教育課程部会 芸術ワーキンググループ(第7回) 議事要旨

1.日時

平成28年4月26日(火曜日) 13時00分~15時30分

2.場所

文部科学省3F1特別会議室

3.議題

  1. 芸術教育の改善充実について
  2. その他

4.議事要旨

1.アクティブ・ラーニングの三つの視点を踏まえた、資質・能力の育成のために重視すべき芸術系科目の指導等の改善充実の在り方について

 身体を使った体験的な活動が、学ぶ過程を通して次の活動のための知識や技能になっていくということは、試すという活動が多くある図画工作科でもよく見られる。図画工作科では、単に知識を組み合わせて新たなものをつくるというよりは、体験的な活動、身体化といったことがとても大事になってくると考える。

 芸術系教科・科目における見方・考え方の特徴というのは、感性と知性だと考える。例えば音楽では、知覚・感受をすることと、それを基に思考するということの両方が必要である。知覚・感受と思考をつなぐものとして、例えば言語活動などが関わり、また、知覚・感受したことを基に思考するときに、色々な事実的な知識が支えとなり、思考の結果として構造化された概念的な知識が子供たちの中に定着していくということだと思う。

 「深い学び」に関わることでは、教師もよく分からないようなことを子供と一緒に探求していくということも大切であり、課題の発見ということがキーワードの一つではないかと思っている。

 「深い学び」の行き着く先は、教科・科目の枠を飛び越えて、芸術で学んだことが、子供たちの中に感性も含めて構造的に定着していくというイメージを感じる。深く掘り下げるというよりも、上昇して相互に関わり合う学びの高まりという感じで捉えている。

 授業で大切なのは、目標に挙げていることが本当に子供たち一人一人の身に付いているのかというところである。「主体的な学び」や「対話的な学び」よりも捉え方の難しい「深い学び」について、子供たちの姿として見取り、各教科で掘り下げていくことが、教科の目標を見据えて指導の在り方を考えることにつながるのではないか。各教科で「深い学び」を見える形で示し、普段の授業の目標とつながっていることを先生たちが意識できるようにすることが重要である。

 例えば、描き出しは遅いけれども、思いを巡らせて何を描こうかじっくり考え確かめながら形にしていく子供たちもいる。評価においては、そういった子供の活動の変化を見取っていくことも大切だと思う。

 極端なことをいうと、楽しく歌っていたという活動があったときに、そこに本当に学びがあったのか、教師がどれだけ意識していたのかという問題である。学びがあったことを教師が意識し、子供たちを評価し、それを意識付けていたかという点では、これまでは大きな課題があったと思う。学習の終末の場面では、今日はこういうことができたね、ここはできていなかったね等、学びについて評価を丁寧に行う学習にしていく必要がある。

 中学校から高等学校への学びの深まりというところで、専門教育を行うことが深い学びだというような取り違いをされている場合がある。高等学校における深い学びは、芸術として、音楽、美術、工芸、書道の枠を超えたものにつながるようなものである必要があると思う。

 指導内容があり、目標があって、そのねらいを生徒に身に付けさせる授業が大事だと思う。そのとき、学習の主体者である生徒が、自覚的に学べるか、意味を実感できるかで成果が違ってくるので、それが実現したものが深い学びではないかと思う。深い学び、対話的な学び、主体的な学びと3つの視点が示されているが、それぞれを独立して考えるのではなく、一体のものとして捉えていく必要があると思う。

 学校だけで学びを完結することは難しいと考える。深い学びというのは、学校だけのものではなく、授業を受ける子供たちの自主性やモチベーションを学校が後押しすることによって、子供たちが社会と密接に関わる段階で深化していくものではないかと思う。

 主体的な学びや対話的な学びについては、すでに実践されているという声も多い。深い学びとなると、どこまで迫れるのかというところはあるが、基礎的な知識・技能をしっかり押さえることが深い学びにつながっていくのではないかと考えている。

 深い学びというと大変重い印象を受けるが、そうではなく、普段の授業の中で学習することを、資質・能力を生かしながら少しずつ高めていくといった、細かなステップを積み重ねていくことではないかと思う。深い学びを意識しながら、教師が授業を構築していくことが大事である。

 図画工作科においては、表現や鑑賞の活動を通して、形や色、自分のイメージを持つといったことを大事にしながら、自分自身をつくりだしていく、更新していくといった学びが、創造的に考えることにつながっている。このとき大事にしなければならないのが、子供自身が学びに実感を持つことであり、実感を伴った子供の満足感が深い学びにつながっていくのではないか。

 深い学びにさせるために、教師がどういう働きかけをして、子供たちが、時間をかけて、自分の頭と自分の体験、経験と結びつけて情報を整理していくのかが大切である。授業の組み立てから考えると、深い学び、対話的な学び、主体的な学びの順序は逆だと思う。

2.資質・能力の育成のために重視すべき芸術系教科・科目の評価の在り方について

 「知識」の評価の在り方について、“一人一人の個別性や身体性”、“感覚を生かす”、“再構築”といったことが含まれており、単なる暗記するための知識ではないということを明確に示すことが大事であると思う。芸術系教科・科目においては、“知識の獲得が、表現する喜びや鑑賞する喜びにつながることによって情操が養われていく”ということを、他教科との違いとして打ち出していってほしい。

 態度に関することのうち、観点別評価に馴染みにくいものについては個人内評価にするということを考えると、評価の観点が3観点に変わっても、これまで育成しようとしていた資質・能力と基本的に変わっていないということを理解してもらえると思う。

 子供が学んだときに、一生懸命に頑張れば頑張っただけ伸びるのだというものをきちんと評価すべきであると考える。芸術に関しては、一人一人のよさに着目していくことが大事であるが、これまで社会的には、結果として総括された評定だけが見られているので、今後は社会全体が観点別の評価を見てくれるような発信が大事だと思う。

 子供たちが自分の学びを自己評価できるようにするためには、授業の中で、教員の目標と自分の目標を重ね合わせて捉えていくようにする必要がある。図画工作科においては個性や多様性が大事なので、教員が子供の活動を多様に認めていくということを共有することも重要である。

 美術の場合、知識や技能は、必ず、美術の創造活動を通して、そうした活動と結びつけて体得していくというものでなければならないと考える。

 知識や技能については、子供たちが、表現したり鑑賞したりするときの自分の引き出しを、授業の中でたくさん作っていけるように、創造活動を通して実感を伴いながら身に付けていくことが重要である。

 例えば鑑賞の学習であれば、子供たちは最初に得た事実的な知識を、解釈したり価値を考えたりしながら、自分の経験や知覚・感受したことと関連付け、それぞれ個別に概念的な構造化された知識を持つことになる。そうやって個別に持った知識を評価するということは非常に難しいと思う。技能についても、子供によって、その思いや意図を表現する技能は個別に違ってくるので、その子に応じた技能が身に付いているのか評価することは難しい。このため、評価することについて、分かりやすい説明が必要である。

 技能については、中学校の教員自身が、子供たちが小学校で身に付けた基礎的な技能を十分把握できないままに指導している現状もあるのではないか。そういった意味では、知識・技能についても、小・中・高と一体的に示していくことも必要だと思う。

 小学校音楽科においては、「音楽的な特徴及び構造と曲想との関わりについての理解」という知識が、鑑賞の能力とどのように関わるのか、例えば一体的に評価するものなのか、別々に評価するものなのかという点など、さらに検討する必要がある。

 評価は、何が身に付いて、何が十分定着していないのかということをきちんと説明する機会でもあり、学習を進めていく上で非常に重要である。このため、評価規準をどのように作っていくかが今後の大きな課題である。また、評価する指導者は一人なので、個人内評価などについて、各学校において担当する生徒全員を評価することが実務的に可能なのかという懸念もある。

 中学校美術科では、平成10年の学習指導要領の表現が「次のことができるよう指導する」となっており、教員の責任の重さを明らかにしたということで、個人的には、よいものだと考えている。

3.芸術系教科・科目における指導の改善・充実について

「A表現」の指導と「B鑑賞」の指導の関連を図ることについて

 評価の観点において、表現と鑑賞が同じ思考・判断・表現の枠内にあるので、資質・能力を育てるという面で、関連を図ることをより明確にする必要がある。鑑賞は鑑賞、表現は表現というように分断されている授業もあるが、より子供が実感を伴って味わい、つくることに移行する、つくりだす喜びを感じ取ってさらにまた味わうというように、一連の流れの中で表現と鑑賞があることを示す必要がある、また、道具や用具のよさについても、実際に使ってみてなるほどと思う感覚をさらに大事にしていかなくてはいけないので、知識との関連性も示す必要があると考える。

ICTの活用について

 自分が聴いて感じたことを楽譜を通して視覚的に確認できたり、音楽の構成に関わるようなことを図式化して示したりするなど、音楽の学習における視覚と聴覚ということで、ICTの活用は効果的に進んでいると思う。また、録音したものをその場ですぐに再生できるようなシステムが整ってきて、子供たちが自身の演奏を聴いて、それについてディスカッションするような学習もスムーズにできるようになってきた。ただし、ICT機器を使うこと自体が目的となってしまっているといった課題もある。

 ICTを活用することで、音楽のどこを聴いているのか、歌っているのかを楽譜上に動的に示すことができるようになり、拡大楽譜以外にも活用の場面が増えてきている。また、授業で学んだことを放課後に活用するような使い方もできるのではないか。

 ICTというと、身体性と対極にあるようなイメージがあるので、知的な理解だけに走らないような工夫も必要である。

 子供たちにとってICTは身近になってきているので、それを授業の中で活用することは大変大事なことだと考える。その際、ICT機器によって捉えたことを、自分の実感と結び付けることが大切である。

 結果として、ICT機器を使うことだけに子供たちが一生懸命になっていて、授業のねらいが逸れてしまうということもあるので、あくまでも授業のねらいを明確にした効果的な活用ということを考える必要がある。

 音楽科においては、共通事項が設定されてから鑑賞の授業の充実、表現の授業との関連が図られるようになったが、より一層、表現と鑑賞の関連を図っていくことが重要である。その際、聴覚で捉えたことを見えるようにして、それを表現に生かすなど、ICTの活用を考える必要がある。

 高等学校の美術や工芸では、単に情報を得るためというよりも、タブレット端末が持っているカメラや編集の機能を生かすなどの活用の可能性が期待されるが、教員が使いこなせるかといった心配もある。

 ICTは大切であるが、電源を失っても自分の力で芸術ができる、芸術の教育ができるというところは、人間でしかできないことであり、子供と向き合える強さというものも必要だと思っている。

学校における芸術教育の充実方策について

 学校における芸術教育の充実方策としては、美術館が学校とどのように連携できるかが大きな課題である。美術館が果たす役割の一つは、アナログであることを伝えていくことだと思う。コンピューターの可能性は広がっているが、実際に自分たちの手を使い、視覚や聴覚を刺激して本物を見たり、アーティストと出会ったりするなど、学校では実現できないことを提供することが重要である。

 現代美術の世界が医療や宇宙科学など色々な世界と結び付いているように、美術を核として色々なチャンネルを結ぶことによって、自分たちの価値と自分たちとは違う価値を多角的に知るきっかけを作ることが、学校と美術館の連携によってできるのではないか。

 ICT機器を活用して映像で見ることも大事であるが、ものを見ることが鑑賞の原点である。そこに飾られていたり、置かれていたり、そのものの持っている空気や全体を包む空間というもの、あるいは、書や絵画では、軸やきれなどを総合的に捉えていくことが、表現や鑑賞の中で必要であるため、ものをその場で見る環境を学校教育でどう作っていくかが重要である。

 作品をたくさん見せるためには、ICT機器も必要であるが、やはり実物を見ないと線質や実際の大きさが分からない。そのためには、ぜひ美術館を利用していただきたいと思う。

 表具など、その美術品を取り巻いている環境には文化的な財産があり、日本の伝統が詰まっている。中の作品だけを見るのではなく、周辺の文化、包む文化、着飾る文化などを見てもらうことは、美術の深い理解につながる、あるいは、興味を持たせるきっかけにもなるものだと考える。そうすることで、単一の教科ではなく、絵と書がつながったり、立体とつながったりすると思う。

 地域の実態、地域の特性を踏まえることは重要であるが、実際に教育をしている学校や教員の力として、自分たちの地域を知り尽くして教育ができているのか不安なところもある。このため、必修として最低限の必要なものは、題材や内容などをある程度、提示した上で、各地域の創意工夫や自由度を置くのがいいのではないか。

 学校としては、社会に教育を開いていくということであるが、それを受け止めていく社会の受け皿ということも、今回の改訂の中で前進できるといいと思う。例えばバスを借り上げて、生徒全員で市の美術館に行くなど、美術館で作品に触れる機会を作ることは、学校の努力だけでなく、行政がどのように予算化していくかという話でもある。その点が整えられないと、学校と美術館の連携もなかなか進まないのが現状である。

 全国でも、学芸員とは別に、エデュケーターなどの教育担当者が配置されている美術館は非常に少ない。芸術を、これからの未来を支えていく人間にとって必要不可欠なものだと位置付け、デジタル社会になっても、自分たちの力で何かを作り、切り開いていく人材を育成するために、芸術の持つ力をもっと強調していく必要があることを考えると、学校と美術館の両方に教育の専門家を配置することが必要だと考える。

以上。

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