参考資料4 高等学校における通級による指導の制度化に関する論点整理(案)(高等学校における特別支援教育の推進に関する調査研究協力者会議第4回配布資料)

高等学校における通級による指導の制度化に関する論点整理(案)


1.高等学校における通級による指導の制度化の意義

○中学校卒業後の生徒の高等学校等への進学率は戦後一貫して上昇し、昭和25年度に42.5%であった進学率は、既に98%を超えている。

○高等学校は、義務教育終了後のほぼ全ての子供が、社会で生きていくために必要となる力を共通して身に付けるとともに、自立に向けた準備期間を提供することのできる最後の教育機関であり、将来の我が国の発展のためにも、高等学校が果たすべき役割と責任は極めて重い。

○また、高等学校の入学者選抜におけるいわゆる「適格者主義」の考え方は、高等学校がこのような国民的教育機関となるに至る過程において変遷してきた。
昭和38年に通知された「公立高等学校入学者選抜要項」では、「高等学校の教育課程を履修できる見込みのない者をも入学させることは適当ではない」とし、入学者選抜は「高等学校教育を受けるに足る資質と能力を判定して行なう」との考え方を採っていた。しかし、その後、高等学校等進学率が約94%に達した昭和59年の通知において、入学者の選抜方法については「各高等学校、学科等の特色に配慮しつつ、その教育を受けるに足る能力・適性等を判断して行う」とされ、あくまで設置者及び学校の責任と判断で選抜するものとして、一律に高校教育を受けるに足る能力・適性を有することを前提とする考え方は採らないことが明示された。

○平成11年の中央教育審議会答申「初等中等教育と高等教育との接続の改善について」においても、こうした趣旨が徹底され、後期中等教育機関への進学希望者を後期中等教育機関全体で受け入れられるよう、適切な受験機会の提供や条件整備に努める必要があるとの提言がなされている。

○このような方向性を受けて、高等学校に進学する生徒の能力、適正等は多様化している。卒業後の進路・就労の課題、中途退学の理由として最も多い学校生活・学業不適応 (中途退学全体の34.9%) など、抱える課題も様々となっている。

○文部科学省の推計 によると、高等学校に進学する発達障害等困難のあるとされた生徒の高等学校進学者全体に対する割合は約2.2%である(平成21年3月時点)。また、中学校の特別支援学級及び特別支援学校中学部から高等学校に進学する生徒も一定数存在する。高等学校は、いわゆる進学校と呼ばれる学校も含めて、障害のある生徒が高等学校に在籍していることを認識し、自立に向けた準備期間を提供できる最後の教育機関として、障害による困難を抱える生徒の自立と社会参加に向け、適切な指導と必要な支援を行うことが求められている。

○学校教育法においては、平成19年度から、高等学校においても、障害のある生徒に対し、障害による学習上又は生活上の困難を克服するための教育を行うことが明記されている。学校教育法体系以外においても、平成17年4月に施行された発達障害者支援法に学校教育における発達障害者への支援が明記され、平成23年8月の障害者基本法改正により、可能な限り障害のある子供と障害のない子供が共に教育を受けられるよう配慮すること等が規定された。平成26年1月には障害者の権利に関する条約を批准し、平成28年4月には、合理的配慮の提供について国公立学校には法的義務とし、私立学校には努力義務とする障害を理由とする差別の解消に関する法律の施行を控える中、学校教育における障害のある幼児児童生徒への支援の充実は、一層重要性を増している。

○小・中学校及び高等学校の教育は、児童生徒の生活年齢に即して系統的・段階的に進められている。その教育の内容は、児童生徒の発達の段階等に即して選定されたものが配列され、それらを順に教育をすることにより、人間として調和のとれた育成が期待されている。
しかし、障害のある児童生徒の場合は、障害によって日常生活や学習場面において様々なつまずきや困難が生じる場合が多い。このため、心身の発達の段階等を考慮した教育に加え、個々の障害による学習上又は生活上の困難を改善・克服するための指導、すなわち自立活動に相当する指導が必要となる。

○小・中学校においては、自立活動に相当する指導を実施できるよう、特別支援学級における特別の教育課程の編成を可能とし、また、通級による指導を実施できるとする制度が整備されている。

○一方で、高等学校における特別支援教育に関する制度を見ると、制度としては、自立活動に相当する指導を行うことができないものとなっている。このため、従来、高等学校においては、教育課程の外において、主として生徒指導・教育相談等の観点から発達障害のある生徒も含め課題のある生徒への指導・支援が行われてきた。また、教育課程において、学校教育法及び高等学校学習指導要領に定める教科・科目の目的の範囲内で、これらの生徒に対応するための学校設定教科・科目を設定するという工夫を行ってきた。

○中学校において通級による指導を受けている生徒数は年々増加しており、平成26年度には8,386人に達している。小・中学校において通級による指導を受けていた生徒など、障害の程度が比較的軽度で、ほとんどの授業は障害のない生徒と同じ授業を受けることが可能であり、かつ障害による学習上又は生活上の困難を克服するための指導が必要な生徒に対して自立活動に相当する指導を行うことができる制度を早急に整備することが必要である。

○平成21年8月に、特別支援教育の推進に関する調査研究協力者会議に置かれた高等学校ワーキング・グループが取りまとめた「高等学校における特別支援教育の推進について 高等学校ワーキング・グループ報告」は、高等学校において「通級による指導」を制度化する場合、指導を受ける生徒の自尊感情や、集団から離れて別の活動を行うことへの心理的な抵抗感への配慮が必要であることを指摘している。例えば、入学者選抜を経て入学したにも関わらず特別の指導を受けることによる自尊感情の低下や、特別の指導を受けていることを自校の友人等に知られることへの心理的な抵抗感等が想定される。

○他方で、モデル事業における実践においては、反対に、小・中学校で通級による指導を受けた経験がある場合、高等学校でも同様の指導を積極的に受けたいと申し出る生徒や保護者がいることも確認されており、全ての生徒に自尊感情や心理的な抵抗感への配慮が必要となるわけではない。小・中学校において通級による指導等が身近で行われていたかどうかが、障害のない生徒を含め、特別な指導に対する印象に大きな影響を与えていることも明らかになっている。

○生徒の実態に応じて、自尊感情や心理的な抵抗感への配慮が必要となる生徒については、他の生徒も教室移動する選択教科・科目の授業と同じ時間帯に設定する、生徒の負担が過重にならない範囲で長期休業中に集中的に実施する、在籍校の授業がない曜日に他校において指導を受ける、放課後に指導を受けるなどの工夫を行うことも考えられる。

○その場合にも、他校における指導を担当する指導教員が生徒の状態や在籍校における実態の把握を丁寧に行うことや、生徒の通学負担が過重にならないよう配慮すること、部活動や生徒会活動といった放課後の活動との調整に配慮することなどの留意が必要である。国においては、モデル事業における好事例の周知に努めることが必要である。

○「通級による指導」に積極的な生徒、自尊感情や心理的な抵抗感への配慮を要する生徒のどちらに対応する場合も、高等学校は、自立や社会参加に向けた生徒自身の主体的な取組を支援する立場にあるという視点が重要である。

○なお、障害のある生徒への個別の指導に加え、学校全体で特別支援教育への理解促進や支援体制の構築、全ての教職員の理解啓発、学習指導要領にも記載されている交流及び共同学習の実施等による全ての生徒の障害者理解の促進に努めることが必要であることは言うまでもない。「通級による指導」の導入のみによって全ての課題が解決するわけではなく、高等学校における特別支援教育の取組が全体として推進されなくてはならない。全ての教職員及び生徒が、同じ社会に生きる人間として、互いに正しく理解し、共に助け合い、支え合って生きていくことの大切さを学ぶなど、個人の価値を尊重する態度や自他の敬愛と協力を重んずる態度を養うことが重要である。


2.高等学校における通級による指導の制度設計

○高等学校における「通級による指導」の基本的な考え方は、小・中学校と同様、一定の時間、障害に基づく学習上又は生活上の困難の改善・克服に必要な指導(自立活動に相当する指導)を行うことである。

○他方で、高等学校における教育は次のような特徴を持つことを踏まえ、これらの趣旨に反しない制度とすべきである。
1 単位制の採用
高等学校の各教科・科目及び総合的な学習の時間については、小・中学校の各教科等のように、標準授業時数が学校教育法施行規則に定められているのではなく、その目標と内容に応じた学習時間量を単位数によって表している。すなわち、単位は、各教科・科目等についての学習時間を測る尺度として用いられるものであり、標準としては、1単位時間を50分とし、35単位時間行われた授業を1単位と計算することとしている。また、卒業までに修得させる単位数を74単位以上としている。
2 必履修教科・科目の設定
高等学校においては、全ての生徒に最低限必要な知識・技能と教養の幅を確保するという趣旨(共通性)と学校の創意工夫を生かすための裁量や生徒の選択の幅の拡大(多様性)とのバランスに配慮し、高等学校学習指導要領において、全ての生徒に履修させる必履修教科・科目及び総合的な学習の時間を示している(必履修教科・科目及び総合的な学習の時間の合計標準単位数は38単位)。


(1) 教育課程上にどのように位置づけるか。

【参考:小・中学校における通級による指導】
学校教育法施行規則(昭和22年文部省令第11号。以下「施行規則」という。)第140条において「特別の教育課程によることができる」とし、文部省告示(平成5年文部省告示第7号。以下「告示」という)において「小・中学校の教育課程に加え、又はその一部に替えることができる」としている。

○自立活動に相当する指導について教育課程上どのように位置付けるかについては、中央教育審議会において検討することが必要になるが、その際、文部科学省が実施しているモデル事業の成果を参考にしつつ、以下のような論点を踏まえる必要があるのではないか。
・小・中学校における自立活動に相当する指導との関係
・高等学校教育における共通性と多様性のバランスを踏まえた単位数の在り方
(必履修教科・科目及び総合的な学習の時間、特別活動の履修と教育課程全体の関係)
・次期学習指導要領改訂の方向性との関係 等


(2)通級による指導の対象とすることが適切な障害の種類は何か。

【参考:小・中学校における通級による指導】
施行規則第140条において、言語障害者、自閉症者、情緒障害者、弱視者、難聴者、学習障害者、注意欠陥多動性障害者その他障害のある者で、この条の規定により特別の教育課程による教育を行うことが適当なもの(文部科学省初等中等教育局長通知により、肢体不自由者、病弱者及び身体虚弱者と明確化)を対象としている。
なお、知的障害者は、制度化に先立って平成4年に開催された「通級学級に関する調査研究協力者会議」において、「精神発達の遅れやその特性から、小集団における発達段階に応じた特別な教育課程・指導法が効果的であり、このため原則として、主として特殊学級において、いわゆる固定式により指導することが適切である」、すなわち、知的障害の状態が特別の教育課程による指導を必要とする程度である場合には、ほとんどの時間を通常の学級で授業を受けながら限られた時間のみ通級による指導を受けるよりも、特別支援学級という生活上の小集団において、特別の教育課程により、個々の教育的ニーズに応じた指導を体系的・継続的に行うことが効果的であるとされたことから、対象外とされている。


○中学校において通級による指導を受けている生徒は、高等学校進学後も「通級による指導」を必要とする可能性があることから、高等学校における「通級による指導」の対象となる障害種は小・中学校における通級による指導の対象と同一にすることが適当である。

○なお、小・中学校においては、知的障害を対象とした通級による指導は行っていない。制度化に先立って平成4年に開催された「通級学級に関する調査研究協力者会議」において、「精神発達の遅れやその特性から、小集団における発達段階に応じた特別な教育課程・指導法が効果的であり、このため原則として、主として特殊学級において、いわゆる固定式により指導することが適切である」との報告がなされている。

○知的障害の特性としては、習得した知識や技能が断片的になりやすく、生活に結びつきにくいことや、場面や状況を理解した上での適切な判断や行動が難しい場合が多い。このため、生活に結びつく具体的、実際的な内容を指導内容に位置付け、個別の指導計画に基づく個に応じた指導を丁寧に行うことが必要となる。すなわち、知的障害に基づく学習上又は生活上の困難の改善・克服に必要な指導は、一定の時間のみ取り出して行うことにはなじまないことを踏まえ、高等学校における「通級による指導」においても、小・中学校における通級による指導と同じ扱いとすることが適当である。

○なお、他の障害を併せ有する生徒であって、改善・克服を必要とする困難の主訴が知的障害以外によるものである場合には、その障害によって生じる学習上又は生活上の困難を改善・克服するため、「通級による指導」の対象とすることはあり得ると考えられる。

○「通級による指導」の対象者の決定は、次のようなモデルプロセスや文部科学省のモデル事業の成果も参考に、各高等学校や地域の実態も踏まえて行われることとなる。なお、各障害種の特性や主要な教育的ニーズは、文部科学省が作成しウェブサイトに公表している「教育支援資料」にまとめられている。

ア 生徒に関する情報の収集・本人との対話や行動場面の観察による困難の把握
特に高等学校においては、入学者選抜後の限られた時間で生徒の情報収集を行うことが多いことから、引継ぎのための仕組みが重要となる。都道府県及び市町村の教育委員会も協力し、中学校において、障害のある生徒の障害の状態、教育的ニーズと必要な支援の内容、保護者の意見、就学先の学校で受ける指導や支援の内容、関係機関が実施している支援の内容等について記載する「個別の教育支援計画」の作成を促進し、高等学校への迅速な引継ぎ体制を構築することが必要である。
   引継ぎ体制の構築の必要性は、特別支援学校中学部から高等学校に進学する生徒についても同様である。
入学後は、事前に情報の引継ぎのなかった生徒を含め、個々の生徒の教育的ニーズを把握し、支援の必要性や具体の指導・支援内容を検討するため、各生徒との対話を通じて困難に気付くことができるような関係性の構築や、行動場面に意識して目を向けることが必要である。

イ 生徒と保護者に対するガイダンス
例えば、入学時に全ての生徒と保護者に対して「通級による指導」の趣旨や内容を周知し、関心を示した生徒と保護者には詳細な個別相談の機会を設けることなどが考えられる。個別相談においては、面談担当者には個人情報に関する守秘義務があることを生徒や保護者に伝えること、生徒や保護者の教育に対する意向等に十分に耳を傾けることも必要である。
この際には、障害以外の要因により学習上の困難を有する生徒や保護者からの個別相談が寄せられる可能性もある。その場合は、「通級による指導」は障害による困難を改善・克服するために指導内容が設計されていることを説明することとなる。なお、困難の要因が何であれ、高等学校が生徒の抱える学習上の困難の解決に努めることは当然であるので、生徒の困難に応じた解決方策を検討する必要があることは言うまでもない。

ウ 校内委員会等における検討
高等学校は、校内委員会等における検討を経て、「通級による指導」の対象となる生徒を決定する。校長のリーダーシップの下、特別支援教育コーディネーター等が中心的な役割を果たすこととなるが、都道府県教育委員会においても、専門家チームの派遣や定期的な巡回教育相談等を通じた各学校への支援を行うことが必要である。

エ 生徒や保護者との合意形成
校内委員会等における検討結果を「通級による指導」を希望している生徒や保護者に伝達し、合意形成を図る。


(3)障害に応じた特別の指導をどのように定義するか。

【参考:小・中学校における通級による指導】
告示において「障害に応じた特別の指導は、障害の状態の改善又は克服を目的とする指導とする。ただし、特に必要があるときは、障害の状態に応じて各教科の内容を補充するための特別の指導を含むものとする」としている。


○障害のある生徒の自立と社会参加を目的とした、障害による学習上又は生活上の困難を改善・克服するための指導とする。障害による学習上又は生活上の困難を改善・克服するための指導とは、特別支援学校の教育課程における自立活動に準ずる指導であり、教科・科目(教科・科目の遅れに対応するための指導を含む。)とは異なるものである。


(4)通級による指導の時間は何単位・単位時間までとすることが適当か。

【参考:小・中学校における通級による指導】
告示において、「授業時数は、規則第140条第一号から第五号まで及び第八号に該当する児童又は生徒(注:学習障害者及び注意欠陥多動性障害者を除く生徒)については、年間35単位時間から280単位時間までを標準とし、同条第六号及び第七号に該当する児童又は生徒(注:学習障害者及び注意欠陥多動性障害者)については、年間10単位時間から280単位時間までを標準とする」としている。


○小・中学校における通級による指導では、授業時数は年間35単位時間(学習障害者及び注意欠陥多動性障害者を除く)から280単位時間までを標準としている(総授業時数は840単位時間)。このように定める趣旨は、通級による指導は、児童生徒が通常の学級に在籍し、そこで大部分の指導を受けることを前提とし、児童生徒の負担が過重とならないよう配慮していることによる。これも踏まえ、高等学校における「通級による指導」の時間を検討すべきである。

(5)全日制、定時制、通信制の課程ごとに制度に違いを設ける必要があるか。
○文部科学省による「発達障害等困難のある生徒の中学校卒業後における進路に関する分析結果」によると、全日制、定時制、通信制のいずれにも、発達障害等困難のある生徒が進学していると推計されている。同様に、「通級による指導」の対象となる全ての障害種について、いずれの課程にも進学していることが推測される。このため、全日制、定時制、通信制の全ての課程において、「通級による指導」を制度化することが必要である。

○文部科学省のモデル事業では、全日制、定時制、通信制の全ての高等学校において実践研究を行っている。現在までの取組を踏まえれば、教育課程上の位置付け、対象となる障害種、通級による指導の時間等の基本的な制度設計について、違いを設ける必要はないと考えられる。各学校においては、生徒や学校の多様な実態に応じた創意工夫を行うこととする。

(6)学習評価、単位認定について留意すべき点は何か。
○「通級による指導」の学習評価は、個別に設定された目標や「個別の指導計画」を基として行うことが適当である。このため、学校においては、対象生徒の個々の障害の状態や教育的ニーズに応じた「個別の指導計画」を作成するとともに、学習状況に応じて柔軟に見直すことが必要である。個別の目標や「個別の指導計画」を基にどのように評価するか、年度途中で障害による学習上又は生活上の困難を十分に改善又は克服したと判断された場合にどのように取り扱うか等についても、モデル事業の成果も踏まえた検討が必要である。

(7)担当する教員について
○教育職員免許法では、教育職員は各相当の免許状を有する者でなければならないとされており、担当教員は、高等学校教諭免許状を有している必要がある。ただし、特別支援教育に関する知識を有し、障害の状態の改善又は克服を目的とする指導に専門性や経験を有する教員であることが求められる。なお、「個別の教育支援計画」や「個別の指導計画」の作成、具体の指導等に際して、教科・科目の専門性も必要となる場合には、関連する教科の免許を有する教員も参画するなど、柔軟に対応することが望ましい。

○巡回による指導を行う場合も、対象生徒への指導に関する責任を負うのは在籍校であり、在籍校における身分が明確でない教員が指導を行うことは適当ではない。任命権を持つ教育委員会が、当該教員に対して、巡回先の学校において「通級による指導」を行うよう、兼務発令や非常勤講師発令などにより明示的に指示・命令することが必要である。


3 .高等学校における通級による指導を制度化した後の充実方策

○「通級による指導」は、単に法令上の制度改正をすれば活用が進むというものではない。高等学校における特別支援教育のための体制整備が不十分のまま「通級による指導」のみを実施しようとしても困難である。「通級による指導」が、障害の状態等に応じた適切な指導や支援を必要とする生徒にとって真に意義のある制度となるためには、国、教育委員会、高等学校それぞれにおける充実方策が不可欠である。

(1)国の役割
○国は、高等学校を含む特別支援教育の推進に一層取り組むとともに、「通級による指導」を充実するための支援を行うことが必要である。

○担当教員が有するべき専門性として、障害に関する専門性・指導力は当然であるが、さらに外部機関との連携や就労に関する知識、在籍校や学級担任へのアドバイス等ができる幅広い力量も有することが望ましい。国は、独立行政法人国立特別支援教育総合研究所における研修の実施や、平成28年度から実施を予定している「発達障害に関する通級による指導担当教員等専門性充実事業」等、特別支援教育に関する教員の専門性向上のための事業を引き続き推進することが必要である。

○国は、モデル事業の成果を収集・分析し、全ての設置者及び高等学校の参考となるよう、周知に努めることが必要である。また、モデル事業において「通級による指導」の導入の支障となる課題が明らかになった場合には、課題に対処するための新たな研究事業や支援策も実施すべきである。

○生徒の障害の状態や必要な支援、高等学校において何ができるようになったか等の情報を、進学先や就職先に適切に引き継ぐことが求められている。国は、大学入試に関する調査書などの関係書類における記載方法について、検討を行うことが必要である。

(2)教育委員会の役割
○設置者である教育委員会においては、学校が外部専門家の助言や、中学校における対象生徒に対する支援内容の引継ぎ・情報提供を得られる仕組み作りが必要である。特に、高等学校が単独で各障害種の外部専門家を集めることは困難が多いことから、設置者である教育委員会においては、障害のある学齢児童生徒の就学等に関して設置している教育支援委員会や巡回相談・専門家チームの活用、特別支援学校のセンター的機能の強化などにより、高等学校への支援体制を強化することが必要である。

○中学校からの引継ぎに関しては、市町村教育委員会の協力も不可欠である。市町村教育委員会は、都道府県教育委員会とも連携しながら、中学校において「個別の教育支援計画」の作成・引継ぎを促進するなど、高等学校への迅速な引継ぎ体制の構築に努めることが必要である。

○都道府県教育委員会は、担当教員の適切な配置や専門性の向上にも取り組む必要がある。支援を必要とする生徒の在籍状況等について、高等学校からの情報収集に努め、担当教員の適切な配置を行うことが求められる。また、生徒の負担軽減のためには巡回による指導の導入も効果的であり、教育委員会においては、巡回のための担当教員への兼務発令等の手続や旅費の措置なども、計画的に行うことが必要である。

(3)学校における体制整備について
○高等学校においては、何よりも、まずは特別支援教育の推進のための校内体制の整備、すなわち、障害のある生徒への支援を特定の教員任せにしない組織的な体制作りが求められている。

○高等学校においては、各教員が担当教科の指導に集中するあまり、ともすると担当教科以外の校務や学校全体として取り組むべき課題について、組織的な対応が困難な場合がある。特別支援教育は、生徒に関わる全ての教職員が適切に対応することで効果を上げるものであるため、校長がリーダーシップを発揮し、特別支援教育コーディネーターや「通級による指導」の担当教員が担う役割は特別支援教育の一部であることが全ての教職員に理解され、学校全体として特別支援教育に取り組む体制を整備することが必要である。

○生徒への適切な指導や支援が「通級による指導」の授業時間だけで終わることなく、他の授業や家庭においても適切な指導や支援が行われるためには、上述のような校内体制の中で、「通級による指導」の担当教員と、当該生徒の他の授業の担当教員、保護者等の関係者の間で定期的に情報が共有されることが必要である。
特に、「通級による指導」以外の授業について、障害のある生徒にとって分かりやすい授業は、障害のない生徒にも分かりやすい授業であるべきことを踏まえ、全ての教員が指導力の向上に努めることが望まれる。

○授業以外の観点では、特に進路指導・就労支援は重要である。自己の特性を生かした進学や就労を実現する観点からも、「通級による指導」を通じて、卒業までに自己理解を深め、必要な支援を自分で選択し他者に伝える力を身に付けることが重要である。

○就労支援においては、就職後の定着までフォローできる体制作りが望ましく、就職支援コーディネーターの配置や、「個別の教育支援計画」の引継ぎによる継続性の確保、特別支援学校が蓄積してきた知見及び企業・ハローワークなどの関係機関とのネットワークを活用することなども有効である。




  1 文部科学省「平成26年度児童生徒の問題行動等生徒指導上の諸問題に関する調査」
  2 文部科学省「発達障害等困難のある生徒の中学校卒業後における進路に関する分析結果」(平成21年3月)

お問合せ先

特別支援教育課指導係

電話番号:03-5253-4111

(初等中等教育局特別支援教育課)