考える道徳への転換に向けたワーキンググループにおける取りまとめについて(案)

1 現行学習指導要領の成果と課題を踏まえた道徳教育の在り方

1)現行学習指導要領の成果と課題

○ これからの時代を生きる子供たちには,社会を構成する主体である一人一人が,高い倫理観をもち,人間としての生き方や社会の在り方について,多様な価値観の存在を認識しつつ,自ら考え,他者と対話し協働しながら,よりよい方向を模索し続けるために必要な資質・能力を備えることが求められており,道徳教育はますます重要になっていると考えられる。
○ 戦後我が国の道徳教育は,学校の教育活動全体を通じて行うという方針の下に進められてきた。小・中学校に関しては,昭和33年告示の学習指導要領において,各学年週1単位時間の「道徳の時間」が設置されて以降は,この「道徳の時間」が,学校における道徳教育の「要(かなめ)」又は中心としての役割を果たしてきた。
しかし,これまで学校や児童生徒の実態などに基づき充実した指導を重ね,確固たる成果を上げている学校がある一方で,例えば,歴史的経緯に影響され,いまだに道徳教育そのものを忌避しがちな風潮があること,他教科に比べて軽んじられていること,発達の段階を踏まえた内容や指導方法となっていなかったり,主題やねらいの設定が不十分な単なる生活経験の話合いや読み物の登場人物の心情の読み取りのみに偏った形式的な指導が行われていたりする例があることなど,多くの課題が指摘されている。
このような状況を踏まえ,道徳教育の実質化及びその質的転換を図るため,平成27年3月に学校教育法施行規則及び小・中学校の学習指導要領の一部改正を行い,「道徳の時間」が,小学校では平成30年度から,中学校では31年度から「特別の教科 道徳」(以下「道徳科」という。)となる。この改正は,多様な価値観の,時には対立がある場合を含めて,誠実にそれらの価値に向き合い,道徳としての問題を考え続ける姿勢こそ道徳教育で養うべき基本的資質であるという認識に立ち,発達の段階に応じ,答えが一つではない道徳的な課題を一人一人の児童生徒が自分自身の問題と捉え,向き合う「考え,議論する道徳」へと転換を図るものである。
○ 高等学校については,道徳の時間を設けず,学校教育全体で道徳教育を行うこととしてきた。
高等学校段階の生徒は,自分の人生をどう生きればよいか,生きることの意味は何かということについて思い悩む時期であり,自分自身や自己と他者との関係,さらには,広く国家や社会について関心をもち,人間や社会の在るべき姿について考えを深める時期でもある。こうしたことに鑑み,高等学校においては,人間としての在り方生き方を考える学習を通して道徳教育の充実を図ることとしている。
しかしながら,中央教育審議会答申「道徳に係る教育課程の改善等について」で述べられているように,高等学校全体としては,人としての在り方や生き方に関する中核的な指導の場は,十分には担保されているとは言い難(にく)い。校長や個々の教員の力量に依存する部分が大きいという指摘もある。小・中学校における学習指導要領の一部改正や,高等学校の公民科における「公共(仮称)」の新設など,今般の学習指導要領全体の改訂の方向性を踏まえ,高等学校の道徳教育の充実について検討する必要がある。

2)課題を踏まえた道徳教育の目標の在り方

○ 小・中学校学習指導要領においては,今回の改正により,道徳教育と道徳科の目標を「よりよく生きるための道徳性を養う」と統一した。その上で,道徳科の目標は「道徳性を養う」ための学習活動を更に具体化して示す観点から,「道徳的諸価値についての理解を基に,自己を見つめ,物事を(広い視野から)多面的・多角的に考え,自己の(人間としての)生き方についての考えを深める学習を通して,道徳的な判断力,心情,実践意欲と態度を育てる」と規定した。(括弧内は中学校学習指導要領における表記)
○ 道徳教育で育成する資質・能力と,今回の学習指導要領改訂において整理する資質・能力の三つの柱(「知識・技能」「思考力・判断力・表現力等」「学びに向かう力・人間性等」)との関係については,人格そのものに働きかけ,道徳性を養うことを目的とする道徳科の特性を考慮する必要がある。このため,「道徳教育に係る評価等の在り方に関する専門家会議」の報告(平成28年7月22日)では,資質・能力の三つの柱との関係について,道徳科の学習活動に着目した捉え方を示している。
○ 道徳科では,道徳性を養うために行う学習として「道徳的諸価値についての理解を基に,自己を見つめ,物事を(広い視野から)多面的・多角的に考え,自己の(人間としての)生き方についての考えを深める」学習を通して道徳性を養う。この道徳性を養うために行う道徳科における学習は,「道徳的諸価値の理解」と「自己の(人間としての)生き方についての考え」といった要素により支えられている。これらの要素は道徳教育で育成することを目指す資質・能力そのものではないが,道徳科の学習の中で,これらが相互に関わり合い,深め合うことによって,道徳性を養うことにつながっていく。(図1-1)
○ 高等学校においては,人間としての在り方生き方についての教育の中で,小・中学校における道徳科の学習等を通じた道徳的諸価値の理解を基にしながら,様々な体験や思索の機会を通して自らの考えを深めることにより自分自身に固有の選択基準・判断基準を形成していく。(図1-2)
○ また,小・中・高等学校のいずれにおいても,各教科において,学びを人生や社会に生かそうとする「学びに向かう力,人間性等」を育成することは,自立した人間として他者と共によりよく生きるための基盤となる道徳性を育てることに深く関わっている。
○ こうしたことを踏まえると,道徳教育と資質・能力の三つの柱との関係については,道徳教育の学習の過程に着目して,道徳性を養う学習を支える要素である「道徳的諸価値の理解と自分自身に固有の選択基準・判断基準の形成」「人間としての在り方生き方についての考え」及び道徳教育で育成することを目指す資質・能力である「人間としてよりよく生きる基盤となる道徳性」の三つが対応するものとして整理することができる。ただし,前述のような道徳教育の意義,特性から,これらの要素を分節して観点別に評価を行うことはなじまないことに留意する必要がある。(図2)
○ これらのことは改訂後の小・中学校の道徳科の目標等に示されているものと言えるため,改めて小・中学校の道徳科の目標を改訂し直すのではなく,指導資料の作成等を通じて周知していく中でわかりやすく示していくことが必要である。
〇 高等学校学習指導要領総則の中で示している道徳教育の目標等については,先に行われた小・中学校の改訂を踏まえつつ,高等学校全体で,答えのない問題に自ら答えを見いだしていく思考力・判断力・表現力等や,これらの基になる主体性を持って多様な人々と協働して学ぶ態度の育成が求められていることに対応し,公民科に新たに設けられる「公共(仮称)」や「倫理(仮称)」及び特別活動を,人間としての在り方生き方に関する中核的な指導場面として関連付けを図る方向で改善を行う。

3) 道徳科における見方・考え方

○ 各教科の特質に応じた見方・考え方は,それぞれの教科等の学びの「深まり」の鍵となるものである。生きて働く知識・技能を習得したり,思考力・判断力・表現力を豊かなものとしたり,社会や世界にどのように関わるかの視座を形成したりするために重要なものである。すなわち,資質・能力の三つの柱全てに深く関わる,各教科等を学ぶ本質的な意義の中核をなすものであり,教科等の教育と社会をつなぐものである。
〇 「考え,議論する道徳」を目指す今回の小・中学校学習指導要領の改訂の趣旨に照らして考えると,道徳科における「深い学び」の鍵となる「見方・考え方」は,今回の改訂で目標に示されている,「様々な事象を,道徳的諸価値の理解を基に自己との関わりで(広い視野から)多面的・多角的に捉え,自己の(人間としての)生き方について考えること」であると言える。

2 具体的な改善事項

1)教育課程の示し方の改善

ア 資質・能力を育成する学びの過程の考え方
○ 先に述べたように,小・中学校の道徳科において資質・能力を育成する学習過程は,道徳科の目標に示された「道徳的諸価値の理解を基に,自己を見つめ,様々な物事を(広い視野から)多面的・多角的に考え,自己の(人間としての)生き方についての考えを深める学習」である。(図1-1:再掲)
○ 道徳的諸価値の理解を図るには,児童生徒一人一人が道徳的価値の理解を自分との関わりで捉えることが重要である。「道徳的諸価値の理解を基に」とは,道徳的諸価値の理解を深めることが自分自身の生き方について考えることにつながっていくということだけでなく,自分自身の生き方について考えたり,体験的な学習を通して実感を伴って理解したり,道徳的問題について多面的・多角的に捉えその解決に向けて自分で考えたり他者と話し合ったりすることを通じて道徳的諸価値の理解が深まっていくことも含まれている。
○ このため,特定の道徳的価値を絶対的なものとして指導したり,本来実感を伴って理解すべき道徳的価値のよさや大切さを観念的に理解させたりする学習に終始することのないように配慮することが大切である。児童生徒の発達の段階等を踏まえ,例えば,社会のルールやマナー,人としてしてはならないことなどについてしっかりと身に付けさせることは必要不可欠であるが,これらの指導の真の目的は,ルールやマナー等を単に身に付けさせることではなく,そのことを通して道徳性を養うことである。
○ 学校における道徳教育は,道徳科を要(かなめ)として学校の教育活動全体を通じて行うこととなっており,道徳科は,【1】道徳教育としては取り扱う機会が十分でない内容項目に関する指導を補うこと,【2】児童生徒や学校の実態等を踏まえて指導をより一層深めること,【3】内容項目の相互の関係を捉え直したり発展させたりすることに留意して指導する必要がある。
〇 高等学校における道徳教育は,前述の通り,人間としての在り方生き方に関する教育の中で,小・中学校における道徳科の学習等を通じた道徳的諸価値の理解を基にしながら,自分自身に固有の選択基準・判断基準を形成していく。(図1-2)これらは様々な体験や思索の機会を通して自らの考えを深めることにより形成されてくるものであるため,人間としての在り方生き方に関する教育においては,教師の一方的な押しつけや先哲の思想の紹介にとどまることのないよう留意し,生徒が自ら考え,自覚を深める学習とすることが重要である。

イ 指導内容の示し方の構造
○ 小中学校においては,小・中学校学習指導要領の改訂により,道徳科の内容の示し方について,いじめの問題への対応の充実や発達の段階をより一層踏まえた体系的なものに改善し,小学校では,第1・2学年に「個性の伸長」「公正,公平,社会正義」「国際理解,国際親善」を,第3・4学年に「相互理解,寛容」「公平,公正,社会正義」「国際理解,国際親善」を,第5・6学年には「よりよく生きる喜び」の内容項目を追加した。
○ 高等学校における道徳教育については,小中学校のように道徳科を特設しておらず,指導する内容項目等は示されていないが,学校全体で行う道徳教育の全体計画を作成,実施するに当たっては,小・中学校の内容項目とのつながりを意識することが求められる。その上で,高等学校の共通性と多様性ということを考慮すると,各高等学校において全体計画を作成,実施するに当たっては,各学校や生徒の実態に応じて,内容を網羅するのではなく重点化して示すことが重要である。このため,校長のリーダーシップの下で,全体計画に基づく道徳教育のカリキュラム・マネジメントを担う者として,高等学校においても道徳教育推進教師を置く(任命する)ことが求められる。
○ また,小・中・高等学校のいずれにおいても,カリキュラム・マネジメントの視点から,各学校が作成する道徳教育の全体計画及び別葉の中において,学校の道徳教育の重点目標に基づき各教科等で育むことを目指す資質・能力と道徳科で育成する資質・能力や指導内容等の関連を図ることを示すことが考えられる。また,作成した全体計画を教職員が共有するだけでなく,ホームページに掲載する等により広く公開することも重要である。

2)教育内容の改善・充実

○ 小・中学校学習指導要領の一部改正では,いじめへの対応,情報モラル,その他現代的課題などへの対応の充実が図られたところである。
○ 今後,小・中・高等学校を通じて,さらなる指導の充実を図るべき点としては,例えば,【1】公職選挙法改正による選挙権年齢の引下げ等も踏まえた積極的な社会参画に関わること,【2】障害者差別解消法の施行等を踏まえた障害者理解(心のバリアフリー)に関わること等が考えられる。こうした課題に関する学習の充実を図るとともに,各学校においては学校や地域,児童生徒の状況に応じて重点的に取り組むべき課題の設定を行うことが望まれる。

3)学習・指導の改善充実や教育環境の充実等

ア 主体的・対話的で深い学びの実現
○ 現在検討されている学習指導要領全体改訂の中では,社会で生きて働く知識や力を育むために,子供たちが「何を学ぶか」という学習内容の在り方に加えて,「どのように学ぶか」という,学びの過程に着目してその質を高めていくことが重要である。「どのように学ぶか」の鍵となるのがアクティブ・ラーニングの視点,すなわち子供たちの「主体的・対話的で深い学び」を以下に実現するかという学習・指導改善の視点である。道徳教育においては,他者とともによりよく生きるための基盤となる道徳性を育むため,答えが一つではない道徳的な課題を一人一人の児童生徒が自分自身の問題と捉え,向き合う「考え,議論する道徳」を実現することが,「主体的・対話的で深い学び*1」を実現することになると考えられる。
○ 専門家会議では,「考え,議論する道徳への転換」に向けて求められる指導方法の改善の例示として,【1】読み物教材の登場人物への自我関与が中心の学習,【2】問題解決的な学習,【3】道徳的行為に関する体験的な学習を指導方法の例を挙げている。これらは独立した指導の「型」を示すわけではなく,それぞれに様々な展開が考えられ,またそれぞれの要素を組み合わせた指導を行うことも考えられることとしている。
○ 道徳科における学習・指導改善における工夫や留意すべき点については,既に一部改正がなされた学習指導要領及びその解説や,「道徳教育に係る評価等の在り方に関する専門家会議」での議論を踏まえつつ,「主体的・対話的で深い学び」の視点に沿って整理すると,概ね以下のように考えられる。
なお,ここで挙げているものは一例であり,具体的な学習プロセスは限りなく存在し得るものである。様々な工夫や留意点を三つの視点に分けることが目的ではなく,これらの視点を手掛かりに,教員一人一人が,子供たちの発達の段階や発達の特性や指導内容などに応じた方法について研究を重ね,ふさわしい方法を選択しながら工夫して実践できるようにすることが重要である。

(1)「深い学び」の視点
「深い学び」の視点からは,道徳的諸価値の理解を基に,自己を見つめ,物事を多面的・多角的に考え,自己の生き方について考える学習を通して,道徳的価値の深い理解や,学習への動機付け等につなげる学習とすることが求められる。
単に読み物教材の登場人物の心情理解のみで終わったり,単なる生活体験の話合いや,望ましいとわかっていることを言わせたり書かせたりする指導とならないよう留意し,道徳的な問題を自分事として捉え,議論し,探究する過程を重視し,道徳的価値に関わる自分の考え方,感じ方をより深めるための多様な指導方法を工夫することなどが考えられる。深い学びにつながる指導方法としては,例えば以下のような工夫が考えられる。
・読み物教材の登場人物への自我関与を中心とした学習において,教材の登場人物の判断と心情を自分との関わりにおいて多面的・多角的に考えることを通し,道徳的価値の理解を深めること。
・様々な道徳的諸価値に関わる問題や課題を主体的に解決する学習において,児童生徒の考えの根拠を問う発問や,問題場面を自分に当てはめて考えてみることを促す発問,問題場面における道徳的価値の意味を考えさせること。
・道徳的行為に関する体験的な学習において,疑似体験的な活動(役割演技など)を通して,実際の問題場面を実感を伴って理解することで,様々な問題や課題を主体的に解決するために必要な資質・能力を養うこと。
道徳的な問題場面には,【1】道徳的諸価値が実現されていないことに起因する問題,【2】道徳的諸価値についての理解が不十分又は誤解していることから生じる問題,【3】道徳的諸価値のことは理解しているが,それを実現しようとする自分とそうできない自分との葛藤から生じる問題,【4】複数の道徳的価値の間の対立から生じる問題などがあり,これらの問題構造を踏まえた場面設定や学習活動の工夫を行うことも大切である。

(2)「対話的な学び」の視点
「対話的な学び」の視点からは,子供同士の協働,教員や地域の人との対話,先哲の考え方を手掛かりに考えたり,自分と異なる意見と向かい合い議論すること等を通じ,自分自身の道徳的価値の理解を深めたり広げたりすることが求められる。
例えば,教材や体験などから考えたこと,感じたことを発表し会ったり,話合いなどにより異なる考えに接し,多面的・多角的に考え,協働的に議論したりするなどの工夫を行うことや,日頃から何でも言い合え,認め合える学級の雰囲気を作ることが重要である。また,資料を通じて先人の考えに触れて道徳的価値の理解を深めたり自己を見つめる学習につながったりするような教材の開発・活用を行うことや,様々な専門家や保護者,地域住民等に道徳科の授業への参加を得ることなども「対話的な学び」の視点から効果的な方法と考えられる。
なお,児童生徒同士で話し合う問題解決的な学習を行うに当たっては,そこで何らかの合意を形成することが目的ではなく,そうした学習を通して,道徳的価値について多面的・多角的に考え,自分のこととして考えることにつなげることが重要であることに留意する必要がある。
特に,特設の道徳科の時間がない高等学校においては,特別活動,特にホームルーム活動における話合いを通して,人間としての在り方生き方に関する考えを深めることが重要である。

(3)「主体的な学び」の視点
「主体的な学び」の視点からは,児童生徒が問題意識を持ち,自己を見つめ,道徳的価値を自分自身との関わりで捉え,自己の生き方について考える学習とすることや,各教科で学んだこと,体験したことから道徳的価値に関して考えたことや感じたことを統合させ,自ら道徳性を養う中で,自らを振り返って成長を実感したり,これからの課題や目標を見付けたりすることができるよう工夫することが求められる。
例えば,主題やねらいの設定が不十分な単なる生活経験の話合いや,読み物教材の登場人物の心情理解のみに終始する指導,望ましいと思われることを言わせたり書かせたりすることに終始する指導などに陥らないよう留意することが必要である。児童生徒の発達の段階等を考慮し,問題意識を持つことができるような身近な社会的課題を取り上げること,問題解決的な学習を通して一人一人が考えたことや感じたことを振り返る活動を取り入れること,伝統や文化に直接ふれることや,自然体験活動など美しいもの・気高いものなどに出会う機会を多様に設定し,そこから感じたことを通じて自分自身の生き方について考えるようにすることも重要である。また,年度当初に自分の有様やよりよく生きるための課題を考え,課題や目標を捉える学習を行ったり,学習の過程や成果などの記録を計画的にファイル等に集積(ポートフォリオ)したりすること等により,学習状況を自ら把握し振り返られるようにすることなどが考えられる。

イ 教材や教育環境の充実
○ 「道徳教育に係る評価等の在り方に関する専門家会議」において提言されたように,道徳教育の質的転換に向けて,それぞれの立場から積極的な条件整備が進められることが求められる。
・文部科学省においては,道徳教育・道徳科で育成することを目指す資質・能力など基本的な考え方についてわかりやすく情報発信をすること,モデル事業の推進や学習指導要領解説の改訂,教師用指導資料の作成,教育委員会等の積極的な取組について全国へ発信すること等を進めること
・各教育委員会や研究団体においては,質の高い多様な指導方法,特に問題解決的な学習や体験的な学習に関する研究をこれまで以上に進めること
・各学校,特に管理職には,道徳科を学校教育全体で行う道徳教育の真(しん)の「要(かなめ)」となるようにカリキュラム・マネジメントを確立すること
・道徳科の指導を行う一人一人の教師には,学級や児童生徒の実態から柔軟に授業を構想し,道徳教育推進教師と協働しつつ,家庭や地域との連携を深め,主体的・能動的に道徳教育を実践すること
 ・家庭や地域においては,例えば「親子道徳の日」の設定や教科書などを通じて保護者と児童生徒が一緒に道徳について考えたり,道徳の授業にゲストティーチャーとして関わったりすること
○ 特に,高等学校については,校長のリーダーシップの下,道徳教育推進教師を軸としながら,特設の時間がないからこそ,担任を持つ教師だけでなく教師全員が道徳教育の担当であるという意識で推進する必要がある。校長は全体をマネジメントするだけでなく,例えば校長自身も節目節目での講話等を通じて直接生徒に語りかけ,生徒が道徳について考える機会を作ることにも大きな意義がある。
学校・地域によっては,独自に道徳教育のための時間を確保し,必修化するなどの取組や,そうした時間等や各教科等で活用できる教材の作成,道徳教育を担当する教員に対する研修など積極的な取組を行っている例がある。国や都道府県教育委員会には,そうした高等学校における道徳教育の充実に関する取組に対する支援や成果の共有などを積極的に進めることが求められる。
〇 道徳教育の質的転換に向けては,「社会に開かれた教育課程」の視点から,道徳教育で育成することを目指す資質・能力などについて,専門家同士での理解を前提としたものではなく,すべての教師はもとより,保護者や地域の理解も得られるような示し方,伝え方としていき,社会全体で共有できるようにしていくことが重要である。例えば道徳性の諸様相についての説明は昭和30年代から大きく変わっていないが,今後,関係する諸分野における科学的知見や資質・能力に関する研究等の進歩を踏まえながら,よりわかりやすく適切な示し方について研究がなされることが期待される。

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