資料1 教育課程企画特別部会 論点整理(案)

平成27年8月20日
教育課程企画特別部会

  1. 2030年の社会と子供たちの未来
    • (1)新しい時代と社会に開かれた教育課程
    • (2)前回改訂の成果と次期改訂に向けた課題
  2. 新しい学習指導要領等が目指す姿
    • (1)新しい学習指導要領等の在り方について
    • (2)育成すべき資質・能力について
      1. 育成すべき資質・能力についての基本的な考え方
      2. 特にこれからの時代に求められる資質・能力
      3. 発達の段階や成長過程のつながり
    • (3)育成すべき資質・能力と、学習指導要領等の構造化の方向性について
      1. 学習指導要領等の構造化の在り方
      2. 学習活動の示し方や「アクティブ・ラーニング」の意義等
  3. 学習評価の在り方について
  4. 学習指導要領等の理念を実現するために必要な方策
    • (1)「カリキュラム・マネジメント」の重要性
    • (2)学習指導要領等の理念の実現に向けて必要な支援方策等
  5. 各学校段階、各教科等における改訂の具体的な方向性
    • (1)各学校段階の教育課程の基本的な枠組みと、学校段階間の接続
      1. 幼児教育
      2. 小学校
      3. 中学校
      4. 高等学校
      5. 幼稚園、小学校、中学校、高等学校における特別支援教育、特別支援学校
    • (2)各教科・科目等の内容の見直し
      1. 総則
      2. 国語
      3. 社会、地理歴史、公民
      4. 算数、数学
      5. 理科
      6. 生活
      7. 音楽、芸術(音楽)
      8. 図画工作、美術、芸術(美術、工芸)
      9. 芸術(書道)
      10. 家庭、技術・家庭
      11. 体育、保健体育
      12. 外国語
      13. 情報
      14. 主として専門学科において開設される各教科・科目
      15. 道徳教育
      16. 特別活動
      17. 総合的な学習の時間
  6. 今後の検討スケジュール等

1.2030年の社会と子供たちの未来

 本「論点整理」は、2030年の社会と、そして更にその先の豊かな未来を築くために、育課程を通じて初等中等教育が果たすべき役割を示すことを意図している。

 グローバル化は我々の社会に多様性をもたらし、また、急速な情報化や技術革新は人間生活を質的にも変化させつつある。こうした社会的変化の中で、教育の在り方も新たな事態に直面していることは明らかである。

 そこで本「論点整理」は、学校を、変化する社会の中に位置付け、教育課程を全体的に体系化することによって、学校段階間、教科等間の相互連携を促し、さらに初等中等教育の総体的な姿を描くことを目指すものである。

(1)新しい時代と社会に開かれた教育課程

  • 将来の変化を予測することが困難な時代(※1)を前に、子供たちには、現在と未来に向けて、自らの人生をどのように拓(ひら)いていくことが求められているのか。また、自らの生涯を生き抜く力を培っていくことが問われる中、新しい時代を生きる子供たちに、学校教育は何を準備しなければならないのか。

  • ※1 2030年には、少子高齢化が更に進行し、65歳以上の割合は総人口の3分の1に達する一方、生産年齢人口は総人口の約58%にまで減少すると見込まれている(補足資料7・8ページ)。同年には、世界のGDPに占める日本の割合は、現在の5.8%から3.4%にまで低下するとの予測もあり、日本の国際的な存在感の低下も懸念されている(補足資料9ページ)。
     また、グローバル化や情報化が進展する社会の中では、多様な主体が速いスピードで相互に影響し合い、一つの出来事が広範囲かつ複雑に伝播し、先を見通すことがますます難しくなってきている。子供たちが将来就くことになる職業の在り方についても、技術革新等の影響により大きく変化することになると予測されている 。子供たちの65%は将来、今は存在していない職業に就く(キャシー・デビッドソン氏(ニューヨーク市立大学大学院センター教授))との予測や、今後10年~20年程度で、半数近くの仕事が自動化される可能性が高い(マイケル・オズボーン氏(オックスフォード大学准教授))などの予測がある。また、2045年には人工知能が人類を越える「シンギュラリティ」に到達するという指摘もある。

新たな学校文化の形成

  • 我が国の近代学校制度は、明治期に公布された学制に始まり、およそ70年を経て、昭和22年には現代学校制度の根幹を定める学校教育法が制定された(※2)。今また、それから更に70年が経(た)とうとしている。この140年間、我が国の教育は大きな成果を上げ、蓄積を積み上げてきた。この節目の時期に、これまでの蓄積を踏まえ評価しつつ、新しい時代にふさわしい学校の在り方を求め、新たな学校文化を形成していく必要がある。
  • 予測できない未来に対応するためには、社会の変化に受け身で対処するのではなく、主体的に向き合って関わり合い、その過程を通して、一人一人が自らの可能性を最大限に発揮し、よりよい社会と幸福な人生を自ら創り出していくことが重要である(※3)。
  • そのためには、教育の場において、解き方があらかじめ定まった問題を効率的に解ける力を育むだけでは不十分である。社会の加速度的な変化の中でも、社会的・職業的に自立した人間として、伝統や文化に立脚し、高い志と意欲を持って、蓄積された知識を礎としながら、膨大な情報から何が重要かを主体的に判断し、自ら問いを立ててその解決を目指し、他者と協働しながら新たな価値を生み出していくことができるよう、そのために必要な資質・能力を身に付けることが重要である。

  • ※2 我が国の学校教育制度の変遷については、補足資料10・11ページ。
  • ※3 アラン・ケイ氏(カリフォルニア大学ロサンゼルス校准教授)は、「未来を予測する最善の方法は、それを発明することだ」と述べている。

「学校」の意義

  • こうした資質・能力を育成していくため、学校教育にはどのような役割が求められるのだろうか。それを考えるためには、社会的変化を視野に入れつつ、教育の姿を総体的に描きながら、「学校」の意義についても今一度捉え直していく必要がある。
  • 学校とは、社会への準備段階であると同時に、学校そのものが、子供たちや教職員、保護者、地域の人々などから構成される一つの社会でもある。子供たちは、学校も含めた社会の中で、生まれ育った環境に関わらず、また、障害の有無に関わらず、様々な人と関わりながら学び、その学びを通じて、自分の存在が認められることや、自分の活動によって何かを変えたり、社会をよりよくしたりできることなどの実感を持つことができる。
  • そうした実感は、子供たちにとって、人間一人一人の活動が身近な地域や社会生活に影響を与えるという認識につながり、これを積み重ねることにより、地球規模の問題にも関わり、持続可能な社会づくりを担っていこうとする意欲を持つようになることが期待できる。学校はこのようにして、社会的意識や積極性を持った子供たちを育成する場なのである。
  • 子供たちが、身近な地域を含めた社会とのつながりの中で学び、自らの人生や社会をよりよく変えていくことができるという実感を持つことは、貧困などの目の前にある生活上の困難を乗り越え、負の連鎖を断ち切り未来に向けて進む希望と力を与えることにつながるものである。
  • このように考えると、子供たちに、新しい時代を切り拓(ひら)いていくために必要な資質・能力を育むためには、学校が社会や世界と接点を持ちつつ、多様な人々とつながりを保ちながら学ぶことのできる、開かれた環境となることが不可欠である。
  • こうした社会とのつながりの中で学校教育を展開していくことは、我が国が社会的な課題を乗り越え、未来を切り拓(ひら)いていくための大きな原動力ともなる。未曾有(みぞう)の大災害となった東日本大震災における困難を克服する中でも、子供たちが現実の課題と向き合いながら学び、国内外の多様な人々と協力し、被災地や日本の未来を考えていく姿が、復興に向けての大きな希望となった。人口減少下での様々な地域課題の解決に向けても、社会に開かれた学校での学びが、子供たち自身の生き方や地域貢献につながっていくとともに、地域が総がかりで子供の成長を応援し、そこで生まれる絆(きずな)を地域活性化の基盤としていくという好循環をもたらすことになる(※4)。ユネスコが提唱する持続可能な開発のための教育(ESD)(※5)も、身近な課題について自分ができることを考え行動していくという学びが、地球規模の課題の解決の手掛かりとなるという理念に基づくものである。
  • このように、学校は、今を生きる子供たちにとって、現実の社会との関わりの中で、日々の学校生活を築き上げていく場であるとともに、未来の社会に向けた準備段階としての場でもある。日々の豊かな生活を生み出すことを通して、未来の創造を目指す。そのための学校の在り方を探究することを通じて、新しい学校生活の姿を描き、求められる教育や授業の姿を描き、教科等の在り方を探究していく。この俯瞰(ふかん)的かつ総合的な視点を大切にしたいと考えている。

  • ※4 こうした具体的な取組例については、補足資料163ページ。
  • ※5 補足資料164ページ。

社会に開かれた教育課程

  • そのためには、子供たちの学校生活の核となる教育課程について、その役割を捉え直していくことが必要である。学校が社会や地域とのつながりを意識する中で、社会の中の学校であるためには、教育課程もまた社会とのつながりを大切にする必要がある。教育課程を介して学校が社会や世界との接点を持つことが、これからの時代においてより一層重要となる。
  • これからの教育課程には、社会の変化に開かれ、教育が普遍的に目指す根幹を堅持しつつ、社会の変化を柔軟に受け止めていく「社会に開かれた教育課程」としての役割が期待されている。
    このような「社会に開かれた教育課程」としては、次の点が重要になる。
    1. 社会や世界の状況を幅広く視野に入れ、よりよい学校教育を通じてよりよい社会づくりを目指すという理念を持ち、教育課程を介してその理念を社会と共有していくこと。
    2. これからの社会を創り出していく子供たちが、社会や世界に向き合い関わり合っていくために求められる資質・能力とは何かを、教育課程において明確化していくこと。
    3. 教育課程の実施に当たって、地域の人的・物的資源を活用したり、放課後や土曜日等を活用した社会教育との連携を図ったりし、学校教育を学校内に閉じずに、その目指すところを社会と共有・連携しながら実現させること。
  • このためには、教育課程の基準となる学習指導要領及び幼稚園教育要領(以下「学習指導要領等」という。)も、そうした「社会に開かれた教育課程」を各学校が編成していくことに資するものでなければならない。
  • さらに、こうした教育課程の理念を具体化するためには、学習・指導方法や評価の改善の在り方と一貫性を持った議論が必要である。本「論点整理」はこうした問題意識の下、学習指導要領等の在り方に留(とど)まらず、これからの教育の在り方全体を視野に入れて、教員の在り方や教育インフラ等についても取りまとめている。

世界をリードする役割

  • つまり本「論点整理」の姿勢は、こうした総合的な視野でカリキュラム改革を目指すものである。こうした改革は国際的な注目も集めているところであり、例えば、OECDとの間で実施された政策対話(※6)の中では、学力向上を着実に図りつつ、新しい時代に求められる資質・能力の向上という次の段階に進もうとしている日本の改革が高く評価されるとともに、その政策対話等の成果をもとに、2030年の教育の在り方を国際的に議論していくための新しいプロジェクトが立ち上げられたところである(※7)。こうした枠組みの中でも、日本の改革は、もはや諸外国へのキャッチアップではなく、世界をリードする役割を期待されている。

  • ※6 これまでに、平成27年3月3日(於パリ)と6月29日(於東京)の2回実施。概要については補足資料25・26ページ。
  • ※7 補足資料200・201ページ。

日本の子供たちの学びを支え、世界の子供たちの学びを後押しする

  • 現在検討されている次期学習指導要領等は、過去のスケジュールを踏まえて実施されれば、例えば小学校では、東京オリンピック・パラリンピック競技大会が開催される2020年から、その10年後の2030年頃までの間、子供たちの学びを支える重要な役割を担うことになる。
  • このように、教育の将来像を描くに当たって一つの目標となる2030年の社会の在り方を見据えながら、その先も見通した初等中等教育の在り方を示し、日本の子供たちの学びを支えるとともに、世界の子供たちの学びを後押しするものとすることが、今回の改訂に課せられた使命である。

(2)前回改訂の成果と次期改訂に向けた課題

前回改訂までの成果

  • 学習指導要領等については、これまでも、時代の変化や子供たちの実態、社会の要請等を踏まえ、数次にわたり改訂されてきた。例えば、我が国が工業化という共通の社会的目標に向けて、教育を含めた様々な社会システムを構想し構築していくことが求められる中で示された昭和33年の学習指導要領、また、高度経済成長が終焉(しゅうえん)を迎える中で個性重視のもと新しい学力観を打ち出した平成元年の学習指導要領等など、時代や社会の変化とともに、学習指導要領等も改訂を重ねてきた。改訂に当たっては、時代の変化や社会の要請などの読み取りを通して、将来への展望が問われてきた(※8)。
  • そこでは、学習指導要領等の成果と課題の検証を通じて、次の学習指導要領等を構築するという作業が重ねられてきており、そうした積み重ねの上に、学習指導要領等は築かれてきたのである。
  • 平成20年及び平成21年に行われた前回の改訂では、教育基本法の改正により明確になった教育の目的や目標を踏まえ、子供たちの「生きる力」の育成をより一層重視する観点から見直しが行われた。
  • 特に学力については、学校教育法第30条第2項に示された「基礎的な知識及び技能」、「これらを活用して課題を解決するために必要な思考力、判断力、表現力その他の能力」及び「主体的に学習に取り組む態度」の、いわゆる学力の三要素から構成される「確かな学力」をバランス良く育むことを目指し(※9)、教育目標や内容が見直されるとともに、習得・活用・探究という学習過程の中で、学級やグループで話し合い発表し合うなどの言語活動(※10)や、他者、社会、自然・環境と直接的に関わる体験活動等を重視することとされたところである。
  • これを踏まえて、各学校では真摯な取組が重ねられており、その成果の一端は、近年改善傾向にある国内外の学力調査の結果にも表れていると考えられる(※11)。
    また、幼児教育についても、教育基本法の改正によりその基本的な考え方が明確にされ、義務教育及びその後の教育の基礎を培うものとして、子供の主体性を大事にしつつ、一人一人に向き合い、総合的な指導を通じて、学校教育の一翼を担ってきている。
  • このような成果を踏まえれば、前回改訂において重視された学力の三要素のバランスのとれた育成や、各教科等を貫く改善の視点であった言語活動や体験活動の重視等については、その成果を受け継ぎ、引き続き充実を図ることが重要であると考える。

  • ※8 学習指導要領の変遷については、補足資料12ページ。
  • ※9 補足資料13ページ。
  • ※10 補足資料14・15ページ。
  • ※11 補足資料16・17ページ。

次期改訂に向けての課題

  • こうした真摯な取組が着実に成果を上げつつある一方で、我が国の子供たちについては、判断の根拠や理由を示しながら自分の考えを述べることについて課題が指摘されること(※12)や、自己肯定感や主体的に学習に取り組む態度、社会参画の意識等が国際的に見て相対的に低いこと(※13)など、子供が自らの力を育み、自ら能力を引き出し、主体的に判断し行動するまでには必ずしも十分に達しているとは言えない状況にある。
  • それは、社会において自立的に生きるために必要な力として掲げられた「生きる力」の理念について、各学校の教育課程への、さらには、各教科等の授業への浸透や具体化が、必ずしも十分でなかったところに原因の一つがあると考えられる。
  • 前回改訂時の答申に示された、21世紀の社会像としての「知識基盤社会」については認識を継承しつつ、さらにこれからは、グローバル化や情報化をはじめとした社会の加速度的な変化にどのように向き合い関わっていくのかが問われなければならない。こうした社会の中で求められる力の育成を、各学校の教育課程や各教科等の授業まで浸透させ具体化していくことが、これまで以上に強く求められることになる。
  • そこで、「社会に開かれた教育課程」の視点に立ち、社会の変化に向き合い適切に対応していくため、学校教育を通じて育むべき資質・能力を教育課程全体の構造の中でより明確に示し、それらの資質・能力を子供たちが確実に身に付けることができるよう、教育課程の全体像を念頭に置きながら日々の教育活動を展開していくことが求められている。
  • そのためにはまず、各教科等の在り方を考える際に、教育課程の要素全体が相互に有機的に関係し合って機能しているかどうかが問われなければならない。改訂を重ねるごとに各教科等の独自性が増していく状況に対して、果たして教育課程が、学校全体の教育活動のバランスや調和といった観点から、その総体的な意義や存在感をどこまで示しているか、学校教育目標の達成にどのような役割を果たしているかを検討する必要がある。
  • 前回改訂においては、各教科等を貫く改善の視点として言語活動の充実を掲げ、教科等の枠を越えた具体的な展開を求めたことによって、一定の成果は得られつつある。そこでさらに、教育課程の全体像を念頭に置いた教育活動の展開という観点から、一層の浸透や具体化を図る必要があり、それには、学習指導要領等やそれを基に編成される教育課程の在り方について、更なる見直しが必要と考えられる。
  • つまり、これまでの学習指導要領は、知識や技能の内容に沿って教科等ごとには体系化されているが、今後はさらに、教育課程全体で子供にどういった力を育むのかという観点から、教科等を越えた視点を持ちつつ、それぞれの教科等を学ぶことによってどういった力が身に付き、それが教育課程全体の中でどのような意義を持つのかを整理し、教育課程の全体構造を明らかにしていくことが重要となってくる。
  • 目指す方向は、教科等を学ぶ本質的な意義を大切にしつつ、教科等間の相互の関連を図ることによって、それぞれ単独では生み出し得ない教育効果を得ようとする教育課程である。そのために、教科等の意義を再確認しつつ、互いの関連が図られた、全体としてバランスのとれた教育課程の編成が課題とされるのである。
  • 以上のように、前回改訂の成果を受け継ぎながら、2030年への変化を見据えつつ、学習指導要領等の在り方について持続的な見直しを図り、学習指導要領等を構造化していくとともに、その構造を各学校が十分に理解した上で教育課程を編成できるようにすることが、次期改訂に向けた大きな課題である。

  • ※12 補足資料18ページ。
  • ※13 補足資料19・20ページ。

2.新しい学習指導要領等が目指す姿

(1)新しい学習指導要領等の在り方について

  • 学習指導要領等は、学校教育法に基づき国が定める教育課程の基準であり、教育の目標や指導すべき内容等を体系的に示している。各学校は、学習指導要領等に基づき、その記述の意味や解釈などの詳細について説明した教科等別の解説を踏まえ、教育課程を編成し、年間指導計画等や授業等ごとの学習指導案等を作成し、実施するものと定められている。
  • 各学校が今後、教育課程を通じて子供たちにどのような力を育むのかという理念を明確にし、それを広く社会と共有・連携していけるようにするためには、教育課程の基準となる学習指導要領等が、社会に開かれた視点に立ち、学習指導要領等に基づく指導を通じて子供たちが何を身に付けるのかを明確に示していく必要がある。
  • そのためには、指導すべき個別の内容事項の検討に入る前に、まずは学習する子供の視点に立ち、教育課程全体や各教科等の学びを通じて「何ができるようになるのか」という観点から、育成すべき資質・能力を整理する必要がある。その上で、整理された資質・能力を育成するために「何を学ぶのか」という、必要な指導内容等を検討し、その内容を「どのように学ぶのか」という、子供たちの具体的な学びの姿を考えながら構成していく必要がある(※14)。
学習プロセス等の重要性を踏まえた検討
  • こうした検討の方向性を底支えするのは、「学ぶとはどのようなことか」「知識とは何か」といったことに関する科学的な知見の蓄積である。学びを通じた子供たちの真の理解、深い理解を促すためには、主題に対する興味を喚起して学習への動機付けを行い、目の前の問題に対しては、これまでに獲得した知識や技能だけでは必ずしも十分ではないという問題意識を生じさせ、必要となる知識や技能を獲得し、さらに試行錯誤しながら問題の解決に向けた学習活動を行い、その上で自らの学習活動を振り返って次の学びにつなげるという、深い学習のプロセス(※15)が重要である。また、その過程で、対話を通じて他者の考え方を吟味し取り込み、自分の考え方の適用範囲を広げることを通じて、人間性を豊かなものへと育むことが極めて重要である。
  • また、学習のプロセスにおいて、人類の知的活動を通して蓄積され精査されてきた多様な思考の在り方を学び、その枠組みに触れることは、問題発見・解決の手法や主体的に考える力を身に付けるために有効であり、その点で教科間の区別を超えて重要である。
  • 身に付けるべき知識に関しても、個別の事実に関する知識と、社会の中で汎用的に使うことのできる概念等に関する知識とに構造化される(※16)という視点が重要である。個々の事実に関する知識を習得することだけが学習の最終的な目的ではなく、新たに獲得した知識が既存の知識と関連付けられたり組み合わされたりしていく過程で、様々な場面で活用される体系的な概念等として身に付いていくということが重要である。技能についても同様に、獲得した個別の技能が関連付けられ、様々な場面で活用される複雑な方法として身に付き熟達していくということが重要であり、こうした視点に立てば、長期的な視野で学習を組み立てていくことが極めて重要となる。
  • こうした「学び」や「知識」等に関する知見は、芸術やスポーツ等の分野における学びについても当てはまるものであり、これらの分野における学習のプロセスやそれを通じて身に付く力の在り方も含めて、教育課程全体の中で構造化していくことが必要である。
人生を主体的に切り拓(ひら)くための学び
  • 子供たち一人一人は、多様な可能性を持った存在であり、多様な教育ニーズを持っている。成熟社会において新たな価値を創造していくためには、一人一人が互いの異なる背景を尊重し、それぞれが多様な経験を重ねながら、様々な得意分野の能力を伸ばしていくことが、これまで以上に強く求められる。一方で、苦手な分野を克服しながら、社会で生きていくために必要となる力をバランスよく身に付けていくことも重要である。
  • また、子供たちに社会や職業で必要となる資質・能力を育むためには、学校と社会との接続を意識し、一人一人の社会的・職業的自立に向けて必要な基盤となる能力や態度を育み、キャリア発達を促す「キャリア教育」(※17)の視点も重要である。学校教育に「外の風」、すなわち、変化する社会の動きを取り込み、世の中と結び付いた授業等を通じて子供たちにこれからの人生を前向きに考えさせることが、主体的な学びの鍵となる。
  • これらの視点を重視しながら、未来に向かって成長しようとしている子供たちが、学びに関して持っている潜在的な力を、教育を通じて洗練させ、教員自らもその力を発揮し、教室や社会で共に生き生きと活躍できるようにするために、学習指導要領等の在り方を検討していかなければならない。

  • ※14 補足資料23ページ。
  • ※15 補足資料187ページなど。
  • ※16 補足資料192ページ、198ページなど。前回改訂においても、「生命やエネルギー、民主主義や法の支配といった各教科の基本的な概念などの理解は、これらの概念等に関する個々の知識を体系化することを可能とし、知識・技能を活用する活動にとって重要な意味をもつものであり、教育内容として重視すべきものとして、適切に位置付けていくことが必要である」とされたところ(「幼稚園、小学校、中学校、高等学校及び特別支援学校の学習指導要領等の改善について(答申)」(平成20年1月中央教育審議会))。
  • ※17 「キャリア教育」とは、一人一人の社会的・職業的自立に向け、必要な基盤となる能力や態度を育てることを通じて、キャリア発達を促す教育のことである。補足資料27~29ページ。

(2)育成すべき資質・能力について

1.育成すべき資質・能力についての基本的な考え方

  • 学習指導要領等がどのような資質・能力の育成を目指すのかについては、教育法令が定める教育の目的・目標等を踏まえて検討する必要がある。教育基本法に定める教育の目的を踏まえれば、育成すべき資質・能力の上位には、常に個人一人一人の「人格の完成」と、「平和で民主的な国家及び社会の形成者として必要な資質」を備えた心身ともに健康な国民の育成があるべきである。
現代的な課題
  • 教育基本法が目指すこうした教育の目的を踏まえつつ、社会の質的変化等を踏まえた現代的な課題に即して、これからの時代に求められる人間の在り方を描くとすれば、以下のような在り方などが考えられる。
    • 社会的・職業的に自立した人間として、郷土や我が国が育んできた伝統や文化に立脚した広い視野と深い知識を持ち、理想を実現しようとする高い志や意欲を持って、個性や能力を生かしながら、社会の激しい変化の中でも何が重要かを主体的に判断できる人間であること。
    • 他者に対して自分の考え等を根拠とともに明確に説明しながら、対話や議論を通じて相手の考えを理解したり考え方を広げたりし、多様な人々と協働していくことができる人間であること。
    • 社会の中で自ら問いを立て、解決方法を探索して計画を実行し、問題を解決に導き新たな価値を創造していくとともに新たな問題の発見・解決につなげていくことのできる人間であること。
  • 人間としてのこうした在り方を、教育課程の在り方に展開させるには、必要とされる資質・能力の要素についてその構造を整理しておく必要がある。
  • この点について、海外の事例や、カリキュラムに関する先行研究等に関する分析(※18)によれば、育成すべき資質・能力の要素が、知識に関するもの、スキルに関するもの、情意(人間性や興味・関心など)に関するものの三つに大きく分類されている。
     上記の三要素を、学校教育法第30条第2項が定める学校教育において重視すべき三要素(「知識・技能」「思考力・判断力・表現力等」「主体的に学習に取り組む態度」)に照らし合わせると、これらの考え方は大きく共通するものであることがわかる。
資質・能力の要素
  • これら三要素を議論の出発点としながら、学習する子供の視点に立ち、育成すべき資質・能力を以下のような三つの柱(以下「三つの柱」という。)で整理することが考えられる(※19)。教育課程には、発達に応じて、これら三つをそれぞれバランスよくふくらませながら、子供たちが大きく成長していけるようにする役割が期待されており、各教科等の文脈の中で身に付けていく力と、教科横断的に身に付けていく力とを相互に関連付けながら育成していく必要がある。
    • 1)「何を知っているか、何ができるか(個別の知識・技能)」
       各教科等に関する個別の知識や技能などであり、身体的技能や芸術表現のための技能等も含む。基礎的・基本的な知識・技能を着実に獲得しながら、既存の知識・技能と関連付けたり組み合わせたりしていくことにより、知識・技能の定着を図るとともに、社会の様々な場面で活用できる体系化された知識・技能として身に付けていくことが重要である。
    • 2)「知っていること・できることをどう使うか(思考力・判断力・表現力等)」
       問題を発見し、その問題を定義し解決の方向性を決定し、解決方法を探して計画を立て、結果を予測しながら実行し、プロセスを振り返って次の問題発見・解決につなげていくこと(問題発見・解決)や、情報を他者と共有しながら、対話や議論を通じて互いの考え方の共通点や相違点を理解し、相手の考えに共感したり多様な考えを統合したりして、協力しながら問題を解決していくこと(協働的問題解決)のために必要な思考力・判断力・表現力等である。
       特に、問題発見・解決のプロセスの中で、以下のような思考・判断・表現を行うことができることが重要である。
      • 問題発見・解決に必要な情報を収集・蓄積するとともに、既存の知識に加え、必要となる新たな知識・技能を獲得し、知識・技能を適切に組み合わせて、それらを活用しながら問題を解決していくために必要となる思考。
      • 必要な情報を選択し、解決の方向性や方法を比較・選択し、結論を決定していくために必要な判断や意思決定。
      • 伝える相手や状況に応じた表現。
    • 3)「どのように社会・世界と関わり、よりよい人生を送るか(学びに向かう力、人間性等)」
       上記の1)及び2)の資質・能力を、どのような方向性で働かせていくかを決定付ける重要な要素であり、以下のような情意や態度等に関わるものが含まれる。
      • 主体的に学習に取り組む態度も含めた学びに向かう力や、自己の感情や行動を統制する能力など、いわゆる「メタ認知」に関するもの。
      • 多様性を尊重する態度と互いのよさを生かして協働する力、持続可能な社会づくりに向けた態度、リーダーシップやチームワーク、感性、優しさや思いやりなど、人間性等に関するもの。
  • こうした資質・能力については、学習指導要領等を踏まえつつ、各学校が編成する教育課程の中で、各学校の教育目標とともに、育成する資質・能力のより具体的な姿を明らかにしていくことが重要である。その際、子供一人一人の個性に応じた資質・能力をどのように高めていくかという視点も重要になる。

  • ※18 補足資料160ページ、168ページ、172~183ページ。
  • ※19 補足資料24ページ。

2.特にこれからの時代に求められる資質・能力

  • 将来の予測が困難な複雑で変化の激しい社会や、グローバル化が進展する社会に、どのように向き合い、どのような資質・能力を育成していくべきか。また、一人一人が幸福な人生を生きるためには、どのような力を育んでいくべきか。
変化の中に生きる社会的存在として
  • 複雑で変化の激しい社会の中では、固有の組織のこれまでの在り方を前提としてどのように生きるかだけではなく、様々な情報や出来事を受け止め、主体的に判断しながら、自分をどのように社会の中で位置付け、社会をどう描くかを考え、他者と一緒に生き、課題を解決していくための力が必要となる。主権を有し、今後の我が国の在り方に責任を有する国民の一人として、また、多様な個性・能力を生かして活躍する自立した人間として、こうした力を身に付け、適切な判断・意思決定や公正な世論の形成、政治参加や社会参画、一層多様性が高まる社会における自立と共生に向けた行動を取っていくことが求められる。
  • こうした観点から、国家・社会の形成者として求められる力をはじめ、生産や消費などの経済的主体等として求められる力や、安全な生活や社会づくりに必要な資質・能力(※20)を育んでいくことや、急速に情報化が進展する社会の中で、情報や情報手段を主体的に選択し活用していくために必要な情報活用能力(※21)、物事を多角的・多面的に吟味し見定めていく力(いわゆる「クリティカル・シンキング」)、統計的な分析に基づき判断する力、思考するために必要な知識やスキルなどを、各学校段階を通じて体系的に育んでいくことの重要性は高まっていると考えられる。あわせて、職業に従事するために必要な知識・技能、能力や態度の獲得も求められており、社会的要請を踏まえた職業教育の充実も重要である。
  • また、我が国が、科学技術・学術研究の先進国として、将来にわたり存在感を発揮するとともに成果を広く共有していくためには、子供たちが、卓越した研究や技術革新を担うキャリアに関心を持つことができるよう、理数科目への関心を高め、裾野を広げていくことも重要である。また、ICTの急速な進化など、高度な技術がますます身近となる社会の中で、そうした技術を理解し使いこなす科学的素養を全ての子供たちに育んでいくことも重要となる。
  • さらに、一人一人が幸福な人生を自ら創り出していくためには、情意面や態度面について、自己の感情や行動を統制する能力や、よりよい生活や人間関係を自主的に形成する態度等を育むことが重要である。こうした力は、将来の社会不適応を予防し保護要因を高め、社会を生き抜く力につながる。

  • ※20 補足資料30ページ。
  • ※21 補足資料31~33ページ。
グローバル化する社会の中で
  • また、グローバル化する中で世界と向き合うことが求められている我が国においては、日本人としての美徳やよさを備えつつグローバルな視野で活躍するために必要な資質・能力の育成が求められる。言語や文化に対する理解を深め、国語で理解したり表現したりすることや、さらには外国語を使って理解したり表現したりできるようにすることが必要である。こうした言語に関する能力を向上させるともに、古典の学習を通じて、日本人として大切にしてきた言語文化を積極的に享受していくことや、芸術を学ぶことを通じて感性等を育むことなどにより、日本文化を理解して自国の文化を語り継承することができるようにするとともに、異文化を理解し多様な人々と協働していくことができるようになることが重要である。
     また、日本のこととグローバルなことの双方を相互的に捉えながら、社会の中で自ら問題を発見し解決していくことができるよう、自国と世界の歴史の展開を広い視野から考える力や、思想や思考の多様性の理解、地球規模の諸課題や地域課題を解決し持続可能な社会づくりにつながる地理的な素養についても身に付けていく必要がある。
  • こうした観点からは、2020年に開催される東京オリンピック・パラリンピック競技大会の開催を契機に、スポーツへの関心を高め、「する、みる、支える」などの多様なスポーツとの関わり方を楽しめるようにしていくことも重要である。スポーツを通じて、他者との関わりを学んだり、ルールを守り競い合っていく力を身に付けたりすることができる。さらには、多様な国や地域の文化の理解を通じて、多様性の尊重や国際平和に寄与する態度を身に付けたり、ボランティア活動を通じて、共生社会の実現に不可欠な他者への共感や思いやりを育んだりすることにもつながる。
資質・能力の要素との関連性
  • こうした資質・能力についても、それぞれを三つの柱に沿って整理し、下記(3)1.に示す学習指導要領等の構造化の考え方の中で各教科等との関係を整理していくことが必要である。そのほか、個別のいわゆる現代的な課題やテーマに焦点化した教育についても、これらが教科横断的なテーマであることを踏まえ、それを通じてどのような資質・能力の育成を目指すのかを整理し、学習指導要領等の構造化の考え方の中で検討していくことが必要である。

3.発達の段階や成長過程のつながり

  • 育成すべき資質・能力については、幼児教育から高等学校までを通じた見通しを持って、各学校段階の教育課程全体及び各教科等においてどのように伸ばしていくのかということが、系統的に示されなければならない。
  • 選挙権年齢が18歳に引き下げられ、子供にとって政治や社会がより一層身近なものとなっていることなども踏まえ、中学校卒業後の約98%の者が、社会で生きていくために必要となる力を共通して身に付けることのできる最後の教育機関である高等学校を卒業する段階で身に付けておくべき力は何かを明確に示すことが求められている。
  • こうした「18歳の段階で身に付けておくべき力は何か」という観点や、「義務教育を終える段階で身に付けておくべき力は何か」という観点を共有しながら、幼児教育、小学校教育、中学校教育、高等学校教育それぞれの在り方を考えていく必要がある。同時に、子供たち一人一人の個々の発達課題や教育的ニーズを踏まえた対応も重要である。
  • また、近年は特別支援学校だけではなく小・中・高等学校等において発達障害を含めた障害のある子供たちが学んでおり、特別支援教育の対象となる子供の数は増加傾向にある。障害者の権利に関する条約に掲げられたインクルーシブ教育システムの理念を踏まえ、子供たちの自立と社会参加を一層推進していくため、通常の学級、通級による指導、特別支援学級、特別支援学校といった、連続性のある「多様な学びの場」において、子供たちの十分な学びを確保していく必要があり、一人一人の子供の障害の状態や発達の段階に応じた指導を一層充実させていく必要がある。
  • そうした発達の段階に応じて積み重ねていく学びの中で、地域や社会と関わり、様々な職業に出会い、社会的・職業的自立に向けた学びを積み重ねていくことが重要である。
  • 加えて、幼小、小中、中高の学びの連携・接続についても、学校段階ごとの特徴を踏まえつつ、前の学校段階での教育が次の段階で生かされるよう、学びの連続性が確保されることが重要である。

(3)育成すべき資質・能力と、学習指導要領等の構造化の方向性について

1.学習指導要領等の構造化の在り方

  • 次期学習指導要領等については、資質・能力の三つの柱全体を捉え、教育課程を通じていかに育成していくかという観点から、構造的な見直しを行うことが必要である。これはすなわち、教育課程について、「何を知っているか」という知識の内容を体系的に示した計画に留(とど)まらず、「それを使ってどのように社会・世界と関わり、よりよい人生を送るか」までを視野に入れたものとして議論するということである。
教科等の本質的意義
  • 育成すべき資質・能力と学習指導要領等との構造を整理するには、学習指導要領を構成する各教科等をなぜ学ぶのか、それを通じてどういった力が身に付くのかという、教科等の本質的な意義に立ち返って検討する必要がある。
  • 教科等における学習は、知識・技能のみならず、それぞれの体系に応じた思考力・判断力・表現力等や情意・態度等を、それぞれの教科等の文脈に応じて育む役割を有している。
  • 例えば、思考力は、国語や外国語において様々な資料から必要な情報を整理して自分の考えをまとめる過程や、社会科において社会的な事象から見いだした課題や多様な考え方を多面的・多角的に考察して自分の考えをまとめていく過程、数学において事象を数学的に捉えて問題を設定し、解決の構想を立てて考察していく過程、理科において自然の事象を目的意識を持って観察・実験し、科学的に探究する過程、音楽や美術において自分の意図や発想に基づき表現を工夫していく過程、保健体育において自己や仲間の運動課題や健康課題に気付き、その解決策を考える過程、技術・家庭科において生活の課題を見いだし、最適な解決策を追究する過程、道徳において人間としての生き方についての考えを深める過程などを通じて育まれていく(※22)。これらの思考力を基盤に判断力や表現力等も同様に、各教科等の中でその内容に応じ育まれる。
  • 情意や態度等についても同様であり、各教科等を通じて育まれた社会観や自然観、人間観などは、「どのように社会・世界と関わり、よりよい人生を送るか」を決定する構成要素となっていく。
教育課程の総体的構造
  • このように、思考力・判断力・表現力等や情意・態度等は、各教科等の文脈の中で指導される内容事項と関連付けられながら育まれていく。ただし、各教科等で育まれた力を、当該教科における文脈以外の、実社会の様々な場面で活用できる汎用的な能力に更に育てていくためには、総体的観点からの教育課程の構造上の工夫が必要になってくる。まさにその工夫が、各教科等間の内容事項についての相互の関連付けや、教科横断的な学びを行う「総合的な学習の時間」や社会参画につながる取組などを行う「特別活動」、高等学校の専門学科における「課題研究」の設定などに当たる。
  • このような資質・能力と各教科等との関係を踏まえれば、学習指導要領の全体構造を検討するに当たっては、教育課程全体でどのような資質・能力を育成していくのかという観点から、各教科等の在り方や、各教科等において育成する資質・能力を明確化し、この力はこの教科等においてこそ身に付くのだといった、各教科等を学ぶ本質的な意義を捉え直していくことが重要である。そして、各教科等で育成される資質・能力の間の関連付けや内容の体系化を図り、資質・能力の全体像を整理していくことが同じく重要であり、教育課程の全体構造と各教科等を往還的に整理していく必要がある(※23)。
  • あわせて、教科等間の横のつながりとともに、「義務教育を終える段階で身に付けておくべき力は何か」や「18歳の段階で身に付けておくべき力は何か」という観点から、初等中等教育の出口のところで身に付けておくべき力を明確にしながら、幼・小・中・高の教育を、縦のつながりの見通しを持って系統的に組織していくことも重要である。つまり、各教科等で学校や学年段階に応じて学ぶことを単に積み上げるのではなく、義務教育や高等学校教育を終える段階で身に付けておくべき力を踏まえつつ、各学校・学年段階で学ぶべき内容を見直すなど、発達の段階に応じた縦のつながりと、各教科等の横のつながりを行き来しながら、学習指導要領の全体像を構築していくことが必要である。
  • 特に、来年度から小中一貫教育が制度化(※24)され、義務教育学校や小中一貫型小・中学校(仮称)においては、4-3-2や5-4といった柔軟な学年段階の区切りの設定や、小・中学校の9年間を一貫させた教育課程の編成などが進められることも踏まえた議論が必要である。 
  • また、幼稚園教育要領においては、幼稚園教育におけるねらいや内容を「健康」「人間関係」「環境」「言葉」「表現」の領域別に示しつつ、幼稚園における生活の全体を通じて総合的に指導することとされている。こうした幼児教育の特性を大事にしつつ、幼児期において育みたい資質・能力を明確にし、幼児教育と小学校の各教科等における教育との接続の充実や関係性の整理を図る必要がある。
  • 次期改訂においては、こうした教育課程の総体的な構造を可視化していくことが求められる。したがって、教科等を束ねる総則の意義が極めて重要になる。次期学習指導要領等の総則においては、各学校が、教育課程の全体構造や教科等の相互の関係等を捉えながら教育課程を編成することができるよう、構造上の位置付けや意義を可能な限り分かりやすく提示していくべきである。こうしたことにより、教育課程を介して学校が社会や世界との接点となり、さらには、現在と未来をつなぐ役割を果たしていくことが期待される。

  • ※22 中学校の教科構成を基に例示。
  • ※23 補足資料106ページ。
  • ※24 補足資料56ページ。

2.学習活動の示し方や「アクティブ・ラーニング」の意義等

  • 次期改訂の視点は、子供たちが「何を知っているか」だけではなく、「知っていることを使ってどのように社会・世界と関わり、よりよい人生を送るか」ということであり、知識・技能、思考力・判断力・表現力等、学びに向かう力や人間性など情意・態度等に関わるものの全てを、いかに総合的に育んでいくかということである。
「アクティブ・ラーニング」の意義
  • 思考力・判断力・表現力等は、学習の中で、(2)1.2)に示したような思考・判断・表現が発揮される主体的・協働的な問題発見・解決の場面を経験することによって磨かれていく(※25)。身に付けた個別の知識や技能も、そうした学習経験の中で活用することにより定着し構造化されていき、ひいては生涯にわたり活用できるような物事の深い理解や方法の熟達に至ることが期待される。
  • また、こうした学びを推進するエンジンとなるのは、子供の学びに向かう力であり、実社会や実生活に関連した課題などを通じて動機付けを行い、子供たちの学びへの興味と努力し続ける意志を喚起する必要がある(※26)。
  • このように、次期改訂が目指す育成すべき資質・能力を育むためには、学びの量とともに、質や深まりが重要であり、子供たちが「どのように学ぶか」についても光を当てる必要があるとの認識のもと、「課題の発見・解決に向けた主体的・協働的な学び(いわゆる「アクティブ・ラーニング」)」について、これまでの議論等(※27)も踏まえつつ検討を重ねてきた。
  • 昨年11月の諮問以降、学習指導要領等の改訂に関する議論において、こうした指導方法を焦点の一つとすることについては、注意すべき点も指摘されてきた。つまり、育成すべき資質・能力を総合的に育むという意義を踏まえた積極的な取組の重要性が指摘される一方で、指導法を一定の型にはめ、教育の質の改善のための取組が、狭い意味での授業の方法や技術の改善に終始するのではないかといった懸念などである。我が国の教育界は極めて真摯に教育技術の改善を模索する教員の意欲や姿勢に支えられていることは確かであるものの、これらの工夫や改善が、ともすると本来の目的を見失い、特定の学習や指導の「型」に拘泥する事態を招きかねないのではないかとの指摘を踏まえての危惧と考えられる。

  • ※25 問題発見・解決のプロセスのイメージについては、補足資料212ページ。
  • ※26 補足資料188・189ページ。
  • ※27 補足資料184ページ。
指導方法の不断の見直し
  • 変化を見通せないこれからの時代において、新しい社会の在り方を自ら創造することができる資質・能力を子供たちに育むためには、教員自身が習得・活用・探究といった学習過程全体を見渡し、個々の内容事項を指導することによって育まれる思考力や判断力、表現力等を自覚的に認識しながら、子供たちの変化等を踏まえつつ自ら指導方法を不断に見直し、改善していくことが求められる。
  • このような中で次期改訂が学習・指導方法について目指すのは、特定の型を普及させることではなく、下記のような視点に立って学び全体を改善し、子供の学びへの積極的関与と深い理解を促すような指導や学習環境を設定することであり、教員一人一人が、子供たちの発達の段階や発達の特性、子供の学習スタイルの多様性や教育的ニーズと教科等の学習内容、単元の構成や学習の場面等に応じた方法について研究を重ね、ふさわしい方法を選択しながら、工夫して実践できるようにすることである。
    • 1)習得・活用・探究という学習プロセスの中で、問題発見・解決を念頭に置いた深い学びの過程が実現できているかどうか。
       新しい知識や技能を習得したり、それを実際に活用して、問題解決に向けた探究活動を行ったりする中で、資質・能力の三つの柱に示す力が総合的に活用・発揮される場面が設定されることが重要である。教員はこのプロセスの中で、教える場面と、子供たちに思考・判断・表現させる場面を効果的に設計し関連させながら指導していくことが求められる。
    • 2)他者との協働や外界との相互作用を通じて、自らの考えを広げ深める、対話的な学びの過程が実現できているかどうか。
       身に付けた知識や技能を定着させるとともに、物事の多面的で深い理解に至るためには、多様な表現を通じて、教師と子供や、子供同士が対話し、それによって思考を広げ深めていくことが求められる。こうした観点から、前回改訂における各教科等を貫く改善の視点である言語活動の充実も、引き続き重要である。
    • 3)子供たちが見通しを持って粘り強く取り組み、自らの学習活動を振り返って次につなげる、主体的な学びの過程が実現できているかどうか。
       子供自身が興味を持って積極的に取り組むとともに、学習活動を自ら振り返り意味付けたり、獲得された知識・技能や育成された資質・能力を自覚したり、共有したりすることが重要である。子供の学びに向かう力を刺激するためには、実社会や実生活に関わる主題に関する学習を積極的に取り入れていくことや、前回改訂で重視された体験活動の充実を図り、その成果を振り返って次の学びにつなげていくことなども引き続き重要である。
  • こうした、必要な資質・能力を総合的に育むための学びは、特に小・中学校では、全国学力・学習状況調査において、主として「活用」に関する問題(いわゆるB問題)が出題され、関係者の意識改革や授業改善に大きな影響を与えたことなどもあり、多くの関係者による実践が重ねられてきている。「アクティブ・ラーニング」を重視する流れは、こうした優れた実践を踏まえた成果であり、また、今後は特に高等学校において、義務教育までの成果を確実につなぎ、一人一人に育まれた力を更に発展・向上させることが求められる。
  • なお、こうした質の高い深い学びを目指す中で、教員には、指導方法を工夫して必要な知識・技能を教授しながら、それに加えて、子供たちの思考を深め発言を促したり、気付いていない視点を提示したりするなど、学びに必要な指導の在り方を追究し、必要な学習環境を積極的に設定していくことが求められる。そうした中で、着実な習得の学習が展開されてこそ、主体的・能動的な活用・探究の学習を展開することができると考えられる。
  • 次期学習指導要領等は、そうした実践を支える理念を提供するため、各教科等共通に重視すべき学習過程の在り方や、各教科等の特性に応じて重視すべき学習過程の在り方に関する基本的な考え方を示すことが求められる。加えて、学習指導要領等の解説や指導事例集も含めた全体の姿の中で、指導の参考となる解説や事例を示すとともに、下記4.に示す方策等を通じて、更なる支援を図っていく必要がある。なお、こうした事例を示す際には、それにより指導が固定化されないような工夫が求められる。

3.学習評価の在り方について

  • 学習評価は、学校における教育活動に関し、子供たちの学習状況を評価するものである。「子供たちに何が身に付いたか」という学習の成果を的確に捉え、教員が指導の改善を図るとともに、子供たち自身が自らの学びを振り返って次の学びに向かうことができるようにするためには、この学習評価の在り方が極めて重要であり、教育課程や学習・指導方法の改善と一貫性を持った形で改善を進めることが求められる。
  • 子供たちの学習状況を評価するために、教員は、個々の授業のねらいをどこまでどのように達成したかだけではなく、子供たち一人一人が、前の学びからどのように成長し、より深い学びに向かっているかどうかを捉えていくことが必要である。
  • また、学習評価については、子供の学びの評価に留まらず、4.(1)に述べる「カリキュラム・マネジメント」の中で、学習・指導方法や教育課程の評価と結び付け、子供たちの学びに関わる学習評価の改善を、教育課程や学習・指導方法の改善に発展・展開させ、授業改善及び組織運営の改善に向けた学校教育全体のサイクルに位置付けていくことが必要である。

評価の三つの観点

  • 現在、各教科について、学習状況を分析的に捉える観点別学習状況の評価(※28)と、総括的に捉える評定とを、学習指導要領に定める目標に準拠した評価として実施することが明確にされている。評価の観点については、従来の4観点の枠組みを踏まえつつ、学校教育法第30条第2項が定める学校教育において重視すべき三要素(「知識・技能」「思考力・判断力・表現力等」「主体的に学習に取り組む態度」)を踏まえて再整理され、現在、「知識・理解」「技能」「思考・判断・表現」「関心・意欲・態度」の四つの観点が設定されているところである。
  • 今後、小・中学校を中心に定着してきたこれまでの学習評価の成果を踏まえつつ、目標に準拠した評価を更に進めていくためには、学校教育法が規定する三要素との関係を更に明確にし、育成すべき資質・能力の三つの柱に沿って各教科の指導改善等が図られるよう、評価の観点については、「知識・技能」「思考・判断・表現」「主体的に学習に取り組む態度」の3観点に沿った整理を検討していく必要があると考える。その中で、観点別学習状況の評価と、それらを総括した評定との関係についても、改めて整理していくことが求められる。
  • 観点別学習状況の評価の観点は、各教科における教育の目標と表裏一体の関係にあることから、今後、各教科において、育成すべき資質・能力を踏まえて教育の目標を検討する際には、評価の観点の在り方と一貫性を持った形で検討を進めていくことが必要である。
  • その際、上記2.(2)1.3)(「学びに向かう力、人間性等」)に示された資質・能力には、感性や思いやりなど幅広いものが含まれるが、これらは観点別学習状況の評価になじむものではないことから、評価の観点としては学校教育法に示された「主体的に学習に取り組む態度」として設定し、感性や思いやり等については観点別学習状況の評価の対象外とすべきである。
  • なお、観点別学習状況の評価には十分示しきれない、児童生徒一人一人のよい点や可能性、進歩の状況等については、日々の教育活動や総合所見等を通じて積極的に子供に伝えることが重要である。

  • ※28 補足資料35ページ。

評価に当たっての留意点等

  • 現在の「関心・意欲・態度」の評価に関しては、例えば、正しいノートの取り方や挙手の回数をもって評価するなど、本来の趣旨とは異なる表面的な評価が行われているとの指摘もあるところである。「主体的に学習に取り組む態度」については、このような表面的な形式を評価するのではなく、上記2.(3)2.3)に示した「主体的な学び」の意義も踏まえつつ、子供たちが学びの見通しを持って、粘り強く取り組み、自らの学習活動を振り返って次につなげる、主体的な学びの過程の実現に向かっているかどうかという観点から、学習内容に対する子供たちの関心・意欲・態度等を見取り、評価していくことが必要である。
  • こうした観点別学習状況の評価については、小・中学校と高等学校とでは取組に差があり、高等学校では、知識量のみを問うペーパーテストの結果や、特定の活動の結果などのみに偏重した評価が行われているのではないかとの懸念も示されているところである。義務教育までにバランスよく培われた資質・能力を、高等学校教育を通じて更に発展・向上させることができるよう、高等学校教育においても、指導要録の様式の改善などを通じて評価の観点を明確にし、観点別学習状況の評価をさらに普及させていく必要がある。
  • また、三要素のバランスのとれた学習評価を行っていくためには、指導と評価の一体化を図る中で、論述やレポートの作成、発表、グループでの話合い、作品の制作等といった多様な活動に取り組ませるパフォーマンス評価を取り入れ、ペーパーテストの結果に留(とど)まらない、多面的な評価(※29)を行っていくことが必要である。さらには、総括的な評価のみならず、一人一人の学びの多様性に応じて、学習の過程における形成的な評価を行い、子供たちの資質・能力がどのように伸びているかを、例えば、日々の記録やポートフォリオなどを通じて、子供たち自身が把握できるようにしていくことも考えられる。
  • こうした評価を行う中で、教員には、子供たちが行っている学習にどのような価値があるのかを認め、子供自身にもその意味に気付かせていくことが求められる。教員一人一人が、子供たちの学習の質を捉えることのできる目を培っていくことができるよう、4.(2)に示すような研修の充実等を図っていく必要がある。
  • このような評価の在り方については、本「論点整理」を踏まえ、審議まとめに向けて引き続き専門的な検討を行うことが求められる。

  • ※29 補足資料36ページ、199ページ。

4.学習指導要領等の理念を実現するために必要な方策

(1)「カリキュラム・マネジメント」の重要性

  • 教育課程とは、学校教育の目的や目標を達成するために、教育の内容を子供の心身の発達に応じ、授業時数との関連において総合的に組織した学校の教育計画であり、その編成主体は各学校である。各学校には、学習指導要領等を受け止めつつ、子供たちの姿や地域の実状等を踏まえて、各学校が教育目標を実現するために、学習指導要領等に基づきどのような教育課程を編成し、どのようにそれを実施・評価し改善していくのかという「カリキュラム・マネジメント」の確立が求められる。
  • 特に、今回の改訂が目指す理念を実現するためには、教育内容の改善のみならず、学習・指導方法や学習評価の改善が、さらには、学校組織の改善が求められており、各学校が編成する教育課程を核に、どのように教育活動や組織運営などの学校の全体的な在り方を改善していくのかが重要な鍵となる。

三つの側面

  • こうした「カリキュラム・マネジメント」については、これまで、教育課程の在り方を不断に見直すという下記2.の側面から重視されてきているところであるが、「子供たちにどのような力を身に付けていくか」という新しい学習指導要領等の理念を踏まえ、これからの「カリキュラム・マネジメント」については、以下の三つの側面から捉えられる。
    1. 各教科等の教育内容を相互の関係で捉え、学校の教育目標を踏まえた教科横断的な視点で、その目標の達成に必要な教育の内容を組織的に配列していくこと。
    2. 教育内容の質の向上に向けて、子供たちの姿や地域の現状等に関する調査や各種データ等に基づき、教育課程を編成し、実施し、評価して改善を図る一連のPDCAサイクルを確立すること。
    3. 教育内容と、教育活動に必要な人的・物的資源等を、地域等の外部の資源も含めて活用しながら効果的に組み合わせること。

教育課程全体を通しての取組

  • これからの時代に求められる資質・能力を育むためには、各教科等の学習とともに、教科横断的な視点で学習を成り立たせていくことが課題となる。そのため、各教科等における学習の充実はもとより、教科等間のつながりを捉えた学習を進める観点から、教科等間の内容事項について、相互の関連付けや横断を図る手立てや体制を整える必要がある。
  • このため、「カリキュラム・マネジメント」を通じて、各教科等の教育内容を相互の関係で捉え、必要な教育内容を組織的に配列し、更に必要な資源を投入する営みが重要となる。個々の教育活動を教育課程に位置付け、教育活動相互の関係を捉え、教育課程全体と各教科等の内容を往還させる営みが、「カリキュラム・マネジメント」を支えることになる。

学校全体としての取組

  • 「カリキュラム・マネジメント」については、校長又は園長を中心としつつ、教科等の縦割りや学年を越えて、学校全体で取り組んでいく必要がある。そのためには、管理職のみならず全ての教職員がその必要性を理解し、日々の授業等についても、教育課程全体の中での位置付けを意識しながら取り組む必要がある。また、学習指導要領等を豊かに読み取りながら、各学校の子供たちの姿や地域の実状等と指導内容を照らし合わせ、効果的な年間指導計画等の在り方や、授業時間や週時程の在り方等について、校内研修等を通じて研究を重ねていくことも考えられる。
  • こうした「カリキュラム・マネジメント」については、管理職のみならず、全ての教員が責任を持ち、そのために必要な力を、下記(2)に示す支援方策等を通じて、教員一人一人が身に付けられるようにしていくことが必要である。また、「社会に開かれた教育課程」の観点からは、学校内だけではなく、保護者や地域の人々等を巻き込んだ「カリキュラム・マネジメント」を確立していくことも重要である。
  • なお、2.(3)2.に示した「アクティブ・ラーニング」は、狭い意味における授業の方法や技術の改善に留(とど)まるものではなく、子供たちの深く対話的で主体的な学びを引き出し、どのような資質・能力を育むかという観点から、学習の在り方そのものについて、その問い直しを目指すものである。また、「カリキュラム・マネジメント」は、学校の組織力を高める観点から、学校の組織及び運営について見直しを迫るものである。
  • その意味において、次期改訂に向けて提起された「アクティブ・ラーニング」と「カリキュラム・マネジメント」は、授業改善や組織運営の改善など、学校の全体的な改善を行うための鍵となる二つの重要な概念として位置付けられるものであり、相互の連動を図り、機能させることが大切である。教育課程を核に、授業改善及び組織運営の改善に一体的・全体的に迫ることのできる組織文化の形成を図り、「アクティブ・ラーニング」と「カリキュラム・マネジメント」を連動させた学校経営の展開が、それぞれの学校や地域の実態を基に展開されることが求められる。

(2)学習指導要領等の理念の実現に向けて必要な支援方策等

  • 先を見通すことが難しい社会の中で、新しい社会の在り方を創造することができる資質・能力を子供たちに育むためには、教育に携わる教員一人一人の力量を高めていく必要がある。

教員への国際的評価と課題

  • 我が国の教員に対する国際的な評価はもともと高く、特に、各教科等における授業改善に向けて行われる多様な研究に関しては、海外からも極めて高い関心が寄せられている。とりわけ、各学校における教員の学び合いを基調とする「授業研究」は、我が国において独自に発展した教員研修の仕組みであるが、近年「レッスン・スタディ」として国際的な広がりを見せている。
  • こうした従来の強みを生かしつつ、これからの教員には、学級経営や幼児・児童・生徒理解等に必要な力に加え、教科等を越えた「カリキュラム・マネジメント」のために必要な力や、「アクティブ・ラーニング」の視点から学習・指導方法を改善していくために必要な力、学習評価の改善に必要な力等が求められる。教員一人一人が社会の変化を見据えながら、これからの時代の必要な資質・能力を子供たちに育むことができるよう、教員の養成・採用・研修を通じて改善を図っていくことが必要である。
  • 教員養成・採用・研修の改善のために必要な改革等の方向性については、中央教育審議会初等中等教育分科会教員養成部会が取りまとめた「これからの学校教育を担う教員の資質能力の向上について(中間まとめ)」(※30)においても示されているところである。この中では、国、教育委員会、学校、大学等が目標を共有して互いに連携しながら、次期学習指導要領等に向けて教員に求められる力を効果的に育成できるよう、教員に求められる能力を明確化する教員育成指標や、それを踏まえた研修指針の策定などが提言されているところである。教員研修自体を、主体的・協働的な学びの要素を一層含んだものに転換していこうとする提言なども含まれており、今後とも、下記5.において示される新科目の設置等を受けた対応も含め、教育課程の改善に向けた議論と歩調を合わせて具体化していくことが求められる。

環境の整備

  • こうした取組を通じて、教員一人一人が校内研修、校外研修などの様々な研修の機会を活用したり、自主的な学習を積み重ねたりしながらその力量を向上させていくとともに、教員一人一人の力量が発揮されるよう、必要な環境を整備していくことも必要である。
  • 上述のような教員の研修機会を確保するとともに、次期学習指導要領等を踏まえた「カリキュラム・マネジメント」の実現や、「アクティブ・ラーニング」の視点に立った学びを推進するための少人数によるきめ細かな指導の充実など、新たな学習・指導方法等に対応するため、必要な教職員定数の拡充を図ることが求められる。ICTも含めた必要なインフラ環境の整備を図ることも重要である。
  • また、学校を取り巻く新たな課題に対応していくためには、初等中等教育分科会に置かれた「チームとしての学校・教職員の在り方に関する作業部会」が取りまとめた「チームとしての学校の在り方と今後の改善方策について(中間まとめ)」(※31)が示すように、事務体制の強化を図るとともに、教員以外の専門スタッフも参画した「チームとしての学校」の実現を通じて、複雑化・多様化した課題を解決に導いたり、教員が子供と向き合う時間的・精神的な余裕を確保したりしていくことが重要である。加えて、校長又は園長のリーダーシップのもと、「カリキュラム・マネジメント」を核に学校の組織運営を改善・強化していくことや、教育課程の実施をはじめとした学校運営を、「コミュニティ・スクール」や様々な地域人材との連携等を通じて地域で支えていくことなどについても、積極的に進めていくことが重要である。
  • さらに、教科書を含めて必要な教材や情報機器についても、上記2.(3)2.1)~3)の視点を踏まえて改善を図り、新たな学びや多様な学習ニーズに対応したものとしていく必要がある。
  • 国や各教育委員会等においても、教科等別の学習指導に関する改善のみならず、教科等を横断した教育課程全体の改善について助言を行うことができるような体制を整えていくことが必要であり、教育委員会における指導担当部課長や指導主事等の力量の向上が求められる(※32)。加えて、学習・指導方法の改善について、モデル校の先進事例等を動画も含めて参照できるようなアーカイブを整備していくことも考えられる。
  • また、経済的状況に関わらず教育を受けられる機会を整えていくことや、家庭環境や家族の状況の変化等を踏まえた適切な配慮を行っていくことも不可欠である。

  • ※30 補足資料38・39ページ。
  • ※31 補足資料40ページ。
  • ※32 伝達講習などの機会のみならず、学校の環境の中でいかに教員が育っていくかという視野を持った体制の充実が求められる。

新しい教育課程が目指す理念の共有

  • こうした取組を進めるに当たっては、新しい教育課程が目指す理念を、学校や教育関係者のみならず、保護者や地域の人々、産業界等を含め広く共有し、子供の成長に社会全体で協働的に関わっていくことが必要である。
  • 地域社会と教育理念を共有していくことは、様々な教育課題に対して、学校教育だけではなく社会教育と連携・分担しながら地域ぐるみで対応していくことにつながる。また、保護者の理解と協力を得ることは、学校教育の質の向上のみならず、家庭教育を充実させていくためにも大きな効果があると考えられる。国には、本「論点整理」を広く広報し、その成果を今後の審議まとめ等に生かしていくことが求められる。

5.各学校段階、各教科等における改訂の具体的な方向性

  • 新たな教育課程は、社会が著しく変化する中で未来を創造する次世代への教育を実現するものであり、前章までに述べたように、各学校段階と各教科等が相互に連携し全体としての学校教育の在り方を示すことを特色としている。
  • そのために、各学校段階、また各教科等の具体的な内容についても、学校教育全体の姿を常に念頭に置き、学校間、教科等間の相互連携と協働にも努めることが重要である。教育課程全体が目指す姿と教科等という構成要素が目指す方向性の双方を明らかにしていくことや、発達の段階に応じた縦のつながりと教科等間の関係という横のつながりを念頭に置きながら、総論的な検討と各論的な検討を相互につないで議論を深めていくことなどが求められる。
  • 今後の議論においては、総則等に関する議論を行う専門部会が、全学校段階・全教科等に関わる教育課程全体を見渡し、議論全体を統括する役割を担うことともに、その中で、学校段階ごとに育成すべき資質・能力の明確化等を行う各学校段階別の専門部会における議論と、各教科等別に幼・小・中・高を通じて育成すべき資質・能力の明確化等を行う各教科等別の検討グループにおける議論を有機的につなげながら、審議まとめ及び答申に向けた議論が進められることを求めるものである。
  • こうした進め方の中で、各学校段階及び各教科等における検討に当たっては、以下のような方向性に基づき議論が進められるよう求める。

(1)各学校段階の教育課程の基本的な枠組みと、学校段階間の接続

1.幼児教育

  • 幼児期は、生涯にわたる人格形成の基礎を培う重要な時期であることを踏まえ、義務教育及びその後の教育の基礎となるものとして、幼児に育成すべき資質・能力を育む観点から、教育目標・内容と指導方法、評価の在り方を一体として検討する必要がある。
  • 具体的には、子供の発達や学びの連続性を踏まえ、また、幼児期において、探究心や思考力、表現力等に加えて、感情や行動のコントロール、粘り強さ等のいわゆる非認知的能力を育むことがその後の学びと関わる重要な点であると指摘されていることを踏まえ、小学校の各教科等における教育の単純な前倒しにならないよう留意しつつ、幼児期の終わりまでに育ってほしい姿の明確化を図ることや、幼児教育にふさわしい評価の在り方を検討するなど、幼児教育の特性等に配慮しながらその内容の改善・充実が求められる。
  • また、例えば、幼児が音声の響きやリズムに気付くこと、生活に必要な言葉を分かったり使ったりすること、生活の中で様々な色、形などに気付いたり感じたりすること、場面に応じ体の諸部位を十分に動かすことなどが、小学校以降の生活や学習の基盤につながると指摘されていることも踏まえ、今後の検討において、専門的・具体的に議論を深めていくことが求められる(※33)。その際、幼児一人一人に応じた対応を行うことや、日々の活動が小学校以降の生活や学習の基盤につながっていることを幼稚園の教員が再認識し、意図的に取り組むことなども求められる。
  • そうした幼児教育の改善・充実を図る中で、小学校教育との接続を一層強化していくことが重要である。幼児教育と小学校教育の円滑な接続を支援するため、幼児と児童の交流の推進、指導資料・教材等の開発、幼稚園と小学校の教員の人事交流や教員・行政担当者の研修をはじめとした教員等の資質能力の向上、教育委員会等における幼児教育の推進体制の充実などの条件整備が求められる。
  • そのほか、子供の発達の連続性を踏まえた幼児教育を充実するために、子供一人一人の多様性への配慮や学校と家庭、地域との連携強化の観点から、幼稚園における子育ての支援等について、具体的な留意事項の在り方等に関する検討を行う必要がある。 
  • なお、幼児期の教育については、幼稚園のみならず、保育所、認定こども園で担われていることを踏まえ、これらの全ての施設における全体としての教育の質を確保することが求められる(※34)。

  • ※33 学びの連続性の観点から、幼児期において、音韻の意識や視覚の認知、粗大運動・協調運動・巧緻性等を育むことなども重要であるとの指摘があったところである。
  • ※34 幼稚園と保育所との関係については、これまでも幼稚園教育要領と保育所保育指針の作成に当たり教育内容の整合性を図ってきており、今後も引き続き、幼稚園と保育所との連携を進めていく必要がある。また、認定こども園法の規定により、幼保連携型認定こども園教育・保育要領を策定するに当たっては、幼稚園教育要領及び保育所保育指針との整合性の確保に配慮しなければならないこととされている。

2.小学校

  • 小学校においては、「各個人の有する能力を伸ばしつつ社会において自立的に生きる基礎」を培うこと及び「国家及び社会の形成者として必要とされる基本的な資質」を養うことを目的とする義務教育(※35)のうち、基礎的なものを施すことが目的である。幼児教育までの学びを生かしながら、小学校段階において育むべき資質・能力を、三つの柱に沿って、教育課程全体及び教科等ごとに明確化し、中学校以後の学びに円滑に接続させることが求められる。
  • その中で、現行学習指導要領の各教科等の授業時数や指導内容を前提としつつ、2.(2)2.に示した「特にこれからの時代に求められる資質・能力等」を踏まえ、関連する各教科等の改善を図るとともに、教科等における具体的な指導内容によって育まれる資質・能力の関係性を可視化していくことが必要である。
  • ただし、この中でも特に、国語や外国語を使って理解したり表現したりするための言語に関する能力を高めていくためには、国語教育と外国語教育のそれぞれを充実させつつ、国語と外国語の音声、文字、語句や単語、文構造、表記の仕方等の特徴や違いに気付き、言語の仕組みを理解できるよう、国語教育と外国語教育を効果的に連携させていく必要がある(※36)。こうした言語に関する能力を向上する観点からの外国語教育の充実は、積極的にコミュニケーションを図ろうとする態度の育成や国語の能力の向上にも大きな効果があると考えられる。
  • このため、国語教育においては、下記(2)2.に示すように、国語の音声、文字、語句、文構造、表記の仕方等の仕組みについても、外国語教育と関連付けながら理解できるようにするための指導を充実させていく(※37)ことが求められる。また、外国語教育においても、(2)12.及び別紙に示すようなこれまでの成果と課題を踏まえた方向性の中で、国語教育と関連付けながら、高学年においては外国語の4技能を扱う知識・技能を学び、語彙や表現などを繰り返し活用した言語活動から、自分の考えや気持ちなどを聞き手を意識しながら伝えようとするコミュニケーション活動までの総合的な活動を展開し定着を図るため、教科として系統的な指導を行うことが、また、中学年においては外国語に慣れ親しみ、「聞く」「話す」の2技能を中心に外国語学習への動機付けを高めるための外国語活動を行うことが求められる。
  • その場合の外国語の授業時数については、別紙に示すように、小学校高学年において、例えば、現行の外国語活動に必要な時間の倍程度となる年間70単位時間程度の時数が、中学年における外国語活動については、現行の外国語活動と同様に35単位時間程度が必要であると考えられる。
  • これらの年間35単位時間増となる時数を確保するためには、高学年においては、平成20年答申の小・中学校の教育課程の枠組みに関する小学校の授業時数(年間の総授業時数)の考え方(※38)を踏まえつつ、知識・技能の定着等を図るため、ICT等も活用しながら10~15分程度の短い時間を単位として繰り返し教科指導を行う効果的な短時間学習(帯学習、モジュール学習。以下、「短時間学習」という。)として実施する可能性も含めた専門的な検討が必要となる(※39)。弾力的な授業時間の設定に関する先行的な取組の分析を踏まえつつ、教育課程全体における短時間学習の位置付けを明確化するとともに、別紙に示す課題等も含め、外国語等における短時間学習の実施に向けた課題について専門的に検討を行う必要がある。
  • こうした短時間学習を通じて、高学年における年間35単位時間増分を確保することが難しい場合には、外国語の指導のために必要な時数の在り方や、他教科等の時数の在り方を含め、教育課程全体にわたる更なる検討が必要になることから、上記の短時間学習に関する専門的な検討を行った上で、再度、当部会において小学校の教育課程全体を見通した観点から検討を行い、平成27年内から平成28年当初を目途に結論を得る。
  • 中学年においても、年間35単位時間増となる時数を確保するためには、他教科等の時数の在り方を含めた教育課程全体にわたる抜本的な検討が必要となることから、高学年における時数の在り方と併せて、再度当部会において小学校の教育課程全体を見通した観点から検討を行い、平成27年内から平成28年当初を目途に結論を得る。
  • 幼児教育と小学校教育の接続に関しては、全ての教科等において幼児教育との接続を意識した教育課程を編成したり、幼児教育の特色を生かした総合的な指導方法を取り入れたりするなど、スタートカリキュラムの編成等を通じて、幼児教育との接続の充実や関係性の整理を図る必要がある。また、中学校教育との接続については、下記3.にも示すように、小中一貫教育の制度化に関係する動き等も踏まえた検討が必要である。こうした接続を確かなものとするため、接続を担当する教員のみならず、小学校全体の教職員による取組が求められる。

  • ※35 教育基本法(平成18年法律第120号)第5条第2項
  • ※36 国語教育や外国語教育においては、言葉の特徴やきまりに関し、音声(音韻を含む)やメタ言語の意識等を踏まえた指導が重要と指摘されており、引き続き、専門的な見地から検討を行う必要がある。
  • ※37 前回改訂においても、例えば中学校国語科においては「他の言語と比べた国語の特質」の理解を重視することとされたところである。また、高等学校国語科においては、音韻や文字、表記等について外国語との対比から理解するようにすることや、現代の国語と外国語との関わり、言語の違いによるものの見方、感じ方、考え方の違いなどについて理解し合うことに役立つ教材が必要であることなどとされているところである。
  • ※38  「幼稚園、小学校、中学校、高等学校及び特別支援学校の学習指導要領等の改善について(答申)」(平成20年1月中央教育審議会)(抜粋)
    6.教育課程の基本的な枠組み
    (1)小・中学校の教育課程の枠組み
     2.(小学校の授業時数(年間の総授業時数)においては、)小学校第4学年から第6学年にかけては現在の週27コマから1コマ増加し、週28コマを年間35週以上にわたって行うこととなる。これについては、学校では、一週間の中で、各教科等の授業以外にも、特別活動として児童会活動やクラブ活動が行われているほか、個別の児童に対する補充指導や生徒指導といった取組もなされている、9.にあるとおり学校が組織力を高め、教育課題に組織的に対応するに当たっては、校長や副校長、教頭、主幹教諭、教師との間の情報交換や意思疎通のための時間の確保なども必要である、ことなどから、学習指導要領上の標準授業時数を増加する場合、週28コマが限度と考えられる。
  • ※39 補足資料136~141ページ。

3.中学校

  • 中学校においては、義務教育を行う最後の教育機関として、教育基本法第5条第2項が規定する「各個人の有する能力を伸ばしつつ社会において自立的に生きる基礎」及び「国家及び社会の形成者として必要とされる基本的な資質」を卒業までに育むことができるよう、小学校教育の基礎の上に、中学校教育を通じて身に付けるべき資質・能力を、三つの柱に沿って、教育課程全体及び教科等ごとに明確化し、その育成を高等学校教育等のその後の学びに円滑に接続させることが求められる。
  • 特に外国語教育については、上記2.のとおり小学校段階での充実を前提に、3年間を通じて毎学年週4コマ、合計で420単位時間の授業時数となっている。この成果を最大化して高等学校教育につなぐ観点から、互いの考えや気持ちを伝え合うことなどを通じて思考・判断・表現を行うことができる指導内容などの抜本的な質的改善や、教科書を含めて必要な教材の改善・充実が求められる。
  • そうした中で、現行学習指導要領の各教科等の授業時数や指導内容を前提としつつ、2.(2)2.に示した「特にこれからの時代に求められる資質・能力等」を踏まえ、関連する各教科等の改善を図るとともに、教科等間の関係性を可視化していくことが必要である。
  • その際、小中一貫教育の制度化に伴い、4-3-2や5-4といった柔軟な学年段階の区切りの設定や、小・中学校の9年間を一貫した教育課程の編成などが期待されることも踏まえ、義務教育としての小・中学校教育の一貫性を強化する視点や、義務教育学校や小中一貫型小・中学校(仮称)における特色ある取組に向けた柔軟な運用を可能とする視点から、義務教育の9年間を見通した学習指導要領の在り方も検討する必要がある。 

4.高等学校

  • 高等学校は、中学校卒業後の約98%の者が進学し、社会で生きていくために必要となる力を共通して身に付けることのできる最後の教育機関である。また、その教育を通じて、一人一人の生徒の進路に応じた多様な可能性を伸ばし、その後の高等教育機関等や社会での活動へと接続させていくことが期待されている。
  • こうした役割と責任を果たすことができるよう、昨年12月に取りまとめられた中央教育審議会答申「新しい時代にふさわしい高大接続の実現に向けた高等学校教育、大学教育、大学入学者選抜の一体的改革について」(※40)等を踏まえ、一人一人の生徒が、義務教育を基盤として、1.十分な知識・技能と、2.それらを基盤にして答えのない問題に自ら答えを見いだしていく思考力・判断力・表現力等(※41)と、3.これらの基になる主体性を持って多様な人々と協働して学ぶ態度とを身に付けていくことができるよう、高大接続改革の全体像を見据えながら、高等学校教育の改革を実現していくことが求められている。その具体的な教育課程の在り方等については、下記に示すように「共通性の確保」と「多様化への対応」の観点を軸として検討する必要がある。
  • 社会で生きていくために必要となる力を共通して身に付ける「共通性の確保」の観点からは、昨年6月に中央教育審議会初等中等教育分科会高等学校教育部会が取りまとめた「コア」(※42)についての整理を踏まえつつ、全ての生徒が共通に身に付けるべき資質・能力を、三つの柱に沿って明確化し、それらを育む必履修教科・科目等の改善を図るとともに、教科・科目等間の関係性を可視化していくことが必要である。
  • 特に、国語科、地理歴史科、公民科、外国語科、情報科における必履修科目の在り方については、各教科における現状の課題や、2.(2)2.に示した「特にこれからの時代に求められる資質・能力等」を踏まえ、それぞれ下記(2)に示すとおり、共通必履修科目の設置や科目構成の見直しなど、抜本的な検討を行うことが考えられる。
  • また、一人一人の生徒の進路に応じた多様な可能性を伸ばす「多様化への対応」の観点からは、学び直しや特別な支援が必要な生徒への指導や、優れた才能や個性を有する生徒への指導や支援など、様々な幅広い学習ニーズがあることを踏まえつつ、各高等学校が、それぞれの学校や学科の特色に応じた魅力ある教育課程を編成・実施できるようにする必要がある。
  • このため、必履修科目に関する見直しと併せて、選択科目や専門教科・科目についてもそれぞれ現状の課題を踏まえた改善を図る。特に理数教育については、スーパーサイエンスハイスクールにおける取組事例なども参考にしつつ、(2)4.及び5.に示すとおり、数学と理科の知識や技能を総合的に活用して主体的な探究活動を行う選択科目を新設することなどが考えられる。
  • 加えて、学び直し等の多様な要請に応えるため、各高等学校が生徒の実態等を考慮して、学校設定教科・科目(※43)を活用することや、学習指導要領上の教科・科目等について標準単位数を増加して対応することなども、「カリキュラム・マネジメント」の中で検討されるべきである。こうした柔軟な対応のために必要な事項についても、総則の在り方をはじめとした今後の検討の中で整理していくことが求められる。
  • さらには、上述のスーパーサイエンスハイスクールや、スーパーグローバルハイスクール、スーパー・プロフェッショナル・ハイスクールにおける先進的な教育課程の研究成果や、論理的思考力や表現力、探究心等を備えた人間育成を目指す国際バカロレア(※44)のカリキュラム等も踏まえながら、教科等における学びと教科横断的な学びを教育課程の中でより一層効果的に関連付けていくことも求められる。
  • 以上のような教科・科目等の在り方を含む教育内容の見直しを、2.(3)に示した「アクティブ・ラーニング」の視点からの学習・指導方法の不断の改善や、「高等学校基礎学力テスト(仮称)」(※45)の導入をはじめとする学習評価の推進等と一体的に実施することにより、高等学校教育を通じて、高大接続改革が目指す「真の学ぶ力」を含む育成すべき資質・能力を、生徒一人一人の多様な進路に応じて確実に育んでいくことが重要である(※46)。
  • こうして育まれた一人一人の資質・能力が、大学進学希望者については個別入学者選抜や「大学入学希望者学力評価テスト(仮称)」(※47)を通じて、就職希望者については採用試験等を通じて多面的に評価され、進学先や就職先において更にその資質・能力を向上・発展させ花開かせていくことができるよう、引き続き高大接続改革等と調和を図りながら検討を進めていくことも重要である。

  • ※40 補足資料203~206ページ。
  • ※41 今後の社会の在り方・変容を踏まえれば、大学における学習や社会生活において、主体性を持って多様な人々と協力して問題を発見し解を見いだしていくために必要な、以下のような思考・判断・表現等を行えるかどうかがますます重要となると考えられる(補足資料211ページ)。
    (1)現在の状況から問題を発見・定義し、必要な情報を収集して解決のための構想を立て、計画を実行し、結果を振り返って次の問題解決につなげること(問題発見・解決とメタ認知)。
    (2)問題発見・解決のプロセスの中でも、特に以下のような思考・判断・表現等が行えること。
     1.推論、仮説の形成、2.学習を通じた創造的思考、3.適切な判断・意思決定、4.相手や状況に応じた表現や構成
    (3)問題発見・解決のプロセスを、主体的に実行するだけではなく、他の考え方との共通点や相違点を整理したり、異なる考え方を統合させたりしながら実行していくこと。(cf. PISAの協同問題解決)
  • ※42 補足資料202ページ。
  • ※43 補足資料62ページ。
  • ※44 補足資料165ページ。
  • ※45 補足資料207・208ページ。
  • ※46 補足資料63~66ページ。
  • ※47 補足資料209・210ページ。

5.幼稚園、小学校、中学校、高等学校等における特別支援教育、特別支援学校

  • 全ての学校や学級に、発達障害を含めた障害のある子供たちが在籍する可能性があることを前提として、一人一人の子供の状況や発達の段階に応じた十分な学びを確保し、障害のある子供たちの自立や社会参画に向けた主体的な取組を支援するという視点が重要である。
  • このため、幼稚園、小学校、中学校、高等学校等においては、個々の学びの特性に配慮した、きめ細かな授業等が実施できるよう、幼稚園教育要領、幼保連携型認定こども園教育・保育要領、小・中・高等学校学習指導要領において、特別支援教育に関する記述の更なる充実を図ることが求められる。その際、各教科等の目標を実現する上で考えられる困難さに配慮するために必要な支援を示したり、通級による指導や特別支援学級の意義、それらの教育課程の取扱い、合理的配慮の提供も含めた「個別の教育支援計画」や「個別の指導計画」の位置付け、特別支援教育コーディネーターを中心とした支援体制の確立等の観点等を明確化したりすることが必要である。あわせて、2020年の東京オリンピック・パラリンピック競技大会の開催等も契機としながら、共生社会の形成に向けた障害者理解の促進を明確に位置付け、交流及び共同学習の更なる充実を図ることも必要である。
  • また、特別支援学校においては、近年特に高等部生徒数の増加や、在籍する知的障害のある児童生徒数の増加がみられるなど、障害の状態の多様化に対応した特別支援学校学習指導要領の改善・充実が必要である。特に、幼児児童生徒の発達の段階に応じた自立活動の改善・充実、これからの時代に求められる資質・能力を踏まえた、障害のある幼児児童生徒一人一人の進路に応じたキャリア教育の充実、知的障害のある児童生徒のための教科の改善・充実を図ることが求められる。また、幼稚園、小学校、中学校、高等学校等との円滑な接続についても改善を図ることが必要である。

(2)各教科・科目等の内容の見直し

1.総則

  • 学習指導要領等の総則においては、教育課程編成の基本的な仕組みや配慮事項、各教科等の内容に関する共通的な事項、学校教育法施行規則が規定する年間授業時数等を踏まえた授業時数等の取扱いに関する事項、各学校における指導計画の作成に当たって配慮すべき事項など、各教科等にわたる通則的事項が示されている。このように総則は、各教科等をつなぎ教育課程の全体像を示す重要な役割を有するものである。
  • 今後、教育課程全体を通じて子供たちがどのような資質・能力を身に付けることができるのかを明らかにし、各学校が編成する教育課程において具体化するとともに、新しい教育課程の在り方を広く社会と共有していくためには、総則が果たすべき役割がこれまで以上に重要となる。
  • 具体的には、2.(2)1.に示した育成すべき資質・能力についての基本的な考え方や、2.(3)に示した学習指導要領の構造化に関する考え方、「アクティブ・ラーニング」の視点からの学習・指導方法の改善や学習評価の重要性、「カリキュラム・マネジメント」の確立の重要性など、教育課程に関する総体的な構造を、総則及びその解説の中で示していくことが重要である。その際、総則と各教科等との関係性を記すことを通して、総則が各教科等に果たす役割について示すことも重要である。
  • 加えて、学校の教育活動全体を通じて実施することが求められる事項(道徳教育、体育・健康や安全等に関する指導、特別支援教育、キャリア教育、生徒指導、海外から帰国した子供や外国人児童生徒への日本語指導・適応指導等、優れた才能や個性を有する児童生徒への指導や支援、情報機器やネットワーク等の活用、学校段階間の接続、地域社会との連携や社会教育施設等の活用、学校図書館を活用した読書活動、部活動の位置付けと留意点、美術館や音楽会等を活用した芸術鑑賞活動等)についても、既存の記載事項を踏まえつつ、総則において、育成すべき資質・能力や各教科等との関係性をより明確に示していくことが求められる。

2.国語

  • 国語科においては、実生活で生きて働き、各教科等の学習の基本ともなる国語の能力を身に付けること、我が国の言語文化を享受し継承・発展させる態度を育てること等に重点を置いて、現行の学習指導要領に改訂され、その充実が図られてきているところである。
  • 一方で、目的や意図を明確にして、主体的に理解したり表現したりすることや、課題を解決するために必要な情報を多様な方法で得た上で、それらを用いて伝えたい内容を適切に表現すること、古典を学習する楽しさや学習する意義の実感等については、更なる充実が求められるところである。次期改訂に向けては、幼児期に育まれた言葉による伝え合い等の基礎の上に、小・中・高等学校教育を通じて育成すべき資質・能力を、三つの柱に沿って明確化し、古典も含む我が国の言語文化に親しみつつ、言語活動を通じて課題を解決する能力や、情報活用能力の育成、現代の文化・社会の在り方や日本人としての生き方等にもつながる古典学習の充実、他者と異なる新たな考えや価値を創出し表現する活動の充実などを、各学校段階を通じて図っていくことが求められる。また、言語に関する能力を向上させる観点から、外国語教育と効果的に連携させ(※48)、音声、文字、単語・語句、文構造、表記の仕方等の特徴や違いに気付き、言語の仕組みを理解できるようにする(※49)ことや、積極的にコミュニケーションを図ろうとする態度を育成していくことも重要である。
  • 特に高等学校教育においては、教材の読み取りが指導の中心になりがちで、国語による主体的な表現等が重視されていないこと、話合いや論述など、「話すこと・聞くこと」「書くこと」の学習が十分に行われていないこと、古典の学習について、日本人として大切にしてきた言語文化を積極的に享受し、社会や自分との関わりの中でそれらを生かしていくという観点が弱く、興味が高まらないことなどが指摘されているところである。
  • このような、高等学校の国語教育について長年にわたり指摘されている課題の解決を図るためには、科目構成の見直しを含めた検討が必要であると考えられることから、共通必履修科目については、1.実社会・実生活に生きる国語の能力を育成する科目、2.古典を含む我が国の言語文化に関する科目、選択科目については、1.近代以降の口語体の文章(現代文(※50))を中心に、古典としての古文・漢文を含めて扱うなど、総合的な国語の能力を育成する科目、2.多様な文章等から得た情報を基に自分の考えをまとめ、適切な構成等で表現する能力を育成する科目、3.文学的な文章を読んだり書いたりする能力を育成する科目、4.古典としての古文・漢文等を読むことを通して、我が国の伝統的な言語文化への理解・関心を深める科目を柱に、科目構成の在り方(※51)を検討することが求められる(※52)。
  • また、平成22年に常用漢字表が改定されたことを踏まえ、小学校において、実生活や国語科以外の各教科等との関連を考慮しながら、漢字の学年別配当の見直しの検討が求められる。

  • ※48 脚注37参照。
  • ※49 脚注36のとおり、引き続き、専門的な見地から検討を行う必要がある。
  • ※50 詩歌等を含む。
  • ※51 科目構成のイメージについては、補足資料111ページ。
  • ※52 俳句や短歌などを創作したり、文章を脚本にして実際に演じたりするなど、創作的な言語活動も重要である。なお、演劇については、国際バカロレアの芸術系科目として演劇が位置付けられていることなども踏まえ、将来的に科目としての在り方を検討していくことも考えられる。

3.社会、地理歴史、公民

  • 社会科、地理歴史科、公民科においては、社会的事象に関心を持って多面的・多角的に考察し、公正に判断する能力と態度を養い、社会的な見方や考え方を成長させること等に重点を置いて、現行の学習指導要領に改訂され、その充実が図られてきているところである。
  • 一方で、主体的に社会の形成に参画しようとする態度等の育成や、資料から読み取った情報を基にして社会的事象について考察し表現すること等については、更なる充実が求められるところである。次期改訂に向けては、幼児期に育まれたいろいろな人との関わりや思考力の芽生え等の基礎の上に、小・中・高等学校教育を通じて育成すべき資質・能力を、三つの柱に沿って明確化し、各学校段階を通じて、社会との関わりを意識した課題解決的な学習活動の充実等を図っていくことが求められる。
  • 特に高等学校教育においては、自分の参加により社会をよりよく変えられると考えている若者の割合が国際的に見ても低いこと、時代の変化に耐えてきた先哲の考え方を習得し、それを手掛かりとして自己の生き方や考え方等を練磨することに課題があること、近現代に関する学習の定着状況が低い傾向にあること、課題解決的な学習を取り入れた授業が十分に行われていないこと等が指摘されているところである。
  • また、2(2)2.に示した「特にこれからの時代に求められる資質・能力等」を踏まえれば、国家・社会の形成者として必要な知識や思考力等を基盤として選択・判断等を行い、課題を解決していくために必要な力や、自国の動向とグローバルな動向を横断的・相互的に捉えて現代的な諸課題を歴史的に考察する力、持続可能な社会づくりの観点から地球規模の諸課題や地域課題を解決していく力を、全ての高校生に共通に育んでいくことが求められる。
  • こうした課題等を踏まえ、地理歴史科においては、「世界史」の必修を見直し、共通必履修科目として、我が国の伝統と向かい合いながら、自国のこととグローバルなことが影響し合ったりつながったりする歴史の諸相を、近現代を中心に学ぶ科目「歴史総合(仮称)」(※53)と、持続可能な社会づくりに必要な地理的な見方や考え方を育む科目「地理総合(仮称)」(※54)の設置を検討することが求められる。
  • また、公民科は、様々な課題を捉え考察する基となる概念・理論や先哲の多様な思想を学び、それを通じて多様な文化に触れ、グローバルな社会の中で、自らが考え、選択・判断する力を鍛える教科としての意義を持つ。そうした公民科における共通必履修科目として、家庭科や情報科をはじめとする関係教科・科目等とも連携しながら、主体的な社会参画に必要な力を、人間としての在り方生き方の考察と関わらせながら実践的に育む科目「公共(仮称)」(※55)の設置を検討することが求められる。なお、「公共(仮称)」については、社会的・職業的な自立に向けて必要な力を育むキャリア教育の中核となる時間として位置付けることを検討する。
     この際、学校教育活動全体の中でのインターンシップの在り方や位置付け等についても、併せて検討することが求められる。
  • なお、高等学校におけるこうした新科目の設置に当たっては、教科書を含めて学校における指導の中で扱う用語の在り方についても念頭に置いた検討が求められる。また、学校段階を通じた学習の充実の観点から、小・中学校社会科との接続について、例えば次のような点を重視して、その具体的な在り方を更に検討することが求められる。
    • 小学校の社会科については、社会的な見方や考え方の育成を一層重視するとともに、世界の国々との関わりや我が国の政治の働きへの関心を高める学習、社会に見られる課題を把握して社会の発展を考える学習を充実すること等が考えられる。
    • 中学校の地理的分野については、地理的技能の育成を一層重視するとともに、持続可能な社会づくりの観点から様々な課題を考察させること等、歴史的分野については、グローバル化に対応する観点から世界の歴史の扱いを充実させること等、公民的分野については、社会参画への手掛かりを得させるために、身に付けた概念を現実の社会的事象と関連付けて理解させること等が考えられる。

  • ※53 科目の内容のイメージについては、補足資料113ページ。
  • ※54 科目の内容のイメージについては、補足資料114ページ。
  • ※55 科目の内容のイメージについては、補足資料112ページ。

4.算数、数学

  • 算数科、数学科においては、発達の段階に応じて、算数的活動・数学的活動を充実させ、基礎的・基本的な知識・技能を確実に身に付け、数学的な思考力・表現力を育て、学ぶ意欲を高めること等に重点を置いて、現行の学習指導要領に改訂され、その充実が図られてきているところである。
  • 一方で、学習する楽しさや学習する意義の実感等については、更なる充実が求められるところである。次期改訂に向けては、幼児期に育まれた数量・図形への関心・感覚等の基礎の上に、小・中・高等学校教育を通じて育成すべき資質・能力を、三つの柱に沿って明確化し、各学校段階を通じて、実社会との関わりを意識した算数的活動・数学的活動の充実等を図っていくことが求められる。
  • また、社会生活などの様々な場面において必要なデータを収集して分析し、その傾向を踏まえて課題を解決したり意思決定をしたりすることが求められており、そのような能力を育成するため、高等学校情報科等との関連も図りつつ、小・中・高等学校教育を通じて統計的な内容等の改善について検討していくことが必要である。
  • 加えて、高等学校教育においては、スーパーサイエンスハイスクールにおける取組等を踏まえつつ、生徒の興味や進路に応じて、数学科の枠を越えた科学的なテーマに徹底的に向き合い考え抜く力を育成するため、大学入学者選抜の改革や「大学入学希望者学力評価テスト(仮称)」に向けた動きも踏まえつつ、数学と理科の知識や技能を総合的に活用して主体的な探究活動を行う新たな選択科目「数理探究(仮称)」(※56)の設置を検討することが求められる。あわせて、「数学活用」の在り方についても検討することが求められる。

  • ※56 科目の内容のイメージについては、補足資料115ページ。「数理探究(仮称)」の設置に当たっては、数学、理科それぞれの中で身に付けるべき資質・能力等に加え、この新科目の中で数理横断的に身に付けるべき資質・能力の在り方や学習のプロセスの在り方について整理した上で、内容の検討を進めていくことが求められる。

5.理科

  • 理科においては、発達の段階に応じて、知的好奇心や探究心を持って自然に親しみ、目的意識を持った観察・実験を行うことにより、科学的に調べる能力や態度を育てるとともに、科学的な見方や考え方を養うこと等に重点を置いて、小・中・高等学校の系統性にも留意し、現行の学習指導要領に改訂され、その充実が図られてきているところである。
  • 一方で、理科の勉強が楽しいと答える中学生及び高校生の割合が国際的に見ても低い傾向があるなど、学習する楽しさや学習する意義の実感等については、更なる充実が求められるところであり、日進月歩で発展する科学技術と自然の事物・現象との関係を実感する機会を持たせることにより、理科好きの子供たちの裾野を拡大していけるよう、小・中・高等学校教育全体を通じて改善していくことが一層求められる。
  • さらに、地球温暖化やエネルギー資源等の地球規模の課題に対して、科学技術・学術研究の先進国として世界をリードしていくことを目指すことが求められるところである。次期改訂に向けては、幼児期に育まれた自然との関わり等の基礎の上に、小・中・高等学校教育を通じて育成すべき資質・能力を、三つの柱に沿って明確化し、各学校段階を通じて、実社会との関わりを意識した探究的な活動の充実等を図っていくことが求められる。
  • 加えて、高等学校教育においては、上記4.に示したように、スーパーサイエンスハイスクールにおける取組等を踏まえつつ、生徒の興味や進路に応じて、数理横断的なテーマに徹底的に向き合い考え抜く力を育成するため、大学入学者選抜の改革や「大学入学希望者学力評価テスト(仮称)」に向けた動きも踏まえつつ、数学と理科の知識や技能を総合的に活用して主体的な探究活動を行う新たな選択科目「数理探究(仮称)」(※57)の設置を検討することが求められる。

  • ※57 脚注56参照。

6.生活

  • 生活科においては、人や社会、自然と関わる活動を充実し、自分自身についての理解などを深める観点から、現行の学習指導要領に改訂され、その充実が図られてきているところである。
  • 幼児教育との円滑な接続を図るスタートカリキュラムの中核となる教科として位置付けられるものであり、引き続きこの観点からの充実を図るとともに、中学年以降の各教科等や低学年における他教科等において育成される資質・能力との関係性を、三つの柱に沿って明確化していくことが求められる。

7.音楽、芸術(音楽)

  • 音楽科、芸術科(音楽)においては、音楽のよさや楽しさを感じるとともに、思いや意図を持って表現したり味わって聴いたりする力を育成すること、音楽と生活との関わりに関心を持って、生涯にわたり音楽文化に親しむ態度を育むこと等に重点を置いて、現行の学習指導要領に改訂され、その充実が図られてきているところである。
  • 一方で、感性を働かせ、他者と協働しながら音楽表現を生み出したり音楽を聴いてそのよさや価値等を考えたりしていくこと、我が国の伝統音楽に親しみ、よさを一層味わえるようにしていくことや、音楽文化についての関心や理解を深めていくことについては、更なる充実が求められるところである。次期改訂に向けては、幼児期に育まれた豊かな感性と表現等の基礎の上に、小・中・高等学校教育を通じて育成すべき資質・能力を、三つの柱に沿って明確化し、各学校段階を通じて、創造的に表現したり鑑賞したりする力の育成、生活や社会における音楽の働きや音楽文化に関する学習活動の充実等を図り、豊かな情操を養っていくことが求められる(※58)。

  • ※58 芸術教育は、子供たちが自分の発達特性を認識し、感情や行動をコントロールしていくための素地を作るという側面があることを踏まえた指導の充実が必要との指摘があったことも踏まえつつ検討が求められる。

8.図画工作、美術、芸術(美術、工芸)

  • 図画工作科、美術科、芸術科(美術、工芸)においては、創造することの楽しさを感じるとともに、思考・判断し、表現するなどの造形的な創造活動の基礎的な能力を育てること、生活の中の造形や美術の働き、美術文化に関心を持って、生涯にわたり主体的に関わっていく態度を育むこと等に重点を置いて、現行の学習指導要領に改訂され、その充実が図られてきているところである。
  • 一方で、感性や想像力等を豊かに働かせて、思考・判断し表現したり鑑賞したりするなどの資質・能力を相互に関連させながら育成することや、生活を美しく豊かにする造形や美術の働き、美術文化についての実感的な理解を深め、生活や社会と豊かに関わる態度を育成すること等については、更なる充実が求められるところである。次期改訂に向けては、幼児期に育まれた豊かな感性と表現等の基礎の上に、小・中・高等学校教育を通じて育成すべき資質・能力を、三つの柱に沿って明確化し、各学校段階を通じて、育成すべき資質・能力の相互の関連や学習内容との関係を一層明確にした主体的で創造的な学習活動、生活や社会の中の造形や美術の働きや美術文化に関する学習活動の充実を図り、豊かな情操を養っていくことが求められる(※59)。

  • ※59 脚注58と同様。

9.芸術(書道)

  • 芸術科(書道)においては、書の文化の継承と創造への関心を一層高めるために、書の文化に関する学習の充実を図るとともに、豊かな情操を養い、感性や想像力を働かせながら考えたり判断したりするなどの資質・能力の育成等に重点を置いて、現行の学習指導要領に改訂され、その充実が図られてきているところである。
  • 一方で、書の伝統と文化を踏まえながら、生徒が感性を働かせて、表現と鑑賞の相互関連を図りながら能動的に学習を深めていくことや、書への永続的な愛好心を育むこと等については、更なる充実が求められるところである。次期改訂に向けては、中学校国語科の書写との関連を図りつつ、育成すべき資質・能力を、三つの柱に沿って明確化し、各学校段階を通じて、育成すべき資質・能力と学習内容との関係を明確にした学習活動や、書と生活や社会の関わり、書の伝統と文化の理解を深める学習の充実等を図り、豊かな情操を養っていくことが求められる(※60)。

  • ※60 脚注58と同様。

10.家庭、技術・家庭

  • 家庭科、技術・家庭科(技術分野・家庭分野)においては、実践的・体験的な学習活動を通して、家族と家庭の役割、生活に必要な衣、食、住、情報、産業等についての基礎的な理解と技能を養うとともに、それらを活用して課題を解決するために工夫し創造できる能力と実践的な態度の育成を一層重視する観点から、現行の学習指導要領に改訂され、その充実が図られてきているところである。
  • 一方で、家庭科及び家庭分野においては、生活の科学的な理解や、生活課題を解決する能力と実践的な態度を育成すること等について、更なる充実が求められるところである。次期改訂に向けては、幼児期に育まれたいろいろな人との関わりや健康な心と体等の基礎の上に、小・中・高等学校教育を通じて育成すべき資質・能力を、三つの柱に沿って明確化し、各学校段階を通じて、家庭や社会とのつながりを重視するとともに、少子高齢社会、資源や環境に配慮したライフスタイルの確立や持続可能な社会づくりのための力や、他者と共生し自立して生活する力、生涯を見通して生活を設計し創造していく力の育成等を図っていくことが求められる。
  • また、技術分野においては、技術と社会・環境との関わりの理解や、プログラミングや情報セキュリティ等も含めた情報活用能力の育成等について、更なる充実が求められるところである。次期改訂に向けては、小学校図画工作科、高等学校情報科、職業に関する教科・科目等との関連を図りつつ、育成すべき資質・能力を、三つの柱に沿って明確化し、高度な技術製品が普及する社会において、技術に関する科学的な理解を基に技術を適切に評価・活用し、安心・安全な生活の実現に貢献できる力や、技術を創造し、よりよい社会を構築できる力の育成等を図っていくことが求められる。

11.体育、保健体育

  • 体育科、保健体育科においては、生涯にわたって健康を保持増進し、豊かなスポーツライフを実現することを重視する観点から、現行の学習指導要領に改訂され、その充実が図られてきているところである。
  • 一方で、体育においては、学習したことを実生活や実社会で生かし、運動の習慣化につなげること、技能や知識、思考力・判断力・表現力等、公正・協力・責任・参画等の態度をバランスよく育むこと等について、更なる充実が求められるところである。次期改訂に向けては、幼児期に育まれた健康な心と体等の基礎の上に、小・中・高等学校教育を通じて育成すべき資質・能力を、三つの柱に沿って明確化し、バランスよく育成していくとともに、2020年に開催される東京オリンピック・パラリンピック競技大会を契機としながら、各学校段階を通じて、運動やスポーツへの関心を高め、「する、みる、支える」などの多様なスポーツとの関わり方を楽しめるようにしていくことが求められる(※61)。また、国際的なスポーツ大会の役割について新たにパラリンピックを含めて学ぶこととするとともに、他教科等における学習とも連携しながら、東京オリンピック・パラリンピック競技大会の成果を未来への遺産として子供たちの中に根付かせていくための学びを充実させていくことも重要である。
  • また、保健においては、少子高齢化や疾病構造の変化による現代的な健康課題の解決に役立つ内容の学習、健康情報を分析し活用する学習(※62)、自他の健康課題を発見し解決していく学習、危険の回避や事故の防止等につながる学習等について、更なる充実が求められるところである。次期改訂に向けては、幼児期に育まれた健康な心と体等の基礎の上に、小・中・高等学校教育を通じて育成すべき資質・能力を、三つの柱に沿って明確化し、各学校段階を通じて、現代的な健康に関する課題解決的な学習や自他の健康の保持増進を目指した主体的・協働的な学習の充実等を図っていくことが求められる。

  • ※61 体育は、子供たちが自分の発達特性を認識し、感情や行動をコントロールしていくための素地を作るという側面があることを踏まえた指導の充実が必要との指摘があったことも踏まえつつ検討が求められる。
  • ※62 疾病等についての最新の科学的知見を踏まえた指導が求められることを踏まえた教材の在り方についても検討が求められる。

12.外国語

  • 外国語科及び外国語活動においては、小・中・高等学校を通じて、言語や文化に対する理解を深め、積極的にコミュニケーションを図ろうとする態度の育成を図り、4技能を総合的に育成することをねらいとして、現行の学習指導要領に改訂(※63)され、様々な取組を通じて充実が図られている。
  • 一方で、各学校段階での指導改善による成果が認められるものの、児童生徒の学習意欲に関する課題があるとともに、学校間の接続が十分とは言えず、進学後に、それまでの学習内容を発展的に生かすことができていない状況や、特に「話す」「書く」などの言語活動が十分に行われていない状況などが認められる。
  • このため、次期改訂に向けては、国として、小・中・高等学校を通じて育成すべき資質・能力を、三つの柱を踏まえつつ、1.各学校段階の学びを接続させること、2.「英語を使って何ができるようになるか」という観点から一貫した教育目標(4技能に係る具体的な指標の形式の目標を含む)を設定し、それに基づき、英語を「どのように使うか」、国際共通語としての英語を通して「どのように社会・世界と関わり、よりよい人生を送るか」という観点から、児童生徒が将来の進路や職業などと結び付け主体的に学習に取り組む態度等を含めて育まれるよう、学習・指導方法、評価方法の改善・充実を図っていくことが求められる。国が示す教育目標を踏まえ、各学校が具体的な学習到達目標(CAN-DO形式)を設定し、児童生徒にどのような英語力が身に付くか、英語を用いて何ができるようになるかなどが明確になり、指導と多面的な評価の一体化とそれらの改善が図られる(※64)。
  • 小学校段階においては、高学年の「外国語活動」の充実により、児童の高い学習意欲、中学生の変容などの成果が認められる一方で、1.音声中心で学んだことが、中学校の段階で音声から文字への学習に円滑に接続されていない、2.国語と英語の音声の違いや英語の発音と綴(つづ)りの関係、文構造の学習において課題がある、3.高学年は、児童の抽象的な思考力が高まる段階であり体系的な学習が求められることなどが課題として指摘されている。
  • これらの成果と課題を踏まえて、中学年から「聞く」「話す」を中心とした外国語活動を通じて外国語に慣れ親しみ外国語学習への動機付けを高めた上で、高学年から発達段階に応じて4技能を総合的・系統的に扱う教科学習を行うことが求められる。その際、これまでの課題に対応した教科化に向けて、新たに1.アルファベットの文字や単語などの認識、2.国語と英語の音声(※65)の違いやそれぞれの特徴への気付き、3.語順の違いなど文構造への気付き等を促す指導を行うために必要な時間を確保することが必要である(※66)。
  • 同時に、中学校及び高等学校の英語教育についても、指導内容の抜本的な質の向上を図る必要がある。中学校段階では、小学校での学びの連続性を図りつつ、高等学校の目標・内容の高度化に向けた基礎を培う観点から、発達段階に応じた、より具体的で身近な話題についての理解や表現、簡単な情報交換ができるコミュニケーション能力を養うための一層の改善を行う。その際、学校、地域、他教科等での学習内容等と関連付けて、互いの考えや気持ちなどを英語で伝え合う対話的な言語活動を重視した授業を充実するとともに、授業を実際のコミュニケーションの場面とする観点から、中学校においても授業を英語で行うことを基本とする。あわせて、新たに4技能を測定する全国的な学力調査の実施により、指導改善のサイクルを確立することが重要である。
  • 高等学校段階では、中学校との円滑な接続を図る観点から、日常生活から社会問題・時事問題など幅広い話題について、生徒の英語力等の状況に応じた発表、討論・議論、交渉等を行う言語活動を豊富に体験し、情報や考えなどを的確に理解したり適切に伝えたりするコミュニケーション能力を養う。その際、生徒や学校の多様なニーズを踏まえ、グローバルな視点で他教科等での学習内容等と関連付けて、外国語を用いて課題解決を図る力を育成するための言語活動の充実も図る(※67)。引き続き、授業を英語で行うことを基本とするとともに、1.必履修も含めた4技能を総合的に扱う言語活動を中心とした科目、2.特に課題がある「話すこと」及び「書くこと」(※68)によって発信する能力を更に強化する技能統合型の言語活動を充実するための科目構成の見直し(※69)を行う。
  • また、小学校で学んだ語彙や表現などの学習内容は中学校で繰り返し言語活動において活用し定着を図るとともに、中学校で学習した語彙・表現・文法事項等は高等学校で意味のある文脈の中でコミュニケーションを通して繰り返し触れ、自らの学習活動を振り返って次につながる主体的な学びができるよう、様々な言語活動を工夫し、言語の運用能力を高めることが必要である。その際、ICT等を活用した効果的な言語活動を行うよう工夫が求められる。
  • なお、新興国をはじめとする非英語圏の国々とのつながりも重要性を一層増しており、英語以外の外国語についても、引き続き専門的な検討を行うことが求められる。

  • ※63 1.小学校高学年において、コミュニケーションの能力の素地の育成をねらいとして、「聞く」「話す」の2技能を中心に慣れ親しませるため、外国語活動を年間35単位時間実施、2.中学校では授業時数を約3割(年間140単位時間)へ充実、3.高等学校では選択必履修から4技能を総合的に扱う「コミュニケーション英語1」を共通必履修に科目構成を変更するとともに、授業を実際のコミュニケーションの場面とするため、生徒の理解の程度に応じて授業は英語で行うことを基本とするなど充実を図った。
  • ※64 小・中・高等学校を一貫した教育目標・内容のイメージは補足資料129ページ。
  • ※65 音声については、音声から文字への学習に円滑に接続されていないなどの課題に対応するため、音韻の意識等を踏まえた指導をはじめ、イントネーションやリズム、英語に特徴的に見られる音への気付きを促す指導が重要と指摘されており、引き続き、専門的な見地から検討を行う必要がある。
  • ※66 英語教育の改善・充実については、現状の成果や課題を踏まえた今後の在り方について高い関心が寄せられており、文部科学省に設置された「英語教育の在り方に関する有識者会議」等において議論が重ねられ、報告等もまとめられているところ。諮問においても、同報告の提言を踏まえつつ検討を行うことが求められており、こうした状況を踏まえ、小学校外国語を中心とした課題について、別紙において補足する。
  • ※67 グローバルな社会課題を発見・解決できる人材や、様々な国際舞台で活躍できる人材を育成するため、スーパーグローバルハイスクール等の先進的な取組に関する検証も踏まえた検討が考えられる。
  • ※68 補足資料148・149ページ。
  • ※69 科目構成のイメージについては、補足資料123ページ。

13.情報

  • 情報科においては、情報化の進む社会に積極的に参画することができる能力・態度を育むとともに、情報に関する科学的な見方・考え方を確実に定着させる指導を重視する観点から、現行の学習指導要領に改訂され、その充実が図られてきているところである。
  • これからの社会の在り方等を踏まえれば、情報活用能力の育成については、情報の量のみならず質の変化が著しいことなども視野に入れた更なる充実が求められるところである。次期改訂に向けては、幼児期に育まれた言葉による伝え合い等の基礎の上に、小・中・高等学校の各教科等を通じた情報活用能力の育成について、三つの柱に沿って明確化し、学校外の多様な教育活動も連携しつつ、プログラミングや情報モラルなどに関する学習活動の充実を発達段階に応じて図るとともに、情報科においては、高等学校教育における共通性を明確にし、情報の科学的な理解に裏打ちされた情報活用能力を身に付けるため、統計的な手法の活用も含め、情報と情報技術を問題の発見と解決に活用するための科学的な考え方等を育成する共通必履修科目の設置を検討することとする。あわせて、当該共通必履修科目を前提とした発展的な内容を扱う選択科目についても、検討を行う(※70)。

  • ※70 科目の内容のイメージについては、補足資料124ページ。

14.主として専門学科において開設される各教科・科目

  • 主として専門学科において開設される各教科・科目については、専門分野ごとに求められる資質・能力を、産業界や関係団体等との間で共有化しながら三つの柱を踏まえ整理した上で、その中での各教科・科目の位置付けの明確化等や、各教科・科目ごとに身に付けるべき資質・能力の三つの柱に沿った明確化を図っていくことが求められる。
  • 特に、職業に関する各教科・科目については、将来のスペシャリストの育成という観点から専門分野の基礎的・基本的な知識、技術及び技能を身に付けるための教育とともに、社会に生き、社会的責任を担う職業人としての規範意識や倫理観を醸成し、豊かな人間性の涵(かん)養等にも配慮した教育の充実が図られてきたところである。
  • 一方で、職業の多様化や職業人として求められる知識、技術及び技能の高度化に対応した実践的な教育を充実させるため、スーパー・プロフェッショナル・ハイスクールなどの先進的な取組に関する検証も踏まえつつ、地域や産業界、大学教育や専修学校教育等との連携を一層深めながら、社会の変化や産業の動向等に応じた教育内容の見直しを図ることが求められる。また、急速に変化する社会のニーズとの間にギャップが生じることを防ぐため、専門教科・科目と各職業分野との関連性を強化する取組を更に進めるとともに、地域・産業界等との連携・交流を通じた実践的な学習活動等の充実を図ることも必要である。

15.道徳教育

  • 道徳教育を通じて育まれる道徳性とは、人間としてよりよく生きようとする人格的特性であり、「どのように社会・世界と関わり、よりよい人生を送るか」の根幹となるものである。道徳性を資質・能力の三つの柱に照らせば、道徳性を構成する諸様相である道徳的価値の理解、道徳的判断力、道徳的心情や道徳的実践意欲と態度を養うことが求められている。
  • このような資質・能力の育成を目指す道徳教育においては、既に学習指導要領が一部改訂され、小学校では平成30年度、中学校では平成31年度から、「特別の教科 道徳」(道徳科)が実施されることとなっている。本「論点整理」が目指す「これからの時代に求められる資質・能力の育成」や、「アクティブ・ラーニング」の視点からの学習・指導方法の改善を先取りし、「考え、議論する」道徳科への転換により児童生徒の道徳性を育むものである。
  • 道徳の特別教科化は、これまで軽視されがちだったと指摘される従来の道徳の時間を検定教科書の導入等により着実に行われるように実質化するとともに、その質的転換を図ることを目的としている。
  • 特に、後者の「考え、議論する」道徳科への質的転換については、子供たちに道徳的な実践への安易な決意表明を迫るような指導を避ける余り道徳の時間を内面的資質の育成に完結させ、その結果、実際の教室における指導が読み物教材の登場人物の心情理解のみに偏り、「あなたならどのように考え、行動・実践するか」を子供たちに真正面から問うことを避けてきた嫌いがあることを背景としている。このような言わば「読み物道徳」から脱却し、問題解決型の学習や体験的な学習などを通じて、自分ならどのように行動・実践するかを考えさせ、自分とは異なる意見と向かい合い議論する中で、道徳的価値について多面的・多角的に学び、実践へと結び付け、更に習慣化していく指導へと転換することこそ道徳の特別教科化の大きな目的である。
  • 義務教育においては、従来の経緯や慣性を乗り越え、道徳の特別教科化の目的である道徳教育の質的転換が全国の一つ一つの教室において確実に行われることが必要であり、そのためには、答えが一つではない、多様な見方や考え方の中で子供たちに考えさせる素材を盛り込んだ教材の充実や指導方法の改善等が不可欠である。
  • なお、道徳科は、改めて、教育課程全体を通して道徳教育の成果を上げるために、その核となる役割を果たすことを求めて実施を図るものである。そのために、道徳科と各教科等との関係性を明らかにすることを通して、教育課程に占める道徳科の位置付けを明確にする必要がある。
  • このように、道徳の特別教科化を着実に実施するため、文部科学省には万遺漏なきよう諸施策に取り組むことを求めるものであるが、質的転換の進展状況を踏まえ、学習指導要領も含めた道徳教育の在り方については常に見直し、改善することが重要である。
  • 次期改訂においては、先んじて導入された小・中学校における道徳科の内容を踏まえつつ、高等学校における道徳教育の在り方について、公民科等における内容の充実・改善と併せて検討を行うことが求められる。

16.特別活動

  • 特別活動は、学校で生活する子供たちにとって最も身近な社会である学級や学校における生活改善のための話合い活動や実践活動を通じて、主体的に社会の形成に参画しようとする態度や自己実現を図るために必要な力を養ったり、各教科等におけるグループ学習等の協働的な学びの基礎を形成したりする役割を果たしている。また、よりよい人間関係に基づく学級経営の充実を図る役割としても重要である。
     自分たちが所属する集団や社会の充実と向上のため、教科等で身に付けた資質・能力を活用し、意見の違いや多様性を生かしつつ集団としての意見をまとめていく話合い活動などは、社会参画の意識や合意形成のための思考力・判断力・表現力等を養うものである。
  • また、特別活動は、特別教科化によってますます重視される道徳における問題解決的な学習や体験的な学習と相まって、道徳的実践のための重要な学習活動の場となるものである。特に、基本的な生活習慣や集団や社会との関わり方、人間関係などの問題について、何ができるかを考え、実行するなど、道徳的行為を促す上で、重要な役割を果たすものである。このような子供たちの主体的な活動は、いじめ等の未然防止などにもつながるものである。
  • こうした特別活動の意義については、開発途上国等に対する国際教育協力の現場等においても、我が国の教育課程の特徴として高い評価を受けているところである。次期改訂に向けては、教育課程におけるこうした意義を明確化するため、学級(ホームルーム)活動、児童会・生徒会活動、クラブ活動、学校行事のそれぞれを通じて、育成すべき資質・能力を明確化するとともに、各教科等との関係を整理していくことが求められる。

17.総合的な学習の時間

  • 総合的な学習の時間は、変化の激しい社会に対応して、自ら課題を見付け、自ら学び、自ら考え、主体的に判断し、よりよく問題を解決する資質や能力を育成することなどをねらいとしており、各教科等で行われる基礎的・基本的な知識・技能の習得や学習活動等を前提としながら、実社会や実生活との関わりを重視した、教科横断的・総合的な探究活動等を行うものである。
  • こうした教科横断的な学びは、学校において身に付けた資質・能力を、実社会で活用できるより汎用的な資質・能力に変えていくために欠かすことのできないものであり、次期改訂に向けた学習指導要領の構造化の観点からは、総合的な学習の時間における教科横断的な学びと、各教科における学習を相互に関連付けながら充実を図っていくことが、育成すべき資質・能力を身に付けていくための重要な鍵となる。また、総合的な学習の時間は、各教科等単独では取り組むことの難しい様々な現代的な課題に対応した教育を行うための核となる時間であり、こうした課題を、各教科等において身に付けた力を活用しながら探究的に学ぶ機会を確保する上で重要な役割を果たしている(※71)。
  • こうした総合的な学習の時間の役割は、クロスカリキュラムによる子供主体の活動を中心とした学習により、PISAにおける好成績につながったのみならず、学習に対する姿勢の改善に大きく貢献するものとして、OECDをはじめ国際的にも高く評価されているところである。
  • 次期改訂に向けては、教育課程におけるこうした意義を明確化するため、各教科等の学習とより一層関連を図りながら、教科横断的な思考のために必要なスキルなど、総合的な学習の時間を通じて育成すべき資質・能力を発達の段階に応じて明確化するとともに、各教科等との関係を整理していくことが求められる。

  • ※71 なお、当部会の議論においては、次期改訂において目指す資質・能力を育む観点からは、教科学習と教科横断的な学びのバランスを図る観点から、総合的な学習の時間の授業時数を現在よりも増やすべきとの意見もあったところである。

6.今後の検討スケジュール等

  • 教育課程企画特別部会において本「論点整理」を取りまとめた後は、各学校段階・教科別の検討を行い、審議まとめを経た上で、平成28年度中を目途に中央教育審議会として答申が取りまとめられるよう、検討を進めていく予定。なお、5.(1)2.に示したように、小学校における授業時数に関しては、再度、当部会において小学校の教育課程全体を見通した観点から検討を行い、平成27年内から平成28年当初を目途に結論を得ることとする。
  • 各学校段階・教科別の検討においては、教育課程企画特別部会の議論を踏まえつつ、各教科等や学校段階に閉じた議論ではなく、カリキュラム全体としてどのような資質・能力を育成すべきか、その中で各教科等が果たすべき意義とは何かといった点を踏まえた上で検討を行うことが求められる。
     英語教育の改善・充実については、第二期教育振興基本計画等(※72)を踏まえ、文部科学省に設置された「英語教育の在り方に関する有識者会議」報告(平成26年9月)において提言がまとめられているところであり、諮問においても、同報告の提言を踏まえつつ検討を行うことが求められているところである。
    これらを前提に、これまでの英語教育の実施状況や今後検討すべき小学校教育を中心とした課題を整理するとすれば、以下のとおりである。

  • ※72 補足資料128ページ。

小学校中学年における外国語活動と、高学年における教科化の必要性について

  • 前回改訂において、中学校における4技能を通じた学習の素地として、「聞く」「話す」の2技能を中心に小学校段階で慣れ親しませるため、「外国語活動」(年間35単位時間)が創設された。
  • その後の「外国語活動」の充実により、児童の高い学習意欲、小学校で外国語活動を経験した中学生の成果や変容、指導に当たる教員の肯定的な捉え方といった成果とともに、教育課程の特例を活用して小学校低学年・中学年から外国語活動を取り入れることにより、中学校とのカリキュラム上の接続を意識した先進的な事例の成果が得られるなど、外国語活動を通じた学習の成果(※73)が認められる。
  • 一方で、児童の「読む」「書く」も含めた更なる言語活動への知的欲求が高まっている状況にある。また、中学生1年生の8割が、外国語活動で「英単語・英文を読む」「英単語・英文を書く」ことをもっとしておきたかったと回答(※74)するなど、1.小学校の外国語活動において音声中心で学んだことが、中学校での段階で音声から文字への学習に円滑に接続されていないこと、2.国語と英語の音声(※75)の違いや英語の発音と綴(つづ)りの関係の学習、文構造の学習において課題があること、3.高学年は、児童の抽象的な思考力が高まる段階であり体系的な学習が求められることなどが課題として指摘されている。
  • こうした課題に対応するためには、現行の成果も踏まえつつ、中学年から外国語活動を通じて外国語に慣れ親しみ、「聞く」「話す」の2技能を中心に外国語学習への動機付けを高めた上で、高学年から発達段階に応じて4技能を総合的・系統的に扱う教科学習が必要である。
  • また、教科として系統的に学ぶことにより学習内容の定着を図る英語教育の充実は、言語能力を向上させ、積極的にコミュニケーションを図ろうとする態度の育成や、国語力の向上にも大きな効果がある。

  • ※73 補足資料143ページ。
  • ※74 補足資料144ページ。
  • ※75 脚注65のとおり、引き続き、専門的な見地から検討を行う必要がある。

指導内容と、指導のために必要となる時数について

  • 小学校教育では、義務教育として行われる普通教育のうち基礎的なものを施すことが目的となる。小学校段階の学びを、生涯にわたり学習する基盤が培われるよう、教科ごとのより高い指導の専門性が確保されている中学校、高等学校段階までの一貫した学びに円滑に接続させることにより、更なる英語教育の質向上を図る。このため、小・中・高等学校を通じて、英語の基礎的な知識及び技能を習得させるとともに、次代を担うために必要な4技能を総合的に活用して思考・判断・表現する力を将来的に育むのに必要な主体的に学習に取り組む態度を養成していくことが重要である。
  • 次期改訂では、各学校段階の学びを円滑に接続させるため、「英語を使って何ができるようになるか」という観点から、国として小・中・高一貫した指標を設定、学習・指導方法、評価方法を改善することが必要である。
  • 小学校高学年においては、教科としての英語教育のうち基礎的なものとして、これまでの体験的な「聞く」「話す」に加え、「読む」「書く」の4技能を扱う言語活動を通じて、4技能への積極的な態度の育成を含めたコミュニケーション能力の基礎を養うことが必要である。教科化に当たり、身近なことについての基本的な表現による4技能の豊かな言語活動を行うため、新たに、
    1. アルファベットの文字や単語などの認識
    2. 国語と英語の音声の違いやそれぞれの特徴への気付き(※76)
    3. 語順の違いなど文構造への気付き
      等を促す指導を行うために必要な時間を確保することが必要である。
  • また、中学年からは、外国語学習への動機付けを高めるため、体験的に「聞く」「話す」を中心とした外国語活動を通じて、言語や文化についての体験的理解や、音声等への慣れ親しみ等を発達段階に適した形で養うとともに、指導内容・方法や活動の設定、教材の工夫、他教科等で児童が学習したことを活用するなどの工夫により、指導の効果を高めることが必要である。
  • このような方向性を目指し、小学校高学年において4技能を扱う言語活動を展開し定着を図り、教科として系統的な指導を行うためには、例えば70単位時間程度の時数が必要であると考えられる(※77)。また、中学年における外国語活動については、従来の外国語活動と同様に35単位時間程度の時数が必要であると考えられる。
  • 同時に、中学校及び高等学校の英語教育についても、指導内容・方法の質の抜本的な向上を図る必要がある。中学校については、小学校の外国語活動で学んだ内容が中学校で十分に生かされていないことや、自分の意見や考えを話したり書いたりすることができていると考える生徒の割合が低く、また、そのような指導をしていると考える教員の割合も低いという課題も指摘されている。
  • 小学校外国語活動で学んだ内容が中学校で十分に生かされていないことや、言語活動が十分ではないという指摘も踏まえ、中学校では、義務教育終了段階として小学校での学びの連続性を図りつつ、身近な事柄についてコミュニケーションを図ることができるようにするとともに、高等学校における目標の高度化に向けた基礎を培う観点から、発達段階に応じた、より具体的に身近な話題についての理解や表現、簡単な情報交換ができるコミュニケーション能力を養うことが必要である。その際、身近な話題、例えば、学校生活、地域行事、生徒の体験、他教科等での学習内容等と関連付けて、互いの考えや気持ちを英語で伝え合う言語活動を中心とする授業を行うことを重視する。また、授業を実際のコミュニケーションの場面とする観点から、中学校においても授業を英語で行うことを基本とする(※78)。
  • このような状況も踏まえ、特に、前回改訂において大幅な時数増を行った中学校における時数を最大限に活用する観点からも、小学校高学年で「読む」「書く」を通じて慣れ親しんだ語彙や表現などの学習内容を、上記1.、2.、3.に示したような認識や気付きを生かして、中学校の言語活動において繰り返し活用することによって、中学校段階において着実な定着まで高める。また、中学校においても、生徒の身近なコミュニケーションの場面を設定した上で、学習した語彙や表現などを実際に活用する活動を充実させるなど指導の改善を図る。あわせて、新たに4技能を測定する全国的な学力調査の実施により、指導改善のPDCAサイクルを確立することが重要である。
  • 高等学校段階においては、英語教育の多様性に対応した目標・内容の設定、及びそれらの充実を図るとともに、中学校との円滑な接続を図る観点から、日常的な話題から時事問題や社会問題まで幅広い話題について抽象的な内容を理解できる、英語話者とある程度流暢(りゅうちょう)にやりとりができる能力を養うことが必要である。引き続き、授業を英語で行うことを基本とするとともに、言語活動の充実(発達段階や生徒の英語力等の状況に応じた発表、討論・議論、交渉等)を図るための科目の見直しを行う。
  • また、小学校で学んだ語彙や表現などの学習内容は中学校の言語活動で、中学校で学習した語彙・表現・文法事項等は高等学校の学習において、意味のある文脈の中でコミュニケーションを通して繰り返し触れることができるよう、様々な言語活動を工夫し、言語の運用能力を高める。
  • なお、小学校高学年を含めた指導語彙数については、これまでの成果や諸外国の状況等を踏まえながら検討する。また、小学校で慣れ親しんだ語彙等は中学校において新たに学習する語彙等も含め、繰り返し言語活動において活用することで更なる定着を図ることとする。

  • ※76 脚注65のとおり、引き続き、専門的な見地から検討を行う必要がある。
  • ※77 さらに、仮に105時間(週3コマ程度)実施することについては、指導体制などの条件整備や小学生の生活への負担等を考えると、教育課程の特例としてではなく全国一律に実施することは極めて困難。また、現段階で教科ごとの指導の専門性が中学校以降ほど確立されていない小学校段階でこれを強いることは、英語嫌いを生み出すことにつながりかねない。今後、児童への指導に当たっては、教科化に対応できる指導力を備えるとともに、児童理解、学級経営を基盤とした授業の実施等に対応できる指導者が求められる。
  • ※78 「授業は英語で行うことを基本とする」こととは、教師が授業を英語で行うとともに、生徒も授業の中でできるだけ多くの英語を使用することにより、英語による言語活動を行うことを授業の中心とすることである。これは、生徒が、授業の中で英語に触れたり英語でコミュニケーションを行ったりする機会を充実するとともに、生徒が英語を英語のまま理解したり表現したりすることに慣れるような指導の充実を図ることを目的としている。英語に関する各科目の「特質」は、言語に関する技能そのものの習得を目的としていることである。しかし、このような技能の習得のために必要となる、英語を使用する機会は、我が国の生徒の日常生活において非常に限られている。これらのことを踏まえれば、英語に関する各科目の授業においては、訳読や和文英訳、文法指導が中心とならないよう留意し、生徒が英語に触れるとともに、英語でコミュニケーションを行う機会を充実することが必要である(出典:高等学校学習指導要領解説外国語編)。

高学年における指導時間の確保について

  • 高学年における指導時間の確保については、(1)2.に示したように、短時間学習として実施する可能性も含めた専門的な検討が必要となる。その際、外国語における短時間学習の実施に向けては、以下のような視点を踏まえた検討とともに、担当する教員が、その指導内容の決定や指導の成果の把握と活用等を、責任を持って行う体制整備が必要であるといった観点から、教員養成、教員研修及び教材開発に関する条件整備が不可欠である。
    • 一定の効果が期待される場合には、指導内容のまとまりや学習活動の教育効果を年間授業時数に含めることを可能とする方向で専門的に検討を行う。
    • 10~15分の短時間で円滑に効果的な学習を行うためには、児童の学習規律が確立されていることが前提となるため、低学年からの学びの在り方も含め、学校全体の学習規律の確保が必要。
    • 短時間学習を行うための、教員が指導できる指導計画、教材の整備や指導法の確立が必要。
    • 指導計画については、学校が定めた標準の授業単位時間により実施される授業の指導計画と連動させ、短時間学習に適した活動が選定されることが必要。
    • 教科化を前提とした場合、短時間学習を含めた学習についての評価の在り方も確立することが必要。
      ※ 授業との内容の系統性を確保して短時間学習の活動を可能とする場合(※79)
       70単位時間のうち、例えば、教科化に向けて、1.アルファベットの文字や単語の認識や2.国語と英語の違いや音声のそれぞれの特徴への気付きなどを一定の言語活動を含めたまとまりのある学習を行った上で、その内容に、ICTなども活用しながら15分程度の短い時間を単位とした活動を関連付けて「繰り返し学習」を行うことによって定着を図る。(1.関係では例えば年間15単位時間程度の短時間学習の実施が考えられるが、2.関係なども含め、更に効果が期待される短時間学習の可能性について、今後専門的に検討。)

  • ※79 補足資料132ページ。

教員の養成・研修、学校における指導体制等

  • 小学校における外国語教育においては、学級担任が役割を果たすこととなるが、中学年からALT等とのティーム・ティーチングも一層活用しながら指導を充実しつつ、高学年の教科化に向けて、教員が英語の指導力に関する専門性を高めて指導するとともに、専科指導を行う教員を活用することにより、専門性を一層重視した指導体制を構築することが必要である(※80)。
  • 各学校においては、校長のリーダーシップの下、学校全体の目標の設定、それに基づく教育課程の実施、評価、改善を図るカリキュラム・マネジメントなどの方針を明確にした上で全教職員の共通理解を図るとともに、専門家、地域の外国語が堪能な人材及びALT等とチームを組んで指導に当たるなど地域とも連携しながら、校内の外国語教育の指導体制の強化に取り組むことが重要である。
  • このため、具体的な指導内容や指導方法、指導体制等については、英語教育の特性とともに、小学校全体の現状や学校関係者の意見を踏まえつつ、中央教育審議会等の場において、教育課程及び教員養成などの観点からさらに専門的に検討(※81)を行う。

  • ※80 補足資料142ページ。
  • ※81 補足資料

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