理科ワーキンググループ(第1回~第3回)における主な意見(現状における課題関係)

1.現状における課題について

(総論)
○現在の小・中・高校生の学習は、科学の成果の結果としての知識を学び取るという意識が強いように思う。自然の仕組みやその中に隠れている原理や法則性などを、科学の法を用いて自分で見付けていく教科なのだという基本的なところを理科の学習を通して気付けるような指導要領、指導の改善が必要である。

○高校の現場で教えられているのは知識・技能中心となっている。前回の学習指導要領はバランスが良いのだけれども、教科書と現場がそうなっていないので、実際の教科書が実際の学校で教えられるときの中身が、この三要素がバランスよくなるように、どのような学習指導要領を作っていけば良いかを議論すべき。

○全国の高校生を対象に中学校理科の実施に関するアンケート調査を行った。高校生が中学生のときに勉強した内容、三年前から五年前に高校生が学習した内容についてで、教科書に書かれていた内容を理解していない、あるいは、全くアイデア、概念を持ってないという割合が高い割合となった。数年たつと、学習内容を忘れており、中学校のときには、短期的に知識として持っているのかもしれないが、それが高校生まで理科の学力として受け継がれていないのが残念に思う。

(理科好き、有用感)
○理科の好きな子供が少なくなっていると感じており、これを改善しなければいけない。わくわくするとか、ドキドキするとか、さらに分かるとか、何か難しいことができたとか、成就感みたいなものを持たせることが必要である。それを授業の中で持たせるには、観察・実験だと思う。とにかく本物を見たり、触れたり、あるいは動かしたり、実際に体験するそういう授業をたくさん入れていくことが好きにつながっていく。ただ、指導の系統的な部分もあり、バランスがすごく難しい。

○国際調査において、日本の生徒は理科が「役に立つ」とか「楽しい」との回答が国際平均から見て低い。日常生活に役に立つという部分、理科で学んだことを活用し生かすということになると、他の国とは異なり日本の場合は、保健や家庭科、技術・家庭科の技術分野などがあり、子供たちはそれを理科の内容とは思っていないため、「役に立つ」という数値が他国より下がっていてもやむを得ない部分はあるのではないか。むしろ、子供たちの「好きだ」や「大切だ」などという項目が国内で上がったか、下がったかをしっかり見ていかなければならない。

○小学校三年から理科の学習を始めて、三、四、五、六の四年間で小学校の内容をやろうとすると非常に厳しく、三年生の導入は緩やかでも、五年、六年になると急激に小学生にとっては内容が難しくなるので、初めは好きだった子が嫌いになっているのではないだろうか。徐々に科学的な物の見方が身に付くような科目に変えていく、緩やかに小学生に理科を学ばせていくことを考えてもよいのではないかなと思う。

○子供たちの中に、小学校から中学に上がると、理科が好きで理科が大切だと考えている子供の人数が減るということを考えると、なぜ理科を学ぶのかということを丁寧に、学年を追って盛り込んでいく必要があるのではないかと思う。

○なぜ学びたいのかということ、そして周辺にある身の回りの現象、自分たちの将来などに結び付けられるような働きかけ、表現、プログラムの工夫が教員や教科書や学習指導要領の中にあることが必要だということではないか。

○理科は暗記科目と思っている子供が多い。そうではないのだよと言っても、覚えることが多いと言う。教材に対して面白いと感じさせることが一つあると思うが、学習内容に関して、子供たちの関心とか意欲が持てるような整理をしていく必要があることと、探究の過程の面白さを感じさせる、こういうふうにやっていくと、考えることは面白いじゃないかということをどういう伝えていくのかという、これら二つのことが探究活動をする上で重要で、理科の有用性を認識するための解決の方策になるのではないか。

(体系性)
○小学校・中学校の連続性は付いてきたと思うが、次の改訂では、高校とのつながりが大きな課題になると思う。高校の場合、習熟度的に見ると基礎的な学力を付けることが課題になる学校もあれば、SSHのように研究者に直結するようなところもあるが、共通なことは、科学は学ぶ価値があることだということを理解させること、科学的な探求の方法を身につけさせることである。そのための指導を小学校・中学校、高校でどうするかという議論が今回大切ではないか。

○物理では、物理基礎から必ず始めないといけないのだが、体系的に物理を学習する中で、理系で応用のレベルに進もうと思う子供たちにとっても、目標としているようなことが身に付けばよいわけで、学習内容や項目がもう少し自由に構成や展開ができて、自分の学校の生徒に相応しい到達目標が設定できるような学習指導要領にならないのかなという気はする。

2.アクティブ・ラーニングの三つの視点を踏まえた指導等の在り方について

(アクティブ・ラーニングの意義)
○今回の改訂のポイントの一つである「アクティブ・ラーニング」の意義を明確にする必要があり、これまでも意識のある先生方は、「こういうことはこれまでもやってきた。科学のアプローチとして当然のことである。」と受け止めると思う。新しく「アクティブ・ラーニング」という概念を導入するのであれば、何をもってアクティブ・ラーニングで、そして、これ以上のどの自由度が先生たちに与えられるのか、どういった指導の裁量が与えられるのかということまで考えて、提示する必要がある。

○「アクティブ・ラーニング」と今までのものとの違いをはっきりさせるとなると、問題発見するためにはどんな能力を育成しなければいけないのか。解決方法を自分で見出すためには、どんな能力を育成しなければいけないのか。協働的学びだったら、みんなで役割を分担したり話し合ったりするときに、どんな話し合い方をしなければいけないのかを論じないと、新しさは出ないので、それをこの会議でやるのか、あるいは、もっと具体的なレベルでやるのかという問題である。

○アクティブ・ラーニングの本質論を議論したい気持ちは重々分かるが、この会議では、それが昔やっていた理科の問題解決とどこが違うのか、探究とどこが違うのかを見極めることが課題であり、理科としては、ここが違うのだというのを示しながら、一回一回の会議を積み重ねて、分かりやすい図にしていく必要がある。さらに、委員の意見を集約し、その図自体が独り歩きしても誤解が生じないようなものにしていくことも大切と考える。

(指導法との関係)
○観察、実験をしていれば表面的にはアクティブ・ラーニングに見えるがそうではない。学校現場では、脳の活性化のスイッチを入れる大切な段階の「問題への気付き」、「予想や仮設の設定」、「実験計画」あたりをスキップさせ、先生から与えられた課題に基づいて作業のようにこなす実験が少なくないのではないか。教師が子供に自然事象に関する疑問を持たせた後、条件をこう変えれば結果はこうなるだろうという作業仮説を子供に考えさせて、観察、実験に取り組ませれば、子供たちは議論しアクティブ・ラーニングになっていく。見た目の学習形態だけにとらわれないよう、問題解決や探究の能力を育成するという理科の本質にせまる指導の手立てを明確に示していくことが大切である。

○教師が中心になって、アクティブ・ティーチングをしている可能性があるのではないか。子供が自分の考え、予想や仮説、それを解決するための学びを積み重ねていくようにすべき。中学校の先生は実験に力を入れているが、子供は小学校から半分以上の落差で実験が嫌いになっている。それは子供の実験ではなく、教師の実験になっているのではないか。

○子供たちが探究的に学習をしていく場合、どういうふうに探究すればよいのかなかなかつかめないし、教員の方も伝え切れない。子供たちに科学的な探究活動をさせるなら、教員自身が論理的に考えるというのはどういう活動なのかということを押さえていかないといけない。

○仮説を立てさせる、予想を立てさせることではなくて、自分の問いを何か現象でみんなに説明したいのだというために、実験・観察するというところまで追い込まないといけない。子供自身がアクティブ・ラーニングで言われているように主体的になるということは、自分はこんなことを説明したいのだ、こんなことをみんなに知ってほしいのだというところまで追い込まないと、どれだけ問題解決のプロセスを緻密にしてもだめではないか。

(学習成果との関係)
○アクティブ・ラーニングは、課題発見、課題解決、体験学習、調査学習、ワークショップ、ディベート、グループワークなどいろいろあると思う。そういったことを学習のプログラムとして設計し実施していくには、非常に教員の多くのディスカッションや緻密な設計が必要になる。また、どういった力を体得させ、何を出口にするかということの議論のコンセンサスがないとできないことだと思う。

○アクティブ・ラーニングについては、まず中身が大事であって、それをやるのにいろいろな手法がある。あるときはレクチャー形式になるときもあるだろう、あるときはみんなで考え抜いて、原因とか理由を考え抜くという場面もあるだろう。そういうものを織り交ぜて教員はやっている。そのときに、中身が定着したかどうかを正しく測ることを必ずやらなければいけない。

○理科の授業というのは、子供たちに素朴概念ではなくて、科学的な概念に変容させることが大事だと考えており、その中で、役に立つ指導の方策の一つがアクティブ・ラーニングである。小学校、中学校もアクティブ・ラーニングを積極的に取り入れた授業展開をされているが、本質的に子供たちが概念を変えているかどうかといったところは検証の必要があると思うし、国際的に活躍する高校生、中学生、小学生を育てるとき、科学的な概念がきちんと身に付くような、そうした指導をしたいと考えている。

(指導体制、支援方策等)
○アクティブ・ラーニングを積極的に推進しているベテランの先生方が退職を迎えた場合、それをどのように若い世代に伝えていくか、そこが改訂後の学習指導要領、アクティブ・ラーニングがうまくいくかどうかについての鍵を握っている。

○小・中・高の教員のアンケートで指導のどこに課題があるのかということを調べたときに、小学校の先生は考察や仮説を立てることに抵抗感がなく指導法とリンクしているが、中学校や高校の先生はその割合が2割から3割ずつ減っていく。そういう手法と問題解決の能力とがリンクしていない。小学校の学び方を、中学校や高校の先生たちも共有化し、小学校の授業スタイルをそれぞれの指導でどう生かして使うかを考えていくべき。

○観察・実験を子供たちが計画して実施するときに、例えば化学の実験の場合には、非常に制約がある。子供が考えてきた実験をやったらとんでもないことになるなとか、救急車を呼ぶような事態になりかねない。そういうことが予想されると、教員が「この実験は無理だよ」と手を入れてしまう。どういう実験ならよいのかの例を学習指導要領解説に書くと、全国でこの例をやらなければいけないのではないかということになってしまう。そのような例については、例えば国立教育政策研究所が別途、事例集として出せば良いと思う。小学校は若手の先生が非常に増えてきており、多くは文系の先生なので、実験をやろうとしても困難さがある。そういう先生方には理科で資質や能力をどのように育成するかといった授業展開だけでなく、観察・実験の実技研修の充実も必要である。

○探究活動がなかなか学校でやられていない現状があって、それは、指導の方法が分かりにくいのが一つの大きな原因だと思う。「協働的な学びの例」ということで、学習の活動として、生徒同士の意見交換や議論が学習のスタイルになるというようなことが書かれていると思うが、指導者の関わり方とか、指導する者がこの中でどういうふうに生徒たちに何を提示していくのかという部分が必要ではないか。

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