義務教育の在り方ワーキンググループ(第1回)議事録

1.日時

令和4年10月17日(月曜日)17時00分~18時30分

2.場所

文部科学省 ※WEB会議
(東京都千代田区霞が関3-2-2)

3.議題

  1. 義務教育の在り方ワーキンググループについて
  2. 個別最適な学びと協働的な学びの一体的な充実に向けた学校教育の在り方 に関する今後の検討事項について(子供たちに必要な資質・能力と学校が果たす役割について/全ての子供たちの可能性を引き出す学びの実現について)
  3. その他

4.議事録

【前田教育制度改革室長】 定刻となりましたので、ただいまから、中央教育審議会初等中等教育分科会個別最適な学びと協働的な学びの一体的な充実に向けた学校教育の在り方に関する特別部会の義務教育の在り方ワーキンググループ第1回を開催させていただきたいと思います。
 先生方、御多忙の中御出席いただきまして、誠にありがとうございます。私、文部科学省の教育制度改革室長の前田でございますけれども、冒頭の議事進行は私のほうで進めさせていただければと思います。
 まず、今日、第1回目ということもございますので、開催に先立ちまして、初等中等教育局長の藤原から委員の皆様に御挨拶を申し上げたいと思います。

【藤原初等中等教育局長】 失礼いたします。初等中等教育局長の藤原でございます。
 委員の皆様方におかれましては、御多忙のところ参加をいただきまして、誠にありがとうございます。
 昨年1月に示された令和答申を踏まえ、個別最適な学びと協働的な学びの一体的な充実に向けて、全国の学校現場では様々な創意工夫が行われているものと存じます。また、こうした中で、教職員をはじめとした学校関係者の皆様方が大変な御努力をいただいておりますこと、心から感謝申し上げたいと存じます。
 現在、Society 5.0時代に向けて社会変化が加速度的に進んでおります。このワーキンググループでは、今後の新たな教育の可能性を見据えながら、学校を中心とする学びの基本的な考え方を整理いただくとともに、1人1台端末等の活用を含め、多様で柔軟な学びの具体的な姿を明確にしていただきたいと考えております。
 本ワーキンググループでの議論は、今後の教育の在り方に関わる大変重要なものとなっていくと存じます。委員の皆様方におかれましては、それぞれの御専門や御知見を生かし、どうぞこの議論を深めていただきたいと存ずる次第でございます。これから新たな課題に向かっていくということで、ある意味長丁場になっていくかと存じますけれども、どうぞよろしくお願いを申し上げます。

【前田教育制度改革室長】 続きまして、本日の会議開催方式及び資料につきまして、御説明をいたします。
 まず、本会議は、新型コロナウイルス感染症の感染拡大を防止するため、ウェブ会議にて開催させていただいております。円滑に行う観点から、大変恐れ入りますが、御発言以外はマイクをミュートにしていただくようお願いいたします。カメラにつきましては、御発言時以外も会議中はオンにしていただきますようお願いいたします。委員の皆様には御不便をおかけすると思いますけれども、何とぞ御理解のほどよろしくお願いいたします。
 また、ウェブ会議形式での開催に当たりまして、音声が聞き取りやすいよう、会議室におります委員、それから事務局につきましては、発言する際にはマスクを取って発言させていただきます。必要な感染対策を行った上での措置となりますので、その点を御承知おきのほどよろしくお願いします。
 それでは、資料を確認させていただきます。本日の資料でございますけれども、議事次第にございますとおり、資料1から資料7まで、加えて参考資料が1から7までとなっております。このうち参考資料2は、先日取りまとめられました、特定分野に特異な才能のある児童生徒に対する学校における指導・支援の在り方等に関する有識者会議の審議のまとめです。参考資料3は、本ワーキンググループと同様に特別部会の下に設置されております、教科書・教材・ソフトウエアの在り方ワーキンググループの中間報告となっております。また、参考資料4と5につきましては、産業構造審議会教育イノベーション小委員会において取りまとまった中間まとめと、総合科学技術・イノベーション会議Society 5.0の実現に向けた教育・人材育成に関する政策のパッケージとなりますので、御参考までに配付をさせていただいております。
 それでは、まず、議題(1)義務教育の在り方ワーキンググループについてでございます。資料1を御覧いただければと思います。今、画面上も共有させていただいておりますけれども、設置の目的の1パラグラフと2パラグラフまでは、令和答申を踏まえた特別部会の設置と、教科書・教材等ワーキンググループで議論がされているということに加えまして、3パラグラフ目ですけれども、個別最適な学びと協働的な学びの一体的な充実に向けた学校教育の実現のためには、ICTを活用した学び、その推進に当たっては、今後の新たな教育の可能性を見据えて、学校を中心とする学びの在り方の基本的な考え方を整理するとともに、1人1台端末の活用を含めた多様で柔軟な学びの具体的な姿を明確化することなどが求められるとしております。2ポツが主な検討事項、大きなものとして、義務教育の意義と学びの多様性というふうに設定しておりますけれども、それぞれの丸1番、丸2番から丸4番、これにつきましては、後ほどまた資料で御説明をさせていただければというふうに思っております。
 このワーキンググループですけれども、10月3日の特別部会で設置が決定されております。
 次に、資料2を御覧いただければと思います。本ワーキンググループにつきましては、特別部会の運営規則に基づき運営をしていくこととなっております。
 本運営規則の第2条第2項におきまして、ワーキンググループに属すべき委員は部会長が指名すること、また、第3項におきまして、ワーキンググループに主査及び主査代理を置き、ワーキンググループに属する委員のうちから部会長の指名する者がこれに当たるというふうにされております。
 これらの規定に基づきまして、荒瀬部会長の御指名により、本ワーキンググループの委員は資料3のとおりとなるとともに、主査は奈須委員、また、主査代理につきましては秋田委員に御就任いただくことになりました。
 それでは、初回でございますので、資料3に沿いまして、委員の皆様を順番に御紹介させていただきたいと思います。オンラインの会議ですので、委員の先生方におかれましては、会釈のみで御挨拶をいただければと思います。名簿順に従いまして、参りたいと思います。
 まず、秋田喜代美主査代理でございます。
 荒瀬克己委員でございます。
 鍵本芳明委員でございます。
 柏木智子委員でございます。
 黒沢正明委員でございます。
 小柳和代委員でございます。
 貞広斎子委員でございます。
 戸ヶ﨑勤委員でございます。
 中谷一志委員でございます。
 奈須正裕主査でございます。
 水谷年孝委員でございます。
 若江眞紀委員でございます。
 なお、本日は今村久美委員、野田正人委員、堀田龍也委員が途中からの御参加と伺っております。
 また、本運営規則第3条によりまして、本ワーキンググループは公開を原則としております。本日は、報道関係者等一般の方向けに、本会議の模様をYouTubeにて配信しておりますので、御承知おきいただければと思います。
 また、会議の傍聴につきましては、同規則第4条により、会議を撮影、録画、録音する場合は、主査の許可を受けるとともに、事務局が定める手続により申請する必要がございます。傍聴の皆様におかれましては、あらかじめ御了承いただければと思います。
 それでは、ここからの議題進行につきましては、奈須主査にお願いしたいと思います。奈須主査、よろしくお願いいたします。

【奈須主査】 改めて、奈須でございます。よろしくお願いいたします。主査を務めさせていただくに当たり、一言御挨拶を申し上げたいと思います。
 今回のこの義務教育の在り方ワーキンググループということですけれども、思えば、今年は学制からちょうど150周年になりますね。一番古い小学校が今年150周年を迎えているということも全国にあるかと思いますけど、この150年というのは、長いのか、まだまだ短いのか、いろいろなことを考えさせるわけでございます。
 この150年間にいろいろなことがあったと思います。その都度、義務教育というのは何を目指してどうあるべきかという議論は真摯になされてきたし、そのたびに現場の力で、あるいは地域の力で学校というのは刷新し、深まってきたんだろうと思いますけど、またこの段階で、この令和の時点でいろいろな変化が起きてございます。その変化をどんなふうに受け止めて、どんなふうに日本の義務教育を創造、創生するのかということ、そのことをかなり原理的にしっかりと考えていこうということかと思います。
 この後、また主な検討事項というのが出てまいりますけども、資料1に既にありましたように、義務教育の意義、学びの多様性、とても大きいといいますか、原理的なことを改めてしっかりと確認しようと。なかなかこんな機会はないんだろうと思います。是非委員の皆さん方から、多方面から御見識をいただいて、いい形で深め、また、豊かな議論がなされるといいなと思います。
 私自身はとても不慣れで、議事進行について御迷惑をおかけすることが多いかと思いますけれども、皆さんのお力添えをいただきまして、何とか進めていきたいなと思います。引き続きよろしくお願いいたします。
 それでは、これより本日の議題に移らせていただきます。議題(2)、個別最適な学びと協働的な学びの一体的な充実に向けた学校教育の在り方に関する今後の検討事項についてです。
 事務局より資料の御説明をお願いいたします。

【前田教育制度改革室長】 資料4と5と6でございますけれども、まず、資料4につきまして、特別部会第2回、10月3日に行われました特別部会で出された主な意見を御紹介したいと思います。
 1ポツの今後の特別部会における議論についてですけれども、教育の在り方やビジョンを示すだけにとどまらず、どのように実現・実装するかについても議論すべきという御意見がございました。
 また、二つ目の丸、高校教育の在り方ワーキンググループにおける議論も見えるようにしておくべきということです。これは、幼児教育と義務教育というつながりもございますので、このワーキンググループでは様々な会議での議論を俯瞰して見取れるようにするということだというふうに理解しております。
 それから2ポツ目、子供たちに必要な資質・能力と学校が果たす役割ですけれども、一つ目の丸、改めて日本型学校教育の世界に誇れる強みと弱みを再整理することが必要で、二つ目の丸、学びの多様性について議論する際は、子供と地域とを切り離さないよう留意することが必要ということです。
 3ポツ目に参りまして、一つ目の丸ですけれども、日本の教師は伴走者として、時には生徒から離れたりしながら、これまでの授業スタイルにとらわれず、1人1台端末を用いた子供の主体的な学びを支援すべき。二つ目の丸、学習者である子供を主語にした学びのリデザインについての議論も深めるべき。三つ目としまして、優れた実践例の実践が可能となるような背景、要因、まだ実現に至っていない事項を分析し、横展開のポイントを示すことが不可欠。横展開のためのボトルネックの分析を行い、何らかの意図的な仕掛けを考えていくことが必要。中学校における授業改善についても議論すべき。それから、学校施設について子供に与える影響は大きく、個別最適な学びのための校舎とはどういうものかについても議論する必要があるという御意見がございました。
 4ポツですけれども、私たちが求めている学びの学習規律というのは、伝統的な学力観の規律とは異なっている。先生方にそれを認識してもらえるようなメッセージ性も必要じゃないかという御意見です。
 5ポツ目ですけれども、学校と学校外だけでなく、教室での学びにおいての検討。それから、最後に、質の高い一定以上の教育を全ての地域の子供たちに届けるためのデジタルの活用といったときの教師の在り方について議論が必要という御意見がございました。
 こういった様々な御意見も踏まえまして、資料5といたしまして、義務教育の在り方ワーキンググループの当面の検討事項というものを整理させていただいております。設置紙を少しブレークダウンした形になっておりますけれども、1ポツ、義務教育の意義の子供たちに必要な資質・能力と学校が果たす役割。令和答申で掲げられた資質・能力を前提としまして、豊かな人生を切り開き、持続可能な社会の創り手となる子供たちに必要な資質・能力の育成において学校が果たす役割は何か。知・徳・体を一体として育成する日本型学校教育ならではの学びの視点を踏まえて、どのような整理が可能かということですけれども、子供同士あるいは教員同士と触れ合いを通じて、知・徳・体を一体として育成する日本型学校教育の良さを継承しながら、同一性が高いと言われております学校教育を、デジタルの利点ですとか、民間の力なども借りながら、いかに多様なものにしていくかという論点です。
 二つ目の全ての子供たちの可能性を引き出す学びの実現ですけれども、正に通常学級にいる子供たちを含めまして、より多くの出番をつくるという観点からのどのような学びの実現を考えるべきかという点です。
 2ポツの学びの多様性ですけれども、一つ目、個別最適な学びと協働的な学びの一体的な充実を通じた主体的・対話的で深い学びの具体化としております。1人1台端末の活用を含めて、多様で柔軟な学びの在り方ということですけれども、そういったものについて、全国の学校や教室において実現するためには、どういう課題があって、どういう方策が考えられるか。
 二つ目の多様性と包摂性に基づく学校文化の醸成といたしまして、グラデーションのある学校教育というふうに書いてございます。いろいろな子供同士が関わり合う学校ですので、そうした中で義務教育での人格形成、全人的な発達をさらに進めていくと。そのためには、子供一人一人の特性に応じて、その子なりにできることを伸ばすというような意識改革といったものも必要かと思いますけれども、そうした学校文化の醸成の論点です。
 三つ目の学びにおけるオンラインの活用ですけれども、場所と場所をネット環境下でつなぐという趣旨で、僻地の小規模校、小学校が一つ、中学校が一つという自治体が、今、全国の1割ぐらいございますので、学校の良さを生かすためのオンラインの活用、それから、不登校特例校等における遠隔授業の活用・推進、また、NPO、民間企業で様々なオンラインプログラムがございますけれども、そうしたオンラインを活用した学びの充実についてどのように考えるか。
 最後に、学校教育になじめないでいる子供に対する学びの保障ですけれども、不登校特例校、学校内の別室、教育支援センター、フリースクールなど、学校内外の様々な学びの場を充実する、そして充実した上で、その学びの場の質保証についてどういった方策が考えられるか。
 また、学びの場を充実した際には、保護者、子供がそこを知って、そこにアクセスできるような提案・提供する仕組み、それから、地理的事情等でなかなかアクセスできないという状況についての確保の方策といったものについて検討事項として挙げてございます。
 以上が資料5です。
 最後、資料6ですけれども、この資料につきましては、現行制度ですとかルールといったものから入りますと議論がおのずと幅が狭まるおそれがありますので、できるだけ実態ですとか、関係者の声といったものを拾った資料づくりにしてございます。
 まず、1ページ目は、当面の検討事項ですけれども、先ほど御紹介させていただきました、義務教育の意義の一つ目、二つ目の検討事項の抜粋です。
 それから、2ページ目以降でございますけれども、育成すべき資質・能力の三つの柱として、指導要領で知識及び技能、それから思考力、判断力、表現力、学びに向かう力、人間性というもの、こういったものを具体的にお示ししております。
 三つ目、3ページ目以降は、令和答申のおさらいでございますけれども、子供たちに求められる資質・能力としまして、一つ目に読解力ですとか、自分の頭で考えて表現する力、それから、豊かな情操、自己肯定感・自己有用感ですとか、体力の向上、健康の確保が指摘をされております。
 また、国際的な動向として、持続可能な社会づくりにつなげていく力、最後に、ウエルビーイングを実現していくために自ら主体的に目標を設定し、振り返りながら責任ある行動を取れる力も指摘されております。
 こうした資質・能力を育成するため、次のスライドですけれども、学校教育の意義といたしまして、全人的な発達・成長を保障する役割、また、居場所・セーフティーネットとしての身体的、精神的な健康を保障する福祉的役割もあるだろうと。日本型学校教育の強みに留意する必要があるという御指摘です。
 ただし、この強みは子供のためであれば頑張る教師の献身的な努力によって生まれている反面、学校の役割が過度に拡大をしていく要因となりえると。学校が、直面する様々な課題に対応するため、国において抜本的な対応を行う必要があるということを御指摘いただいております。
 最後に、今後も学校が全ての子供たちに安心して楽しく通える魅力ある環境であること、福祉的な役割、居場所としての機能を担うことが求められていることで、様々な課題を乗り越えて、一人一人の可能性を伸ばしていくことが必要だと指摘をされております。
 それから、次のスライドですけれども、こちらも学校教育の意義ですが、一つ目は学校臨時休業中ですけれども、これまでの学校教育では、自立した学習者を十分育てられていなかったのではないかという指摘もあると。
 二つ目ですけれども、学校ではみんなで同じことを同じように過度に要求する面が見られて、同調圧力を感じる子供が増えていったという指摘がある。
 最後に、学校の多様性と包摂性を高めるという観点から、一人一人の内的なニーズや自発性に応じた多様化を軸にした学校文化、個別最適な学びとと協働的な学びを適切に組み合わせた学習を実施していくべきであるという指摘がございます。これまでが令和答申での整理ということになります。
 6ページ以降ですけれども、義務教育と高校教育を終えた成人年齢1年生での意識ということで、日本財団が調査しているものです。対象国は、日本、アメリカ、イギリス、中国、韓国、インドですけれども、「自身と社会の関わりについて、どう思うか」という問いにつきまして、日本は全体的に低い状況がありますけれども、「国や社会に役立つことをしたい」という社会貢献意欲は比較的高いという結果が出ております。
 また、自国で暮らす大人にとってどの程度重要かというものについては、個性を発揮すること、あるいはリーダーシップを発揮することが社会では評価されないんではないかという認識を持っている可能性があるというデータです。
 それから、7ページ目のスライドですけれども、学校で勉強する意味として重視したものですが、左のグラフの日本の5位を御覧いただきますと、「目指したい目標が見つかる」というのは一番低い状況になっております。ただ、一方で、2位には「自分の関心が広がる」という回答になっておりまして、学校で勉強することの意味というのが見いだせない割合は高いんですけれども、自分の関心は広めたいということで、自分の関心を広めることと学校での勉強というのがなかなかリンクしていないという状況かと思います。
 また、右の棒グラフの下の「特にない」というのは、これは学校で勉強する意味が特にないという意味ですけれども、日本が突出して多いという状況です。
 最後に、18歳の意識調査で、なりたい職業ですけれども、これにつきましても、「特にない」ということが他国と比べて突出して高いという状況でございます。
 次の9ページのスライドですけれども、18歳よりも下の世代が含まれる子供の意見です。これはCSTIでのアンケート結果の概要ですが、左上から教室、クラスの在り方、スタイルは多様化していくべきだという意見、それから下に参りまして、対面の授業の場を貴重な機会として大事にしていってほしいと。デジタルの力を適材適所利用しつつ、対面の機会を活用するシステムの構築をお願いしたい。それから、右上へ参りまして、自分の個性を生かしたり、ほかの人と違うことをやったりすることを強制させられるのは苦しいと思う人もいるんじゃないかという意見、それから、右下ですけれども、コロナ禍においていろいろな人の意見、個性、特徴、顔色、集団としての成長や得るものの大きさは何にも変えられないという意見です。
 続いて、10ページ目ですけれども、一つ目が、生徒が授業を進めていくという感覚を持たせることが大事だという意見、教師は方向性を修正するサポーターとしての役割を果たすべきだという意見と、左下に参りまして、個別最適な学びという言葉はあるけれども、それを高校生にやってくれと言われても、自分では思いつかない、大人が試行錯誤の方法を教える機会が必要だという意見です。また、右上に参りまして、「好き」や「夢中」を見つけるためには、本気で触れてみることが大切。最後に、小学校4年生ですけれども、今の学校で皆一斉に同じことを同じようにすることを求められるのは苦痛だと。ほんの少しでも新しい要素が入れば、毎日がもっと楽しくなるという意見です。
 11ページ以下は、こういった子供たちの様々な意見に加えまして、特異な才能、不登校の状況について。まず、11ページ、特定分野に特異な才能を持つ子供本人の回答、レベルが合わない、教材が合わない、話が合わない。それから、保護者等の回答ですけれども、レベルが合わない、教師と合わないという意見がある一方で、楽しかったクラスもあったということで、考え方を発表させてくれた先生のクラスは非常に楽しかったと申しておりましたと。それから、係で自己評価が上がった。課外であるため、自由度も高く、肯定的に評価されることも多く、本人の自己評価にも役立っているという御意見もございました。学校の良さを生かしたり、教師の工夫によることで、多様な子供を受け入れることの可能性を示唆しているデータかと思います。
 それから、12ページのスライドですけれども、小・中学校における不登校の状況、8年連続で増加し、過去最多という状況です。
 不登校に関連しまして、次の13ページのスライドですけれども、日本財団の不登校傾向にある子供の実態調査です。丸1-1というのは、学校に行っていない状態が一定期間、30日以上欠席ということですけれども、それ以外に不登校傾向として、仮面登校でございますとか、授業には行っているんだけれども、みんなと違うことをしている子供、それから、心の中では学校に通いたくない、学校がつらい、嫌だと感じている子供等々含めて、不登校傾向にある児童生徒が推計値で33万人というデータが出ております。
 それから、次のスライド14ページですけれども、学校に行きたくない理由でございますが、左側は不登校でない生徒です。右、丸1-1ですけれども、例えば、「学校は居心地が悪い」ですとか、「友達とうまくいかない」「授業がよくわからない」、最後に丸5番で、基本的に教室にいるんだけどもという生徒につきましては、「学校に行く意味がわからない」「学校は居心地が悪い」というデータが上のほうに来ているという結果です。
 それから、スライド15ですけれども、不登校傾向にある中学生の状況で、これは対象者が不登校、または不登校傾向にある現中学生と卒業生ということで、「あなたはどのような場所だったら学びたいと思いますか」という問いについて、一番多いのが「自分の好きなこと、追求したいこと、知りたいことを突き詰めることができる」、それから「自分の学習のペースにあった手助けがある」ということで、自分の学習進度に合った学びを求めているという結果です。
 16ページ以降が教師を取り巻く状況や意識ですけれども、40代の中核となる年齢の教員の割合が小・中共に減少していると。そういう状況のデータです。
 次の17のスライドですけれども、転職を理由にした離職ということで、離職理由の右の黄色いグラフのうち、転職という理由が、年度を追うごとに上がっているというデータです。
 それから、教職員の時間外勤務の経年比較ということで、時間外勤務月45時間以下の割合、令和3年の5月ですけれども、平成30年度の5月と比較しまして、小学校23ポイント、中学校19ポイント増加しておりまして、働き方改革というのは着実に出つつあるものの、依然として長時間勤務の教員も多いというデータです。
 それから、19ページですけれども、教師の意識調査、これは小・中・高、それから特別支援の教員2,000名に聞いたジブラルタ生命の調査ですけれども、一番のやりがいが「児童・生徒の成長が感じられた」という一方で、仕事で苦労していることについては、「授業の準備」「保護者とのコミュニケーション」に苦労を感じているというデータです。
 それから、20ページのスライドは教師の意識調査ですけれども、理想の教師像を教師自身に問うているデータですけれども、「授業がわかりやすい」というのが一番ですが、「児童・生徒の意見に耳を傾けられる」ですとか、「児童・生徒の気持ちがわかる」という割合は相対的に低い状況です。特に男性教師についてはそれが顕著です。児童・生徒に授業内容を理解してほしいという思いの表れである一方、子供の思いや考えを受け止めることに対する評価というのは、教員自身での考えの中では相対的に低いというデータです。
 ただ、教師の意識調査で、もう一回転職するなら就きたい職業と、生まれ変わったら就きたい職業、教師につきましては、いずれも1位がもう一度教師だという回答をされておりまして、誇りややりがいということについては、突出してほかの職業よりも高い状況がうかがえるかと思います。
 それから、22ページ以降が、学校の状況です。教師一人一人をサポートする状況、教員が授業で問題を抱えている場合の話し合いですとか、学校単位での問題解決、これは本当にまちまちです。小学校、中学校によっても差がありますし、学校ごとでの様々な状況だということです。
 それから、23ページのスライドも同じでございまして、これも学校で様々でございますけれども、校内研修の割合については、年度をまたぐにつれまして、割合は高まっているという状況です。
 それから、24ページの家庭の状況でございますが、学校の勉強を手伝ったとか、何を学んでいるのかを家庭で聞いたとかという問いですけれども、家庭の協力が必要であっても、協力が困難な家庭もあるということで、家庭の状況が正に様々な中で学校では教師が授業を行うというような実態があり、それぞれ家庭のサポートというのはまちまちの中にあるということです。
 25のスライドも同じような結果でございます。
 最後に、ICTでございます。臨時休業中の学習指導に関する調査の概要ですけれども、オンラインを活用した同時双方向の学びが急速に広がったということで、丸3番のICT端末の活用を御覧いただきますと、同時双方向型のウェブ会議室の活用が69.6%、以下、動画の活用やデジタル教材の活用といったもので取組が広がったというデータです。
 それから、この保護者に対するアンケートでございますけれども、オンライン教育の利用希望に関して、全国と東京23区対象の調査ですけれども、全国を御覧いただきますと、赤がオンライン教育中心、オレンジと青が基本的に対面を希望、緑が完全に対面を希望ということで、合わせますと75%ぐらいが対面による教育を重視しているというのが保護者のアンケート結果です。
 また、ICTを活用した学び、スライド28ですけれども、学校での授業での使い方ですが、これは週1回以上、月1回以上、月1回未満というのを選択しているのが、それぞれの項目で半数から約8割ですけれども、ICT機器はあるんだけれども、という状態が見て取れるかと思います。
 ただ、最後の、学習の中でICT機器を使うのは勉強の役に立つと思いますかということで、小学生、中学生はいずれも役に立つということです。そういう認識で、子供たちはICT機器を使いたいというか、勉強に活かせると思っているというデータです。
 それから、最後に、大学でのオンライン、これは御参考ですけれども、オンライン授業について、1ポツの三つ目の丸を御覧いただければと思いますけれども、よかった点、自分の選んだ場所で授業を受けられる、自分のペースで学修できる。一方で、悪かった点としては、友人と受けられない、レポートの課題が多い、質問等双方向のやり取りの機会が少ない、対面授業より理解しにくいという回答が、大学生へのアンケート結果です。
 それから、最後に、先ほど検討事項をお示しいたしましたけれども、本ワーキンググループで検討事項について御議論いただきたい方向性と申しますか、論点整理のイメージ案ということで示しているものでございます。下の短い線というのは、これは事務局のほうで書いただけですので、これに限らず御議論いただければと思うんですけれども、検討事項について整理が必要な点でございますとか、考慮すべき視点や観点というものをまずは先生方から御意見を頂戴して、論点整理としてまずはまとめていきたいというもののイメージ案ですので、御参考までに添付をさせていただいております。
 以上が、資料、事務局からの説明でございます。よろしくお願いいたします。

【奈須主査】 ありがとうございました。
 それでは、ただいまから、事務局の説明に基づき、本日の検討事項、子供たちに必要な資質・能力と学校が果たす役割、及び全ての子供たちの可能性を引き出す学びの実現、この2点、今日の検討事項ですけど、これについて論点整理に向けた意見交換をできればと思います。今日、6時半終了予定ですので、55分ほど時間がございます。全てこの議論に費やしたいと思います。
 御発言がございます方は、必ず「手を挙げる」のボタンを押していただければと思います。こちらから御指名いたしますので、ミュートを解除して御発言をお願いします。また、発言が終わりましたら、「手を下げる」のボタンを押して、挙手を下げて、取り下げていただければと思います。
 それでは、どなたからでもと思いますが、御意見ある方、挙手をお願いできればと思います。
 では、まず、戸ヶ﨑委員が挙手されていますので、戸ヶ﨑委員、よろしくお願いします。

【戸ヶ﨑委員】 これは二つのテーマ両方とも、一度に意見を言っていいということでよろしいでしょうか。それとも、分けたほうがよろしいのか。まとめてよろしいでしょうか。

【奈須主査】 まとめてでいいかと思いますが。行ったり来たり、関連をすると思いますので、よろしくお願いします。

【戸ヶ﨑委員】 分かりました。それでは、大きく3点ほど申し上げます。
 1点目は、全体的なお話として、当面の検討事項として掲げられている項目については、昨年1月の中教審令和答申や、本年6月のCSTIの政策パッケージについても、これまでの政策文書でもカバーされているものです。
 そうしたことについて、本ワーキングとして議論を深めていくべき部分が一体どういうことなのかを模索する上では、既に今、御説明があり、関連資料も添付されているわけですが、まず、これらの項目に関連して、前述の政策文書で既に指摘されている課題や、また、提言されている施策等をカテゴライズして、整理することも必要ではないかと思います。その上で、深掘りをしていく部分を焦点化していくことが良いのではないかと思っています。
 施策として提言されている部分については、それが本当にこれまで実行までに至っているのかの深掘りも必要であると思いますし、施策として提言されていない部分については、新たな施策を検討していくべきだと思います。また、実行まで至っていないのは、そこに何らかのボトルネックがあるわけで、それは具体的には何なのか、それを打破していくためにどんな政策的手段が考えられるのか、などについて、整理して提示していく必要があるのではないかと思います。
 一例として、これまで「カリキュラム・マネジメント」という文言は平成15年の教育行政文書で初出され、平成28年の中教審答申において具体的なイメージも示され、教育委員会及び学校での急務の対応課題として示されたわけです。そう考えると20年近い歴史があるわけですが、正直なところ、学校現場では遅々としてそういったことが進んでいません。こうした原因究明を徹底的に行っていかないと、新たな施策等を打ち出しても、同じ轍を踏むことになってしまうと危惧しています。
 また、主体的・対話的で深い学びが全国でどの程度実現されているかなど、学習指導要領の考え方がどの程度、学校現場に浸透しているかといった進捗状況を客観的にできるだけ把握していくことも重要です。アンケートもいいのですが、その進捗状況がはかれていないのに、新たな改訂をしていっても、結果として学校現場との乖離が大きくなってしまうことを危惧しています。それが1点です。
 それから、2点目が、先ほど奈須先生のほうからも話がありましたように、今年、学制150年の一つの区切りでもあります。日本型学校教育には、OECD等から高く評価されている世界に誇れる「強み」があり、これはエスノセントリズムに陥ることなく、社会の変化に対応した広い視野を持ちながら、継往開来の精神等を持って、学力保障と成長保障の両全といった「良さ」や「強み」を引き継いでいく必要があると思います。
 一方で、今後早急に改善すべき「弱み」の再整理もする必要があります。
 日本型学校教育の「強み」や「弱み」を考える上では、それがどのように可能となってきたのか、また、その支えてきたものが、今、どのように変わっているのかも含めて考えていく必要があると思います。その背景には、教職員の働き方改革や授業時数等々、そのほか、例えば、子供たちの資質・能力の育成においては、これまで中学校の部活動が果たしてきた役割も大きいものがあると思います。現状、部活という居場所に救われている子供たち、中学生はかなりいるわけで、これが授業と行事だけになったら、場合によっては救えない子供たちも増えていってしまうかもしれません。そうなると、80年代の荒れた学校の再現が危惧されます。
 地域部活動等に参加しない子供たちにどんな場を提供できるのか、また、部活動を失っていく中学校の具体的な未来像や、その中で生徒の成長を支援する学校や地域社会の姿をどうやって描いていくのか等、今後、地域移行という方針の中で、中学校の部活動が果たしてきた役割をどうやって補っていくのかといったことも考えていく必要があるのではないかと思っています。
 少々長くなってしまい恐縮ですが、最後、三つ目です。全ての子供たちの可能性を引き出す学びの実現を考えていく上で、学び方の変革、つまり、授業改善をどう進めるのかということを考えていく必要があると思いますけれども、その中では、これまで日本の学校教育が大事にしてきた授業研究ですとか教科の本質的な学びは、強みとして是非維持をしつつも、社会がこれだけ大きく変化する中で、変化していく社会の動きを教室の中に入れ、閉鎖的と揶揄されてきた教育村・学校村の弱みを克服していくことが必要であると思います。その際に、教科等と横断的な学び、PBLといったものや、産官学と連携した学びなどの視点からの検討も必要なのではないかと思います。
 また、従来の形式的平等主義から脱して、公正主義に立っていくこと、落ちこぼれや吹きこぼれを含めた、全ての教室の中に存在している子供たちの多様性の認識、そういった直面する課題の解決に向けて、これまでの「できないことをできるようにする」といった日本のやり方から、「よさを徹底して伸ばすこと」へ優先順位を入れ替えるという視点も大切だと思っています。
 いずれにしても、こうした取組を、スピード感を持って取り組んでいくためには、特に義務教育の場合、私自身もすごく問題意識で持っているのは、従来の「文科省、都道府県教育委員会、市町村教育委員会、校長会、学校」といったピラミッド構造の組織で物事を下に下ろしていくという演繹的発想を根本打破する視点というのも重要なのかなと。各アクターが同心円状に連なって、義務教育の在り方などのポリシーディレクション、政策的方向性というものを共有しながら、最適値を求めるという姿に一日も早く転換していく必要があるのかなと。そういったことが、政府の「デジタル原則」のアジャイルガバナンスに通底していくと思っています。
 大分長くなって申し訳ございません。以上です。

【奈須主査】 ありがとうございました。
 ほかの委員の先生、いかがでしょうか。1回目ですので、本当にどこからでもと思いますが。
 若江委員、お願いします。

【若江委員】 ありがとうございます。
 今、戸ヶ﨑委員がお話しいただいたようなことは正に本当に全て重要なことで、私が一番強く感じているのは、可能性を引き出す新たな学びの実現に向けて、今、やっぱり現実とのギャップをきちんと直視する必要があるのではないかというふうに思っています。現場ではいろいろなことに取り組んでおられるんですけれども、それって、なかなかこのアンケートで答えていただいているものと、やっぱり現実がちょっと違っているのではないかと感じます。
 例えば、資料6のところで御提示いただいた、14ページあたりに、子供たちが今どんなことを感じているかという、不登校の事例でしたけども、一番上のところに「疲れる」というのが物すごく出てきているんですね。それは不登校だけにとどまらず、14ページあたりのところだったと思いますが、「疲れる」「朝、起きられない」って、不登校の子たちでなかったとしても、これ、現実的にいろいろなことが起きていまして、たまたま私、先週、地方の教育現場にいろいろお伺いしましたところ、ある県のある市の義務教育のところでは、例えば、学校に通っていくときに、教材、教科書関係を、必要でないものは学校に置いてきていいと。置き教材ですよね。でも、ある県のある市は、全てを毎回持ち帰り、さらにそこには物すごく、今の1人1台のデバイスも持ち帰ると。そうすると、5~7キロ以上のものを持ち歩きしているようです。これだけICTが進んでいろいろなことが変化・進化しているのだけれども、現実的にそういう物理的に子供たちを疲れさせる要因というようなものがまだ脈々と残っているという。そういう本当に些末なことから含めて、全て現実をやっぱりもう一度直視する必要があるんじゃないかと感じています。
 そのときに言えることとして、教育パラダイムシフトを実現するのに大事なことは、それに対する理解がまだきちんとできていない。つまり教育現場に届いていない。それと、それを支えるための体制が整っていない。それらの声のサポートができていない。つまり、言い換えると、一つ目の教育に対する理解というのは、やっぱり教育委員会がきちんとその機能を果たして、現場の学校、先生方にイニシアチブを取っていただかなきゃいけないのですが、それがうまくできていないんじゃないでしょうか。そして、二つ目の体制がきちんと整わないというのは、やはり管理職の意識やスキルの問題というのが大きいでしょう。そして最後にその実践連携のための教員に対するサポートがとても重要だと思っています。
 日本の教育の強みというのは、ある意味、教員の底力というのはすごいものだと思います。言い換えれば、それは個人の力が日本の教育にとってはすごい強みですが、一方、弱みというのは、教員に比較して言うならば、教育委員会の機能がアップデートできていないだとか、あるべき姿が戦略的に変わっていないというようなところ、つまり、組織として機能が整っていないという感じで、組織になったときが日本の教育の弱みというふうに言えるのではないかなというふうに感じています。
 以上です。

【奈須主査】 ありがとうございました。
 今の話は、学校だけじゃなくて、日本の企業とか経済界全体でも、このところ言われていることかななんて思っていましたし、今、若江委員がおっしゃったのは、結局、ビルド・アンド・ビルドになっているということもありますよね。これまであるものを残しつつ、それに新たなものを積んでいっているんですね。どんどんどんどん積んでいる。スクラップ・アンド・ビルドというのがいいのか、何かもっと構造的なやり方に変えるのがいいのか分かりませんけれど、今回の資質・能力というのもそうですよね。在来の内容を網羅するやり方をまだまだ残しつつ、資質・能力を上乗せしているというようなこともあるのかなと思います。いかがでしょうか。自由に本当にいろいろな角度からと思いますが。
 貞広委員、よろしくお願いします。

【貞広委員】 ありがとうございます。千葉大学の貞広と申します。皆さんも、あまりにもテーマが大き過ぎて、言いたいことがあり過ぎて、手を挙げられないという感じなんじゃないかと思います。
 私もそうなんですけど、2点だけ申し上げたいと思いますまず、学校が果たす役割ということですけれども、日本型教育システムの強みというのは、今まではすごく発揮をされてきたと思います。学校の果たす役割というのは、子供の発達と自己実現に対して支援的な介入と、それによって個々の人たちの人づくりをするというという面があると思います。ただ発達も多様であり、自己実現のありようも多様であるという現在においては、これは多様と多様の掛け算なはずなんですよね。なんですけれども、同等であるということに、学校も実は子供たち自身も、そして保護者も何かがんじがらめに絡めとられていて、同じようにやらなきゃいけないんじゃないかという状況になってきてしまっているんだと思います。
 それで成功していた時代もあったんだと思いますけれども、御承知のとおり、義務教育段階だけでも20万人に迫る学校に行かない子供たちがいます。更に、2018年に日本財団さんが出した、資料6でいうと13ページから14ページぐらいにわたっているデータを見ますと、実際に報告されている不登校の子供たちの3倍、不登校予備軍というか、学校でいづらい思いをしている子供たちがこれだけいるということで、ざっと単純計算すると、小・中学校で80万人ぐらいの子供がこういう状況にあるということですよね。
 別の部会でも申し上げたんですけれども、この状況は、日本型教育システムはいいシステムだったんだけれども、現在に至っては、ゆがみや社会や子供たちの成育プロセスでちょっとミスマッチが起きている。これを若江委員はギャップっておっしゃったと思うんですけれども、これをしっかりと直視して、ゼロベースで考えていく、ここの部会はそういう部会なんだと思います。具体的な策については、今後、2回目3回目4回目という形で検討していくと思うんですけれども、同等同質神話からいかに我々自身も抜けられるかというところが一つ重要なところなのかなと思います。
 もう一つ、先に神話という言葉を使いましたけれども、その抜け出している先生方って実はたくさんいらして、子供たちの多様なありようと多様な自己実現を個別最適に支えたいという試みをしている先生がいらっしゃるわけです。しかし、ご自分が抱えているリソースが足りなくて、それができないということなんですよね。働き方改革ということの必要性です。やはり先生方の働きやすさと、そして働きがいを両立させるような働き方改革が実現して、子供たちに先生たちに向き合っていただくような状況をつくらないと、ここで話し合ってきたことも、いくことも絵に描いた餅になってしまうんだと思います。
 そのときに、そういうシステムをつくるというだけではなくて、やはり先生方のウエルビーイングも非常に重要で、先生方のウエルビーイングが確保されていて、働きやすさと働きがいが担保されて初めて子供たちの学びに向き合っていただけるという点も重要です。時短というような意味だけではなくて、総合的な先生方のウエルビーイングということを考えていく必要――その意味で働きやすさと働きがいという言葉を先ほど使ったんですけれども、そういうリソースの確保と条件は絶対に必要なものだと思います。
 仲間の研究者がこういう言葉を使っています。国家の未来が教員のウエルビーイングとパラメーターによって左右される。やはりここが非常に大事なポイントであるということなのではないかと思います。
 以上、雑駁でございますが、2点でございます。ありがとうございました。

【奈須主査】 ありがとうございました。
 それでは、荒瀬委員、さらに続いて黒沢委員、そしてあと秋田委員というふうにお願いします。
 まず、荒瀬委員、お願いします。

【荒瀬委員】 ありがとうございます。今、3人の委員の皆さんがおっしゃったことについて、極めて同感をいたします。
 それに基づいて、ちょっと違った角度になるかもしれませんけれども、資料5に示されている、今も貞広先生もおっしゃいましたが、学校が果たす役割とは何かとか、あるいは2の2に示されている、グラデーションのある学校教育を実現するためにはどうしたらいいのかといったような、こういったことを実際にやっていこうとしたときに、何が正にボトルネックになっているのかということについて考えていかなければならないんだろうなということを思います。
 皆さんも御承知の話をあえてすることをお許しいただきたいんですけれども、学習指導要領の第1章総則の第1というのは、小学校教育の基本と教育課程の役割とか、中学校教育の基本と教育課程の役割といったようなことが書かれていて、その4のところに、カリキュラム・マネジメントについての表記があります。三つ、カリキュラム・マネジメントの側面が書かれていて、これ、2016年の12月の中教審答申に盛り込まれた内容をほぼそのまま載せている形になっていますが、その三つ目のところに、教育課程の実施に必要な人的または物的な体制を確保するとともに、その改善を図っていくことということが明記されています。
 私は、この点、非常に重要であると思っておりまして、ここのところは、言わばお金をいかにかけるかということの問題である部分が大きいというふうに思っています。このワーキンググループでお金をいかに取ってくるか、文科省が頑張って財務省から取ってきてくださいという話にもちろんなるという点もあると思うんですけれども、これ、さっきの貞広先生のおっしゃった、お仲間の研究者の方がおっしゃっていた言葉というところにも関わって、本当に重要なことかと思います。教育振興基本計画部会というのも今現在動いているわけですけれども、そこでもそういった御指摘がありました。本当に今、学校教育をどうしていくのかと考えるときに、いろいろな点で財政的に困っているということは事実ではあるわけですけれども、その中でも、教育にお金をかけないで、本当にこれからの日本の社会というものが、あるいは日本の国土に住む人たちのウエルビーイングも含めてどうなっていくのかというのをしっかりと考えなければならないということを思っています。
 そういったことも一方ではしっかりアピールしながら、では、学校で教師が、あるいは学校に関わる人たちがどんなことをしなければならないのかというのを議論していくという、その両面が必要ではないかということを思っているということでございます。
 以上です。ありがとうございました。

【奈須主査】 ありがとうございました。
 それでは、黒沢委員、お願いいたします。

【黒沢委員】 ありがとうございます。
 不登校特例校で校長をしているんですけども、この資料6の13ページ14ページについては、ちょっと違和感を抱くんですね。日本財団さんがデータ取られているんですけども、これは、大人から見たデータなのか、それとも子供がこういう理由なんだよと言った資料なのか、そこはどうなのかというのがあるんですけども、僕自身、やっぱり不登校の子供たちにずっと対応してきて、特に30日以上欠席した子がうちの学校に来るんですけども、環境を変えてあげれば、学校に来られる子はいます。環境を変えるだけじゃなかなか改善できない場合は家庭環境がよくない。そこも駄目で、最終的に何をやっても不登校が改善できないという子がいるんですけども、どこの部分にスポットを当てて改善をやっていくか。環境さえ変えれば何とかなるという子は割と何とかなるんですけども、全然改善しない子に対してどういう手を入れていくかというところは、ちょっと何か議論が抜けているかなという気がしています。
 それで、14ページのところにいろいろな理由が出ていますけども、ここも僕、少し違和感があるんですね。なぜなら、「疲れる」というふうに書いてあるけれども、子供は、学校が楽しかったり、友達に会いたいって思ったら、疲れていても学校に来るんですよね。休む理由を聞かれるから「疲れる」って答えるだけであって、本当に学校に行きたくない理由って、「疲れる」じゃないと僕は感じています。
 朝、欠席する子供の親から「今日休みます」という連絡を毎日必ず入れてもらうようにしているんですけども、その中で疲れたので休みますというのは、理由にしやすいんですよね。本当の理由は何なのかというところまで迫らないと、この表からだけで読み取っていくというのはちょっと危険かなという気はしています。
 僕が見ていて思うのは、やっぱり友達がいないとか、学びが苦手とか、そういうのが根本的にあって、その上で学校って楽しいって感じられない。逆に楽しいって感じていたら、必ず来ると思うんですね。
 そういう部分も含めて、この表も少し見直したほうがいいんじゃないかなというのは個人的には思うところですけども、やはり不登校を改善していくという意味では、学校でどういうことをしたら楽しいのかな、のような視点からも、少し考えてあげる必要があるのかなというふうに感じました。
 以上です。

【奈須主査】 ありがとうございました。
 今回、多様性ということをしっかり深掘りして、そこから学校、義務教育の役割、意味ということをしっかり見ていこうというのは大きな主題かと思います。今、黒沢委員がおっしゃったように、不登校のお子さんが本当に心の深いところでどんな状態にいるのか、また、どんな環境に置かれているのか、何を求めているのか、どんなことだったら彼らはできるし、求めているのか。委員の皆さん、あるいはいろいろと御専門の先生方からお教えいただきながら煮詰めていきたいと思います。
 それでは、秋田委員、お願いいたします。

【秋田主査代理】 ありがとうございます。学習院大学の秋田です。今までの先生方のお話に同感、共感しながら聞かせていただいておりました。
 私は、世界授業研究学会というところに関わっておりまして、今年度も、先月、マレーシアで30か国以上が参加して、校内研究、授業研究の在り方が話し合われました。そこでやはり日本の授業や学校教育の在り方が改めて評価されました。そこは全人的であるということ、つまり、知・徳・体というところで、特に短期間の学力だけに焦点を当てた授業研究ではなく、子供の育ちを全面的に、生徒指導や生活指導も含めて見ていくところというのがやはりすばらしいと、欧米の研究者、学校に関わる研究者たちからも言われました。
 しかし、一方で、それが教員の多忙化というところにやはりつながっているということは否定できないことです。しかし、本日見せていただいた資料でも、教員は授業研究等については継続的に取り組もうとしているデータが出ています。授業研究がやはり教師の専門性の要であり、より専門的に教員がこの役割を果たすことができるようにするためには、では、周りがどういうふうにリソースを使って支援をしていけるのかということを、今後議論をしていくということが必要ではないかと思います。教材等の印刷を補助したりする事務支援職員や特別な支援が必要な子供たちに対する加配があるとか、それらの支援の一つ一つが先生方にとって、より自分の専門性を生かして、もっと子供のことを丁寧に見たいとか、自分の専門性を生かしたいというところへの時間の効率的投資につながっていくというふうに考えます。
 その意味でも、教員の働き方改革ということを、今後本格的に考えることが必要です。例えばシフトというのが、私は保育にも関わっているので、全員が朝から晩までずっと同じ勤務時間で、プラス残業というような働き方ではなくて、海外では教員もいろいろな時間の組み方をしたりしているわけです。そうした今後ワークシェア的な発想も含め柔軟に考えていくということが、教師が生涯教師として働き続けるための在り方として重要なところではないかというのが1点目です。今後教員の在り方の制度、勤務の在り方をもう一度見直していく必要があるだろうというのが1点目です。
 また、2点目としては、私は、乳幼児の教育から小学校、中学校と研修等に関わってきている中で感じることでありますけれども、低学年のところの、今、架け橋プログラムなども議論されていますけれども、校種間を移行するところで、子供たちの中に環境の不適応というものが起こりやすくなったり、グレーゾーンの子供たちが、特に低学年であったり、担任が替わるとか、学校種が変わるところで苦労しています。
 そういう意味では、それをこれまでのように要録を送るというような形だけで良いのか。これだけオンラインが発達してきたときに、今後どのような形で、子供を中心にして、校種を超えた教師が連携をし情報を共有し合って、子供たちの発達の連続性を保障するような仕組みをつくっていくのかが問われると思います。それから、子供の家庭と学校との連続性というような、生活の連続性というものをオンライン、ICTを活用してどうつくっていけるのかを考えていくことが必要だろうと考えます。育ちの連続性と生活の連続性ということが2点目になります。
 そして、3点目としては、やはり公教育で改めて考えなければならないのが、既にワーキングで議論されているところではありますが、幾らカリキュラムオーバーロードを減らそうと学習指導要領でしても、教科書の中身が減らない。デジタルの教科書にしたとしても、その内容が減らない限り、今の教師の発想だけでは、教科書を教えるという発想から学習観を変えていくことが難しい。この辺りを制度的にどういうふうに、今後の教科書とか学習材、そのパッケージの在り方を考えていくのかを改めて見直さない限り、先生自身は子供たちのために主体的に関わらせてあげたいと思いながらも、自分の責任では教科書をこなして終わらねばならないというふうな、そういう葛藤の中にある教師をもう一度解放していくために、教材と教科書と方法、学習時間、授業時数の在り方等を検討していく必要があるのかなと思っております。
 以上、3点です。

【奈須主査】 ありがとうございました。
 それでは、鍵本委員、よろしくお願いします。

【鍵本委員】 先生方のお話を聞いていて、全くそのとおりだなというふうに思いながら聞かせていただきました。
 日本型学校教育の強みと問題点ということで、最近、学校訪問等をしておりまして強く感じることがありますので、少しお話をさせていただければと思います。少しピントの外れた話になるかも分かりませんけども、今先生方おっしゃっていたように、やはり学習指導と生活全般にわたる生徒指導と一体的に進めている、それによって知・徳・体を一体で育む全人教育が可能になっている、これは圧倒的な日本の教育の強みで、これをしっかり残していかなきゃいけないというのは本当にそのとおりなんですけども、ただ、学校現場へ行きますと、先ほどからお話がありますような、学校現場の忙しさから、これは本県だけの状況かも分かりませんけれども、活動が非常に形式的になったり、あるいは行事等の流れを追いかけるだけの予定調和の取組になっておりまして、一体どういう力を育てようとしているのかということが明確でない。そして、子供たちに十分身についているかどうかということも曖昧になっているような状況を多く見かけるような状況がございます。
 そして、これこそ日本の学校教育の中でこれまで大切にされてきた活動の中で子供たちのよさ、価値ある行動をしっかり見取って、それを子供たちに返しながら、子供たちに意識づけていく。それで非認知能力の部分を含めて、子供たちの可能性を伸ばしていくということを、これをしっかりやっていかなきゃいけないと思うんですけども、十分にできていない部分があるんじゃないかというふうに思っています。
 本県では、市町村の教育委員会としっかり連携をしまして、課題解決型の学習をしっかり進めていく中で、これを意図的、計画的に入れていくことの中で、子供たちに自己決定の場をしっかりつくることと、それから、教師が子供たちの価値ある行動をきちんと見取りながら、それを返して、振り返りをしっかりさせること、これを今強調しながらやっているところでありますけども、これは新しいことじゃなくて、これまでもやれる学校ではしっかりやってきたことなんですけども、現在、いろいろな資料の中から見えてまいります、受け身の子供たちが増えて自己肯定感の低さということが問題になっておりますのは、こうした部分がやっぱりおろそかになってきていることが原因じゃないかなというふうに思っております。
 弱みというか、まだまだ不十分な部分、ここをもう少ししっかりやっていかなきゃいけない。そのためには、教師の膨れ上がった仕事を整理しながら、学校が意識してこうした取組を進めていく必要があるんじゃないかということを最近強く思っておりますので、少しここで発言をさせていただきました。
 以上でございます。

【奈須主査】 ありがとうございました。
 それでは、この後、水谷委員、中谷委員、それから柏木委員とお願いいたしたいと思います。
 まず、水谷委員、よろしくお願いいたします。

【水谷委員】 よろしくお願いします。愛知県の春日井市立高森台中学校で校長をしております水谷です。中学校現場でのこの2年半の取組から気づいたことについてお話をしたいと思います。
 最初の説明のところで、学校で学ぶ意味が見いだせないとか、大人が子供たちに試行錯誤の方法を教える機会が必要とか、学習指導に合わせた学びができると良いというような御説明がありましたが、正にそのとおりだと思っています。
 コロナ以前は、中学校での楽しさは部活と行事が中心で、授業は本当に知識一斉注入型ということでした。ところが、コロナ禍で部活と行事がこれまで通りにできなくなり、どうしようかとしたときに、そして、休校でプリントを渡しても結局は何も学べない子供たちの姿に直面をして、自分たちは教えてはいた、つまり、知識を注入することはしていたけれど、本当に自分で学べるようにはしていなかったと痛感しました。理念は分かっていたけど、また、そのつもりでやっていたつもりでしたが、できていなかったということがよくわかりました。
 これまでの考え方を変えようと思ったそのときに、インフラとしてのGIGAスクール整備が始まり、1人1台端末とクラウドの活用が可能になり、始まって、端末がクラウドでつながれば、何かできるのではということで、いろいろ取り組んできました。結果的に、今まででしたらできなかった、生徒に委ねていくとか、そして、今までは教師が一方的に教えることがほとんど授業での中心でしたが、自分で調べ、そしてクラウドで子供同士もつながっているだけでなく、先生と子供もつながっているので、そのつながりを自由に選べるように授業を組み立てていくことで、かなりの部分が何とかなることに気がついてきました。
 そうすることで、子供たちは、結果的に授業が楽しいと感じるように変わってきました。実は、春日井市内のほかの学校も含めて、1,000人以上の子供たちに1年前の1学期末、そして2学期末、そしてこの1学期末3回同じ調査をしていますが、1,000人以上の子供たちは、そういった学びが非常に楽しくて、見通しを持って自分のペースで学べるようになって、今までと違うという評価をしています。また、子供たちの姿も随分変わってきて、その姿を見て先生たちは、先ほどからちょっと話が出ている、やりがいというか、働きがいを感じていて、これまでは一方的に教師主導でやらなければと思っていたことを委ねていくようになりました。当然、その学びは多様になってきますので、今までは対応できなかったのですが、1人1台端末とクラウドがあることで、十分それができるようになりました。今まででしたら、きっと授業名人しかできなかったような子供の見取りが十分できるようになって、それがとても先生たちの安心というか、これまで何かもやもやしていたことがはっきり分かるようになってきたと感じています。
 とにかくインフラが変わった、授業で使えることが変わって、とても大きく授業を変えることができる分かってきたので、そのことをきちんと整理して、現在まだ市内の全部の学校ができているわけではないですので、広めていくことが今日の議論につながるのではないかという思いで、現場の様子をお話しさせていただきました。
 デジタル教科書ワーキングでも、デジタル教科書を使うだけで、今までの授業の形だったらデジタル一斉授業だというような話があり、そのようなことをどうしていくのかを考えることは非常に重要だという議論もありました。
 雑駁な意見ですが、現在このようなことが進み始めているので、このことから少し何か広められるのかと思い、発言をさせていただきました。以上です。

【奈須主査】 ありがとうございました。
 続いて中谷先生、お願いします。

【中谷委員】 ありがとうございます。このようなワーキングに参加するのは初めてなので、なかなかついていくのが大変だなと思っております。
 先生方のお話を聞き、また、資料も読ませていただきましたが、いわゆる学校が果たす役割の中で、資料6の4ページの一番下にありました、これまで以上に福祉的な役割や子供たちの居場所としての機能を担うことが求められているという点については、この打ち出し方というか、その具体の説明を丁寧にすべきだろうと、私がこれを読んで感じたところです。全部学校がやるのというふうに思う教職員も多いのではないかと危惧をしております。
 また、先ほど来ありますように、中学校の部活動の地域移行の流れとの整合というものに疑問を感じる先生もいるんじゃないかと感じたところです。
 私としましては、やはり学校は学習機会と学力を保障する役割、これを中核としまして、でも、家庭がしんどい子供も、家庭、地域に居場所がない子供も、学校に来れば、安心して学ぶ、または、来られなければ学校を介して安心して学ぶことができる、そういった存在になれないかということを常々考えています。つまり、学校は今後も多くの子供の学びの場であると同時に、全ての子供の学びのハブと言ったらいいんでしょうか、そういったものになれないかといったようなことを、この資料を読んで考えたところです。
 そういう中で、貧困ですとか孤立、ひきこもり、虐待等、これらの大人の社会の問題を解決できる子供を育てるのが私たちの役割ではないかと考えたところです。
 また、本日の二つ目の論点について言えば、多様な選択肢をどう準備できるかといったようなことも論点になるかと思うんですが、例えば、本校では、一斉の授業には行けないけれども、自由進度学習であるとか、個人探究学習なら行ってみようかと言い出す子供もいます。
 そうした子供を見て思うのは、例えば、板書を覚えて書くことが苦手な子に、ほかの子と同じ量、スピードで書くことを強要していなかったか、その子たちに必要な支援のない教室、学校ではなかったかということです。学校としてはこの省察は必要だろうと考えております。
 不登校の子供を見ていて、できるならみんなで一緒に学びたいと思っている子も多いと感じています。しかし、みんなと同じように学べない、教室に行けないから、しんどさを感じている。自己肯定感が低下している。この実態も今感じているところです。
 そうしますと、方策としては二つで、一つは、どこで学んでもいいよというふうに選択肢を与えるのか、もう一つは、教室を本当にその子たちが学べる支援の場にしていく。先ほど楽しさの重視というお言葉もありました。うちもまだまだなんですけれども、そういったことをしっかり考えていかなくてはいけないと思ったところです。
 以上です。ありがとうございました。

【奈須主査】 ありがとうございます。
 それでは、この後、柏木委員、小柳委員、今村委員とお願いしたいと思います。
 それでは、まず、柏木委員、よろしくお願いいたします。

【柏木委員】 よろしくお願いいたします。私もこの場での発言が初めてですので、ちょっとどうしたらいいのか分からないんですけれども、発言させていただきます。
 まず、学校が果たす役割というところで、私のほうからは、学校の意味というものを改めて考えたいと思っています。まず、この部会の議論の中では、多様性を保障するということが非常に大きく打ち出されておりまして、それは本当に重要なことだと思うんですけれども、ただ、それが多様性の名の下での個人の放置、あるいは子が浮遊する社会にならないために、やはり学校の役割としては、もう一方で、社会の分断を防ぐということを考えることが大事なのではないかと思っております。
 それは、格差を是正する、あるいは誰もが希望と信頼を持って社会を形成するというところへの寄与という点で、公正な民主主義社会を形成することへの学校の貢献というふうに考えられます。と申しますのも、令和答申で、豊かな人生を切り開き、持続可能な社会の担い手となるということが、子供たちに必要な資質・能力の育成だと書いてあるんですけれども、その前提として、やっぱり他者との関わりがあり、他者と助け合いながらお互いに豊かな人生を切り開けるようにして、他者とともに持続可能な社会をつくることが今後求められてきているのではないかと思うからです。
 その中で、実は日本社会、日本の学校の強みというのは、他者との関わりや信頼を大事にしてきたところにあるのではないかと思っております。それは、教員が、一人一人の子供を統合的に見ていて、子供も教員からトータルに見てもらえていた上でなされていたところとなります。その中で、教員は、みんなが同じ能力を有するというふうに子供を見ていて、そこに教員から基本的な子供への信頼、期待があったからこそ、学習活動の中でも教員のそうした視点とか視野を持った問いかけとか働きかけがなされ、それを受けた子供の学ぼうという意欲が高まったり、思考も深まっていたところというのは、先行研究から多く出されているところです。OECDの近年の評価は、そうしたこれまでの授業に基づいて行われたところではないかなと思っています。
 ただ、そんなふうに子供に一斉に期待をして、同じ能力を有していると思ったからこそ、一斉一律に処遇し過ぎた結果、画一的で同調圧力を高めるものになってしまったとは思います。
 それが弱みかもしれませんけれども、ただ、それは子供の他者との関わりを薄める方向に解体するものではなくて、やはり関わりの質を変えるように求める問題ではないかと思います。その中で全ての子供たちの可能性を引き出すためには、学ぶ意欲・生きる意欲の前提となる、学びの中で自分の弱さを出せる、ありのままの自分を出せる学級づくり、他者との関係づくりが大事だと思っております。相互の弱さ、できなさ、頑張りというものを承認して、誰かは見てくれている、助けてくれる、信頼できるというその安心感のあるところから、学級の中で相互作用のある学びができて、いろいろな知識の習得のみならず、思考の深まりなんかにもつながってくると思っています。
 また、そうしたあたたかで寛容性のある他者との関わり自体を学ぶことが、やっぱり今後重要になる学びだと思っています。やはり人間というのは、多様な他者、あるいは物との関わりの広がる世界に誕生して、意識する前から他者と相互に関わり合う共存在であるといったようなハイデガーの意見とか、同様の対話論を述べるバフチンのこれまでの知見を受けますと、他者とどう関わって、ケアする能力をどう身につけていくのか、ケアリングをどうしていくのかというのが必要となります。子供がそうした力を身につけて、教員からケアされるだけではなく、自分達で自他のニーズに応答する公正な社会をどう築いていくのかということを考えるところから、子どもの多様性は保障され、全ての子供たちの可能性を相互に引き出す学びが実現されるのではないかなと思っております。
 私のほうからは大きな意見でしたけれども、以上となります。

【奈須主査】 ありがとうございます。
 個と協働あるいは自由と公正ということがどんな関係になるのか。もちろん対立しないわけですけど、どんなふうに調和できるのか。それを学校制度の中でどう実現するのか。長年の問いですけど、まだまだうまく整理できていない、改善できていないのかなと思います。ありがとうございます。
 それでは、小柳委員、よろしくお願いします。

【小柳委員】
 まず、1点目は学校の役割についてですが、学校での学びの先にあるもの、10年、20年先の社会に子供たちが出ることを意識して教育をすることが非常に重要だと考えています。それを教員が本当に意識しているかということについて、最近疑問に感じています。文科省からも抽象的な言葉では伝えられていますが、実際はここがあまり意識できていないのではないか。また、これまでの価値観で子供の教育に当たってはいないか。教育委員会としては、こういった、今から求められるものについてかみ砕いて学校現場に伝えることの重要性を最近感じています。
 また、学校の教職員が未来に求められる人材像について理解をし、意識を高めることの一例としまして、経済産業省の教育イノベーション小委員会でも取り上げておりました、将来的に社会において求められる力の一つとして、多様性を受容し、他者と協働する能力というのがありますが、こういった力をつけることが子供たちの将来に役立つ、求められているのだということを、分かりやすく伝えたいと考えています。
 これからの子供たちにそういった求められる力について比較的理解が進んでいる学校では、その内容をカリキュラムに盛り込んで、校長が教職員にキーワードを示しながら学校経営を進めています。例えば、市内のある小学校ですが、「学校が楽しい」と回答する児童が95%を超える学校があります。そこでは学校経営の大きな柱が三つありまして、一つは、主体性を育み楽しい学校にということで、学習活動、生徒指導全て含めて、児童の主体性や自己決定を重視することを教職員にとにかく伝えています。キーワードは、任せる、信じる、褒める、認める、そのための活動の場づくりということです。
 それから、二つ目としまして、とにかく子供を中心に考える。教員はティーチャーからファシリテーターへという言葉で語りかけています。
 それから三つ目は、日々の授業の充実ということで、全ての子供が顔を上げ目を輝かせて自分の考えを表出する授業を目指すなどということで、教職員が日々取り組むべきベクトルの方向性が明確に示されています。
 また、朝の学習、朝15分間ですけど、探究タイムというものを設けまして、全校生が朝の活動、15分間で、自分の好きなこと、知りたいこと、上手になりたいことにとことん取り組む、主体性と課題解決の力を育成する時間を設けています。こうした取組みが広がっていくことで、学校が楽しいと感じる児童生徒が増加していくと考えます。
 次に、教え込みの授業、教師主導型の授業から脱却した、児童・生徒の主体性を生かした授業への転換についてです。小学校は学習指導要領の全面実施から3年目、中学校は2年目で、移行期間にも様々な研究実践や授業改革を進めてきましたが、正直なところ、この2年半の新型コロナウイルス感染症の影響で、学習活動が制限される、話合い活動や協働的な学びが制限される時期等がありました。学校訪問をしていても、学校間や指導する教員に差が出ているなと感じております。
 1点私が考えることなんですが、協働的な学びのための学級の土台づくりも重要で、先ほど何人かの先生がおっしゃっていましたが、一つは、学級の中で児童・生徒相互が多様性を認め合って、同じ目的、ゴールに向けてチームで協力しながら支え合う、教室の中の支持的風土というものが大事。二つ目は、どの友達の意見にもしっかりと耳を傾けて、最後まで聞けるという子供を育てないといけない。もう一つは、チーム内の個々の意見を拾い上げて、うまくまとめることができる子供の育成、そういったことを学校現場にも伝えていきたいと思っています。
 また、GIGA端末の発表ツールとしての活用の仕方、例えば、個人やグループの考え方が電子黒板上で、一目で確認できたり、意見のグルーピングができたり、また、意見のポジショニングツール等をうまく活用できているかなど、ICTを効果的に活用した学習活動の充実を、教育委員会としても各学校に積極的に働きかけていくことが大変重要であると考えています。

【奈須主査】 ありがとうございます。
 それでは、今村委員、堀田委員、今日はここまでとさせていただきたいと思います。少し時間を延長させていただくかもしれません。
 では、まず、今村委員、お願いいたします。

【今村委員】 今村です。発言させていただきます。
 今、この部会は、学校、義務教育のところをどうしていくのかというところではあるんですけれども、ちょっとここまで出てこなかった論点の切り口から、気になっていることをお話しさせていただきます。
 9月21日に広島県の東広島市で、13歳と15歳の姉妹がJRの電車にはねられたという事件がありました。運転士の方は、二人は抱き合っているように見えた、非常ブレーキをかけたけど間に合わなかったということが報道されていました。
 また、大阪の摂津市で、10月8日に、多分、お付き合いをしているんだろう女の子と男の子の高校生が二人で一緒に電車にはねられた、一緒に飛び込んだように見えるということも共有されていました。
 学校という場所が、もちろん学習指導要領に定めた学びを学ぶ場所であるのと同時に、やっぱり今の教育振興基本計画のところで、ウエルビーイングという言葉を何よりも最重要にしていこうということが語られているんですけれども、改めて、友達とともに学べる、楽しいと思える、幸せだと思える、そういう機会を確認できる。まさか死ななくてもいいよねって思える。そんな選択を一人の子供もしなくてもいい空間のデザインをし直していかなきゃいけないときに来ているということが、本当に最重要の問題かなと思っています。
 その上で、もちろん不登校というのは大きなアラートだと思うので、100%のケアが必要だと思っているんですけれども、やっぱり子供たちの学習権をどう守っていくのか、100%どうやって守っていくのかというときに、どうやってそれを実現していくのかというところの具体論を、本当に皆さんと一緒に考えていきたいと思っています。
 私は、学校の教育がよくないから不登校が増えているんじゃないような気がしている。それだけじゃないような気がしています。どちらかというと、大人にとっても子供にとっても、生きることが難しい人たちが増えているんじゃないか。子供だけでいうと、携帯を手放さずに24時間人間関係を持ち歩くということは非常につらいことで、学校で嫌だな、この人と話したくないなと思っても、同じグループの中で、外したの外されないの、いつメンはあの子だの、あの子は空気読めないだのという、本当にそういう会話をずっとしなきゃいけないということで、24時間その時間の中で苦しんでいるということも子供たちの現実で、それは学習指導要領では救えない部分なわけなんですけれども、改めてそういったことを前提に置いたときに、どういうオルタナティブを学校の中と外につくっていくのかということが命を守ることにもなるんじゃないかという視点で、ここで一緒に皆さんと議論をしていきたいと思っています。
 憲法26条の就学義務のところをどちらかというと超えて、憲法25条の健康で文化的な最低限度の生活を子供たちだって持っているというところに立ち返る必要すらあるんじゃないかということが、今回問われているポイントなのかなということを感じています。
 ざっくりしたことしか言えなかったんですけれども、私からは以上です。

【奈須主査】 ありがとうございます。学ぶということは、人の幸せとか、生きることの幸いを実感できることとつながるはずなんですけど、原理的にね。でも、それが全く実現されていないんじゃないかと。逆に、学習指導要領には何がどこまでできているのかという、とても深い問いかと思います。
 それでは、堀田委員、お願いします。

【堀田委員】 東北大学の堀田です。遅参しまして、申し訳ございませんでした。皆さんのお考えをお聞きしながら、私は何を話すべきかなと考えました。二つお話しします。
 まず一つ目は、学校の働き方改革につながるようなお話です。先般、民間に就職する際に登録するリクナビの調査によると、新卒の人がその会社にいるのはいつまでいますかって聞くと、大体3年とか5年とか、長くて10年、10年以内で転職する予定だという人は5割を超えているという時代です。人生100年時代ですから、同じ仕事をずっとしているというよりも、自分のライフステージに合わせてスキルアップして、キャリアチェンジしていくという人材流動性が高い時代ですよね。働きやすい職場じゃないと、有能な人材が来てくれないし、とどまってくれないという時代で、民間は様々な働き方の工夫を努力をしているわけです。
 教員を振り返ってみますと、教員になった人も離職する可能性というのはこれからもっと高くなると思いますし、一方で、民間から教員に転職してくるような人ももっともっと多くなるのかなと思います。このことは、例えば研修制度をどういうふうに考えていくかということにつながるようなお話かと思います。
 大体教員になる人は熱心で真面目な人が多くて、どちらかというと、今までの学校のやり方をまた再生産しがちかなと私は感じます。これからの時代に生きていく人材を育てるときに、そのための義務教育だと考えたときに、本質を大事にしながらも、様々なことを弾力的に進められるようにしておかないと、有能な人材が教員としてとどまってくれないんじゃないかという危機感を私は持っています。
 そういう意味では、今日の朝、校務の情報化の会議をやったんですけども、もっともっと先生たちが働きやすくなるような、そういう情報化をもっと進めるべきかなと思います。もっともっと教員が自己実現しやすくなる、あるいは教育活動に打ち込めるようになる。労働人口が激減する中、どの職業も人はいませんので、限られた人数で今までと同じことにいろいろなことを付け足していくのはもう無理だと考えます。
 ですから、むしろ義務教育の在り方を検討する際に、教師のいろいろなタスクを減らす、あるいはデジタル化を民間並みに推進する、あるいは制度をもっと柔軟にしていくと。そういう形で、もっと働きやすくしていくということが大切かなと思います。教員のほとんどが地方公務員ですから、都道府県あるいは政令指定都市の行政との関係が非常に重要になるかと思いますけど、あるいは御理解が非常に重要になるかと思いますけど、そのように考えました。
 あと二つ目、もう少しだけ。義務教育の役割の観点から申し上げると、人材流動性が高い、そういう社会で生きていく、しかもその社会は恐らく将来の見通しは必ずしも明るくない。日本の経済もどんどん苦しくなっています。しかもキャリアチェンジしながら人生100年働いていくみたいな、そういう時代に生きていくわけですよね。そういう時代の義務教育の在り方というのは今までと同じでいいのかということから、もう一回ちゃんと問い直す必要があるんじゃないかなと思います。学び続けていくためには、自分の学びを自分で責任を持って学ぶということ、学ぶ内容だけじゃなく、学ぶ気概みたいなこととか、このことは学習指導要領では正に学びに向かう力と言っているわけですけど、そういうようなことをきちんと育成しなきゃいけない。コンピテンシーベースと言っているけれども、まだコンテンツの点数が取れた取れないを一喜一憂している、もうそういう段階ではないんじゃないかと思います。
 さらに大人になってからも学び続けるとなると、大人になってからの学びはかなりの割合でオンラインが絡みます。ですから、1人1台のGIGA端末があるというのは、オンラインも必要に応じて使いながら学ぶという経験をちゃんとさせるということなわけです。教師から見て必要なときに使うだけの問題じゃなくて、つまり、これまでの授業にどのようにICTを当てはめていくかという話ではなくて、これからの時代に生きる人材の育成のために、彼ら自身にどうやってICTを道具として使わせていくかという話です。そうすると、授業のスタイルも変わらざるを得ないと思います。自分の学びを自分で進めていくような、そういう授業が増えるような教育課程がつくれればというふうに考えるところです。
 雑駁な話になりましたが、私からの意見は以上です。

【奈須主査】 ありがとうございました。
 今日、皆さん方のお話を伺っていると、やはり学校がうまくいっているのかということを再度多角的に問い直す必要があるのかなと個人的に思っていました。私個人は、日本の義務教育というのは決して悪くはないと思いますけども、絶好調でもないと思うわけです。そして、かつて絶好調だと少なくとも信じられていた、あるいは学校関係者が信じていた時代というのがあって、その成功体験に身を委ねて、そのまま悪く言えば慣性でい続けているようなところがありはしないか。社会がいろいろ変化してきた、今ほどの堀田先生の御指摘にあるような、ICT含め変化があると思いますし、今村委員がおっしゃったように、子供も含めて僕らが今生きているという生き方そのものの状況すら大きく変わってくる中で、学校は何ができるのか、あるいは何をすべきなのか、あるいはそれをやっていくのにリソースはあるのか、あるいは限られたリソースをどんなふうに組み合わせれば何とかやれるのか、そんなことをまだまだ考えていかなきゃいけないし、場合によっては、何かを断念するのかということも考えなければいけないんだろうなというふうなことを思っていました。
 今、学校関係者とよく話をすると、いやいや、まだまだ日本の学校はやれますと皆さんおっしゃるんですけど、まだまだやれるということは、このままではもう駄目なんだということに薄々気づいているんだなと私なんかは思うわけですね。絶好調のときに人はまだまだやれるとは言わないので、かなりいろいろ難しいところに来ているということは、もう肌感覚では多くの人が感じているんだろうと。それに向けてどんな提案、問題の整理がなされるかということが、このワーキングの課題のように思います。
 すみません。司会が悪くて少し時間が延びましたけれども、本日の議論はここまでにしたいと思います。
 最後に、今後のスケジュールについて、事務局から御説明をお願いいたします。

【前田教育制度改革室長】 ありがとうございました。次回の本ワーキンググループは資料7にございますように、11月21日を予定しております。年内はもう一回、12月下旬に第3回目を予定しておりまして、なお、来年2月をめどに論点整理という形でおまとめいただきたいというスケジュール感でおります。
 事務局からは以上でございます。

【奈須主査】 ありがとうございました。
 それでは、本日予定した議事は全て終了しましたので、これで閉会といたします。ありがとうございました。
―― 了 ――
■会議終了後事務局に頂戴したご意見

【柏木智子委員】
〇「公正と自由、個と共同の関係性と子どもの学び」
 奈須主査のコメントより、私の発言内容に関連し、追加説明が必要と思われましたので、コメントを提出いたします。ご指摘いただき感謝申し上げます。
 公正は自由に対置されるものではなく、多様な人々の自由を共に保障していくために提案された概念となります。同時に、昨今では自由概念も転換を迫られています。グローバル社会の中で公正や正義がキー概念になるにつれ、そこで満たされる自由は、強い個人の内閉的な自己実現ではなく、他者とのかかわりの中でありのままとしての自己の尊厳を保ちながら、自らの声を紡ぎ出すことで解放される自己実現と社会参加を促進するものであるとされています。さらに、個と共同についても、それらは対置されるものではなく、異なる存在としての自他の多様性を保障するためにも、個としての互いを認め合い、互いに助け合う共同が必要となります。以下、この根拠について、概念の説明から進めて参ります。
 公正は、社会の不正義を取り除くために、資源の分配による個のニーズの充足を図ることであると言えます。資源分配をする主体は、公的機関のみならず、社会に生きる多様な人々となります。そのプロセスでは、多様な人々が、相互に関心と共感をもちながら、それぞれの持てる資源とやり方をもって多主体に向けて多方向的にニーズの充足を遂行する関係性が求められます。つまり、公正は、ありのままの自他の存在を相互に価値あるものとして尊重し、その上で自他のニーズに相互応答する状態を促進する概念であると言えます。
 前者は多様な存在としての子どもが相互の違いや価値を認め合う点から、後者はそれぞれの子どものニーズ充足の点から、多様性を保障するものとなります。特にニーズの充足に関しては、教員と子供の1対1の関係性に加え、子ども間の、さらには子ども−大人間のネットワークの中でなされることで、さまざまな資源がより多くより柔軟に分配され、多様性をより充実した形で保障することができるようになります。
 これを学びと結びつけて考えますと、個別による学びのあり方を多様化させるとおのずと公正が担保されるわけではありません。それと同時に、個と個のかかわりの量と質を充実させ、多様な仲間同士が相互作用して学びの中で資源分配を行うことで公正が担保され、多様な生き方が尊重されるようになります。さらに敷衍して述べますと、例えば一つの学級内においても、子供Aさんにとっての最適な学びと子供Bさんにとっての最適な学びが独立に存在しているわけではありません。Aさんの最適は、Bさんの状態やBさんとの関係性に左右され、Bさんの最適は、Aさんの状態やAさんとの関係性に左右されることになります。社会全体においても同様です。ある人にとっての最適な状態は、他者の状態や他者との関係性によって左右されることになります。そのため、公正が実現されるそのプロセスの中で、個にとっても仲間にとっても最適な学びや生活の状態が見出され、それは随時更新されていくものと思われます。
 これらを踏まえますと、多様な全ての子供の可能性を引き出す学びの実現のためには、教員やより多くの仲間、他者からの子供への存在承認と仲間との助け合いがまずは必要となります。これは、公正を促進する具体的行為としてのケアとして言い換えられます。そして、学校に通うことの意味は、異なる他者に出会い、かれらとの共感や軋轢の中で自己を知り、より発展させるとともに、異なる仲間と共に知を構成し、思考を深め、ケアする能力を高めうる点にあると思われます。その結果として、社会の分断を防ぎながら、相互の、そして社会全体のウェルビーイングを高めようとする意欲や力量を高められるところにあるのではないかと考えられます。ウェルビーイング概念が、他者とのつながりを重視している点からもこれは示唆されます。このように、公正を通じて、異なる人々が他者を信頼し希望を持って安心して生きられる社会を構想し、実現することが学校の意義・役割であり、格差の是正や社会の分断を防ぐことにつながります。

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