参考資料3 中央教育審議会「チームとしての学校の在り方と今後の改善方策について」(答申)(抜粋)

「チームとしての学校の在り方と今後の改善方策について」  (答申)(抜粋)
                                                     

平成27年12月21日 中央教育審議会

1.「チームとしての学校」が求められる背景
(2)複雑化・多様化した課題を解決するための体制整備


(特別支援教育の充実のための「チームとしての学校」の必要性)
特別支援教育の充実のためにも,医療の専門家等との連携が求められている。公立小・中学校で通級による指導を受けている児童生徒や日常的にたんの吸引や経管栄養等のいわゆる「医療的ケア」を必要とする児童生徒の数は,年々増加傾向にある。また,通常学級に在籍する児童生徒のうち,発達障害の可能性があり,特別な教育的支援を必要とする児童生徒は,約6.5%という調査結果も出ている。
このような状況で,学級担任が単独で授業を行い,特別な教育的支援を必要とする児童生徒の個々の教育的ニーズに応じた適切な指導や必要な支援を全て行うことは難しい。
特別な教育的支援を必要とする児童生徒を直接又は間接的に支援する職員や,高度化,複雑化した医療的ケアに対応できる看護師等を配置し,教職員がチームで,質の高い教育活動を提供していく必要がある。
いずれの場合であっても,重要なことは,生徒指導上の課題や特別支援教育の充実等の課題は,限られた子供たちだけの問題ではないということである。教職員が心理や福祉,医療等の専門家等と連携して,複雑化・困難化した課題を解決することによって,学級全体,学校全体が落ち着き,大きな教育的効果につながっていることが多い。


3.「チームとしての学校」を実現するための具体的な改善方策
四)特別支援教育に関する専門スタッフ
特別支援教育に関する専門スタッフの参画に当たっては,校長がリーダーシップを発揮して,次のような校内の連携体制を構築する必要がある。
丸1  特別支援教育のコーディネーター的な役割を担う教員を「特別支援教育コーディネーター」に指名し,校務分掌に明確に位置付けること。(特別支援教育コーディネーターは,特別支援教育関係の専門スタッフとの連絡調整や校内委員会の企画・運営を行うことが想定されている。)
丸2  全校的な支援体制を確立し,障害のある児童生徒等の実態把握や支援方策の検討等を行うため,特別支援教育に関する校内委員会を設置すること。
また,教員と特別支援教育関係の専門スタッフが連携して支援が行えるよう,個別の教育支援計画*1の個別の指導計画*2等を活用し,児童生徒等の実態把握や支援方策,校内での役割分担について,教員と専門スタッフが共通理解することが必要である。


ア 医療的ケアを行う看護師等

(活用状況等)
医療的ケア*3を行う看護師,准看護師,保健師,助産師は,対象となる児童生徒等に対して,医師の指示の下,学校生活における日常的な医療的ケアを実施するほか,当該児童生徒に関わる教職員への指導・助言,保護者からの相談への対応,主治医や放課後デイサービス等との連絡を担い,医療的ケアに関する校内体制の中心的役割を果たしている。
学校における看護師等の配置や職務内容について,法令上の位置付けはなく,教育委員会が,医療的ケアを必要とする児童生徒等の状態等に応じ,雇用・配置している。
平成26年度の活用状況等としては,公立特別支援学校において,医療的ケアが必要な幼児児童生徒数は7,774人,医療的ケアに携わる看護師等の数は1,450人であり,共に増加傾向にある。また,医療的ケアのうち,たんの吸引等の特定行為をしている教員数は3,348人である。また,公立小・中学校の医療的ケアが必要な児童生徒数は976人,医療的ケアに携わる看護師等の数は379人となっている。
国は,特別支援学校における看護師等と教職員の役割分担や連携等に関する調査研究及びモデル事業を踏まえ,平成25年度から特別支援学校への看護師等配置の補助事業を実施し,毎年約330人分を補助している。
         
(成果と課題等)
医療技術の進歩等を背景に,特別支援学校,小・中学校ともに医療的ケアを必要とする児童生徒数は増加傾向にあり,医療的ケアを必要とする児童生徒等が安心して学校で学ぶことができるよう看護師等の配置を進めていく必要があるが,国が補助している看護師等の人数は,医療的ケアを必要とする児童生徒等の人数に比べて不十分である。
また,小・中学校に配置されている看護師等に係る支援は行われていない。
なお,看護師等の免許を持たない教職員も,一定の研修を受ければ,一定の条件のもとに「認定特定行為業務従事者」として医療的ケアのうち5つの特定行為を実施することが可能となっている。
しかしながら,認定特定行為業務従事者は,特定行為以外の医療的ケアを行えず限界があること,さらに,医療技術の進歩に伴い,人工呼吸器を付けた高度な医療的ケアを必要とする児童生徒や,複数の医療的ケアが必要となる児童生徒等など,医療的ケアの内容は高度化・複雑化していることから,このような児童生徒等が在籍する学校への看護師等の配置は不可欠である。
このため,学校における医療的ケアは,「特別支援学校等における医療的ケアの今後の対応について」(平成23年12月20日付け初等中等教育局長通知)のとおり,特別支援学校においては,看護師等を中心に教員等が連携・分担して特定行為に当たり,特別支援学校以外の学校においては,原則として看護師等を配置又は活用しながら,主として看護師等が医療的ケアに当たり,教員等がバックアップする体制が望ましい。
さらに,校内の体制整備を図る際には,医療的ケアを必要とする児童生徒等の安全を最優先に考え,また教職員の負担軽減にも十分配慮しながら,教育委員会の総括的な管理体制の下に,校長を中心として組織的に行うことが必要である。
また,小・中学校における医療的ケアの体制整備においては,特別支援学校のセンター的機能の活用など,広域的な取組も引き続き有効である。このため,都道府県教育委員会においては,市町村教育委員会と連携・協力し,域内の小・中学校における体制整備に努めることが必要である。

(改善方策)
・ 国は,医療的ケアを必要とする児童生徒等の増加に対応するため,特別支援学校における看護師等配置に係る補助事業の拡充並びに配置人数の増加を図る。
・ インクルーシブ教育システムの理念を提唱する「障害者の権利に関する条約」の批准(平成26年1月)及びそれに伴う制度改正を踏まえ,小・中学校等における看護師等配置に係る経費に対しても補助を行う。
・ 国は,学校等において必要とされる標準的な職として,その職務内容や権限等を法令上に位置付けることが適当かどうかについて,小・中学校等における看護師等配置の実績等を踏まえ,引き続き検討を行う。
・ 都道府県等の教育委員会は,医療技術の進歩等に伴う医療的ケアの高度化・複雑化に対応するための研修機会の提供などにより,看護師等の質的な体制整備の充実を図る。また,都道府県等の教育委員会が,地域の実情に応じ,大学病院や地域の総合病院等からのローテーションによる看護師等配置の仕組み作りを行うことも考えられる。


イ 特別支援教育支援員

 (活用状況等)
特別支援教育支援員は,障害のある児童生徒等の日常生活上の介助,発達障害の児童生徒等に対する学習支援など,日常の授業等において,教員を支援する役割を担っている。
特別支援教育支援員が共通して有すべき資格はなく,対象となる児童生徒等の支援に必要な技能等を有する人材が採用されている。
また,学校における特別支援教育支援員の配置や職務内容について,法令上の位置付けはなく,教育委員会が,支援を必要する児童生徒等の状態に応じ,雇用・配置しており,公立学校における配置実績は,平成26年度においては,幼稚園で5,638人,小・中学校で43,586人,高等学校で482人となっている。 国は,特別支援教育支援員について,所要の地方財政措置を講じている。
     
 (成果と課題等)
特別支援学級の在籍者や通級による指導の対象者は増加し続けており*4,また,通常学級においても発達障害の可能性のある児童生徒等への教育的な対応が求められている。
多様な児童生徒等のニーズに的確に応えていくために,校長がリーダーシップを発揮し,特別支援教育コーディネーターが学校全体の調整を行うなど,学校のマネジメント体制を整え,特別支援教育支援員の配置を充実し,担任の指揮監督の下,学級全体の指導体制を強化していく必要がある。
また,特別支援教育支援員を配置するに当たっては,教員と特別支援教育支援員との役割分担と協働の在り方等について,教員と特別支援教育支援員の双方で具体的に理解していく必要がある。
特別支援教育支援員に対する研修内容としては「業務内容」「特別支援教育」「障害の理解」「具体的な対応」などが考えられる。対象となる児童生徒等の状況に応じて,配置前に実施するほか,配置後に実地研修を行うことも効果的である。

 (改善方策)
・ 国は,特別支援教育支援員について,配置実績に応じた所要の地方財政措置を講じる。
・ 教育委員会は,特別支援教育支援員の配置の充実を図る。また,特別支援教育支援員が効果的に機能するよう,特別支援教育支援員に対して,業務内容等に関する研修を実施するとともに,特別支援教育支援員が配置される学校の教職員に対しても,特別支援教育支援員の配置の目的等を十分に説明する。


ウ 言語聴覚士(ST),作業療法士(OT),理学療法士(PT)等の外部専門家

(活用状況等)
言語聴覚士等*5は,障害のある児童生徒等に対し,医学・心理学等の視点による専門的な知識・技術を生かし,教員と協力して指導の改善を行うとともに,校内研修における専門的な指導者としての役割を担っている。
国は,平成25年度から,特別支援学校に言語聴覚士等を配置し,特別支援学校の専門性の向上を図るとともに,地域内の小・中学校等に専門家を派遣するなど,地域のセンター的機能を充実させるためのモデル事業を実施している(平成26年度は,1,380人の専門家を配置)。

 (成果と課題等)
特別支援学校が地域におけるセンター的機能を発揮するためには,配置校のみではなく,地域内の小・中学校の教職員とも連携できるよう,国のモデル事業の成果を踏まえた適切な配置や連携の仕組みを普及させることが必要である。
また,学校における活用を進めるに当たって,人材育成の在り方についても検討を進めていくことが大切である。

(改善方策)
・ 国は,モデル事業の成果を踏まえ,言語聴覚士等の活用を広く普及させるとともに,その配置に係る必要な補助を行う。
・ 教育委員会は,モデル事業の先進事例を参考としながら,地域の児童生徒等の実態に応じた言語聴覚士等の配置を促進する。その際,言語聴覚士等及び配置先となる学校の教職員に対して,適切な連携方法等に関する研修を実施する。


エ 就職支援コーディネーター

(活用状況)
障害のある生徒が自立した社会参加を図るためには,学校においてキャリア教育・職業教育を推進し,福祉や労働等の関係機関と連携しながら就労支援を一層充実させる必要がある。就職支援コーディネーターは,特別支援学校高等部及び高等学校において,ハローワーク等と連携して,障害のある生徒の就労先・就業体験先の開拓,就業体験時の巡回指導,卒業後のフォロー等を行っており,一人一人の障害に応じた就労支援を充実する役割を担っている。
国は,平成26年から就職支援コーディネーターの配置等を推進する委託事業を実施しており,全国40地域が指定され,配置が促進されている。
       
(成果と課題)
就職支援コーディネーターが配置された学校においては,生徒一人一人の適性に応じた現場実習先や就職先が開拓され,一般就労につながった等の成果が見られるところである。
一人一人の障害の特性等に応じた就労を促進するためには,教員だけでなく障害者の就労を支援する専門的な人材が必要であり,今後とも長期的な配置が必要である。

  (改善方策)
・ 国は,モデル事業の成果を踏まえ,就職支援コーディネーターの活用を広く普及させるとともに,配置に係る必要な支援を行う。
・ 教育委員会等は,モデル事業の先進事例を参考としながら,就職支援コーディネーターの配置を進める。







*1  障害のある児童生徒等一人一人のニーズを正確に把握し,教育の観点から適切に対応していくという考えの下に,医療,保健,福祉,労働等の関係機関との連携を図りつつ,乳幼児期からの学校卒業後までの長期的視点に立って,一貫して的確な教育的支援を行うために,障害のある幼児児童生徒一人一人について作成した支援計画。専門スタッフのうち,特に,看護師等や就職支援コーディネーターは,学校外の機関との連携する上で,個別の教育支援計画を参照することが重要である。
*2 障害のある児童生徒等一人一人の障害の状況等に応じたきめの細かい指導が行えるよう,学校における教育課程や指導計画,当該児童生徒等の個別の教育支援計画等を踏まえ,より具体的に児童生徒等一人一人の教育的ニーズに対応して,指導目標や指導内容・方法等を盛り込んだ指導計画。専門スタッフのうち,特に,特別支援教育支援員や言語聴覚士等は,児童生徒等の指導目標等に応じた支援を行う上で,個別の指導計画を参照することが重要である。
*3 いわゆる「医療的ケア」とは,法律上に定義されている概念ではないが,一般的に学校や在宅等で日常的に行われている,たんの吸引・経管栄養・気管切開部の衛生管理等の医行為を指す。医師免許や看護師等の免許を持たない者は,医行為を反復継続する意思をもって行うことはできないが,平成24年度の制度改正により,看護師等の免許を有しない者も,医行為のうち,たんの吸引等の5つの特定行為に限り,研修を修了し,都道府県知事に認定された場合には,「認定特定行為業務従事者」として,一定の条件の下で制度上実施できることとなった。
*4 平成25年には,学校教育法施行規則が一部改正され,障害のある児童生徒の就学について,個々の障害の状態等を踏まえ,総合的な観点から就学先を決定する仕組みとされた。
*5 言語聴覚士(Speech-Language-Hearing Therapist:ST)は,言葉の発声・発音の評価,摂食機能の評価・改善,人工内耳を装着した児童生徒等の聞こえの評価・改善等を行っている。作業療法士(Occupational Therapist:OT)は,着替え,排せつ,食事,道具の操作等の日常生活動作の評価及びこれらの日常生活動作を獲得するための補助具等の制作・必要性の評価,日常生活,作業活動の改善に役立つ教材の製作等を行っている。理学療法士(Physical Therapist:PT)は,呼吸状態や姿勢等に関する身体機能面からの評価,学校生活で可能な運動機能の改善・向上についての指導,障害の状態に応じた椅子や机など備品の評価・改善等を行っている。その他,専門性をいかして指導内容の改善等を図るため,心理学の専門家や視能訓練士等とも適切な連携を行っている。

お問合せ先

特別支援教育課指導係

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(初等中等教育局特別支援教育課)