資料7-3 奈須委員御提出資料

育成すべき資質・能力を踏まえた教育目標・内容と評価の在り方に関する検討会」での議論を今、改めて振り返って

奈須正裕(上智大学)

1.検討会が提起した学力に関する3層構造的把握を巡って

  • ア)教科等を横断する汎用的なスキル(コンピテンシー)等に関わるもの
    1. 汎用的なスキル等としては、例えば、問題解決、論理的思考、コミュニケーション、意欲など
    2. メタ認知(自己調整や内省、批判的思考等を可能にするもの)
  • イ)教科等の本質に関わるもの(教科等ならではの見方・考え方など)
  • ウ)教科等に固有の知識や個別スキルに関するもの

 ※ しかし、実際の作業に際しては、さらに細かな階層を考える必要があるのでは?

  • ウ)領域固有の知識・個別スキル=内容
     cf.概念や手続きの理解と習熟:パックのトマトを1あたりの量で比べられる・・「習得」
     意味・限界・適用条件:1あたりの量で比べられる場合と比べられない場合がわかり、その理由が言え、さらに他の比較の視点や方法の候補を挙げられる・・「活用」
  • イ)教科の本質1(教科のさまざまな内容を集約・統合する「大きな概念」「本質的な問い」)
     cf.1つ分のいくつ分、エネルギー、粒子、立地条件
  • イ)教科の本質2(その教科に固有・特徴的な認識や表現の方法)
     cf.日常場面の数理的定式化、帰納・演繹・類比、剰余変数の統制、系統観察
     多面的、多角的な見方(立場による利害関係や価値判断の違いの発生と、その公正で民主的な調整の技法の適切な行使)
  • ア)教科の本質の、他の領域や対象への適用
     cf.順序よく、もれおちなく考える、社会事情を確率論的に見て、人々が行っている価値判断について批判的に吟味する
  • ア)教科・領域に依存しない汎用的スキル(認知的・情意的・社会的)
     cf.分かりやすい説明=明快な定義(内包)と具体例(外延)、努力すれば望む結果が得られるという信念、どんな少数意見をも集団意思決定の候補としてその可能性を吟味する態度
  • ア)メタ認知
     cf.わからなくなったら気付いて立ち止まれる(オンライン・モニタリング)
     自分が何を知っているか正確に把握している(メタ知識)

2.「教科の本質」の重要性とその析出の作業手順

 実質陶冶的・内容的学力論としての ウ)と形式陶冶的・機能的学力論としての ア)は、ややもすれば分離・背反しがち。両者を結びつけ、学力論全体に緊密で有機的な構造を生み出すと共に、量的バランスを適切に保つ動きを導くものとしての「教科の本質」。
 また、ウ)は、社会効率主義や産業主義に陥る危険性を常にはらむが、文化遺産を基盤とした各教科等の「教科の本質」を基盤において考えることで、その危険性を未然に回避する効果も期待できる。
 その意味でも、先に ア)を「○○力」のリストとして設定し、トップダウンで各教科等に「下ろす」のは得策ではないのでは?そのような作業手順では、各教科等はその教科の特性や本質を十分顧慮することなく、「○○力」に該当するものをただただ列挙するに留まる可能性がある。
 したがって、むしろそれとは逆のボトムアップな筋道、すなわち、まずは各教科等において「教科の本質」と考えられるもの、さらに元来その各教科等が主要な対象としてきたものを超えてそれらが有効に働く可能性について自由闊達に議論して頂き、それを相互に交流してさらに検討を加える中で、あるべき ア)の姿、またそれらと イ)の関係も次第に自ずと見えてくるのではないか。

3.汎用的スキルや教科の本質を明確に意識することによる内容の取り扱いの変化

1)汎用的スキルや教科の本質をより明確に意識した内容の指導=授業の基調の変化

※ 内容→資質・能力という筋道:現状における授業の工夫・改善の試み

2)汎用的スキルや教科の本質をより明確に意識した内容編成

  1. どのような内容が必要かつ十分なのか、少なくとも、その内容が他の内容と比べて、なぜ有効または重要なのか・・・内容の選択と取り扱いの軽重
  2. 個々の内容の関係をどう考えるのか・・・内容の学年内、学年間の系統、教科内の各領域の相互関係
    ※ 資質・能力→内容という筋道:今後における教育課程編成の課題
     従来の「内容の内部論理から見た系統」とはやや趣の異なる系統性の探究

3)汎用的スキルの視点から、表面的・領域的に異なる活動・内容をつなげて考える

  • cf.造形遊びで育成している「野生の思考」(「たとえる」「見立てる」「つなげる」等の創発的な発想・構想)は、音楽科の音楽づくりや国語科の俳句・短歌・詩などと思考や表現の方法・様式として通底している
  • cf.算数・数学で指導している集合論的な考え方や命題論理は、国語科の説明文読解・産出の指導の洗練に有用
  • cf.実践レベルでは「これって○○と似てない?」「前にも似たようなことやったよね」

4.情意・認知・行動・関係が構造的に含まれた概念としてのコンピテンシー

 ロバート・ホワイト(1959)がコンピテンス概念に込めた2つの意味合い

  1. 相互作用を求めて環境に関わろうとする生得的傾向性(意欲・態度的側面)
  2. 相互作用によって形成された、それぞれの環境に適合した関わりを実行できる能力(認知的側面、行動的側面、関係的側面)・・・現に効果的な関わりができること=知ること・わかること
    ※ 人間が生得的に持つ、原初的にして一生涯に渡る、精神的なエネルギーと能力に関する包括的で機能的な説明概念・・・力動的でホリスティック
     過剰に側面や要素に分割・分析することは、この概念の豊かさを減殺するおそれがある

お問合せ先

初等中等教育局教育課程課教育課程企画室

電話番号:03-5253-4111(代表)(内線2369)