令和7年3月28日(金曜日)13時00分~16時00分
WEB会議と対面による会議を組み合わせた方式
【貞広主査】 定刻となりましたので、ただいまから第4回教育課程企画特別部会を開催いたします。本日は第13期中央教育審議会初回の部会となります。引き続きどうぞよろしくお願いいたします。
本日は、多様な子供たちを包摂する柔軟な教育課程の在り方について審議を行います。進行資料にお示しされましたとおり、事務局の説明の後、東京都渋谷区、埼玉県久喜市、東京都目黒区、滋賀県愛荘町様より、授業時数特例校制度や研究開発学校制度を活用した特色ある教育活動についてそれぞれ御発表をいただきます。その後、奈須委員より、誰一人取り残さず資質・能力を育成する授業づくりの観点から御発表いただきます。その後、5分間休憩を挟んで意見交換の時間といたします。
それではまず、事務局より本日の配付資料と論点資料について御説明をお願いいたします。
【栗山教育課程企画室長】 失礼いたします。まずは本日の配付資料について補足をいたします。
本日は第13期の初回の部会となります。昨日書面にて開催いたしました教育課程部会におきまして、教育課程部会運営規則と本特別部会の設置について了承をいただきましたので、関係の資料を参考資料3-1、3-2でお配りをしております。また、お役職名以外変更はございませんが、第13期の本特別部会の委員名簿を参考資料3-3で改めてお配りをしております。
また、昨年12月の中教審諮問に関しまして、いま一度このタイミングで、年度が替わりますので、諮問の内容について、全国の先生方をはじめ多くの教育関係者の皆様により深く知っていただくために、その要点をイラストやアイコン等を交えて分かりやすく整理をさせていただいたポイント資料を文部科学省で作成いたしました。その概要版、詳細版と二つございますが、参考資料4-1、4-2でお配りをしております。是非、学校や教育委員会での研修等に御活用いただければと考えております。
また、第1回の本特別部会におきまして、4月25日の第6回までの日程をお示ししておりました。参考資料5において、第8回までの会議の開催日程と、これまでの審議の状況についてまとめておりますので、御参照いただければと思います。
続きまして、本日の議題に関する論点資料について御説明をさせていただきます。本日は柔軟な教育課程の編成の促進について、主に義務教育段階についてでございます。
まず、本日の議論の目的について確認でございます。どの学校においても、多様な個性や特性を有する子供が在籍している実態が顕在化しております。こうした多様性を包摂し、一人一人の意欲を高め、可能性を開花させる教育の実現が喫緊の課題ということでございます。
また、現行の教育課程の主な特例について御紹介をしながら、本日の議論の前提について確認をしていただきたいと思います。教育課程の編成は、学校教育法施行規則に示す総授業時数及び各教科等の時数、学習指導要領に示す各教科等の目標・内容に基づく必要がございますが、しかし、ここにございますように、丸1、この青い部分でございますが、学校として編成する教育課程の特例、丸2、個々の児童生徒に着目した教育課程の特例、丸3、学級として編成する教育課程の特例が適用される場合はこの限りではございません。本日は、このうち丸1、青い部分、学校として編成する教育課程の特例等について御議論をいただきます。なお、4月10日の特別部会では、緑の部分、丸2の個々の児童生徒に着目した教育課程の特例について御議論をいただく予定であります。
この丸1の学校に着目した教育課程の特例校、主なものが教育課程特例校、授業時数特例校というものがございますけれども、その指定校数の状況について御紹介したいと思います。現在、教育課程特例校については約2,000校弱で推移をしている状況であります。現在、全国には小学校が約1万9,000校、中学校が約9,000校あり、非常に多い数で推移しているということが御覧いただけると思います。また、授業時数特例校という特例校の仕組みについては令和4年度から始まった状況でございますけれども、令和7年度には200校弱となり、激増しているという状況がございます。
また、この授業時数特例校については、特定の教科の授業時数を減じて他の教科の授業時数を増やすことができるという特例でございますけれども、それぞれ小中ともに、国語、社会、理科、算数・数学、外国語の順に時数を減じているという学校が多い状況、また、右側でございますが、その減じた授業時数を用いまして増やしているものは、総合が非常に多いということが状況としてございます。
また、本日は裁量というものが非常に大きなテーマでございますが、私どもの調査において、標準授業時数に関して学校の裁量を広げるということについて、既に小学校では約7割、中学校では約8割が賛成と御回答されています。また、具体的には、年間の総授業時数を確保した上で一定の範囲で教科等間での授業時数の調整を可能とする、これは先ほど御紹介した授業時数特例で可能なことでございますけれども、これについて取り組みたいとおっしゃっている学校は小中ともに約6割という状況です。
こうした前提を踏まえまして、本日の課題について御説明させていただきたいと思います。左側に現行制度の状況についてまとめておりまして、その上で課題についてまとめておりますので、右側の課題を御紹介しながら、左側の現行制度については適宜御参照いただければと思っているところでございます。
まず、課題でございます。標準授業時数や特例校制度についてでありますけれども、特例校については、時間と手間がかかるという課題があると考えております。市町村立学校についてであれば、市町村や都道府県の教育委員会を経由して、現在、特例校については、文部科学省で申請をいただいて、審査、そして指定をするという手続がございますので、時間や手間がかかり、活用しにくいという御認識が現場にはあるのではないかと考えております。学校や地域の創意工夫を発揮し、特例校を活用することは特別なことになっているのではないかと考えております。
そして、特例校制度のみでは限界もあるという課題があるかと考えております。現在、特例校よりも更に広く柔軟な教育課程編成ができる研究開発学校制度の下で、年間の標準総授業時数を特例的に下回ることで生み出した授業時数を、個々の児童生徒の個性や特性に応じた学びや教員研修等に充当する取組、これは現在、特例校制度ではできない範囲のことでありますけれども、こうした取組、今日御発表をいただく東京都目黒区さんや滋賀県愛荘町さんの事例でありますけれども、こうした取組が注目を集めており、同様の取組を実施したいという声が多くなっているという状況でございます。
また、単位授業時間、現在は小学校で45分、中学校で50分としており、また、年間の最低授業週数、これは指導要領において年間35週以上とされているわけでありますが、この単位授業時間は、現在でも各学校の判断で40分や50分にすることが可能なわけでありますけれども、時間が複雑になるといったような御懸念もあって、単位授業時間の柔軟な設定は広がりを欠いているという状況があると思っています。週当たりのコマ数についても、35週という数字を根拠に、標準総授業時数は多くの学年で1,015単位時間でありますので、1,015割る35は29となります。このため、週当たり29コマやるべきなのではないかという認識が強い。そういった認識の中で、総じて単位授業時間の設定や1日当たりの授業時数の割り振りといったことがカリキュラム・マネジメントの手法となり切っていないのではないか、そういった課題があるのではないかと考えております。
また、学習内容の学年区分についてでありますけれども、左側を少し御覧いただきますと、現在、指導要領では、各教科について学年区分とその内容についてお示しをしています。その場合には、当該学年で指導する必要があるという考え方に立っておりますけれども、課題の方にお戻りいただきますと、学年を横断した柔軟な指導に制約があるという課題があると考えております。こうした学年区分については、系統性の確保の意義がある一方で、学習内容の習熟の早い子供や遅い子供の実態を踏まえた柔軟な指導や、学年を横断したカリキュラム・マネジメントの制約になっているのではないかという課題があると考えております。
最後にカリキュラム・マネジメントでありますが、カリキュラム・マネジメントのイメージがいまだ学校現場でつかみにくいといった課題があるのではないかと考えております。既に御紹介した上記の課題も含めて、全体として学校現場において何を変えられるのか、逆に何を変えてはいけないのか、どのようなアクションを取り得るのか、イメージが湧きにくい現状があるのではないかと考えています。カリキュラム・マネジメントは、いまだ学校の日常とはなり切っていないのではないか、こうした課題があるのではないかと考えております。
今御説明した課題を踏まえて、次のページでございます。こうした課題を踏まえて、考えられる方向性と論点についてであります。まず、このページでは、特例校の仕組みと時数の取扱いについてお示しをしております。
まず、左側、考えられる方向性についてであります。特例校制度については、申請数が増加しておりますし、一定の活用類型も確立している現状がございますので、これも踏まえ、国への申請を不要とすることも含めて、特別な選択肢ではなく、常に利用可能な選択肢とする方向で検討してはどうかと考えております。加えて、子供たちを一層包摂できるよう、研究開発学校等の運用実績や、デジタル学習基盤の活用による効率化の可能性も踏まえて、授業時数の取扱いについて一層柔軟化する方向で考えてはどうかと考えております。以上について、新しい仕組みが教師の仕事や子供の学びに余白を生み出すとともに、教育の質の向上に資する方向で検討してはどうかと考えております。なお、負担軽減自体は目的ではないということであります。
右側、これを踏まえた具体的な論点であります。丸1です。総授業時数を維持しつつ、各教科の標準授業時数、以下、教科標準時数と呼びますが、これを下回ること、教科標準時数を下回ることが可能な範囲というものをどう考えるかということです。御紹介した現行の授業時数特例校制度、本日、東京都渋谷区さんや埼玉県の久喜市さんに御発表をいただく事例でもありますけれども、制度上は1割を上限として減じることができるとされていますけれども、その拡大の必要はあるかという論点があると思っています。
次、丸2であります。教科標準授業時数を下回ったことで生み出された授業時数、以下、調整授業時数と呼ばせていただきますが、その活用方法について、地域や学校、児童生徒の実態を考慮して以下のような三つの取組を特例的に可能とすることの適否についてどう考えるか。一つ目、別の教科等の授業時数に上乗せをする。二つ目、特に必要な教科の開設に充てる。三つ目、各教科等に該当しないものの、児童生徒の個性や特性、実態に応じた学習支援など、児童生徒の資質・能力の育成に特に資する効果的な教育を実施するための裁量的な時間(仮称)、以下、裁量時間と呼ばせていただきますが、に充てること。この三つに調整授業時数を充てることの適否についてどう考えるかということであります。
丸3、今御紹介した裁量時間の定量的な上限、あるいは具体的にどういったものを可能とするかという類型はどうあるべきか。特に裁量時間の一部について、教育の質の向上を目的とした授業改善に直結する組織的な研究活動等に充てることも可能とするということの適否、また、その上限についてどのように考えるかということが論点と思っています。
この丸1から丸3について図示したものが参考資料8であります。お手元の資料で最終のページに当たります。今申し上げたことを図示したものがこちらであります。上にございますように、今回、この三つの適否について、あくまで児童生徒や地域の実態を踏まえて、必要に応じて以下のような取組の一部又は全部の実施を可能とするか否かということが前提であります。すなわち、学校や教育委員会の御判断だということが前提であります。
下の論点イメージの教科B、Cとなっている青い部分、ここを御覧いただければと思います。まず、ここの「どの教科でも」ということでありますけれども、この青い教科Bについて、(1)、上の部分、教科標準時数を下回ることが可能の範囲をどう考えるか。「減ずる」とありますけれども、ここの幅、先ほど現在の授業時数特例では1割と申し上げましたが、ここをどう考えるか。
その上で、(2)、左下の部分でありますけれども、調整授業時数を別の教科等に上乗せ可能とするべきか。教科Bから減じた教科標準時数を教科A、異なる教科に上乗せをするということを可能とするべきかどうかということ。
そして、緑の部分に目を転じていただければと思います。裁量的な時間(仮称)でありますが、この(3)裁量的な時間に調整授業時数を充てることも可能とすべきかどうか。
そのまま下の(4)です。裁量的な時間の一部を、教育の質の向上を目的とした授業改善に直結する組織的な研究活動等に充てることも可能とすべきか。
そして最後、一番右の白い部分でありますが、特に必要な教科等がある場合という部分、調整授業時数を特に必要な教科の開設に充てることも可能とすべきかということであります。これが先ほど書いてあったことを図示した絵でありまして、全体として、標準授業時数の弾力化をこのように行うイメージということであります。
戻らせていただきます。今、丸1から丸3を図示した御説明をさせていただきました。その上で丸4であります。こうした取組をする上で、丸1から丸3を国への申請を不要とするというふうに仮定した場合に、どのような条件の下で特例的な取組を可能とするべきかということであります。
(1)不適切な運用を防ぐための仕組みであります。例えば、特定の教科への過剰な集中などによって、児童生徒の負担過重をもたらしたり、あるいは受験対策への過度の傾斜などがないようにすべきではないかということであります。
(2)保護者や地域住民に対する説明責任を果たし、理解を得るための仕組みが必要ではないかという論点であります。学校運営協議会についても非常に重要な要素になるのではないかということであります。
(3)教育委員会や文部科学省としての把握の仕組み。こうしたことが国への申請・国からの指定がなくてもできるとした場合でも、都道府県教育委員会や文部科学省、もとより市町村教育委員会が把握することは当然のことでありますけれども、この把握の仕組みについて調査等を含めてどのように考えるか。こういったことも併せて考えるべきではないかということが、この具体的論点の全体像であります。
次に、単位授業時間、授業週数、学年区分の扱い等について考えられる方向性と論点・留意点等であります。まず、左側、考えられる方向性、単位授業時間と年間最低授業週数についてであります。各学校や地域、児童生徒の実態に応じて柔軟な設定を促進するため、分かりやすい示し方とする方向で検討してはどうかということであります。
そのまま、右側であります。単位授業時間の柔軟な設定について、調整授業時数を生み出す手法の一つとなり得る、すなわち、小学校であれば45分を40分とするといったことでありますけれども、ただ、これはあくまで教育課程の目的やねらいを実現するためのカリキュラム・マネジメントの手法、これは週時程や時間割を工夫して下校時刻を早めるという取組も含みますけれども、その本質に留意する必要があるのではないかということであります。
次に、課題として、時間割が複雑化するのではないかという御懸念もあると思いますので、そういった懸念を踏まえて、デジタルツールを活用して負担軽減できる可能性はないかといったことも重要ではないかと思っております。年間最低授業週数については、年間35週以上との規定が、週29コマの授業を行う必要があるとの認識につながっているとの指摘も踏まえて、例えば週28コマといったような形、現在、小学校で2割ほど増えてきておりますけれども、授業時数の平準化が促進できるような方向での示し方がどのように考えられるかということであります。いずれについても、※の部分にあるように、全体として教師に「余白」を生み出し、過度な負担・負担感を防ぐ側面と、児童生徒に「余白」を生み出し、豊かな学びにつながる側面、この両方に留意すべきではないかと考えております。
次に、学習内容の学年区分であります。方向性として、必要に応じて教師が学年区分にとらわれずに柔軟に教育課程を編成したり指導展開をしやすくしたりする方向で検討してはどうかと考えております。
右側です。学習内容の学年区分については、教科の系統性や指導内容を確保する役割を果たしており、教科書の作成などの観点からも、引き続き一定の記載が必要ではないかと考えております。その上で、児童生徒の実態に応じて必要があると判断する場合は、学年区分にとらわれず柔軟に教育課程を編成・実施することが可能であることを明確化してはどうかということであります。その際、学年区分にとらわれない柔軟な指導に伴って、教科書給与の前倒し等を含めた教科書等の在り方についても整理しておくべきことがあれば、整理をすべきではないかと考えております。
左下、こうした様々な仕組みについて御説明してきましたけれども、こうした仕組みを学校現場が御活用できるために、その他の条件整備についても重要と考えております。各学校や地域における創意工夫ある柔軟な教育課程編成が実際に促進されるよう、条件整備や必要となる施策を併せて検討すべきではないかと考えております。
右側です。カリキュラム・マネジメントについて、過度な負担を生じさせずに実質化することができるよう、シンプルで具体的なイメージを整理する必要があるのではないか。学校運営協議会では現在、教育課程編成の基本的な方針を校長が作成し、協議会で承認を受けることが法律上の義務となっておりますが、こうした新たな仕組みにより、地域や学校で多様で豊かな提案、教育課程が出てくるということの中で、どのような内容を示していく必要があるかということ。こうした新しい仕組みを学校現場や教育委員会が活用できるよう、一定期間、柔軟な教育課程編成に文部科学省や都道府県が伴走支援する施策も必要ではないかということであります。
また、都道府県や市町村の指導主事の方々の資質向上も重要であると考えています。柔軟な教育課程編成に係る指導助言に直結する研修や、ほかの自治体と知見や事例を大いに共有する取組を充実させる必要があるのではないか。また、現状、小規模自治体では指導主事が未配置の市町村もございます。そうした中で、広域自治体である都道府県の役割、あるいは市町村間の連携、又は校長会等が果たすべき役割についてどのように考えるかということであります。また、指導主事の方々は現在、一般行政事務をされることもある実態がございます。そうした中で、教師の指導に対する支援と関連の薄い事務等について、教育委員会の行政職員との役割分担をどう考えていくかということも重要であると考えております。
以上、考えられる方向性と論点について御説明させていただきました。
残りは参考資料でございますが、幾つかかいつまんで御説明をさせていただきます。
単位授業時間の設定について、現在でも既に柔軟に設定されている事例は多くございます。例えば横浜市であれば、小学校で40分授業、左側、例えば愛知県の東浦町であれば95分といった単位、あるいは右側、さいたま市であれば100分で、中等教育学校でそういった単位を使われているということも実態として既にございます。
また、学年区分について、学習指導要領でどのように規定されているか、小中学校について整理をした資料がこちらであります。左下の小学校についての御紹介をいたしますと、例えば一番上の国語について御覧いただくと、学年区分は1-2、3-4、5-6となっています。これはすなわち、2年ごと、2学年ごとに示しているということです。逆に社会や算数や理科については1学年ずつの数字が入っているということを御覧いただけると思いますけれども、これは各学年ごとに学習の内容をお示ししているということであります。今は各教科ごとに小中も様々なバリエーションがありまして、こうした区分に従って指導いただいているわけでありますけれども、この柔軟化をどう考えるかということが論点というふうにお示しをさせていただきました。
これは、本日は義務教育中心でありますので割愛させていただきますが、高校についての履修順についてまとめた資料であります。
こちら、カリキュラム・マネジメントについてであります。
研究開発学校の取組については、本日事例発表いただきますので割愛をさせていただきますが、右下、愛荘町さんにおいては、生み出した時間について、この円グラフで御覧いただけるように、約3分の2については子供たちの個性や特性に応じた学びに使い、約3分の1は先生方の時間に使われている。具体例としては、教科担任制、学年担任制を機能させる情報共有の時間などにお使いいただいていますが、具体にはこの後御紹介いただけると考えております。
また、週当たりのコマ数についても御紹介させていただきました。下を御覧ください。小中学校いずれについても、29コマが一番多い、その認識が強いと御紹介しましたが、28コマにされるお取組もとても増えています。令和4年と令和6年の数字を左下、小5で御紹介をしますと、緑と赤の部分が週28コマ以下であります。この2年間でも、約1割だったものが約2割に、倍に増えてきている。こうした取組を更に励ますことができるような規定の示し方について検討すべきではないかということを申し上げました。
また、研究開発学校の取組ですが、本日、目黒区さんや愛荘町さんのお取組について御紹介をいただきますが、現在、令和6年度は、管理機関2、学校数25が、その2自治体であられますけれども、1単位時間を短縮して生み出された時間を用いて、子供一人一人の興味・関心や学習上の課題に応じて、柔軟に学びを選択できる時間の設定をしたり、教師の研修や授業改善のための時間に充てるといったような取組をされております。この取組について、来年度からの研究開発学校では大幅に実施地域を増加いたしまして、管理機関・自治体については9、学校数については45まで増加し、来年度から速やかにこうした事例を更に可視化していくという取組を文部科学省としても進めていきたいと考えております。
また、授業時数の弾力化について、デジタル学習基盤の活用についても踏まえてということを申し上げました。これは堀田委員をはじめとする研究者の方々の研究成果でありますけれども、デジタル学習基盤による授業運営の効率化の具体について、デジタル学習基盤の活用によって授業運営に関わる諸活動の効率化が可能であるという調査結果をおまとめいただいております。本日の堀田委員の御発言の中でも補足がいただけると考えております。
以上が事務局の提案でございまして、最後に、具体には御紹介いたしませんが、論点資料の補足資料といたしまして、このように諸外国におきましても、授業週数や日数、総授業時数、各教科の授業週数等についてどのように示しているかということをまとめさせていただいておりますけれども、また御参考としていただければと考えております。
多くを御説明しましたが、事務局からは以上でございます。
【貞広主査】 ありがとうございました。
続きまして、学校の事例発表をお願いいたしたいと思います。まずは、授業実数特例校制度を活用しながら、柔軟な教育課程を編成されている渋谷区、久喜市より御発表いただきます。それでは、渋谷区より御発表をお願いいたします。
【渋谷区教育委員会(安部)】 それでは、渋谷区教育委員会の事例を説明させていただきます。本日は、大きく4点、探究「シブヤ未来科」について、教員の研鑽機会の確保、学校からの事例紹介、次期学習指導要領に期待することについて御説明いたします。
初めに、探究「シブヤ未来科」についてです。探究「シブヤ未来科」は、探究のプロセスを通して、子供たちに自ら考え判断して学び続ける自己調整力、多様な仲間と協働して新たな価値を生み出す創造力、自分が思い描く未来を実現しようとする挑戦力の三つの力を育むことを目標としております。
令和6年度からは、区立全小中学校で授業時数特例校制度を活用し、各教科の1割を総合的な学習の時間に充てて、探究「シブヤ未来科」を拡充しています。例えば小学校6年生の場合、標準授業時数70時間に85時間を追加し、総合的な学習の時間を年間155時間まで増やしています。これにより、子供たちはより多くの時間を探究活動に費やすことができるようになりました。
学校の1日としましては、毎日、午前は教科を中心とした授業、午後は探究「シブヤ未来科」の時間としています。1年間の流れとしましては、前期に探究基礎や企業と連携した本物体験等を集中して行います。中盤には、学年で共通テーマの探究に取り組み、後半は、子供一人一人が興味・関心に応じて課題を設定して取り組むMy探究を行います。
授業時数特例校制度を活用するに当たっては、学校側から様々な懸念や不安の声が上がりました。例えば、標準授業時数の9割でこれまでと同様の内容を指導することや、倍増した総合的な学習の時間の年間指導計画をどのように作成したらよいか、新たな連携企業の開拓や打合せの時間の確保、保護者の理解や協力が得られるかといった意見がございました。
このような学校の不安を払拭するために教育委員会では、教員が安心して新たな取組に挑戦できるための環境整備や支援を充実させることが大事な役割であると考えております。教育委員会では、学校に対して様々なサポートを行っております。例えば、9割の時間で子供たちが効果的に効率よく学力を身に付けるために、AI型教材などのEdTechコンテンツを導入しました。デジタルを効果的に活用して、主体的・対話的で深い学びを充実させるために、事業者と教員でプロジェクトチームを立ち上げ、モデルケースを創出しました。また、指導主事による指導や支援のほか、各学校で指名された探究コーディネーターを対象とした研修を実施し、カリキュラムの作成などの支援を行ってまいりました。そのほか、教員向け探究ハンドブックや「シブヤ未来科」学習評価基準を提供したり、学校と企業のマッチングや実践事例、ワークシートなどを共有できる探究ポータルサイトを構築したり、My探究の伴走支援をする大学院生を派遣したりして、学校の負担軽減を図っております。
次に、教員の研鑽機会の確保について御説明いたします。本区では、教員が学ぶ時間を確保することを目的に、ティーチャーズ・ラーニング・デイ、TLDを設定しております。教員の多忙化により、日々の教材研究を十分に行えない状況があり、この状況が続くと授業の質の低下が懸念されます。また、ICT活用や探究に必要な指導力など新たに求められる資質・能力を向上させる必要がありますが、研修を設定する時間が取れないという課題があります。これらの課題に対応するため、令和5年度から、小学校では毎週水曜日、中学校では月1回をTLDとして、水曜の午後は授業を実施せず、教員が研修などで学ぶ時間を確保しました。各学校では、教員が学びたい内容を出し合い、年間研修計画を作成し、研鑽のための時間として有効活用されております。他校と合同で研修を実施したり、教員一人一人が自身の課題や興味・関心に応じて研修に参加したりする時間が出来たということで、学校現場からは好評を得ております。
次に、授業週数の考え方について説明いたします。令和3年度からは、学校に対して、標準授業時数を年間総授業時数とし、年間週数は35週以上、週当たりの授業時数は29時間で、総授業時数は1,015時間で教育課程を編成するよう示してきました。令和5年度からは、小学校では水曜の午後の授業をカットしTLDを設定したため、週当たりの授業時数が28時間になりました。週28時間になったとしても、年間37週以上あれば1,015時間が確保できます。実際は授業を実施できる日は40週程度ありますので、行事の時数を加算しても1,015時間の授業時数は確保できることになります。現在の考え方は、年間週数を40週とし、週当たりの授業時数は28時間で、年間授業時数は1,015時間としています。このように、授業週数の考え方を見直すことで、教員のための学ぶ時間を生み出し、計画的に研修の時間を確保することができております。
これまでは教育課程編成段階で授業時数を多めに積んでおき、年度途中で状況を見ながら授業時数をカットして調整してきました。この方法ですと、時間が生み出されたとしても、教員の研修に充てるなど計画的に有効活用されていない現状がありました。しかし、現在のように、標準授業時数で計画しておき、不足しそうな場合は時数を追加して調整する方法にすることにより、創出した1コマ分を含め、年度当初から必要な研修の年間計画を作成することができるようになりました。水曜の午後に生み出した余白の時間を有効活用することで、授業の質的向上を図り、子供たちの学びがより充実していくことを期待しております。
【渋谷区立千駄谷小学校(中野)】 それでは次に、千駄谷小学校校長の中野と申します。私の方から本校の取組について、次の三つの御説明を簡単にさせていただきたいと思います。
それではまず、一つ目ですけれども、本校のシブヤ未来科についてということです。時数特例制度を活用して、総合的な学習の時間が倍増したと。そこで最もいいなと思うのは、アウトプットの時間が充実したということです。アウトプットというのは、発表とかプレゼンだけではなくて、子供たちが何ができるかということを自分で考えて、実際にそれを行動に移すことができる。例えば、後に説明しますけれども、地域への啓発活動とか、イベントの企画運営まで含まれている。そういう意味で一歩も二歩も学習活動に深まりを持たせることができたなと感じております。
それでは、実際に事例を基に紹介をしていきます。5年生の「フードロスを考えよう!」という総合的な学習のテーマです。後に説明しますけれども、5年生は社会科で食料生産と環境保全の問題について学習します。これが時数特例を用いた工夫というところになってくるんですけれども、それについては後ほど説明をさせていただきたいと思っています。連携企業ですけれども、明星食品、高島屋、ローソン、服部栄養専門学校等、そういった企業さんにお力を借りています。渋谷ならではということになるかもしれません。一方で、この黄色でお示しをしたところ、渋谷区役所であったり、社会福祉協議会、これについては行政機関になります。
このスライドですが、本校は今年度、80法人と連携をさせていただきました。それで、黄色でマークされているのがいわゆる行政機関との取組になります。これはなぜかというと、行政機関というのはやはり地域の課題を最もよく知っている機関であるということ。そういう意味で、各学年でも割と盛んに行政機関との連携をしております。これは、区教委が、「探究の充実をやるよ」ということで関係各所に働き掛けをしてくれているということもあって円滑に進んでいるのかなと感じているところです。
それでは、5年生のフードロスの学習の流れについて説明をさせていただきたいんですけれども、このフードロスについては大きく三つの流れがあります。
まず、一つ目、明星食品から、フードロスとは何ぞやということでレクを受けました。これは一斉です。5年生全員で話を聞きました。そして、2、3の段階から学習活動がばらばらになっていきます。グループごとに、例えば企業が行うフードロスについて、あるいは商店、学校、家庭、それぞれグループに分かれて実態把握をしていきます。そこでつかんだ実態を基に、「じゃ、自分たちには何ができるのか」ということで、例えばフードドライブに取り組むグループがあったり、レシピ講習会を企画・運営して実際にやったりというような活動に発展をしてきたというところです。
これが実際の写真なんですけれども、フードドライブについては、左上の写真です。高島屋と社会福祉協議会とコラボをして、フードドライブ、食品集めをしました。これは、実際、高島屋さんはもともと社会福祉協議会とつながりたいと思っていらっしゃったらしいんですけれども、学校がたまたま二つともつながっていたので、二つのかけ橋になったということもありました。
それから、下の写真、コックさんの写真ですけれども、これは服部栄養専門学校とのコラボの様子です。これは、家庭のフードロスを調べたグループが、この中で実は野菜の廃棄率が高いというのが課題だということを突き止めました。そこで、野菜を余すところなく活用できるレシピを開発して皆さんに伝えようということで、服部栄養専門学校とのコラボが実現して、これは3月8日の日曜日、2週間ぐらい前ですかね、実際にこれをやって、30人ぐらいの保護者・地域の方が参加をして大盛況で終えることができました。
そして、右の写真は、これは渋谷区もフードロスにしっかり取り組んでいる飲食店を後押ししようという取組がありまして、それを知った子供たちが、近所の飲食店に働き掛けをして、区のこの取組につなげたという実践です。今年度は三つのレストランがこの区の認証を得ることができたというような取組になっています。ただ、これ、飲食店は保護者の飲食店ということもあったので、そういったこともございますということです。
実際にこういうことをやってきた課題なんですけれども、大きく二つ考えています。教育課程上の課題ということで、これはイベントをやるとなると、やはりお客さんを集めなきゃいけないとなると、必然的に土日になってくる。そうすると、この学習活動は教育課程、出欠が関係してくるんですが、この問題をどうしますかという問題です。フードドライブに関しては土曜公開の時期に合わせてやったので問題なかったんですけれども、レシピ講習会に関しては、教育課程外の活動として処理をしました。ただ、これが適切だったかどうかということについては悩ましいなと感じているところです。
それからもう一つ、人材確保の問題ということについては、基本的には、2番目、3番目からは学習活動はばらばらになっていくわけです。例えば外の人にインタビューするにしても、人も違うし、日時も違うし、時間も違ってくる。そうなってくると、一つのグループが外に出る。安全確保上、担任が1人、引率に行って、プラス保護者2名、3名を安全確保のためにつける。一方で、ほかのグループに関しては学校で学習活動をするわけです。そうすると、もう1人の担任が子供たちを見る。それから、学習支援員とか区費講師、それから保護者の方に手伝ってもらう。そういった安全管理上の人材確保の問題が課題だなと感じているところです。
次に、時数特例制度の活用についてということです。先ほど、社会科で5年生は食料生産と環境保全のことを学習しますと。だからこそ、この総合的な学習のテーマでフードロスを設定しているということです。キーワードとしては、僕はコネクトとコンバインが大切だと思っているんですけれども、社会科の学習内容と総合的な学習のこのフードロス、関連性を見いだして結び付けて一緒にやってしまうということ、この発想、時数特例を使った時数の圧縮というのはこれしかないんじゃないかなと私は感じています。
それからもう一つ、全教職員による年間を通したカリキュラム・マネジメント、PDCAサイクルでこれを回すということです。4月、年度当初に担任たちは指導計画の確認をする。そして、夏休みに実際どうだったのかということで、ここで中間評価をします。実際問題、今年度も、ちょっとここは手薄だったから、ほかの総合的な学習の時間を持ってきてちょっと補充しようよというやり繰りがありました。この微調整をして実際回して、今年の1月、次年度に向けて更によりよいものをしていくためにということで見直しをしたということでやっているところです。
そして最後については、ちょっと視点を変えて、渋谷区は今年からMy探究をやっていこうということで新しいことが増えた。ということは、教員たちに比較的余裕を持たせて教材研究の時間を確保させてやりたいなという思いで、TLDの時間をうまく活用したという説明になります。TLDは、先ほど区からの説明があったとおり、1時に子供たちを帰して、退勤までの約3時間30分、フリーな時間になるわけですけれども、そうはいっても、水曜日はいろいろな活動があるわけで、このスライドのとおり、区の教育研究会があったりとか、分掌の会議があったり、校内研究があったり等で、右の黄色の分数については、それを差し引いた時間、大体120分とか90分とかと書きましたけれども、そうなると、おしなべて水曜日は約2時間の余白の時間が教員たちにはあるということです。ここで成績処理をしたりとか、行事の準備、教材研究をしたりとかというようなことをしています。それから、4番目の集合研修というところについては、これは教員たちから学びたいと声が上がってきた内容を月1ベースで、大体尺としては30分から45分の時間帯で研修会をした内容です。
実際にこれが今年1年間でやった研修の内容になります。今年は特にMy探究が渋谷区で入ってきたものですから、5月、それから9月、1月、2月、My探究に関する研修をしたいということが教員たちから上がってきました。それで、時間設定をして実現をしたという形になります。
次は月・火・木・金、ほかの時間に関してもできる限り余裕を持たせてやりたいなという思いもありますので、本校の特色として、1年生から6年生まで、全ての曜日で3時までに完全下校しています。そうしますと、約1時間半の時間、休憩時間を含めてなんですけれども、あるんです。たかだか15分20分なんですけれども、教員たちからは、そうはいっても、まとまった時間が取れるから、やっぱりありがたいですというふうに比較的好評な、好意的な声が多く聞かれています。
これが最後になるんですけれども、本校の時間外勤務者の人数推移です。本校の正規職員については20人ですので、私が着任した22年4月には、私も含めてですけれども、11人の月間45時間以上働いている教員がおりました。それが徐々に下がってきて、TLDなんかも入ってきて、直近2か月前、25年1月には3人まで減らすことができました。このように目に見える形で成果として上がってきているので、これもいい取組なのかなと思っているところです。
大変雑駁ですが、私からの説明は以上です。ありがとうございました。
【渋谷区教育委員会(安部)】 最後に、次期学習指導要領に期待したいことをお伝えいたします。基本的な考え方としまして、重要なのは、各教科等の見方・考え方を働かせて資質・能力を育成し、各教科の目標を達成することです。今年度、授業時数特例校制度を活用した実践を通して、ICTの活用や子供主体の学びへの変革など学校現場の創意工夫により、目標の達成に必要な学びを確保しつつ、授業時数の柔軟化を図ることが可能であることが分かってきました。また、学校教育法施行規則第51条では、別表第1に定められた授業時数は「標準とする」と規定されています。標準授業時数はカリキュラム作成等において重要な情報となりますが、その厳密な確保を求めるのではなく、一定の範囲で学校や教育委員会の判断による柔軟な運用が可能ではないかと考えております。
以上を踏まえ、授業時数特例の要件について、国による審査をなくして教育委員会や学校の設置者に委ねること、また、移行できる時数の上限を引き上げることを提案させていただきます。ただし、各教科等の目標達成に向けた学びが確保されることが大前提です。このように授業時数の柔軟な運用を認めることで、学校の創意工夫を生かし、子供たちの学びの質を向上させることが期待できると考えております。
渋谷区教育委員会からの説明は以上でございます。御清聴ありがとうございました。
【貞広主査】 ありがとうございました。
委員の皆様からの御質問、御意見につきましては、全ての発表が終了し、休憩を挟んだ後にいただきますので、発表を続けてお願いしたいと思います。
続きまして、久喜市より御発表をお願いいたします。
【久喜市教育委員会(白石)】 こんにちは。埼玉県久喜市教育委員会指導課の白石と申します。よろしくお願いいたします。
久喜市は人口15万人、小学校21校、中学校10校、児童生徒数1万人の市となっております。本日は久喜市における授業時数特例校制度の活用事例についてお話をさせていただきます。
本市では、市が目指す久喜市の姿をALL Kuki教育改革プロジェクトとして整理し、久喜市全体で教育改革を推進してまいりました。そのプロジェクトの一環として、学びの主語を子供にするため、一斉・一向・一律型の授業観を見直し、子供が主体性を発揮できる探究的な学びを目指しております。そのために私たちは子供たちが自ら学びに向かいたくなるような、「わくわくする学び」が重要であると考えております。そこで、それぞれの学校が教科学習を含め、教育課程が形成する一つ一つの要素の意味や価値を受け止め、教育課程全体を構造的に捉えながらオーナーシップを発揮して最適な教育課程を構築できるよう、学校を指導・支援してまいりました。その際、久喜市が目指す学びの方向性をSTEAMの視点で捉え、久喜市版STEAM教育の推進としました。
久喜市版STEAM教育とは、子供たちにとって、思わず向かいたくなるようなわくわくする学びの中で、問題を解決するために、自分の知識を結び付けたり、多くの他者と協働したり、テクノロジーを活用したりしながら、子供自ら主体的に新しい価値を創造する学びのことを指しております。
このような久喜市の方向性を踏まえ、各校が教育課程のオーナーになる。その一歩目として教育課程に柔軟性を持たせるステージに上がってもらうために、令和5年度より市内全31校が授業時数特例校を申請いたしました。久喜市は全校がコミュニティ・スクールにもなっており、地域とも密に連携を図れる環境を構築しております。各校は、そんな地域の特性や子供の実態、強み、リソース等を生かした柔軟な教育課程の編成を行い、持続可能な社会の創り手の育成を目指した特色ある教育の創造に取り組んできました。
その具体事例につきましては、本日、久喜市立砂原小学校も同席させていただいておりますので、その取組の一端を御紹介させていただきます。
【久喜市立砂原小学校(北﨑)】 こんにちは。久喜市立砂原小学校の研究主任の北﨑と申します。本校の取組について紹介させていただきます。
砂原小学校は、全校467名ほどの中規模校で、学区には鷲宮神社という歴史ある神社や、そこを中心とした昔ながらの商店街があり、地域との結び付きが深い学校です。本校では、久喜市の教育改革のコンセプトを受け、子供が主体的に学ぶ学校を目指して、「やってみよう」を校是とし、「動く楽しむ切り拓く」を学校教育目標として授業改革に取り組んでおります。
これは本校のグランドデザインです。探究力、自己決定力、論理力の三つの汎用的な資質・能力を身に付つけるために、生活・総合を軸としたSTEAM化された学びを行っています。そして、生活・総合と各教科の学びを一体として捉え、教科横断的に学ぶことで、目指す児童像に導こうと考えました。
そのため、年度初めに、カリキュラム・マネジメントを行い、生活・総合に必要な学びを教科横断的に連続性を持って展開できるようデザインしています。本校では、授業時数特例制度を活用して、生活・総合の時間を15時間拡充しています。そして、時間をかけて学ばせたいところを「ひらめきタイム」と名づけ、学習の重点化を図っています。
これを探究のサイクルが分かりやすいよう、探究における学習者の姿を一つのサイクルのベースとしてスパイラル図にまとめました。
今年度、5年生の総合は、伝統工芸をテーマに学習しました。発表に向け、グラフを使いたい、説得力のある文章を書きたいという子供たちの思いを実現するため、算数や国語で学んだことを生かしながら、十分に時間を取って学ぶことで、より説得力のある文章を書いたり、効果的にグラフを使ったりする姿が見られました。子供たちの探究の成果として販売した工芸品の売上げは、日本の伝統工芸発展のために日本工芸会に寄附をしました。
【久喜市立砂原小学校(齋藤)】 続いて、昨年度、6年生の事例を簡単に紹介いたします。6年生は、地域活性化を目指し、テーマを「Make Happy Project for KUKI」として探究学習を行いました。久喜市の人に幸せを感じてもらえるようなイベントを企画したいという児童の思いを実現するため、保護者をはじめ、地域や市役所の方々など多くの人の力を借りながら探究を深める学習を行いました。5年生同様、各教科で学んだ資質・能力を発揮して、それぞれが考える企画のプレゼンを作成し、最終的には市役所の方にイベントを提案して、市とのコラボイベントを実施しました。不採用となった提案もありましたが、それもまた児童の学びになりました。
このような取組の成果として、まず、前年踏襲のカリキュラムではなく、目の前の子供たちにとって最適なカリキュラムを主体的に考えるようになったという教師の変容が見られました。児童のわくわくする気持ちを大切に、失敗することも価値のある学びであるという共通認識を持って子供たちの学びをデザインするようになりました。また、児童も自分が見いだした問題解決に向け、夢中になって学び続ける姿が多く見られるようになりました。
この姿を目の当たりにし、教師も探究的に学びたいと思う気持ちが強くなりました。一方で、この変容をデータとして可視化できていないことから、今後明らかにしていく必要があると考えます。また、この学びを推進していくためには、一人一人の教師の専門性を向上させていく必要があると感じています。校内の研修はもちろん、外部の研修も積極的に活用しながら研究を深めていこうと考えています。本校の取組については以上となります。
【久喜市教育委員会(白石)】 ほかの具体事例として、あと3校の取組を紹介させていただければと思います。
これは久喜市栢間小学校の事例です。栢間小学校は全校60名ほどの小規模校ですが、地域との結び付きが大変強く、地域と一緒に地域を盛り上げる探究活動の充実を図ってまいりました。そんな栢間小学校が150周年を迎えた際、子供たちから出た、地域のみんなでお誕生日会をしたいという声から、150周年をお祝いするプロジェクトが立ち上がりました。幾つかの教科の時間を減じ、生活・総合の時間を拡充し、縦割り活動を組んで学習活動を行いました。
子供たちが中心となり、企画の段階から地域の方と協働しながら取り組んだこのプロジェクトは、それぞれ教科で学んだことを発揮し、友達や地域の方などと多くの人と協働しながらイベントの企画・準備に当たりました。
当日は、子供たちが作成した看板やのぼり旗など思いのこもった装飾が施された会場で多くの地域の方と一緒に栢間小150周年をお祝いしました。様々な企画をはじめ、催物のパンフレット、来場者へ配布した野菜、オリジナルの記念キーホルダー、どれも子供たちが自分たちで考え、作り上げたものです。このプロジェクトを通して、子供たちは自分の学びにオーナーシップを発揮し、教科で学んだ知識・技能を生かしながら問題解決に取り組みました。その過程で想像力、協働する力、粘り強く取り組む力など多くの汎用的な資質・能力が育成されました。
続いて、中学校の事例です。久喜市立久喜中学校では、1年生の各教科を数時間ずつ減じ、総合的な学習の時間を20時間拡充することで、2・3年生と総合の授業数をそろえました。そして、3年間を通して充実した探究活動ができるよう教育課程を編成しました。学校目標である「志に生きる生徒の育成」を目指し、生徒が主体的に3年間掛けて探究を深める主専攻と呼ばれる探究活動と、該当学年のテーマに合わせて探究していく副専攻と呼ばれる探究活動を並行して行い、生徒が自分のペースで探究を深められるようカリキュラムを設計しています。
今年度行われた第2学年の総合の様子です。副専攻のテーマを「よりよい自分の人生」とし、職業体験を一つの学習材として探究学習を行いました。生徒は、学びの中で自分の「好き」が人生を豊かにすることに気付き、自分の「好き」をよりよいものにするために、体験的な活動を通して課題を発見し、試行錯誤を繰り返しながら問題解決に向き合いました。久喜中学校では、全学年において「問動」、問いで動くという言葉を大切にしております。結果よりも、そこにたどり着くまでの生徒の思いやプロセスを重視しながら、教師は「どうしてそう思ったの?」、「何でそう言えるの?」といった問動を通して、一人一人の資質・能力の育成に取り組みました。
最後に、久喜市立栗橋西中学校の事例です。栗橋西中学校では、「魅力アッププロジェクトin栗西」として、地域の課題を子供たちが発見し解決する地域ベースの探究活動に取り組みました。この探究の価値をより高めるには、地域への発信が重要です。自分たちが学び、伝えたいことを受け止めてもらうに、説得力のある説明の仕方や、聞き手に納得感を持ってもらうための資料作りを学び、大型ショッピングモールを会場として、市が主催するジュニアプレゼン大会において、自分たちが考案した地域活性化プランを発信いたしました。
これらの取組による成果の一端を御紹介いたします。今年度の全国学力・学習状況調査における学校質問紙調査の結果です。教育課程に対する教員の意識の変化が顕著に見てとれます。教育課程は与えられるものではなく、学校がオーナーシップを発揮するべきものであるという教員の意識の変容が授業を変え、授業が変わることで子供たちが学びの主体者となってきております。
子供たちの資質・能力も明らかに向上しております。学力を伸ばした児童生徒の割合も高い結果が得られております。
授業時数特例は教育課程を大きく変えるものではなく、カリキュラム・マネジメントの延長でどの学校も気軽に行えるものでありますが、教育改革を久喜市全体で推進する上で大きな成果を上げたと感じております。これまでの取組の中で、各校において最適な教育課程を編成するということに対するオーナーシップの高まりを実感しているところでございますが、学校からのニーズとして、もっと自由度高く教育課程を編成したいという意見も聞こえるようになってきました。それは例えば、子供の強みをとことん伸ばしたい、英語を学ぶのではなく、英語で学ぶ授業を作りたいといったような声です。我々久喜市教育委員会としましても、子供たちにとって主体的・対話的で深い学びが重要であると同様に、学校・教員にとってもオーナーシップを持って教育課程の編成に取り組むことが重要であると考え、令和8年度より全校で教育課程特例校に取り組みたいと考えております。
その実現のため、本市がこれまで取組を踏まえて課題として認識しておりますことを2点と、次期学習指導要領に向けた期待を申し述べて発表のまとめとさせていただきます。
1点目は、教育課程が柔軟になることで、学校間の教育の質の差が生じやすくなってしまうということでございます。これについては、教育委員会の役割が重要であると考えており、学校間の情報共有、コミュニケーションを円滑にする体制の構築や研修機会の提供等必要なサポートをしていく必要があるものと考えております。
2点目は、各学校がオーナーシップを発揮して教育課程に向き合おうとしたときに、その結論を出さなければいけない時期が早過ぎるという点です。次年度の教育課程を編成するに当たっては、当年度の教育課程を実施した上で評価し、課題を抽出し、改善策を熟議する必要がございます。これは学校のタスクから考えると、12月から年度末にかけて実施することが適切であると考えております。しかしながら、教育課程特例校の申請時期は6月から8月となっており、年度が始まってすぐに申請の準備をしなければならない現状がございます。それでは、子供の実態に応じた柔軟な教育課程の編成・実施は難しいと感じております。
最後に、こういった状況を踏まえ、より学校のオーナーシップを高め、実態に合った最適な教育課程を編成していけるように、次期学習指導要領においては、前年度の申請・文部科学省の指定を必要なものとするのではなく、学校・市町村教育委員会の判断で当該年度内でも柔軟に運用できるようなものにしていただきたいとお願い申し上げ、久喜市からの発表を終わりにいたします。ありがとうございました。
【貞広主査】 ありがとうございました。
続きまして、研究開発学校制度を活用しながら、年間の標準総授業時数を特例的に下回ることで生み出した授業時数を、個々の児童生徒の個性や特性に応じた学びや教員研修等に充当する取組につきまして、目黒区、愛荘町より御発表いただきます。まず、目黒区より御発表をお願いいたします。
【目黒区教育委員会(玉村)】 それでは、目黒区の取組について、目黒区教育委員会事務局から説明します。また、後半、学校管理職の立場から、教育課程編成の上で大切にしていることについて、目黒区立東山小学校長の村尾から説明します。
目黒区では現在、区立小学校22校全校、中学校9校中2校が研究開発学校であり、自治体として令和元年度から各学校と研究を進めています。本日は、研究開発学校として取り組んできたこと、現在取り組んでいることに加え、6年間を振り返る中で見えてきたこともお伝えいたします。
本日は御覧のような流れで進めます。
初めに、本区の研究開発学校の教育課程について、前提として考えていることについて説明します。児童生徒、教職員、地域は非常に多様で個性的であること、また、自治体で全校実施を求めるような独自の特色ある取組もあることから、各学校では、学習指導要領プラスアルファの取組が教育課程上求められることもあります。このことに対して、時間に係る裁量を拡大することで、学習指導要領の総則にもあるように、学校の実態に合った、より適切な教育課程を編成・実施することが可能になると考えています。
そこで、本区研究開発学校では、時間に係る裁量に注目して研究を推進してきました。その特徴について、小学校を例として説明いたします。学校教育法施行規則第51条の規定によらず、1単位時間を40分とし、学習指導要領の学習内容を削ることなく、40分を1コマとして教育課程を編成しています。1単位時間を40分にすることによって削減した5分は、積み上げることで「生み出した時間」として活用します。この生み出した時間は、学校の特色ある教育活動を充実させる時間として、また、教員の時間としても活用し、学校の裁量ある時間を確保することで柔軟な教育課程を編成・実施することを可能にします。
40分授業の実施と生み出した時間の活用を整理すると、こちらのスライドのようになります。生み出した時間を活用し、体験的な活動や探究的な活動などの時間を確保し、学校の特色ある教育活動を充実させることができます。また、生み出した時間の一部を教員の時間として、学校の特色ある教育活動を検討・開発・準備する時間としても活用しています。これらの取組により、児童の資質・能力の向上や授業改善の推進が図られ、左側、40分授業にもよい影響をもたらすと考えております。つまり、本区の取組は、40分授業を実施することを目的とはしていません。時間という資源を40分授業の実施と生み出した時間という形に再配分し、相互に関連、往還させることで、教育の質向上を目指すということにあります。
このような構造の教育課程を実施する上で、40分授業において学習指導要領に示された内容の着実な実施は大前提となります。そこで40分授業の導入当初は、授業デザインに関する指導資料の作成・共有等、取組1から3に示したように、研究開発学校全校と教育委員会が連携し、仕組みづくりをしながら授業改善を図ってきました。また、取組4のように、学力、学びへの意識、学校生活への意識等、様々な教育データを把握・分析する中で、学びの質や生活の質が維持又は向上しているという事実を学校とも共有してきました。
導入から6年が経ち、学校訪問での授業観察や先生方の取組の様子を通して見えてきたことは、5分短い40分というフレームが工夫を生むということです。時間短縮により必然的に発問や活動が精選されます。また、精選するために、本時や本単元の目標を意識します。さらに、単元の目標を意識した教員は単元を意識した授業づくりを行うといったように、各学校で既に行っている授業改善を一段進めることにつながっていると感じています。また、1人1台端末の活用が促進され、ICTを活用した学びもより一層進んでいることを感じています。このことは、今年度、研究開発学校として中学校2校が1単位時間45分授業を実施しましたが、中学校においても授業改善が図られたという意見を教員からも管理職からも多く聞きます。さらに、タイムマネジメント意識の向上も図られ、記載のような工夫も生まれました。
導入から6年が経ち、40分授業が日常化してきたことも実感としてありますが、ただ1単位時間を5分短縮したら自然に授業改善が生まれたわけではありません。本区の教員、そして管理職が子供たちの学びを充実させたいという思いがあったからこそ生まれた工夫であると捉えております。
次に、生み出した時間の学校の具体的な取組について説明します。目黒区立中目黒小学校では、「自律的な学び手の育成」を学校経営方針の中心に掲げ、スライドにある三つのチャレンジを教職員と検討し取り組んでいます。この三つのチャレンジを支えたのが、生み出した時間です。生み出した時間丸1、子供たち一人一人が自分の興味・関心を起点とし、自らの課題を設定し探究する個人探究の時間を週時程に安定的に位置付けました。また、生み出した時間丸2、こうした取組の研究や準備のために、一部を教員の時間として活用します。このように教員の時間が学校のチャレンジを促進するとともに、学校の取組を下支えしています。
続いて、目黒区立油面小学校です。油面小学校には肢体不自由特別支援学級である、わかたけ学級が併設しています。学校は、障害の有無に関係なく、異学年の子供たちが多様な他者と関わり合うことを大切にしたいという強い思いがありました。従前から縦割り班活動や交流及び共同学習を工夫し実施してきましたが、学校で大切にしたいことをより一層充実させるために、生み出した時間から昼に週2回20分の集会等の時間を設定しました。生み出した時間を活用することで、全校が関わりを深める時間が安定的に確保できました。油面小学校は、生み出した時間を活用して、学校が今、子供たちに必要と考える教育活動の時間を確保しました。
このほかにも、生み出した時間の活用により、子供や地域の実態に応じた教育の実現に向けた学校の創意工夫が引き出されました。どの取組も、子供たちの実態を踏まえ、教職員の思いをどのように生み出した時間の取組として具現化していくか丁寧に話し合う中で実現してきたものです。学校が生み出した時間に込めた思いと取組のより具体的な内容は、本区研究開発学校の教育課程と同じ形で取り組んでいる滋賀県愛荘町秦荘西小学校がこの後の発表で説明をいたします。
では次に、学校管理職の立場から、教育課程編成の上で大切にしていることを御説明いたします。
【目黒区立東山小学校(村尾)】 東山小学校校長の村尾です。私からは、学校経営の視点から、学校現場での状況について二つのスライドを使って御説明をいたします。
まず、このスライドですが、1週間の午後の時程を表しています。御覧いただいた黄色のところがいわゆる生み出した時間の活用ということで、火曜日・木曜日には、子供たちが自分で学びを進めていく裁量の時間、午後は、それぞれ学校に必要な会議等を見ていただければと思っています。この時間的な資源をどう活用するかは、校長の経営方針にも紐づいているところです。もちろん午後には休憩時間45分も含まれているところです。
続いて、この生み出した時間をどのように活用していくかという点です。もちろん学校は様々現実的な課題に直面をしています。現場教員の声としては、「ねばならない」ことは年々いろいろ増えている。でも、すべきことの時間が足りないというのが大まかな声です。今までは教員の努力や、また、業務の効率化などで対応はしてきましたけれども、抜本的な解決にはなかなかつながっておらず、結局、今、学校や教員の現状を見れば、いろいろな問題があるということも御案内のところだと思います。
そこでこの生み出した時間、時間的な資源をどのように生かすことで教育の質を上げていくかというところで大きく3点挙げています。まず、一つ目は授業です。それとともに、子供たちが自主的に学習を進めていくような、いわゆる先ほど言った火曜日・木曜日の裁量の時間によって、学びに向かう力を育てていくという点が1点目。
二つ目、教員の力量。教師として成長するのはやはり学校であり、その機会と場をしっかり保障していきたいということで、学習・生活指導含め、また、若手の育成、そして、各学年の同僚性を生かしながら、先生方の知識や技能の習得であったり、また、先生方の時間的・心理的な負担も軽減をしていきながら進めていく。
3点目は学校全体の教育力ということで、本校での課題解決に必要なことということで現在研究も進めていますが、そういう時間も大きく取ることが可能になっています。40分授業午前5時間制という仕組みの導入において、それぞれ様々な学校課題の解決に向かうことができ、現在、小学校教育の質的向上には大変大きな期待を持っているところです。
【目黒区教育委員会(玉村)】 続いて、教育委員会としての関わりについて説明をいたします。
各学校で編成した教育課程を、本区では共通フォーマットの学校グランドデザインに落とし込み、作成しています。この学校グランドデザインは、研究開発学校運営指導員の甲南女子大学教授、村川雅弘先生に御指導いただき、研究開発学校全校で作成をしております。学校グランドデザインを作成することによって、各学校では、学校の実態、目指す子供像を踏まえた校長の経営方針を、生み出した時間の活用と関連付けけて考えることができます。また、PDCAサイクルを意識しながら作成することで、学校のカリキュラム・マネジメントの推進に資するものとなっています。教育委員会は、学校グランドデザインから学校の生み出した時間の取組を理解、尊重しつつ、指導主事はその取組が真にその学校の教育の質の向上に資するようなものになるよう、必要に応じて助言したり支援したりしています。また、教育委員会の支援として、本区では自治体規模で実施しておりますので、学校間の情報交換の機会を設定したり、学校単体での連携が難しい関係機関との調整や仕組みづくりを教育委員会が担っています。
令和6年度からは、生み出した時間の一部を子供たちの柔軟な学びの時間として、子供たち一人一人が自分の興味・関心や学習状況から自分に合った学びを選択する活動を研究開発学校の共通の取組として設定しています。この学びの選択の内容は、学校の実態や子供の発達段階によって異なり、各学校に合った形で取組を進めています。教科の学びから生まれた、知りたい、調べたいという疑問を探究する活動を展開している学校もあれば、教科の学びを超えて、自分の「好き」を探究する活動を展開している学校もあります。この取組は今年度始まったばかりですが、先生方の創意工夫と試行錯誤によって、子供たちの個性や可能性がより一層輝く活動になっています。
最後に、本区研究開発学校における成果を踏まえた次期学習指導要領への期待です。それは学習内容を漏れなく指導することを前提とした上で、生み出した時間を各教科等以外の特色ある教育活動や、そうした活動を実現するための教員の研究・研修等に充てることを可能にしていただきたいということです。ここまで御説明しましたように、教育の質の向上につなげるためには、教育委員会の役割は重要だと考えております。各学校の自主性・自立性を尊重しつつも、生み出した時間の活用が教育の質の向上につながっているかを把握し、伴走支援するとともに、不適切な活用があったときには是正することも大切だと考えています。また、各学校が自校の取組を保護者や地域住民に情報発信することも大切だと考えています。
本区の取組は、子供の裁量、教員の裁量、学力の維持・向上の調和点であり、こうした柔軟な教育課程が学校や地域の特色を生かした魅力と活力ある学校づくりを促し、子供たちのしなやかな真の成長につながると考えております。
以上で御説明を終わります。御清聴ありがとうございました。
【貞広主査】 ありがとうございました。
では続きまして、愛荘町より御発表をお願いいたします。
【愛荘町立秦荘西小学校(相田)】 失礼します。滋賀県愛荘町立秦荘西小学校教頭の相田と、
【愛荘町立秦荘西小学校(國寄)】 教務主任の國寄です。
【愛荘町立秦荘西小学校(相田)】 本校では今年度より、目黒区から多くの支援をいただきながら、研究開発学校として柔軟な教育課程を取り入れ、学校がよりよい方向に動いています。今回の発表では、全国どこにでもある本校のような学校が、目黒区で取り組まれている柔軟な教育課程の編成を導入した場合どのような変化があるのか、そのことを考察する一事例となれば幸いです。それでは、よろしくお願いします。
秦荘西小学校がある滋賀県愛荘町は、琵琶湖の東側に位置し、鈴鹿山系の水流に恵まれた田園風景が広がり、町内には中仙道愛知川宿があるなど、自然に恵まれ、歴史ある町です。本校は、町内にある四つの小学校の中で一番小さく、全校児童237名、4年生と6年生は2学級、ほかの学年は全て1学級の比較的小さな学校です。何事にも自分事として取り組む児童を目指し、学校に関わる多くの人の意見を伺いながら、今年度より学校教育目標を「未来に花咲く、自律的な子どもの育成」へと変更しました。
そんな本校が柔軟な教育課程を編成した理由は、このような課題があります。まず、学習面でも生活面でも年々個人差が顕著になってきており、指導が難しくなっているという課題。教員が急速に若返っており、教員の経験・スキルの差が表面化してきているという課題。そして、児童の帰宅後も様々な対応に追われていることから、ゆとりのない職場環境の改善という課題。児童・保護者は、学級担任によって変わる学校環境に不安を抱え、教員は学級の問題を一人で抱え込んでいる重圧を感じている。そんな状況を改善するために、柔軟な教育課程を編成し、そこに教科担任制や学年担任制も同時に導入することで、児童によし、保護者によし、教員によしの三方よしの学校を目指すことにしました。
今年度より文部科学省の研究開発学校として認められ、目黒区の発表にもあったように、授業の1単位を40分にすることで、年間127コマの学校裁量の時間が生まれました。その時間を1、児童の自己調整力の向上の取組、2、教員間の情報共有、3、新たな教育活動の創出に活用し、今、本校では昨年度にない変化が生まれています。
では、生み出した時間で行っているこの三つの取組について御説明いたします。まず、一つ目の児童の自己調整力向上の取組ですが、生み出した時間127コマのうち87.5コマで行っています。本校の児童は、他者に依存しがちな傾向が強いため、何事にも自分事として取り組める自律的な児童の育成を学校教育目標に掲げています。この目標を実現するため、生み出した時間を活用しています。具体的には、午後に20分間の帯の時間、秦西タイムを設定し、その中で、火曜日・木曜日は自己選択学習、金曜日は生活プランニングなど自己調整力を育成する取組を行っています。
これは、火曜日・木曜日の秦西タイムで行っている自己選択学習の様子です。この時間は、自分の苦手を克服しよう、自分の得意を伸ばそうなど、月ごとのテーマに沿って、自分で学習の目標とその内容を決め、週に2回、自分の立てた計画に沿って学習を進めます。右上の写真を見ると、一斉学習に見える見慣れた教室の風景ですが、一人一人を見ると、十人十色です。タブレットを活用し理科の問題に挑戦したり、社会の授業を復習したり、その日に学習した算数の学習を教科書を活用して復習したり、それぞれが自己決定した学習に取り組み、月初めに自分が立てた目標に向かって修正と振り返りを繰り返し、学びを調節しています。この時間について、目黒区・秦荘西小学校の合同アンケートでは、本校は85%、目黒区は92%の児童が、この自己選択学習の時間を大切だと感じています。こんなにも自分事として学ぶ児童の姿に、私たち秦荘西小学校の教員は驚いています。
金曜日の秦西タイムでは、生活面から自己調整力を育成しようと生活プランニングに取り組んでいます。この時間に土曜日・日曜日の生活の計画を立て、日曜の夜に週末の過ごし方について保護者と振り返ってもらっています。また、高学年では、生活プランニングの後に宿題プランニングも行っています。次の週の宿題一覧と週予定表を児童に配り、いつ、どの課題を行うのか、家庭学習について計画する時間にしています。生活と学習とを連動させながら、金曜日までに全ての家庭学習を提出するという仕組みです。
これらのプランニングに慣れてくると、早く仕上げた児童は、自分の身の回りを整頓する姿が出てきたことから、今では、金曜日のプランニングの時間の最後は生活リセットとして次週に向けて身の回りを整える時間になっています。目黒区・秦荘西小学校合同アンケートでは、本校は目黒区の児童と比較し、活動前に見通しを持つ児童の割合が低いことが分かります。この生み出した時間に、見通しを持って行動する児童が少ないという学校課題に対し、生活面からも自己調整力を育成できることはとても有益だと感じています。
生み出した時間の中では、ほかにも児童会行事の中で児童が思いを形にできるような時間を保障した自治の時間、自己選択学習で学ぶ内容を、単元内自由進度学習で学ぶ方法を自己決定した児童に、学ぶ方法も内容も委ねる探究の時間、学級の実態に応じて自由に活用できる学級裁量の時間など、87.5時間の中で自己調整力の育成に取り組んでいます。
【愛荘町立秦荘西小学校(國寄)】 次に、二つ目の教員間の情報共有についてです。本校では、研究開発学校の特例により、40分授業の実施で生み出した時間のうちの10分と、日課の工夫により生み出した15分の合計25分を放課後における教育の質向上のための情報共有の時間として活用しています。この効果について説明いたします。
本校では、昨年度より40分授業午前5時間制に加え、教科担任制、学年チーム担任制を実施しています。教科担任制や学年チーム担任制では、児童理解や毎日の児童の様子、各教科の授業の調整や学級経営等の情報共有がこれまで以上に必要となり、重要となります。ここで生み出した放課後のプラス25分を充てることで、この情報共有の時間を確保することができました。つまり、教科担任制と40分授業午前5時間制の親和性が非常に高いと言えます。放課後のプラス25分の使い道は、情報共有にとどまらず、OJTをはじめとした校内研修、授業力向上のための教材研究、新たな教育活動の実施に向けた取組等、様々に広がりを見せています。教員に時間というリソースが与えられたことで、多忙であった教員に時間的・心理的なゆとりが生まれ、新たな教育活動を創造していく活力や、児童を多くの職員で育てていく組織力が向上しました。
放課後のプラス25分を使っての情報共有は様々な効果をもたらしています。情報共有により、教員一人一人が問題を共有し、組織的に対応しやすくなったことで、孤立感が生まれなくなったり、多面的な児童理解ができるようになったりしただけでなく、情報共有自体の研修効果の大きさを実感しています。これまで校内研修は全職員で参集して実施していました。また、OJTは若手教員の持つ課題に対して、放課後にベテラン教員がアドバイスするという形を取ってきました。
現在もこのような研修を行っていますが、本校では情報共有を行うこと自体にOJT、研修の効果が付加されています。学年部教員が同じスタンスで児童と関わっているため、ベテランも若手教員と同じ目線で同じ実践者として問題解決に向けて考え、答えを出していくことができます。放課後に話し合ったことが翌日からの共通実践となり、若手教員はベテランの実践を同じ立場で関わる者として目の前で見て学ぶことになります。そして、放課後の情報共有の際に振り返りを行うことで、日々OJTがPDCAサイクルを回しながら繰り広げられています。
本校の教育体制は、授業力の向上にも大きな効果を生み出しています。情報共有によって児童の多面的な理解が進んだり、教科担任制と放課後のプラス25分の時間の活用によって、専門性の高い授業を生み出したりするだけでなく、教科の枠を超えて、課題解決のための「手がかりの提示」という共通言語で授業を語り合って教材研究を行うこともでき、より質の高い授業を提供することができました。また、板書によって授業を振り返る時間を定期的に持つことで、教員自身が客観的に授業を分析し、PDCAサイクルを回しながら授業力の向上に努めることができています。交換授業、教科担任制に関するアンケート結果は児童・保護者ともに肯定的な評価が多いことから、交換授業・教科担任制を支えている情報共有を中心として活用している放課後のプラス25分が結果として、児童の学びや安心感につながっていると考えております。
【愛荘町立秦荘西小学校(相田)】 最後に、三つ目の新たな教育活動の創出についてです。生み出した時間によって活気づく教職員集団の中からは、新たな教育活動が生まれています。今年度、教職員みんなで取り組んだ単元内自由進度学習がその代表例です。1学期に目黒区に視察に行った教員がその後に実践し、職員研修でその成果を共有しました。また、夏季休業中に目黒区の指導主事からその実践方法やポイントについて指導を受け、2学期に1人1実践を行いました。もちろん課題も多くありますが、実践する中で、学習の主体者である児童が学びを自分事として進める姿は私たち教員にとっては大きな驚きであり、児童が本来持つ力を引き出すことの大切さを実感しました。そして、これまでの自分自身の指導を見つめ直し、さらに、よりよい指導をしようという意識も高まりました。
単元内自由進度学習のほかにも、全職員が所属するこの三つの委員会で、自律的な児童という学校教育目標のイメージを描きながら、教育活動に関する様々なアイデアが生まれ、具体的な実践になっています。このように、放課後の余白が教員の活力となり、教育活動がブラッシュアップされ、児童に還元されていくという好循環を生んでいます。
最後に、次期学習指導要領へ期待することを述べさせていただきます。本校が柔軟な教育課程を編成し、児童にも教員にも好循環が生まれている大きな要因は、時間という資源の活用です。そこで、時間という資源が活用しやすい学習指導要領になることを願っております。具体的には次の2点です。
まず、現行の学習指導要領でも、授業の1単位時間について、各教科の年間時数を確保した上で各学校で定めることができるということになっていますが、そのことを再度周知することで、時間という資源が活用できることを全国の学校にも知っていただきたいと思います。その上で、学習指導要領の内容を全て履修するということを前提に、授業の1単位時間を短くしたことによって生み出した時間に、本校や目黒区のような研究開発学校だけでなく、一般の学校においても学校裁量で独自の取組が実施できるようになることを期待します。
目黒区・秦荘西小学校合同アンケートでは、生み出した時間について、目黒区でも秦荘西小学校でも、9割近い職員が有効だと感じています。東京都と滋賀県、地域は違えど、共に、生み出した時間で行う教育活動について大きな手応えを感じています。このような裁量ある時間が全国の学校で生まれることにより、それぞれの現状や課題、特色に応じた取組が学校ごとに実践され、それが学校に集う児童に還元される。こういったことが可能となる学習指導要領になることを期待いたします。
以上で秦荘西小学校の発表を終わります。ありがとうございました。
【貞広主査】 ありがとうございました。
それでは続きまして、奈須委員より御発表をお願いいたします。
【奈須委員】 上智大学の奈須です。よろしくお願いいたします。
事務局の資料にもありましたけれども、子供たちの多様性が量的・質的に拡大しているということがあるかと思います。文科省の調査によると、小学校4年生で、「授業の内容が難し過ぎると思う」という子供が28.2%、逆に「簡単過ぎる」という子供が27.3%、すると、授業の内容が自分に合っていると感じている子供は44.5%にすぎないという計算になります。多様性の拡大により、中間層に焦点を合わせる一斉指導では対応できない状況が生じ始めているということかと思います。
それでも現状では、OECD PISA等の結果が示すとおりコンピテンシーという意味での日本の子供の学力は世界でもトップクラスですし、学力格差も比較的小さい。つまり、公正で質の高い教育が実現できています。ただその一方で、自力で学んでいけるかという質問ではOECD加盟37カ国中34位に甘んじていました。つまり、自立した学習者になっていないということが課題かと思っています。
令和答申ではこれがまさに主題化されたわけです。正解主義や同調圧力という問題を克服し、全ての子供を自立した学習者にまで育て上げる教育を目指すという新しい教育目標の定立だろうと思います。
ではまず、自立した学習者が育つ授業づくりとはどういうものか、前回までの議論にも関わることとしてお話を申し上げようと思います。単元というのは、まとまりを意味するUnitの訳語ですけれども、単なる内容、教材、活動、時間のまとまりではなくて、子供の認識なり活動なりに照らした際に有機的な関連を持つ教材なり経験のまとまりというのが教育学的な整理かと思います。実践的には、学習者が目的や見通しを持って学べる、そういう学習過程のまとまりとすることが大切です。例えば、単元全体の学びを活用し、思考や表現の工夫の余地のあるパフォーマンス課題を設定するといったようなことなどが有効かと思います。
これは昨年11月の中等教育資料に書かせていただいた事例ですけれども、中学2年生理科の「電気の世界」、36時間の長い単元ですけれども、「電磁調理器、IHクッキングヒーターを使うとどうして温まるのか」という問いをパフォーマンス課題として設定しました。子供たちは単元の間中、この課題を頭に置いて学びます。それにより、様々な学習内容が相互に関連付き、統合されていくのです。
これは単元の終盤の様子ですけれども、この子たちは、電磁調理器に磁界が発生するんじゃないかと考え、パネルの上に複数の方位磁石を置いて観察をしています。
(動画上映)
【奈須委員】 この子たちは、自分たちで実験装置を作って、電磁調理器の原理の解明に挑戦しています。
(動画上映)
【奈須委員】 楽しい、また、個性的な活動でありますけれども、同時に、中核的な概念とか教科の本質に迫るような学びになっているんじゃないかなと思います。
単元から更に進んで、内容系統を意識できる授業づくりとかカリキュラム開発というのもとても重要です。例えば歴史学習には膨大な事実的知識が登場しますけれども、その背後には「歴史的に見て、社会はどんな要因によって変化しているのか」という本質的な問いが控えています。この本質的な問いを各時代の学習で繰り返し発し、また、それを必然とするパフォーマンス課題を設定して各単元を構成することにより、分断された網羅的な学びではなく、歴史学習全体を突き通した統合的な概念的意味理解、前回までの議論であった中核的な概念や教科の本質、いわゆる見方・考え方に迫るような学びが可能になるかと思います。
また、さきの理科でもそうでしたけれども、このパフォーマンス課題は、単元を見通して学んでいくというようなことだけではなくて、子供にアウトプットを要請すると。これが子供にとっては自身の理解状態や思考の在り方を自覚・内省し、さらに個性的に表現する機会となりますし、主要な評価情報ともなります。評価というとやたらテストと考えがちですけれども、こういったレポートや作品でも評価は十分できるんじゃないかと思います。子供にとってこういう有意味な活動、単元レベルでの有意味な活動を設定するということと、学習内容の系統性を大切にするということは、決してトレードオフにはならない、また、してはいけないということが大事かなと思います。こんな授業づくりを推進するためにも、中核的な概念、本質的な問いをよりどころに、内容系統を子供が俯瞰しながら学べるような教育課程ということが求められているかなと思います。
また、自立した学習者の育成では、情報の開示・共有が大切になってきます。例えば新しい単元に入る少し前に子供のクラウドに単元の情報をアップする。単元指導案を事前に子供に手渡すイメージなんですけれども、旅行に行くのに地図やガイドブックを手渡すのと同じですね。逆に言えば、そういった情報を与えずに主体的、個性的に学べというのは無理な注文だったんじゃないかとも思います。実際にやってみると、子供の学びに向かう姿勢は大きく変わってきます。「先生、GIGA端末で興味深い記事を発見しました」とチャットしてくる子がいて、先生も「それは面白い」ということで、その子の発表から単元の1時間目が始まる。そんな実践さえ生じてきます。
授業づくりに際し、子供の意見表明や参画の機会を設けるということも進んでいます。例えば、教科係に単元の学習計画を事前に提示して意見を出してもらって、必要に応じて先生が修正するといった学校もあります。ポイントは、その教科が苦手な子や嫌いな子にも係に入ってもらって、ここが分からないとか、ここはもっと時間がかかるんじゃないかとかいう意見を出してもらう。もちろん意見を述べて、先生がそれに応じてくれるわけですから、その子たちが一番熱心に取り組むということになるかと思います。このように、子供にとっても学ぶべき内容、身に付けるべき資質・能力が俯瞰的につかみやすい教育課程、そういう表現が望まれるかと思います。そのためにも前回までに議論されたように、中核的な概念を中心に分かりやすくシンプルに構造化された教育課程というのが大切かなと思います。
次に、多様性を包摂する教育実践のキーワードとして、「環境を通して行う教育」と「デジタル学習基盤」を見たいと思います。授業づくりの基本を1単位時間から単元に移行すると言ってきましたけれども、ならば、単元レベルで学びを個々の子供に委ねるという発想が出るのはごく自然なことかと思います。この絵にあるような景色に出会うと、子供が目の前にいないのにどうやって教えるんだという疑問を持つ方がいるんですけれども、このような実践は、教師が直接教えなくても、徹底した情報開示とICTも含めた豊かな環境を整えることにより、子供が環境に関わりながら学んでいくという教育方法上の考え方、幼児教育でいう「環境を通して行う教育」を小学校以上にも拡張するということで生まれてきたわけです。
さきにも述べたとおり、単元指導案に相当する情報を子供と共有して、子供が単元レベルで利用可能な教材や学習情報を教室や周辺の空間に配置するといったことが行われます。これは6年生の歴史学習ですけれども、どこの学校にもある土器や石器のレプリカ、様々な図版や教師用のデジタル教科書などを単元開始時に全て子供に開示・提供し、子供の必要感とタイミングでいつでも自由に利用できるようにしています。
今のような景色というのは、有能な学び手という子供観に立って「環境を通して行う教育」を主要な方法としてきた幼児教育ではごく一般的なものだと思います。ただ、幼児教育の環境が比較的長期にわたり運用できるのに対し、単元ごとに環境を整える必要がある小学校以上の教育ではイニシャルコストの高さがネックとなって、こういった取組は広がりや継続が難しいという問題が従来はありました。
これに対して、GIGAスクール構想で整備された1人1台端末と高速大容量ネットワークは、学習環境整備の省力化と高度化に大きく寄与して、この問題を一気に解消してくれます。先ほどの4地域の発表でも、「環境を通して行う教育」の原理に立脚した個別的・協働的で自立的な実践を多数伺いましたけれども、いずれもデジタルを上手に活用していたと思いますし、さらに、従来型の印刷教材や操作教材との融合を効果的に実現していると感じました。デジタル学習基盤の在り方を具体的に考えていく上でも非常に示唆的だと思います。
長期にわたり、知識は偏在し、アクセスは容易ではなく高価でした。なので、知識は教師が準備し、教室に持ち込むということしかなかったわけです。ただ、その結果、子供は教師から教わらないと学べない、学ぼうとしないという観念が生じたんじゃないかと思います。これに対してデジタル学習基盤の登場により、学習者が様々な教材や情報に、いつでも、どこからでも、何度でも自在にアクセスが可能になりました。これにより、アナログも含めた学習環境全般を豊かに整え、「環境を通して行う教育」が効果的に実現可能になっています。このことは学習者一人一人に応じた多層的な学習環境の確保により、多様性の公正な包摂と自立した学習者の育成に寄与すると思います。今後は、学習者が主体的に環境と関わりながら学ぶことを、一部のユニークな実践ではなく、より一般的な原理として促進することが大事かと思います。
次に、「個に応じた指導」についてです。小学校を例に挙げれば、平成元年版の学習指導要領からこのことは総則に記述されました。表現の推移をまとめましたけれども、現行では総則の第3の1と第4の1に記載があります。改善の視点として二つ申し上げます。
まず、デジタル学習基盤を前提とすること、学習指導要領の表現が、教師の指導から子供の学習へと変化していることなどを踏まえ、「個別最適な学び」という表現と「個に応じた指導」という文言をどう整理するかというのが重要かと思います。また、総則の第4の「個に応じた指導」は、教師の視点から描かれており、この間の様々な教育方法の開発や実践の展開状況、また、子供自身が自らに最適な学びを自己調整しながら自立的に生み出すことを大切にするという視点も踏まえて、示し方や具体例の取り上げ方について検討する必要があるかと思います。
最後に、教育課程編成における裁量拡大の問題です。既に事務局案、また、4地域の御発表でお示しいただいたとおりですが、多様性を公正に包摂し、子供が自立的に学び育つようになるには、教育課程編成における裁量拡大が基底的な要因として不可欠です。それは形式面と内容面に分けて考えることができますけれども、両者は相互作用的で、多様性の公正な包摂の十全な実現を可能とする裁量の拡大という観点から、総合的に検討される必要があると思います。
中核的な概念を中心とした目標・内容の構造化というのが内容面ということになりますが、これは前回までに議論されましたので、ここからは主に形式面についてお話します。まず、事務局案にもあった様々な特例制度の柔軟化ですが、これは推進すべきだと思いますが、留意すべき点も幾つかあるかと思います。
まず、もたらされる時数や学年等の自由度を、本来の意図とは異なる、あるいは反する目的や学力論で使われる危険性です。過度に恐れて縛りを掛けるのは余りいいことではないのですが、実際にそういったことがどのぐらい起こるのか、どんな手だてで防げるのかを考えるべきでしょう。また、運用の主体ということも大事です。基礎自治体の適切なマネジメントが行われつつも、各学校の主体性が発揮されるような方向性を考えたいと思っています。
それから次に、学年配当の弾力化です。学習指導要領が子供の発達を規定し、多様な子供を包摂する上で課題があるという指摘があります。例えば北欧などでは、このことが今できることがこの子の長期的発達や幸せにとってどんな意味があるかということを検討して、それを基盤に個別的判断がなされるというのが一般的かと思います。また、学年縛りを解除することは、飛び級なども含めた早修(acceleration)をどう扱うかにもつながります。早修は、子供の間に優越感や劣等感を生じやすく、動機付け格差をもたらしがちです。そのため、我が国の個に応じた指導の伝統の中では、学年や単元を超えず、その学習内容の範囲内で探究や活用により学びを深める拡充(enrichment)を基本にしてきたかと思います。
最後に、単位授業時間ですが、これも事務局説明にあったとおりで、現状でも例えば小学校の単位授業時間は45分に固定されていませんけれども、学校教育法施行規則第51条別表第1が45分を単位授業時間とみなした場合の時間例を示していることがやはり影響しているかと思います。いっそのこと、例えば35時間であれば1,575分と分数で書けばどうかとも思いますけれども、さすがに慣れないので奇異な感じがするかもしれません。また、別表第1は35週を基本としていますけれども、学校の授業週数平均は40週ですので、そこには5週間、1か月以上の学校裁量時数があるわけで、それがどう使われているかということを精査するということも大切かなと思います。
すみません。私からは以上です。
【貞広主査】 ありがとうございました。
ただいま14時50分です。これから5分間の休憩を挟みまして、55分から再開をしたいと思います。よろしくお願いいたします。
( 休憩 )
【貞広主査】 それでは、議事を再開いたします。質疑応答と意見交換の時間といたします。御質問や御意見等のある方は挙手ボタンを、会場にいらっしゃる方も、恐縮ですが、挙手ボタンを押していただきたいと存じます。順次、私から指名をさせていただきます。会場にいらっしゃる委員の方々もお願いいたします。
発言したい委員全員に御発言の機会があるように、また時短ハラスメント的発言をしますけれども、御発言はお一人3分以内におまとめいただければと思います。よろしくお願いいたします。それでは、いかがでしょうか。
では、堀田委員、お願いします。
【堀田主査代理】 堀田でございます。資料1-1について、DXの観点から補足説明をいたします。資料1-1の18ページですが、この調査結果はこれから学会発表するものの速報値となります。全国の学校でGIGA端末を活用して、主体的・対話的で深い学びに近づくような授業改善が進んでいるわけですけれども、今回の調査は、このGIGA端末とクラウドを日常的に活用するようになっている教師340人のデータです。学校種や年齢層の内訳は一つ前のページにございます。
この調査では、授業中にしばしば行われる教授行為につきまして、GIGA端末やクラウドを使っていなかった頃、つまりICT活用前には何分ぐらい掛かっていたか、使うようになってからは、これはICT活用後となりますけれども、何分掛かっているかについて尋ねて、単純に平均したものです。
左側の下から2番目に「板書」とありますけれども、クラウドで資料を配布できるようになったこともあって、これは時短が認められています。また、右側の学習の整理とかまとめ、あるいは子供たちの意見の把握あるいは学習活動を評価する、こういうことについては、クラウドで一覧化できることによって時短が図られていると考えられます。これらの項目は、授業中に同時に行われる教授行為ですので、単純に足したら合計の短縮時間になるわけではありませんけれども、デジタル学習基盤の効果的な活用をすることによって、授業運営上必要となる教師の活動が時間短縮されていて、その割合は恐らく授業1コマ当たり5分から10分以上になるのではないかと考えられます。しかし、青の方でも、つまり、ICT活用後の方でも0分になっているわけではないということから分かるように、教師はデジタルとアナログを上手に使い分けているし、また、時間配分が変化しているのであって、項目によって時短の割合が高いものがあるということかと思います。
このデータから考えれば、GIGA環境の十全な活用は、1コマの単位授業時間の短縮に十分つながり得ることだと考えられます。また、各教科の年間の標準授業時数内で全ての学習内容を取り扱うことにも支障は生じにくいのではないかと考えられます。また、生み出された時間は、子供の学習計画や振り返りの時間に用いられたりすることが多く見受けられますので、これらによって自己調整学習の能力の向上にもつながっているものと考えられます。
最後になりますが、この調査はGIGA環境による時短の調査ではありますけれども、同時に、日常的にこれだけICT活用を進めているそういう地域においては、子供たちに情報活用能力が身に付き、それが学習の基盤となって、各教科の学びが効率よく深まっているというデータということになりますので、そのことも押さえておきたいと思います。また、今申し上げたことと、先ほど紹介していただいた目黒区や愛荘町のような取組が掛け合わされることによって更に効果が高まるのではないかと想定できると考えております。
私からの発言は以上です。
【貞広主査】 ありがとうございました。では続きまして、オンラインから、前川委員、お願いいたします。
【前川委員】 今日は、四つの学校と、教育委員会の発表、ありがとうございました。まさにカリキュラム・マネジメントの好事例として、学校の主体性を尊重しつつ、教育委員会の適切な関わり方、マネジメントというのが大変勉強になりました。
そこで、次期学習指導要領の検討に当たって、個別最適な学びと多様性の包摂、この視点に加えて、働き方改革も意識したカリキュラム・マネジメントを推進するためには、裁量、弾力性を一定認めることはもう不可欠だと考えています。現在の教育課程特例校や研究開発学校の優れた実践のうち、特に汎用性の高いものについては一般化することが望ましいと思います。
そこで、本日の参考資料8に示されている五つの論点イメージについて申し上げますと、それぞれの学校が児童生徒の実情や学校の状況に応じて課題解決に資する言わば積極的な空白の時間を生み出し、それを何に活用するのかという視点がこれからのカリキュラム・マネジメントを進める上では極めて重要になってくると思います。積極的余白をどのように作るのか、また、それを何にどのように活用するのかという裁量権は、カリキュラム・マネジメントを真に進める上で大きなヒントともなりますし、現行の学習指導要領に示されている主体的・対話的で深い学びにつながる授業改善と結び付けることで、縦糸と横糸のような関係が構築できると思います。
今日の発表にもあったように、授業改善のための時間としたり、既存の教科の枠組みを超えた新たな学びの時間とすること、また、教育委員会と連携して、同一の中学校区内で小中学校の合同授業研究に充てるなどといったことも考えられ、より深い教員の学び、ひいては、子供たちの豊かな学びにつながるものと考えます。ただし、的確な運用を担保し、検証し、改善を図る仕組みが必要であり、教育委員会が適切に指導・助言できる仕組みを残しておくべきだとは思います。逆にこのことは、学校が保護者等に説明をする場合に、教育委員会が認めているという後ろ盾にもなろうかと思います。
一方で、このような大きな改革を進める際には、現場の戸惑いに寄り添うことが非常に重要であり、一部の学校のみの改革にならないためにも、分かりやすさに加えて、現場にその意図するところをいかに浸透させていくかということが重要であり、新たな船出から目的地に着くまでの進行過程を十分慎重に議論し、また、公開する必要があろうかと思います。時間の確保と教員への浸透により、各学校、教員が次期学習指導要領を児童生徒にとっての教科書のように大いに活用できるのではないかと考えます。
以上の点を踏まえて、積極的余白の時間の創出や活用を校長のリーダーシップの下、教育委員会と連携して戦略的に進めることで、学校単位あるいは地域単位のカリキュラム・マネジメントが可能になるのではないかと考えます。実は学年区分の柔軟化については発言したいところがあるんですが、今日は時間の関係で控えさせていただきます。また、次回の機会にお願いいたします。
以上です。
【貞広主査】 御配慮ありがとうございます。次回もしくは事務局の方にお寄せいただくということでもお願いできればと思います。ありがとうございます。
では続きまして、戸ヶ﨑委員、お願いいたします。
【戸ヶ﨑委員】 御発表ありがとうございました。時間の関係がありますので、事務局の提案にだけ絞って意見をさせていただきます。
提案の方向性は首肯できますけれども、多様性の包摂という目的からすると、新たな仕組みによる柔軟な教育課程だけではなく、前川教育長が述べていたように、教育課程の特例の一般化のための基盤作りをしていくことがまず大切だと強く思っています。
具体的には、学校が柔軟に創意工夫して考えることができるだけの時間等の保障のために、現在、勤務時間整備のための重要法案が提出されておりますけれども、働き方改革や主務教諭等による組織的な学校運営、教職員定数等の体制整備、そして教職員調整額等による処遇改善など教師を取り巻く環境整備の充実というのは極めて重要です。加えて、別途諮問の教師の質の向上に向けた議論、産官学との連携、保護者や地域への説明責任を果たす学校運営協議会の活性化、ICT活用による授業の効率化、さらには福祉部局などの首長部局との連携なども基盤作りとして同時進行していく必要があるのではないかと思っています。
また、特段の問題もなく学校で過ごしているように見えている子供たちの中にも大いなる多様性があるということから、まずは、学習の個性化および指導の個別化に向けた一層の取組など、現行の学習指導要領においても、やるべきことを自分事として一層進めていくべきです。こうした基盤作りと相まって今回の新たな仕組みの方向性が具現化されれば、包摂にも大いに役立つものでありますし、もちろん、今回方向性が示された「裁量の時間」で授業改善に直結する組織的な研究活動が可能になれば、教育の質の向上のための「余白」を生み出す上で極めて効果が大きいことは言うまでもありません。
前川教育長からもありましたけれども、文科省や教育委員会は、学校が新たな仕組みの制度設計を円滑に活用できるようにするための強力なサポートが必要になってくるだろうと思っています。一方で、学校も、現状のカリマネの実態でできるんだろうかという姿勢ではなくて、新たな仕組みを使い倒してこそカリマネが具現化されるという気概で向き合っていく必要があると思っています。
最後に、この新たな仕組みの創設に当たっては、来年度からの研究開発学校で、目黒区や愛荘町の取組と類似した柔軟な教育課程の編成を行う取組を大幅に増加させるように、次期学習指導要領の実施までにそのイメージの可視化・共有化も必要ですし、実施以降も段階的に制度の改善や拡充を検討することも大切と考えています。
なお、この冒頭にあった諮問のポイントの資料は本当によく出来ておりますので、本市では全小中学校で来年度の第1回目の校内研修で活用すると位置付けました。大いに活用していった方がいいのかなと思いました。
以上です。
【貞広主査】
では続きまして、秋田委員、お願いいたします。
【秋田委員】 ありがとうございます。学習院大学の秋田です。本日の授業時数の特例校、それから研究開発学校の取組、特に私が驚いたのは目黒区と愛荘町が、それぞれ一つの自治体だけではなく、お互いに連携をし合うことによって、研究開発の在り方も一緒に探究していくという、これからの在り方も新たに一つの可能性を示していただいたのではないかと考えました。
その中で、やはり授業時数を縛ってきたのは、これまでにもお話がありましたように、別表1の1単位時間を45分とするという記載が、1単位時間が45分だという規定のように読めてしまうことの問題があります。先ほど奈須委員は分数と言われましたけれども、45分掛ける週数の延べ時間を指しているというような形の記載の在り方を検討していくことが、一般の方により柔軟に教育課程をマネジメントしていいのだということを伝えていく意味合いを持つのではないだろうかと伺って考えておりました。
まさにタイムイズマネーではなくタイムイズパワーでありまして、時間というリソースが、教師の働き方によってこのところ見直されてきているということと併せて、この授業時数の在り方をどううまく使うのかということが考えられてきているわけです。これはすばらしいことだと思っているところであります。実際にそれをどううまく、教員同士の研修の見直し、それから教育の質の向上のために、教員の本務である、学び続け、教育の質の向上に時間をどう割り当てるのかということを、それぞれの自治体の工夫で出していただいたということがよかったと思いますし、それを私たちは探っていくべきだと考えました。
その中で、3点ございます。まず第一に、今日資料は出しておりませんが、私はベネッセでのパネル調査を行っておりまして、毎年の学習時間の変化などを見ております。実は家庭での子供の学習時間が明らかにこの数年減ってきております。それだけではなくて、「子供自身が自分で上手に勉強する方法が分からない」とか、「自分に合った勉強の方法を工夫する方法が分からない」という割合が明らかに増えています。それは勉強法をどこかで教えればいいというのではなく、今日の例えば御提示がありましたそれぞれの学校のように、探究的な学習をやって、意欲のある、わくわくは心のエンジンなので、そうした中で、実際にどう自分が学べばいいのかというような学び方を学ぶという体験が非常に重要なのではないかと考えています。
授業時数を柔軟にすることが、総合的な学習をやればいいんですねとか、地域に行けばいいんですねということではなく、先ほどありましたように、よりそれがアウトプットで自己表現や自分で学ぶ自律的な判断の時間を増やしていくんだというように、その時間というものがどういう学習の質を上げていくのかということの議論が重要になってくるのではないかと考えたところでございます。
そして第二に、そうしたことに協力するのに、教員養成部会として言いたいことは、やはり指導主事の方が教育委員会として学校を支えています。このカリマネにおいてもそこのところが大きいと思いますが、先ほどの資料にもありましたように、指導主事の業務の事務的な作業が多過ぎるわけです。もっとカリキュラム・マネジメントや教育の質のために貢献できるというような形で、自治体全体の人員や時間のリソースや、そのサポートの在り方、学校が教育システムとして時間や空間のシステムをどう作っていくのかというようなシステム的な発想で時間を考えていくことが今後必要になってくるのではないかと思います。
第三に、私は幼小等の連携にも関わっておりますけれども、柔軟に幼小、小中というような形で子供たちが円滑に移行していくためにも、入学時期の柔軟性ということが重要ではないかと考えました。
以上です。
【貞広主査】 ありがとうございます。では続きまして、こちらもオンラインから、内田委員、お願いいたします。
【内田委員】 全高長、都立三田高校の内田でございます。よろしくお願いいたします。ありがとうございます。
御発表、本当にありがとうございました。非常に参考になって、学ばせていただきました。また、冒頭にありました文科省からの説明にもございますけれども、裁量の時間の考え方など、指導時数や配分の弾力化により、児童生徒の実態に合わせて教科・科目の指導に重点的な重み付けをするということ、これは本当に意味のあることだと思っております。
すみません、海外に出張しておりまして、ボストンからの接続ですので、ちょっとずれるかもしれませんし、回線が不安定かもしれませんけれども、御容赦いただければと思います。申し訳ございません。
こういった中身が教員の本当の指導力の向上、それから児童生徒の学びの質の向上を通して教育本来の質の向上につながると私自身かなり期待しております。教育の在り方というのがだんだん変わってきているということを認識しております。
一方で気になりますのが、よく保護者や児童生徒からの声として、教科書の内容が終わらないのではないかというような不安感、それから網羅的な学習への信奉というところが、この方向性、プラスの方向性のブレーキにつながるのではないかという懸念を持っております。実際に今回御発表いただいたそれぞれの自治体や小学校でそういった声がないかということについて是非お伺いできればと思いますし、そういった声が起きる起きないにかかわらず、こういったことに対する保護者・児童生徒への理解を得るための各学校の取組、あるいは保護者等への説明につきましてお教えいただければと思っております。どうぞよろしくお願いいたします。
【貞広主査】 ありがとうございます。御質問いただきました保護者や、場合によってはまた、地域の方の反応については、一問一答という形ではなく、最後にそれぞれの学校からお答えいただければと思っておりますので、よろしくお願いいたします。
では続きまして、こちらもオンラインから、宮原委員、お願いいたします。
【宮原委員】 ありがとうございます。御説明ありがとうございました。特に各学校の取組は大変感銘を受けました。授業時間を作り出すことによって柔軟なカリキュラムを作る、特に児童や生徒が学び方を選択できるというような時間を作っているということについては、今後の学び方の非常に重要なポイントだと企業の立場でも思います。その点に関連しまして、三つほど申し上げたいと思います。
一つは、今申し上げたように、こういった時間を、一つは児童や生徒が自分で学び方を選択するということは実践を生み、また、その後、それぞれの児童や生徒が自分に合った学び方を自分で探索し、それは将来にわたって、自身の強みとか自分の適性を客観的に観察し、考える力を生み出すというふうなところにつながっていくものであって、これは社会に出た後も非常に重要なスキル・経験になると思いますので、こういった形で生み出した時間を使っていくということについては方向性としては賛同するものであります。
一方、二つ目のポイントとして、その時間を教師にとってのスキルアップの時間に充てていくということについても、環境の変化が非常に早い、激しい昨今ですので、そういった中で教師が自分の知識やスキルや考え方、授業のやり方のブラッシュアップをどういうふうにしていくかということについては十分時間を充てるということができる可能性があるということで、大変すばらしいなと思います。
その上で、教師がこういった柔軟なカリキュラムを設計するという話は、先ほど何人かの委員の先生もおっしゃっていましたけれども、そのためにどんな支援が必要なのかということについては併せて考える必要があるかなと思います。私は企業におりますので、例えばそういったカリキュラムをたくさん集めてAIを使ったモデルを作れないかと考えてしまうんですが、そういった形でもいいので、このカリキュラム設計が多くの先生たちがストレスなくできるような環境整備というのが必要なのではないかと同時に思いました。
三点目は、先ほどの委員の方がおっしゃったのと同じですけれども、こういった新しい学び方ということについては、教員の皆さんは多くの場合非常にポジティブだったということは分かったんですけれども、一方で保護者とか社会の理解をどう得るか。また、児童生徒自身が、定性的には非常によかったというアンケート結果やデータがありましたけれども、学び方や学力についてどんなプラスがあったのかということについてもしっかりと検証した上で進めていくのかなと思いました。
以上です。
【貞広主査】 ありがとうございました。では、御質問については、また後ほどお返ししたいと思います。
続きまして、石井委員、お願いいたします。
【石井委員】 今日は御発表ありがとうございました。柔軟な教育課程ということで、まず、第1回目のときも少し申し上げたことでもあるんですけれども、やっぱり現場のオーナーシップをどういうふうに高めていくのかというところが非常に重要なポイントであるということからしますと、今回時間いじりというところから、結局、時間いじりとは教育課程いじりそのものでもあるわけですよね。そのためのきっかけとなるという点において、私は今回重要な問題提起がされたかなと思っています。
そのときに、調整授業時数、それから裁量の時間という、この言葉自体が現場にとって武器になるというところですよね。その言葉を使いながら、現場がカリキュラム・マネジメント。まさにコロナ禍においても時間を短縮してやらなきゃいけないといったときに、実質的に内容の軽重を付けたりとかそういったものを十分できたかどうかという辺りが問われると思いますけれども、改めてカリキュラムをいじるということ、それは時間をマネジメントするということになってくるわけですけれども、この本丸のところが実装される、そのきっかけになるんじゃないかと思って期待しているところです。
そのときに裁量が広がっていくということであるんですけれども、この柔軟な教育課程という話は、一方でここまで議論してきております内容の重点化、この辺の話と全く無関係ではないというところです。まさに教育改革は質、それから公正、今回でいうと包摂性、それと持続可能性といった三つのトライアングルをどういうふうに両立させていくのかというところが大事かと思います。本日の柔軟な教育課程に関しては「ゆるくて深い」ということでいうとゆるさに関わると。つまり、包摂性と持続可能性に関わるわけですが、それとともに教育課程の中身の質の部分、ここをどう担保するのかということ、それから、軽重を付けていくという点においても、内容の構造化とセットで考えていくことが大事かと思います。
先ほど内田委員からもありましたけれども、逆に45分を40分でやらなきゃいけないといったときに、短い時間でせわしなくこなすみたいな形で網羅志向とか浅さ志向みたいなもの、これが強化されてしまうとこれは具合が悪い。もちろん探究とか総合とかそういったものは大事ですけれども、だけど、教科学習が時間短縮の対象みたいな、効率化の対象としか見られないということになってくると、結局のところ総合とか探究もやせ細るということになってくるかと思います。
ですから、それでいいますと、まさに1時間1時間の時間は短くなるけれども、単元というふうな形でブロック的に考えるというふうな、分散型のブロックみたいな感じで考えながら、そこで教科の専門性を働かせて、深い学びにつなげていくと。更に言うと、授業で深めるべき指導内容と、それから自由度を高めて子供たちに任せていく緩やかに見守る学習内容、この辺の切り分けが重要になってくると思うんですね。内容の重点化・構造化というのは指導内容と学習内容、この辺を切り分けるということにつながってくるのかと思います。ですので、まさに「授業とは学びへの導入である」という議論もあるわけですけれども、結局、授業が充実して、やりたいなということが広がってくる。それで、それをもっとやりたいというふうな気持ちがあって、午後の時間が有効に活用されるということでいうと、内容の重点化・構造化、この議論とセットで考えていくということが一つ。
もう一つ、この標準授業時数というものの在り方を今回改めて再考するということだと思います。標準授業時数の意味というのは、学校の学習保障機能と保護機能、この歯止めになっていたというところです。それでいいますと、授業時間と学習時間と在校時間は、これは標準授業時数という形で実は融合されていたわけです。今回の議論でいうと、授業時数としては減らすけれども、学習時間は一定担保するというのが、この個別最適な時間というか柔軟な学習時間、裁量の時間といったものの一つの正体かと思います。
その一方で、午後、帰すとなりますと、子供たちの在校時間は減るわけですね。家庭が安心・安全でないとかそういった様々なことも考えると、これまでも学童によって保障されてきたところかと思いますけれども、在校時間というふうなことにも留意しながら、子供たちの学校の保護機能、これをどういうふうに考えるかという辺りも見ておかなきゃいけないということがあります。
もう一つは、基本的に、学習時間という位置付けで学習機能、保護機能、この辺を担保するということはこれは筋が通るわけですが、一方で教師の学びの時間という形で運用する、これはそれなりにやはり条件といったものが必要なんだろうと思います。それこそ先生方の余裕が活力につながってというのは、そういう形でやっぱり子供たちの学びにちゃんとつながっていく、この点が重要です。機械的な業務削減だとかスリム化みたいな文脈で捉えられてしまうとこれは筋が通らないということになってくるかと思いますので、この辺り、一定の上限とかもそうですけれども、先生方の時間の余白は絶対必要だと思うんですが、しかし、そこについては少し条件みたいなものを考えていく議論は必要なのではないかと思います。
以上です。
【貞広主査】 ありがとうございます。では、会場から、溝上委員、お願いいたします。
【溝上委員】 桐蔭学園の溝上でございます。3点、短くコメントしたいと思います。
一つは、冒頭で事務局から提起されました、柔軟な教育課程の論点の一つである裁量的な時間(仮称)、これは私はとても意義深い提起がされたと思います。今まで指導要領の一層の構造化を進めていこうという論調で議論がされてきました。カリキュラムオーバーロードの解消、あるいは網羅主義の解消、そして子供に様々な個性的な学習を促していくという、こういう流れでございますので、そういう意味では教師の教材研究とか学校の研修等、もっとその余白をはっきり作っていくということが私はとても大事だと考えてきましたので、それの一つとしてこういう裁量的な時間というものが提起されていることはとても意義がありますし、是非落とし込んでいってほしいと期待いたします。
二つ目は、カリキュラム・マネジメントが今日は大きく出てきました。結論から言うと、学校教育目標を冒頭に、あるいはもし可能ならば、学習指導要領の説明のところで1行目に一つ行を設けて、これがとにかくカリキュラム・マネジメントの起点だという、そういう説明をしてもらえないかということです。今回の学習指導要領の中でカリキュラム・マネジメントは非常に関心を集めましたけれども、どうしてもマネジメントの途中のプロセスの話ばかりで、何でカリキュラム・マネジメントをするのかという話が学校で共有されていないことは非常に問題だと考えてきました。例えば教科等横断とか、地域の資源を活用するとか、データを用いてPDCAと、全くそのとおりなんですけれども、何のためにそれをするのかというその一番初めの学校教育目標の認識が弱い。そこを今回改めて意見申し上げたいと思います。
特に、今回、教育課程編成の柔軟化ということが各学校の裁量で進められるということですから、これはやっぱり各学校で子供のこういうところを特に注力して育てたいという目標が個性的にはっきり出てくるわけです。この話は改訂審議で大事な視点になると思います。
そしてもう一つ、最後ですけれども、奈須先生の御発表、非常に興味深く拝聴しました。教師が教えるだけの、この「だけ」というのをちょっと言っておきますけれども、「だけ」の授業から脱却するとか、子供にもう少し学びを委ねていくようなと、こういう辺りはもっともな主張でありまして、これからデジタル学習基盤も含めてこういう取組をしっかり推進していくことが大事だと私も思います。
他方で、これは学習指導要領の書き方だと思うんですけれども、こういうもので全体を作り直していくのか、あるいは推進していくのか、これまでのものの一部としてこういう話がなされるのか、これははっきり学習指導要領の書き方として落とし込まないと全国でとても混乱すると思います。
特に中学校、高校、あるいは社会に開かれた教育課程ということを考えれば大学まで、高等教育まで含めて、教えるということはとても大事なことですので、そういったこととのバランス、あるいは子供に学びを委ねたり、判断を委ねたりするのは大事ですけれども、やっぱり判断とか自律ということを基に授業とか学習を作り過ぎるというのは、これまた結構私は危険だと思っていて、そこまで人は自律とか主体的判断というのは強く持てませんので、それが簡単に持てるんだったら、こんなに世の中、主体性とか自律とか言わないわけです。だから、それが大事だという話と、それを手段にして授業を作り変えていくというのはかなり違う話ですので、この辺り、最後、学習指導要領の書き方のところで御留意いただければ助かります。
以上です。ありがとうございます。
【貞広主査】 ありがとうございます。では続きまして、オンラインから、植阪委員、お願いいたします。
【植阪委員】 よろしくお願いします。まず、今回の御提案ですけれども、学校の先生方が授業について検討する時間を捻出することも意図してくださっており、非常に画期的なものだと思っています。なお、現状でも40週ございますので、実は現行の制度で1,015時間を守りながら週28コマとし,水曜日の午後を研修の時間としている学校もあります。つまり、現状の仕組みを使っても、水曜日の午後を丸々空けることが可能です。例えば大田区の調布大塚小学校などはそれを行っています。経過措置として,そのような形もあり得るだろうと思っています。
なお、現場では、標準授業時数を大幅に超えているところが多いというのが実情だと思います。学校現場におけるマインドセットの持ち方みたいなものを変えていただくというのも何か必要なのだろうと思います。
今後,この方針に従って自由裁量の時間が大きくなると、学校の現場の先生及び指導主事の先生方は、やはりこの浮いた時間で何をするのかということが戸惑うということが想定されます。そのときに、やはり子供のつまずきとか何ができていないのかということを中心に考えていくというのはすごく大事なことだと思っています。
これに関して、奈須先生は、自立した学習者を育てるということと、それに関連して実は学び方が分かっていないんだということというのはすごく強調されていたと思います。実際子供たちが勉強の方法が分かっていないというところが、かなり大きな問題として心理学の研究でも議論されています。これは第1回・第2回の議論ともつながっているのですが、もし授業が40分になった場合には、ますますそれは意識しなくてはいけないわけです。そうすると、現状、うまく授業を聞くスキルなどは不可欠で、指導していく必要が生じます。例えば先生は「なぜ」ということを説明していても、それを子供が必ずしも聞くとは限りません。何とか量をこなして今まで勉強で何とかしてきた子というのは、40分になるとすごく困ってしまうわけなので、自由にやらせるというところだけではなくて、探究及び習得に関する学び方そのものも子供たちに指導してあげる必要があると思います。
それから、御実践の御発表、とてもすばらしかったです。ありがとうございます。今日の御発表の中にもたくさん自己調整学習など、学び方の話が出てきて、私はそれ自体は非常に大事なことだと思っています。ただ、少し留意しなくてはいけないこととして、海外だとセルフディレクテッドラーニングとセルフレギュレーテッドラーニング、日本語だと前者が自己調整学習ですが、両者をはっきりと分けています。一方で、日本ではそれの混同がちょっとあるかなと思っています。
例えば地域ですけれども、台湾ですと、例えばディレクテッドラーニングとして自由に問題を設定させるような時間を保障する一方で、それとは別個に学び方を教えています。現状、学び方といったときに、積極的に何か学び方を伝えていくというよりは、自由にやらせて、そこから自然にというようなふうに見えなくもありません。もしかしたら教えていらっしゃるかもしれないんですけれども、ただ単にやはり時間を自由に与えれば、いい学び方が立ち上がってくるわけではありません。自己調整学習の研究でも学び方、心理学では学習方略と呼ばれますけれども、かなり社会で活躍する人はそういうことを身に付けているという知見が多く上がってきていますので、裁量のある時間で例えばこういうことを教えるんだということを国の方からも積極的に論じていく必要はあるんじゃないかと思った次第です。
長くなって申し訳ありません。とても画期的な御提案だと思いますので、先生が活力を持ってやれる、すてきな日本の教育になるように願っています。ただ、学力もやはり将来子供たちが生きていく上では非常に必要ですので、ゆとり教育の二の舞にはしないということで、何が違うのかということを徹底的に考えていくべきではないかと個人的には思った次第です。どうぞよろしくお願いします。
【貞広主査】 ありがとうございます。では、野口委員、お願いいたします。
【野口委員】 一般社団法人UNIVAの野口です。インクルーシブ教育の視点から発言させていただきたいと思います。
まず、事例の御発表ありがとうございました。私、久喜市出身なんです。小6まで久喜市の当時、鷲宮町だったのですが、非常にうれしく聞いておりました。皆さんにも後で御質問を差し上げたいと思います。
4点ございます。まず、一つ前提の話をしたいなと思います。教室の多様性のこの図、いつも見せていただいていますが、今資料に示されている以上の多様性があるということを前提としていきたいなと思っています。例えば特別支援学校の対象者に該当するけれど、今、居住地、自分が住んでいる地域の学校に在籍している子が令和元年時点で2万3,000人いて、そのうち約2,600人は通常の学級に在籍しています。そういう子も通常の学級にいます。あとは特別支援学級とか特別支援学校に在籍しているけれども、一部の時間を交流及び協働学習として通常の学級で学んでいる子も当然たくさんいますので、そういった子供たちも含まれるということです。多様性の包摂の対象者は、今、特別支援学校に通っている子も含まれるということをこの場の共通理解にしたいなと思ったのが1点です。
2点目です。今回お示しいただいた方針は大賛成です。これまでは通常の学級における教育課程に柔軟性がなかったために、教室の中で包摂できる多様性には限界があったという認識でいます。そのため、特別支援学級や支援学校、不登校状態にある子供の場合は学びの多様化学校など別の場で学ばざるを得ない子供たちが増加し続けているという現状があるかと思います。そのため、どの学校でも多様な子供、誰もが参加できる教育課程を柔軟に編成できると、既存の教育課程に子供が合わせるのではなくて、目の前の多様な子供に合わせた柔軟な教育課程の編成が可能になるので、賛成です。例えば御提案にあった裁量時間に、今、通級や支援級で行われている自立活動の内容を全ての子供を対象に実施することも可能になりますよね。例えばソーシャルスキルトレーニングなど。そのほかにも、裁量時間を使って、先生方が多様な子供たちが中核的な概念にアクセスできているかなということを確認する会議をする、そういう時間を取るということもできるかと思います。
これを踏まえて、事例を挙げてくださった皆さんに御質問ですが、柔軟な教育課程を組むと、これまで従来の教育課程だと学ぶことが難しいとされてきた障害のある子供たちもその中で学ぶことが可能になる部分があるのではないのかなと思います。私もいろいろな学校を見させていただく中で、例えば自由進度学習をやっているときは交流の時間が増えるといったことをよく聞きます。そういった事例があるかどうかということをお聞きできたらと思います。
3点目です。学年区分にとらわれずに柔軟に教育課程の編成や実施が可能であることを明確化していくという方針にも賛成したいと思います。現状は、知的障害のある子供は下学年の内容、例えば5年生であっても3年生、2年生の内容を学んでいるという子供がたくさんいます。現状は、そういう子供は別の場で学びましょうとなっています。学年区分にとらわれず、異年齢で学ぶことを前提とした教育課程の編成も可能にしていくということは、下学年の教科を学んでいる知的障害のある子も同じ教室で学ぶことが今より可能になることなのではないのかと思いますので、その具体的な方向性や方法というのを今後検討していくべきだと思います。
最後に、留意点です。今回いろいろな事例を発表していただいて、本当にすばらしいなと思っています。今後、こういった特例校によって新たに生まれた余白で新たな取組をしていくという学校が増えていく中で、やっぱりそれは子供の多様性を包摂するためのものである必要があると思います。つまり、生まれた余白で新たな取組を実施することで、これまで取り残されていた子たちが更に取り残されることというのは十分に考えられるので、そういった点に留意する必要があるかなと思います。
私からは以上です。ありがとうございました。
【貞広主査】 ありがとうございました。では、田村委員、お願いいたします。
【田村委員】 よろしくお願いいたします。3点あります。本日、学校教育の可能性やカリキュラムづくりの楽しさというものを感じられる御提案、実践発表をありがとうございました。
1点目、総論としましては、調整時数の教員の時間への利用を含めて賛成です。ただ、設計や示し方としまして、例えば過去にあったように各教科を幅のある時数で示すような考え方等も含めて検討すること、それから起こり得るネガティブな点も含めて考えられる論点を可能な限り出すことが必要かと思います。
2点目、教育委員会、これは首長部局も含めてですけれども、それと学校、これは校長会が中心になってくると思いますが、その関係性が問われてくるかと思います。石井委員もおっしゃったとおり、私もコロナ禍の非常事態を思い出しました。授業日数、感染防止など限られた条件の中で行われた様々な工夫は、まさに非常事態のカリキュラム・マネジメントだったわけなんですけれども、その際に見られたのが教育委員会の主導性・支援性、そして各学校の主体性や自立性・組織性といったところのバランスの難しさでした。学校によってはもっと自主的に工夫したいという声も上がれば、詳細まで教育委員会に主導してほしいという声も上がっていたわけです。これは調査をいたしました。学校の自主性・自立性を育む教育委員会の主導性・支援性、そしてお互いの対話というのが、一層重要になってくるかと思います。
次、3点目です。カリキュラム・マネジメントの観点からです。本日は、時間の柔軟性について提案していただいたわけですけれども、提案のようになった場合、各学校は,もちろん調整時間を区分によって生み出してもいいわけですし、標準時数のままいてもいいわけです。ただ、その際どちらの場合にあっても、なぜそうなのかということを、子供たちの実態と学習目標・内容、これを鑑みてどうするのかというのを学校としてしっかりと考えるということが大事だと思います。
その際、現行のカリキュラム・マネジメントの記述のところを見てみますと、溝上委員がおっしゃったとおり、目的・目標の一層の明確化や共有化、そして納得ということが必要かと思うのですが、そこがやや薄く、目的・目標を達成するために、教科等横断的な内容の編成、ここだけに結び付いているような記述になっています。それだけではなく、本日しばしば上がりましたとおり、系統性や順序性、時数の配当、そして授業の基本的な方針など目的や実態に応じてカリキュラムをデザインするというところ、今申し上げた2点は、高校でいうとグラジュエーションポリシー、カリキュラムポリシー、ここに相当するんですけれども、そこのところが、スクールポリシーよりは少し柔らかい表現でいいと思うんですけれども、書き込まれていくといいのかなと思いました。
それから、PDCAサイクルにつきましても、ともすれば、当初に立てた計画のとおり進めていくことをチェックするかのような理解の仕方もちまたにはあるわけなんですけれども、本日の発表にあったように、年度途中であったとしても、子供たちの様子に応じて微調整をしていくというようなニュアンスも出てくるような書き込み方になるといいのかなと思いました。そして、物的・人的資源等、これに加えて、時数、これは教育委員会がやはり設置者として確保していく、担保していく、責任を負っていくそういうところだと思いますので、そこのところが重要だと思います。
そして最後に、組織的に行っていくのがカリキュラム・マネジメントなんですけれども、これは教職員だけではなく、保護者や地域、そして児童生徒も理解し、納得し、オーナーシップを、石井先生がおっしゃいましたけれども、ここのところをどれだけ感じられるのかということが大切になってくるかと思います。学校の自律性とともに、教職員の自律性、そしてそこに連なる方々も含めたオーナーシップというものが確立されるような機会に今回の御提案がつながっていくといいなと思います。
長くなってすみません。以上です。
【貞広主査】 ありがとうございます。では、松原委員、お願いいたします。
【松原委員】 全国連合小学校長会の松原です。よろしくお願いいたします。
柔軟な教育課程の在り方について具体的な事例を御発表いただきまして、ありがとうございました。本日御紹介いただいたように、これからは各地区や各学校の実態に合わせて、多様な子供たちを包摂していくために必要に応じて柔軟な教育課程を編成できる裁量を学校や教育委員会に与えていくことが望ましいと考えております。そうした前提の上で、事務局からお示しいただいた論点について4点お話ししたいと思います。
第1に、調整授業時数の扱いについてです。別の教科に上乗せしたり、新たな教科を開設したりできる裁量時間という考え方は、本日の事例からも非常に有益だと感じました。3番目の各教科等に該当しないものとして、例えば特別活動の中の学校行事等と連携させながら、教科等横断的に、児童の主体的な学びであるとか探究的な学びを充実させる時間として活用できるのではないかと考えます。
第2に、裁量時間の一部を授業改善に直結する組織的な研究活動に充てる点についてです。これも教育の質を向上させるために非常に有益であり、必要な時間だと感じました。御発表の中にもあったように、その上で、組織的の部分ですけれども、学校単位で考えるものと教育委員会単位で考えるものと両方があってもいいのだろうと考えました。
第3に、特例的な取組を可能にする条件の関連です。各学校は教育課程を教育委員会に届け出ますので、教育委員会ごとに状況を把握することは可能だろうと思います。その際、当然あらかじめ1年間の計画を作成するわけですけれども、子供の実態に応じて途中で計画を変更する必要が生じることも考えられます。例えばマイプランのような学習が充実してより多くの時間を確保する必要が出てきたり、逆に学習内容の定着が不十分な児童に対して補充的な時間を確保したりという場合などです。これまでも教科指導の中で行われてきたわけですけれども、こうした変更の余白としても裁量時間を活用できるとよいと考えます。
最後にカリキュラム・マネジメントの関連です。これは柔軟な教育課程に限りませんが、各学校・各地区の取組を共有し、お互いに活用できるような仕組み作りが必要になるということです。取組がオープンになるということは、不適切な運用を防ぐ仕組みの一つにもなりますし、同様の取組をする際に、学校ごとにゼロから始めるという非効率、そういうものを避けることができます。デジタル技術を活用すれば難しいことではないので、どこかで検討できればと思います。
いずれにしても、単位授業時間や授業時数を一律に機械的に設定するのではなく、多様な子供たちを包摂するために、各地区や各学校の実態に応じて、必要な範囲で柔軟に教育課程を編成し、教育の質を向上させていくことが重要だと考えました。
以上です。
【貞広主査】 ありがとうございます。あと9名の方が御意見を希望されているんですけれども、恐らく予定された16時までには終わりません。大変申し訳ありませんが、少し時間を延長させていただきます。その上で、16時までにどうしても退出予定だという委員の方に先に御発言いただきたいと思いますが、オンラインの方も含めて、16時までしか時間がないという方いらっしゃいますでしょうか。
では、今村委員、そして神野委員に御発言いただいた後に、奈須委員も16時で御退出と伺っていますので、皆さんの御意見を聞いた上でのコメントをいただければと思います。
ではまず、今村委員、どうぞ。
【今村委員】 今村です。御発表いただきました皆様、本当にありがとうございました。授業時間を柔軟に設計して、このような取組を今回の制度改正前に取り組まれていた方々の実践事例が今回全体に展開するようなタイミングが来たということ自体も大変すばらしくて、文科省の事務局案をお作りいただいた皆様にも本当に感謝をいたします。
今回特例校申請を国に申請しなくてもできるようになるという点もすばらしいんですけれども、やっぱりそもそも特例ではない状態にするということが重要なのかなと思っています。これを目指していくべきだと思うわけなんですが、現実的には先ほど植阪さんもおっしゃっていましたけれども、今は多くの学校が標準授業時数を上回る時間設定をしているというのが現在地です。例えば夏休みを短縮するとかして1,015時間を超える運用をしているわけなんですけれども、その背景には、現行の学習指導要領の内容を網羅しようとすると標準授業時数内では収まらないという現場の不安感からちゃんと時間を確保しているというところ、また、保護者のニーズに応えるということで、学習内容をきちんと学校でやってくれ、もしくはその時間ちゃんと学校にいてくれというニーズに応えているという側面もあるのかなと思っています。
そもそもの授業内容の方なんですけれども、今回1,015時間を下回ることをもし選択肢としていくのであれば、その時間で何を削るかということを、特例校申請において文科省申請が要らなくなるということはいいことなんですけれども、なかなかクリエイティブな発想ができるメンバーがチームの中にいないと、考えることが非常に難しいことなんじゃないかなと思います。やっぱりこの部会は学習指導要領をどうするかというところなので、学習指導要領そのものの内容をやっぱり見直して削減するということもやった上で、やらなくてもいいことを決めてあげる。その上で、1,015時間を下回れるようにするということも大切な、現実可能な形になることに近付くのかなと思っています。
事務局案を実現するために、プレゼンをなさった方々に質問させていただきたいんですけれども、もしこの取組を一般化するということ、特例校ではなくてもできる、研究校でなくてもできるということにするために、どうもこの一般化するということがなかなか難しいのかなと思うんですけれども、私にはどうしても、自由があっても、使い切れるリーダーが現場に足りないということが現在地かなと思うと、もし、皆さんの現場に属人的にすばらしいリーダーがいらっしゃるとか、優秀な指導主事さんがいらっしゃるということが今回の実現にとても寄与したということであれば、ほかの自治体でやるならば、普通の育成された指導主事さん、教育長さん、校長先生が文科省の伴走によって普通にやるとしたら、壁を乗り越えられるどんな方策があるかということ、これについて何かアイデアがあれば教えていただきたいと思います。
もう一つ、ごめんなさい、時間がないので急ぎますけれども、今、削減して裁量の時間を作るということはすごく賛同するんですけれども、現状、全国学調の前には特に行き過ぎた事前指導なども起きているというのが各県で起きていて、各地の報道機関もその発表があると、中3で全国1位にということが1面トップになるような報道を新聞がするということになっていて、それに伴って、やっぱり学校は、学習の、要は、テストで測れる学びの方に時間を寄せるということをどうしても判断しがちだと思います。なので、総合学習の時間を逆に削って、テストで測れる学びに時間を使うみたいな学校も出てきてしまうんじゃないかと思う中で、その点、渋谷のような事例、縛るというのも難しいとは思うんですけれども、子供たちの探究心にきちっと伴走していけるような学びの方に時間を確保していくという判断を学校がしていくにはどのような下ろし方があるのか、この点も事務局案が現在地であれば教えていただきたいです。
以上です。
【貞広主査】 ありがとうございました。では、神野委員、お願いいたします。
【神野委員】 よろしくお願いいたします。今回の事務局提案の柔軟な教育課程に関してはもう全て賛同いたします。その上で幾つかコメントさせていただきたいなと思っています。
まず、これは何のためにやるのかということに関しては、我々の方でもまとめて、しっかり発信していく必要があるのかなと思います。この中にも、多様な個性や特性、背景を有する子供たちを包摂する柔軟な教育課程を編成・促進するために書いてありますが、これ以外にも恐らく自立した学習者を育てるためだとか、様々な論点が出てきているように思います。私の立場から言えることであれば、やはり生成AIが爆発的に普及する中で、子供たちに今後未来社会の中で求められる力が明らかに変わっていく。当事者性とか主体性というのがより求められる。それを育てるような探究的な学習もより求められていく。そのような中で教育課程というものがより柔軟になっていくことが必要なんじゃないかなと私自身思っています。
この柔軟な教育課程も、大人たちだけが設定するというよりは、これを生徒自体が設定できるのかなど、我々としても、生徒の主体性・当事者性を高めていく柔軟な教育課程とは何なのかというところまでも明言できたらいいのかなと思ったりする次第です。そこまでやはり目標を定めていかないと、次は、保護者や地域の方々と合意していくというようなやり方になっていくと思いますが、これは私自身、校長としても地域や保護者の方々と面談しながら教育改革を進めている上でいいますと、やはり教育目標というものをしっかりと説得力を持って語れたり、一緒になって掲げられないとなかなか改革は進まないということは自分自身も直面しているところです。そういった意味でも、まずは学習指導要領上、私たちは何を目指しているからこれをするのかということに関しては、皆さんと一緒になって合意していきたいと強く思っております。
また、このように柔軟な教育課程を進めていく上で、先ほど今村委員からもありましたとおり、やはり現場としては、教科書は終わるのかということは非常に不安なものになっていきます。そういった意味でいえば、学習指導要領もそうかもしれませんが、教科書の内容自体が、削減された授業時数に対応できるような形で作成されるのか、ここに関しても一つやはり私たちとしては非常に強く言っていかなければいけないのかなとも思います。やっぱり受験対策等いろいろな学習観ということに関しては従来のものを持っている方々もたくさんいる中で、やはり新たな学びということに進んでいく大きなメッセージを私たちとして与え出していく。そのためにも今後の審議を一緒にやらせていただければと思っております。
以上です。
【貞広主査】 ありがとうございます。それでは、御退出予定の奈須委員、皆様の御意見を聞いた上でのコメントはありますでしょうか。
【奈須委員】 すみません。ありがとうございます。
まず、溝上委員からのご指摘で、そのとおりだと思います。任せるというのはほったらかすことではなくて、教材や環境をきちんと作り込んで、その教科が一番苦手な子でも自力でやれるような環境を整えるという話で、今、何か子供に任せるというのを、ただ教科書を渡して勝手にやれみたいな実践がありますが、絶対失敗します。そんなのできるわけないです。大事なことはしっかり教えた上で、しっかり任せるということが本来的な在り方で、教えるというのは内容、要は、中核概念とかその教科の本質も教えますし、植阪委員が言ったように、学び方や方法、戦略も教える。でも、いつかは一から十まで自分で歩いてみないと、いつも先生に教わっているのでは自分で歩けないんですね。だから、しっかり教えてしっかり任せる、これをカリキュラム全体でどう組むかということがすごく大事かと思います。
誤解があるんだけれども、「単元内自由進度学習」は植阪先生の言うセルフレギュレートですよね。学ぶ内容は教科内容なので、しかもあれは通常の教科時数の中でやるわけで、新たに生み出した時数でやるものではありません。方法が変わるだけですから。何かその辺はとても誤解があるなと。子供に任せると探究になるというのも誤解だと思います。子供にしっかりと習得できるような場を作るということが私は大事だと思っていて、質の高い習得が今大事だと思います。その質の高い習得というのは、石井委員が言われたように、網羅的なものではなくて、教科の本質に迫るような中核的な概念、そして今日申し上げたような教科の系統ということが俯瞰できるような学びにしていくということだと思いますね。それがすごく大事なことで。
そう考えるとまた、三つ目ですが、余白というときに、今日は時数、それから学年配当、学習時間という形式面で議論をしてきました。とても分かりやすいし、まずこちらからやるのは戦略的に大事ですが、石井委員がおっしゃったように、内容面での余白を生み出すということもとても大事です。削減するというのはもう違うんだろうと思います。網羅主義で考えるから削減という言葉になる。コンテンツを減らすという話になる。そうじゃなくて、教科の本質を押さえて、中核的な概念を中心に、その教科って一体何かということを子供がしっかりとつかみ取って、そして自在に活用できるような教科学力を目指すというのが、この前の2回で議論してきたように決定的に重要で、それを進めていくと実は余白は出来ます。だって、同じようなことを繰り返しているんだということに子供は気付きますので、結果的に学習速度が上がるということが知られています。いわゆる転移可能な学力を育成するということが大事で、網羅では転移可能にならないのですね。このような内容面での余白を生み出す、これが前回までの構造化という話です。ただ、それだけでは厳しいだろうということで、今日議論があったような形式面での余白を時数等で生み出すのだと思います。
その両方をまさにカリキュラム・マネジメントとして各校がどんなものを作っていくかということが今後問われるわけで、そこは先ほど今村委員からあったような自由度を使えるかという話になってきます。ここが最後の問題で、もちろん各学校ということもありますけれども、私自身は、各地方の教育委員会のカリキュラムの開発能力、伴走支援してやっていく能力、今日の4地域はそれがとっても充実しているし、力が入っていたと思いますね。もっとも、現状ではまだまだ難しい、できないという自治体もあるかと思いますが、できないからといって自由度を上げないといつまでもできないので、多少の混乱は覚悟して踏み込むことが大事だと思います。
すみません、以上です。
【貞広主査】
では、髙島委員、お願いいたします。
【髙島委員】 よろしくお願いします。髙島です。愛荘町さんの「生活リセット」ってすごくいいな、大人にも要るよなと思いました。
学び方を学ぶというのは、学ぶことに対して初めて直面する時期の一つでもある義務教育期にやっぱり大事だと思います。そう考えると、学び方を子供たちに委ねたような実践の数々がありましたけれども、本当に本質的だと思いますし、芦屋市が進めている「ちょうどの学び」とも共通するなと。子供の学びに向かう姿勢が変わってくるなというのは現場で見ていても思います。
今回、御提案の方向性は本当にいいなと大いに歓迎します。ただ、この方向性を現実のものにするには、三つの境界を越える必要があるんじゃないかなと思います。
一つ目が国と地方の境界です。今回の方向性というのは、地方自治体に対する大きなメッセージであり、大きなエールであり、大きな宿題だなと思います。つまり、文科省や学習指導要領をスケープゴートにもうできないということだと思います。「文科省のせいで、できないんですよね」ともう言えなくなるということだと思います。これはまさに各自治体、各学校が試されているということだと思います。
コミュニティ・スクールの利活用もそうですが、自治体間の連携とか、よい実践の横展開とか、基礎自治体それぞれが教育に責任を持たなきゃいけないということを改めてきちんと打ち出すべきではないかと考えます。これまでも良い実践の横展開をやろうとしていたと思います。これは広がっていたのか、そうじゃないならなぜうまく広がっていないか、ここは是非分析いただければと思います。
二つ目が、首長部局と教育委員会の境界です。首長部局の教育への理解は当然重要ですが、指導主事の役割と一般行政事務のすみ分けの話が出たので、触れたいと思います。先生じゃなくてもできる事務作業は切り分けようというのは分かるんですが、一方で、改めて組織の中に教育のプロがいることの意味についても考えるべきなんじゃないかと思っています。私は、基礎自治体というのは広く市民の可能性を拓く存在だと位置付けています。福祉もまちづくりも全部、市民の可能性を拓くことにつながるんじゃないかと思うんですね。となると、基礎自治体の役割というのは、ある意味、教育の一種とも位置付けられるんじゃないかなとも思うんです。となると、学校の伴走支援等に尽力するための資質向上もそうですが、「生涯学習」といわれますが、まちづくりとの連携を含めて、指導主事の面白い実践、学校外での実践の横展開も、これはプラスアルファではありますが、期待できればなと思います。
三つ目が、先生と子供の境界です。子供の主体性を大切にするということで、柔軟な教育課程の編成に関しても是非子供の声を生かせればなと思います。教育課程全体じゃなくても、例えば今日話題に出ましたが、ルーブリックでもいいかもしれません。高校生とともにルーブリックを調整している長野県飯田風越高校のような例もあります。
最後に懸念について。奈須先生の提起されていた、自由度が意図とは異なったり、反したりする可能性をどうするかという点に触れます。これは現実として起こり得ると思います。特に中学校の場合、やっぱり高校入試を意識します。ひたすら入試演習をしましょうみたいな授業になる可能性も否定できないと思います。だからこそ、高校入試をどうするか、より探究的な入試にできないかを同時に、これは今回のアジェンダとは違いますが、考えるべきじゃないかなと思います。
その他、包摂の教育課程の観点ではインクルーシブ教育の観点はとても大事だと思います。野口委員が言ってくださったので詳細は触れませんが、すべての子供を特別な存在として支援する上で大きな大きなチャンスだと思います。是非今後、引き続き議論できればと思います。
以上です。
【貞広主査】 ありがとうございます。では、続きまして、小見委員、お願いいたします。
【小見委員】 ありがとうございます。今日は参考資料1-2ということでこちらの資料を準備させていただきました。よろしかったら御覧ください。今までの議論の中で何名の方からも御指摘ありましたけれども、柔軟な教育課程を編成していくに当たって、先生方が納得感を持っていくということに加えて、保護者や地域住民に対する説明責任とか、そこから理解や協力を得ていくということが重要だと考えています。
というのも、私は地方におりますけれども、革新的な教育システムとか柔軟なカリキュラムを導入した学校において、先生方や地域住民、保護者の納得感が得られず、教育長や校長がいなくなったら、揺り戻しが起きて元のものに戻ってしまったという事例も見聞きしております。子供たちの姿や状況に応じて変化をしていくということはとても大事なことなんですけれども、保護者、地域住民も含めて柔軟な教育課程を理解し、合意形成していくプロセスを踏んでいくということが、継続・発展させていく上で重要ではないかと考えています。
私も小学生の娘がおりまして、授業時数特例校にまさに通っているんですけれども、算数、国語を減らして総合学習を増やす、そして自由進度学習をするといったときに、保護者が、分からない、これで本当に学べているんでしょうかと。やはり先ほどからもありましたけれども、受験対応できるんですかという、非常にけげんな顔をした保護者がたくさんおりました。そこで、先生方も定期的に懇談会をして、先ほどもありましたが、何のためにやるのかということとか、どういった意図で自由進度学習をするのかというところを何度も説明してくださいましたし、それは常に今も続いております。保護者発で不安を語り合えるようなたき火会をしたりとか、学習会、セミナーをしたりして、やっぱり丁寧に何度も理解を得ていく合意形成のプロセスが重要だと感じています。
加えて、コミュニティ・スクールの活用を通じて、そういった理解を得て教育課程を編成・実施・評価を行っている新潟県の事例を二つほど紹介したいと思っております。左側の学校が、田村主任視学官もよく御存じと思うんですけれども、上越市立春日小学校になります。特徴的な取組としましては、中学校区合同の学校運営協議会において、未来に期待する地域の姿、これからの社会に求められる能力について熟議をし、それを基に学校の教育目標を変更し、そしてそこから年2回カリキュラム検討会議を運営協議会の委員、地域コーディネーターも交えながら実施をしております。
カリキュラム検討会議においては、視覚的カリキュラム表という、単元のつながりが見えるものを見せながら、単元間のつながりを教科横断的に見通しながら、地域の皆さんも一緒になって活動を検討します。夏には、そこから実際やってみてうまくいかなかったこととか、どうしたらいいんだろうと悩むことを、先生方が地域の方にも運営協議会委員とも分かち合いながら、2学期以降の教育課程の改善を図っていきました。それによって、多様な方々のアイデアとか新たな発想が生まれて、目の前の子供たちの状況に合った取組をもっとやっていこうという意欲が高まったと聞いております。
右側の妙高市立斐太北小学校におきましては、春日小学校の取組に加えて、振り返りというのも年に3回、委員の方も交えて実施しています。そこにおいては、実際やってうまくいかなかったということを先生方が話しながらも、「大丈夫だよ」と先生たちを勇気付けたり、子供たちの成長を一緒に分かち合い、喜んだりする姿が見られます。また、そういった子供たちがどういった教育活動を行っているのかというのを保護者や地域住民に知らせるポスター形式のカレンダーを作成し全戸に配布をしたり、地域の歴史や文化を学ぶ副読本を運営協議会の委員が自分たちで作成し、教育課程で生かしてもらうというような取組にも発展しております。そういった中で、特色のある教育が実現できているだけじゃなくて、先生方の負担軽減とか、一緒に作っていく喜びというところも感じながら質の高い教育課程の実現につながっております。
最後はまとめになるんですけれども、学校運営協議会の主な役割の一つに、校長が作成する教育課程の編成などの学校運営の基本方針を承認するということがあります。今後、学校や地域で一層個性や特徴を出しやすくする柔軟な教育課程というのが熟議され、説明責任を果たすだけでなく、納得感を皆さんが持っていくということが必要かと思います。そこで、保護者や地域住民が参画する、プロセスに参加するという工夫がなされることで、先ほど石井委員や田村委員もおっしゃっていましたけれども、教員だけじゃなく、地域住民や保護者にもオーナーシップが高まり、柔軟な教育課程の理解とか協力というところがより一層求めやすくなるのではないかと思っております。
以上です。
【貞広主査】 ありがとうございます。では、山本委員、どうぞ。
【山本委員】 横浜市教育委員会の山本です。本日は柔軟な教育課程の編成の促進ということで、様々工夫された御提案ありがとうございました。私の方からは、これをしっかり学校で進めていく上での視点として、効果とマインドセットということで2点ほどお話しできればと思います。
一つは、授業時間の柔軟性による効果というものと、二つ目は、余白の時間の扱い方を工夫したときの効果という話になるんですけれども、こちらの資料を共有できますでしょうか。時間がない中、すみません。左側の円グラフは、これは40分で実際に授業を、今日、奈良小学校の例も出たんですけれども、具体的にやった結果、裁量のある時間が増えたかという問いに対して、約58%の教員が「そう思う」、「ややそう思う」と答えています。それに対して右側の円グラフになりますけれども、結果として子供の集中力が高まったかという問いに対しては、同じぐらいの59%の教員が「そう思う」、「ややそう思う」と答えています。
これは私たちもちょっと予想外だったわけですけれども、詳しくヒアリングなどして分析していくと、1単位時間の授業の中で、教師が軽重をかける部分や、子供に委ねる部分などが明確になったという声も聞かれました。教員にとって限られた時間をどう使うのか、マネジメントが行われた結果じゃないかと分析しています。いきなり単元とか年間カリキュラムのマネジメントとなると、負担に思ってしまう教員も多いんじゃないかと思うんですが、こうした小さいトライアルを積み重ねていって成功事例を積み重ねていくことが、柔軟な教育課程のマネジメントの実現に資すると考えております。
2点目は、次の資料なんですが、こうした余白の時間を教員個人だけで過ごすだけではなくて、組織的な取組にすることで効果が増えることが期待できるんじゃないかということです。今御覧の資料は、横浜市のIRT型の学力・学習状況調査の結果を学年の教職員で分析して15分間のショート会議を実施している写真です。先ほど愛荘町さんの提案にもありましたけれども、短い時間ではあるんですが、なぜ伸び悩んでいるか、様々な視点から分析して情報共有することで、児童生徒理解が深まっていると。さらに、次の授業のときにはこの子を意識して見ていこうと、そういう視点につながっているということが、結局は学びの質の向上につながったという声も報告されています。
これも教育委員会としてはちょっと予想外の効果だったのですが、余白の時間を授業研究や児童生徒理解につなげることで、実は教員が抱えている不安も減らしていることが分かりました。特に若い教師は、自分だけの見方や評価が本当に正しいのかと不安で悩んでいると。こうした点においても、組織的な余白の活用例も制度の設計と共に示していくことが必要じゃないかと考えております。
その次の資料は渋谷区さんの事例にもありました、こういった企業なんかとやるときには、20分を更に45分に足したりすると非常に取り組みやすいということなんですが、私の方から言いたかったことは、こういった柔軟な教育課程に向けたカリキュラムを実現するために、効果みたいなものは子供又は教員にはしっかりと伝えていくということが教員のマインドセットにもつながるんじゃないかと。そして、この教員のマインドセットということを丁寧にやることが、実は制度とか環境を作るだけではなくて、実際の何万人という日本の教員の気持ちを変えて、マネジメントしていこうという気持ちにつながるのかなと。
それに対して、これをやることの目的というのはやっぱりしっかり保護者や市民に伝えていく必要があると思っていて、そういったものが子供たちの自己調整力や、又は文科省で今進めようとしている柔軟な教育課程に向けたカリキュラムを実現に導くのかなと思っていますので、是非たくさんの学校が取り組めるような制度設計と発信をお願いできればと思っています。
以上です。
【貞広主査】 ありがとうございます。それでは、今井委員、お願いいたします。
【今井委員】 ありがとうございます。もう言うことは私はほとんどなくて、私は本当に事務局にエールを送りたいなと思って。自分はこの委員会の委員の就任を要請されたときに、ほとんど何か期待もしていなかったし、多分やっぱり学習指導要領って規制するものなんだなと思っていて全然期待していなくて、忙しいからやりたくないなという気持ちがすごい強かったんですが、事務局の方に押されて、しようがないかなと、一市民だからやろうかなという感じのそのぐらいの気持ちだったんです。そのときに、「文科省は本気です」って言っていて、「えっ、またまた」と思っていたんですけれども、でも、今日の事務局の御発表で本気なんだということが分かりました。偉い。偉いです。
今日の御発表の自治体、教育委員会と学校さんも、本当にすばらしいなと思って。やっぱり人間って規制されるとできないんですよ。本当にやりたくないの。子供の不登校もそこから来るんですね。自分で積極的にこれをやりたいと思ってやれば何でもできる。難しいことでもできる。でも、規制されてやらなくちゃいけないと思ったらできない。そういう生き物なんですね、人間ってね。だから、やっぱり今日の御発表は本当にすばらしいし、その取組が全国に広がらなくちゃいけないと思います。
でも、今村委員がおっしゃっていたように、これが分かるリーダーがどのぐらい、大半であってほしいんですけれども、でも、そうじゃない自治体を私は知っています。自治体のリーダーが施政方針演説ですかね、「私たちの自治体は、全国学力テストのポイントを何点上げることです」と年頭に言ってしまうような自治体があることも知っているわけです。それは、それこそ保護者なり、今まだそういう競争エピステモロジーとか、全国学調が学力だと思っているそういうエピステモロジーがすごく強い中で、文科省、けんか売ってるなという感じで。私も、文科省がそこまでやるんだったらそのけんか一緒にやりましょうという気持ちにすごくなりました。だから、これから頑張りましょう。
終わります。
【貞広主査】 ありがとうございます。何か事務局へのエールという話だったんですけれども、私もとても何か元気になってしまいました。ありがとうございます。
では、澤田委員、お願いいたします。
【澤田委員】 先生の幸せ研究所の澤田です。まず、今回事務局よりお示しいただいた提案はどれも賛成です。私は今井委員のように、「偉い」とはちょっと言えませんけれども。ただ、拝見して感じたのは、本当に文科省が学校現場を信頼して、そして寄り添うんだという熱い覚悟を感じた次第です。
特に特例校について学校の創意工夫の発揮が特別なことになっているという表現は本当に率直で、特例校制度があるのに現場が使わないだけだと言ってしまうこともできたところを、正しさで押し切らずに寄り添ってくださったことに本当に教員だった者として心から感謝申し上げたいなと思いました。
今回の構造化とか中核的な概念の方向性に私としては賛同していますが、難しそうと思っている教員も多くて、既にそうした声は私のところにも届いています。どの学校、どの教室でも教科の本質を理解した授業を組み立てていけるようにしていくためには、個々の教師任せではなくて、学校が組織として正面から取り組んでいくという必要があって、特に教師が子供から離れて活動できる今回の御提案にあった裁量の時間については、非常に意味があることだと感じました。ネーミング案も分かりやすくてよいと思います。
その上で、細かいことなのかもしれませんが、授業改善に直結する組織的な研究活動等という、「直結」と「研究」という言葉には限定的なイメージを持つのではないかなと懸念しています。この時間の目的である教育の質向上への授業改善を組織的に達成するには、ほかにも恐らく学校がチームになるための活動であったり、今日の御発表の中にもあった情報共有の活動など、多くの活動が関連し合ったりお互いに前提となったりしていると思います。学校の現在地に応じて授業改善に向かうために必要な活動というのは、授業改善に必ずしも直結するようなものだけではなかったり、あとは、研究という名でイメージするような高尚なものとは限らないのが実際かなと思います。「等」とあるので幅があるんだと現場で読んでくれればいいんですが、学校の真面目さゆえに自主規制のようなことになりそうかなと思ったので、例えば「直結」とか「研究」というのを省いて授業改善のための組織的な活動等とするのもありかなと思いました。
授業週数の書きぶりについてですが、学習指導要領を見ると、年間35週以上にわたって計画して、児童の負担過重にならないようにするものとするとあるので、目的は児童の負担が過重にならないようにする、平準化することと読めます。この目的の方が際立つような書きぶりにしてはどうかなと思いました。また、時数とか1単位時間についても、例えば時数表の備考欄に、45分は例であって柔軟にしていいということを明記するとか、あるいは先ほどの奈須先生のお話もあったように、表自体に分で示すというのもありかなと思いました。今日の論点からは少しずれるかもしれませんが、標準時数を上回り過ぎることによる子供たちの過重負担を防ぐことについては、標準時数ではなくて例えば上限時数とすることや、計画段階で時数が一定を超えるという場合はむしろ説明を必要とするとか、転換を促すような仕組みがあってもよいかなと思います。
最後に、もう既にできる取組は現行の学習指導要領下でしっかり進めることができなければ、次期学習指導要領の柔軟性も使い切れないのではないかと思います。今日の渋谷区の御発表でもあったように、現在でも標準を大きく上回る授業時数の見直しや、日課表の改善などによって余白作りが実現できている例もあります。今できる改善は本特別部会でも事例を共有いただくなどしながらしっかりと進めていくことが必要だと考えます。
以上です。
【貞広主査】 ありがとうございました。続きまして、オンラインから青海委員、そして、古賀委員の順番で御発言をお願いいたします。
【青海委員】 事例発表していただいた皆様、大変工夫されている事例、イメージしやすい御説明でした。また、事務局の皆様、奈須先生、それから、時間超過しているにもかかわらず、貞広先生、御発言の機会をいただきまして、ありがとうございます。
4事例の報告では、取り組んでよかったという小学校からの事例発表が多かったと思いますけれども、私は全日中の会長でありますので、同時に中学校での取組・課題にはどのようなことがあるのかな、それはどのように克服したのかということも伺いたいと思いました。というのは、中学校には時数を減じている学校は少なく、減じるに当たり、教科担任制とか高校入試などが取組を遅らせているのではないかと思っています。課題があるから難しいとせずに、ここで中学校が変わるとともに、高校入試についても変わる機会になればよいのではないかと思うからです。
今日の事例と事務局から頂いた参考資料8を見ていまして、やっぱり柔軟な教育課程が、特別な選択肢から日常的な選択肢へ転換するというのは大事な方向性だと思います。
それから、教科標準時数、これを下回る可能性については、私は幅を広げるという意味では、1割よりも増やしてもよいとも考えています。また、調整授業時数を別の教科に上乗せする、新教科の開設に充てるということについては、国の審査なしで取り組めれば各校のカリマネが進むと思います。
さらに、研究開発学校での研究成果、裁量的な時間の一部を教育の質の向上、これを目的とした授業改善に向けた組織的な研究活動に充当するという取組、これについても同様です。裁量的な時間での授業改善については、教員の経験や課題も異なりますので、校内の研修や教員個々の教材研究、また、校内にとどまらず、都道府県とか市区町村単位での研修・研究にも可能にしてはどうかと思います。この柔軟な教育課程導入に当たり、市区町村の教育委員会の伴走支援の役割はかなり大きい、必要不可欠だと思います。
以上です。ありがとうございました。
【貞広主査】 ありがとうございます。では、古賀委員、どうぞ。
【古賀委員】 京都教育大学の古賀と申します。非常に重要な御提案と御発表、大変勉強になりました。ありがとうございました。途中、本務があり中座しておりまして、理解不足や重なる点も多々あるかと思いますけれども、御容赦いただければと存じます。
幼児教育・保育を専門としている立場から、これまで幼保小架け橋プログラムなどを通して小学校現場とも関わってきました。その中で授業を拝見させていただいていて、子供が何かに気付いたり、困ったり、課題に感じたりしてつぶやいている言葉を、多くの教師が聞こえているのに取り上げない、スルーする現場を何度も見てきました。それは今日の学習内容ではないとか、この学年では扱わないとか、先生に聞くとそういう学校側の理由はあるのですが、幼児教育を専門としている人間としては、子供のつぶやきから学びが生まれるという意識でいるので、一体何のためにそうしているんだろうと不思議に思ってきました。
質の高い幼稚園の教師はむしろ子供がつぶやく瞬間を逃さないようにその発言を聞き取り、子供が感じた謎や課題にこそ学びの芽があると捉え、そのことを考えるために必要な物・環境を子供と一緒に構成し、直接的・具体的に関わりながら気付きが生まれるように援助を展開していきます。幼児教育ではそういった重要な教育内容を保障することと教育の質を保障するということをどう両立させようとしているかといいますと、資質・能力という子供の学びを見取る軸を教師が持つということが求められます。これは、幼児期の終わりまでに育ってほしい姿として前回改訂の小学校学習指導要領総則の中にも含められていますけれども、自立心や協同性といった10の姿を子供を見取る観点として教師が共有します。
その視点を持って、例えば水に浮かぶ船を作りたいと思っていろいろな材料で試している子供たちの姿を見ます。どのような資質・能力が発揮されているか具体的な姿を見取り、学びのプロセスを理解しようとします。よく浮かぶ素材の共通点に気付き始めていて、友達同士で見せ合いながら話し合っている、そういうような姿がある。つまり、そこでは、自立的に物と関わりながら、友達と共通の視点を持って課題について言葉で伝え合い、考え合う協同性を発揮していると見取ります。その上で、明日どんな素材が欲しいか子供たちにも聞きながら、更に教師の意図を含ませたものも入れたり、お互い見合うことが自然に生じるような配置を考えながら、環境の再構成をしていきます。
そこには子供の学びのプロセスを自立心や協同性、思考力の芽生え、言葉での伝え合いといった幼児期の終わりまでに育ってほしい姿、資質・能力で見取るということと、保育内容5領域とねらいという経験してほしい内容を教育的視点で組み立てるということを、発達へのふさわしさと保育内容5領域という内容整理の下に組み合わせていく教師の技量、専門性の発揮というものがあります。かなり高度なことが求められているので、指導力、観察力、理解力を持った指導者も必要です。教材研究、省察、教師間の対話の時間も必要です。そういった実践と資質・能力の見取り、教師の省察、対話、教材研究を経ての環境の再構成、そして、指導者による指導、加えて、学校運営協議会による学校評価がきっちりと循環しているところでは、質の高い幼児教育が実践されています。
小学校以降においても、授業の到達目標や学年区分にとらわれず、子供の中で生まれてくる気付きを生かして学びに没入することができるプロセスを作るには、子供の実態に応じる柔軟な教育課程編成を可能にすることのみならず、教師が子供の姿から発達や資質・能力の発揮を見取る力を持ち、それを教科内容の系統性、身に付けてほしいビッグアイデアの並びの中で整理し、位置付けることができるということが必要で、そのための仕組みを作るということが求められているのではないかと思います。まさに今日の数々の御提案はそういった方向性で期待の持てるものだと感じました。是非ともこの方法で進めていただけたらと感じた次第です。
以上です。ありがとうございました。
【貞広主査】 ありがとうございました。それでは、幾つか委員の皆様から事例を発表してくださった自治体さんや学校に御質問が出ています。
内田委員や宮原委員からは、こうした新しい教育の在り方について、保護者の反応はどうだったのか、又は社会の理解を調達するにはどのような方策が必要かというような御質問がありました。
また、野口委員からは、柔軟な教育課程を導入することによって、障害のある子供も共に学んでいけるような事例があるのかどうかという御質問をいただいています。
また、今村委員からは、こうした優れた取組を一般化するために壁を乗り越える方策について御知見があれば教えお聞かせいただきたいということと、さらに、これは事務局にですけれども、不適切な柔軟化を防ぐための方策について現時点で何か素案をお持ちなのかという御質問をいただいています。
事務局についてはまた後日でもいいかもしれませんけれども、それぞれ、今の御質問だけではなく、いろいろ御意見を委員の方からいただきましたので、それを受けてのコメントも含めていただければと思います。これから1時間ぐらいお話を伺いたいところなんですけれども、もう既に超過しているので、できるだけコンパクトにおまとめいただければと思います。
では、渋谷区、久喜市、目黒区、愛荘町の順番でお願いいたします。渋谷区さん、どうぞ。
御質問につきましても、全部ではなくて、事例としてあるものだけお答えいただければと思います。
【渋谷区立千駄谷小学校(中野)】 千駄谷小学校校長の中野です。私から二つお答えしたいと思います。保護者・地域の反応という御質問がありましたけれども、本校は今年度から探究の充実ということでやったんですけれども、予想以上に反応はなかったです。もっと来るのかな、否定的な答えが、ちょっと心配だというような反応があるのかなというのはありました。ただ、予想以上になかった。
ただ、課題として感じているのは、総合的な学習の時間でお子さんがどんなことやっているのか分かりますかというふうな問いを保護者アンケートでやったときに、大体20%ぐらいの保護者の方が、何をやっているのかよく分からないという回答をしているんです。学校としても今年、探究元年という位置付けでやってきましたので、意図的に周知をホームページとか学校だより等でやっているんだけれども、まだ20%ぐらいの保護者は何をやっているかよく分からないというふうな回答があります。ですので、今後その辺り、やはり、学校公開で探究の様子を見せるであったり、実際、2月にやったんですけれども、そういったことで、こういう取組をやっているということを積極的に出していく必要があるなと思っています。
それから二つ目、障害のある方というところなんですけれども、これは障害のある子供というわけではないんですけれども、My探究を本校では金曜日6時目に3学年から6学年までやっているんですけれども、不登校のお子さんが来るようになりました、金曜日だけ。というのはあります。先ほどどなたかがおっしゃっていた、束縛の中からというより、やっぱり自由がないと駄目だというようなお話があったと思うんですけれども、やっぱりそういうところは関係しているのかなと思います。
私から以上です。
【貞広主査】 ありがとうございます。では続きまして、久喜市の方からお願いいたします。
【久喜市教育委員会(川島)】 では、久喜市でございます。まず、保護者や社会の理解という点に関しましては、結論としては、好意的な反応が多かったように思います。ただし、それは本市の方でそれまでに取り組んできた文脈があって、ある程度理解が周知されているという条件があってこそだと思っています。本市としては、まず、校長会で最初に周知を、こういったことをやりませんかという提案をしたわけなんですが、一番ざわついたのはそこでした。保護者・地域よりも校長会で周知したときが一番ざわつきました。ただ、目的等をしっかり説明していく中で、これまでの文脈もあって大きなハレーションはなかったかなと認識しています。
では、実際、現場の方で説明したときにはどうだったかというところ、いかがでしたか。
【久喜市教育委員会(白石)】 これを取り組み始めたとき、私はまだ教諭として働いていたんですけれども、丁寧に授業参観で、授業時数特例を使って、この教科を何時間減じて、こっちが増えてというようなお話もしたんですけれど、先ほどの主幹の話を聞いて、ああ、そんなに校長先生ざわついていたんだと知らなかったんですけれども、保護者の方は思ったよりも、待ってましたというか、やっぱりそういう学びが必要ですよねということで、本市は埼玉県の中では結構カントリーサイドに位置するような市町村なんですけれども、そういうところであっても、保護者の方は大変好意的にやっています。砂原小学校なんかもすごく発信をしてくださっているので、ブログ等で、本当に1日10件とか子供たちの様子を細かく発信してくださっているので、親御さんも非常に好意的に受け止めていただいています。
【久喜市教育委員会(川島)】 本市では、やっぱりデジタル学習基盤で個別最適な学びと協働的な学びを一体的に充実するというのを進めていく中で、保護者や地域の理解も深まっていったのかななんていうふうに思っております。
2点目、特別な配慮を要する子たちにとって何が有益だったかというところなんですが、これは非常に有益だったと思っています。なぜならば、探究であったり個別最適にというところを考えていったときに、逆に特別支援教育の視点がより重要になってきたからです。一般の教員が特別支援教育に対して関心が高まるということは、結果として特別支援教育の方の質も高まり、それが相乗効果で、結果としてはみんなにとって、誰一人取り残されないという視点は確かに成果を上げているものと認識しています。
最後、乗り越える方策に関してですけれども、こちら、人によるというところはゼロにはできないと思います。やはりモチベーションがあって、目的を持って取り組む人がいなければ推進されないというのは確かにあるものと思います。これを単独の施策として考えるのではなくて、ほかの施策とパッケージの中で総合的に取り組むことが重要であると私としては考えております。
久喜市は以上でございます。
【貞広主査】 ありがとうございます。では、目黒区、お願いいたします。
【目黒区教育委員会(玉村)】 それでは、1点目の、本区の場合は45分を40分ということの中での地域・保護者の心配ということですが、そもそも本区では平成14年度から40分授業を実施していたという経緯もございまして、特に保護者の方からそういった心配はないというのが実情です。ただ、その中で特色ある教育活動については、各学校、今年度どういう取組をしているのか分からないとかという声もありまして、その点については、各学校で工夫していただいて、学校だよりとか学校ホームページで取組について周知いただいたり、学校公開の機会を新たに設定して保護者の方に見ていただいたりという形で対応しているところです。
2点目の障害のあるお子さんたちが柔軟な教育課程編成の中での変容ということについてですが、先ほど渋谷区さんのお話にも出てきた、不登校傾向のあるお子さんが、本区も個人探究的な学びをやる時間は必ず登校し、生き生き活動するという報告を受けております。併せて、この時間、通常の教科の学習の中では活躍しないお子さんたちが活躍するという事例もたくさん伺っていまして、その子たちが学級内で新たに居場所を持ったり、ほかの子たちといい関係を持ったという事例もよく聞いています。
それと併せて、子供の変容ではありませんが、教員自身が子供たちに「学び方を学ぶ」ことを意識させる等、教える部分で不足していることにここでの学びの活動を通して気付いたということもありまして、そういった意味でも特別支援的な観点からも、教員の方の学びになっていると捉えております。
最後、柔軟な教育課程編成を実施する上で一般化することのアイデアということなんですが、属人性を超える仕組みづくりは重要と捉えていますが、やはり柔軟な教育課程編成をする上で、校長先生のリーダーシップとミドルリーダーの活躍というのは絶対必須だと思っています。ただ、その中で、本区の取組としては、説明の中でも御紹介させていただきましたが、学校グランドデザインを共通で作っていることと、それを学校を超えて共有していることが一つアイデアとしてはいいのかなと思っています。もう一つは、教務主任とか生活指導主任とかそういったミドルリーダーを集めて情報共有の機会を設定しており、横のつながりを持って学校間の情報交換ができているという意味で一つの仕掛けになっているのではないかなと捉えております。
以上です。
【貞広主査】 ありがとうございました。安心してみんなで変われる仕掛けを作ってくださっているというところですね。ありがとうございました。
では最後に、愛荘町、お願いいたします。
【愛荘町立秦荘西小学校(相田)】 今の問いに一言で答えるなら、誠実さしかないのかなと思っています。まず、本校の場合は、目黒区の援助があったということが非常に大きいんですけれども、いきなり滋賀県の愛荘町という全く東京と関係のないところで東京と同じことをするということで保護者もびっくりされました。ということですので、早めに周知をし、昨年度の2月に保護者説明会、あと、やはり学校の主人公である子供たちにもきっちり説明しようということで3月に子供たちの説明会をしました。
その後が大事なんですけれども、変えたことに対して子供たちの反応や保護者の反応をしっかりとフィードバックして応えていく、そこが誠実さだと思います。4月が終わり、1か月経って、子供たちや先生方に新しい日課について調査をすると、やはり午前中40分で5時間するので忙しいという意見が非常に多く、あと、休み時間を5分削ったため、そこをもっと増やしてほしいというような意見も出てきました。特別支援学級の先生たちからは、やはり移動教室とかで特別支援学級に在籍する子供たちがせわしなく動いていることは課題に感じるということもお聞きしました。
そこで考えたのが、ちょうど1学期までは6時間目を45分でしていたので、その5分をどこか午前中の休み時間に付け替えようということです。そこは児童の代表を呼んで児童会と一緒に考えて、中休みを5分増やして20分にするのか、それとも、5時間目の前に5分休みを10分休みにするのか、その二つの案を3日間ずつ子供たちと体験しまして、子供たちと先生方の投票で、どちらにするかを決めたわけです。その結果、中休みが20分の案になりました。子供たちも自分たちで決めた日課ですから、時間も守りますし、先生方も午前中にちょっと休憩する時間が出来たということで好評でした。というように、変わったことに対して必ず意見を聞きながら、子供たちや保護者にフィードバックしていくことを誠実に実践しました。
40分授業をすることでやはり学力のことも保護者は大変心配されました。本校では学期末にいつもまとめテストを期末テストと名づけて3年生以上で実施しています。そこで、この期末テストの結果を、45分授業でやっていた昨年度と、40分授業でやっている今年度とで同集団での比較結果を開示しました。授業が5分短くなっても、学力に大きな変化は見られないという現時点での結果を開示しながら説明しているところです。このように変化したことについて誠実にしっかりと説明していくということが一番大事かなと思っています。
最後に、越えるべき壁は、こういう大きな変更をしようとするとき、今までどおり45分授業でなぜ駄目なのか、なぜこういう変化が必要なのかということは必ず言われます。ただ、皆さんがここで議論されているように、2030年代から40年代の社会に目の前の子供たちが出ていくときに困らない教育をしたい、そこが原点ということだと思います。我々教員はどうしても忙しい毎日の中で、学校と家との往復の中で、これまでの自身の経験則に頼りがちになってしまうんですけれども、新たな視点を持ちながら、目の前の子供たちのために何ができるかということを思いながら新しいことをチャレンジする、そこが大切だと思っています。
以上です。
【貞広主査】 ありがとうございます。それぞれ大変貴重な応答をいただきまして、ありがとうございました。
大幅に時間を超過してしまったことをおわび申し上げます。ということで本日の議事は以上といたします。
貴重な御報告をくださったそれぞれ渋谷区、久喜市、目黒区、愛荘町の皆さんに改めてお礼を申し上げます。どうもありがとうございました。
それでは最後に、次回の予定について事務局よりお願いいたします。
【栗山教育課程企画室長】 次回は4月10日9時半から12時まで、個々の児童生徒に着目した教育課程の特例について御議論いただきます。また、後日御連絡差し上げます。
【貞広主査】 では、以上をもちまして閉会といたします。ありがとうございました。
―― 了 ――
電話番号:03-5253-4111(代表)