資料8-1  産業教育ワーキンググループにおけるこれまでの議論のまとめ(案)

1.現行学習指導要領の成果と課題
○ 農業、工業、商業、水産、家庭、看護、情報、福祉からなる職業に関する各教科(以下「職業に関する各教科」という。)は、主に高等学校の職業教育を主とする専門学科(以下「職業学科」という。)において開設され、各教科の指導を通して関連する職業に従事する上で必要な資質や能力を育み、社会や産業を支える人材を輩出してきた。
○ しかしながら、科学技術の進展、グローバル化、産業構造の変化等がみられ、必要とされる専門的な知識・技術も変化するとともに高度化しているため、これらへの対応が課題となっている。
○ また、職業に関する各教科においては、専門的な知識・技術の定着を図るとともに、多様な課題に対応できる課題解決能力を育成することが重要であり、地域や産業界との連携のもと、産業現場等における長期間の実習等、実践的な教育活動のより一層の充実が求められている。あわせて、職業学科に学んだ生徒の進路が多様であることから、大学等との接続についても重要な課題となっている。

2.育成すべき資質・能力を踏まえた産業教育の目標と評価の在り方について
(1)産業教育の特質に応じ育まれる見方・考え方
○ 産業教育の特質に応じ育まれる見方・考え方については、教科ならではの視点や思考の枠組みであり、三つの柱で整理していく資質や能力を育むため、各教科に関連する職業を踏まえて検討を行った。
    その結果、職業に関する各教科の本質に根ざした視点から社会や産業の課題を捉え、人々の健康の保持増進や快適な生活の実現、社会の発展に寄与する生産物や製品、サービスの工夫・創造に向けて考えることなどに整理することが考えられる。
○ しかしながら、教科ごとに育成すべき資質や能力は異なること、さらに、各教科の中でも科目等によって育成すべき資質や能力が異なる場合があることから、原則として共通の方向性を持つ科目ごとに見方・考え方を整理することが考えられる。
○ 職業に関する各教科に属する科目においては幅広い教育が行われているが、それぞれの教育内容の特色に応じた見方・考え方に留意した教育が行われることが求められる。
 (2)産業教育において育成すべき資質・能力の整理と、目標の在り方
○ 義務教育及び高等学校の共通教科においては、「家庭や個人の生活及び社会の課題の解決に必要な」(※義務教育は「基礎的・基本的な」)資質や能力の育成、「職業において共通に必要とされる」(※義務教育は「基礎的・基本的な」)資質や能力の育成が行われていると整理することが考えられる。これらを基に、産業教育においては専門的な資質や能力を育むこととなる。
 特に、中学校における技術・家庭では、農業、工業、水産、家庭、情報などにつながる生活や社会で活用される技術に関する知識・技能や思考力・判断力・表現力等を育むとともに、技術を活用して生活をより良くするような態度を育成することとされており、その接続を意識することは重要である。
○ これらを基にした産業教育において育成すべき資質や能力については、学校のみならず、産業界で必要とされる資質や能力も見据えて整理することが重要である。今回、教育関係者のみならず産業界関係者の委員の意見をまとめるとともに、スーパー・プロフェッショナル・ハイスクールなどの先進的な取組を行う学校を含めた教育関係者に加えて産業界関係者からもヒアリング等を行った。それらを踏まえると、職業に関する各教科に共通した改善の考え方を次のように整理することが考えられる。これらは、社会や産業の課題を捉えて、職業に関する各教科の見方・考え方を用い、その解決を目指す実践的・体験的な学習活動を通して育成することが考えられる。
1 各職業分野について(社会的意義や役割を含め)体系的・系統的に理解させるとともに、関連する技術を習得させる。
2 各職業分野に関する課題(持続可能な社会の構築、グローバル化・少子高齢化への対応等)を発見し、職業人としての倫理観をもって合理的かつ創造的に解決する能力を育成する。
3 職業人として必要な豊かな人間性を育み、より良い社会の構築を目指して自ら学び、産業の振興や社会貢献に主体的かつ協働的に取り組む態度を育成する。
○ これらを構成する要素については、従来から学習指導要領において職業に関する各教科の目標として明示してきた要素もある。例えば、「倫理観」については、前回の学習指導要領の改訂に当たっても、職業における倫理観の育成が重視されたところであるが、産業界における倫理観の在り方が社会問題化した例も引き続き見られることから、「職業人としての」という文言を追加し、その重要性を強調して示すこととした。
○ また、「合理的」については、社会や産業の課題解決において、科学的根拠、経済性、社会資源及び環境への影響などを考慮しなければならない重要な方向性であることから、引き続き示すこととした。
○ 一方で、「職業人として必要な豊かな人間性を育み、より良い社会の構築を目指して自ら学ぶ」といった要素は、人間性等が重視される中、多様な価値観や文化を持つ人々と協力して働くことや、社会や産業が大きく変化する中で、新たな課題に挑戦し、粘り強く学び続けることが重要であることから明示した。
○ また、「社会貢献」については、身に付けた知識や技術等を産業の振興のみならず、教科の特質に応じて、より広い視点で、より良い社会の構築に役立てようとすることが重要であることから明示した。
○ さらに、「協働的に取り組む」は、課題に対して個人が責任をもって主体的に取り組むことが重要であることは言うまでもないが、社会や産業において職業に関する課題を解決するためには、関係する人々と共通理解を図った上で協働して取り組むことも重要であることから、「主体的」と並んで明示した。
○ なお、知識と技術について「基礎的・基本的な」という文言を削除しているが、これは産業教育における学びは、基礎的・基本的な知識や技術に限られるものではなく、各職業における標準的な知識・技術はもとより、先端的な知識・技術を身に付けることも想定されることから、修正したものである。
 (3)資質・能力を育む学習過程の在り方
○ 上記の三つの柱に沿った資質や能力を育成するためには、産業教育において従前から実施されていた具体的な課題を踏まえた課題解決的な学習の充実が求められる。
○ このような学習については、解決すべき職業に関する課題を把握する「課題の発見」、関係する情報を収集して予想し仮説を立てる「課題解決の方向性の検討」、「計画の立案」、計画に基づき解決策を実践する「計画の実施」、結果をもとに計画を検証する「振り返り」、というような過程に整理することが考えられる。この過程においては、例えば、「課題の発見」では、学びに向かう力や人間性として、より良い社会の構築に向け課題を発見しようとする態度が、「計画の実施」では、思考力・判断力・表現力として、専門的な知識・技術を活用する力が育まれることが想定される。
○ ここで整理した過程はあくまでも例示であり、各過程を行き来して学習活動が行われるものであることに留意する必要があるが、これらの過程において、先述した三つの柱に基づき整理した資質や能力の育成を図ることができる。
(4)「目標に準拠した評価」に向けた評価の観点の在り方
○ 産業教育における評価の観点については、学校教育法が規定する学力の三要素との関係を更に明確にし、育成すべき資質・能力の三つの柱に沿って各教科の指導改善等が図られるよう、「知識・技術」、「思考・判断・表現」、「主体的に実践する態度」の3観点に沿って整理することが考えられる。
○ 職業学科を設置する高等学校(以下「専門高校」という。)においては、学科や類型等によって人材育成の方向性が異なることから、各学校において育成すべき資質や能力を具体的に設定することが必要であり、その際、ルーブリックを活用するなどして生徒の学びの深まりを把握することも有効であると考えられる。
○ また、国家資格の取得、検定試験の受験、研究発表会や競技会への参加などの活動の成果についても、生徒が身に付けた資質や能力を関連する産業界や大学などと共有化した評価として、その特質を踏まえ、過度の試験対策偏重による弊害には十分に留意しつつ活用していくことも重要である。さらに、これらの活動のプロセスにおいて生徒がどのような力を身に付けたか等を記録するポートフォリオ評価を活用することなども有効であると考えられる。なお、校長会等が実施する各種検定試験等については、高大接続システム改革会議「最終報告」(平成28年3月31日)においても提言されているが、知識・技能のみならず、思考力・判断力・表現力等との関連を明確にしていくことになれば、当該検定試験の結果は、思考力・判断力・表現力等を含め生徒が培ってきた資質・能力を総合的に評価していく材料の一つとして活用されることが期待される。

3.育成すべき資質・能力を踏まえた職業に関する各教科における目標の在り方、教育内容の改善充実
 (教科横断的な事項)
○ 今回の改訂においては、上記のような資質や能力の育成を前提に、社会や産業の変化の状況等や学校における指導の実情を踏まえて、持続可能な社会の構築、情報化の一層の進展、グローバル化などへの対応についての視点から改善を図ることが求められる。
○ 持続可能な社会の構築への対応については、例えば、安全・安心な農作物や水産物などの持続的・安定的な生産と供給、地球温暖化防止等の環境保全、資源やエネルギーの有効な活用などに関する指導の充実などが求められる。
○ 情報化の一層の進展への対応については、例えば、職業に関わる情報モラル、IoTや人工知能、インターネットを活用したビジネス、医療機器や介護ロボットなどに関する指導の充実などが求められる。
○ グローバル化への対応については、例えば、製品規準の標準化、国際的な人・もの・資本の移動による影響などに関する指導の充実などが求められる。
○ こうした社会や産業の変化の状況等に対応する観点からも、経営等に関する指導がより重要となっている。そのため、例えば、農林水産業においては、経営感覚に優れた次世代の人材の育成に向けた指導の充実などが求められる。
○ また、職業と結びついた資格取得等との関係の整理も必要である。例えば、看護師や介護福祉士、調理師、海技士等は、当該職業に従事する際に必要となる資質や能力を明確にして、その育成が図られているかどうかを資格等の取得を通じて認証している。このような場合には、当該資格等を取得する上で必要となる資質や能力を踏まえて学習指導要領の改訂を行うことが求められる。
○ これまで、職業に関する各教科においては、専門的な学習を通じて、各教科に関連する産業や職業の社会的な意義や役割を理解させるとともに、職業に関する倫理観を高めるよう指導の充実を図ってきたところであるが、異業種・異分野に進出する企業等が多く見られるようになっており、共通する資質や能力について、より意識して育成することが求められる。今回の改訂においては、産業教育で育成する資質や能力を踏まえ、各教科で指導すべき共通の内容を整理し、これを各教科共通の基礎的・基本的な内容として扱うとともに、必要な支援方策を講じることが考えられる。
○ このような各教科共通の基礎的・基本的な内容としては、各教科の原則履修科目の基礎的科目などにおいて指導の充実を図ることが考えられる。例えば、働くことの社会的な意義や役割、現在の社会や産業全体の抱える課題を理解させ、各教科に関連する産業やその学習につなげることや、職業人として必要な倫理観を育み、社会の信頼を得ることの重要性を認識させるなどの学習につなげることが考えられる。
○ これらの指導に当たっては、中学校でのキャリア教育の成果を踏まえるとともに、高等学校の新たな必履修科目として検討が進められている「公共(仮称)」などの関係教科・科目等との連携を図ることが重要である。また、より充実した指導を行うため、例えば、関係の団体に働きかけ、校長会等の協力を得ながら副教材を作成することなど、各学校の取組を支援することが考えられる。
 (各教科・科目に関する事項)
(1)農業科
○ 安定的な食料生産の必要性や農業のグローバル化への対応など農業を取り巻く社会的環境の変化を踏まえ、農業や農業関連産業を通して、地域や社会の健全で持続的な発展を担う職業人を育成するため、次のような改善を図ることが求められる。
1 教科の特質に応じ育まれる見方・考え方
○ 教科の特質に応じ育まれる見方・考え方については、次のように整理することが考えられる。
・農産物の生産や経営の視点から農業や関連産業を捉え、生産性及び品質向上や経営改善に向けて考えること
・農産物の加工や流通の視点から農業や関連産業を捉え、生産性及び品質向上や経営改善に向けて考えること
・農地や森林の保全や環境修復・再生の視点から農業や関連産業を捉え、地域の環境創造に向けて考えること
・農業生物や地域資源の活用の視点から農業や関連産業を捉え、地域創造と生活の質的向上に向けて考えること
2 育成すべき資質・能力
○ 育成すべき資質・能力については、次のように整理することが考えられ、これを踏まえ、教科の目標の改善を図ることが求められる。
・農業の各分野について(社会的意義や役割を含めて)の体系的・系統的な理解、関連する技術
・農業に関する課題を発見し、職業人としての倫理観をもって合理的かつ創造的に解決する能力
・職業人として必要な豊かな人間性、より良い社会の構築を目指して自ら学び、農業の振興や社会貢献に主体的かつ協働的に取り組む態度
3 資質・能力の育成に向けた教育内容の改善・充実
○ 資質・能力の育成に向けた教育内容については、次の方向で改善・充実を図ることが求められる。
・現在の「農業経営、食品産業分野」と「バイオテクノロジー分野」を再構造化し、バイオテクノロジーを含む「農業生産や農業経営の分野」と「食品製造や食品流通の分野」に整理
・農業の各分野において、持続可能で多様な環境に対応した学習の充実
・農業経営のグローバル化や法人化、企業参入等に対応した経営感覚の醸成を図るための学習の充実
・安全・安心な食料の持続的な生産と供給に対応した学習の一層の充実
・農業の技術革新と高度化等に対応した学習の充実
・農業の持つ多面的な特質を学習内容とした地域資源に関する学習の充実
(2)工業科
○ 安全・安心な社会の構築、職業人としての倫理観、環境保全やエネルギーの有効な活用、産業のグローバル競争の激化、情報技術の技術革新の開発が加速することなどを踏まえ、ものづくりを通して、地域産業を支え新たな次代を切り拓く創造性豊かで実践的な職業人を育成するため、次のような改善を図ることが求められる。
1 教科の特質に応じ育まれる見方・考え方
○ 教科の特質に応じ育まれる見方・考え方については、次のように整理することが考えられる。
・安全で安心な製品を提供する視点からものづくりを捉え、社会を支える付加価値の高い創造的な製品の開発を目指して、製造現場における合理的なものづくりの方策の活用に向けて考えること
・工業の各分野で情報化が図られている視点からものづくりを捉え、ものづくりの発展を目指して、高度に発展する情報技術の有効な活用に向けて考えること
・持続可能な社会の構築の視点からものづくりを捉え、ものづくりの発展を目指して、資源・エネルギーの有効活用、環境保全に向けて考えること
2 育成すべき資質・能力
○ 育成すべき資質・能力については、次のように整理することが考えられ、これを踏まえ、教科の目標の改善を図ることが求められる。
・工業の各分野について(社会的意義や役割を含めて)の体系的・系統的な理解、関連する技術
・工業に関する課題を発見し、職業人としての倫理観をもって合理的かつ創造的に解決する能力
・工業を支える職業人として必要な豊かな人間性、より良い社会の構築を目指して自ら学び、工業の発展に主体的かつ協働的に取り組む態度
3 資質・能力の育成に向けた教育内容の改善・充実
○ 資質・能力の育成に向けた教育内容については、次の方向で改善・充実を図ることが求められる。
・工業の各分野で横断的に履修する科目について、知識や技術及び技能の活用に関する学習の充実
・技術の高度化や情報技術の発展等への対応に関する学習の充実
・環境問題や省エネルギーに対応した学習の充実
・グローバルな視点を取り入れた学習の充実
・電子機械に関わる知識と技術の活用に関する学習の充実
・組込み技術について知識と技術の一体的な習得を図る学習の充実
・耐震技術やユニバーサルデザイン等の知識と技術に関する学習の充実
(3)商業科
○ 経済のグローバル化、ICTの進歩、観光立国の流れなどを踏まえ、ビジネスを通して、地域産業をはじめ経済社会の健全で持続的な発展を担う職業人を育成するため、次のような改善を図ることが求められる。
1 教科の特質に応じ育まれる見方・考え方
○ 教科の特質に応じ育まれる見方・考え方については、次のように整理することが考えられる。
・マーケティングの視点から企業活動を捉え、顧客満足の実現と顧客の創造に向けて考えること
・マネジメントの視点から企業活動を捉え、経済社会の動向や法令等を踏まえた適切な意思決定に向けて考えること
・会計の視点から企業活動を捉え、適切な会計情報の提供及び効果的な会計情報の活用に向けて考えること
・ビジネスに関する情報の視点から企業活動を捉え、情報の適切な処理及び情報や情報通信技術の効果的な活用に向けて考えること
2 育成すべき資質・能力
○ 育成すべき資質・能力については、次のように整理することが考えられ、これを踏まえ、教科の目標の改善を図ることが求められる。
・商業の各分野について(社会的意義や役割を含めて)の体系的・系統的な理解、関連する技術
・ビジネスに関する課題を発見し、職業人としての倫理観をもって合理的かつ創造的に解決する能力
・職業人として必要な豊かな人間性、より良い社会の構築を目指して自ら学び、ビジネスの創造と発展に主体的かつ協働的に取り組む態度
3 資質・能力の育成に向けた教育内容の改善・充実
○ 資質・能力の育成に向けた教育内容については、次の方向で改善・充実を図ることが求められる。
・観光に関する知識と技術を習得させ、観光の振興に取り組む態度を育成する学習の一層の充実
・ビジネスにおけるコミュニケーションに関する学習の充実
・マーケティングと広告・販売促進に関する知識と技術の一体的な習得
・ビジネスに関わるマネジメントに関する学習の充実
・経済のグローバル化に関する学習の充実
・情報通信ネットワークを活用したビジネスに関する学習の充実
・プログラミングとシステム開発に関する知識と技術の一体的な習得
・情報通信ネットワークの構築・運用管理とセキュリティに関する学習の重点化
(4)水産科
○ 水産物の世界的な需要の変化や資源管理、持続可能な海洋利用など水産や海洋を取り巻く状況の変化を踏まえ、水産業や海洋関連産業を通して、地域や社会の健全で持続的な発展を担う職業人を育成するため、次のような改善を図ることが求められる。
1 教科の特質に応じ育まれる見方・考え方
○ 教科の特質に応じ育まれる見方・考え方については、次のように整理することが考えられる。
・漁業生産の視点から水産業や海洋関連産業を捉え、環境や資源等に配慮した安全で経済的な漁業や船舶運航の実現に向けて考えること
・船舶や海洋関連機器などの海洋工学の視点から水産業や海洋関連産業を捉え、環境に配慮した安全で経済的なマリンエンジニアリングの実現に向けて考えること
・海上における情報通信の視点から水産業や海洋関連産業を捉え、セキュリティを考慮した円滑な通信業務の実現に向けて考えること
・栽培漁業などの生物生産の視点から水産業や海洋関連産業を捉え、生態系や環境に配慮した安全で経済的な養殖業の実現に向けて考えること
・水産食品の製造や流通の視点から水産業や海洋関連産業を捉え、品質管理・衛生管理を考慮した安全で経済的な水産食品の持続的な供給に向けて考えること
2 育成すべき資質・能力
○ 育成すべき資質・能力については、次のように整理することが考えられ、これを踏まえ、教科の目標の改善を図ることが求められる。
・水産や海洋の各分野について(社会的意義や役割を含めて)の体系的・系統的な理解、関連する技術
・水産や海洋に関する課題を発見し、職業人としての倫理観をもって合理的かつ創造的に解決する能力
・職業人として必要な豊かな人間性、より良い社会の構築を目指して自ら学び、水産業及び海洋関連産業の振興や社会貢献に主体的かつ協働的に取り組む態度
3 資質・能力の育成に向けた教育内容の改善・充実
○ 資質・能力の育成に向けた教育内容については、次の方向で改善・充実を図ることが求められる。
・海面の多様な利用を踏まえ、海洋環境基準及び環境保全等に対応した学習の充実
・水産や海洋に関連する機器や流通等の技術革新に対応した学習の充実
・船舶や企業内における情報セキュリティや、食品の安全に関わる産業としての危機管理に関する学習の充実
・水産物・水産加工品の品質管理・衛生管理に関する学習の充実
・漁業、水産加工業における基礎的・基本的な経営に関する学習の充実
・漁船をはじめとした船員養成の国際基準等に対応した学習の充実
(5)家庭科
○ 少子高齢化、食育の推進や専門性の高い調理師養成、価値観やライフスタイルの多様化、複雑化する消費生活等への対応などを踏まえ、生活の質の向上や社会の発展を図る生活産業を通して、地域や社会を支える人間性豊かな職業人を育成するため、次のような改善を図ることが求められる。
1 教科の特質に応じ育まれる見方・考え方
○ 教科の特質に応じ育まれる見方・考え方については、次のように整理することが考えられる。
・人間の生活を豊かに支える視点から、衣食住、ヒューマンサービス等に係る生活産業等を捉え、協力・協働、健康・快適・安全な生活の創造、生活文化の伝承・創造、持続可能な社会の構築に向けて考えること
2 育成すべき資質・能力
○ 育成すべき資質・能力については、次のように整理することが考えられ、これを踏まえ、教科の目標の改善を図ることが求められる。
・生活産業について(社会的意義や役割を含めて)の体系的・系統的な理解、関連する技術
・生活産業に関する課題を発見し、職業人としての倫理観をもって合理的かつ創造的に解決する能力
・職業人として必要な豊かな人間性、より良い社会の構築を目指して自ら学び、生活産業に関わる地域の産業や生活の質の向上を目指して主体的かつ協働的に取り組む態度
3 資質・能力の育成に向けた教育内容の改善・充実
○ 資質・能力の育成に向けた教育内容については、次の方向で改善・充実を図ることが求められる。
・調理師法施行令、調理師法施行規則の改正(平成27年4月1日施行)に伴う科目の再編成
・食育の推進等、食に関する学習の充実
・子供の発達や地域の子育て支援に関する学習の充実
・高齢期の衣食住生活の質の向上を図る学習の充実
・複雑化する経済社会や消費生活の理解に関する学習の充実
・生活文化の伝承・創造に関する学習の充実
・職業人としてのマネジメント能力の育成に関する学習の充実
(6)看護科
○ 少子高齢化の進行、入院期間の短縮、在宅医療の拡大などを踏まえ、看護を通して、地域や社会の保健医療福祉を支え、人々の健康の保持増進に寄与する職業人を育成するため、次のような改善を図ることが求められる。
1 教科の特質に応じ育まれる見方・考え方
○ 教科の特質に応じ育まれる見方・考え方については、次のように整理することが考えられる。
・看護の視点から健康に関わる問題を捉え、人々の健康の保持増進及び疾患や治療の影響を受ける生活の質の向上について、当事者の考えや状況を踏まえて考えること
2 育成すべき資質・能力
○ 育成すべき資質・能力については、次のように整理することが考えられ、これを踏まえ、教科の目標の改善を図ることが求められる。
・看護について(社会的意義や役割を含めて)の体系的・系統的な理解、関連する技術
・看護に関する課題を発見し、職業人としての倫理観をもって合理的かつ創造的に解決する能力
・職業人として必要な豊かな人間性、より良い社会の構築を目指して自ら学び、人々の健康の保持増進に主体的かつ協働的に取り組む態度
3 資質・能力の育成に向けた教育内容の改善・充実
○ 資質・能力の育成に向けた教育内容については、次の方向で改善・充実を図ることが求められる。
・多職種と連携・協働し、多様な生活の場にいる人々の看護について、専門性の高い実践力を養う学習の充実
・医療安全に関する学習の充実
・各領域における倫理的課題に関する学習の充実
(7)情報科
○ 知識基盤社会の到来、情報社会の進展、高度な情報技術を持つIT人材の需要増大などを踏まえ、情報関連産業を通して、地域産業をはじめ情報社会の健全で持続的な発展を担う職業人を育成するため、次のような改善を図ることが求められる。
1 教科の特質に応じ育まれる見方・考え方
○ 教科の特質に応じ育まれる見方・考え方については、次のように整理することが考えられる。
・システムの設計・管理の視点から情報産業を捉え、日常生活や社会に必要なシステムを構築することを目指して、情報セキュリティを保ちつつ、情報の科学的理解に基づいた情報技術の適切な活用に向けて考えること
・情報コンテンツの制作・発信の視点から情報産業を捉え、日常生活や社会に必要なコンテンツを制作することを目指して、情報セキュリティを保ちつつ、情報の科学的理解に基づいた情報技術の適切な活用に向けて考えること
2 育成すべき資質・能力
○ 育成すべき資質・能力については、次のように整理することが考えられ、これを踏まえ、教科の目標の改善を図ることが求められる。
・情報の各分野について(社会的意義や役割を含めて)の体系的・系統的な理解、関連する技術
・情報に関する課題を発見し、職業人としての倫理観をもって合理的かつ創造的に解決する能力
・職業人として必要な豊かな人間性、より良い社会の構築を目指して自ら学び、情報産業の振興や発展に主体的かつ協働的に取り組む態度
3 資質・能力の育成に向けた教育内容の改善・充実
○ 資質・能力の育成に向けた教育内容については、次の方向で改善・充実を図ることが求められる。
・情報セキュリティに関する知識と技術を習得させ、情報の安全を担う能力と態度を育成する学習の一層の充実
・情報コンテンツを利用した様々なサービスや関連する社会制度についての知識や技術を習得させ、実際に活用する能力と態度を育成する学習の一層の充実
・システムの設計・管理と情報コンテンツの制作・発信に関する実践力の一体的な習得
・情報メディアと情報デザインに関する知識と技術の一体的な習得
・問題解決やプログラミングに関する学習の充実
・統計的手法の活用やデータの分析、活用、表現に関する学習の充実
・データベースの応用技術に関する学習の充実
・ネットワークの設計、構築、運用管理、セキュリティに関する学習の充実
・コンピュータグラフィックや情報コンテンツの制作に関する学習の充実
(8)福祉科
○ 福祉ニーズの高度化と多様化、倫理的課題やマネジメント能力・多職種協働の推進、ICT・介護ロボットの進歩などを踏まえ、福祉を通して、人間の尊厳に基づく地域福祉の推進と持続可能な福祉社会の発展を担う職業人を育成するため、次のような改善を図ることが求められる。
1 教科の特質に応じ育まれる見方・考え方
○ 教科の特質に応じ育まれる見方・考え方については、次のように整理することが考えられる。
・福祉の視点から生活に関わる問題を捉え、人間としての尊厳の保持と自立支援の在り方について、当事者の考えや制約を踏まえて考えること
2 育成すべき資質・能力
○ 育成すべき資質・能力については、次のように整理することが考えられ、これを踏まえ、教科の目標の改善を図ることが求められる。
・福祉の各分野について(社会的意義や役割を含めて)の体系的・系統的な理解、関連する技術
・福祉に関する課題を発見し、職業人としての倫理観をもって合理的かつ創造的に解決する能力
・職業人として必要な豊かな人間性、より良い社会の構築を目指して自ら学び、広い視野をもって地域福祉の課題と向き合い、主体的かつ協働的に取り組む態度
3 資質・能力の育成に向けた教育内容の改善・充実
○ 資質・能力の育成に向けた教育内容については、次の方向で改善・充実を図ることが求められる。
・医療的ケアを安全・適切に実施するために必要な学習の追加
・福祉従事者に求められるマネジメント能力に関する学習の追加
・福祉従事者に必要な倫理に関する学習の充実
・福祉実践における多職種協働に関する学習の充実
・福祉用具や介護ロボット等を含む福祉機器に関する学習の充実

4.産業教育における学習・指導の改善充実
 (1)特別支援教育の充実、個に応じた学習の充実
○ 学習指導要領の総則においては、「生徒の実態を考慮し、職業に関する各教科・科目の履修を容易にするため特別な配慮が必要な場合には、各分野における基礎的又は中核的な科目を重点的に選択し、その内容については基礎的・基本的な事項が確実に身に付くように取扱い、また、主として実験・実習によって指導するなどの工夫をこらすようにすること。」と配慮事項が示されており、各学校においては、生徒の実態に応じた学習指導が行われているところである。
○ 全ての学校や学級に、発達障害を含めた障害のある生徒が在籍する可能性があることを前提として、一人一人の生徒の状況等に応じた十分な学びを確保し、障害のある生徒の自立や社会参画に向けた主体的な取組を支援するという視点から、特別支援教育の充実も含めた個に応じた学習の充実に努めることが必要である。
○ 産業教育における実験・実習の指導においては、職業に関する各教科の特質や学習過程の段階等に応じた「困難さの状態」に対する「配慮の意図」と「手立て」を示していく必要がある。
    例えば、実験・実習の全体像を俯瞰できないなど学習活動への参加が困難な場合、学習の見通しを持てるようにするため、それらの手順や方法を視覚的に明示したり、全体の流れの中で今どこを学習しているのかを示したりするなどの配慮を行うことが考えられる。
    また、機器の操作、薬品や可燃物の使用などに伴う安全面の留意点について、集団場面での口頭による指示の理解が困難な場合、事故を防止する方法を理解しやすいようにするため、全体での指導を行った上で、個別に指導を行ったり、実際に動作で示したりするなどの配慮を行うことが考えられる。
(2)「深い学び」「対話的な学び」「主体的な学び」に向けた学習・指導の改善充実
○ 産業教育においては、企業等と連携した商品開発、地域での販売実習、高度熟練技能者による指導など、地域や産業界等と連携した実験・実習などの実践的、体験的な学習活動を重視してきた。
○ 社会や産業の具体的な課題に取り組むことによって、例えば、各教科で育まれる見方・考え方を用いて、より良い製品の製造やサービスの提供等を目指して考えるといった「深い学び」につなげていくことが重要である。
    また、産業界関係者等との対話、生徒同士の協議等を通して、自らの考えを広げ深める「対話的な学び」、さらには、企業等での高度な技術等に触れる体験を通して、生徒の学ぶ意欲を高める「主体的な学び」につながるものである。これらについては、地域や産業界との連携が今後とも重要である。
○ 産業教育においては、今後とも地域や産業界等と連携した実験・実習などの実践的、体験的な学習活動を充実し、アクティブ・ラーニングの三つの視点から、これらの学習活動を再確認しながら、不断の授業改善に取り組むことが求められる。
○ また、従前から、職業に関する各教科の指導に当たっては、学習効果を高めるためICTの活用が図られてきたところである。職業に関わる課題を解決する力を育成するにはアクティブ・ラーニングの三つの視点を踏まえた学びを実現し、必要な資質・能力を育成することが重要である。そのためには、生徒の学習形態の多様性に応じた指導の工夫を実現する「学びの場」を形成するようICTをさらに効果的に活用することが期待される。

5.必要な条件整備等
 (産業界等との連携)
○ 職業に関する各教科については、地域や産業界等との密接な連携の下に指導の充実を図ることが不可欠である。また、産業教育において重視してきた地域や産業界等と連携した実験・実習などの実践的、体験的な学習活動は、4.(2)で述べたとおり、アクティブ・ラーニングの三つの視点を踏まえた学びを実現する上でも重要なものであることから、地域や産業界等との連携が引き続き求められる。このような連携を促進する上では、教育委員会と関係部局等が連携して、インターンシップの受入や外部講師の派遣の調整を行うなど、地方公共団体の取組も期待される。
 (中学校との接続)
○ 中学校の教員が職業の多様性や専門高校について理解を深めることが重要である。例えば、中学校の教員の初任者研修において、専門高校での実習を体験する等の取組は有効であると考えられる。
○ また、中学生の主体的な進路選択に資するよう、専門高校での学習に対する理解・関心を高める取組も求められる。例えば、中学生が専門高校で実習を体験したり、専門高校の教員や生徒が中学校において出前授業を行ったり、専門高校生の研究発表や作品展示等を行う産業教育フェアに中学生が参加したりするなどの取組は有効であると考えられる。
 (大学等との接続)
○ 職業人に求められる能力が高度化、多様化する中で、専門高校で学んだ生徒がさらにその学びを深めるために大学等へ進学し、特色ある人材として育っている。しかし、現在実施されている入学者選抜は、共通教科を中心としていることが多いため、各大学等においてアドミッションポリシー等に応じて、専門高校での学びを積極的に評価できる入学者選抜の実施の拡大が望まれる。また、農業大学校や職業能力開発大学校などの省庁系大学校等との連携・協力を促進することも望まれる。さらに、現在、検討が進められている実践的な職業教育を行う新たな高等教育機関については、専門高校で学んだ生徒がさらに学びを深め、高められるような機関となることを期待する。
 (教員研修)
○ 社会や産業の変化に対応して、教員の資質や能力を向上させるため、地域や産業界と連携し、校内研修等の活性化、先導的な実践研究の実施、また、先進的な取り組みを行っている企業等の実情を把握した上で指導力を向上させるための長期研修を行うなど、研修の機会を増やし、より充実することが重要である。
 (実験・実習等の環境整備)
○ 社会や産業の変化に対応した産業教育を行うためには、実験・実習等の環境整備が重要である。設置者においては、整備計画等を作成し、施設・設備の改善・充実・更新に努めることが求められる。また、国においても、その取組を支援することが求められる。
○ また、実践的、体験的な学習活動の一環として、生産や販売実習等が積極的に行われるようになってきているが、必要に応じ、地方公共団体において関係する財務規則等を整理するなど、このような学習活動が円滑に行われるようにすることが必要である。


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