の実態を踏まえて、必要に応じて柔軟な教育課程を編成することができる取組を進める予定となっております。
 また、40ページを御覧いただきますと、高等学校におきましても、より多様なニーズに対応できるようにするため、柔軟な教育課程の編成が可能となる方向で検討が進められております。
 続きまして、61ページを御覧ください。現行の学習指導要領におきましては、「学習の基盤となる資質・能力」として、言語能力、情報活用能力、問題発見・解決能力が示されておりますが、学習の基盤としての資質・能力につきましては、言語能力と情報活用能力の2つに絞る方向で整理の見直しが図られるとともに、言語能力につきましては、右下のところにもございますように、現行の整理を前提としつつ、見直しが必要な部分がないか検討すべきこととされておりまして、今後、本ワーキンググループと総則・評価特別部会で連携しながら検討を進めていく必要があるという風に捉えております。
 続いて、69ページを御覧ください。これまで述べてきました学習指導要領の構造化や柔軟な教育課程を契機とした教科書につきましても、中段の改善の方向性の欄にございますとおり、中核的な概念等の獲得に資する内容への重点化や内容の精選、教科書「を」教えるから教科書「で」教える方向に改善を促すとともに、デジタル学習基盤や図書館等の有効活用も進めることとしております。
 最後に、105ページを御覧ください。今後のスケジュールといたしまして、各ワーキンググループにおきまして、論点整理の方向性や内容等を踏まえて検討を進め、遅くとも令和8年の夏頃までに取りまとめを行った上で、令和8年度中に中央教育審議会として「答申」が取りまとめられるよう検討を進めること。
 また、2ポツの本部会とワーキンググループとの関係のところにございますように、各ワーキンググループにおける審議は、本論点整理を的確に踏まえ、各教科等の固有の議論を加味、共有しつつ、さらに豊かなものとすることが極めて重要であり、各教科等や学校段階に閉じたものであってはならないこと。
 そして3つ目、その他といたしまして、情報の領域あるいは情報・技術科(仮称)の創設に伴う標準授業時数の増加につきましては、諮問で示されております年間の標準総授業時間数を現在以上に増加させないことといった方針を前提としながら、教育課程企画特別部会と総則・評価特別部会において、教育課程全体を見通した観点から検討を行いまして、令和8年の春頃を目途に一定の結論を得ることなどが示されております。
 論点整理の概要は以上となります。
 続いて、資料の1にお戻りください。ここでは今後の本ワーキンググループの論点として、事務局において事前に整理した課題と検討事項を示しております。
 初めに、2ページ目を御覧ください。まず、1ポツ、現行学習指導要領における改善事項といたしまして、2点目のところにございますとおり、相手や目的、場面に応じて、考えを分かりやすく伝える力、他者と協働して考えを深める力、文章を読んで自分の考えをもつ力、情報を的確に捉え批判的に吟味する力、言語文化を継承・発展させる態度を育むための見直しが行われました。
 また、3点目にあるとおりでございますけれども、各領域における系統的指導を進め、学習過程を明確にすることで資質・能力の確実な育成を図るとともに、高等学校では、こうした資質・能力の育成を一層確かなものとするため、科目構成の見直しを行っております。
 続いて、右上、2ポツのこれまでの成果等を御覧ください。学習指導要領の改訂の成果といたしまして、1点目に掲げるような改善が図られてきている一方で、2点目に掲げるとおり、国内外の各種調査で課題が見受けられるとともに、3点目のように、情報・メディア環境の変化も踏まえ、言葉を手がかりに自分の考えを深め、他者と協働してよりよい社会や文化を創造していくための資質・能力を育成していくことの必要性が高まっております。
 なお、2点目の各種調査の課題につきましては、同じ資料の10ページ目から12ページ目にかけて、関連のデータを添付しておりますので、併せて御参照いただければと存じます。
 続いて、3ページ目を御覧ください。ここでは学習内容の課題を示しております。まず、3の(1)にあるとおり、短文中心のSNSなどに日常的に接する中で、まとまりのある思考を深めたり、表現を工夫したりする経験が不足していること、適切な言葉を用いたり読書習慣の定着に課題があること、基盤となる語彙指導の充実を図っていく必要があることなど、言葉で思考を整理したり深めたりすることに課題があると捉えております。
 また、(2)にあるとおり、話したり聞いたりして考えを整理すること、思いや考えが相手に伝わるように表現すること、対話による合意形成や相互理解を図ることなど、目的や場面に応じたコミュニケーションに課題があるといったことも掲げております。
 続いて、(3)にございますとおり、目的に応じて文章を読み、自分の考えをもつこと、多様な情報や意見の妥当性・信頼性を確かめることなどにも課題があるとともに、(4)に掲げるとおり、我が国の言語文化を継承・発展させる態度の形成にも課題があると捉えております。
 これらの背景データにつきましては、14ページから19ページに関連のデータをまとめておりますので、また、併せて御覧いただければと存じます。
 そして、3ページ目にお戻りいただければと存じますが、4ポツ、指導のあり方、指導体制・環境面に関する課題といたしまして、各教科における「教科書等を読み解く力」の育成が不十分になっているとの指摘があること、デジタルツールを生かした学習指導を発展させる必要があること、小中学校から大学や社会への接続を見通して、高等学校段階における科目の在り方を再検討する必要があることなどを掲げております。
 4ページ目を御覧ください。ここでは本ワーキンググループの検討事項の案を掲げております。
 まず、1ポツ、教育課程企画特別部会の議論を踏まえた検討事項です。先ほどの論点整理に沿った論点となります。
 まず、(1)国語科を通じて育成する資質・能力の在り方・示し方として、「学びに向かう力・人間性等」や「見方・考え方」の新しい整理を踏まえた目標の見直し、中核的な概念等に基づく内容の一層の構造化や必要に応じた精選、表形式を活用した目標・内容の分かりやすい表現への見直し。
 (2)国語科の指導と評価の改善・充実の在り方といたしまして、国語科における「主体的・対話的で深い学び」の一層の充実を図るための方策の具体化、国語科の評価の見直し。
 (3)にございますように、誰一人取り残さず資質・能力を育成する柔軟な教育課程の在り方といたしまして、義務、高校、それぞれの柔軟化の仕組みを踏まえた教育課程・学習指導の工夫、課題やそれを防ぐための運用方策の検討。
 また、(4)言語能力や情報活用能力などの学習の基盤となる資質・能力の在り方といたしまして、国語科の特質を踏まえた言語能力の育成とカリキュラム・マネジメントにおける国語科の役割などについて掲げております。
 5ページ目を御覧ください。ここからは2ポツで示しているように、国語科に関する課題を踏まえた固有の検討事項を掲げております。この中では(1)小中高等学校の系統性の整理に関する検討の方向性といたしまして、各領域の学習課程の再整理、発達段階に応じて扱う話や文章の種類の系統性の再整理、各科目の内容等の再整理を論点として掲げつつ、あくまでも一例でございますが、今後の検討に当たっての検討の方向性の例を網かけ部分に記載させていただいているところでございます。
 続いて、6ページ目を御覧ください。(2)学習内容に関する課題を踏まえた検討の方向性を示しておりますが、ここでは、1の国語科としての育成が求められる資質・能力の在り方といたしまして、人生を豊かにする語彙の獲得・読書習慣、主体的な社会参画のためのコミュニケーション能力、社会生活の質を高めるための文書理解・活用能力、デジタル・情報社会で氾濫する誤情報に対応できる能力、我が国の伝統や文化が育んできた言語文化を継承・発展させる態度などの育成を掲げた上で、これらの資質・能力を育成するための指導の在り方といたしまして、2に掲げるとおり、アの言葉で思考を整理したり深めたりすることといたしまして、語彙を豊かにする学習や適した語句を選んで表現する学習の充実、読書への興味を高めたり、意義・効用を実感する学習の充実、様々な情報を整理して考えをまとめたり深めたりする学習の充実を検討の方向性の例として掲げております。
 7ページ目を御覧ください。続いて、イの目的や場面に応じたコミュニケーションといたしまして、目標や場面に応じて論点を整理した上で考えをまとめる学習の充実、伝えたいことを明確にして文章を整える学習の充実、ウの目的に応じた文章理解、情報の評価・熟考といたしまして、文章を読み深め、根拠に基づいて考え表現する学習の充実、複数の情報を参照しながら妥当性を確認する学習の充実、エの我が国の言語文化を継承・発展させる態度といたしまして、小中高等学校を通じた系統的な接続、近年の文字文化の変化に応じた効果的な学習の充実を検討の方向性として掲げております。
 最後に、(3)その他といたしまして、デジタル学習基盤を支える文字入力の扱いとして、小学校低学年での学習の一部にローマ字入力を取り入れることなどを検討事項の例示として、ここでは示しているところでございます。
 資料の説明は以上となりますが、これらはいずれも議論を円滑に進めていただくに当たっての事務局のたたき台でございますので、記載の内容にかかわらず、より広範かつ深い視点から様々な御意見をいただければ幸いです。
 私からの説明は以上でございます。
【島田主査】  どうもありがとうございました。
 要点を簡潔にまとめていただいたとはいえ、初回から非常に盛りだくさんな内容で、我々もキャッチアップしていくのが大変です。本日は、第1回目の会議ということで、委員の先生方の初めての顔合わせでもありますので、最初に本日は、委員の皆様お一人ずつから、今後、特に検討を進めるべきとお考えになる事項等について御発言をいただきたいと思います。基本的には、名簿順に私から御指名させていただきたいと存じます。本日は、お一人5分以内での御発言をお願いできればと思います。今後、特に検討を進めるべきとお考えになる事項等について、御自由にお話しいただければと思います。よろしいでしょうか。
 それでは、まず、石井委員より御発言をお願いいたします。
【石井委員】  京都大学の石井と申します。よろしくお願いします。
 私は、企画特別部会のほうにも所属しておりまして、それで、今回、この国語のほうにも関わらせていただくことになりました。学校教育、カリキュラムとか授業とか評価の研究ということで、いろいろな学校の授業等を見ていて、それで国語の授業等は、素人ながらいろいろと、教科の専門の方であるとか教科教育の方には、その辺は及ばないところでありますが、場数は踏んできているところかなと思います。
 ですから、そういった観点から、今、現場の状況も踏まえながら、それでカリキュラムの在り方をどういうふうに考えていけばいいのかというところを中心的に発言等させていただくことになろうかと思います。
 まず、今回、国語科ということで申しますと、改めて、今、学力であるとか、そういったこともそうですが、中核にあるのは言葉の力というところなんです。しんどい学校さんに関わらせていただくと、どこから改革に着手かというと、やっぱり国語や言葉の力が核になると。なぜなら言葉というのは、これはコミュニケーションとか情報伝達の手段であるだけではなくて思考そのものでありますし、さらに言うと、この言葉というのは、トーンでもって文化をつくるというところなんです。ですから、まさに、言葉の学習ということは、学校の言語生活をどのように構想するかということにも繋がる話かなと思っています。
 特に、今、人間らしさというのはロゴス、言葉や論理ということで特徴づけられてきたのが、生成系AIの出現によって、それが揺れていると。改めて、今、求められる言葉の力とは何なのかということが問われているかと思うんです。
 それで言うと、今回のこの議論においては、改めて、読む、書く、話す、聞く、これがどういうことなのかということを再検討する必要があるのかなと思っています。まさにリテラシーとは何かが問われているということかと思うんです。ですから、まさにデジタルテキストも含めて複数の様々な種類のメディアとか、画像とか動画もそうですが、それも文法があるわけです。これはメディアリテラシーが教えるところでもありますけれども、そういったところで、まさに読み解くとはどういうことなのか、そういった新たな広い意味での言葉の力といいますか、そこが問われてくるのかなと思います。そこを対象にしながら考えていく。
 可能性を広げていくことはあるわけです。様々なデータとか媒体を使うということは。しかし、一方において、読む、書く、話す、聞く、この原点が揺れていないかということが、この間、実際に子供たちの様子の中にも表れてきているのではないかと。読むということが字面をなぞる、画面の画像なぞることに。あるいは書くことは、コピペすることに。それから話す、聞くことは、発信する、「いいね」するみたいな形になっていないか。だから、読むとはどういうことなのか。それこそ1つ1つの言葉にこだわりながら読み解いていけているのかどうか。さらに言うと、書くということは、やっぱりつづるということなんです。その書字ということの意味も含めてどう考えるか。さらに言うと、話す、聞くということに関しましても、基本的にはデジタル空間上のSNS等のメディアの言葉の経験というのは、かなり一方通行的なところがある。さらにそれに感情的に反応しがちということで言いますと、まさに語るであるとか、物語る、さらに言うと、聴き届ける。それが対話の基礎だと思うんです。そこが揺れてくると、結局、民主主義の基盤となるような合意形成、これが危うくなってくる。
 ですから、改めて、読み、書く、話す、聞く、それこそ世界を読み解く、対話する、こういったことの意味を改めて再確認して、そこで必要な言葉の力とは何ぞやということを検討していくことが大事なのかと思います。
 ですから、基盤となる資質・能力ということも関係しますけれども、やっぱり情報活用能力に解消されない言葉の力とは何なのかというところです。そこを考えていくことになろうかと思いますし、まさに、先ほども申しましたように、日常の言語活動、言語生活、それらはこれこそ国語科においての学びが生かされる舞台そのものであろうということです。
 そこで言葉の経験の意味ということとか、言語生活ということを改めて考えていくということがあろうかと思います。その上で、この中核的な概念云々ということは一体何かということで申しますと、先ほど数学の例がありましたが、それは非常に分かりやすいんです。一次関数、二次関数、指数関数というのは、これは特殊であり、特殊と一般の関係で言いますと、それは全部関数なんです。だから、よりメタな桁の目標・内容、そうした大きな目標になるから、ビックアイデアと言うわけですけれども、そうしたメタで一般的な目標・内容に注目すると、実はいろいろな内容が縦につながって見える。スパイラルカリキュラムの発想です。それが見やすくなって系統性が担保しやすくなるということもそうですし、個別の一次関数、二次関数とかというトピックに焦点化した授業だと、それに関わる思考は、単に適用するとか、問いと答えの間もそんなにダイナミックではないと。しかし、関数、関数的な見方を学ぶ授業となりますと、複数の関数を統合しながら思考するということで、まさに複雑な問題解決、そういう統合的な思考を導きやすくなるということかと思います。
 ですから、それで申しますと、国語科は、この間、PISAショック以降、テキスト自体を読むだけではなくて、テキストを手段にして考えたりとか様々に対話するという形で、より複合的な言語活動とか言語生活に繋がるようなものが展開されていると思うんですけれども、複雑な問題解決や統合的な思考という観点からしますと、これまで以上にそういった総合的な言語活動といったものを重視するということに繋がるような内容の構造化が大事になってくるんじゃないか。
 ですから、縦で見るということで言うと、中核が何なのかがわかりやすくすること。さらに言うと、ダイナミックな学びの実現というふうなこともあるわけですけれども、そのとき、大きくは内容系と技系みたいな形で教科の特徴を分けていることからしますと、体育で言えば、バスケで言えば、ドリブルとかシュートの練習がうまいからといって試合でうまくプレーできるとは限らない。ドリルとゲームは違います。技系の教科ではこのドリルとゲームの区別と関係が重要になる。それで言うと、英語科では文法とかちょっとしたイデオムとか、ちょっとフレーズとか、そういうふうなものはドリル。それに対して実際に試合することに相当する生きた言語活動みたいなものをもっとやりながら、その中で文法等を吸い上げていく。こういう学習が重要だろうということになるわけです。国語においても、まさに、読み、書く、話す、聞く、言わば総合的な言語活動といったものがあって、その中で国語科の知識・技能として、視点あるいは読解とかの方略、そういったものが付随的に自覚的に学ばれていくという形が学習のプロセスとしてあろうかと思います。
 ですから、中核的な概念って言葉にあまりこだわり過ぎず、改めて、読みの方略であるとか、あるいは読むときの視点、そういったものがより明確になって、構造的に読めるということが重要なんだろうと思うんです。
 これまでも大分整理されていると思うんですが、そこをより系統立てた形でトータルな言語活動との関係において整理していく。この辺が、実はこの中核的な概念を軸にした構造化の話かと思います。
 ですから、教科の特性はありますけれども、基本的にはそういう形で考えていただきますと、恐らく、この技系の教科においても割とイメージがつくのではないかということです。
 それは何も新しいことではなく、内容の系統表において、もともと解説のほうにあったものでありますので、そこがより明確に肉づけされていくということが重要かと思います。
 最後になりますが、それによって目指すところについて、それは、この間、学校現場を見ておりますと、国語科は、読解主義を超えるのはいいんですけれども、活動が行き過ぎてしまって活動ベースになり過ぎじゃないかと。その中で各単元ごとに活動ベースになって、逆に素材研究もなくなってしまっている。それで読むという経験が非常に空洞化していないかということです。先生自身が、「ごんぎつね」だったら「ごんぎつね」を読む、読み深めるということがないところで、読み深めるということを子供たちが経験することは難しいんです。逆に言うと、学習指導要領にあるような、言語事項であるとか方略に相当するものであるとか、目標・内容といったものを踏まえて読むと、先生自身もよく読めた、ということがあって初めて子供たちと一緒に読めるんだと思います。
 そういうことで言いますと、やっぱり読むということ、読解もそうですが、そういったところ、一番原点のところが空洞化しないように、さらに言うと、物事を深く読み解くということで言えば、読み深めるという経験を確かなものにしていくということが今、改めて求められているのではないかと思います。
 長くなりましたが、以上です。
【島田主査】  石井委員、どうもありがとうございました。この会議の議論は、当然、企画特別部会の議論を踏まえて進めていくことになろうかと思います。ただいまは部会の議論の中身に関することをまとめてお話しいただけたと思います。どうもありがとうございました。次回以降も引き続きよろしくお願いいたします。
 続きまして、石黒主査代理、御発言をお願いいたします。
【石黒主査代理】  国立国語研究所の石黒と申します。よろしくお願いいたします。
 私の専門は日本語教育で、一橋大学で、海外から来る留学生に対する教育を16年やっておりまして、その後、今、現職の国立国語研究所で日本語教育の研究を10年続けてきたという人間です。つまり、日本語を外国語として外から見るということをしてきたということになります。特に専門的なことで言いますと、文章理解、読解と文章を書くこと、作文ということになります。もちろん、語彙とか文法にも興味を持って研究をしています。
 もともと日本語教育の者なんですけれども、国語教育との出会いということを考えると、数年前、東京都の教育委員会の学びの基盤というプロジェクトに参加させていただいたということが貴重な経験です。学びの基盤プロジェクト自体は、いわゆる進路多様校、つまり、そのまま大学に上がるわけではない、社会に出て行く子たちも多いような、そういう進路多様校の高校生の子供たちの読み書きのことについていろいろ調べてみて、その応援もしてきたわけですけれども、そこで結構ショックを受けたのが、作文を書ける子と書けない子に大きな開きがあるということです。書けない子ですと、小学校の学年配当の漢字の読み書きでさえ苦労してしまうという現実があります。いろいろその中で、やっぱり学力差というのは非常に大きな問題としてあり、また、学習障害を抱えている子もおり、また、私の日本語教育とも関係しますけれども、海外から日本語を母語としないで、でも日本の学校の中で教育を受けている子供たち、そういうような様々な問題があるということを感じました。
 特に今回は、多様な子供たちを包摂する柔軟な教育課程というところが焦点化されていますけれども、まさにそういう、1つ1つ段階を追って、日本語という、国語という言葉を積み重ねて習得していくということが大事だなと感じました。
 よく国語教育が全ての学力の基盤であるという言われ方をされますけれども、何かこの生成AIの時代になって、まさにそれが一層、心を打つような気がします。つまり、生成AIが出てくると、人間の言語能力って衰退していくのかなとちょっと思ったときもあったんですけれども、実はそれは反対で、生成AI時代だからこそ、言語能力が一層求められて、具体的には問いをつくる力、言語化する力というのが強く求められていると思います。また、その生成AIが作り出したものに対しても、私たちは情報リテラシーを持って、きちんと吟味して、自己の責任において発信していくということで、今まで以上に言語力というのが問われる時代だなと。これからの日本の子供たち、また、日本というこの国の未来を考えるときに、言葉というものの力ということが大事であるということを改めてこの時代に感じておりますし、責任を重く受け止めているということになります。
 どうぞよろしくお願いいたします。
【島田主査】  石黒主査代理、どうもありがとうございました。石黒先生には主査代理として、いろいろと助けていただきながら今後進めてまいりたいと思います。引き続きよろしくお願いいたします。
 続きまして、犬塚委員、御発言をお願いいたします。
【犬塚委員】  東京学芸大学の犬塚美輪と申します。どうぞよろしくお願いします。
 私自身の専門としましては、心理学、特に認知心理学が専門です。中でも理解する、学習内容を理解することとか、読むことを中心に認知プロセスがどんなふうになっているのかといった知見、その知見を踏まえて、どのような指導をすると、より子供たちが読んで分かるということが助けられるかなということを中核に置いた研究活動、それから教育実践への関与というのをしてまいりました。
 私自身、学校の教員として現職で勤めた経験というのはないんですけれども、ここ数年は、常に複数の小学校にお伺いをして、年間通して研究授業に参加するというようなことをずっとしております。その中でもやはり、読むこと、私のところにお話を持ってきてくださるのは、読むことに課題を感じていらっしゃる学校なので、当然と言えば当然なんですが、読むことに関して様々な課題を意識していらっしゃる学校というのがたくさんあります。
 今日の論点整理を踏まえてお話をしますと、特にワーキンググループにおける検討事項の論点の3、それから4に関わるところに、私としては、いろいろ貢献していけるように頑張りたいなと思っているところです。
 既に石井委員それから石黒委員からの御指摘がありましたので、多少重複はしますけれども、この論点、検討課題というのを解決していくに当たっては、私自身は、方略というふうに呼びますが、何かを達成するために実行する活動とか思考のことを心理学では方略というふうに呼んでいますが、その方略をどのように明示的に指導していくかということが重要なのではないかなと考えています。
 基本的に指導要領の中では、ほにゃららができることというふうに、何かができるということが資質・能力とかの形で提示されるんですけれども、では、それができるようになるためには何をしたらよいかということ、これを明示的に教えるということが、特に読むということの中では、なかなか難しいと捉えられがちであるという印象を持っています。カリキュラムの中で、それをどのように位置づけるかというのは、私自身、まだ勉強中というところもあるんですが、そういった方向性を見据えて、よりよい形の指導要領ということに貢献していきたいと思っています。
 方略を明示的に教えるということの重要性については、教育心理学では、1980年代ぐらいから、かなりの経験、研究の蓄積というのがあります。けれども、それが十分に日本の国語教育の在り方であるとか、文脈、特色を踏まえて有機的に統合されているかというと、そこはまだまだ課題が多いのではないか、ここがやりがいのあるところなのではないかなとも思います。
 明示的に指導するというふうにいいますと、何かちょっと教え込むような印象とか、今の時代にそぐわないのではないか、先生の負担が大きいのではないかと思われる向きももしかするとおありかなと思うんですけれども、先ほど来、御指摘のありました多様性とか、学力格差の広がりということを踏まえますと、特に課題の大きい児童生徒にとって、どうすればいいのか、どこから手をつけたらいいのかということが教えられるということは大変重要な意味があります。研究知見を紐解いてみましても、特に読みのアンダーアチーバーであるとか、書くことのアンダーアチーバーに対して、方略の明示的な指導というのが効果を上げているんだということが様々分かってきています。そういったことがうまく生かされるといいなと思っています。
 それで、そういうことをすると先生が大変なんじゃないかという御意見もおありかと思うんですけれども、そこをむしろ意識的に明示することが、先生を助けるような、その先の子供たちの探究活動であるとか、自立を助ける、それによって先生たちも少し楽になっていく、そういうような方向での改革ができていくと理想的なのではないかなと考えています。
 これから私も勉強しながらですけれども、やっていきたいと思いますので、引き続きよろしくお願いします。
【島田主査】  どうもありがとうございました。私などが普段なかなか思いつかないようなところからの御指摘をいただいたかと思います。先生の御知見が生かせるように議論を進めてまいりたいと思います。引き続きどうぞよろしくお願いいたします。
 続きまして、井上委員より御発言をお願いいたします。
【井上委員】  皆さん、初めまして。灘中学校・高等学校の井上志音でございます。
 委員の中で教諭は私だけのようですけれども、私に課された役目の1つは、このワーキンググループと現場をつなぐことにあると考えております。自身の勤務校を一般化するつもりは毛頭ございませんけれども、このワーキンググループでの議論の中では、現場の一教員として意見を発信してまいりたいと考えております。
 本日は、私の現在の問題意識や関心事を3点ほど挙げさせていただきます。1点目は、中核的な概念による学習内容の構造化についてです。私は、長らく国際バカロレア教育が採用している概念型カリキュラムを一般の一条校でどの程度実装できるかという問題意識を持って授業実践を行ってまいりました。IBは、前期中等教育までに所定の概念についての理解を深め、後期中等教育課程では、習得した概念理解を基盤としながら、生徒個々人が各テーマについて深く探究していくというプログラムが敷かれております。ここで概念と一言でいいましても、中には、例えば文化やグローバルといったように、社会のありようや実態をまとめて言い表したものもあれば、一方で、論理や妥当性のように、個別具体的な知識や情報を吟味するために用いられるものもあります。その意味でIBにおける概念は、教科学習の目標でもあり、手段でもあるわけです。
 このたびの論点整理で提示された中核的な概念の深い理解、複雑な課題の解決というところの概念とは、果たして目標としての概念なのか、それとも言語リテラシーを育む手段としての概念なのか、あるいは両方なのか、こういった定義の問題は、言語能力、情報活用能力という枠組みの中で、今後議論が必要になろうかと存じます。また、中核的概念の理解と探究への活用を同時並行的に行っていくのか。あるいは、小中高という校種の連続性の中で構造化していくのか。そのようなことも大きな論点になると思います。
 次に、授業改善についてです。現行の指導要領では、アクティブ・ラーニングの視点、学習評価の充実、カリマネの充実といったように、授業変革を謳っておりますが、授業変革を目指すという意味では、次の学習指導要領でも変わらないものと認識しております。
 論点整理においても、教科書「を」教えるから教科書「で」教えるというような言葉もございましたけれども、実際の国語科教育では、言うまでもなく、教科書「を」と教科書「で」というものは、二項対立的なものではなくて、表裏一体のものです。深い学びを実装していく折には、一人一人の教員が培ってきた教科書「を」の教育方法や実践知を基にしながら、個々の専門性を生かして、無理なく概念を踏まえた授業づくりをしていけるような体制をつくっていく必要があると考えています。そのためには、国語科の内容・目標を策定する上でも、各教員が自由裁量を発揮して何かをつくっていくような余地や余白のようなものが必要になってくると考えております。
 最後に、多様性の包摂についてです。私も日々、1クラス四、五十人が集う教室で集団授業をしております。いずれも特異な能力を持つ生徒ばかりです。勤務校は、中高6年間の持ち上がり制を採用しており、1人で現代文、古文、漢文の指導をしておりますけれども、1人で6年スパンのカリキュラムを組み、学年全員を継続的に担当できる環境にあったとしても、個に寄り添った授業というのは容易ではありません。授業とは、教員が学習者の課題を基に構築していくものです。最終的には、それぞれの課題を生徒個々人が自分の力で解決できるように、教員として促していくわけですけれども、そこで言う課題というものは、本来、生徒の人数分だけ存在するわけです。教授者は1人、でも課題は生徒の人数分だけある。それでも集団授業を行っていかなければならない。では、何を目標に据えて授業をつくっていけばよいのか。こうしたジレンマを抱えながら、それでも個別最適や多様性という理念の下、限られた人員、許された時間、与えられた権限下で授業を行っているというのが現場の実情です。多様性の包摂や深い学習といったものが現場にとって過度な負担増と受け止められないような配慮も必要になってくると考えています。
 以上、今後ワーキンググループでは、こうした課題についても、皆さんと熱い議論を交わせることを楽しみにしています。どうぞよろしくお願いします。
【島田主査】  井上先生、どうもありがとうございました。国際バカロレア(IB)のプログラムの優位性といったところは、私も注目するところであります。先生の御知見もぜひ、今後の議論に生かしていただければと思います。引き続きどうぞよろしくお願いいたします。
 続きまして、植木委員、御発言をお願いいたします。
【植木委員】  同志社大学の植木と申します。
 初等中等教育とか国語科について専門の知見を持っているわけではなく恐縮に存じますけれども、私は、大学で中世文学を教えており、その立場から、特に2点の危惧を持っております。
 1点目は、中学生・高校生の古典離れが進んでいること、また、高校の必修に古典は必要ないという流れが出てきていることです。その主な理由は、高校生にはもっとほかに役に立つ、学ぶべきことがある、古典教育は、年功序列や男女差別などを擦り込むツールになっている、国際競争に必要な世界標準の知識ではなくて無駄だといったようなものです。これらについて反論することは十分可能と思っていますけれども、このような流れがあることを重く受け止めなければならないとも感じています。
 このワーキンググループでも議論になるところと思いますけれども、今の高校の必修科目の言語文化においても、古典をどのように取り扱っていくのか。安易に負担を減らす、簡易化するとならないように、私自身も先生方に御教示いただきながら考えていきたいと存じます。
 もう1点は、大学生を指導していて、先生方もお感じになっていると思いますけれども、論理的な文章の執筆に課題があるということです。私の所属では、卒業論文が必修で、毎年、学生の論文を指導しますけれども、根拠と結論がかみ合っていないことがまま見られます。本人は、AだからBと言っているんですけれども、AはBの根拠に全くなっていないということがあり、説明すると理解するんですが、指摘するまで全く気づいていないというような点は心配に思います。
 さらに、先ほど来、御指摘がありますように、生成AIが登場して安易な使用が加わり、事前指導や提出後の口頭試問がないレポートや論文による評価は難しくなってきました。課題を出すときは、AIが分からないような、何月何日の授業の結論とか、この授業で扱った具体例を幾つ以上挙げてとか、細かい指示をするんですけれども、学生はそれでも使ってきます。この世に存在しないような、和歌のような詩のような変なものが挙げられていて、この用例から、これこれが分かるというようなことが書かれたものを平気で出してくる。今のところ、まだAIを使っただろうとこちらが分かるので、個別にしつこく質問したりすると、最後は、AIを使いましたと言うわけなんですけれども、このAIの能力や精度が上がれば、見抜くのも難しくなるかもしれません。これは国語に限らず、教育現場全般に関わるメディアリテラシーの問題で、先ほど石井先生も石黒先生もおっしゃっていましたけれども、特に読書感想文等、国語の授業で扱ってきた文章を書くということに対する生成AIの影響をどういうふうに考えて、学習指導においてどうしていくか大きな課題だと思います。
 最後に、これは国語に限らないことで、中高に限らず大学でもなんですけれども、先ほど井上先生もおっしゃっていましたけれども、現在、学習者本位、個別対応の教育が求められています。多様な生徒、学生がいる中で、きめ細やかな教育はもちろん必要なことで、合理的配慮も行っていかなければなりませんけれども、御承知のとおり先生方の負担の増大というのは相当なものです。このワーキンググループは、ひとまずは理想的な教育の在り方を考えていくところだとは思うんですけれども、理想を述べて、あとは現場でというのではなく、実現可能性を十分考えなければならない。事務局からの課題整理のところにもありましたけれども、実現可能性を十分考えて、提案をしていくべきかなということを改めて思います。先ほどの犬塚先生のお話は、その点で非常に示唆に富むもので、ありがたく存じました。
 これまでの御発言と重複することが多くて恐縮でしたけれども、私自身、いろいろ勉強して考えていきたいと思います。どうぞよろしくお願いいたします。
【島田主査】  植木先生、どうもありがとうございました。古典を含めた文学の指導、国語の中では非常に大切なものであるということは、もう自明かと思います。ぜひ、先生のお力をお借りして、今回の議論も進めていきたいと思います。よろしくお願いいたします。また、大学生に対する文章指導では、私も日頃から頭を悩ませている者の一人です。先生のお話に共感するというような場面もたくさんあります。そういったところでもまたお話しできればと思います。引き続きどうぞよろしくお願いいたします。
 引き続きまして、それでは、児玉委員、御発言お願いいたします。
【児玉委員】  皆さん、こんにちは。宮城教育大学の児玉と申します。
 前回の国語ワーキングに引き続きまして、2回目、参画させていただくことになりました。どうぞよろしくお願いいたします。
 もともと高等学校の教員をしておりまして、10年ほどやっておりまして、その後、20年ほど、教員養成の仕事と国語科の授業づくりに関して、いろいろな小中高の先生方のサポートをしてまいりました。そのような経験や立場から、今回もいい議論ができたらなと思っております。
 今回のお話をいただいて、資料も頂いたときに、一番やっぱり、まず目に留まったのは、分かりやすく使いやすい学習指導要領という言葉でした。現場の先生たちが指導要領を踏まえながら授業をつくっておられるときに、いろいろな悩みといいましょうか、つまずきのようなものがございます。今回、それをどのようにクリアして、よりよい学習指導要領にしていくかということ、そこに大変、私自身、興味があるんですが、具体的に申しますと、例えば今回の資料の1の5ページに、国語ワーキングにおける検討事項・論点の2というのがありまして、そこの中の国語科に関する課題を踏まえた固有の検討事項で、小中高等学校の系統性の整理という、このことが述べられているわけなんですけれども、ここのところは非常に大事だなと思っています。
 具体的には、例えば資料の2-1のほうに今度ちょっと飛んでいただきますと、論点整理の資料なんですが、14ページに、学習指導要領の構造化・表形式化のイメージとして、国語科、中学校国語の読むことの例が示されています。あれ、非常に私、目に留まりまして、1つは、これまでの学習指導要領だと、指導事項というのは学年別に小分けにされているんです。それが今回は、学年を横断して示している部分がございました。国語科の学力というのは、母語学習ということもありまして、そう簡単に右肩上がりに系統的・段階的に進まないんです。らせん的・反復的に進むとも言われています。こういったことに、この指導要領の案は、イメージは対応できるのではないかという期待をさせていただきました。
 もう一つは、この表形式イメージの中核的な概念というところに、これまでの知識及び技能にはなかった論理の構成の仕方というのが新しく入っているように見えるんですけれども、これを私から見ますと、これまでは3領域の中に小分けに分散されていたようなものなんです。それが、ここの中核的な概念、これは方略のほうがいいような気もするんですが、そこにぎゅっと示されることによって、理解や表現の領域を関連させやすくなっているんです。どうしても、その3領域にあった今までというのは小分けになっていて、その中で指導と評価が完結しちゃうという面がありまして、それは現場の先生、ちょっと授業をつくりにくいという面があったんですが、そういうところがクリアされるかもしれない。ただ、ここの設定をどうするかというところは大変悩ましいような気もするんですが、ここは皆さんで知恵を絞って、よりよいものをできたらいいなと思いました。
 あともう一つは、これで最後にします。資料の1の、先ほど言った検討事項・論点の2のところなんですが、こんな言葉が出てくるんです。発達段階に応じて扱う話や文章の種類の系統性の再整理という言い方が出てくるんです。この中で、特に文章の種類という言葉に私、目が留まりまして、現行であれば、言語活動例と呼ばれるところに文種ごとの整理がなされているんですが、それと、その上に書いてある指導事項が必ずしもうまく対応していないという面が実はありました。こういう問題を、何とか今度は文種ごとにもっと具体的に指導事項をつくっていくということが可能なんじゃないかなという。こういう辺りも、言語活動例と指導事項というのは、活動を通して資質・能力をつけると言っている割に、案外うまくいっていないところというふうに私なんかは見えたので、そういった面からもここは大変期待しているところであります。
 以上、細かいことはいろいろあるんですけれども、まず、目についた3点ほど、気づきを申し上げました。よりよい学習指導要領になりますように、皆さんと一緒にさせていただけたらと思います。どうぞよろしくお願いいたします。
【島田主査】  児玉先生、どうもありがとうございました。学習指導要領の構造化、あるいは示し方といったところは、新しくなったなという印象を大きく与えることになるかもしれないと思います。ぜひ、よいものができるように進めていきたいと思います。先生、どうぞよろしくお願いいたします。
 続きまして、小松委員、御発言をお願いいたします。
【小松委員】  小松孝至と申します。大阪教育大学の教員をしております。また、大阪教育大学附属幼稚園の園長も兼任をしております。
 私の専門は心理学でございます。特に教育心理学ですとか発達心理学という領域になります。幾つかの研究テーマを持っておりますけれども、幼児期から児童期にかけての子供たちの発達というのが主な専門でございます。また、大学のほうでも、そうした観点から教員養成のほうに関わっております。そういうわけで、私、国語科教育の専門家ですとか、あるいは日本語の専門家というわけではございません。
 本ワーキンググループに関わりまして、そうした自分の立場とか専門性がどのように関連するかということについては、個人的には、次のようなことになるかなと思っております。
 少し専門といいますか研究のお話をさせていただきますけれども、先ほど幼児期や児童期の発達と申しましたが、具体的に、これまでどんなことを研究しているかと申しますと、例えば幼稚園とか保育所から帰ってきた子供とお母さんが、保育の中で子供が経験したことについて、どんな話をしているのかというのをずっと継続的に録音して、御提供いただいて、それを一生懸命書き起こして、内容を分析するようなことを例えばいたしました。
 そういう分析をしますのは、例えば語彙の獲得とか文法というような観点では必ずしもございません。そういう言葉の発達ももちろん、とても重要なんですけれども、私の関心というのは、むしろ子供の自己、セルフです。自己です。が、こういう会話をする、活動の中でどんなふうに立ち表れてくるのかというようなことを、そういう会話のやり取りの中からずっと考えるというような研究を例えばいたしました。
 それから、また、同様に、自己、セルフへの関心を基にしまして、小学校で先生方が指導される日記ですとか作文、子供たちが自分の経験を書いた内容というのを多数御提供いただきまして、分析する研究というのもいたしました。
 それから6年生の国語の授業を継続的に見せてくださる先生のところで、テキストを読んでいく中で、じゃあ自己というのはどこに表れるのかみたいなことを試みに分析したこともございます。授業と自己というのは、なかなかすぐにすっと結びつくようなことではないわけですけれども、そんなことも考えてまいりました。
 ということで、一言でまとめますと、言葉によるコミュニケーションから、子供たちの自分づくりのようなものを考えるというのが、私の主な専門性ということになるかと思います。
 このようなアプローチというのは、本ワーキンググループにおいて、最も中核といいますよりは、発展的といいますか、周辺的といいますか、そういう部分にもなるかもしれないと感じますけれども、そういうことも踏まえまして、先ほど、最初に申しましたように、現在、附属幼稚園長という立場で、現場の先生方ですとか、あるいは子供たちにも関わる仕事をしておりますので、幼児期の教育、あるいは、幼児期の子供たちの生活と児童期以降の教育のつながりについて考える、また、そこからさらに人の生涯にわたる発達とか自己形成というようなことにも思いを広げながら議論に参加させていただけたらと思っております。
 短いですけれども、以上でございます。どうかよろしくお願いいたします。
【島田主査】  小松先生、どうもありがとうございました。大変興味深い御研究の話も聞かせていただきまして、ありがとうございました。今後の先生の御知見によって、この会の議論も立体的なものになっていくのではないかと期待しております。どうぞよろしくお願いいたします。
 それでは、続きまして、竹内委員、御発言をお願いいたします。
【竹内委員】  竹内明日香と申します。名簿上も1人だけ三行にまたがっておりまして、申し訳ありません。異色枠ということで、多分、この場の議論を和ませる役回りで入れていただいたものと推察申し上げます。
 私は、金融の仕事が長うございまして、また、社外取締役としましても産業界との接点を持っております。その中で、話す力というものが、本邦にとってのアキレス腱だという思いを強くしまして、この11年、社団をつくりまして、スタッフたちと全国を文字どおり駆け回って、延べ7万人の先生方、児童、生徒、学生へと研修や授業を届けてまいりました。ここ2日間ですと、例えば国立大学の附属や、今日の3時半まで大学で授業をしておったりいたします。ですので、それらを通じて教室の空気感、先生方、管理職のお悩み、肌で感じてまいりました。また、プライベートでは3児の母でございまして、公立小学校のPTA会長を務めた経験もございます。従いまして、産業界、教育現場、保護者、3つの視点から、今般関わってまいりたいと存じます。
 さて、本ワーキングでは、国語の「話す・聞く」とりわけ話す力を体系的に再整理をし、教室で確実に育まれる形をつくることに尽力したいと考えております。
 昨今、世界では権威的な力が台頭し、国内でも、左右極端な言説が耳目を集めて、社会の分断が学びにも影を落としていると感じます。また、世界の競争の重心が、物作りだけではなく、無形の価値を束ねて、それを提案するような力にも存するようになったと理解しております。
 そのような時代だからこそ、「自らの人生を舵取りする力、民主的で持続可能な社会の創り手を育む」という今回の新しい目標に沿いまして、対話と合意形成に耐える言語能力を核に据えたい、と。国語はその土台を担うと認識しておりまして、この場に携われることを大変光栄に存じます。
 私の基本姿勢は、以下3点です。「自らの人生を舵取りする力、民主的で持続可能な社会の創り手を育む」という今回の新しい目標に沿いまして、対話と合意形成に耐える言語能力を核に据えたい、と。国語はその土台を担うと認識しておりまして、この場に携われることを大変光栄に存じます。
まず、1つ。「話す・聞く」の体系化、自分を主語にして思考を広げ、深め、選ぶ、その「考える力」。原稿に頼らず、相手と対話をするような「伝える力」。そして構造化や図解も含めて根拠を可視化する、「見せる力」。そのような力を小中高と段階を踏んで育んではどうでしょうかという点。
 2点目は、カリキュラム・マネジメントです。「話す・聞く」と関係が深いものとして、総合的な学習の時間のまとめ、表現、音楽の発声、英語のスピーキング、社会の主権者教育、図工や体育の表現など、これら全て共通する力と考えまして、学校全体に通底できればというもの。
 そして3点目としましては、目に見えない「話す・聞く」の世界でございますから、デジタルを活用して視覚化と省力化を行い、先生方の授業運営や評価を可能な限り簡素にできればというものです。
 自分の言いたいことが伝わったという子供たちの成功体験は、一生ものの自信になると思います。それを1人も取り残さず全ての子供が手にできればと思うのです。理念と運用の両輪で、国語の「話す・聞く」を全教科が使える共通インフラとして、その視座で皆様と丁寧に検討を進めてまいりたいと存じます。
 全ての子供に話す力を。どうぞよろしくお願い申し上げます。
【島田主査】  竹内委員、どうもありがとうございました。話すことを中核に置いた長きにわたる御活動、非常に感服しております。どうぞこの議論の中でも、いろいろとお力添えをいただければと思います。引き続きどうぞよろしくお願いいたします。
 続きまして、では、中川委員、御発言をお願いいたします。
【中川委員】  放送大学の中川一史と申します。
 専門は、メディア教育、情報教育です。中教審では、デジタル学習基盤特別委員会委員と、それからその下にあるデジタル教科書推進ワーキングの主査代理をしております。特に初等中等教育における端末環境の活用や情報活用能力の育成という点で、全国の自治体や学校に関わっております。
 私のほうからは、専門に関して3つ申し上げたいと思います。まず、1つ目は、情報活用能力の国語科における重要性ということです。情報活用能力は、学習の基盤となる資質・能力としては、論点整理の中で、情報技術の活用に絞って示すべきで、情報の活用は各教科等の特質に応じて指導ということが示されています。この情報の活用そのものの、国語科での整理が必要だと思います。
 例えば本日の会議の資料1の国語科に関する現状と課題の3ページ目の3(2)目的や場面に応じて、話したり聞いたりして考えを整理すること、思いや考えが相手に伝わるように話や文章を構成して表現すること、対話による合意形成や相互理解を図ることなどに課題というところは、国語科における情報活用能力育成の観点でも重要に思います。
 また、4ページ目、1(4)の国語科の特質を踏まえた言語能力、情報活用能力向上の在り方と教科等横断的に読む力を育成するカリキュラム・マネジメントにおける国語科の役割の検討についても、本国語ワーキングでしっかり議論していきたい項目です。
 現行版の学習指導要領においても、情報の扱い方に関する事柄を基に、各学年に盛り込まれてはいますけれども、情報活用プロセスを意識した整理がより必要に思います。さらに、各教科への関連も視野に、その中核となる国語科の情報活用能力について検討していくべきと考えます。
 2点目は、デジタル教科書の活用と学びの在り方についてです。教科書は、紙とデジタルのよいところを合わせたハイブリッドな教科書も認めるということも含めた審議のまとめが、デジタル教科書推進ワーキングでちょうどまとめられたところです。もはや紙とデジタルの二項対立ではないということです。教科書の活用も、デジタル教科書の調査研究の中でも、これまでの読む教科書から、探究支援ツールの役割も含めた書く教科書、共有する教科書へと変わる様子を実際に垣間見てきています。
 このように、教科書「を」教えることから教科書「で」教えることへの転換を視野に入れると、デジタルのよさを最大限、国語科の学習に生かしていけるよう、本ワーキングで今後、議論していっていただきたく思います。
 最後に、3点目ですが、生成AIの影響下での今後の国語教育の在り方についてです。資料1の国語科に関する現状と課題の6ページ目の(2)、1のエのような、デジタル・情報社会で氾濫する誤情報に対応できる能力の育成は当然重要です。同時に、国語科は言葉を大事にする教科だからAIは遠ざけるべきと短絡的に一蹴する時代ではもう既にありません。実際に生成AIは、国語科にとって、使いようによっては学びの拡張にもなり、学びの阻害にもなると考えます。どのようにうまく生成AIと付き合っていくかということだと思います。国語科で生成AIとの関わり方をどのように想定していくのか、そもそも、その前提となる国語科でのリテラシーとは何か、基本的かつ具体的な考え方を整理することが本ワーキングにおいては重要に思います。
 以上になります。ありがとうございました。
【島田主査】  どうもありがとうございました。今回のワーキングの中では非常に新しい課題、かつ非常に大切な課題かと思います。また、先生の御知見、ぜひお借りしたいと思います。引き続きどうぞよろしくお願いいたします。
 続きまして、次は、中嶋委員、御発言をお願いいたします。
【中嶋委員】  八王子市立いずみの森義務教育学校の中嶋と申します。私は現在、義務教育学校に勤務しておりますけれども、教職のスタートは中学校の国語科教員でございます。その後、教育行政に少し長くおりまして、3年前から、この義務教育学校に勤務しております。そのため、この場では小学校と中学校の双方の学校現場の立場から、国語教育について感じていることを述べさせていただきたいと思いますので、どうぞよろしくお願いいたします。
 まず、現状ですけれども、現行学習指導要領の実施から、コロナ禍での足踏みの状況があったものの、多くの学校で、言葉による見方や考え方を働かせて、言語能力を育む工夫ある授業が展開されていると思います。
 例えば、複数の教材を比較して、批判的に読み解くような授業や、本の帯やポップ作りを通して文章を読み取る授業、また、学習者が主体となって、仲間との対話を通して伝え合う力を高め合う授業など、創意工夫ある授業が実践されていると思います。そして、そのような授業を通して、子供たちが生き生きと活動しながら、言葉を使えるように育まれているということを感じています。
 その一方で、全ての教師が、目標の実現に迫る効果的な授業を行うことについては、まだ課題があると感じています。例えば、書くことの指導で、相手意識や場面意識を十分に示していない授業など、あるいは、文学的文章で、幾つもの教材を同様の指導の仕方で行っている授業なども散見される現状があります。効果的な実践をさらに普及していくことというものは必要ですし、教科担任制ではなくて、1人の教師が複数の教科について教える小学校においては、国語が専門ではない教師がいる中で、校内研究やOJTを工夫するという必要性を今、勤務校において感じているところです。
 また、小学校と中学校、中学校と高等学校の学びの接続についても、さらなる連携が必要だと感じております。現場で見ておりまして、よりよい授業を行うには、教師自身が、まず、ゴールとなる姿を明確にイメージして、子供たちの実態に合わせた学習活動を構築していく必要があります。このことから、全ての教師が、目指す資質・能力を育む授業を行うために、学習指導要領の示し方が、やはり重要になると考えております。
 文章を読んだり書いたりする力や、話したり聞いたりする力が、義務教育の9年間、さらには高等学校を含めた12年間でどのように高まっていくのかが、子供の姿として具体的にイメージできる、そんな学習指導要領であれば、さらに教師の主体的な授業の工夫につながり、また、学校間の円滑な接続に繋がると考えております。
 論点整理にも示されていますけれども、経験を問わず全ての教師がどのような言葉の力をつけるのかについて、全体像や系統性が分かり、発達段階に応じたポイントを理解することができる、そのような内容や表し方になるよう検討を深めていきたいと考えております。
 加えて、もう1点でございますけれども、石井委員がおっしゃられていた言葉の力の育成は、学校の教育活動全体で行う必要があるということを私は実感しております。もちろん、学びの核となるのは国語科の授業ですけれども、全ての土台となる言葉の力を確実に育むためには、他の教科や行事等においても、意図的・計画的に話合いや発表、メッセージの交流などの活動を位置づけるとともに、教科特有の語彙や表現方法、例えば数学の証明や理科の実験の説明など、内容理解だけではなくて、言葉の力を育むという意識を全ての教師が持つことが必要だと考えております。
 このことは、学校の言語生活をどのように形成するかというお話もありましたけれども、カリキュラム・マネジメントにも関わってくるかなと考えております。
 以上でございますけれども、これからも委員の皆様と、様々な御教示をいただきながら、私自身も学んでいきたいと思っております。どうぞよろしくお願いいたします。以上でございます。
【島田主査】  中嶋先生、どうもありがとうございました。学校全体での言葉の育成という大変大切なお話をいただきました。引き続きどうぞよろしくお願いいたします。
 続きまして、中村委員、御発言をお願いいたします。
【中村委員】  東京学芸大学教職大学院の中村和弘と申します。よろしくお願いいたします。
 私は、専門は国語科教育学で、語彙指導の実践史の研究や、先生方との授業研究等を行ってまいりました。
 頂いた資料を見る中で、国語科に関する現状、課題、検討点の整理、スライドの3ページ目に挙がっておりますところの、ある程度の文章を読んで考えを深めていくということや、あるいは、様々な状況や文脈に合わせて、調整的に表現を工夫していくこと、そうした言語能力の育成に課題があるという点は、大変深くうなずくところです。つまり、子供たちは読んでいるんだけれども、実は読みたいように読んでいる、書いてはいるんだけど、書きたいように書いている。それをそのまま拡張しますと、発信したいように発信し、受け止めたいように受け止めている。現在、何かそうした言葉の発信、受容という状況があるのではないか。改めて、スライドの指摘にありますように、相手や目的や条件、状況に合わせて調整的に言葉を使っていく、そういう力の育成というのも重要になってくるかと思います。
 そこで、論点整理に教育課程編成の2階建ての模式図がありましたけれども、そのイメージをお借りすると、例えば、デジタル教科書や生成AIを利活用して学習を探究的に進めていくのは2階の部分に当たり、それを下支えする1階部分に当たる言語能力の育成という視座から、やはり今回の国語科を見直していく必要があろうかと思います。1階部分というのは、アナログでありフィジカルな言語使用を中心にということになろうかと思いますけれども、改めて、文字を手で書くとか、声に出して読むとか、対面でコミュニケーションするという直接的な体験・経験と言語使用や言語知識を結びつけていくことや、語彙を豊かにしていくことが大切になってくると思います。記号接地の問題等も踏まえて、そうした内容を十分に確保した1階の基盤的な言語能力の上に2階の高次な言語能力や情報活用能力をしっかり接続させていく、そのようなイメージを考えています。 
さらに、子供たちが読み方や書き方を学んでいくときにも、自ら、そのときに持っている言語能力を十二分に発揮しながら、教師と共によりよい書き方や話し方を探究的につかみ取っていく。そのためにはトライ・アンド・エラーの時間も必要ですし、
活動の場の設定の工夫いうこともあろうかと思います。 
また、その1階の部分では、改めて、他者の言語の分かりにくさとか、長い文章の難しさというものに対しての、ある種、寛容性であったり、我慢強く言葉を使ったり理解していくというところの心性を養っていくという部分も大切な気がします。ネガティブ・ケーパビリティというんでしょうか、分かりにくいから読まないとか、難しいから聞かないというんじゃなくて、そこに一緒に探究していくというんでしょうか、そういう言葉の使い方や学びに対する構えというものを子供たちの中に培いながら、一方で、話すとはどういうことかとか、自分にとって聞くことはどういう意味があるのかということをメタ言語能力的に子供たちがしっかり捉えて、自分の言語使用を調整していくことが求められると考えています。
 その辺りは、もしかしたら中核的な概念という今回の新しい仕組みの中で、国語科の中でも位置づけていけるんじゃないかと思います。そうやって1階部分を充実させることが、2階の部分の言語能力や情報活用能力の飛躍的な伸張と、デジタル学習基盤のより有効な利活用につながっていくのではとイメージしています。改めてそのような視点から、国語科のリデザインを皆様と一緒に検討できればと思います。
 どうぞよろしくお願いいたします。
【島田主査】  中村先生、ありがとうございました。1階部分の充実、私も重要かなと思っております。引き続きどうぞよろしくお願いいたします。
 続きまして、西委員、御発言お願いいたします。
【西委員】  よろしくお願いいたします。信州大学の西でございます。
 私、専門は古典文学、主に古典文学と申しますけれども、和漢の比較文学研究を主に文学研究のテーマとしながら、古典作品の教材化にも研究の軸を置いております。
 与えられた時間の中で、事前に配付されている資料から考えたことを4点申し上げたいと思います。
 1つ目。検討事項・論点の中でも触れられていることでございますが、やはり言語を使って表現する力をどのように伸ばしていくか。そうしてそれが、他者あるいは自己にとって得心感がある。つまり納得できる、そのような言語の力とはどのようなものなのかというようなことが、前回の指導要領の時からある程度言われていて、これがどこまで達成されているのかをどのように検証して、次の課題として据えられるかが大切だと考えています。
 先ほど申し上げたように、私自身は古典(古文・漢文)の領域が専門ですけれども、これらの作品(教材)に存在する古文の論理、漢文の論理というものを、ほとんど教材の中で触れられる機会がない。日本語の史的展開を見据えながら現代の言葉での論理性を考える視点が必要ではないかということを考えておりました。
 2点目ですが、資料1の6枚目のスライドにある読書に関わる点です。今回、読書に関する調査の数値が低減したという調査結果が出ております。児童生徒にとって読書とはどのように位置付けられるのかという状況の認識と把握が大切だと思います。その上で、知識及び技能、なかでも我が国の言語文化の項目として読書が位置づいている。この指導事項が今後どのような在り方で読書を捉えていくことが大切なのか。このような状況がやはり論点として必要になるのではないでしょうか。単に読ませることありきではなく、どのように読むか、その読み方の問題にもなってくるのではないかなと考えております。
 3点目ですけれども、先ほど児玉委員からも指摘がありましたが、学習過程が知識及び技能と思考・判断・表現、それが学年をクロスさせることで縦横の関係性を見やすくしていくと、これがやはり指導事項がどう引き継がれて繰り返し螺旋的・反復的に展開していくのかという点が、もう少し明確に出てくるとよいのではないかという思いでおります。
 4点目。古典の領域に関わる者からしますと、資料1の19枚目で、小中では、比較的古典に対する意識が好意的で楽しく学習できている。つまり「親しむ」という指導事項のアの系統が、今回の学習指導要領ではうまく生きたのではないかと理解していますが、これが高等学校になりますと、小中学校では主な学習活動が音読、朗読、暗唱から、読解を中心にした学習形態に変わることによって、やはり大きな壁がある。そのように考えており、引き続き検討・検証が必要なのではないかと私は考えております。これも児玉委員から発言がありましたけれども、やはり学年や、小中高の三校種を通して、どのように系統化できるのか。特に「我が国の言語文化」をどのように系統づけていけるのかという点が、義務教育段階から中等教育後期の高等学校への受け渡しでは重要になってくると思います。
 このように考えるのは、前回の論点整理において高等学校の古典の授業に対して、授業改善が十分に行われていないという指摘が行われていたと思います。この指摘に対して授業改善はどこまで進んだのかということの検証が、やはり先ほどの資料19枚目ではなかったかと感じているところです。これはまさに、井上委員からお話がありましたけれども、教科書「を」教えるから教科書「で」教える。そういったことは、1、2と単純に足していくものではなくて表裏一体、あるいは展開的な中で、それは習得されるものであろうと思っています。
 そういう中で、古典の領域というのが、どのように教材化されることが大切なのか。あくまで個人的な意見でありますけれども、文学のジャンルを超えないと、やはり古典の教育は変わらないんではないかと考えています。具体的には韻文、随筆、日記、物語などというようなものを縦割りでやっているだけでは、古典が十分に享受されない。このようなことも、現在、考えているところでございます。
 与えられた時間を少し超過してしまいました。申し訳ございません。これからよろしくお願いいたします。
【島田主査】  西先生、どうもありがとうございました。今回の議論の中では、教科書の在り方といったようなところにも話題は及ぶかと思います。また、詳しくお話を聞かせていただければと思います。ありがとうございました。
 それでは、続きまして、藤森委員、御発言をお願いいたします。
【藤森委員】  皆さん、こんにちは。文教大の藤森裕治と申します。
 私は、東京都の高等学校の国語の教師を15年勤めた後、信州大学の教育学部で小中高等学校の教員養成を20年勤め、今、文教大学で幼小接続を中心に研究を進めている者でございます。専門は、国語教育、幼児教育、そして日本民俗学でございます。
 このワーキングは、これで2度目になりますけれども、前回も非常にホットな議論となりまして、大変私は光栄に存じます。併せまして、実は平成10年、それから20年、30年と3回にわたって、高等学校の学習指導要領の実施状況の分析、それから編集・作成等に関わらせていただいて、現行の学習指導要領が、車で言えばフルモデルチェンジどころか、エンジンを塗り替えたような非常に大きな変革だということを身に染みて感じておりますし、そのことについて、私自身も参画させていただいた1人として誇りに思っております。
 今、私が一番問題意識を持っておりますのが、国語科教育ならではの汎用性はどこにあるのかという問題でございます。中核的な概念、石井先生のこれまでの御指摘等を踏まえますと、概念のみならず中核的な概念、それから中核的な方略という2つの視点で国語科を見た場合、特にこの中核的な方略という部分が、非常に大きなキーワードになる気がします。
 こんなことがありました。2020年、まだコロナ禍が非常に大変だった頃、ある小学校を8か月ほど参観しておりましたら、ある2年生の子が、この授業、掛け算と『お手紙』と、それから道徳の相談活動、みんな一緒だと言うんです。どういうことかと聞きましたら、どれも、される人とする人と、その2つが掛け合わさると言うんです。この子の発言は、非常に素朴ではあったんですけれども、要するに相互作用がどういうものなのかということについて、3つの教科を橋渡しする発想をしているんです。こういうのを述語的統合という言い方をするんですけれども、こういう思考は、彼の言語能力の中で自然に培われたもの、であって、一体それをどこからどういうふうに、この方略が培われたんだろうかと思うにつけ、、いろいろな教科、領域を超えて、共通点を見いだしていく力、つまり汎用化能力といったものが、どこかで育まれなくてはいけない。そしてそれを担うのが国語科教育ではじゃないかなんていうことを思った次第です。こういったことを切り口に、一体何が国語科教育の任務なのか、使命なのかという問題で考えていきたいと思っております。
 あと2点ほどあるんですけれども、簡単に申し上げますと、もう一つは、今の学びへ向かう力・人間性と、これについての評価が、どういうふうにしていったらいいのか。やはりまだ、実際の場面では、先生方が頭を抱えていらっしゃる。これに対して、例えば喜びだとか、我慢強さだとか、楽しさといった感情や、あるいは性質に属するものを、一体どういうふうな学力として我々は捉えて評価していくのかという問題は、多分、現行学習指導要領を改善していく上での論点じゃないかと思います。
 もう一つは、生成AIとの付き合い方です。もう既に皆様からも御指摘がありますけれども、例えば、話すこと、聞くことの評価ですとか、それから個別最適な形での書くことの学習指導ってなってきますと、これはやっぱり現場では、一教員には不可能な部分ってかなりあります。その際に、生成AIがどういうふうにそれに役立てられるのか、どういうふうに支援してくれるのか。この問題は、恐らくこれからの時代を考えますと避けて通れないだろうなと感じているところであります。
 いずれにしましても、こういった問題を心に留めながら、保幼小中高大と全部の現場を見てきた人間の1人として、この18年間にわたる母語の教育たる国語科教育、この本質の使命は一体何なのかという問題。特に中核的な概念、それから方略、これはどういうふうに構造化されるのかという問題について、私も一緒に、勉強させていただければと思っております。どうぞよろしくお願いいたします。
【島田主査】  藤森先生、今回もどうぞよろしくお願いいたします。ありがとうございました。国語能力の汎用性、汎用化、また、新しいキーワードを教えていただきました。引き続きどうぞよろしくお願いいたします。
 それでは、続きまして、松本委員、御発言お願いいたします。
【松本委員】  よろしくお願いいたします。広島大学の松本でございます。
 私は、平成20年版と平成29年版の小学校学習指導要領国語の改訂協力者として関わらせていただきました。そして今回、3度目の改訂に関わらせていただくことになります。平成20年版からはや16年がたちます。この間、教育現場、教員養成の場などにおいて、言語実態、言語環境が少なからず変化をしてきたなと思っております。そういったことについての私なりの見解を持って、これからの議論に参加させていただきます。どうぞよろしくお願いします。
 私は、学習指導要領の指導事項で言えば、文字に関する事項、書写に関する事項の内容と教育を専門としています。御存じのように、文字に関する事項や書写に関する事項は、文字や文字文化そのものの学びという側面だけでなく、文字を書くスキルという、いわゆる学習の基盤となる資質・能力の育成と関わる側面があります。教科等の学びの場で行われる「書く」という行為は、教室をイメージしていただくと分かると思うのですけれども、紙に筆記具で書く、というこれまでの中心的なやり方、それからキーボードでタイピングする、それからタッチパネルにタッチペンで書く、そして音声入力するという選択肢が今はあります。
 私が今年参観した小学校の授業で、これらの選択肢から自分で自由に書く方法を選んで書かせるという実践を見ました。それを個別最適の学びと言うには、ちょっと危ういとは思いますけれども、児童生徒の発達や学習効果を考えた場合に、紙に筆記具で書くというこれまでのスタイルがどういう点で適切だと言えるのか。また、同じデジタルデバイスを使用して書くとしても、タイピングするほうが児童生徒の成長や学びにとって適切なのか、あるいはタッチペンで書くほうが適切なのか。そのような文字を書くことの人間拡張をどう考えるかということも考える必要があると思います。
 文字に関する事項、書写に関する事項の扱いについては、そういうふうに、文字や文字文化そのものの学びという側面とともに、学習の基盤となる資質・能力の育成といった側面と関わる文字、書くスキルの学びの汎用的な部分も含めて考えていく必要があると思っております。
 関連してですが、メディアでも取り上げられていますけれども、一定数の国で、学力の低下を理由に、義務教育段階でデジタルからアナログへの回帰が一部起こっています。ヨーロッパ諸国中心だと思いますけれども。ヨーロッパは極端なところがあると思いますので、我が国ではデジタルとアナログのバランスを取っていっていく方向性での議論が性に合っていると思いますけれども、そのデジタル学習基盤の充実というのは欠かせない大前提として、文字に関する事項、書写に関する事項をいかに扱うかということは、学習の基盤となる資質・能力の育成の在り方を議論する上で大切な論点になると捉えています。
 私、初等教育に関わる講座に所属しておりまして、子ども学を研究対象にすることがあるのですが、やはり義務教育段階の児童生徒、特に小学校の段階の子供たちは、大人社会の単なる縮図ではありません。子供ならではの認知の仕方や学び方がある。子供たちの世界がある。その中で、体全体を使って五感を働かせて学び、そして人間として成長する、その過程にあるのだという共通理解です。改めて、この言葉の学びを扱う国語ワーキングにおいても、外してはならない点と思っております。
 文字文化についても、語りたいところはありますけれども、御挨拶としては以上とさせていただきます。よろしくお願いいたします。
【島田主査】  松本先生、どうもありがとうございました。書字をめぐる状況というのも日々刻々と変わってくるところかと思います。今回もまた、引き続きどうぞよろしくお願いいたします。
 続きまして、吉田委員、御発言お願いいたします。
【吉田委員】  京都市立嵐山小学校で教頭をしております吉田と申します。どうぞよろしくお願いいたします。
 私は皆様と違いまして、専らずっと現場で一教諭として、政令指定都市に採用された一教員をずっとしてまいりました。ですので、本当に担任をしながら国語の授業をしているという、恐らく全国で多くの先生方と同じ立場にあると思っております。
 また、コロナ禍で現行の学習指導要領が改訂され、全面実施された年に、京都市の国語科の初等の指導主事ということで、京都市の国語教育の指導・助言に携わらせてもらったということも、一都市ではございますけれども、多くの現場の先生方の悩みを聞いてきたというところも、皆様に少し、私なりの情報を提供できるかなという立場でここに参加させてもらっております。
 今回、私が特に検討を進めるべき事項として、現場感覚を持って感じたところで言いますと、まず1つは、やはり学習指導要領、先生方に対する分かりやすさ、構造化というふうに論点整理のところでございましたけれども、多くの先生方は一生懸命されていますが、特に国語科においては活動主義、どなたかもおっしゃっていましたが、非常に活動をしていることが、国語科、読んでいるですとか書いているといったところで、なかなか資質・能力というところに、先生方が目が向きにくいのは、やはり指導要領に書かれている資質・能力が非常にイメージしにくいといいますか、何を教えていいか分からないといいますか、何ができたらいいか分からないというところが、まだまだあるように思います。そのことが指導と評価の一体化というところにもつながって、どう評価していいか分からないというところにもつながっているかなと思います。
 また、それも丁寧過ぎる教科書といいますか、どうしても現場の先生方は、やはり若い先生が特に、教科書をとても頼りにされます。教科書を教えるんじゃないよと私も日々申し上げているんですけれども、どうしてもページを飛ばすことすら恐怖心があるというか、それをもって履修というふうに捉えてしまうというところもあって、今すごく丁寧な教科書であるがゆえに、そこに書かれている活動をなぞっていけば安心といったところもあります。縦横の関係の可視化が不十分というところの論点整理にもありましたように、多過ぎる指導目標を単元で挙げてしまったり、45分ずつの細切れのような、単元を通した学びになっていなかったり、またまた個別最適な学びという名の下に、まるで放任しているかのように子供たちがほったらかされている授業であったり、協働的な学びという名の下に、ただグループになり、何か話しているけれども、そこで何か思考が動いているかというと、そうではないなといったような授業が少し散見されるのも、やはり学習指導要領の先生方に対する分かりやすさという具体なイメージというところがもてていないのではないか、そこを皆様と議論できるということは、私は非常に興味深いなと思っております。
 また、柔軟な教育課程ということもありましたけれども、実際にどういったことが資質・能力かということが具体に分からないと、現場では、また時数とか数字のみの、どの教科を減らし、どの教科を増やすかというような、何かそういった議論に陥るのではないかと。トライ・アンド・エラーという言葉もございましたけれども、単元を通した学びにするには、先生方の余白というのは非常に重要で、もう本当に余白がないなと現場は感じております。余白をもたしたいけれども、有効な余白になるには、指導要領の分かりやすさというのは非常に重要だなと感じました。
 もう1点は、子供たち側の視点に目を向けてみますと、やはり主体的に学びに向かうことができない子供たちというのは、非常に思っているよりも多く私はいるように思います。自分の好きが、まず分からないとか、問いとか、はてなとか、不思議とか、そういったところから先生方は授業をスタートさせようとするんですけれども、まず、そこになかなか、そこが生み出せない。どうやったら子供たちが問いを持てるんでしょうかという質問も大変多く私も受け止めております。
 また、家庭学習においても、本校でも、自分で選んでというようなこととか、提出日なんかを幅を持たせてという取組を学年に応じてしておりますけれども、保護者のほうから、やはり決められた宿題を出してほしいとか。家で何をしていいか分からないと。子供たちが、それで学校に行きたくないと言っているとか。自分で学びを生み出すということが思った以上に、子供たちも、まだ模索しているかなと思います。
 不登校等のことも、多様な子供たちの存在ということも大きな学校では課題となっておりまして、私も今日の朝からも、いろいろな子供の対応に、この立場にあると追われます。担任ももう右往左往している状況で、軽々に何か不登校や課題を抱えている子供たちの特徴等を申し上げることはできないんですけれども、やはり非常に学力のこと、学力に困りがあると感じている子供とか、それから多くの子が、自分の言葉で話すことが難しいということも、私はちょっと肌感で感じておりますので、皆様がおっしゃっていた、特に石井先生がおっしゃっていた、低学力というのも、大学のみならず、小学校の、まだ入学して2年目、3年目で、本当に差がついているという状況があるので、そこは何から来ているんだろうということも、非常に私は悩むところでありますので、やはりリテラシーとは何か、話す、聞く、読む、書くということ、それから言葉の力ということをもっとクリアに、何をどう指導していけば、そのような学力差であったり言葉の力の差ということが生まれにくいのかというようなこと辺りも、関連づけて皆様と議論できたらいいかなと思っております。
 至りませんが、どうぞよろしくお願いいたします。以上です。
【島田主査】  吉田先生、こちらこそどうぞよろしくお願いします。どうもありがとうございました。また、議論の中で、肌感覚での学校の様子をいろいろ教えていただけたらと思います。引き続きよろしくお願いいたします。
 それでは、渡邉委員、御発言お願いいたします。
【渡邉委員】  名古屋大学の渡邉雅子と申します。
 今回初めてこうしたワーキンググループに加えていただきまして、また、専門は社会学ということで、少し変わり種になりますので、調子外れのところがあったら、どうかお許しください。異なる専門分野の委員の先生方から、学びながら議論していきたいと思っていますので、どうぞよろしくお願いいたします。
 先ほど専門は社会学と申しましたけれども、その中でも知識社会学とか比較教育、比較文化が専門でありまして、書く様式と思考法の関係について、40年ほど同じテーマで研究してまいりました。とりわけ文化によって、どのように子供が社会化されるか。つまり社会に出るための準備として、認知的、道徳的あるいは感情的なルールというものを、国語教育、特に作文教育によって習得されるのかを、日本とアメリカ、それからフランス、イランの4か国の作文教育を通して研究してまいりました。主にどのような作文の型が、能力や学力を測る中心的な作文の型になっているのか、それはなぜかを文化的な背景や社会的な要求から明らかにしてきました。たとえばフランスとアメリカは一括して欧米と論じられる傾向がありますが、アメリカの効率を重視した経済的な作文様式と、フランスの合意形成を目的とした政治的な作文様式というのは、作文を書く目的が全く異なっている。そうすると、国語教育も全く違った形になることを明らかにしてきました。
 そこで、日本の国語の言語学習というのは、どんな能力を養おうとするのか。資質・能力という形でまとめられていますけれども、日本文化との関連や社会的な要請という点からも、言語学習の目的についてもう少し踏み込んだ議論がワーキングではできるのではないかと期待しております。
 日本で必要とされる言語能力というのはどんなものかを具体的にしていきますと、国語の教科書のどの部分をどういうふうに使えばいいかということを教師が判断できる素地ができると思います。
 そうすると、例えば「論理的に思考する」といったときも、どんな論理的な思考をどのように発展的に教えていくのかということも議論になり得ると考えています。論理的といったときに、論理学でいうところの矛盾のない言語使用の他に、効率的に答えを得るのに適した経済的な論理であるとか、熟慮して全体の利益を考えるのに有効な政治的論理とか、真偽を検証する法技術的な論理とか、相手を思いやる社会的な論理があります。それらの異なる論理を作文の様式と対応させながら教えていくと、複数の異なる論理とその思考法を目的に応じて、あるいは場面や相手に応じて使い分けることができるようになると思います。
 ですから、構造化するといったとき、何を構造化の原理とするのかということにおいては、その1つの取りかかりとして、作文様式というものを、例えば小学校ではこの様式を中心的に教える、中学校ではこの様式を、高校ではこの様式をという具合に、目的に沿って中心となる作文を段階的に配置することで系統性を持って全体構想ができると思います。さらに構造の原理においては、「具体から抽象へ」であるとか、それと対応させて「感情・情緒から論理へ」、そしてその上に「概念を使って論じる」といった形で、小学校、中学校、高校、大学も含んだ大きな構想が可能になると思います。
 そうすると、やはりワーキングとしては、そうした発達段階によって、どんな作文の様式を教えるのかとか、どういう原理で並べるのかといったことが議論になり得るのではないかと思います。
 そのときの課題は、やはり現場での実行可能性というのが非常に重要になるということです。原理的に、発達段階的に構想をきっちり組んだときに、その実行可能性と、なにより現場の先生方に、この原理を理解し納得していただけるのか、いただけないのかというところの検討は重要だと考えています。
これは私の個人的な考えですが、やはり初等教育では、日本文化というものをしっかり土台として、言語を通して刷り込みながら、中学校、高校では、今度は技術として複数の思考とその表現法を作文様式を通して教える。そうすると、日本人としての情緒とか教養を身につけながら、異なる他者とも協働できる人材の育成ができると思います。日本文化を資源にしながら、異なる様式の組み合わせによって新しい価値を生み出すこともできると思います。
 先ほどの西委員の「我が国の言語文化」という言葉は、すごく私の胸に刺さりまして、本当にそれはどういう姿形になるのか、それをどう構造化し、系統付けるのかということを委員の皆様と考えていきたいと思います。
 最後に、AIは作文を評価したり教育するときには、非常に有力なアシスタントになるのではないかということを考えています。もうAIは、文章様式を使いこなすことも簡単にできるようになっています。でも、そのAIを使いこなすためには、やはりまず人間が、どんな様式がどんな目的のためにあるのかということですね、そうした基本的なことを、国語で学ぶべきではないかと思っています。
 もう一つは、作文だけではなくて私たちに関する文化的な知識というものが、どういうものがあるのか、あるいは系統的に教えて教養というものをつくっていけるのかというところで、西委員が漢文の論理ということをおっしゃいましたけれども、これも非常に重要なポイントだと思います。日本語の論理あるいは古典と漢文の論理というものは国語教育においては非常に大事だと思いますので、異領域の委員の先生方から学びながら、議論できるのを本当に楽しみにしております。どうぞよろしくお願いいたします。 
【島田主査】  渡邉先生、どうもありがとうございました。文章構造と思考・文化との関係ということで、非常に刺激的な議論から、いつも学ばせていただいております。引き続きどうぞよろしくお願いいたします。
 本日、庭井委員が御欠席ですので、これで全ての委員より御発言をいただいたというところかと思います。
 まだ時間は少しございますので、私も自己紹介を兼ねまして、少しお話をさせていただきます。
 私は、専門としては国語教育ということになろうかと思います。近年の主たる関心事は「書くこと」、主として高校段階における「書くこと」の領域に関することです。また、勤務先では20年以上、アドミッションセンターというところに勤めている関係から、高大接続場面における「書くこと」といったようなことも関心事の一つになっております。
 学習指導要領に関しましては、前回、前々回の実施状況調査の辺りから携わらせていただいておりまして、前々回の小学校学習指導要領、それから前回の高等学校学習指導要領の改訂に協力させていただいたところです。そうした経験から振り返ってみますと、その都度、その時々で国語教育の課題というのはあって、それを解決する方向で学習指導要領の改訂がなされて、その実現に向けた努力や工夫が、全国の国語の教室で行われ続けてきたわけです。ある部分は改善がなされました。ある部分は改革がなされました。それでもなお、長く存在し続けている課題というのもございます。また、本日、多くの先生方が様々な視点から御指摘くださったように、社会の変革によって新たな課題というのも、また、次々と生まれてきたところかと思います。
 こうした中で、将来の新しい国語の姿というのは、いろいろに思い描くことができそうに思いますけれども、先生方の、本当にいろいろな領域の様々な御知見を結集して、次なる学習指導要領改訂の方向を模索し、よりよい道筋を何とか見いだしていければと、今は考えているところです。
 次回以降、個々の論点ごとに議論を進めていくことになろうかと思いますけれども、ぜひ熱い議論をお願いいたします。
 というところでございますが、まだ少し時間はあるようですけれども、どうでしょう、追加で御発言がある委員の方はいらっしゃいますでしょうか。もし、これだけはどうしても今日言っておきたいと言う方があれば、挙手ボタンを押していただければ指名させていただきます。いかがでしょうか。…よろしいでしょうか。
 それでは、本日の議事は以上とさせていただきたいと思います。
 最後に、次回以降の予定について事務局より御連絡をお願いいたします。
【荻野教育課程課課長補佐】  それでは、次回について御報告いたします。次回は10月24日金曜日、15時30分から18時を予定しております。正式には、また後日、連絡をいたします。
 以上でございます。
【島田主査】  ありがとうございました。
 初回から2時間近くになりました。長時間どうもありがとうございました。
 以上をもちまして、本日の第1回委員会を閉会といたします。どうもありがとうございました。お疲れさまでございました。
 
―― 了 ――
 

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