生活・総合的な学習の時間ワーキンググループ議論のまとめ (たたき台・イメージ)〔総合的な学習の時間〕

1.これまでの成果と課題

(創設からの経緯)
○ 総合的な学習の時間は、平成10年・11年の学習指導要領改訂において、小・中・高等学校の教育課程に新たに創設された時間である。各学校が地域や学校、児童・生徒の実態等に応じて、横断的・総合的な学習など創意工夫を生かした教育活動を行うこととした。
○  平成20年・21年の改訂では、思考力・判断力・表現力等が求められる「知識基盤社会」の時代においてますます重要な役割を果たすとして、教科等の枠を超えた横断的・総合的な学習とともに、探究的な学習や協同的な学習とすることが明らかにされた。
○  また、各学校で育てようとする資質や能力及び態度を設定する際の視点を例示したり、各学校で設定する内容につながる学習活動の例示を各学校種に応じて見直したりした。
○ とりわけ、探究的な学習を実現するために、「【1】課題の設定→【2】情報の収集→【3】整理・分析→【4】まとめ・表現」の探究のプロセスを明示し、【1】日常生活や社会に目を向けたときに湧き上がってくる疑問や関心に基づいて、【2】そこにある具体的な問題について情報を収集し、【3】その情報を整理・分析したり、知識や技能に結び付けたり、考えを出し合ったりしながら問題の解決に取り組み、【4】明らかになった考えや意見などをまとめ、表現し、そこからまた新たな課題を見付け、さらなる問題の解決を始めるといった学習活動を発展的に繰り返していくことを明らかにした。

(成果や国際的な評価)
○ 小中学校における、全国学力・学習状況調査の結果からは、総合的な学習の時間で、自分で課題を立てて情報を集め整理して、調べたことを発表するなどの学習活動に取り組んでいる児童・生徒ほど各教科の正答率が高い傾向にあることが明らかになった。また、総合的な学習の時間において、自分で課題を立てて情報を集め整理して、調べたことを発表するなどの学習活動に取り組んでいる生徒の割合が増えていることも明らかになった。
○ また、例えば、日本生活科・総合的学習教育学会の調査では、探究的で協同的な総合的な学習の時間を経験した中学校・高等学校の生徒は、自らの将来展望をしっかりと描き、他者の異なる考え方を受け入れ、課題解決に向けて協同しようとする態度が身に付いてきていることが明らかになった。小学校においては、思考力、情報活用能力、協同的な問題解決能力、地域社会へ貢献しようとする意識、新しい社会的課題へ挑戦しようとする意欲などが育成されるという成果が報告されている。
○ 「課題の設定→情報の収集→整理・分析→まとめ・表現」の探究のプロセスを意識した総合的な学習の時間が行われてきていること、探究のプロセスに積極的に取り組む子供ほど各教科における期待する思考力などの学力が高い傾向があることも明らかになってきている。
○ こうした国内の成果や評価はもちろん、総合的な学習の時間の役割は、PISAにおける好成績につながったことのみならず、学習の姿勢の改善に大きく貢献するものとして、OECDを始め国際的にも高く評価されているところである。

(課題とさらなる期待)
◯ 総合的な学習の時間について、これまでの成果を踏まえつつ、いまだ十分でないと考えられることや、さらなる充実が期待されることとして、概ね以下のような課題があると考えられる。
○ 一つ目は、総合的な学習の時間で育成する資質・能力についての視点である。総合的な学習の時間は、学習指導要領において目標を示しつつ、各学校がそれを踏まえて具体的な目標や内容を設定するとされてきた。これにより各学校が特色ある取組を工夫することについては広がってきたが、総合的な学習の時間を通してどのような資質・能力を育成するかということや、総合的な学習の時間と各教科との関連を明らかにするという点においては、学校により差がある。
次期学習指導要領改訂に向けては、それぞれの教科等を学ぶことによってどういった力が身に付き、それが教育課程全体の中でどのような意義を持つのかを整理し、教育課程全体の構造を明らかにしていくこととされている中で、これまで以上に総合的な学習の時間と各教科等の相互の関わりを意識しながら、学校全体で育てたい資質・能力に対応したカリキュラム・マネジメントが行われるようにすることが求められている。
特に小・中学校においては様々な特色ある取組が行われてきているところであるが、積み重ねてきた取組を、どのような資質・能力を育成することができているかという観点から評価し、さらなる改善につなげていくというカリキュラム・マネジメントの視点からのさらなる改善を目指すことも求められている。
○ 二つ目は、探究のプロセスに関する視点である。総合的な学習の時間の実施の状況において、探究のプロセスを意識することは広まってきているが、探究のプロセスの中でも「整理・分析」「まとめ・表現」に対する取り組みが十分ではないという課題も見られる。こうした学習活動に関して教師は比較的うまく進められていると感じているのに対して児童生徒はそのように受け止めていないという指摘もあり、協働的(協同的)な学習を進める中で、集団としての学習成果に着目するのではなく、探究のプロセスを通した一人一人の資質・能力の向上ということをより一層意識した指導の充実が求められる。
○ 三つ目は、高等学校における総合的な学習の時間への取組という視点である。高等学校においては、探究のプロセスを意識する中で社会に参画し地域の活性化に結び付く事例、総合的な学習の時間をきっかけに各教科の学習が主体的、協同的に変わってきた事例などが生まれてきている。一方で、総合的な学習の時間の本来の趣旨を実現できていない学習活動を行っている学校、進路指導や学校行事として行うことが適切であるような活動を行っている学校があるという指摘もあり、小学校、中学校における取組の成果の上に、高等学校にふさわしい実践が十分展開されているとは言えない状況にある。

2. 総合的な学習の時間において育成する資質・能力について

(1)総合的な学習の時間の特質に応じ育まれる「見方・考え方」について

○ 今回の学習指導要領改訂においては、各教科等において求められる資質・能力を育成するためには、各教科の特質に応じて育まれる「見方・考え方」が中核的な役割を果たすと考えられる。見方・考え方とは、「様々な事象を捉える教科等ならではの視点」と「教科等ならではの思考の枠組み」であるとされており、各教科等別ワーキンググループにおいて、それぞれの教科の特質に応じて育まれる見方・考え方を検討している。
○  総合的な学習の時間の特質は、これまでも総合的な学習の時間の目標として示されてきたように、【1】横断的・総合的な学習や探究的な学習を通して、【2】自ら課題を見付け,自ら学び,自ら考え,主体的に判断し,よりよく問題を解決する資質・能力を育成し、【3】学び方やものの考え方を身につけ、【4】問題の解決や探究活動に主体的,創造的,協同的に取り組む態度を育てるとともに、【5】自己の在り方生き方を考えるということにある。
○  横断的・総合的な学習は、一つの教科等の枠に収まらない課題に取り組む学習活動を通して,各教科等で身に付けた知識や技能等を相互に関連付け,学習や生活に生かし,それらが児童の中で総合的に働くようにすることを大切にしている。探究的な学習は、横断的・総合的な学習テーマを、「課題の設定→情報の収集→整理・分析→まとめ・表現」といった過程を経て、物事の本質を探って見極めようとする一連の知的営みとしての探究のプロセスを意識することとしている。
○  こうした総合的な学習の時間の特質に応じて育まれる見方・考え方の特徴としては、各教科等の特質に応じた「見方・考え方」を総合的な学習の時間の課題解決において総合的に活用することであると言える。総合的な学習の時間において、各教科等の「見方・考え方」を活用しながら、多様な他者と協働し、異なる意見や他者の考えを受け入れたりする中で、実社会や実生活との関わりで見いだされる課題を多面的・多角的に俯瞰(ふかん)して捉え、考えることによって、見方・考え方は多様な文脈で使えるようになるなどして確かになり、各教科等の「深い学び」を実現することにもつながるものと期待できる。こうした過程の中で、各教科等の見方・考え方と総合的な学習の時間の見方・考え方が相互に関連し合いながら確かになっていく。
○  さらに、横断的・総合的な学習、探究的な学習を通して、学ぶことの意味や意義を考えたり、学ぶことを通じて達成感や自信を持ち、自分のよさ可能性に気付いたり、自分の人生や将来について考え、学んだことを現在及び将来の自己の生き方につなげて考えるという、いわば内省的な考え方をすることも総合的な学習の時間の見方・考え方に関する大きな特徴であると考えられる。内省的に考えることは、変化に対応したり、経験から学んだり、物事を受動的に受け止めるのではなく吟味して見定めたりした上で行動に結び付ける力として、OECDが示すキーコンピテンシーではその中心に位置づけられるとしている。特に高等学校においては、見方・考え方を総合的に活用するだけでなく、自己のキャリア形成の方向性と関連付けながら見方・考え方を組み合わせて統合させ、活用することが求められる。
○ 上記を踏まえて、総合的な学習の時間の特質に応じて育まれる探究的な(探究の)見方・考え方を以下のようにまとめることが考えられる。
  ・高等学校における、探究の見方・考え方
    「各教科等の特質に応じて育まれる見方・考え方を総合的・統合的に活用して、広範かつ複雑な事象を多様な角度から俯瞰(ふかん)して捉え、実社会や実生活の複雑な文脈や自己の在り方生き方と関連付けて内省的に考えること」
  ・小学校・中学校における、探究的な見方・考え方
「各教科等の特質に応じて育まれる見方・考え方を総合的に活用して、広範な事象を多様な角度から俯瞰(ふかん)して捉え、実社会や実生活の文脈や自己の生き方と関連付けて振り返り、考えること」

(2)総合的な学習の時間で育成する資質・能力と、教科目標の整理

【1】総合的な学習の時間で育成する資質・能力
(総合的な学習の時間で育成する資質・能力)
○  論点整理において示された育成すべき資質・能力の三つの柱は、「18歳の段階で身に付けておくべき力は何か」という観点や、「義務教育を終える段階で身に付けておくべき力は何か」という観点を共有しながら、各学校段階の各教科等において、系統的に示されなければならないこととされている。
○  これまでは総合的な学習の時間において各学校において育成すべき資質・能力・態度としては、「学習方法に関すること」「自分自身に関すること」「他者や社会とのかかわりに関すること」の三つの視点が例示されていた。この視点は、全国の実践事例を整理する中で見いだされてきたものであるとともに、OECDが示した主要能力(キー・コンピテンシー)にも符合している。各学校においては、三つの視点を参考にして育成すべき資質・能力・態度を明らかにし、その育成に向けて取り組んできた。今般、論点整理に示された育成すべき資質・能力の三つの柱に沿って総合的な学習の時間において育成する資質・能力を検討するに当たっては、この三つの視点との関係も整理することが必要である。
○  また、三つの柱をバランスよくふくらませながら、児童生徒が大きく成長していけるようにする役割が期待されており、各教科等の文脈の中で身に付けていく力と、教科横断的に身に付けていく力を相互に関連付けながら育成していく必要がある。そのための教育課程の構造上の工夫の一つが、教科横断的で探究的な学びを行う総合的な学習の時間であることを踏まえて、以下のように整理することが考えられる。
  1)知識や技能(何を理解しているか、何ができるか)
  ・課題の解決に向けて行われる横断的・総合的な学習や探究的な学習においては、それぞれの課題についての事実的知識や技能が獲得される。この事実的な知識については、各学校が設定する内容や一人一人の探究する課題に応じて異なることが考えられ、どのような学習活動を行い、どのような学習課題を設定し、どのような学習対象と関わり、どのような学習事項を学ぶかということと大いに関係する。このため、学習指導要領においては、習得すべき知識や技能については示していない。
  ・一方、事実的知識は探究のプロセスが繰り返され、連続していく中で、何度も活用され発揮されていくことで、構造化され、体系化された概念的な知識へと高まっていく。この概念的知識については、例えば「様々な要素がつながり循環している」「互いに関わりながらよさを生かしている」などが考えられる。探究のプロセスにより、どのような概念的な知識が獲得されるかということについては、何を学習課題として設定するか等により異なるため、個別具体的に学習指導要領上で設定することは難しいと考えられるが、各学校が目標や内容を設定するに当たっては、どのような概念的な知識が形成されるか、どのように概念的な知識を明示していくかなどについても検討していくことが重要である。
  ・技能についても、探究のプロセスが繰り返され、連続していく中で、何度も活用され発揮されていくことで、自在に活用できる汎用的な技能として身に付いていく。この技能については、学校段階が上がるほどに、文脈から外して自覚的に身に付けることも可能になる。これまで技能についても設定してこなかったが、学年・学校段階に応じて、探究の過程に必要な技能(の例)を明示していくことなども考えられる。
  ・また、横断的・総合的な学習や探究的な学習を通して、そうした学習を行うことの意義や価値を実感して理解するということも総合的な学習の時間に求められる重要な要素である。特に、学校段階が上がるにつれて、より概念的な知識の獲得や文脈に依存しない汎用的な技能を習得することを通して、探究的な学習の意義についての理解を深めていくことになると考えられる。こうした理解は、「ⅲ)学びに向かう力・人間性等」を育てることの基盤にもなる。
  2)思考力・判断力・表現力等(理解していること・できることをどう使うか)
  ・課題の解決に向けて行われる横断的・総合的な学習や探究的な学習においては、【1】課題の設定、【2】情報の収集、【3】整理・分析、【4】まとめ・表現の探究のプロセスが繰り返され、連続する。このプロセスでは、実社会や実生活の課題の解決に向けて、探究の見方・考え方を発揮しながら、それぞれのプロセスで必要とされる課題の設定、情報の収集、整理・分析、まとめ・表現に関わる資質・能力を育成することが求められる。
  ・この資質・能力については、これまで各学校で設定する資質・能力・態度の視点として「学習方法に関すること」として育成すべきとしていたことに対応している。なお、それぞれのプロセスで育成される資質・能力については、課題の設定については複雑さや精緻さ、情報の収集については妥当性や多様性、整理・分析については多面性や信頼性、まとめ・表現については論理性や深さなどの方向性で質を高めることができるよう、学校種や学年段階に応じた設定をしていくことなども考えられる。
  ・ここで活用される各教科の見方・考え方の中には、様々な事象を捉える各教科等ならではの視点があるとともに、各教科等ならではの思考の枠組みがある。こうした中で、例えば、比較する、分類する、関連付けるなどといった思考の枠組みは、教科・領域横断的な汎用的なものであると考えられる。これらは各教科等の見方・考え方を働かせる中で確かなものなっていくものであるが、高等学校段階においては、こうした思考スキルについて意識的に学習していくことも考えられるため、学校種や学年段階に応じた設定をしていくことが考えられる。
  3)学びに向かう力、人間性等(どのように社会・世界と関わり、よりよい人生を送るか)
  ・資質・能力の三つの柱に示す総合的な学習の時間で育成すべき「学びに向かう力・人間性」は、三つの視点の中でも「自分自身に関すること」「他者や社会とのかかわりに関すること」として育成すべきとしていたものと対応している。「自分自身に関すること」としては、主体性や自己理解、内面化して自信をつかむことなどの心情や態度が、「他者や社会とのかかわりに関すること」としては、協同性、他者理解、社会参画・社会貢献などの心情や態度が考えられる。それぞれについては、誠実さ・自分らしさ、責任・自信や、積極性、協調・開放・自我関与などの方向性で質を高めることができるよう、学校種や学年段階に応じた設定をしていくことなども考えられる。
 
(総合的な学習の時間の目標)
○ 先に示した見方・考え方を働かせながら、総合的な時間において求められている資質・能力を育むためには、総合的な学習の時間の第1の目標を以下のように設定することが適当であると考えられる。
【高等学校】
    探究の見方・考え方を働かせ、よりよく課題を解決し、自己の在り方生き方を考えることを通して、次のとおり資質・能力を育成する。
【1】課題(学習対象)に関する概念的知識を獲得し、課題の解決に必要な知識や技能を身に付け、探究の意義や価値を理解するようにする
【2】実社会や実生活の中から問いを見いだし、自分で課題を立て、情報を集め、整理・分析して、まとめ・表現する力を育成する
【3】主体的・協同的(協働的)に課題を探究し、互いのよさを生かしながら、新たな価値の創造やよりよい社会の実現に努めようとする態度を育てる
【小学校・中学校】
    探究的な見方・考え方を働かせ、よりよく課題を解決し、自己の生き方を考えることを通して、次のとおり資質・能力を育成する。
【1】課題(学習対象)に関する概念的知識を獲得し、課題の解決に必要な知識や技能を身に付け、探究的な学習のよさを理解するようにする
【2】実社会や実生活の中から問いを見いだし、自分で課題を立て、情報を集め、整理・分析して、まとめ・表現する力を育成する
【3】主体的・協同的(協働的)探究的な学習に取り組み、互いのよさを生かしながら、積極的に社会に参画する態度を育てる
     
(学習指導要領に定める総合的な学習の時間の目標と各学校が設定する目標について)
○  総合的な学習の時間については、学習指導要領において「第一の目標」として、教育課程の基準としての目標を示してきた。その上で、「各学校においては、第一の目標を踏まえ、各学校の総合的な学習の時間の目標を定める」としてきた。
○  各学校では、それぞれの学校の教育目標を踏まえて、どのような児童生徒を育てたいか、どのような資質・能力を育成すべきかといったことを明らかにして、教育課程を編成・実施しなければならない。総合的な学習の時間において、学習指導要領に定められた目標を踏まえて各学校が目標を定めることは、各学校においてカリキュラムを編成・実施するカリキュラム・マネジメントの鍵となる。先に述べた資質・能力の三つの柱の考え方を踏まえつつ、地域や学校、児童生徒の実態等に基づき各学校における目標を定めることが求められる。
 
【2】教育課程全体における総合的な学習の時間の役割とカリキュラム・マネジメント
○ 育成すべき資質・能力として三つの柱を育成するためには、アクティブ・ラーニングの視点による不断の授業改善とカリキュラム・マネジメントの充実を連動させた学校経営の展開が求められている。
○ カリキュラム・マネジメントについては、内容の組織的配列、PDCAサイクルの確立、教育資源の有効活用の三つの側面が示された中で、総合的な学習の時間は、「各教科等の教育内容を相互の関係で捉え、学校の教育目標を踏まえた教科横断的な視点で、その目標の達成に必要な教育の内容を組織的に配列していくこと」の側面において以下の通り重要な役割を果たすことが求められる。
○ 総合的な学習の時間は教科横断的な学びを行う時間である。総合的な学習の時間において、各教科等の見方・考え方を活用することによって、見方・考え方は多様な文脈で使えるようになるなどして確かになり、各教科等の「深い学び」を実現することにもつながるものと期待できる。幼児教育から小学校低学年における、総合的・体験的な学びから、学年が上がるにつれてより系統的・意図的な学習が中心となっていく中で、各教科等間の学びの連携を図っていく上で、総合的な学習の時間が非常に重要な役割を果たすことになる。
○ また、カリキュラムにおける「横」のつながりだけでなく、学年間・学校段階間といった「縦」のつながりという点からも総合的な学習の時間が果たすことが期待される役割は大きい。小学校の6年間、中学校・高校のそれぞれ3年間の中で、どのような学習を行い、資質・能力を養うことを積み上げていくのかという中で、総合的な学習の時間においてどのような学習を行うかということが一つの軸となる。小学校から中学校の9年間において、地域でどのような資質・能力を育成するのかを考えていく際にも、総合的な学習の時間をどう活(い)かしていくかを考え地域・社会と共有していくことが大きな意義を持つと考えられる。
○ さらに、総合的な学習の時間の目標は、各学校が育てたいと願う児童生徒の姿や育成すべき資質・能力などを表現したものになることが求められるため、学校の教育目標と直接的につながるという他の教科等にはない特質を有する。このため、学校の教育目標を教育課程で具体化していくにあたって総合的な学習の時間が重要な役割を果たす。特に高等学校は、生徒の実情や地域から期待される役割などにおいて非常に多様であり、総合的な学習の時間においてどのような資質・能力を育成するかということがその高校のいわばミッションを体現するものとなるべきである。小・中学校においては、これまで様々な取組が行われてきているが、そうした積み重ねを、総合的な学習の時間の取組を、学校教育全体で育成したいと願う児童生徒の姿や育成すべき資質・能力という視点から評価し、さらなる改善につなげていくということも重要である。
◯ こうしたことから、各学校が総合的な学習の時間を通して育成したい資質・能力を明らかにし、それを示すことは、「社会に開かれた教育課程」として、学校が育成したい児童生徒の資質・能力を地域・社会と共有していく上で大変意義のあることである。

(3)資質・能力を育む学習過程の在り方

○  総合的な学習の時間では、「【1】課題の設定」→「【2】情報の収集」→「【3】整理・分析」→「【4】まとめ・表現」の探究のプロセスを通して、資質・能力を育成する。この学習過程は、物事の本質を探って見極めようとする一連の知的営みである。
○  探究のプロセスにおけるそれぞれの学習場面では次のような学習活動が行われることが期待されている。【1】課題の設定場面では、体験活動などを通して、課題を設定し課題意識を持つことを大切にする。【2】情報の収集場面では、課題意識や設定した課題を基に、観察、実験、見学、調査、探索、追体験などを行い必要な情報を収集する。【3】整理・分析場面では、比較したり、分類したり、関連付けたりして、収集した情報を整理したり分析したりする。【4】まとめ・表現場面では、自分の考えとしてまとめたり、他者に伝えたりして表現していく。
○  こうした探究のプロセスを意識した学習を行うことは、総合的な学習の時間だけのものではない。次期学習指導要領改訂に向けては、各教科等においていずれも資質・能力を育成するための学習過程の在り方を検討しており、探究のプロセスを意識した検討がされているところである。
○  こうした中で、総合的な学習の時間の特質は、2(1)で述べたように、探究の過程において、各教科等の見方・考え方を総合的(・統合的)に活用し、広範かつ複雑な事象を多様な角度から俯瞰(ふかん)して捉え、実社会や実生活の複雑な文脈の中で物事を考えたり、自分自身の在り方生き方と関連付けて内省的に考えたりすることにある。総合的な学習の時間において各教科等の特質に応じて育まれた見方・考え方を総合的に活用して探究的な学習を行うことにより、各教科等の見方・考え方と総合的な学習の時間の見方・考え方が相互に関連し合いながら確かなものになっていく。
○  【1】課題の設定は、問題状況の中から課題を発見し設定し、解決の方法や手順を考え、見通しを持って計画を立てることである。実社会や実生活との関わりから見いだされる課題の多くは、答えが多様で正解の定まらない問いといった性質のものである。また、事象からどのような課題を発見する際には、例えば、科学技術と環境に関わる事象について課題を設定する際、技術の特性に着目してその役割を捉えるという見方を用いることもできるし、現代社会を捉える概念的枠組みに着目して課題を見いだすという見方を用いることもでき、そのいずれかが正しい見方であるということはない。物事を多角的に俯瞰(ふかん)して捉える中で、各教科等の見方・考え方を総合的(・統合的)に活用することになる。
○  また、【2】情報の収集は、効果的な手段を選択し、情報を収集することである。総則・評価特別部会において、情報活用能力を学校教育全体の中で育んでいくという方向が示されているように、各教科等で育まれた情報活用能力を総合的に活用することが求められる。
○ 【3】整理・分析は、問題状況における事実や関係を把握し理解したり、多様な情報の中にある特徴を見付けたり、課題解決を目指して事象を比較し関連付けたりして考えることである。ここでは、各教科等で育まれた見方・考え方を総合的(・統合的)に活用する。比較、分類、関連付けといった思考の枠組みが教科横断的に汎用的に活用できるものとして探究のプロセスの中で磨かれていく。
○ 【4】まとめ・表現は、相手や目的、意図に応じてわかりやすくまとめ、表現したり、学習の仕方や進め方を振り返り、学習や生活に活(い)かそうとしたりすることである。2(1)において述べたように、身に付けた知識や技能等を活用したり視野が広がったことを実感してさらなる学習への意欲を高めたり、学んだことを自己の現在や将来と結び付けて、自分の成長を自覚したり自己の在り方や生き方を考えることに総合的な学習の時間の特質がある。
○  こうした一連の探究のプロセスの中で、各教科等で育成された見方・考え方を総合的(・統合的)に活用することで、各教科等で育成された資質・能力は、各教科等の文脈を離れ、実社会・実生活の中で生きて働くものとなっていく。児童生徒はこうした学習を経験することを通して、探究的な学びの意義やよさを理解することができる。
○  なお、この探究のプロセスは、活動の順序が入れ替わったり、一体化したり、重点的に行われたり、一連の過程がより大きな過程の一部になったりすることは、当然起こり得る。児童生徒にとっては試行錯誤を繰り返すことによりこうした過程を行ったり来たりすることも重要であり、探究のプロセスを意識しつつも、各段階が円滑に回ることが大事なのではなく、時には失敗をしたり、立ち止まって前提を疑って考えなおしてみるといったことがあってこそ探究的な学びであるといえる。

(4)「目標に準拠した評価」に向けた評価の観点の在り方

○ 総合的な学習の時間の評価については、各学校が自ら設定した観点の趣旨を明らかにした上で、それらの観点のうち、児童生徒の学習状況に顕著な事項がある場合などにその特徴を記入する等、児童生徒にどのような資質・能力が身に付いたかを文章で記述することとしている。
○  観点の設定の仕方については、総合的な学習の時間の目標を踏まえて設定すること、各学校で育てようとする資質や能力を踏まえて設定すること、各教科の評価の観点との関連を明確にして設定することなどが、例示として示されている。
○  学習指導要領が定める目標(第1目標)を踏まえて各学校が目標や内容を設定するという総合的な学習の時間の特質から考えると、各学校が観点を設定するという枠組みは維持しつつ、今般の改訂において、全教科等を共通して、評価の観点を三つに整理しようとしている趣旨に鑑みて、各教科の評価との関連を明確にすることがこれまで以上に重要となる。
○  総合的な学習の時間の評価については、「知識・技能」「思考・判断・表現力」「主体的に学習に取り組む態度」の三つの柱について、各学校が以下を参考にして観点を設定しその趣旨を明らかにした上で、それらの観点のうち、生徒の学習状況に顕著な事項がある場合などにその特徴を記入する等、生徒にどのような資質・能力が身に付いたかを文章で記述することが考えられる。
 
  【高等学校】
  【1】知識・技能
   課題(学習対象)に関する概念的知識を獲得し、課題の解決に必要な知識や技能を身に付け、探究の意義や価値を理解している
  【2】思考・判断・表現
   実社会や実生活の中から問いを見いだし、自分で課題を立て、情報を集め、整理・分析して、まとめ・表現している
  【3】主体的に学習に取り組む態度
   主体的・協同的(協働的)に課題の探究に取り組み、互いのよさを生かしながら、新たな価値の創造やよりよい社会の実現に努めようとしている
 
  【小学校・中学校】
  【1】知識・技能
   課題(学習対象)に関する概念的知識を獲得し、課題の解決に必要な知識や技能を身に付け、探究的な学習のよさを理解している
  【2】思考・判断・表現
   実社会や実生活の中から問いを見いだし、自分で課題を立て、情報を集め、整理・分析して、まとめ・表現している
  【3】主体的に学習に取り組む態度
   主体的・協同的(協働的)に問題の解決や探究活動に取り組み、互いのよさを生かしながら、積極的に社会に参画しようとしている
 
○  具体的な評価については、各学校が設定する評価規準を学習活動における具体的な児童生徒の姿として描き出し、期待する資質・能力が発揮されているかどうかを診断することが考えられる。その際、具体的な児童生徒の姿を見取るに相応(ふさわ)しい評価方法や評価場面を位置付けることなどが考えられる。それらの具体的な例として、児童の具体的な姿として評価規準を表記し診断するパフォーマンス評価や、継続的に学習履歴を蓄積し診断するポートフォリオ評価等を行うことも考えられる。
○  総合的な学習の時間では、児童生徒に個人として育まれるよい点や進歩の状況などを積極的に評価することや、それを通して児童生徒自身も自分のよい点や進歩の状況に気付くようにすることも大切である。グループとしての学習成果に着目するのではなく、一人一人の学びや成長の様子を捉える必要がある。そうした評価を行うためには、一人一人が学習を振り返る機会を適切に設けることが重要である。
○ 特に高等学校においては、探究することを通じて自分自身のキャリア形成とも統合して考えるということを重視するためにも、生徒自身が振り返り気付きを得る評価となることが期待される。また、例えば大学入試や就職活動において、総合的な学習の時間を通して学んだことを生徒自身が積極的にアピールするということも考えられる。

3.資質・能力の育成に向けた教育内容の改善、充実

(1)「探究」の意義からの領域構成の見直し

○ 総合的な学習の時間は、小学校3年から始まり、中学校、高等学校を通じて、教育課程に位置付けられている。小学校、中学校、高等学校の総合的な学習の時間について、学習指導要領上は、各校種でほぼ共通の目標を示した上で、それに基づき各学校が具体的な目標及び内容を定めることとしてきた。
○ 今後は、各学校が具体的な目標及び内容を定めるという点においては引き続き小学校、中学校、高等学校で共通のこととしながらも、1.に述べたような、各学校段階における総合的な学習時間の実施状況や、現在各校種別部会で検討されている、義務教育9年間の修了時及び高等学校修了時までに育成すべき資質・能力、高大接続改革の動向等を考慮すると、高等学校においては、小中学校における総合的な学習の時間の取組の成果を活(い)かしつつ、より探究的な活動を重視する視点から、位置付けを明確化し直すことが必要と考えられる。
○ 小学校、中学校においては、各教科等の特質に応じて育まれた見方・考え方を総合的に活用しながら、自ら問いを見いだし探究することのできる力を育成し、探究的な学習が自己の生き方に関わるものであることに気付くようにする。
○ それを基盤とした上で、高等学校における総合的な学習の時間においては、各教科等の特質に応じて育まれる見方・考え方を総合的、統合的に活用することに加えて、自己の在り方生き方に照らし、自己のキャリア形成の方向性と関連付けながら見方・考え方を組み合わせて統合させ、活用しながら、自ら問いを見いだし探究することのできる力を育成する。
○ 自己のキャリア形成の方向性と関連付けるという点においては、高等学校の専門教科における課題研究科目や、現在、新たに検討されている「理数探究(仮称)」においても同様の性格を持つ。総合的な学習の時間と課題研究科目、「理数探究(仮称)」との違いは、専門性を活(い)かした職業につながる専門教科や、大学における学問分野につながっていく「理数探究(仮)」の場合には、専門分野に向かっていく自己のキャリア形成と関連付けながら見方・考え方を統合させ、活用していくことを前提とした探究を行うのに対し、総合的な学習の時間では、特定の分野を前提とせずに、実社会や実生活から自ら見いだした課題を探究していくことを通して自己のキャリア形成の方向性を見いだすことにつなげていくという違いがある。
○ こうした観点から、高等学校におけるこれまでの「総合的な学習の時間」については、その名称についても見直すべきである。小中学校における総合的な学習の時間とのつながりやそこからより探究的に発展したものであるという位置づけを考えると、例えば「総合的な探究の時間」あるいは「探究の時間」といった名称も考えられるところであるが、具体的な名称については、高等学校における各教科等の構成の見直しも踏まえて高等学校部会において決定することが適当である。
◯ 小中学校の総合的な学習の時間が育んできたことや高等学校における探究的な学習の実践の積み重ねを生かし、専門学科における実践的な学習、スーパーサイエンスハイスクールやスーパーグローバルハイスクールといった取組の事例、国際バカロレアディプロマプログラム(DP)における「知の技能」(Theory of Knowledge)といったものも参考にしながら、どのような進路に進もうとも生涯に亘り学び続け、探究し続けていくことの意義を理解し、そのために必要な力をつける時間とするよう各学校における取組の一層の充実が期待される。

(2)資質・能力の整理と学習過程の在り方を踏まえた教育内容の構造化

○ 総合的な学習の時間においては、前述のように、学習指導要領において総合的な学習の時間の目標を示し、各学校においてそれを踏まえて目標や内容を設定することとなっている。この趣旨は各小、中、高等学校において浸透してきたところであり、基本的な構成は維持すべきと考えられる。
○ その上で、次期改訂において、資質・能力の整理と学習過程の在り方を踏まえた教育内容の構造化を進める中で、総合的な学習の時間を通じて育成すべき資質・能力や、教育課程全体における総合的な学習の時間の役割等を明確にするという観点から、総合的な学習の時間に関する学習指導要領における示し方についても構造を再整理する必要がある。
○ 「指導計画の作成と内容の取扱い」においては、指導計画の作成に当たっての配慮事項や、内容の取扱いについては、これまでは主として【1】学習活動の例示(国際理解、情報、環境、福祉・健康など)、【2】学習の質を高めるために取り入れるべき学習活動(他者と協同して問題を解決しようとする学習活動など)を示してきた。この構成について、育成すべき資質・能力の三つの柱や、学習の過程の在り方を踏まえて以下のように整理することが必要である。
・学習活動の例示については、総合的な学習の時間が果たすべき役割を踏まえ、学習活動の設定に関して望まれる考え方を示す。例えば実社会・実生活に関する現代社会や地域社会に関する課題とその解決などとすることや、児童生徒にとって身近に感じられるテーマであり、かつ、それを学ぶことにより、探究的に学ぶことの意義や価値を実感できるような課題とすることといった考え方を示す。
・その上で、「【1】知識・技能」に関して、総合的な学習の時間の見方・考え方を働かせた学習活動を通して獲得される概念(的な知識)の方向性を例示することを検討する。
・「【2】思考力・判断力・表現力等」に関して、探究のプロセスを通じて働く学習方法に関する資質・能力を例示することを検討する。
・「【3】学びに向かう力・人間性等」に関して、探究活動と自分自身、探究活動と他者や社会に関する資質・能力を例示することを検討する。特に高等学校においては、探究と自己のキャリア形成とを関連付けることを明確化することが必要と考えられる。
・全体計画及び年間指導計画の作成に当たり、総合的な学習の時間の趣旨及び各学校が教育活動全体を通じて育成したい資質・能力を踏まえた育成すべき資質・能力を明示し、児童生徒や保護者、地域・社会にも積極的に説明し共有するよう求めることが考えられる。

(3)現代的な諸課題を踏まえた教育内容の見直し

○ 総合的な学習の時間においては、(1)で述べたように、各学校が目標に沿って内容設定するが、学習指導要領では、学習課題の例示として、国際理解、情報、環境、福祉・健康などの横断的な課題や、地域の人々の暮らし、伝統と文化など地域や学校の特色に応じた課題などを示している。
○ 総合的な学習の時間における学習内容については、現代的な諸課題を踏まえて各学校が設定するものであるが、その際、教科横断的な課題については、総合的な学習の時間で扱うだけでなく、各教科等における学びと関連付け、全体としてどのような資質・能力を育成していくかという教育課程全体におけるカリキュラム・マネジメントの視点も重要である。
○ 総則・評価部会において、教科横断的に育成すべき資質・能力の視点等について示されており、これらに対応した総則の見直しを踏まえて総合的な学習の時間に関しても必要な規定を置くことが考えられる。

(持続可能な開発のための教育(ESD)の視点)
◯ 持続可能な開発のための教育(ESD)については、我が国が提唱し、ユネスコを主導機関として、2005年から2014年までを国連ESDの10年(UNDESD)として積極的な取組が展開されてきた。
◯ ESDは、持続可能な開発の担い手を育むため、地球規模の課題を自分のこととして捉え、その解決に向けて自分で考え行動を起こす力を身に付けるための教育のことである。次期学習指導要領改訂の全体において基盤となる理念として、教育課程全体の中で育成すべき資質・能力の根底にあるものといえる。
○ ESDで育む資質・能力に関して、国立教育政策研究所では、「持続可能な社会づくりの構成概念(例)」として、「多様性(いろいろある)」、「相互性(関わり合っている)」、「有限性(限りがある)」「公平性(一人一人大切に)」、「連携性(力を合わせて)」、「責任性(責任を持って)」の六つを挙げている。総合的な学習の時間において、実生活・実社会における課題について探究的に学ぶことは、こうした概念の獲得につながるものと考えられる。
○ また「ESDの視点に立った学習指導で重視する能力・態度(例)」として、批判的に考える力、未来像を予測して計画を立てる力、多面的・総合的に考える力、コミュニケーションを行う力、他者と協力する力、つながりを尊重する態度、進んで参加する態度が例示されている。総合的な学習の時間では、探究的に学習する過程で、こうした力を実際に働かせることによって、より確かな力としていくことになる。
○ こうした持続可能な社会の担い手として必要とされる資質・能力を育成するには、どのようなテーマを学習課題とするかではなく、持続可能な社会づくりのための構成概念の獲得や資質・能力を育むことを意識した学習を展開することが重要である。各学校がESDの視点からの教科横断的な学習を一層充実させていくに当たり、総合的な学習の時間が中心的な役割を果たしていくことが期待される。
       
(情報活用能力とプログラミング)
○ 総則・評価特別部会において、教育課程全体を通じた情報活用能力の育成について検討される中で、総合的な学習の時間においては、情報の集め方や調べ方、整理・分析の仕方、まとめ方や表現の仕方などの、教科横断的に活用できる「学び方」を身に付けることや、学習の過程において情報手段の操作もできるようにすることが求められる。
◯ また、プログラミングに対して小学校段階において体験し、その意義を理解するということが求められており、教育課程全体を通じて、各教科等の特質に応じた取組が期待されている。
◯ 総合的な学習の時間においては、情報に関する課題について探究的に学ぶ中で、自分の暮らしとプログラミングとの関係を考え、プログラミングを体験しながらそのよさに気付く学びを取り入れていくことが考えられる。例えば、プログラミングを体験しながら、生活を便利にしている様々なアプリケーションソフトはもとより、目に見えない部分で、様々な製品や社会のシステムなどがプログラミングにより動いていることを体験的に理解するようにすることが考えられる。
◯ プログラミング教育は、「プログラミング的思考」など、子供たちが将来どのような職業に就くとしても、時代を超えて普遍的に求められる力を育むことであり、コーディング(プログラミング言語を用いた記述方法)を覚えることが目的ではない。プログラミングを体験することが、総合的な学習の時間における学びの本質である探究的な学習として適切に位置づけられるようにすることとともに、児童一人一人に探究的な学びが実現し、一層充実するものとなるように十分配慮することが必要である。

4.学習・指導の改善充実や教材の充実

(1)特別支援教育の充実、個に応じた学習の充実

  ○ 総合的な学習の時間は、児童の知的な側面、情意的な側面、身体的な側面などに関する子供の実際の姿や経験といった、児童の実態等に応じて創意工夫を活(い)かした教育活動を行うことが必要であることをこれまでも示してきた。
  ○ 探究するための資質・能力を育成するためには、一人一人の学習の特性や困難さに配慮した学習活動が重要であり、例えば以下のような配慮を行う。
  ・様々な事象を調べたり、得られた情報をまとめたりすることに困難がある場合は、必要な事象や情報を選択して整理できるように、着目する点や調べる内容、まとめる手順や調べ方について具体的に例示するなどの配慮をする。
  ・関心のある事柄を広げることが難しい場合は、関心のもてる範囲を広げることができるように、現在の関心事を核にして、それと関連する具体的な内容を示していくことなどの配慮をする。
  ・様々な情報の中から、必要な事柄を選択して比べることが難しい場合は、具体的なイメージをもって比較することができるように、比べる視点の焦点を明確にしたり、より具体化して提示したりするなどの配慮をする。
  ・学習の振り返りが難しい場合は、学習してきた場面を想起しやすいように、学習してきた内容を文章やイラスト、写真等で視覚的に示すなどして、思い出すための手掛かりが得られるように配慮する。
  ・人前で話すことへの不安から、自分の考えなどを発表することが難しい場合は、安心して発表できるように、発表する内容について紙面に整理し、その紙面を見ながら発表できるようにすること、ICT機器を活用したりするなど、児童生徒の表現を支援するための手立てを工夫できるように配慮する。
  ○ このほか、総合的な学習の時間においては、各教科等の特質に応じて育まれる見方・考え方を総合的に働かせるような学習を行う。このため、特別支援教育の視点から必要な配慮等については、各教科等における配慮を踏まえて対応することが求められる。
  ◯ こうした配慮を行うにあたっては、困難さを補うという視点だけでなく、むしろ得意なことを活(い)かすという視点から行うことにより、自己肯定感の醸成にもつながるものと考えられる。

(2)「深い学び」「対話的な学び」「主体的な学び」に向けた学習・指導の改善充実

  ○ アクティブ・ラーニングの視点による総合的な学習の時間の授業改善は、これまでと同様に探究のプロセス(【1】課題の設定→【2】情報の収集→【3】整理・分析→【4】まとめ・表現)を充実させるとともに、その過程において多様な他者との交流などの協働的(協同的)な学びを位置付けることが重要である。アクティブ・ラーニングの三つの視点に即して整理すると以下のように考えることができる。
1)「深い学び」の視点
  ○ 「深い学び」とは,子供たちが習得・活用・探究を見通した学習過程の中で「見方・考え方」を働かせて思考・判断・表現し,見方・考え方を成長させながら,資質・能力を獲得していけるような学びである。
  ○ 「深い学び」については、探究のプロセスを一層重視し、これまで以上に学習過程の質的向上を目指すことが求められる。実社会・実生活に即した学習課題について探究的に学ぶ中で、各教科等の特質に応じて育まれる見方・考え方を総合的に活用することで、個別の知識や技能は関連付けられて概念化し、能力は実際の活用場面と結び付いて汎用的になり、多様な文脈で使えるものとなることが期待できる。
  ○ 探究のプロセスの一層の充実に向けては、「【1】課題の設定」「【3】整理・分析」の場面が大切になる。なぜなら、課題を自分事として捉える本気で真剣な学びが生まれるとともに、俯瞰(ふかん)して捉え、内省的に考えるなどの総合的な学習の時間で育まれる「見方・考え方」を働かせ、知識や技能を概念化するなどの「深い学び」が実現できるからである。
  ○ また、総合的な学習の時間における探究のプロセスが充実することで、各教科で身に付けた知識や技能、思考力・判断力・表現力等は繰り返し活用・発揮される「深い学び」となる。そのことによって、生きて働く知識・技能が習得され、未知の状況にも対応できる思考力・判断力・表現力等が育成されるのである。
2)「対話的な学び」の視点
○「対話的な学び」とは,他者との協働や外界との相互作用を通じて,自らの考えを広げ深めるような学びである。
○ 総合的な学習の時間においては、他者とともに問題の解決や探究活動に取り組むことを大切にしてきた。探究のプロセスを質的に高めていくためにも、異なる多様な他者と力を合わせて問題の解決に向かうことはこれまで以上に重要である。
○ 多様な方法を通して多様な他者と対話することには、次のよさがある。一つは、他者への説明による知識や技能の構造化である。身に付けた知識や技能を使って相手に説明することで、つながりのある構造化された知識へと変容していく。二つは、他者からの多様な情報収集である。多様な情報が他者から供給されることで、構造化は質的に高まるものと考えられる。三つは、他者とともに新たな知を創造する場の構築である。実社会・実生活の場においては、異なる多様な他者との対話を通して、新しいアイディアを創出したりそれを実現させることが求められており、総合的な学習の時間において、他の児童生徒と協力して探究的な学習を行うことは不可欠である。
○ 実際の授業においては、情報の質と量、再構成の方法などに配慮して具体的な学習活動や学習形態、学習環境を用意しなければならない。例えば、情報を可視化し、操作化する思考ツールを活用することにより、子供が自ら学ぶこと、子供同士で学び合うことを助けることも考えられる。こうした授業改善の工夫によって、思考を広げ深め、新たな知を創造する子供の姿が生まれるものと考えられる。
○ 協同的(協働的)な学習はグループとして結果を出すことが目的ではなく、その過程を通じて、一人一人がどのような資質・能力を身につけるかということが重要である。グループとして考えるだけでなく、一人一人が学習の見通しを持ったり、振り返ったりすることが重要である。
○ また、「対話的な学び」は、学校内において他の児童生徒と活動を共にするということだけではなく、一人でじっくりと自己の中で対話すること、先人の考えなどと文献で対話すること、離れた場所をICT機器などでつないで対話することなど、様々な対話の姿が考えられる。また、児童生徒と教師との対話、保護者や家族との対話、地域の人との対話など、様々な対話の対象も考えられる。 3)「主体的な学び」の視点
○「主体的な学び」とは,学習に積極的に取り組ませるだけでなく,学習後に自らの学びの成果や過程を振り返ることを通して,次の学びに主体的に取り組む態度を育む学びである。
○総合的な学習の時間においては、学習したことをまとめて表現し、そこからまた新たな課題を見付け,さらなる問題の解決を始めるといった学習活動を発展的に繰り返していく過程を重視してきた。こうした探究のプロセスの中で主体的に学んでいく上では、課題設定と振り返りが重要である。
○ 総合的な学習の時間において、児童生徒が自分事として課題を設定し、主体的な学びを進めていくようにするためには、学習課題として、日常生活や暮らしの中にある、実社会や実生活の問題を取り上げることや学習活動の見通しを明らかにし、学習活動のゴールとそこに至るまでの道筋を鮮明に描くことができるような学習活動の設定を行うことが必要である。
○ 一方、振り返りについては、自らの学びを意味付けたり、価値付けたりして自己変容を自覚することが重要である。児童生徒には、自分自身の成長や変容、学習履歴の高まりを実感することで、次の学びへと向かう「学びに向かう力」を培うことができる。そのためにも、言語によりまとめたり表現したりする学習活動として、文章やレポートに書き表したり、口頭で報告したりすることなどを行うことにより、学習活動を振り返り、収集した情報や既有の知識とを関連させ、自分の考えとして整理する深い理解にもつながることを意識することが必要である。
○ 振り返りについては、授業や単元等の終末に行うものとは限らず、時には学習活動の途中において行い、見通したことを確かめ、必要に応じて見通しを立て直すことも考えられる。こうした振り返りを主体的に行う資質・能力を育てることも重要である。

(3)教材の在り方

(より探究的な学習を展開するための教材の作成)
○ 総合的な学習の時間は、2(2)で述べたように、学習指導要領に定める目標(第1目標)を踏まえて各学校が目標と内容を設定するものであることから、全国共通で活用する教材等は作られてこなかった。
○ 今般、総合的な学習の時間において育成する資質・能力を明確にするよう整理していること、特に高等学校においては、3(1)で述べた方向性で、高等学校における総合的な学習の時間をより探究的な学習を重視する方向で充実していくことを考えると、各学校が目標と内容を設定することを引き続き前提とした上で、生徒が主体的に探究をしていく上で助けとなるような、全国共通で活用できる教材等を作成することが効果的であると考えられる。
○ その内容としては、例えば、課題の設定や、情報の整理・分析に関する思考のスキル、成果を適切にまとめて発表するための方法といったことを学べるものとすることが効果的と考えられる。
○ ただし、当然ながら、高等学校の総合的な学習の時間が、「当該教材を教える」ものになってはならず、各学校が設定する目標や内容に沿って学ぶに当たり、効果的に活用し、生徒一人一人の主体的な学びにつなげていくことができるものでなければならない。
○ 具体的な形態や内容、活用方法等については今後、高等学校学習指導要領の改訂に向けた審議と並行して、別途、専門的な検討が行われることを期待する。

(教科横断的に育成する現代的課題に対応した教材の活用)
○ 3(2)で述べたような教科横断的な現代的課題については、関係省庁や団体等により、総合的な学習の時間を含め、学校教育の様々な場面で活用できる教材が作成されてきている。
○ こうした学習に関しては、各学校において設定した目標や内容に応じて、活用可能な教材を効果的に活用することが望まれる。

5.必要な条件整備等について

(各学校における体制)
○  総合的な学習の時間を充実させるために必要な学校内の体制を構築することは、各学校におけるカリキュラム・マネジメントの充実と重なる。各学校が育成しようとする子供の姿、そのために必要な資質、能力を明らかにし、カリキュラムをデザインすることが重要である。
○  今回の改訂に向けた検討においては、各教科等で育成する資質・能力を三つの柱で統一的に整理を図り、各教科等の授業改善のためのアクティブ・ラーニングの視点を整理している。これにより、特に中学校や高校では教科等ごとに閉じていた校内研修や研究を学校全体で共通のテーマで行うことが容易となる。総合的な学習の時間と各教科等の関連付けを行うこともしやすくなるはずである。
○  校長のビジョンとリーダーシップのもと、子供たちの姿から各教科をつないでカリキュラム・デザインができるミドルリーダー的な教員が育つことが期待される。こうした教員は学校の中でも期待が高く様々な業務が集中しがちであるため、日々の業務に忙殺されず、俯瞰(ふかん)的な視点から学校全体のために動くことができるよう、校務全体の効率化や適切な分担等が求められる。
 
(各地域における推進体制や研修等)
○  2(2)で述べたように、総合的な学習の時間を軸として、小学校と中学校の9年間を見通したカリキュラム・マネジメントを行うことが期待される。各市町村等においてこうした連携を進めることのできる人材が必要である。
○  総合的な学習の時間を担当する各教員には、育成すべき資質・能力を意識し、探究的な学習の過程をデザインしたり、指導性と児童生徒の主体性・自発性のバランスを取りながら関わり、児童生徒の成長を引き出すことのできる力が求められる。
   こうした教員の資質向上を図るため、国や都道府県のレベルで各地域の取組状況等を協議したりすることのできる研修等の機会を引き続き充実させていくことが求められる。その際、総合的な学習の時間の充実のために必要となる教員の資質・能力は、知識の伝達により向上させることは難しい。教員養成段階においても、現職の研修としても、より実践的な学びが必要である。
(学習環境の整備)
○  探究的な学習を進めていくためには、各学校における学習環境の整備も重要な要素である。学校図書館やICT機器の整備など、生徒が自ら調べたり考えたりすることを支援する環境の整備が求められる。
 
(保護者・家庭との連携)
◯ 高等学校が、往々にして総合的な学習の趣旨よりも受験指導を重視しがちであるのは、保護者がそれを期待しているからであると言われてきた。しかし、総合的な学習の時間が導入された当初は、保護者自身にそうした学習の経験がないこともあり、その趣旨の理解がなかなか広まらなかった時期もあったが、現在では多くの保護者が総合的な学習の時間が重要なものと捉えている。
◯ 「社会に開かれた教育課程」の視点から、学校と保護者とが育成したい子供たちの資質・能力について共有し、そうした力を育てるために必要な協力を求めることが大事である。

(地域との連携)
○ 各学校が設定する学習内容に応じて、地域の人材を効果的に活用することが重要である。体験的な学習を通じてより深い学びとなることや、学習内容に関連して様々な大人と関わることは、総合的な学習を通じて、自己の在り方生き方を考えることにもつながっていくという点からも意義の大きなものである。
○ 先に述べたように、児童生徒にとって、地域の特質による課題について総合的な学習の時間において学ぶことの意義は大きい。同時に、地域においても、児童生徒が地域のことを学び、その姿を地域の人が見ることにより、地域の様々な活動を活性化させたり、地域自体が課題に向かっていく力につながっていったりすることが期待される。
○ コミュニティ・スクール(学校運営協議会の設置)の枠組みは、学校と地域で育成したい子供たちの姿を共有したり、そのために可能な協力について話しあったりするなど、極めて有効と考えられる。「社会に開かれた教育課程」の理念を具現化する仕組みとして積極的な活用が望まれる。
○また、特に地域の様々な課題に即した学習課題を設定するにあたり、地方公共団体の中で、教育委員会と首長部局との連携ということも強く求められる。

お問合せ先

初等中等教育局 教育課程課 第一係

電話番号:03-5253-4111 (代表)(内線2903)