資料1 幼児教育部会取りまとめ(案)

1.現行幼稚園教育要領等の成果と課題

○ 幼稚園教育要領は、これまで「環境を通して行う教育」を基本とし、幼児の自発的な活動としての遊びを中心とした生活を通して、一人一人に応じた総合的な指導を行ってきたところであり、平成20年の改訂では、言葉による伝え合いや幼稚園教育と小学校教育の円滑な接続などについて充実を図り、その趣旨については、国立教育政策研究所の教育課程研究指定校の研究成果等から、おおむね理解されていると考えられる。

○ 一方で、社会状況の変化等による幼児の生活体験の不足等から、基本的な技能等が身に付いていなかったり、幼稚園教育と小学校教育との接続では、子供や教員の交流は進んできているものの、教育課程の接続が十分であるとはいえない状況であったりするなどの課題も見られる。

○ また、近年、国際的にも忍耐力や自己制御、自尊心といった社会情動的スキルやいわゆる非認知的能力を幼児期に身に付けることが、大人になってからの生活に大きな差を生じさせるといった研究成果をはじめ、幼児期における語彙数、多様な運動経験などがその後の学力、運動能力に大きな影響を与えるといった調査結果などから、幼児教育の重要性への認識が高まっている。

○ さらに、平成27年度から「子ども・子育て支援新制度」が実施されたことにより、幼稚園等を通じて全ての子供が健やかに成長するよう、質の高い幼児教育を提供することが一層求められてきている。

○ このため、上記のような研究成果や調査結果を踏まえつつ、幼稚園のみならず、保育所、認定こども園を含めた全ての施設全体の質の向上を図っていくことが必要となっている。

2.幼稚園等におけるカリキュラム・マネジメントについて

○ 「論点整理」において、学校段階ごとに育成すべき資質・能力を明確化するよう示されていることを受けて、幼児教育においては、育みたい資質・能力を三つの柱に沿って具体化したところである。(詳しくは、後述)

○ これらの資質・能力を育んでいくためには、幼稚園等において、子供の姿や地域の実情等を踏まえつつ、どのような教育課程を編成し、実施・評価し改善していくのかという「カリキュラム・マネジメント」を確立することが求められる。また、こうしたカリキュラム・マネジメントを園全体で実施していくためには、教師一人一人が教育課程をより適切なものに改めていくという基本的な姿勢を持つことが重要である。

○ 「論点整理」では、「カリキュラム・マネジメント」について、三つの側面から捉えることが示されたところであるが、幼稚園等では、教科書のような主たる教材を用いず環境を通して行う教育を基本としていること、家庭との関係において緊密度が他校種と比べて高いこと、預かり保育や子育ての支援などの教育課程以外の活動が、多くの幼稚園等で実施されていることなどから、「カリキュラム・マネジメント」は極めて重要である。

○ このため、幼稚園等においては、以下の三つの側面から「カリキュラム・マネジメント」を捉える必要がある。

(1)  各領域のねらいを相互に関連させ、「幼児期の終わりまでに育ってほしい姿」や小学校の学びを念頭に置きながら、幼児の調和の取れた発達を目指し、幼稚園等の教育目標等を踏まえた総合的な視点で、その目標の達成のために必要な具体的なねらいや内容を組織すること。

(2)  教育内容の質の向上に向けて、幼児の姿や就学後の状況、家庭や地域の現状等に基づき、教育課程を編成し、実施し、評価して改善を図る一連のPDCAサイクルを確立すること。

(3)  教育内容と、教育活動に必要な人的・物的資源等を、家庭や地域の外部の資源も含めて活用しながら効果的に組み合わせること。

○ 各幼稚園等では、これまで以上に上記の三つの側面から「カリキュラム・マネジメント」の機能を十分に発揮して、幼児の実態等を踏まえた最も適切な教育課程を編成し、家庭等の協力を得ながらこれを実施し、改善・充実を図っていくことが求められる。


3.幼児教育において育みたい資質・能力と幼児期にふさわしい評価の在り方について

(1)幼児期の特性に応じて育まれる「見方・考え方」
○ 幼児期は、幼児一人一人が異なる家庭環境や生活経験の中で、自分が親しんだ具体的なものを手掛かりにして、自分自身のイメージを形成し、それに基づいて物事を感じ取ったり気付いたりする時期であることから、ものの見方・考え方も園生活全体を通して、一人一人の違いを受け止めて培うことが大切である。

○ 幼児教育における「見方・考え方」は、幼児がそれぞれの発達に即しながら身近な環境に主体的に関わり、心動かされる体験を重ね遊びが発展し生活が広がる中で、環境との関わり方や意味に気付き、これらを取り込もうとして、諸感覚を働かせながら、試行錯誤したり、思い巡らしたりすることである。

○ このような「見方・考え方」は、遊びや生活の中で幼児理解に基づいた教師による意図的、計画的な環境の構成の下で、教師や友達と関わり、様々な体験をすることを通して広がったり、深まったりして、修正・変化し発展していくものである。

○ このような様々な体験等を通して培われた「見方・考え方」は、小学校以降において、各教科等の「見方・考え方」の基礎になるとともに、これらを統合化することの基礎ともなるものである。

(2)幼児教育において育みたい資質・能力の整理と、小学校の各教科等との接続の在り方
○ 「論点整理」において示された育成すべき資質・能力の三つの柱は、「18歳の段階で身に付けておくべきことは何か」という観点や、「義務教育を終える段階で身に付けておくべき力は何か」という観点を共有しながら、各学校段階の各教科等において、系統的に示されなければならないこととされている。

○ 幼児教育においては、幼児期の特性から、この時期に育みたい資質・能力は、小学校以降のような、いわゆる教科指導で育むのではなく、幼児の自発的な活動である遊びや生活の中で、美しさを感じたり、不思議さに気付いたり、できるようなったことなどを使いながら、試したり、いろいろな方法を工夫したりすることを通じて育むことが重要である。このため、資質・能力の三つの柱を幼児教育の特質を踏まえ、より具体化すると、以下のように整理される。

(ア)  知識や技能の基礎(遊びや生活の中で、豊かな体験を通じて、何を感じたり、何に気付いたり、何が分かったり、何ができるようになるのか)

(イ)  思考力・判断力・表現力等の基礎(遊びや生活の中で、気付いたこと、できるようになったことなども使いながら、どう考えたり、試したり、工夫したり、表現したりするか)

(ウ)  学びに向かう力、人間性等(心情、意欲、態度が育つ中で、いかによりよい生活を営むか)

○ これらの資質・能力を育むため、幼稚園教育要領等の5領域は引き続き、維持することとする。なお、幼児教育の特質から、幼児教育において育みたい資質・能力は、個別に取り出して身に付けさせるものではなく、遊びを通しての総合的な指導を行う中で、「知識や技能の基礎」、「思考力・判断力・表現力等の基礎」、「学びに向かう力、人間性等」を一体的に育んでいくことが重要である。【別紙1ページ参照】


○ また、5領域の内容等を踏まえ、5歳児修了時までに育ってほしい具体的な姿を平成22年に取りまとめられた「幼児期の教育と小学校教育の円滑な接続の在り方について(報告)」を手掛かりに、資質・能力の三つの柱を踏まえつつ、明らかにしたものが、以下の「幼児期の終わりまでに育ってほしい姿」である。【別紙2ページ参照】


(ア) 健康な心と体
健康な心と体を育て、幼稚園生活の中で充実感や満足感を持って自分のやりたいことに向かって心と体を十分に働かせながら取り組み、見通しを持って自ら健康で安全な生活を作り出していけるようになる。


(イ) 自立心
身近な環境に主体的に関わりいろいろな活動や遊びを生み出す中で、自分の力で行うために思い巡らしなどして、自分でしなければならないことを自覚して行い、諦めずにやり遂げることで満足感や達成感を味わいながら、自信を持って行動するようになる。


(ウ) 協同性
友達との関わりを通して、互いの思いや考えなどを共有し、それらの実現に向けて、工夫したり、協力したりする充実感を味わいながらやり遂げるようになる。


(エ) 道徳性・規範意識の芽生え
してよいことや悪いことが分かり、相手の立場に立って行動するようになり、自分の気持ちを調整し、友達と折り合いを付けながら、決まりを守る必要性が分かり、決まりを作ったり守ったりするようになる。


(オ) 社会生活との関わり
家族を大切にしようとする気持ちを持ちつつ、いろいろな人と関わりながら、自分が役に立つ喜びを感じ、地域に一層の親しみを持つようになる。
遊びや生活に必要な情報を取り入れ、情報を伝え合ったり、活用したり、情報に基づき判断しようとしたりして、情報を適切に取捨選択などして役立てながら活動するようになるとともに、公共の施設を大切に利用したりなどして、社会とのつながりの意識等が芽生えるようになる。


(カ) 思考力の芽生え
身近な事象に積極的に関わり、物の性質や仕組み等を感じ取ったり気付いたりする中で、思い巡らし予想したり、工夫したりなど多様な関わりを楽しむようになるとともに、友達などの様々な考えに触れる中で、自ら判断しようとしたり考え直したりなどして、新しい考えを生み出す喜びを感じながら、自分の考えをよりよいものにするようになる。


(キ) 自然との関わり・生命尊重
自然に触れて感動する体験を通して、自然の変化などを感じ取り、身近な事象への関心が高まりつつ、好奇心や探究心を持って思い巡らし言葉などで表しながら、自然への愛情や畏敬の念を持つようになる。
身近な動植物を命あるものとして心を動かし、親しみを持って接し、いたわり大切にする気持ちを持つようになる。


(ク) 数量・図形、文字等への関心・感覚
遊びや生活の中で、数量などに親しむ体験を重ねたり、標識や文字の役割に気付いたりして、必要感からこれらを活用するようになり、数量・図形、文字等への関心・感覚が一層高まるようになる。


(ケ) 言葉による伝え合い
言葉を通して先生や友達と心を通わせ、絵本や物語などに親しみながら、豊かな言葉や表現を身に付けるとともに、思い巡らしたことなどを言葉で表現することを通して、言葉による表現を楽しむようになる。


(コ) 豊かな感性と表現
みずみずしい感性を基に、生活の中で心動かす出来事に触れ、感じたことや思い巡らしたことを自分で表現したり、友達同士で表現する過程を楽しんだりして、表現する意欲が高まるようになる。

○ この「幼児期の終わりまでに育ってほしい姿」は、5領域の内容等を踏まえ、特に5歳児の後半にねらいを達成するために、教師が指導し幼児が身に付けていくことが望まれるものを抽出し、具体的な姿として整理したものであり、それぞれの項目が個別に取り出されて指導されるものではない。もとより、幼児教育は環境を通して行うものであり、とりわけ幼児の主体的な活動としての遊びを通して、これらの姿が育っていくことに留意する必要がある。

○ また、「幼児期の終わりまでに育ってほしい姿」は、5歳児だけでなく、3歳児、4歳児においても、これを念頭に置きながら指導が行われることが望まれる。その際、3歳児、4歳児それぞれの時期にふさわしい指導の積み重ねが、この「幼児期の終わりまでに育ってほしい姿」につながっていくことに留意する必要がある。

○ さらに、「幼児期の終わりまでに育ってほしい姿」は、5歳児後半の評価の手立てともなるものであり、幼稚園等と小学校の教師が持つ5歳児修了時の姿が共有化されることにより、幼児教育と小学校教育との接続の一層の強化が図られることが期待できる。

○ 小学校の各教科等においても、主に生活科等のスタートカリキュラムの中で、合科的・関連的な指導も含め、子供の生活の流れの中で、幼児期の終わりまでに育った姿が発揮できるような工夫を行いながら、短時間学習なども含めた工夫を行うことにより、幼児期に育まれた「見方・考え方」や資質・能力を徐々に各教科等の特質に応じた学びにつなげていく必要がある。【別紙12ページ参照】

(3)資質・能力を育む学習過程の在り方
○ 幼児教育において、幼児の自発的な活動としての遊びは、心身の調和のとれた発達の基礎を培う重要な学習である。「論点整理」においては、習得・活用・探究という学習プロセスの重要性が提言されており、幼児教育においても、資質・能力を育む上で学習の過程を意識した指導が重要である。

○ 幼児教育における学習過程は、発達の段階によって異なり、一律に示されるものではないが、一例を示すとすれば、5歳児の後半では、遊具・素材・用具や場の選択等から遊びが創出され、やがて楽しさや面白さの追求、試行錯誤等を行う中で、遊びへ没頭し、遊びが終わる段階でそれまでの遊びを振り返るといった過程をたどる。【別紙13ページ参照】

○ 上記のような学習過程が実現するには、教師は、幼児期に育みたい資質・能力を念頭に置いて環境を構成し、このような学習過程の中で、一人一人の違いにも着目しながら、総合的に指導していくことが前提となる。

(4)幼児期にふさわしい評価の在り方
○ 幼稚園における評価については、現行の幼稚園教育要領第2章「ねらい及び内容」に示された各領域のねらいを視点として、幼児の発達の実情から向上が著しいと思われるものを評価してきたところである。

○ 次期幼稚園教育要領等においては、「幼児期の終わりまでに育ってほしい姿」の明確化の方向性が示されることに伴い、幼児期の評価についても、その方向性を踏まえ、改善を図る必要がある。

○ 具体的には、幼児一人一人のよさや可能性を評価するこれまでの幼児教育における評価の考え方は維持しつつ、評価の視点として、幼稚園教育要領等に示す各領域のねらいのほか、5歳児については、「幼児期の終わりまでに育ってほしい姿」を踏まえた視点を新たに加えることとする。その際、他の幼児との比較や一定の基準に対する達成度についての評定によって捉えるものでないことに留意するようにする。

○ また、幼児の発達の状況を小学校の教員が指導上参考にできるよう、指導要録の示し方の見直しを図るとともに、指導要録以外のものを含め、小学校と情報の共有化の工夫を図る。

○ その他、日々の記録や、保育を写真や動画などに残し可視化したいわゆる「ドキュメンテーション」、ポートフォリオなどにより、幼児の評価の参考となる情報を日頃から蓄積するとともに、このような幼児の発達の状況を保護者と共有することを通じて、幼稚園等と家庭が一体となって幼児と関わる取組を進めていくことが大切である。

4.資質・能力の育成に向けた教育内容の改善・充実
○ 幼児教育は、幼児の主体的な活動としての遊びを中心とした教育を実践することが何よりも大切であり、教師は、幼児の主体的な遊びを生み出すために必要な環境を構成することが求められる。

○ 特に、近年、少子化や都市化等の進行によって、友達との外遊びや自然に触れ合う機会が減少してきていることから、教師は、戸外で幼児同士が関わり合ったり、自然との触れ合いが十分経験したりできる環境を構成していくことが重要となってきている。

○ 先に述べた幼児期に育みたい資質・能力は、このような遊びを通しての総合的な指導の中で一体的に育んでいくものであり、これまで幼児教育において大切にされてきた社会情動的スキルやいわゆる非認知的能力の育成も含め、以下に述べる教育内容等の改善を通じて更に充実を図り、小学校以降の学びにつなげていく必要がある。


(1)幼稚園教育要領等の構成の見直し
○ カリキュラム・マネジメントや学習・指導方法の改善など各学校種共通で示された学習指導要領等の総則の見直しのほか、幼稚園教育要領等固有の主な構成の見直しについては、以下のとおりである。

○ 預かり保育など教育課程に係る教育時間の終了後等に行う教育活動などについては、これまでも教育課程に係る教育活動を考慮して行われてきたところであるが、幼児の生活を見通しを持って把握し、幼稚園等におけるカリキュラム・マネジメントを充実する観点から、教育課程や預かり保育を含め、登園から降園までの幼児の生活全体を捉えた全体的な計画の作成を幼稚園教育要領等に位置付ける。

○ 幼児教育と小学校教育の円滑な接続を図る観点から、5歳児修了時までに育ってほしい具体的な姿について10項目に整理した「幼児期の終わりまでに育ってほしい姿」を幼稚園教育要領等に新たに位置付ける。

(2)資質・能力の整理を踏まえた教育内容の見直し
○ 育成すべき資質・能力については、「論点整理」において幼児教育から高等学校教育までを通じて、見通しを持って系統的に示されるべきものであるとされたことから、現在の領域構成を引き継ぎつつ、資質・能力の三つの柱に沿って、内容の見直しを図る。
【別紙1ページ参照】

(3)現代的な諸課題を踏まえた教育内容の見直し
○ 「論点整理」で示された方向性や近年の子供の育ちを巡る環境の変化等を踏まえた教育内容の見直しについては、以下のとおりである。

○ 安全な生活や社会づくりに必要な資質・能力を育む観点から、状況に応じて自ら機敏に行動することができるようにするとともに、安全についての理解を深めるようにする。

○ 幼児期における多様な運動経験の重要性の指摘を踏まえ、幼児が遊ぶ中で体の諸部位を使った様々な体験を重視するとともに、食の大切さに気付いたり、食に対する態度を身に付けたりすることを通じて、幼児の心身の健やかな成長の増進を図るようにする。

○ 幼児期におけるいわゆる非認知的能力を育むことの重要性の指摘等を踏まえ、身近な大人との深い信頼関係に基づく関わりや安定した情緒の下で、例えば、親しみや思いやりを持って様々な人と接したり、自分の気持ちを調整したり、くじけずに自分でやり抜くようにしたり、前向きな見通しを持ったり、幼児が自分のよさや特徴に気付き、自信を持って行動したりするようにする。

○ 学習プロセス等の重要性を踏まえ、具体的な活動の中で、比べる、関連付ける、総合するといった、思考の過程を示すなど、思考力の芽生えを育むようにする。

○ 社会に開かれた教育課程の重要性を踏まえ、社会や地域の様々な生活や文化に触れたり、異なった文化等を持つ人たちに親しみを持ったり、自然に触れたりする機会を設けるなどして、幼児に、社会生活や地域とのつながりや多様性の尊重、身の回りの物を大切にする意識等を育むようにする。その際、園内外の行事を活用することも有効と考えられる。

○ 視聴覚教材等については、幼児教育では、直接体験が重要であることを踏まえつつ、例えば、日頃の幼稚園生活では体験することが難しい体験を補完したりする場合や、幼児がより深く知りたいと思ったり、体験を深めたいと思ったりした場合の活用法を示すことを検討する。

○ 幼児期における言語活動の重要性を踏まえ、幼児が言葉のリズムや響きを楽しんだり、知っている言葉を様々に使いながら、未知の言葉と出会ったりする中で、言葉の獲得の楽しさを感じたり、友達や教師と言葉でやり取りしながら自分の考えをまとめたりするようにする。

○ 身近な自然や生活の中にある、何気ない音や形、色に気付き楽しむことが、幼児の豊かな感性や自分なりの表現を培う上で大切であることから、自然や生活の中にある音や素材に触れる機会の充実を図るようにする。

(4)幼稚園における預かり保育と子育ての支援の充実
○ 「論点整理」で示された、社会と教育課程のつながりを大切にする「社会に開かれた教育課程」としての役割は、預かり保育や子育ての支援を通じて、施設や機能を開放してきた幼稚園では、これまでも担われてきたものである。近年の社会環境の急速な変化に対応し、今後も、幼稚園における教育課程が「社会に開かれた教育課程」としての役割を更に果たしていくためには、以下のような改善を図っていく必要がある。

○ 幼稚園生活全体を通じて幼児の発達を把握し、幼稚園生活を更に充実する観点から、預かり保育について、教育課程に係る教育時間を含めた全体の中で計画、実施する必要があることや地域の人々との連携などチームとして取り組むことの例を示す。

○ 幼稚園が地域における幼児期の教育のセンターとしての役割を一層果たしていく観点から、子育ての支援について、心理士、小児保健の専門家、幼児教育アドバイザーなどの活用や地域の保護者と連携・協働しながら取り組むようにする。


5.学びや指導の充実と教材の充実

(1)特別支援教育の充実、幼児一人一人の特性に応じた指導の充実

(特別支援教育の充実)
○ 幼児期における特別支援教育については、特別支援教育部会の議論等を踏まえ、以下のような改善を図っていくことが必要である。

○ 障害者の権利に関する条約や障害者差別解消法を踏まえ、家庭や医療機関、福祉施設などの関係機関と連携し、様々な側面からの取組を示した計画(個別の教育支援計画)や、指導の目標や内容、配慮事項などを示した計画(個別の指導計画)の作成・活用の留意点を示す。

○ 特別支援教育に係る組織的な対応が一層充実されるよう、特別支援教育コーディネーターを中心とする体制等の在り方を示すとともに、共生社会の形成に向けた障害者理解の促進等の観点から、交流等の一層の充実を図る。

○ 個々の幼児の障害の状態や幼稚園等の生活の中で考えられる困難さに配慮した指導ができるよう、障害別の配慮のみならず、日々の幼稚園等の活動の中で考えられる「困難の状態」に対する「配慮の意図」と「手立て」について、以下のようなことを例として示す。

・ 幼児が自分の身体各部位を意識して動かすことが難しい場合、様々な活動や遊びに安心して取り組んだり挑戦できるよう、当該幼児が容易に取り組める遊具や遊びで、より基本的な動きから徐々に複雑な動きを体験できるよう活動内容を用意し、身体の動かし方や動かす順序などに対する教師の声掛けや援助の仕方を工夫したり、安心して取り組める遊びを段階的に取り入れたりして、成功体験が積み重ねられるようにするなどの配慮を行う。

・ 幼稚園における生活や活動への見通しが持ちにくく、気持ちや行動が安定しにくい場合、自ら見通しを持って安心して行動ができるよう、当該幼児が理解できる情報(具体物、写真、絵、文字など)を用い、一日の生活の流れや身支度などの手順カードなどを一つずつ確認させたり、次の活動への見通しや期待感が持てるような具体的な言葉掛けや教師や仲の良い友達をモデルにして行動を促したりするなどの配慮をする。

・ 集団の中でざわざわした声などを不快に感じ、集団活動に参加することが難しい場合、大きな集団での活動に慣れるようにするため、最初から全ての時間に参加させるのではなく、少しの時間から参加させることから始め、徐々に時間を伸ばしたり、イヤーマフなどで音を遮断して活動に参加させたりするなどの配慮をする。

○ なお、幼児教育では、これまでも幼児一人一人の発達の特性を理解し、指導することを大切にしており、こうした困難さへの配慮が充実することは、障害のある幼児への指導にとどまらず、障害のない幼児への指導の充実にも資するものである。


(幼児一人一人の特性に応じた指導の充実)
○ 海外から帰国した幼児や外国人の幼児等への日本語指導・適応指導等についての配慮事項を示すなど、幼児一人一人の特性に応じた指導の充実を図る。

(2)「深い学び」「対話的な学び」「主体的な学び」の充実
○ 幼児教育における重要な学習としての遊びは、環境の中で様々な形態により行われており、以下のアクティブ・ラーニングの視点から、絶えず指導の改善を図っていく必要がある。その際、発達の過程により幼児の実態は大きく異なることから、柔軟に対応していくことが必要である。【別紙14ページ参照】

(ア)  直接的・具体的な体験の中で、「見方・考え方」を働かせて対象と関わって心を動かし、幼児なりのやり方やペースで試行錯誤を繰り返し、生活を意味あるものとして捉える「深い学び」が実現できているか。

(イ)  他者との関わりを深める中で、自分の思いや考えを表現し、伝え合ったり、考えを出し合ったり、協力したりして自らの考えを広げ深める「対話的な学び」が実現できているか。

(ウ)  周囲の環境に興味や関心を持って積極的に働き掛け、見通しを持って粘り強く取り組み、自らの遊びを振り返って、期待を持ちながら、次につなげる「主体的な学び」が実現できているか。

(3)教材の在り方
○ 教科書のような主たる教材を用いるのではなく、体を通して体験的に学ぶ幼児教育において、幼児が主体的に活動を展開できるかどうかは、教師の環境の構成にかかっており、教師が日常的に教材を研究することは極めて重要である。また、継続的な教材研究により教材の質が高まることで、「見方・考え方」も発展させることが期待できる。

○ このため、幼児の経験に必要な遊具や用具、素材等の検討・選択及び環境の構成の仕方など、教師による日々の継続的な教材研究の必要性などについて、明確化を図る


6.必要な条件整備等について
○ 教育の成果は、その担い手である教師の資質・能力に負うところが大きく、特に、幼児教育において、教師は幼児のモデルとして様々な役割を果たしており、与える影響も極めて大きい。加えて、幼稚園等は、若い世代の入れ替わりが多く、経験に基づく知見が蓄積されにくく、また、預かり保育や子育ての支援など教育課程以外の活動へのニーズの高まりから研修時間の確保が難しくなっている現状を踏まえると、資質・能力の向上を図るための研修の在り方が喫緊の検討すべき課題となっている。

○ このため、各幼稚園等においては、教師以外の職員も含め、相互に日頃の保育についての意見交換やテーマに基づく研究の実施など、園内研修の継続・充実を図るとともに、園外研修の機会の確保を図ることが必要である。その際、特に近年の幼稚園等の小規模化を踏まえ、複数の園による多様な立場にある教師等の交流の機会を確保することも重要である。また、指導方法等に関して参考となる教材の開発や研修体制の充実を図るとともに、幼稚園等と地域の幼稚園教員養成課程を有する大学・学部や幼児教育研究団体等との連携も必要である。とりわけ、地域の幼稚園教員養成課程を有する大学・学部においては、最新の知見に基づいた教育・研究が期待されることから、常に最新の情報の獲得に努めることが求められる。

○ また、各地域における幼児教育の質の充実を図るためには、市区町村を中心に幼児教育の経験を持った指導主事の配置や幼稚園、保育所、認定こども園等を巡回して指導・助言を行う幼児教育アドバイザーの育成・配置や、都道府県を中心に地域の幼児教育の拠点となる幼児教育センターの設置など幼児教育の推進体制の整備が求められる。

○ 今後とも、幼児教育の質の向上を図っていくためには、中長期的な観点から幼児教育に関する基礎的な研究を行う必要がある。このため、平成28年度より国立教育政策研究所に新たに設置された幼児教育研究センターを中心にして、継続的に政策効果に関する調査研究活動を行っていくことが求められる。


7.その他

○ 幼保連携型認定こども園の教育については、「就学前の子どもに関する教育、保育等の総合的な提供の推進に関する法律」(平成18年法律第77号)において、幼稚園教育要領及び保育所保育指針との整合性を確保しなければならないとされていることを踏まえ、現在、行われている保育所保育指針の改定に向けた検討との整合性を図るなど、引き続き審議することとする。


お問合せ先

初等中等教育局幼児教育課

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