義務教育の在り方ワーキンググループ(第4回)議事録

1.日時

令和5年1月24日(火曜日)10時00分~12時00分

2.場所

文部科学省 (※WEB会議)
(東京都千代田区霞が関3-2-2)

3.議題

  1. 論点整理に向けた総括的議論
  2. その他

4.議事録

【奈須主査】 それでは、定刻になりましたので、ただいまから、中央教育審議会初等中等教育分科会、個別最適な学びと協働的な学びの一体的な充実に向けた学校教育の在り方に関する特別部会、義務教育の在り方ワーキンググループの第4回を開催いたします。
 御多忙の中、御出席いただきまして、ありがとうございます。それでは、本日の会議開催方式及び資料につきまして、まず、事務局より説明をお願いいたします。

【前田教育制度改革室長】 教育制度改革室長の前田でございます。本日、どうぞよろしくお願いいたします。
 本会議は、コロナウイルス感染症の感染拡大を防止するため、ウェブ会議で開催させていただいております。ウェブ会議を円滑に行う観点から、大変恐れ入りますが、御発言時以外はマイクをミュートにしていただきますようお願いいたします。カメラにつきましては、御発言時以外も含め、会議中はオンにしていただきますようお願いいたします。委員の皆様に大変御不便をおかけしますけれども、よろしくお願いします。
 まず、資料の確認をさせていただきます。本日の資料でございますけれども、資料1「論点整理に向けた総括議論」について、それから参考資料1から3がございます。参考資料2は、本ワーキンググループの第1回から第3回における主な意見をまとめたものでございまして、参考資料3は、これまで事務局からの説明で御紹介した資料を検討事項ごとにまとめたものでございます。
 事務局からは以上でございます。

【奈須主査】 ありがとうございました。
 それでは、議題に入りたいと思います。本日は論点整理に向けた総括的議論として、事務局から御説明をいただいた後、意見交換としたいと思います。
 なお、本日は報道関係者と一般の方向けに本会議の模様をユーチューブにて配信をしておりますので、御承知おきください。
 それでは、事務局より資料の説明をお願いいたします。

【前田教育制度改革室長】 資料の1、論点整理に向けた総括議論について御説明いたします。今、画面に表示させていただきます。この資料でございますけれども、これまで各回、2テーマずつ検討事項を本ワーキングで取り上げまして、計3回の議論を行っていただきましたけれども、これまで出された先生方からの意見を検討事項ごとに分類したものでございます。
 まず、1の義務教育の意義(1)を御覧いただきますと、1つ目の丸でございますが、これまでの日本型学校教育の強みとして、以下の点が挙げられるのではないかということで、例えば全人的な教育や他者との関わりや信頼関係の構築を重視してきたこと。それから、4つ目のポツでございますけれども、一人一人の子供を全人的に教師が見ることで、学ぶ意欲や思考の深まりにもつながってきたこと。
 次の丸でございますけれども、日本型学校教育の弱み、あるいは弱くなってきている点としまして、1つ目、全ての子供たちに同じ期待をし、一斉一律に処遇しすぎた結果、画一的で同調圧力を高めるものになったこと。それから、4つ目の丸でございますけれども、教育委員会は、組織として学校の主体性を支える必要があるけれども、その機能がアップデートできていないんではないかといった御意見でございます。
 また、義務教育の意義として、ケアする能力を高めるものだということで、多様性の保障と同時に、社会の分断を防ぐ機能が学校には求められる。誰もが特別な存在であることを当たり前のこととして捉えていくことや、多様性を受容し、他者と協働する能力を育成することが求められるということでございます。
 続きまして、これからの子供たちということで、人生100年時代、働いていくという時代にある中で、自分の学びに主体的に取り組む力、学びに向かう力の育成が必要であって、狭義の学力の状況に一喜一憂している段階ではないということでございます。
 それから、(2)の全ての子供たちの可能性を生かす学びの実現に参りまして、1つの丸でございますけれども、子供の発達が多様で、自己実現のありようも多様である現在において、過度な同等同質神話から抜け出せるかが重要である。できないことをできるようにするというのではなくて、よさを徹底して伸ばすという考えの優先度を上げていくことが必要だと。
 それから、教師からの一方通行の授業で教えるという授業観にとどまることなく、児童生徒が主体的に学びを選択し、自立した学習者になることを目指した授業観が重要であること。授業方法、教科書、教材の使用方法、教育課程、授業時数の在り方等を検討していく必要があるのではないか。
 それから、子供の特性に応じた必要な支援がある学校や教室であるべきであって、教室の中の支持的風土の醸成によって、相互作用のある学びや思考の深まりが可能となるのではないか。
 そのためにICTは、そうしたものを助け合えるようになるためのツールとなり得るという御意見でございます。
 次のページに参りまして、1つ目の丸でございますけれども、個別最適な学び、これを実現しようとする教師も存在しているのだけれども、リソースが不足していると。校務のデジタル化を含む働き方改革が不可欠。例えばとしまして、業務補助や特別な支援が必要な子供たちに対するさらなる人的支援などのリソースの確保、教師のシフト勤務制などの柔軟な勤務の在り方などが考えられるのではないか。
 次の丸でございますけれども、校種間の移行に当たっては、子供たちの中の環境の不適応が起こりやすいという御意見でございます。
 それから、2ポツの学びの多様性に参りまして、1つ目の丸でございますけれども、個別最適な学びと協働的な学びの一体的な充実のところで、以下の点が重要だということ。1つ目が、授業や単元を通じて何を目指すのか、子供たち自身が見通しを持てていること。子供自身が選択することができる機会が準備されている。何を学ぶのか、どのように学ぶのか、どのような進め方で学んで、どのようなペースで学ぶのか。それから、次に参りまして、繰り返し体験し直したり、学んだり、他者の学習を参照できる機会が準備されている。最後に教師の役割でございますけれども、ティーチャーからファシリテーターへと変革し、子供に学びを委ねつつ、支援するということが大事じゃないかという御意見でございます。
 こうした取組を進めるに当たって、学校の役割としましては、まずはビジョンをはっきり持つということ、それから校長先生がリーダーシップを発揮して、教職員との対話をしているという状況が望ましいのではないかという御意見がございます。それから、次のページでございますけれども、取組を進めるに当たっての教員同士の情報共有、連携協働があるということ。その際には、推進の核となる教員がいると。それから、実現したい学びのための環境が整備されている。指導主事や伴走者の存在、物理的なスペースでございますとかICT端末の整備といったことが挙げられております。
 次の丸でございますけれども、これからの学びということで、学校現場や教育委員会の支援のためには、これからの授業はどうあるべきかという具体的なイメージを明確に国が提示していかなきゃならない時期にあるという御意見、それから、知識伝達中心のこれまでの授業にICTを当てはめていくのではなくて、自分の学びを自分で進めていくような授業のスタイルに変わる必要があるのではないかという御意見がございました。
 それから、続きまして、ICT活用について、管理中心から各学校の実態に合わせたICTの活用を認め、教育実践が行われるよう応援していくことが、これからの教育委員会の役割ではないかという御意見でございます。
 それから、次のページに参りまして、(2)の多様性と包摂性に基づく学校文化の醸成、1つ目の丸でございますけれども、社会の分断の防止や格差の是正という学校の役割を踏まえ、多様性という名の下で個人の放置とならないように留意する必要がある。より多様な人々が過ごしやすい学校、社会になるための手立てや自分にできる行動を自ら考え、実際に行動するという機会を意図的につくることも必要ではないかという御意見。
 それから、次の丸でございますけれども、誰もが個別最適な学びを得つつ、異年齢、異なる学力、異なる属性が緩やかにつながって、対話して、納得解を得る場としての学校、これをつくっていくべきじゃないかということの御意見でございます。
 それから、(3)番の学びにおけるオンラインの活用でございますけれども、小さくアスタリスクで開いております、前回の御意見の中で、クラウドを使っての、クラウドもオンラインということで、対面での活用というのもあるという御意見でございましたので、ここでいうオンラインの活用につきましては、飽くまでも専ら遠隔によるものということで、クラウド上の教材活用等につきましては、ICTの活用ということで言葉を分けております。
 従いまして、ここは遠隔ということでございますけれども、1つ目の丸で、山間(さんかん)地域、離島の小規模校、遠隔合同授業を行うことで多様な友達と出会って、様々な意見に触れ合う、協同的な学びにつながるという可能性。
 それから、次の丸でございますけれども、オンラインは整備されて当然のインフラと、今もこれからもなっていく中で、学校に登校して学ぶというこれまでの原則に、オンラインで学ぶというスタイルをどのように組み込んでいくのか議論が必要ではないかという御意見。
 それから、(4)番の学校教育になじめないでいる子供に対する学びの保障でございますけれども、1つ目、問題行動等調査の不登校の要因、無気力、不安等については、ブラックボックスになっているといった課題があるので、改善の余地が大きいという御意見でございます。
 それから、次の丸でございますけれども、不登校につきましては、教育機会の喪失だけではなくて、労働力の減少、保護者の雇用形態の変化でございますとか世帯収入の減少もあるということで、41万人の長期欠席の子供に目を向けることが必要じゃないか。
 それから、不登校児童生徒の支援につきまして、教育、医療、福祉等、支援ができる場所につなぐという観点が必要という御意見。
 それから、次の丸でございますけれども、子供の状況に応じた支援ができる場所につなぐためには、支援のハブになる存在が必要であるけれども、現状は、それぞれがばらばらに動いている。例えば、ハブとなる存在として、教育支援センターや学校の別室、不登校特例校などが考えられるのではないか。そういった全国に展開していくためには、モデル的な支援の在り方をパッケージとして示していくことが必要。また、その際には、国や自治体が必要な条件整備を行うということも必要という御意見でございます。
 それから、一番下の丸でございますけれども、オンラインの活用につきまして、こちらにございますようなメリット、様々なメリットがある一方で、デメリットということも7ページ目の最初の丸に示されておりますけれども、オンラインを活用した支援というのは1つのステップとして考え、リアルとのバランスを取ることが必要。
 それから中山間(さんかん)地域のところでございますけれども、民間の支援機関がなくて学校しかないという場合も多いので、学校との連携が重要。「また」以降でございますけれども、正に義務教育ワーキンググループでの御議論でもやるかと思いますけれど、どうすれば不登校を生まないかという視点が必要であって、義務教育の学校の役割は大きい。一方で、学校の役割としてこれまでも取り組んできたものが、現在困難になっているのはなぜか、その解決のためには条件整備等も含めた措置を考える必要があるのではないかと。
 特に、学校の役割として幾つかお示しいただいていますけれども、ケース会議の活用、それから教育データの利活用、クラウドやチャット等、ICTの活用、また、ふだんの授業の中でICTを活用して、全ての子供の様子を把握できるようにすることも効果的じゃないかという御意見。
 ただし、いろいろな家庭の事情で困難を抱える子供たちもいて、迅速な支援につなげる必要があることから、学校や先生だけで抱え込むのではなくて、外部のリソースを活用することも必要だという御意見でございます。
 以上が、検討事項ごとに事務局のほうで、これまで先生方からお示しいただきました意見を分類したものでございます。
 資料1につきましては、以上でございます。よろしくお願いいたします。

【奈須主査】 ありがとうございます。
 それでは、ただいまの事務局の御説明を受けて、総括的な議論を行いたいと思います。現在、政府において異次元の少子化対策に取り組むという報道もあります。児童手当の拡充といったようなことも言われていますけれども、子供を安心して産み育てることのできる環境を整えるということを考えると、そうしたこと以外、やはり学校が生まれた子供にとって安心して学ぶことができる場所であるということが重要だと思います。
 ここで、安心して学ぶことができるということは、もちろん学校の福祉的役割という意味もありますけれども、それだけではなくて、学校が全ての子供にとってそれぞれの得意分野や特性等に応じた活躍の機会がある、毎日が楽しいと思える場所であると、そして、それが未来につながるということが大事だろうと思います。このワーキンググループが設置された目的も、その設置紙にありますように、多様で柔軟な学びの具体的な姿を明確化するというところにあります。また、令和答申を受ける形での個別最適な学びと協働的な学びの具体化ということもあろうかと思います。
 本日の総括的議論では、どのような学校像を、どのような学びの形を目指していくのか、様々な具体策についても御提言いただければと思います。
 それでは議論に入りたいと思いますが、今ほどの御整理からも見えてくることですけど、検討事項のうちの1、義務教育の意義、それから、2の(2)、多様性と包摂性に基づく学校文化の醸成。それから、2の(3)、学びにおけるオンラインの活用、この辺りに比較的、これまでの御意見が少なかったと思います。まず、これら3つの検討事項について、不足している視点などないか、順に御議論いただいて、さらに残りの時間でその他の事項といいますか、全体について御議論いただくという形で進めさせていただきたいと思います。
 それでは、まず、資料の1ページから3ページにあります、義務教育の意義というところです。これについて御議論いただきたいと思います。とても重要なテーマだと思いますし、それから多様性、それからICT、デジタルということは、義務教育の意義を改めて問い直す切り口にもなろうかと思います。
 まず、この辺りについて、25分ぐらいずつ区切りながら、3つのことをまず、御議論いただければと思います。
 それでは、いつものことですが、御発言がございます場合は、「手を挙げる」のボタンを押して、御指名をしますので御発言をいただければと思います。いかがでしょうか。お願いします。
 それでは、まず、秋田委員と戸ヶ﨑委員、貞広委員、若江委員の順で御発言を思います。それでは、まず、秋田委員、よろしくお願いいたします。

【秋田主査代理】 おはようございます。学習院大学の秋田です。義務教育の意義ということで、数点申し上げたいと思います。
 まず、当たり前のことなんですけれども、6年間、3年間というような形で、学校が教育目標を立て、教育課程の中で、学年ごとにバトンを送りながら、教員がチームになって教育課程の下で資質・能力を育てていくということは、恐らく、塾やほかの場ではその時々の学習指導はできたとしても長期間においてはできない、義務教育が最も大事にしたいところだと思います。それによって、長期的な視点に立たなければ育てられない資質・能力の育ちを見取り、それを育んでいくということができるのではないかと思います。また、その基盤に学年制、そして、学級編制での学習を基盤とするということがあり、それによって、学級風土の中で、相互に子供たち同士が知識を引き出し合い、集団の重要性や個々の多様性を学ぶ場が形成されているということが、義務教育において重要なことです。
 また、6年や3年ということが単位になることによって、異年齢で、憧れを持って学校の文化の中で、こうありたいという姿をお互いが学んでいくことができるというようなことが極めて重要なところだろうと考えます。ただし、例えば学級単位で行うからこそ、公共性や多様性を学ぶことができる一方で、学級担任と子供の相性や、学級の雰囲気によっては、不幸にも、それによって学校に行けない子供ができたり、自分の意見を自由に言ったり、相談や心配事などでの不安を安心して語ることができない子供というのが今いるということも、一方で事実ではないかと思います。もちろんそのときに学級編制の人数だとか、それから学習指導で教科担任制を入れるというようなこともあるわけです。不登校が増えていること等を考えたときに、学級担任1人が全ての学級を、その先生のカラーで染めるというような学級王国の発想から、むしろ子供自身が、先生方が学年でチームになるとか、いろいろ相談しやすい学年の先生に相談できるような仕組みを考えていくということも、また、学級王国を開放していくというためには重要な部分ではないかと思います。
 実際に、そうした中学校等で、そういうチーム担任制の中で、うまく相談事などを受け入れるような学校の改革に取り組んで、子供の意見表明権を保障するなどをしている学校もあるわけです。今後、そうした6年間や3年間、9年間のよさを生かしつつ、一方で、学級のまとまりのよさという支持的風土を育てると同時に、子供自身が、もう少し当たり外れではありませんが、運命づけられた出会い以外の選択をできるような可能性を出すことが重要ではないかということが1点目です。
 それから、2点目として、少し長くなりますけれども、今回、義務教育を考えていますけれども、実はそれと関連して、幼児教育と小学校教育というものが、学びや生活の基盤を培う重要な時期であり、現在も5歳から小学校1年生を架け橋期と呼び、審議のまとめを架け橋特別委員会のほうでつくっているというところでもございます。幼保小連携接続ということが、教科や方法がつながることで子供の幼児期の学びの経験を生かした小学教育への接続という側面はもちろんなんですけれども、それだけではなく、多様な子供たちの支援を手厚くつないでいくということ、それから、これまで公立の小学校と公立の幼稚園や保育園の連携というイメージが多かったんですが、今回、3歳から無償化になる全ての子供たちが、その小学校区や中学校区において、円滑な接続をしていくというようなことが行われることによって、実際に学校の先生方の教員の声を聞きますと、例えば、保護者対応などがどのように行われているかを園から聞けて大変助かったという声であったり、それから、また、支援、指導が困難なお子さんや困難な家庭の支援の在り方の情報を知ることができたというような声も聞こえています。この意味で、義務教育の在り方を考えていくときに、義務教育の学区が中心になりながら、乳幼児期からの、特にすべての子供に無償化されている幼児教育とどう接続をしていくのかというような発想が、義務教育を地域の学校として考えていくときに大事だろうと思っています。
 それから、最後、3点目ですけれども、やはり義務教育は地域に根差した学校ということであります。特に校長は数年で動き、それから、教員も異動がありますが、地域の人たちはそこに生きているということがあります。ですので、また、歴史的に見ても、京都などもそうですけれども、町の人たちが学校をつくってきたというような歴史を持っている地域もあります。総合的な学習の時間を含め、今、地域素材や地域教材を大事にした探究学習も行われてはきていますけれども、もっとより地域に根差すという意味で、学校管理職が、安定して地域に根差した教育に貢献できるような在任期間はどうあったらいいのかとか、学校運営の在り方はどうあったらいいのかということを、少子化に向かって考えていくことが必要であろうと思います。
 そして、最後にそうしたことを支えていく教育委員会が、研究指定校や教育部会、教科部会などをつくることで、様々な意見をお互いに共有しやすくするという機能を持っているのは日本の独自性ですので、そうした良さを生かして、各地域が地域としての義務教育をつくっていく発想が大事ではないかと思います。
 長くなりましたが、以上です。

【奈須主査】 ありがとうございました。それでは、戸ヶ﨑委員、よろしくお願いします。

【戸ヶ﨑委員】 時間の関係で、1の義務教育の意義の部分だけについて、ひとまず発言させていただいて、その後、時間があれば、2の学びの多様性の内容についても意見を述べたいと思います。
 まず、1(2)、全ての子供たちの可能性を引き出す学びの実現という部分についてです。これまでも意見申し上げていますが、全ての子供の可能性を引き出す学びを学校現場でいざ実践することになると、そのための、御指摘も書いてありますが、リソースが正直なところ、まだまだ不十分だと思っています。その第一歩として、「子供に向き合う」、または、「直接子供とは向き合わなくても、1人の子供を全ての教師で見つめ直したり、子供のことを真剣に考えていく」、そういう「質の高い時間」を確保していくことが必要です。
 先月、「令和4年度教育委員会における学校の働き方改革のための取組状況調査」が発表されましたが、その中で、「教師として行うべき業務の分類(3類型)」が使われています。これは御案内のとおり、コロナ前の平成31年1月に出された、「学校における働き方改革に関する総合的な方策について」の中教審答申で出された分類です。当時と比べて、教師の在校等時間も減少しており、コロナ禍を経て、働き方改革も随分進んできています。
 ただ、一方で、在校等時間の下げ止まり傾向もあり、「これ以上、何をどのように削減したらいいのか」という現場の声も聞こえつつあります。具体的には、この分類、つまり①基本的には学校以外が担うべき業務、②学校の業務だが必ずしも教師が担う必要のない業務、さらには③教師の業務だが負担軽減が可能な業務、こういう分類を、この際改めてこの部会等でも検討してもいいのではないかと思っていることが1点です。
 次に、こちらは昨年の12月から貞広先生を座長とした、「質の高い教師の確保のための教職の魅力向上に向けた環境の在り方等に関する調査研究会」が立ち上がり、ここでも優れた人材を教師として確保することや処遇の在り方等についての議論が始まっております。このワーキンググループにおいても、学校現場に限らず、社会全体で人材不足が叫ばれている現在、優れた人財を教師として確保するために、特に社会状況の急激な変化に伴って、学校教育が抱える課題も一層複雑・多様化してきていることから、ぜひこの際、義務教育の学校における「教師を取り巻く環境」ということについても、何らかの検討が必要だと思っています。
 以上です。

【奈須主査】 ありがとうございました。それでは、貞広委員、お願いいたします。

【貞広委員】 ありがとうございます。千葉大学の貞広です。
 教員の方々を取り巻く環境のことにつきましては、今、戸ヶ﨑委員から御意見いただきましたので、私はそれとは別の観点で、特に検討事項1について意見を申し上げたいと思います。
 検討事項1について、表題として、義務教育の意義という題をつけていただいていますけれども、全体的に、この大前提についての議論が必ずしも十分になされず、どちらかというと、例えば自由進路学習といったような具体的な教育方法等の定着をいかに行うかといった議論に全体的な重心が置かれていた印象があります。また、この点と関わって、子供をグローバルな産業や市場の中で、どれほど価値のある人材に育成するのかといった個人の成長という点からは言及がなされて、多様性というキーワードも何度も出てまいりました。私自身もそれに何度も言及してきていますけれども、ただ、公教育、義務教育の役割を考えますと、そうした個人の成長の側面だけではなく、共生社会や民主主義社会を支える市民を育成するという視点や、社会発展や持続性を支える人材の育成といった公的な観点も大変重要です。
 今回、多様性ということを議論の中で重要視するゆえ、また、個別最適という言葉にも引きずられ、これらの点の議論が十分に深まっていない印象を持っています。特に義務教育段階では、必ずしも対面の学校に限らなくても、学校等の場をベースとして共に学ぶこと、義務教育として共通に学ぶことを、その程度自体は議論になると思いますけれども、極力実現することが公教育にとっては大切にするべき側面であろうと思います。
 個人的私的成長の側面のみに着目をするということは、義務教育がサービス産業化する懸念も持ちます。多様性も核やコアがあってこそのものであるという側面もあり、これらの点のバランスに配慮する議論の展開が必要であると考えております。
 以上でございます。ありがとうございました。

【奈須主査】 ありがとうございました。それでは、若江委員、お願いします。

【若江委員】 キャリアリンクの若江でございます。よろしくお願いいたします。
 私も2ページ目の一番上のパラダイムの、「学び続けていくためには」というところ、ここで言われているのは、教育委員会の進化だとか教員の成長が義務教育の変化を支えるのにとても重要だということが示されていると思っております。御承知のように、教育委員会の指導主事は学校現場の教員が任命されてある一定の期間その職に就きます。そのため教育委員会組織機能の在り方も、大きな転換が求められている教育行政においていろいろな課題を生んでいるのが実情といえます。学校経営についても校長のマネジメントスキル、マインドのこと、そして教員も働き方改革ですとか教員の質の担保や、量確保などの、これまで委員の先生方がお述べになったような、いろいろな課題が山積をしているのが実態です。
 このままではそれぞれが当事者意識を持ちながら、どのようにうまく連携して令和の教育を実現していくのか大きな課題であるのではないかなと思っております。
 いろいろな議論は大切ですが、具体的な解決策を見出すことが重要で、1つの案として申し上げておきたいことが、今さらかもしれませんが、総合的な学習の時間というのがやはり物すごく重要だということです。ただ、総合的な学習の時間のカリキュラムは、未だにほとんどの市町村では、各校ばらばらに、校長裁量、学校裁量というような形で展開されていますが、義務教育の転換を効果的に推進するためにも、やはりここは、全市統一のカリキュラムをつくるなどの方策が有効だと実感しています。そしてその機会によって教育委員会が推進力となり全市の校長の意識改革を推進するですとか、核となるカリキュラム開発においては全市からの代表教員により、指導主事のコーディネートのもと一緒につくるという一体感を醸成するのです。しかも、その開発メンバーはベテラン教員中心ではなく若手教員を中心として、今課題になっているICTのことであるとか協働的な学びについて、順応性の高い層に変革の中枢を担わせることも重要です。このように変革の過程を、うまく生かしながら個別最適化を目指す令和の日本型学校教育に取り組んでいくということが、合理的な1つの方法ではないかなと思っております。
 要は、もっとも重要な役割を担う教員を変えていくためには、個々の思いや力量に頼り、任せきりというのではなく、令和の日本型学校教育実現のために何か機能として新しいしくみをつくっていかなければならないのです。教員自身が令和の日本型教育はこういうことなのだということを実感できる、そのことがとてもに重要ではないかなと思っております。
 以上でございます。

【奈須主査】 ありがとうございます。それでは、荒瀬委員、お願いいたします。

【荒瀬委員】 皆さんがおっしゃっていることと重なるんですけれども、私、増やすことと減らすことというのを考えていく必要があるのではないかなということを思っています。
 増やすということで言うと、3ページのところに、一番上の丸のところにリソースの不足が書かれていて、抜本的に教員の数を増やしていくといいますか、教員1人当たりの児童生徒の数をいかに減らすのかというのを、これ、考えなければ、何をしようと思ってもできないのではないかなということを思っています。
 今、高校ワーキングも動いておりまして、そこでの議論なんですけれども、先日、高校生に来てもらって話を聞きました。そのときに、1人の生徒が言っていた言葉が大変印象に残っていまして、ずっと自分は普通になれということを言われ続けてきたと。普通になれ、普通でいいんだと言われてきて、普通というのがどうもよく分からないので、今、総合的な探究の時間で普通とは何なのかと考えているという、そういう話をその子はしていました。要はいろいろな視点が子供たちに入っていくということが大事だと思っていまして、それは特に義務教育の段階でそういうことをしていこうとすると、今、進められようとしている教科担任制であったりとかも大事なんですけれども、そのためにも抜本的に教員の数を増やしていくということが非常に大事だろうということを思っています。
 教職員支援機構で、今現在も、オンラインで中堅教員の研修をやっていますけれども、先生は学校から参加していらっしゃるんです。そうしますと、中堅教員で中央研修に来る人たちって学校の中でも重要な立場でいらっしゃるということもあるんだと思うんですが、途中で声がかかったりして、研修もおちおち受けられないという、そんな状況さえあります。こういったことをいかに解消していくかということが、具体的に義務教育の充実に向けても大変重要だろうと思っています。
 1ページの最初のところに、(1)の1つ目の丸の、1つ目のチョボですけれども、全人的な教育を重視してきた。これはとてもよかったと私も思っていますが、ただ、全人的な教育という本当に幅広いことをやっていくということを、今後もやっていくのかと。そこのところも考えなければならないんじゃないかと思います。何は学校の中でやって、何は学校ではもうできないんだということは明らかにしていく。そういったことも議論していく必要があるのではないかということを思っています。
 以上です。ありがとうございました。

【奈須主査】 ありがとうございます。この後、黒沢委員、中谷委員、鍵本委員の順でお願いいたします。一旦ここまでで、この段階の議論は終わりにさせていただきたいと思います。それでは、黒沢委員、お願いいたします。

【黒沢委員】 義務教育の意義というところなんですけども、うちみたいな不登校特例校にいると、子供たちが学校に来たがらないという子を学校に来させるわけですけども、それぞれ義務教育の意義はといったら、やはり全ての子供に質の高い教育をとなるんですけども、そもそも学校に来ないとそれが成り立たないわけで、じゃあどうやって子供たちに質の高い教育を受けさせる気にさせるかなんですけども、何のために学びは必要で、それを学ぶと、結果こうなるよという道筋をきちんと、教員でも周りでもいいんですけども、ちゃんとそれを示して、子供たちにやる気を起こさせるというのがとても大切かなと思っています。
 うちの子供たちを見ていると、最小限のパワーでいろいろなことを乗り越えようとするんです。そうじゃなくて、自分の目的があれば、いろいろなパワーをどんどん使うわけですけども、そういうきっかけをどうつくっていくかというのが教員にも求められますし、学校経営にも求められるかなと思っています。
 よくやる気スイッチを入れると言うんですけども、やる気スイッチの前に、やる気エンジンがない子がたくさんいるので、エンジンをつくるという意味でも、何のために、結果どうなるよということはちゃんと示す必要があるかなと。僕の持論の1つに、子供は子供の中で育つというのがあるので、そういう子供たちがお互いに、あ、こういうことをしなきゃ、そうだ、これ、気がついたということを、お互いが気づき学び合うなんていうのも学校の役割だと思いますので、ぜひその辺りを考えていく必要があると思っています。
 以上です。

【奈須主査】 ありがとうございました。それでは、中谷委員、お願いいたします。

【中谷委員】 1の(1)と(2)に関しまして、申し上げたいことがございます。
 まず、1の(1)の2ページ目の一番上の丸について、この視点はとても重要だと考えます。学校での学びの先にある10年、20年後の社会を意識することというのは、実は教職員はあまりできていないというのが私の学校現場にいる率直な感想です。この意識は、教育の目的、目標、内容、方法の前提となる、まさになぜやるかの部分であり、個々の教職員が自分事として、主体的に教育活動を進める上での原動力になるものだと考えます。
 日々の忙しさのために、ついつい目の前の事象の対応に追われることが多いんですけれども、その対応に当たっても、この学びの先を意識しているかどうかというのはとても大事だと思います。
 したがいまして、この点については、文部科学省、県、市町教育委員会、そして、我々校長が、繰り返し、繰り返し、具体のイメージを含めて発信する、伝えていくことが重要だと考えています。
 (2)の全ての子供たちの可能性を引き出す学びの実現につきましては、大きく3点申し上げます。
 まずは、子供たちに必要な資質・能力、主体的に学ぶに向かう力の姿をより具体化して、これまで以上に強調して発信していくことが重要だと考えています。学校の教職員の多くが、もっと言えば、教育委員会も含めて、狭義の学力の状況に一喜一憂しているという表現がありましたが、これはある部分、事実だと思われ、それだけではないですよとか、むしろこれからの社会を生きる子供たちにはこちらのほうが大切ですよといった強いメッセージを発し続けることは、学校の教職員の意識や実践の転換を促し、先生方に自信を持って取組を進めていただく、それを後押しするポイントになると考えています。
 また、自立した学習者を育てるためには、何度も失敗して試す、試行や思考を繰り返すことができる時間が必要だと考えます。そう考えますと、これは遠い先のことかもしれませんが、学習すべき内容、コンテンツを一層精査する必要があるのではないか。10年後、20年後の社会を生き、持続可能な社会の作り手となってほしい子供たちに、真に必要なコンテンツは何なのかといったことを深く議論する時期に来ているのではないかと思っています。
 ただ、コンテンツの精査につきましては、非常に留意が必要で、それだけでは対応できない教職員が多くいると思われますので、教科書、教材、ICT等々、パッケージ化して示すことが必要だと考えています。
 それから、もう一つ、校長の私が言うのもおかしいのですが、やはり校長を育てるシステムの構築、充実が必要ではないかと思っています。全国に小学校だけで2万校弱だったと思いますけれども、いろいろな校長先生がおられて、今後より多様性とか主体性、校長のリーダーシップといった言葉が強調されるだろうと思われる中で、学校間の格差がさらに拡大することが懸念されます。その差が多様性であるとか特色という言葉で言い換えられるものであればいいことなんですけれども、それだけでは片づけられない場合もあるかもしれません。
 私は先輩方から、学校は校長で変わると何度も聞いてきて、これは私の反省も含めまして、私自身が今、そのことを日々実感しています。今後、全体として、優秀な人材確保がより困難になるとも言われる学校現場にあって、一人の校長を育てることは、何人、何十人の教職員を育てることに直結すると考えれば、校長の人材育成に力点を置くことは極めて合理的かつ効果的だと考えています。
 さらに言いますなら、多様な人材を校長として採用することも必要だと思っています。制度としては可能となっていますけれども、なかなか私の周りにはいらっしゃいません。そのことによる課題もあろうかと思いますが、、多様性を尊重する場としての学校づくり、これを考えたときに、多様な人材確保によりシフトするということも重要だと思っているところです。
 すいません、少し長くなりました。以上です。ありがとうございました。

【奈須主査】 ありがとうございました。それでは、鍵本委員、お願いいたします。

【鍵本委員】 鍵本でございます。
 まず、最初のところで(1)のところに書いてありますが、日本型の学校教育の強み、これは他者との関わりを重視しながら進めてきたことだというのは強く思っておりまして、その中で、今後、子供たちが社会の中で多様な人々とどのように共存していくのかということを考えていく場合に、自分とは異なる立場の人々の話もきちんと理解しながら、あらかじめ整理した自分の考えを論理的に説明して、対話によって合意形成を図っていく力というのを、今以上にもっともっとつけていかなきゃいけないんじゃないかと強く思っているところであります。
 申し上げるまでもありませんけれども、子供たちはデジタル機器に囲まれて、フィルターバブルとも言われるような状況があります中で、情報を正しく読み取って、それに基づいて、様々な人と議論することを通して思考を深めたり、納得する答えにたどり着いたりするような経験を、これまで以上にしっかりと子供たちに積むことができる環境をつくっていく必要があると思っております。
 学校現場はこれまでも申し上げましたけれども、見てみますと、確かに大きく変わりつつある中にもありますけれども、まだ依然としまして、一方的に教え込む授業から脱却できていない教員もおりますし、主体的な学びを重視した授業とは言い難いものも残念ながら見られるような状況があります。また、総合的な学習の時間の保障も先ほどありましたけれども、教育活動におきましても、教師の想定した流れに沿って進めていくものが見られておりまして、子供たちに自己決定を促したり、あるいは判断を重視するものにはなかなかなっていない、そういった現状があって、さらに議論を深めていくことが必要だなと感じているところでございます。
 こういった状況に対しましては、国や都道府県、市区町村、学校の各レベルにおいて、対話によって合意形成を図っていく活動がなぜ必要なのかというようなことを、今の社会の変化であるとか、あるいは現在の社会情勢を基に教員の共通理解を図りながら、個々の教員が自己の教育活動の中で実践できるイメージ、どういうふうに進めていったらいいのかというのが持てるように、さらに具体的な方策を示していく必要があると考えております。
 また、こういったことを学校現場に話をしますと、言われることはよく分かるんだけども、実際、なかなかその余裕がないんだという声が、校長先生や教員から返ってまいります。先ほど、いろいろな委員がおっしゃっておりますように、本当に教えるべき内容を精選をしていくということも必要だろうと思いますし、また、いろいろな教員の働き方改革についても、併せて議論をしていって、それができる時間を生み出していくということも必要ではないかと思っております。
 以上でございます。

【奈須主査】 ありがとうございます。それでは、今村委員、お願いいたします。

【今村委員】 すいません。後に手を挙げてしまったのに、当てていただきまして、ありがとうございます。
 私からは1点だけ、今回、義務教育の意義について、こうして投げかけていただき、そして、日本型学校教育の弱みについても、このようにちゃんと明記していただいたというところ、そして、これ自体を発信していくということがすごく大切なことだなと思いながら参加していました。
 私が1つだけ願うのが、これを、こういった公的な文書の中でどう位置づけていくのかというところは、プロフェッショナルの文科省の方にお願いしたいんですけれども、私としては、とにかく日本の学校教育の一番の反省は、現状、個人の内発性の火を消してしまう機能にすらなってしまっているということを、きちんと理解しなければいけないと思っています。今、鍵本先生がおっしゃったことともつながるかなと思うんですけれども、とにかく、一人一人が内発性をともす場である、学ぶということは楽しいことだと、自分が社会の中に生きていくために、学ぶということはとてもすてきなことだということを心から思える内発生の火を、とにかく今は消してしまうような機能がとても多いということを直視したいと思っているんです。
 特に、今回、中学校の学習指導要領も2021年から変わったので、内申点のつけ方とかも変わったんですけれども、その中でも、学びに取り組む態度というところも、新しい正解主義になっている学校もすごく多くて、内申書を、とにかく内申点を上げるということに躍起になっている子供たち、そして保護者の方々も正しい正解主義を探しているような声もとてもよく聞きます。授業の態度は、積極的な態度を先生に見せなければ内申点が下がるとか、黒板のほうをちゃんと見ている態度を示すとか、ちゃんとした制服を着ているという態度を示すとか、そういったことが内申点につながるんだなんていうことを言っている人たちがいて、そういうような態度を、もしかしたら先生たちも求めて、新しい評価のつけ方も苦労されているんだと思います。そんな中、私たちの最大、最上位のミッションは子供たちの学びに対する内発性を育てていくのであるということ。そして、正解主義をしながら、自分の頭で物を考えていける子供たちにしていくんだということが、AIが簡単にフェイクニュースをつくれて流せてしまう時代において、とても大切なことであるということを学校教育には求めていきたいということを申し上げさせていただきます。
 私からは以上です。

【奈須主査】 ありがとうございました。今、今村委員からあった話は、かなり以前に態度主義学力という議論で、教育学なんかでもやられたんですけど、まだまだやはりそういうことがあるんだなと。
 そう考えますと、私も御意見をと思うんですが、このワーキングでは、デジタルも駆使して多様性にしっかり応じていく、今後の未来の学校教育の在り方を議論しているわけですけど、今の議論でもあったと思うんですが、そもそも今日の学校がどこから来たのかということ、これを押さえるということもすごく大事かなということをこのところ思っております。来た道を確認して、行く道を考えるというんですか、少し私なりに申し上げると、近代学校のルーツはいろいろあるんですけど、1つは産業革命下のイギリスで、工場労働に駆り出される子供を守るべく学校が生まれたということ、これを押さえる必要があるかなと思うんです。つまり学校はそもそも子供を守るシェルターだったということです。子供たちの未来に備えて勉強を教えるという名目で、不当な労働から子供を守ろうとしたというのが近代学校の出発点だったというのは確認する必要があると思います。
 また、工場労働に限らず、歴史的には子供は常に家庭や地域の労働力でした。幼い頃から畑仕事や子守をしていたわけです。ところが近代学校ができると、学校に通えば労働から解放されると。そして学校での勉強は未来を切り開く力になると。多くの子供が喜んで学校に通い、勉強に励んだということが言われるわけですけど、背景にはそういう事情があったかと思います。このことは、現在でも開発途上国の子供たちの学校への期待、そこでの熱心な学びの姿に認められるかと思います。
 ところが、時代の変化に伴って家庭や地域から子供が担うべき労働がどんどんなくなってきました。生活科で子供が家庭の仕事をお手伝いするという学習がありますが、なかなかなくて本当に苦心しています。加えて、学校に通わなくても、先生に教わらなくても、デジタルその他様々な手段で勉強ができるようになってきたという変化もあります。
 これは汐見稔幸先生が書いておられるんですが、先生が子供だった昭和30年代には、本もピアノも理科の実験器具も学校にしかなかったと。だから学校は勉強のできる、できないかかわらず、多くの子供にとってわくわくする場所だったというんです。この状況が変化してきましたし、デジタルによって決定的になったと思います。そして、ついには学校にも1人1台の端末がやってきました。もはや学びは学校や教師が独占するところではなくなっているということ。この今日的状況の中で、学校なり、教師の役割は何かということを問う必要があるんだろうなと思います。
 また、もう一つ、近代学校のルールを考える上で重要なのは、19世紀終わりのドイツで起きた統一学校運動かと思います。当時のヨーロッパでは、社会経済的な階級によって通う学校が違っていました。それに対して、せめて日本でいう義務教育段階だけは、身分や貧富の差に関係なく、全員地域の学校に通って、机を並べて学び育つという運動がありました。つまり、学校には社会の分断を防ぎ、格差を是正し、平等や公正を実現するという機能が当初から期待されていたということですよね。そして、日本は明治期からこの考え方でスタートします。まさに統一学校として日本の学校はスタートしたわけです。だから日本は、今日でも平等性が高い水準で実現されていると国際的に評価されていますし、引き続きこれは大切にする必要があると思うんです。
 令和答申で個別最適な学びと協働的な学びの一体的充実ということが言われていますけれども、まさにそれを目指して提起されたものだという理解が大切かと思います。分断を生み出すような学びは個別最適な学びではありません。また、同調圧力を生み出すような学びも協働的な学びではないんだろうと思います。
 そういう目で、この2つの学びの質と一体的充実というのを考える必要があるし、まだまだ誤解もあったり、実践にも不十分なものがあるように思います。さらなる実践の質を目指して、しっかり必要があるし、議論する必要があるように思います。
 それでは、一旦ここで、1つ目の議題は終わって、続きまして、資料5ページ上段になりますか、2の(2)、多様性と包摂性に基づく学校文化の醸成について御議論いただければと思います。近年、多様性、包摂性に公正、公平の概念を加えた、DE&Iというんですか、ダイバーシティ、エクイティ & インクルージョンといった考え方も出されているようです。不登校のお子さん、特別な支援を要するお子さん、特異な才能を有するお子さんなど、様々な状況にある同世代の子供が集う学校において、時には価値観が自分とは異なる他者とも折り合う、関わり合う、そして、どのように多様性、包摂性のある学校文化を醸成していくか。もう先ほどの御議論の中にもいろいろな御意見ございましたけれども、本ワーキングでの重要な議論の柱かと思います。
 それでは、この部分について御意見がある方、挙手をお願いいたします。それでは、戸ヶ﨑委員、柏木委員の順でお願いをいたします。その後、秋田委員ということで、まずは、戸ヶ﨑委員、お願いいたします。

【戸ヶ﨑委員】 ここは2(4)にも被る内容かと思いますが、多様性と包摂性という観点からお話を申し上げます。
 まず、全ての子供は何らかのニーズを有しています。こういった視点が学校現場にも、教育委員会にもまだまだ不足しているのではないかと思います。
 これまでの議論は、どちらかというと「学校教育になじめないでいる子供」として、不登校の子供にウエイトが置かれていたように感じますが、ここの部分で、特別な支援を必要とする子供や特異な才能を有する子供についても、もっと議論の光を当てていくべきだと考えています。
 現状、特別支援教育一つとっても、特別な支援を必要とする子供は、特別支援学校や特別支援学級に委ねるべきと考える教師は、いまだに少なくないのが現状だと思います。今後は、通常学級においても、そういったD&Iの視点を大事にし、キーワードとして「特別でない支援教育」の推進に義務教育はもっと目を向けていくべきと思っています。
 なお、D&Iに関しての教師の理解促進と資質・能力の向上させていくためには、教職養成課程のカリキュラム検討もそうですが、まずは、現状として計画的な研修が必須となります。また、D&Iに基づく学校文化を醸成していくためには、これまでのように教師だけで何でもやろうとする、言うならば自前主義から脱却して、様々な知見を持った有識者や企業、また関係機関等と連携を積極的に図ることで、外部の力を入れることに対する教師の抵抗感を少なくするマインドチェンジも必要だと思います。
 また、ここでも外部リソースを学校内に導入するような、具体的な大事さは今までも指摘されているわけですが、それがなかなか進んでいかないということは、何らかの具体的な方策についても議論が必要だと思います。
 以上です。

【奈須主査】 ありがとうございます。それでは、柏木委員、よろしくお願いいたします。

【柏木委員】 先ほどの議論とも続けてお話をさせていただきたいと思います。
 学校は子供たちにとって安心できる居場所であり、守ってくれる砦となるべきであると思っています。特に困難を抱える子供は、向き合ってくれる他者を求めています。誰かが向き合ってくれると、愛情のコップに1滴ずつ水が落ちて、それがいっぱいになると、他者を信頼して社会に参加する意欲が出てくるんだと思います。コップにいっぱいの水を溜めるためには、向き合ってくれるたくさんの他者が必要です。恐らくこれは全ての子供にとって同じで、だからこそ学校に行く意味が出てくるのではないかと思っております。
 したがって、誰もが認められ、他者や社会に対して基本的信頼を持ち、困ったときには必ず誰かが助けてくれる、違いに意味があり、自分も社会の中で何かができる、希望を持っていいと思える関係性の多くある社会をつくっていくことで、個人の尊厳と社会のウェルビーイングを保障することが学校の役割だと思っております。
 これは社会の分断を防いで、公正な民主主義社会を形成する学校の貢献と言い換えられます。それを具現化する、ケアする力を育成することが重要になります。ケアする力は、まずは多様な他者をありのままに認め、その上で自他に関心と共感を持って、自他のニーズに気づき、応答する力と定義されます。ケアする力を育成すると、子供たちは与えられた基準に基づいて、仲間を出し抜く競争を無価値化して、仲間の多様なニーズへの気づきと柔軟な応答を価値化するために、学校内での同調圧力や画一化はなくなっていきます。そうしたケアする力の育成は、教科学習の中でも、総合探究学習の中でも取り組むべきものです。例えば、教科学習における教師の子供への働きかけとして、友達が問題を解けずに困っているなと感知し、どうしたのと子供が仲間に問いかけ、そして、その仲間に教えることで自分の持てる力を分配するといった行為を奨励したり、逆に、分からないと伝えて援助要求をする子供を褒めたりすることが重要になります。
 また、カリキュラム、授業の一例として、社会科の中で社会構造に目を向け、地域産業の在り方に課題を見いだす学習活動、国語の物語文を読んでイメージを膨らませる中で仲間の多様性を学べる授業、探究学習の中で地域でケアする活動を行っているケアモデルの人と出会い、問題構造を見いだす批判的思考を学びながら、個人の尊厳を守るために社会の分断をどう防いでいるのかといったことを理解し、子供自身も社会づくりに参加することを経験できるカリキュラムなどがあります。
 特に1人1台端末は、そうした協働的な学びを促しケアする力の育成に有効です。例えば、回答の一斉表示機能やデジタルホワイトボード、デジタル教科書等を用いることによって、学習課題への回答や考え方を子供間で共有して模倣を行い、思考の拡散、関連づけ、構造化、焦点化をしやすくなります。これは、批判的思考、論理的思考等の育成につながります。また、子供が困り事を抱える仲間を見つけ支援をすることで、能力の分配を促進しやすくなります。
 さらに、デジタル付箋機能等を用いて、子供たちが様々な方法で自身の内なる声を出せるようになります。子供たちは、そこから自他の多様性を知って、何でそう考えるの、そこからどうしたいのと相手に問いかけ、聞き合い、学び合う共同的な学びを進められます。
 そして、この足し算はこのやり方でも考えられるよねと、思考と思考を組み合わせて新たな知を生み出します。これは、1人ではなくて、多様な他者との協働によりイノベーションが起こせる経験となります。
 また、端末を使いますと、ほかの学校と学習を進めることができまして、いろんな人の考え方を聞けて楽しかったという子供の声が多くあります。これは、学級、そして学校の中でも学年を超えた学習をする基礎になると思います。
 こうした学習実態を考えますと、多様な資質・能力を育成するための個別最適な学びには無数のバリエーションが含まれることが分かります。というのも、子供一人一人にとって最適な学びには、先に述べたような協働的な一斉学習が含まれるからです。
 一方で、このワーキングでも明らかになりましたが、自由進度学習といっても1人で行うもの、複数で行うもの、メタバースを用いてのアバターによる学習も含まれます。それらが教科、単元によって異なる上に、恐らく同じ1時間単位の中でも、最初の10分は自由進度、その後はみんなで一斉にとかという子供もいれば、最初の30分自由進度がいい、その後15分はグループ学習したいという子供もいます。そのため、学校現場で具体化する際には、個別最適な学びには協働的な学びの要素が含まれる点、また、無数のバリエーションがあり、最適を同時に保障し得ない点、子供が何を学び何を身につけるのかという資質・能力から学習スタイルを考えなければならない点に留意する必要があります。
 これらを踏まえ、個別と協働によって子供の思考を深め、多様な資質・能力、その中でも、ケアする力を育む学習活動を実現するためには、以下の条件整備が必要となります。1つ目は、十分な教員配置とシフト制の導入。2つ目は、教員をエンパワーメントできる多様な職員の配置。3つ目は、多様な学びを同時展開し得る学習環境、施設設備。そして4つ目は、個別と協働の適切なバランスは子供たちの思考と探究の深まりとともに変わるため、それらを具体化する教員の授業力の向上、そのための研修制度。そして5つ目は、協働的な学びを追求できる授業時数の調整。6つ目は、ICT機器です。特にICT機器は、数年後に更新の時期を迎えますが、各自治体に委ねると地域間格差が広がる懸念があり、国が責任を持って端末を確保すべきであると考えております。そして7つ目として、教員の授業改善への支援が必要になってくると思います。こちらは、いろいろなやり方が考えられますけれども、まず、校長のリーダーシップとしては、授業改善を通した学校づくりをするといったビジョンの形成、そして、授業改善の方向性として、ウェルビーイングの向上を目指して、認知能力のみならず非認知能力の育成に目を向ける。つまり、将来この子供たちがどのように育ち社会をつくっていってほしいのかといったような、長期的目線に立ったビジョンを提示することが有効であるということが、調査から分かってきています。そして、校長が授業を見に行って、先生同士もお互いに見せ合える、その中で何をするべきかというと、子供が何をどう学んでいるのかというところをお互いに言い合う。つまり、この授業が、やり方がいいよねとか悪いよねとかいう前に、子供が何を学んでいるのかということを価値づけ合える、そういう土壌、同僚性づくりが大事になります。そして、特に校長先生が先生を褒めるときに、よく頑張ったねと褒めるだけではなくて、子供がこれだけ伸びたねとか、昨日縄跳びできなかったのにこんなのができるようになったねとか、算数でこんな問題解けたねという、子供の成長を褒めてもらえることが、先生にとってはすごくうれしいということを調査から聞きました。これらを、社会正義リーダーシップとともに実行することが求められます。社会正義リーダーシップの発揮は、教育長にも期待されます。
 以上が、ケアする学校、そしてケアする教員、そしてひいては多様性と包摂性に基づく学校文化の醸成をする条件だと思っております。
 以上となります。すみません、長くなりました。

【奈須主査】 ありがとうございました。それでは、秋田委員、その後、黒沢委員の順でお願いいたします。まず、秋田委員、お願いします。

【秋田主査代理】 ありがとうございます。先ほど長くお話ししたので、今回は短くお伝えしたいと思います。
 特定分野に特異な才能のある児童生徒に対する学校における指導・支援の在り方等に関する有識者会議のほうにも出させていただいていて感じたことでございますけれども、これらを全て、さっき戸ヶ﨑委員も言われましたが、学校の教員が1人で丸抱えするというよりも、やはり、様々な形で外とつながりながら、そうした子供たちをどういうふうに支援できるのかというシステムや体制を今後考えていくという形がとても重要なところになってくるだろうと思います。
 ただし、そういう子供たちだけを特別に取り出して指導するという発想よりも、もっと広く見たときに、そういう子供たちがつながり合えるような学びの場をどう地域で保障していくのかが重要なところではないかと思います。
 先ほど自発性ということが出ましたけど、やっぱりどの子もわくわくして授業が面白い、学ぶことが面白いと言えるような場をいかにつくるのか。そのときに、それを学級の特定の授業の中の特定の教員だけに任せるという発想を超えていくということが、1つは多様性、包摂性に基づく学校文化をつくっていくときに大事ではないかということが1点です。
 それからもう1点は、この丸の最初にも書かれているんですけれども、多様性と包摂性に基づく学校文化は、教師や大人がつくるだけではないということです。こども基本法ができ4月から施行されます。子供には学ぶ権利、子供が幸せになる権利があるんだということを子供自身が学ぶような教育の機会というものが与えられ、自分たちがどのような学びをしたいのかということについて明確に語っていける、そういう土壌をつくることによって、多様な子供たちが、自分はこういうふうに、それはわがままではなく、こういう学び方ならうまく学べるということを子供自身も選び発言できる、それが時には援助要請やSOSにもつながる、そうした学びの機会というものを教育や授業の中でもつくっていく、そのような場がつくられるということが必要なのではないかと思います。通常の授業や学校の中で、どう学習で保障するかというだけではなくて、そういう自分たちの学びを選んだりする権利を学ぶという教育の場も機会が必要だと考えます。
 以上です。

【奈須主査】 ありがとうございました。それでは、黒沢委員、お願いいたします。

【黒沢委員】 ありがとうございます。
 今、秋田先生の意見に僕も賛同するところですけども、一人一人違う子がいるわけですよね。多様性と包摂性、そういうことを考えると、どうしても9年間という枠の中で、教員はここまでにこれを教えなきゃいけない、ここまでにこれをやらなきゃいけない、そういう考えでやっていくわけですけれども、もし本当に多様性を考えるんであれば、一人一人のペースもさることながら、一人一人のゴールと、それからそのゴールする時期などそこまでも考えてあげないと個別最適にはなっていかないんじゃないかなという気がします。
 短時間でいろんなことを身につけられる子と、どうしても時間がかかる子もいますし、ここまではできるけど、ここはちょっと無理という子も同時にいますので、そういう意味では、繰り返しになりますけど、一人一人のゴールと、ゴールする時期と、そのペースとを配慮していく必要があるのかなと思った次第です。
 以上です。

【奈須主査】 ありがとうございました。
 続きまして、それでは、資料の5ページ下段ですが、2の(3)学びにおけるオンラインの活用について、御議論いただきたいと思います。オンラインの活用は、資料にありますとおり、山間地域、離島等の小規模校での活用の有効性について御意見をいただいておりますけれども、学校規模のデメリットを最小化するというこの観点以外にも、教科の学びを深める、外国人の子供、病気療養児など、特定の状況や属性に応じた学びでの活用など様々あるかと思います。
 それでは、この部分について、御意見のある方は挙手をお願いします。それでは、小柳委員、堀田委員の順でお願いいたします。
 まず、小柳委員、お願いいたします。

【小柳委員】 すいません。(2)のところで意見を言おうと思って手を挙げていたんですけど、そちらの意見も言ってもいいですか。

【奈須主査】 そのままどうぞ。

【小柳委員】 先ほど秋田先生のほうから、多様性と包摂性に基づく学校文化の醸成のところで、教員サイドだけではなくて、子供たちが多様な学びを進めていくためにはどうしたらいいかということを子供たち自身に考えさせるというような意見が出ましたが、実は、本市でも、教育の方針として、誰一人取り残さず一人ひとりが輝く教育というのを掲げています。これを教員や校長だけではなくて子供たちにも考えてもらいたいということで、市内22校の中学校の生徒会長が集まって、学校でどんな取組を進めていけばそういうことが実践できるかを意見交換してもらうプロジェクトの会を、昨年の夏、設けました。子供たちはすごく一生懸命考えてくれて、例えば、グループ協議等、非常に熱心に意見が出されました。ゴールとして子供たちが導き出した意見として、一人一人が輝くためには、学校づくりのポイントが3つあると。1つは、一人一人の意見を尊重する雰囲気づくりを生徒会が中心になってやっていきたい。2つ目は、一人一人の違いを幅広く受容する配慮をしていきたい。それから3つ目は、一人一人の笑顔や未来につながる実践をしていきたいと。学校文化を変えていこうとするときに、実は子供たちはすごい力を持っていて、こちらが、こんなことについて考えようよというふうに提案すると、本当に様々な視点から、教員以上に未来を描きながらいろんな意見を言ってくれるなというのが実感としてありました。
 そういう意味で、先ほどの秋田先生の意見に非常に共感したということをお伝えしたくて、ありがとうございます。

【奈須主査】 ありがとうございます。秋田委員、どうですか。何かコメントがもしあればと思いますが。

【秋田主査代理】 ありがとうございます。
 私も、実は先日、熊本市で、1,000人の小中学生が集まって、こども基本法で自分たちの学ぶ権利を保障していくのに何ができるのか、大人は何をしてくれているのかというのを生の意見を聞いて、こういうことをもっと日本の学校で広くやっていく、そうすると多様な子供を考えることにつながるのではないかなと思ったということです。子供たちは、自分たちで幸せになる学校をつくりたいと、子供が言っていました。これが本当の声じゃないかなと思ったというところです。
 以上です。

【奈須主査】 ありがとうございます。OECDもコエージェンシーというようなことを言っていますけど、僕らが教える場というところから少し意識を脱却するということかなと思います。
 柏木委員、この関連ですか。ぜひどうぞ。

【柏木委員】 何度もすみません。私も熊本市にも行っているんですけれども、先生たちが、カリキュラムや単元の見通しを子供たちに全て示している学校があります。そこでは、子供たちが自分たちで、今ここを学んでいるんだ、次ここを学ぶんだ、次この学びのときにはこんな学びをしたいというふうに、授業のカリキュラムづくりに参加している様子が見られました。
 そういう学校では、授業の場面の中でも、子供たちが授業づくりに参加して、先生と一緒に、どういうふうに次の授業を進めていくのかを考えることが今なされているみたいです。
 以上です。

【奈須主査】 ありがとうございます。やっぱり日本の学校は情報開示が弱いです。これは以前から言われていることで、もっと情報開示をして子供に参画してもらう。特別活動や学校行事は既に結構一緒につくっているんですけど、教科の勉強となるとこっちが逃げてしまっていて、カリキュラムを子供に委ねるとか共同していくというのは大事かなと思います。
 すいません、余談ですけど、コロナで運動会とか修学旅行ができないというときにどうしようかというときに、先生方が職員室でけんけんがくがく何日も御議論されたんだけど、子供に問いかけてないんですよね。その場に子供が入ってない、これ、上智は海外の方が多いので、何で子供が入らないんだ、ヨーロッパだったらあり得ないと言われました。この辺の感覚を変えていくというのはとても大事だなというふうに、今御意見いただいて思ったような次第です。
 それでは、議題を3つ目に戻させていただいて、学びにおけるオンライン活用のこと、堀田先生、お願いいたします。

【堀田委員】 堀田でございます。
 この(3)のところへの意見と同時に、(3)には限らないICTの意見をちょっと申し上げさせていただきます。最初の義務教育の在り方のところで述べるべきかなと思っていたんですけど、ちょっと機会を失ってしまったので、一緒に述べさせていただきます。
 まず、この(3)のところは、やっぱりどんどん児童減、生徒減で小規模化していく中で学校を統廃合してきたんだけど、もうこれ以上統廃合することは難しいという状況にあり、そうすると教員の適正配置がなかなか難しいということになり、掛け持ちで教える先生が出てくるわけですけど、これもまた移動距離の問題とかいろんなことがあって難しさが出てくると。そこで、オンラインで遠隔で授業する、特に遠隔合同授業とかは非常に効果がある。遠隔から先生に教えてもらうということで授業を受けたというふうにみなせるかどうかみたいな話になったときに、やっぱり免許法や人員配置の問題が横たわっていると。これは結構深刻な問題かなと思います。そういう意味では、この件は義務教育の在り方のワーキングとしては、対応できる柔軟な学習指導を保障する、認める方向になるようにというふうに書かなきゃいけないのかなと思っております。今のは(3)についての話なんですけども、オンラインをある程度、授業として認めれば、結構、こういう山間僻地等でも授業の充実というのは見られると思います。
 これは、実はこういう山間地域や離島に限らない話としてICTの話をちょっとさせていただきますけども、ちょうど4ページ目の2つ目の丸のところに、ICTについて、授業でICTを使うときは、ICTをどうやって今までの授業に組み込むのかじゃなくて、ICTを使うときは自分の学びを自分で進めていくような授業のスタイルに変わる必要があると書いてあるんだけど、これはICTを使うときだけそういうふうに変わる必要があるというふうにも読めちゃうし、この辺が結構学校現場のICT活用で多い混乱だなというふうに思うんです。ICTの活用をしろと教育委員会に言われて、そして一生懸命ICTの活用を考えるんだけど、授業のスタイルは今までのままなので、ICT使わなくてもやれていたことに無理にICTを使うとするみたいな感じになりがちですよね。そもそも授業のスタイルが変わらなきゃいけないのは、ICTを活用するからではなくて、これからの求められる人材が変わっていって、その結果、学校教育は多様性に対応すべきで、自立的に学び続ける学習者を育てる必要が、さらに大きくなっている、こういう現実の中で、子供たちに求められる資質・能力が変化し、だから授業スタイルが変わらなきゃいけない。それをやるのに先生1人ではなかなか難しいので、このGIGAの端末が学習基盤として整備されたのだという、この順番を明確に、これを義務教育の在り方のところに書くべきで、この文章に示すべきではないかというふうに思います。
 その結果、我が国の学校教育の基盤となるデジタル環境は大きくさま変わりしましたので、その結果、今まで個別最適な学びや協働的な学びをうまくやりたかった人たちは情報端末の活用によってどんどんやりやすくなったわけです。このように元々授業観を変えようと思っていた人たちは、ICTによって助けられていろんなことができるようになったけど、その授業のやり方を変えない、つまり新しい資質・能力の育成に授業のスタイルを合わせようとしてなくて、従来の授業の仕方を続けたいと思っている人たちにはICTはいらなく見えると。それが、ICT活用の格差にもつながっているなというふうに思います。
 私は、この文書の割と最初のほうに、学習基盤が大きく変わったんですよと、これが令和の日本型学校教育の学習基盤ですよということをちゃんと明記し、授業が変わらなきゃいけないのは求められる資質・能力のためであって、そのためにICTが入ってきているんですよということ、そのICTを児童生徒が、有効に使えるようにするためには彼ら自身に情報活用能力が必要で、それが今後の資質・能力として非常にこれは重要でというような話をちゃんと示すべきかということです。
 このワーキングの提言の中には、先ほど柏木委員がおっしゃった、このGIGA環境をどうやって持続的に保つかということは非常に重要になると思います。第一義的には、これは教育環境の整備なので、各自治体に任されていることなんだけども、国としてどこまで、どう持続的に保つかということは、教育の保障としてこれは重要かと思います。さらに、ハードウエアだけじゃなくて、これからのこの義務教育のスタイルに合った教科書とか教材はどうあるべきかというような話があります。こういう学習環境の持続可能性の高い予算の確保の仕方とか、そういうことが大事かなと思います。
 もうちょっと言うと、教育課程、つまり学習指導要領がどうなっているかということと、だからこういう教科書や教材を使ってこういう資質・能力を保障する授業スタイルにしていきましょうみたいなことは、これはやっぱり一体になっていると思うし、そのこととさっきの免許法のことも関係してくるかもしれません。
 もう一つだけ言うと、教師が、もう少し余裕を持って合理的な働き方ができるようにする職場環境のための校務のDX化というのは、これは授業をする先生たちを支えるためのバックヤードの話になりますけど、ここの検討もさらに必要で、文部科学省でも中教審でも個別にはいろいろ検討されていますけど、トータルソリューションとしてどう提示するかというのがこれからの義務教育の在り方として重要かと思います。
 以上でございます。

【奈須主査】 ありがとうございます。それでは、戸ヶ﨑委員、その後、今村委員の順でお願いいたします。戸ヶ﨑委員、お願いいたします。

【戸ヶ﨑委員】 私からは、オンライン活用について大きく4点ほど申し上げたいと思います。
 1点目は、山間地域、離島等の小規模校における遠隔教育の可能性が挙げられていますが、これは外部の専門家を活用して学びを取り入れるような内容は、そういう離島や山間地域などだけではなく、都心部であったとしても、子供たちの学びを深めていくことには、効果的なのではないかと思います。
 また、人々の働き方や生活スタイルも多様化しており、一定の期間のみ住所地と異なる地域に移り住んでいるという人々もいるほか、何らかの事情で義務教育を実質的に受ける機会がなかった方々が通う、いわゆる夜間中学など、遠隔教育をどのように活用し得るのかについて、より幅広い視点から、学び手や学校・地域等の個々の状況を踏まえた議論を行っていってもいいのではないかと思いました。
 その際、前回事務局のほうから紹介のあった遠隔教育特例校制度は、1つの大変有効な施策と考えますが、その活用に向けての現状や課題などについても整理をしてもよいのではないかと思います。これが1点です。
 2点目が、3年間に及ぶコロナ禍にあって、令和2年度の一斉臨時休校や分散登校、オンライン学習等を全国の学校は経験し、改めて学校での学びなどについて、いやが応でも考えざるを得ないような状況にありました。
 そこで、その際通知等などで全国の教育委員会、学校が悩んだであろう言葉が、「学習活動の重点化」です。これが、はっとさせられた部分もあるわけですが、重点化という視点で考えれば、必ずしも対面でなくても効果が得られる学習活動は間違いなくあり、また、対面でないと効果が得にくい活動なども当然あります。PBLの学びはまさにそれだと言われていますが、実は、いろいろやってみるとPBLでも遠隔でも、十分効果があるものも出てきていますし、改めてこういう学習活動の重点化という視点から、対面であるべき、対面でなくてもいいのではないかということについて、検討する機会があってもいいのかなと思っています。これが2点目です。
 3点目が、不登校や特別な支援を要する子供たちへのオンラインを活用した支援については、例えばオンラインの教育支援センターやオンラインの通級指導教室・巡回相談など、様々な実践事例を創出して、全国の自治体がどうしたらいいのかを困っている段階でもありますので、ぜひ、そういう全国で共有できるような仕組みづくりも進めていってもいいと思いました。
 最後に4点目が、このICTの普及に伴って、家庭学習のクラウド化が本市でも行いつつあります。今後、学校と家庭とのシームレスな学びは、大学等では当たり前のいわゆる「反転学習」なども含めて、ますます重要となってくるのではないでしょうか。わざわざ端末を持ち帰らせて何もやらせないのかというような苦情も漏れ聞こえてきているわけですが、このコロナ禍でクローズアップされた家庭学習の問題の多くは、子供の「自己調整学習」能力の不足という指摘がなされています。厳しい言い方ですが、私はその原因は教師が作成した教材の側にある場合が多いと思っています。授業において子供たちは、「なぜ今からこの活動に取り組むのか」という学びの文脈を把握します。家庭学習では、この教師が果たしている大切な役割を何かに代替させる必要があると考えています。そう考えると、カリキュラム・マネジメントにおける家庭学習の教材開発や単元への位置づけは、今後の大きな課題になると思います。
 また、家庭学習の単元指導案の作成や、家庭学習でも実施可能な実験、観察、調査などを取り入れた、主体的なのは当然として、家庭学習における、深い学びや探求的な学びの在り方も議論されてしかるべきだと感じています。
 以上です。

【奈須主査】 ありがとうございました。最後のところ、本当にそうだと思います。子供が1人でできないというんだけど、できるような文脈情報が手渡されていない。もっと情報開示をするという必要があるんだろうなというふうに思います。
 今村委員、お願いいたします。

【今村委員】 ありがとうございます。私からは2つ申し上げさせていただきます。
 ごめんなさい、先ほどちょっと音が聞こえなかったみたいなんですけど、私の声はきちんと届いていますでしょうか。ありがとうございます。
 まず1つ目なんですけれども、このオンラインの項目についてと、先ほどからほかの方々もおっしゃっているように、丸2の多様性と包摂に基づく学校文化の醸成という点について、非常に密接に関わる可能性を持ったテーマだと思っているので、その点についてまず1つ申し上げます。
 これは、その後の項目の、学校になじめないでいる子供の学びの保障も含めてなんですけれども、もう皆さんおっしゃっているとおり、オンラインがあることで、学校の教室数とか教職員の方々の数の限界を簡単に突破することができます。それは、免許の在り方とか、教育課程の工夫とか様々工夫は必要だと思うんですけれども、やっぱり今現状、ちょっと学校に行きづらいとか特別な配慮が必要だ、もしくは、勉強が分かり過ぎてしまってつらい、様々なそういった個別事情が、個別の例えば相談室に入らないとスクールカウンセラーさんの相談が受けられないとか、特別支援学級に行くということだとか、そういった教室を移動すること、校内にオルタナティブな機関にお世話になることが、すごく子供たちにとって勇気のいることになりやすいです。やっぱりそこの教室に、相談室に行くということで私はいじめられているんだということのスティグマを背負うことになるんじゃないかとか、そういったことはすごく子供たちに勇気を必要としてしまいます。
 でも、例えばこのオルタナティブな選択肢、それは別に支援を受けることもそうですし、学習内容を少し、この子については、高度にしていくことのほうがこの子の学びを伸ばせるなとか、そういった丁寧な戻り学習に、個別の学習支援スタッフにオンラインでついてもらうことだって可能かもしれないとか、そういった校内においての様々な、校内において、学校の中で個別端末からオルタナティブなリソースに出会いながら支援や学びを深めるということは十分可能だけど、できていないだけという面だと思うので、このことについても、何らかその実証的な取組を意図して、文部科学省さんのほうで、どこかの学校と連携なさって、ここまでできるということをやってみるといいと思います。そのときに、財源が幾らかかったのかということは常に明らかにしながら、特別に物すごく財源使ったからここまでできたよねではない形をどう模索するかというところも併せて実証していくということも、大切なことだなと思います。
 2つ目なんですけれども、ここに書いてありますとおり、山間部や離島等小規模の学校においてオンラインの活用というのは、可能性は無限大にあると思っています。高校ワーキングのほうでもお話ししたことなので、荒瀬先生にも同じ話をするということの許可を先ほどいただいたんですけれども、今実証的にうちのほうで取り組ませていただいていることについて少しシェアさせていただきたいんですけれども、個別の高校でやっていることなんですが、十分義務教育でもできることだと思うんですけれども、今幾つかの学校で、小規模校同士の、すいません、画面を少しだけ映させていただきたいんですけれども、今端末を、多くの学校では一方通行の授業をみんなで見るというオンデマンド授業の配信と、また、双方向で、みんなで双方向の接続をしながら学ぶというやり方はされているんですけれども、個別の端末で個別にどこかの子供たち同士がつながってグループワークをするような形というのはあまり行われてないです。
 小規模校の大きな問題は、先ほども同調圧力という言葉が出てきましたけれども、私の地元もそうでしたが、固定的な人間関係が、しかもSNSの子供たちの利用によってすごく子供たちの生きづらさを生み出していると思います。なので、授業だけがアクティブラーニングになっても、休み時間の人間関係がつらければ、授業の時間に話合いをするということが子供たちにとっては物すごくつらいことになってしまっているという現状も見聞きします。
 そんな中で、人間関係をやっぱり外に延ばせるということの実証として、今、幾つかの学校、8校の学校、高校と連携しながら、中には特別支援学校もあるんですけれども、個別の端末から子供たちが、個人の関心に基づいたテーマでグループワークをし、どこかの学校の先生がそれのファシリテーションをするということの時間割のシェアと教員のリソースのシェアをしながら、個々の個別的な関心を伸ばすという取組を探究して行っています。
 こういったことが、もともと学習指導要領で私たちが目指したかった、一人一人の主体的な学びや探究を深めていくということになるんだと思います。なので、オンラインというのは小規模校のみならずと戸ヶ﨑先生がおっしゃっているとおりなんですけれども、まさに小規模校においては特に人間関係が固定化しやすいということも含めると、子供同士のつながりによるグループワークもオンラインでしようがあるということも投げかけさせていただきました。
 私からは以上です。

【奈須主査】 ありがとうございました。黒沢委員、お願いいたします。

【黒沢委員】 ありがとうございます。私のほうから、現場の一校長としての意見もちょっと入れて少しお話ししたいと思います。
 先ほど堀田先生が、教員のDXといいますが、校務の軽減のためのシステムも必要だとおっしゃりました。まさに僕もそのとおりだと思います。私、企業にいた時間が長くて、企業でやってきたことが、学校現場に入ったときに、なんて遅れているんだと。遅れているという言い方は変ですね、紙の文化がすごいんです、現場は。何でもかんでもやっぱり紙で印鑑を押してということになっているわけですけども、スケジュール管理もそうですしメールシステムもそうですけども、グループウェアをもっと教員のために用意してあげないと、働き方改革にどこかで壁が来るんじゃないかなというふうに思っています。
 併せて、決裁のシステム、それから会計処理のシステム、人事のシステムを含めて、とにかく作業も提出も紙ベースなので、その辺りを全国統一のシステム構築を文科省さんのほうで用意して、これで先生方の働き方改革をしっかりしてくださいと支える仕組みを作っていかないと、働き方改革は成り立たないかなと思っていますので、この辺り、企業はもうさんざん、20年も30年も先にやっているところですから、そういう人たちも入れながら、学校の校務を支援するためのグループウェアはどうあるべきかという議論もどこかでやって最終的に作り上げていく必要があるんじゃないかなと思った次第です。
 以上です。

【奈須主査】 ありがとうございました。それでは、柏木委員、どうぞ。よろしいですか。
 それでは、残りの時間、その他の検討事項、これまで出た意見も含めてお出しいただければと思います。もう自由にと思いますが、いかがでしょうか。では、水谷委員、柏木委員の順でお願いいたします。
 まず、水谷委員、お願いいたします。

【水谷委員】 水谷です。よろしくお願いいたします。
 最初の部分と、2の学びの多様性の部分も含めて、少し話をしたいと思います。
 これまで何度も出てきていますが、私たち教員は全てを1人で頑張ってきたのですが、やはりもう対応がしきれなくなっているのですが、なかなかそれを変えられないというところがあります。これまでは、どうしても教員が導いているという部分が強いのですが、コロナの休校を経て、自校や、私たちの地域は、子供たちに自分で学ばせる、自ら学ぶことができるようにというように視点を変えたところからいろいろなことが動き出しました。ですので、今日最初の部分で話題になりましたように、これからずっと自分で学び続けていく、そしてそれが学びは楽しいということにつながるのだという、強いメッセージが、もっと前面に出るといいなと思います。ただ、それは本来であれば各校長のリーダーシップでできることなのですが、実は校長になる直前に学びが十分できてないという現実があります。それは、教頭、副校長の時代がすごく忙しくて、学校のことに追われていて、周りがどう変化しているのかや、必要なことを学ぶ機会がなかなかなく、校長になった瞬間に、今はどうなっているんだろうというところから始まるというのが現実です。
 ですから、校長のリーダーシップを確実にするためには、その前の段階を少し楽にする、各校に教頭、副校長が2人いるところもありますが、1人のところがほとんどで、その一人が全て抱えているという、そこが一つネックになっているのではないかということです。少しその世代の人たちに学べるようにという配慮がいるのではないかということを感じております。
 元の話に戻りまして、自ら学ぶことができるようにということで、整備されたGIGA環境の1人1台と、クラウドを使ってどのような授業が今できているかということは第2回のところで御報告をさせていただきました。やはりその環境を使って、子供たちにすごくいろんなことが委ねることができるようになりました。ただ、委ねることができたのは、大きな理由が2つあり、1つは、クラウドで子供たちの様子がよく見取ることができるようになったことと、先ほどから奈須先生がよく言われている、いろいろな情報を子供たちに簡単に渡すことができるようになって、それを見て子供たちが自分で動けるようになった、その2つが非常に大きいと思います。今までも渡しておけばよかったわけですが、アナログでは容易に渡せなかった、最近はちょっと情報が過多かもしれませんけど、いろいろなことを渡すことができるようになって、そして子供たちの見取り、これは管理するわけではなくて、どんな動きをしているのかといったことがよく見えるようになり、任せてもいいのだということが分かるようになって、教師自身は非常に気持ちが楽になったと思います。子供たちは、委ねられて任せられると頑張ります。とても学びは変わりましたし、ルールメイキングで自分たちで決まりを作ったのだから頑張らなければということで、いろいろなことが動き出しました。その中で、お互いが見られることで、みんないろんな考えがやっぱりあったんだ、それでいいんだよねということが分かりながら、そして、活動も複線化していくというような感じに変わりつつあります。子供たちを100%導くと言っていたことも必要なのですが、いや、そうではなくて、子供たちに委ねられるようにしていくというような、その転換について上手にメッセージが出せるといいのではと思います。
 ただ、そうやって学びの姿、そして学校の姿が変わっていきますので、学校の組織の在り方も同時にやはり変わっていって、教員が全てを担うわけでありませんし、いろいろなスタッフが関わることも、非常にやりやすくなっていくと思います。その組織の在り方をこれからどのように変えていくか、これまでも言われてきましたけど、重要な視点かと思います。
 いずれにしましても、子供たちに委ねられて、自分たちで学ぶことが楽しいと思いはじめると、ここは安心できる場だ、これからも学んでいこう。ただ、ちょっと学校に行くのがいやと思っても、やはり学びたいのでそこに関わろうとか、いろいろなことができるようになってきたのではないかと思います。
 こういう断片的なことを、こんなことが可能だというメッセージ性があるもので出していくことができるといいのではと思います。
 雑駁でしたが、以上です。

【奈須主査】 ありがとうございました。それでは、柏木委員、お願いします。

【柏木委員】 ありがとうございます。
 先ほどの今村委員の資料の中で、教員間交流、研修、教員の意欲でつながる共助ネットワークの形成というのがあったので、それに追加して言わせていただきたいんですけれども、やっぱり端末を使ってオンラインで多様な他者に出会えるのは、子供だけじゃなくて先生方もだというのを思い出しました。特に、過疎地域とかちょっと離れた離島の先生方とかは、もっと全国の授業を知りたいとおっしゃる方が多いんです。あるいは、都会の先生の中でも、それぞれの学校でもっとこんな授業をしたいんですけれども、やっぱりこの学校の中の先生たち、そういう雰囲気じゃなくて、何か出会える先生いないですかとおっしゃられることも結構あります。ということは、オンラインで先生方がつながって、授業づくりをもっとお互いに研さんできる、そういう機会をつくってもいいかなというのを思います。さらにもちろんオンラインも用いながらやはり授業づくりというものを教員の専門性として考えるのであれば、今現在ちょっと衰退しつつある自主的、半分公的な授業づくりの研究会を発展させて、それらをネットワークとしてつなげて教職員が自分たち自身で職能開発をしていくことを目的とした専門職団体を創ること、あるいはそれを促進するような条件整備をすることが必要なのではないかと思います。
 以上です。

【奈須主査】 ありがとうございました。それでは、野田先生、お願いします。その後、黒沢先生にと思います。

【野田委員】 私の発言の趣旨は、今回の報告をおまとめいただくときに、個別最適化との関係では、ぜひとも児童生徒理解に基づくといった内容を強調していただきたいということです。
 要するに子供が内面で抱えている喜びというか、この会に出させてもらって、本当に教育はいろんなことができるなと教えていただきました。一方で、不登校だとか困難を抱える子供たちへの対応みたいなことを日頃考えている立場からいうと、本当に今日死にたいと思っている子供たちが現実に何人もいて、その振り幅で、こういう子供たち全てを一旦は学校というところで受け入れるぞということになっているというこの義務教育のすばらしさと同時に、たからこそ気づくきっかけがあるのですが、そこがしっかり機能できているかというところでいうと、ちょっと悩ましさも感じるわけです。
 令和2年の不登校の実態調査というの担当させていただいたんですけども、不登校のことを誰かに相談したいといったときにどういう方法がいいかといったら、やはり大きかったのは対面で相談したいというのと、それからオンラインで相談したいと。ところが、前回もちょっと触れましたけども、複数回答で両方ともチェック付くかと思えば、対面だけにチェックつけるタイプと、オンラインだけにつけて対面を望まないタイプというのが分かれるんです。それから特に勉強が分からないということが不登校のどうも最大要因。これまで、友達関係とか家庭状況とか学校のということだったんですが、何番目までを上げるかという統計の取り方の課題もあり、複数回答で聞いたところ、4割の子供がやっぱり勉強が分からないと。ぜひとも、今回の報告をおまとめいただくときに、どこの項目に入るかということはともかく、まず、子供たちの不調というのは学校に来ないという形のサインが一番分かりやすいんですけども、もっと前のところでは、やっぱり学習についていけてない子供たち、こういう子供たちの中には、マニュアルが読めなかったり先生の説明が分からなかったり。そうすると、少なくともそういう困難を抱えた子供たちをいかに早期にチェックして、そして、今、スクールカウンセラー、スクールソーシャルワーカーから不登校特例校まで様々なメニューができているわけですけども、その子のニーズと、それをどんなふうにうまくつないでいくかというコンシェルジュ的な機能というのが、私はとても大事だと思っています。その前提として、やはりどういうサービスを提供するかとか、どういう教育実践をするかということと、それから子供たちの内面で思っていることとのつなぎ、そこのずれということにもっと敏感になって、そこの部分でのアセスメントという、個別最適化と児童生徒理解の具体化がアセスメントだというふうに思っていますので、その視点というのを入れていただけるとありがたいと思います。
 併せて、今村委員もおっしゃっていただいていた幾つかの選択、例えば、教室を離れて面接を受けに行くとか、ICTで特別扱いをするということがスティグマにならないように、そこの配慮をお願いいたします。
 以上です。ありがとうございました。 以上です。ありがとうございました。

【奈須主査】 ありがとうございました。それでは、黒沢委員、お願いします。その後、中谷委員です。お願いします。

【黒沢委員】 ありがとうございます。度々すいません。今日の資料の中でもいろんなキーワードがたくさん出てきている中で、不登校特例校の校長として、やはり気になるのは不登校特例校が支援のハブというところかなと思っています。
 本校も18年間不登校特例校をやってきて、いろんなノウハウが蓄積しています。それから、いろんな知識や経験を高めた教員も育ってきています。でも、そうやって育った教員が、地域の学校へ行ってうちの学校のノウハウが発揮できるかというと、決してそうじゃないんです。大きな学校文化の違いという言い方は大変失礼な言い方ですけど、特例校と通常校と、同じ教育という切り口でも随分教員の子供へのアプローチが違うなというふうに感じています。それはちょっと置いておいて、ハブの機能を特例校に集約していくというのは、僕は有効だと思っています。
 ただ、特例校も、学校型、分校型、分教室型と様々規模に違いがあります。なので学校型で運営している不登校特例校と教育センター(適応指導教室)とが連携してハブ機能を持つことで、オンラインもSSWによる支援、関係機関へつないだり連携したりできると考えます。いろんな子供たちを支援する仕組みをハブとなる特例校に全部集め、言い換えると不登校に関するワンストップサービスみたいなものを不登校特例校の役割として位置づけ、子供たち一人一人に寄り添った対応ができる体制を整える。そこで一人ひとりの状況をよく理解し、前の学校で何がうまくいかなかったから、あなたは特例校に行ったほうがいいねとか、あなたはこっちでも大丈夫ですねとか、そういうスクリーニングをきちんとやりつつ対応していく。それを全国的に拠点校を増やしていくと、例えば今村さんのところのカタリバさんなんかとの連携もうまく取れていくと思いますし、トータルで子供たちを支えていく仕組みというのを構築できると考えます。
 以上です。

【奈須主査】 ありがとうございます。それでは、中谷委員、お願いします。

【中谷委員】 ありがとうございます。私はもう一言で終わろうと思うんですけども、いろんな今後これからの教育を、御意見聞きながら、なるほどなとたくさん思ったのですけれども、もう一つ、私たちが忘れてはいけないのは、これからの人口減少ということでして、その中で、どれだけの、今言われたようなリソースとかといったようなものを確保できるのかというのは、これは常に、先ほど10年後、20年後の社会と言いましたけれども、これこそ確実な未来予測なので、その辺のところは、しっかり意識しておかないといけないなというふうに思ったところです。
 以上です。

【奈須主査】 ありがとうございました。よろしいですか。
 私も触発されたのでお話を少し申し上げようと思うんですが、今画面共有をしていただきましたけれども、堀田委員が言われたこととも大きく関わると思うんですが、ICTをただ入れても駄目で、やっぱりパラダイムを、モデルを変えなきゃ駄目だという御議論だったと思うんですが、これは1990年にロバート・ブランソンという教育工学の先生が出されたモデルで、面白いんです。一番左が、口頭継承パラダイムといって先生が一方的に講義をするというもので、こんな授業をしている人はもういません。今の授業というのは、この真ん中のモデルだというんです。先生と生徒の間、あるいは生徒と生徒の間でもいろんな相互作用があると。これを、今、僕らは教室でやっているし、生徒と生徒の相互作用ということで言うと、日本は一番質の高い授業を世界的にやっていると思うんですけど、それでもブランソンは図の上の部分が変わってないというんです。
 つまり、僕らは子供の意見を聞いて授業を進めていきますけれども、そのときも、「なるほど、いい意見が出ました、じゃあ、ここからはこういう問いをまた考えてみよう」というふうにやるわけですけど、確かに子供の声を聞いているんだけども、先生が仕切っちゃっているわけです。必ず先生を介して、ブランソンはゲートキーパーという言い方をしていますけど、先生がゲートキーパーになっている、本当に子供に委ねていない。それに対して、この図の上の部分を変える必要があるんじゃないか。つまり、子供一人一人が必要としている経験や知識にダイレクトにアクセスする、これが必要じゃないかということを当時言っていて、ただ、そのためには、伝統的な一斉授業ではできない。なので、1人1台端末ですよね、今でいう。コンピューターを介して、当時、データベースやエキスパートシステムという言い方をしていますけど、子供がダイレクトに経験や知識に個別的、そして自立的に関わる。そして個別的に自立的に関わると、そういう子供たちの間で横の協働も起こるんです。協働というのは、先生が仕切る協働ばっかりイメージしがちですけど、子供が自発的、自立的に声を掛け合って協働し合うということ、これも協働のイメージに入れたいと思うんですけど、そういうことが起こってくるんじゃないかということを、もう30年も前に言っています。先生はどこにいるかというと、その輪の中に入ると同時に、教師がなすべきことというのがかえって見えてくる。子供に委ねれば委ねるほど、これは水谷先生の学校とか中谷先生の学校もそうですけど、委ねれば委ねるほど、教師が本当になすべき専門性というのが見えてくるというんです。
 また、子供は、先生にしっかり教わりたいんです、実を言うと。ただ、ずっと教わるのは嫌なんです。この辺を変えるということを当時言っていて、ただ、これはGIGA端末がないとできなかったわけですけど、日本はもうこれができる状態になっていると。ただ、堀田先生も言われたように、パラダイムが変わってないので、相変わらず真ん中の図のやり方でGIGA端末を使っているんじゃないかと僕は思うんです。だから、真ん中で引き続きやってもいいんだけど、一部この右側に移行するということが、今GIGAの話をしていますけど、それだけじゃなくて、学校全体にとって大事なんじゃないか、もっといろんなことを子供に、今日も秋田先生からありましたけど、子供にいろんなことを伝え、子供に委ね、子供の意思決定の下で一緒に学校をつくっていくということを考えていくと、学校のパラダイム自体がこの右側に少し移行していくという必要があるんじゃないかなと思うんです。
 これはとても斬新なことのように思いますけど、何のことはない、幼児教育はこれですよね。幼稚園に行けば、全てのものが開示されていて、子供たちの選択や判断に委ねられているわけですよね。ところが、小学校に入った途端、手はお膝、口チャック、先生が尋ねたことを、手を挙げて、先生が当てたら答えなさいというシステムに変わるわけで、これがどうもいろんな悪さをしているんじゃないかと思うんです。
 そう考えると、幼児教育に学び、この環境による教育を小学校以降にも導入する必要がある。なぜ幼稚園ではこれができるかというと、幼稚園は子供は全て有能な学び手だと信じているからですよね。これを小学校以降僕らが信じられるかということが問われているんだろうし、そこを信じて任せて支えていけば、学校は楽しい場所になるし、分かる場所になるし、不登校の問題は複雑で難しいと思いますけど、もっと僕は学校に来られる子供は当然増えるんじゃないかと思うんです。
 また、そう考えると、コンピューターのことでいうと、最近非同期型のコミュニケーションということも言われています。クラウドベースというのは非同期型ですよね。全部情報をまず手渡して、子供が情報を取りに行く。さっきのブランソンの右側のモデルですけど、伝統的な一斉指導というのは同期型なんですよね。こっちが電話をかけるような授業ですよね。同期型コミュニケーションの代表は電話ですけど、僕らは35人に一斉に電話をかけているんですよ、伝統的な授業というのは。35人に電話が通じるわけないんですけど、それが通じるようにするために学習規律というのをやってきたんじゃないか。強い言い方ですが、ひょっとしたら学習規律というのは、授業や学習に必須の要件じゃないんじゃないかと最近個人的に思っていて、だから、水谷先生の以前の御報告の中で、学習規律という概念がちょっと変わってきたとおっしゃっていたと思うんです。子供が自分で判断して立ち歩いたり相談したりするようになると、規律という概念が変わっていくんじゃないか。これ、とっても大事だと思うんですけど、そもそも学習規律というのは何だったんだろうかということまで遡って考えられる状況に来ているんじゃないのかなと思うんです。
 また、そう考えたときに、この対面非同期というのが面白い枠になってくるんだろうと思うんです。やっぱり僕らは、目の前に子供が集まっているのに何でコンピューターを使って分散にするんだというふうに思っちゃうんです。みんな集まっているんだったら、私が教えたほうが早いじゃないかと。いや、ここを変えていくのが多分大事で、対面非同期、これはさっきの情報技術パラダイムですし、幼稚園は対面非同期ですよね。みんなそこにいるけれども、一人一人が動くわけですよね。これはつまり環境による教育だと思うんですけど、随分パラダイムが大きく変わってくるんじゃないかなと。また、それを踏まえないとICTの利用もできないし、多様性への対応もできないんじゃないかなとちょっと思っていたり。さらに、今日御発言の中で、不登校とかいろんな問題も、結局のところ、子供たちの参画ということがちゃんと認められていないとか、子供がちゃんと自分で選ぶということが認められてないということも幾つかあったように思うんですけど、もちろんばらばらにすればいいという話ではなくて、それだと分断を招いてしまうので、そこで包摂性ということを保持しながら、どうやってそれをやっていくかということが課題なのかななんていうことを、皆さんのお話を伺いながら考えていたりしました。
 ちょうどいい時間になってきたので、今日も活発な御議論ありがとうございました。これで一旦御議論は終わりにしたいと思います。
 最後に、次回等の予定等について事務局からお願いいたします。

【前田教育制度改革室長】 先生方、ありがとうございました。次回ワーキンググループでございますけど、2月1日水曜日の16時から18時を予定しております。本日先生方からいただいた御意見なども踏まえながら、論点整理の案について御議論をお願いできればと思っております。詳細につきましては、また追って事務局から御連絡いたします。
 以上でございます。

【奈須主査】 ありがとうございました。それでは、本日予定した議事は全て終了いたしました。これで閉会いたします。ありがとうございました。
 
―― 了 ――
■会議終了後事務局に頂戴したご意見
【柏木委員】
公正と「ケアする力」の概念整理および「ケアする学校」文化の醸成の諸要件
 
1.義務教育の意義
 義務教育の意義は格差を是正し、社会の分断を防ぐところにあると考えております。一部の人々が失望し、不信を抱く分断された社会では、秩序の安定やウェルビーイングの向上が見込めない点は、主にソーシャル・キャピタル研究から明らかにされています。また、経済学等の分野でも社会システムを整えるだけではうまく機能せず、人間関係の質と量がそれを左右する点、および多様な他者との質の高い協働によってイノベーションが起きる点が知見として蓄積されています。
 したがって、誰もが認められ、他者や社会に対して基本的信頼をもち、困ったときには必ず誰かが助けてくれる、違いに意味があり、自分も社会の中で何かができる、希望をもっていいと思える関係性の多くある社会をつくっていくことで個人の尊厳と社会のウェルビーイングを保障すること義務教育の役割だと思っております。それは公正な民主主義社会の形成への学校の貢献として言い換えられるものとなります。
 
2.教育政策の中核的概念の構造と公正
 上記で触れた、多様性、公正、個人の尊厳、ウェルビーイングは、総合科学技術・イノベーション会議でも取り上げられている教育政策の中核的価値でもあります。まず、これらの概念の流れを構造的に整理しますと、公正を通じて多様性を保障し、それによって個人の尊厳を守ることで社会のウェルビーイングが向上します。つまり公正性の担保が最初に必要となります。
 公正とは、社会経済的不平等を縮小するために、資源の傾斜的分配を遂行しつつある状態をさす理念となります。傾斜的というのは、たとえば経済的・物的な資源をもたずに困窮する人々に、それらの資源をより多く渡すことをさします。資源の分配には二種類あり、一つ目は公的機関による経済的物的資源の再分配、二つ目は個々人による目の前の人々の窮状やニーズに応答する傾斜的分配となります。ここでは、物・時間・配慮・つながり等の資源の分配が想定されます。たとえば教員が困り事を抱える子どもに学習教材を与える(=モノの分配)、教員が問題を解けない子どもに寄り添って時間をかけて教える(=時間・指導エネルギーの分配)、子どもが困っている友達に声をかける(=配慮の分配)、学校に来にくい友達の家まで行き(=時間の分配)、あたたかな関係をつくり(=つながりの分配)、来やすい状況を作るといった行為が含まれます。
 
3.公正を具現化する「ケアする力」
 上記の個々人による分配を通して公正を具現化するのが、応答的行為としての「ケアする力」となります。「ケアする力」を簡単に述べますと、まずは多様な自他をありのままに認め、その上で自他に関心と共感をもって、自他のニーズに気づき、応答する力と定義されます。つまり、存在の相互承認と(自由の相互承認とは異なります)、応答するというアクションを用いての相互応答の二段階から構成されます。
 ケアする力の下位項目には、たとえば自分や仲間の状態を感知する自己理解力や他者理解力、ありのままの自他を認める承認する力・自己肯定感・他者受容力、ニーズや問題のある状態を自己責任で片付けずに社会構造に課題を見出す批判的思考、自他の人権を認識し守ろうとする力、そのために助けてほしいと言える援助要求をすることのできる力、仲間を助ける力、仲間とともに不正な社会に抵抗し、新たな価値を提案していくための論理的思考、創造的思考、表現力・判断力など、多様な力が含まれます。
 
4.ケアする学校文化の醸成とケアする力の育成
 ケアする学校文化を醸成するためには、以下の三つの要件が求められます。第一に、どのような家庭環境にあろうとも、子どもが気兼ねせずに学習に参加できるようにするための物的・文化的支援(分配)を行うことです。
 まず、学習・生活用品を貸し出したり・供与したりする仕組みを整えることです。たとえばノート等の学習道具を持参できなくても供与したり、体操服を持ってこられなかったら学校で洗濯する仕組みを整えて貸し出したりします。
 次に、登校支援や宿題支援や洗濯の支援を通じて、学校生活で求められる学習習慣やルールあるいは生活習慣を身につけられる仕組みを作ることです。たとえば、宿題は家でせずに学校でできるようにする仕組みを作ります。これらの仕組みを整えた学校では、忘れ物が増えることもなく、担任教員の負担は減りました。
 加えて、パンと飲み物くらいの簡単なものでいいので、朝食の提供も諸外国がされているように公的な仕組みとして整えるべきだと考えております。困難を抱える子どもは朝ご飯があると、遅刻せずに登校しやすくなりますし、授業中も起きていられますし、休み時間も元気に友達と遊べるようになります。
 第二に、子どもが学習に参加するタイミングは、子どもが選択できるようにすることです。そのために、教師が違いを尊重する姿勢を示し、子どもが内なる声を出せる環境を作ります。これが、個に応じた学びに相当すると思われます。
 第三に、ケアする力を育成するカリキュラムや授業をつくることです。ケアする力の育成は、教科学習の中でも、総合・探究学習の中でも取り組むべきものです。ケアする力を育成すると、子どもたちは与えられた基準にもとづいて仲間を出し抜く競争を無価値化し、仲間の多様なニーズへの気づきと柔軟な応答を価値化するため、同調圧力や画一化はなくなっていきます。
 たとえば、教科学習における教師の子どもへの働きかけとして、友達が問題を解けずに困っているなと感知し、「どうしたの?」と問いかけ、仲間に教えることで自分のもてる力を分配することを奨励したり、逆に「わからない」と伝えて援助要求をすると褒めたりすることが重要となります。また、カリキュラム・授業の一例として、社会科の中で社会構造に目を向け地域産業のあり方に課題を見出す学習活動、国語の物語文を読んでイメージを膨らませる中で仲間の多様性を学べる授業、探究学習の中で、地域でケアする活動を行なっているケアモデル人と出会い、社会の分断をどう防いでいるのかを学び、子ども自身も社会づくりに参加することを経験できるカリキュラムなどがあります。
 
5.ケアする力の育成から考える、公正・多様性の保障とイノベーションを創出する協働性
 公正の担保に向けて、多様な子どもが抱える多様なニーズを資源分配によって充足するためには、公的機関が、あるいは教員が個に応じた学びの保障を行うことがまずは重要であるが、それだけでは不十分であり、上で述べたように、子ども自身が仲間をケアし、自分達でニーズの充足を図ることが重要となります。
 これは、多様性の保障にも通じる考え方です。教師がそれぞれの子どもを承認するという一方向の矢印だけでは多様性の尊重は成立しません。というのも、多様性の保障は、多様な人々がそれぞれに相互に認め合うという双方向の矢印が縦横無尽に行き交うことで成し遂げられるものだからです。つまり、学校の中で、個性を有する一人の子どもが尊重されるためには、多様な仲間から認められ尊重されなければ、多様性の尊重は成り立ちません。そのためにも、子どもは教員から受け身に認められるだけではなく、そこでのあたたかな思いをもとに、子ども自身が多様な他者を認める主体となることが重要であり、学校教育の中では多様な他者と出会う機会の量が求められます。
 したがって、公正と多様性を保障するためには、ケアする力の育成で述べたような、学校の中で多様な他者とかかわりあい、自身では思いつかない他者の状況や考えに触発され、お互いに思考を深めて新たな知を生み出す協働性が必要となります。冒頭でも述べたとおり、イノベーションは、協働的な学びから生まれ出ると言えます。つまり、子どもたちが集まる学校での学びの意味は、多様な他者とかかわれるところから生み出されています。
 
6.求められる学校
 今後は、子どもが学校に来ることに意味を感じられるようにすることが重要だと思います。これまでは、学校に来ることが前提とされているがゆえに、なぜ学校に来ないのかと、不登校の理由が探されていました。その精緻化も重要です。一方で、学校に来ないことを前提に、なぜ学校に来るのかを考え、その理由を調査することも必要なのではないかと思います。
 冒頭では難しい言葉で義務教育の意義を述べましたが、簡単に言えば、学校は子どもたちにとって安心できる居場所であり、守ってくれる砦となるべきであると思っています。特に困難を抱える子どもたちは、向き合ってくれる他者を求めています。誰かが向き合ってくれるたびに、愛情のコップに水を一滴ずつ満たすことができます。それがいっぱいになると、他者を信頼し、社会に参加する意欲が出てくるのだと思います。将来、人生でどうしようもなく落ち込んだときに、自暴自棄にならずにもう一度歩んでいけるようになるのだと思います。コップにいっぱいの水を溜めるためには、向き合ってくれるたくさんの仲間・他者が必要です。おそらく、これはすべての子どもにとって同じだと思います。だからこそ、学校に行く意味が出てくるのではないかと思っております。
 そうした中で、わいわいがやがやが当たり前であり、あの子はこういうことを考えているんだね、これがお互いにとって気持ちいいな、これは違うな、と考えて学校を作るのが次の社会を作ることになると思われます。その中で、一人で考えたり、一人でぼーっとしていたり、仲間の様子を見ていたりするのも大切なあり方です。そして、多様な子どもたちが多様な姿でいられ、集まったら居心地がいいし、考えを言い合えるし、楽しいし、でも一人でいたいときには安心していられるし、離れられるし、そんなときに仲間は少し様子を見て放っておいてくれつつ、気にはかけてくれて、見計らったころに声をかけてくれる、一人でいるのもいいけど、やっぱりあったかいな、と思えるような学校づくりを子どもたち自身が実践していくことが求められます。
 学ぶ意欲も生きる意欲もそうしたあたたかな原泉から湧き出るものだと思われます。そうしたあたたかな関係性があると、困難を抱える子どもたちは仲間や教職員の助けを借りながら、よく学びます。また、困難を抱えていない子どもたちも同様です。こちらは社会経済的には中位にあった子どもさんの事例です。彼は、小・中学校で勉強ができる方でしたが、授業中に当てられても友達に合わせて「わかりません」と答えていました。ただ、そうやって同じ状況に身を置いてみると、他の友達が「なぜわからないんだろう」と考えるようになりました。そして、多様な社会背景があることに気づき、高校では社会的格差の探究学習にめざめ、大学に入ると格差是正の活動に取り組んでいます。
 人間は、孤立した存在としてではなく、社会的存在として生まれます。それは、社会から拘束され抑圧されるという意味ではなく、ハイデガーが述べるように、他者やモノとのあたたかなかかわりのある世界の中に生まれるという意味です。ただし、そうしたあたたかな世界は、なにもせずにできあがるわけではありません。自他の内なる「声」を出し合いながら、あるいは引き出し合いながら創るものとなります。学校は、そのためにみんなが集まる場なのではないかと思われます。

お問合せ先

初等中等教育局初等中等教育企画課教育制度改革室

03-5253-4111 (代表)
メールアドレス:syokyo@mext.go.jp

(初等中等教育局初等中等教育企画課教育制度改革室)