資料6 「言語活動の充実に関する検証改善」の成果について

平成27年3月26日
教育課程企画特別部会

 文部科学省では、言語活動の検証改善のため、言語活動の充実に関する意見交換を実施。各教科等を通じた言語活動の成果や課題等を把握するとともに、思考力・判断力・表現力等の効果的な育成に向けた言語活動の充実のために必要となる方策や今後の方向性等について、意見交換を行った。

○意見交換出席者(平成26年10月10日、10月31日文部科学省内において実施)

恩田 徹 京都市立堀川高等学校長
岸田 薫 横浜市教育委員会西部学校教育事務所指導主事
佐藤 真 関西学院大学教育学部教授
佐藤 俊之 秋田県能代市立能代東中学校長
高木 展郎 横浜国立大学教育人間科学部教授
田中 孝一 川村学園女子大学教育学部児童教育学科教授
永田潤一郎 文教大学教育学部准教授
三田 一則 豊島区教育委員会教育長
宮川 八岐 國學院大學人間開発学部教授 (50音順、敬称略)

意見交換の概要及び今後の方向性

1.言語活動の位置付け

 現行学習指導要領(平成20年・21年告示)においては、各教科等の指導に当たっては、児童生徒の思考力・判断力・表現力等を育む視点から、各教科等を通じた言語活動の充実を重視。

  • 知識・技能を習得するのも、これらを活用し課題を解決するために思考し、判断し、表現するのもすべて言語によって行われる。習得、活用、探究のいずれの場面においても各教科における学習活動の基盤となるのは言語の能力である。また言語はコミュニケーションや感情・情緒の基盤でもあり、豊かな心を育むことや人間関係を形成する上でも重要。
  • 平成20年中央教育審議会答申では、言語活動を中心に、思考力・判断力・表現力を育むために各教科で必要な学習活動として以下の6点を示し、これらの学習活動の基盤となるものは、広い意味での言語であるとした。
    1. 体験から感じ取ったことを表現する
    2. 事実を正確に理解し伝達する
    3. 概念・法則・意図などを解釈し、説明したり活用したりする
    4. 情報を分析・評価し、論述する
    5. 課題について、構想を立て実践し、評価・改善する
    6. 互いの考えを伝え合い、自らの考えや集団の考えを発展させる
  • こうした力の育成は、国語科だけで取り組むものではなく、すべての教科で取り組まれるべきものである。国語科において培った言語に関する能力を基本に、各教科における教育の目標を実現する手立てとして言語活動の充実を図ることが求められている。
  • 言語活動の重要性は、現行学習指導要領において初めて求められたものではなく、従前から、国語科をはじめ各教科等において学習活動の重要な要素として取り組まれてきたものである。

2.成果と課題

成果や取組状況

  1. 多くの小・中学校で言語活動を意識した活動に取り組んでいる。全国学力・学習状況調査の結果等からは、言語活動の充実が児童生徒の学力の定着に寄与していることが示唆されている。
    • 各教科等の指導のねらいを明確にした上で言語活動を適切に位置付けている学校や、総合的な学習の時間において、課題の設定からまとめ・表現に至る探究の過程を意識した指導をしている学校は、教科の平均正答率が高い。
    • 「授業で自分の考えを発表する機会が与えられている」という問いに肯定的な回答をする児童生徒の割合が年々増加しており、そう回答した児童生徒ほど平均正答率は高いなどの結果が示されている。

課題

  1. 課題としては、言語活動についての目的意識や、教科等の学習過程における位置づけが不明確であることや、指導計画等に効果的に位置付けられていないことにより生じている問題が指摘されている。
    • 授業や単元の中で明確な意図を持った位置付けがされておらず、単なる話合いにとどまり形骸化していて、画一的な指導方法となっている例
    • 目的意識が不明確であったり、単元全体を通じて常に言語活動を行わなければならないと誤解したりしていることにより、言語活動を行うこと自体が目的化してしまっている例
    • 発表や討論に重きが置かれる一方、その前段階として、自分の考えを持たせるための論述等の活動や、発表の後に様々な意見や考えを比較・検討してまとめていくことが十分に行われていない例
  2. また、授業の中にグループでの話合いや発表の場面を設けることに負担を感じている教師や、言語活動を行う時間を確保することが困難と考えている教師が少なくないという指摘がある。

3.言語活動の今後の方向性

 上記のような課題等を踏まえると、以下のような点に留意して言語活動の推進を図る必要があるのではないか。

  1. 各教科等の教育目標を実現するため、見通しを立て、主体的に課題の発見・解決に取り組み、振り返るといった学習の過程において、言語活動を効果的に位置づけ、そのねらいを明確に示すことが必要である。アクティブ・ラーニングを構成する学習活動の要素を検討する際も、言語が学習活動の基盤となるものであることを踏まえた検討が必要である。

各教科の学習の過程への位置付け

  • 言語活動を行うこと自体が目的ではなく、各教科の教育の目標を実現するための過程において、観察、実験、計算などと同じく様々ある学習活動の一つとして、「その活動で何を実現しようとするのか」という観点から、授業の中での言語活動の位置付けを一層明確化していく必要がある。
  • 言語活動は特定の教科のみにおける取組ではなく、各教科を通じて取り組まれるものである。各教科特有の概念や用語の使用や特性も踏まえつつ、例えば数学的活動(数学的な表現を用いて根拠を明らかにし筋道立てて説明し、伝え合う活動)や、理科や社会などの問題解決的・探究的な活動など、各教科の学習の過程において、言語活動を効果的に位置付けることが必要である。
  • グローバル化の中で、多様な情報を活用すること、異なる視点から考えること、力を合わせたり交流したりすることなど、他者と協働して取り組む学習活動がますます重要になる。
  • 現場の一部には、児童生徒たちに話しあいをさせ、教師は何もしないということがアクティブ・ラーニングであるという誤解がある。画一的な方法にならないよう留意しつつ、課題の発見・解決のため、論理的思考力、コミュニケーションなどを重視した主体的・協働的な学習としてアクティブ・ラーニングを推進する必要がある。
小・中・高等学校等において、各教科の学習、総合的な学習の時間、特別活動などを通じて言語活動を推進し、学習の過程に効果的に位置付けている例
  • 県全体の組織的な取組を基盤に、「課題(めあて)設定→言語活動→まとめ・振り返り」という学習の過程により、言語活動を生かして各教科の授業のねらいを達成するとともに、総合的な学習の時間においても言語活動を効果的に生かしている中学校の事例(秋田県能代市立能代東中学校の例)
  • 問題解決に必要な手順、学習の手法や思考ツール、解決に向けて思考を深めるための見方・考え方、論理的言語能力を児童の発達段階に応じて身につける取組を行っている小学校の事例(豊島区教育委員会の例)
  • 総合的な学習の時間や特別活動を通して言語活動に取り組み、「考えて→言葉にして→振り返る」という学習の過程を身につけさせ、目の前の各教科の指導だけでなく、教科を超えた学びを目指して探究的な学習を推進している高等学校の事例(京都市立堀川高校の例)
  • 特別活動における言語活動についての研究に取り組むことで、生徒指導上の問題行動が解消され、学力面でも大幅に向上したという事例

目標の設定、見通しと振り返り

  • 育むべき資質・能力には、一時間で身につく力もあれば、長期的な見通しをもって検討すべきものもあることを踏まえて、一単位時間の授業、単元、年間の指導計画を考える必要がある。
  • 言語活動が単なる活動とならず、学びを深めるものとするためには、授業の冒頭に見通しを持たせ、最後に振り返りをすることが重要であることの理解を徹底する必要がある。
  • 教師側では授業の初めに目標を示しているつもりでも、児童生徒はそう受け止めていないことが少なくない。(全国学力・学習状況調査質問紙調査から)
  • 教師が児童生徒にどのような資質・能力を育てるかという観点から「指導の目標」を立て、それを児童生徒の学習の「見通し」のレベルに落とし込むことが必要である。

評価

  • 目標に準拠した評価、指導と評価の一体化が必要である。評価規準が教員一人一人で異なるものとならないよう、学校全体で共通理解を図った上で設定していく必要がある。
  • 言語活動は、目標実現の手立てであるから、評価の直接的な対象ではない。言語活動を通じて思考・判断した過程や成果を目標に照らしてとらえ評価していくことが必要である。
  1. 言語活動により時数の確保が難しくなるという見方もあるが、学年等を超えて長期的に言語活動を行う能力の育成を積み重ねていくことにより、一層効果的で効率的な学習が可能となるという視点も重要である。
    • 言語活動を行う前提として、発達段階に応じて言語活動を行う上で必要な能力の育成(語彙の獲得、概念の獲得など)を図ることが必要。
    • 小中高等学校の各段階で、どのような言語活動が、どの程度できるようになっているとよいか、児童生徒の実態と発達段階、身に付けるべき資質能力の面から分析して設定していくことが必要。
    • 「言語活動を取り入れると時間がかかるため、教師が知識を教えていくことが効果的・効率的」という考え方では、「思考力・判断力・表現力の育成」という教育の目標は達成できない。
    • 継続して言語活動に取組続けることで、児童生徒の言語活動を行う能力が高くなるとともに、言語活動を意識することにより目標・内容と学習活動の関係が明確となり、言語活動を取り入れた方が従来よりも学習が早く進み、結果として学習に要する時間が短縮できるという考え方を重視することが必要である。
    • こうした取組に関して、国や教育委員会は、広く事例等を収集し、留意点や配慮事項について検討することが必要である。
  2. 教員の資質向上も含め、学校が全体として取組を進められるよう、教育委員会や大学等による支援や環境整備等を行いながら、今後さらなる充実が図られるようにしていくべきである。
    • 言語活動を含め問題解決的な学習の指導方法に関する教員の指導力向上が必要。そのためには学校全体で言語活動の充実に取り組むことや、教育委員会や大学等による研修等による支援も従来以上に必要。
    • 学習指導要領において、各教科の特質に応じた示し方を行うこと、教育目標・内容と教育・学習方法、評価を一体的に示すことなど、学習指導要領全体の構造における言語活動等の学習・指導方法の示し方についても検討すべき。

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