教育課程部会 教育課程企画特別部会(第2回) 議事録

1.日時

平成27年2月12日(木曜日)10時00分~12時30分

2.場所

文部科学省 東館3階 3F1特別会議室
東京都千代田区霞が関3-2-2

3.議題

  1. これからの時代に求められる教育目標・内容,学習・指導方法,評価等の在り方に関するヒアリング
  2. その他

4.議事録

【羽入主査】  皆様,おはようございます。それでは,定刻になりましたので,ただいまから教育課程企画特別部会の第2回を開催させていただきます。本日は大変お忙しい中,お集まりいただきまして誠にありがとうございます。
最初に事務局から配付資料の確認をお願いいたします。
【大杉教育課程企画室長】  それでは,配付資料の確認をさせていただきます。本日は議事次第に掲載しておりますとおり,資料1から8,それから参考資料の1,2,加えまして机上には渋谷本町学園からの補足資料などを配付させていただいております。不足等ございましたら事務局までお申し付けください。
また,本日は急な会場変更等によりまして,また,プレゼンがございますことにより座席が変則的になっておりますことを御了承いただければと思います。
以上です。
【羽入主査】  ありがとうございます。
それでは,本日の議事ですが,次第にございますように,ヒアリングをさせていただきたいと思います。5組の皆様に御発表をお願いしております。
それに先立ちまして,小学校学習指導要領実施状況調査の結果がまとまったと伺っております。事務局から御報告いただきます。お願いいたします。
【髙口教育課程研究センター長】  失礼いたします。国立教育政策研究所の教育課程研究センターでございます。
資料6を御覧いただければと思います。小学校学習指導要領実施状況調査結果のポイントでございます。この調査でございますが,学習指導要領の実施状況を調査するために,概して改訂後2年を経過するときに毎回実施をしてきているものでございます。今回の調査につきましては,平成25年の2月から3月におきまして,小学校の第4学年4教科,第5学年3教科,第6学年7教科ということで実施をしたものでございます。そして,今回の調査でございますが,まずペーパーテスト調査を実施しておりまして,これは2のところにございますように,今回の改訂の基本方針に掲げられている事項とか,今回の改訂で新設された事項,学年及び学校を越えて移行した事項,また,従前より課題と指摘されている事項,そういったことを中心に調査をしたものでございます。抽出調査でございまして,調査校は全国911校ということで約4.2%,対象学年の約3.2%に当たる11万1,797人を対象にして実施したものでございます。
それで,調査結果のポイントでございます。これは2ページ以降にございますが,まず,ペーパーテストの調査結果でございますが,例えば,国語でございますと,問われたことに対して情報を正確に取り出すということが相当数の児童ができていたということとか,社会でございますと,グラフや年表から情報を読み取る,そういったことについてはかなり正答率が高かったということでございます。反対に,例えば,国語でございますが,目的に応じて文章を要約するなどの主体的に文章を読むということとか,文章の種類や特徴について効果的に文章を書く,といったことや,社会で申しますと,資料から読み取った情報を比較・関連付け,総合したりして考え表現するということ,こういったことについては課題があったということでございます。
算数につきましては,知識・技能的な点といたしまして,分数の乗法,除法という,計算の技能ということについては相当数の児童ができていたということでございますけれども,分数の除法の意味や割合に関する問題,目的に応じてグラフを用いて考え説明する,そういった事項に関わる問題については課題があったということでございます。
理科につきましては,身近な現象に目を向け,学んだことを生活に適用するということはできていたわけでございますけれども,科学的な言葉や概念を的確に記述するとか,事象の変化を要因と結び付けて的確に表現する,こういったことに課題があるということでございます。
加えて,児童と教員,学校長に対する質問紙調査を実施しましたが20ページを御覧いただければと思います。各教科の学習をすればふだんの生活等に役立つかということについて,「そう思う」「どちらかといえばそう思う」と考えていると回答した児童の割合が増えているということでございます。これは前回の調査,平成15年度に実施をしておりますが,それとの比較のグラフを記載しておりますけれども,全教科,全学年にわたって大きく増えているということで,例えば,理科の6学年を見ていただきますと,前回の平成15年度調査ですと50.5%が「役立つ」ですとか,「どちらかといえばそう思う」と回答しているのが,今回69.7%ということで,20ポイント程度増えているという状況になっているところでございます。
あと,26ページを御覧いただければと思いますが,これは学校長に対する質問紙調査でございますが,「体験的な学習の充実」「学校全体の教育課程の検証・改善」「基礎的・基本的な知識及び技能の習得」,そういったことについては90%以上の学校が実現できていると回答しておりますけれども,「思考力・判断力・表現力の育成」「問題解決的な学習の充実」「自主的・自発的な学習の促進」,そういった項目につきましては,「ほとんど実現できていない」「どちらかといえば実現できていない」という回答をした学校が30%以上あったということでございまして,学習指導要領の狙いとしているところは浸透しつつありますけれども,まだ実現できていない部分があるということがこの調査結果からうかがえるというところでございます。
今回の小学校学習指導要領実施状況調査の結果報告については以上でございます。
【羽入主査】  ありがとうございます。
大変興味深い調査結果だと思いますので,委員の皆様,いろいろと御関心,御意見もおありかと思いますが,後でまとめて御質問いただくということにしたいと思います。
それでは,ヒアリングに入りますが,まず今回のヒアリングの趣旨,それから補足資料等について事務局から御説明をお願いいたします。
【大杉教育課程企画室長】  失礼いたします。それでは,お手元の資料8をまず御覧いただければと存じますけれども,前回,1月29日に開催されました第1回教育課程企画特別部会における主な意見をまとめたものでございます。意見の概要につきましては,前回,羽入主査に最後におまとめいただきました議論の柱,まずは社会の変化への対応と,そのために必要な資質・能力,それから3ページ目になりますけれども,教育現場と社会・世界とのつながり,それからめくっていただきまして4ページ目,発達段階や成長過程という縦軸のつながり,それから学習指導要領の構造としての学習活動の示し方,それから評価の問題,この5本について御意見を頂いております。
本日のヒアリングでございますけれども,こうした5本柱に関連いたしまして,学校現場でどのような教育活動が展開されているのかという点について各学校の取組を御紹介いただくという趣旨でございます。
それに先立ちまして,本日の議論の補足資料を御説明させていただきたいと思いますけれども,資料7でございます。前回もお配りさせていただきました補足資料にスライド27ページから34ページを追加更新させていただいております。これにつきましては前回,第1回教育課程企画特別部会におきまして,例えば「アクティブ・ラーニング」につきまして,「テクニックではなく学ぶ意欲につながるようにすべき」,「手練手管にならないよう,なぜその方法が妥当なのか考えることが必要」,また,「学習のメカニズムに関する様々な知見を共有して議論を進めるべき」といった御意見を頂きましたことを踏まえまして,特に「アクティブ・ラーニング」が進んでおります高等教育における知見なども踏まえまして追加をさせていただいたものでございます。
お手元にございます資料7の27ページのスライドになりますけれども,「学習・指導方法について」というところでスライドを何枚か追加させていただいております。まず,「アクティブ・ラーニング」の一般的特徴としてどのような点が挙げられるのか,これにつきましては,例えば「学生が聞く以上の関わりをしていること」,「スキルの育成に重きが置かれていること」,「学生が高次の思考(分析,総合,評価)に関わっていること」などが挙げられております。一方で参考としてございますけれども,指導における過ちとして,内容面,知識面の網羅に焦点を合わせた指導も過ちであるという一方で,活動面のみに合わせた指導も過ちであるというような指摘がされているところでございます。
また,スライド28はそれに関連いたしましてですが,大学における取組におきまして「アクティブ・ラーニング」の失敗事例というのを調査した結果の中から,失敗原因というものを分析したものでございます。少し分かりにくくなっておりますけれども,「アクティブ・ラーニング」失敗原因ということで三重の円がございますけれども,グレーの円の外側に,例えば自主性の偏重,とにかく自由にやらせるということによる失敗,又は成果の偏重,とにかくアクティブ・ラーニングをやりさえすればいいのだというようなところによる失敗,また,形式偏重,とにかくプレゼンをやらせればいいのだということによる失敗というものも挙げられております。また一方で,少し左下の方になりますけれども,知識・技能不足ということで,活動面にばかり光を当てる余り,議論が浅薄になってしまうというような失敗事例も報告されているところでございます。
こうしたことを踏まえますと,スライドの29になりますけれども,学習プロセス,動機付け,報告付け,内化,外化,批評,統制となっておりますけれども,簡単に申し上げれば,内化という知識の習得,それから外化という習得した知識を適用して解決を試みるといった,こういったことをしっかり踏まえたプロセス,言い換えれば,スライドの30にありますような,単に知識の記憶ということだけではないのですが,それも含めた学習の深いアプローチというのが必要になってくるのではないかという報告がされているところでございます。
31ページ以降は,前回,小学校の学習活動の例ということで,学習指導要領上の扱いを整理させていただきましたけれども,これを幼稚園から高校まで通して各教科等を含めて整理をさせていただきますと,このような形になるというものでございます。今回,これを議論していただきたいというよりは,飽くまで議論の補足資料ということで御紹介を申し上げました。
以上でございます。
【羽入主査】  ありがとうございます。
それでは,次第に従いまして,5組の皆様から御発表をお願いしたいと思います。その後,まとめて質疑応答の時間を持ちたいと思いますので,よろしくお願いいたします。
では,まず小川委員から「総合的な学習の時間におけるアクティブ・ラーニング」について御発表いただきます。小川委員,よろしくお願いいたします。
【小川委員】  それでは,よろしくお願いいたします。10分程度ということですので,これからお話ししたいと思います。
前回,1回目の会議のときにも配られた資料の中にもございましたけれども,趣旨の中で特に,学ぶことと社会とのつながりを意識し,「どのように学ぶか」という,学びの質や深まりを重視すること,また,学びの成果として「どのような力が身に付いたか」という視点が重要となっています。また,審議事項の柱の中に,「新しい時代にふさわしい学習指導要領等の基本的な考え方」として,その二つ目に,「課題の発見・解決に向けて主体的・協同的に学ぶ学習(いわゆる「アクティブ・ラーニング」)の充実と,そうした学習・指導方法を教育内容と関連付けて示すための在り方」というふうに示されておりました。
本日私がお話しします総合的な学習の時間においては,既にそのような視点で実践がされてきました。そこで,総合的な学習の時間について,その目標や探究的な学びの姿などについて具体的に紹介させていただいて,今後の御議論の参考にしていただければと思っております。
まず,総合的な学習の時間の目標がどのようになっているかということなのですが,数字は私の方で付けたものですが,横断的・総合的な学習や探究的な学習を通して,自ら課題を見付け,学び,よりよく問題を解決する資質や能力を育成するとともに,学び方やものの考え方を身に付け,問題の解決や探究活動に主体的,創造的,協同的に取り組む態度を育て,自己の生き方を考えることができるようにする。こういうふうに示されております。黄色で色付けしてあります探究的な学習,それから協同的にというのは,この20年度の改訂のときに新しく加えられた文言でございます。この構想的に言いますと,1は総合的な学習の時間に特有な学習の在り方を示しておりまして,それらを前提にして2,3,4に示されたような資質・能力及び態度を育成しつつ,5にございます,自己の生き方を考えることができるようにするということを目指しております。
では,具体的に探究的な学習というのをどのように総合の時間で捉えているかということです。右上の方に解説ページ数がありますのは,これは総合の解説書のページを意味しておりますので,もしお手元にございましたら参考に御覧ください。
総合的な学習の時間での探究的な学習における児童の姿ということでここに示してございますけれども,総合的な学習の時間における探究的な学習とは,問題解決的な活動が発展的に繰り返されるような学習のプロセスのことを示しております。図の四角囲みの中にございますように,ちょうど真ん中のところに書いてございますけれども,探究の過程を経由するということで,その一つ目として,自ら課題を設定し,二つ目,情報を収集し,三つ目として情報を整理・分析し,四つ目として明らかになった考えや意見などをまとめ,表現し,そこからまた新たな課題を見付け,さらなる問題の解決を始めるといった,こういう学習活動を発展的に繰り返していくことを大切にしております。もちろんその課題の設定の前に,日常生活や社会に目を向けて,そこから児童・生徒が自ら課題を設定するということを総合的な学習の時間の場合は非常に大事にしています。
また,机上にお配りしてございます「今,求められる力を高める総合的な学習の時間の展開」という指導資料の中の19ページから45ページに,この探究的な学びの各過程における学習活動の事例を紹介しておりますので,参考に御覧いただければと思います。
このモデルとして一連の学習活動ということで,1,2,3,4の過程を示してはありますけれども,だからといってこれを固定的に捉える必要はないと思います。活動の順序が入れ替わったり,ある活動が重点的に行われたりするということは当然起こり得ることだと思います。容易には解決に至らない日常生活や社会の複合的な問題を扱う総合的な学習の時間においては,その本質を探って,見極めようとする探究的な学習は重要であると考えます。
続いて「協同的な学習とは」について説明いたします。総合的な学習の時間においては,特に,他者と協同して課題を解決しようとする学習活動を重視しています。それは多様な考え方を持つ他者と適切に関わり合ったり,社会に参画したり貢献したりする,そういった知識・能力及び態度の育成につながるからです。具体的にはここに挙げましたような1から3,多様な情報を活用して協同的に学ぶ,異なる視点から考え協同的に学ぶ,力を合わせたり交流したりして協同的に学ぶといった場面や児童の姿が想定できます。また,指導する教師側といたしましては,他者と協同して解決しようとする活動に発展させていくことも非常に大切だと思います。例えば,地域の人や専門家などから話を聞き,協力を得るとか,地域の人々と自然環境について考える,異なる年齢や年代の人々と協力して地域活動に参加するといった,そういった場面を意図的に作っていくことも大切だと思います。
それでは,総合的な具体的な実践を通して探究と協同についてこの後,少し説明したいと思います。ここでは渡邊重樹教諭の実践を取り上げます。私がセンターの指導主事をしておりましたときに一緒に研究に関わった事例でございます。まず,この実践の概要を簡単に説明させていただきます。別添資料の後ろの方に単元計画が付いているかと思います。おめくりください。これは単元名「バリアフリーな町大研究」ということで,6年生の福祉の単元ですが,目標を地域の「バリアフリー」の実情と人々への実際等を見つめ直し,地域の人々との関わり方について考えていこうとする実践的な態度を育てるということで,60時間にわたって単元を展開したものです。導入のところはこの単元計画のところにございますけれども,「バリアフリーって何かな」というところから,まず身近な学校内や地域のバリアフリーを探していく。また,活動の高まりの中で新たな課題を持って,地域のボランティアの方や,それから障害のある方などと関わりながら,「自分たちにできるバリアフリーって何だろう」ということを小学生なりに考えて,そして最後には発信していくという,そういった単元でございます。
これを探究的な学びの流れから幾つか整理したものをお話したいと思います。画面の方に戻っていただいて,これは課題の設定の場面なのですけれども,ウェビングの手法を使って,まず,「バリアフリー」に対するイメージを広げて,課題をセットする。各自のウェビングを基に類型化して,学級全体でまとめていきます。ある程度,点字に関するもの,車椅子に関するものや施設設備に関するものといったいろいろな視点が出てきたわけなのですけれども,「では,実際にはどうなっているのだろう」ということを調べてみようという次の活動へ展開していきます。そこから情報の収集が始まるわけですけれども,まず校内,身近な環境ということで,学校内の「バリアフリー」について調査したものを地図上にシールで表してみます。そして,校内マップに整理していく。それを今度は,自分たちの地域に調査対象を広げて,またそこに色別シールで地域マップに整理していきます。そのように,この地図上にあったものをグラフ化するといった形で,種類や活動についても分かりやすいように棒グラフに整理していく。この結果から子供たちは,分布状況にかなり偏りがあるというふうな事実について,数についても差があることを理解していきます。このときの児童の振り返りカードにはこのような記述がありました。A児は「バリアフリーはお店や人が集まるところに多い。また,誰にでも便利に使える」といったような地域とバリアフリーの関係に言及し,B児は「確かに人の集まるところにバリアフリーは多い。でも,人々が余り集まらない場所にも必要。もし障害がある人が困っても助けてあげられない。だからもう少し増やす必要がある」というように,自分たちが整理したものから現状を読み取る話合いをしていきます。そういう中で,「では,障害者にも誰にでも住みやすい町ってどんな町なのだろう」という新たな課題も見いだしていきました。
そこで,渡邊教諭は,子供たちに,障害のある方やボランティア活動を行っている地域の方と出会わせることにします。そういったところで地域の人との関わりを持たせる。中心になったのが3人のゲストティーチャーなのですけれども,お一人の方は障害者手帳を持っていらっしゃる高齢者で,心臓の手術の経験や視覚障害もあり,車椅子や電動自転車で生活していらっしゃる方です。しかしながら,元気に今を生活して,人生を前向きに生きることを信念としている方で,子供たちに対しても地域の不便さや不都合さといった物理的な側面だけでなく,心の面からの「バリアフリー」の重要性についても伝えていただきたいと考えて依頼しました。子供たちはこの方と一緒に実際に街に出て,コンビニで買物をし,様々な活動をしたりしながら学習していきます。仲良くなり,休日にこの方のお宅を訪ねていくというような子供たちも出てきました。
それから, ほかの2人のゲストティーチャーは,ボランティア活動に従事されている方で,この方たちはもう長年ボランティアをされていて,高齢者や障害者を支える立場から話をしていただき,実際に一緒にボランティア活動などを体験する児童もおりました。この地域の方たちに繰り返し関わってもらい,また,一緒に学校に来ていただいて給食を食べるなど,そういった機会を設けながら距離を縮めて,親しくなるような工夫をさせていただきました。
この写真は,そういったゲストティーチャーとの関わりの中で考えたことや自分たちが街に出て体験したことなどを基に,これまでの活動で分かった事実や考えたことを再整理したものです。先ほどの単元計画における学習活動で言うと13,14,15の場面に当たるのですけれども,この白画用紙の方に書かれているのは,これまで自分たちが現地調査や資料調査などから考えたこと,ブルーの画用紙に書かれているのはゲストティーチャーとの関わりから考えたことを全児童がそれぞれまとめたものを一斉に黒板に張りながら,提示して,概念化シートに全員で整理していく。そういう中で子供たちは友達の短文を比較したり,分類したり,関係付けたりしながら活動して,「こういうふうにまとまるかな」という試行錯誤の中で思考のプロセスが見えるとともに,協同的に学んでいます。例えば,そういった短文をまとめて,これらのものは「便利に改良」であるとか,挨拶することや老人ホームで話すことというのは,これは「ふれ合う」だとか,見て見ないふりをしないことは「手助け」だと,そういうキーワードにそれぞれ子供たちが話し合いながら整理していくようにしています。
そういった中で,先ほどお話しした障害のあるゲストティーチャーとの関わりを通してですけれども,これはある子供の振り返りカードですが,自分がいろいろな調査をして分かったことで大切だと思うこと,人と関わって大切だと思ったもの,それから,ゲストティーチャーの思いや願いを聞いた後に,交流を通して感じたことや思ったことを振り返ってもらって,そこから考えたことを文章にまとめるという,そういう活動をしています。この中で,自分で考えたこと,・ゲストティーチャーのお話から得たものや他者の考えを受け入れながら,問題を解決していこうという,そういった思考のプロセスが見られると思います。
また,先ほど,概念化シートに自分たちのキーワードをまとめていったのですけれども,その中に,どうしてもそのまとまりの中に入らないカードというものもあります。そういった少数の考えというものもこの担任は非常に大切に扱っておりまして,そのカードを使って考えの交流をしている場面です。どういうものかというと,少し見づらいのですけれども,多くの児童のカードが整理,分類されて,「心のバリアフリーこそが一番大切。みんなが親切にすればいい」という方向に考えが収束しかかっていました。そこに収まらない考えもあるということで,このI児のカードには「全体的には施設ではなく言葉的なものが多いが,そうやっていても人と関わりたくない人もいると思う」と書かれていたわけです。担任がこのカードを意図的に取り上げて,I児に「君の考えを説明して」と言うと,本人は「人と関わることが苦手な人には,親切にされることが迷惑な場合もあるのではないのかな」というふうに,子供たちは「そうだよ。施設も大切だしバリアフリー化も必要だけど,でも,こちらが親切にすることが一番大事なのだ」というふうに話合いが盛り上がっていたところにこのように一石が投じられて,子供たちはそれを考えてもいなかったので想定外だったわけなのですけれども,「ああ,そうなのか。障害のある方の中には関わることが苦手な人もいるのか。そうした場合にはどうするべきなのか」というような新たな問題が生じました。
そこで,このカードを中心に置いて,それぞれ各自がどのように考えるかといった考えの交流が持たれています。そういった話合いが進む中で,相手の表情や言動等を読み取って,相手が必要としている程度を考えて手助けをする必要があるのではないかといった,かなり高度な結論に至っていくわけなのですけれども,相手の気持ちを読み取り,状況や場合に応じて親切な対応が大切というふうに考えを深めていったわけです。1時間,子供たちが顔を寄せ合って,全体的に互いの意見を交わしながら一緒に学んでいる姿が見られます。
こういった一連の授業を,ボランティアをずっとやっていらっしゃるお二人のゲストティーチャーの方にずっとそばで見ていていただいたわけです。「やはり施設は大切だけれども,でも心で,私たちが心のバリアフリーを持って親切にしていくことが大事だよ」と,子供たちですからそのように考えが収束していった,その後にゲストティーチャーがお話をしてくださったのですけれども,このゲストティーチャーは子供たちにずっと関わってきましたから,子供たちは大変尊敬をしているし,憧れでもあり,「どんなふうに私たちの話合いを認めて,評価して,どのようなコメントを頂けるのかな」ということで本当に真剣に聞いていたわけなのですけれども,この方は子供たちのこの時間の活動に価値付けをしながらも,ボランティアの立場から現実的な課題を突き付けていかれるわけです。「本当に気持ちや心が大事であることは間違いありません。しかし,「バリアフリー」はやり過ぎるということはありません。いろいろな方がいます」というふうにして,「だから物でも最大限に補いたいと私は考えています。よくスロープのところで…」というふうな具体的な話を述べながら,「物でもなるべく親切に優しく設置してほしいというのが私の願いなのです」というお話を頂きました。
その後に,一人一人が書いた振り返りカードの一部なのですけれども,今日の活動,学習を振り返り,A児は,「この活動を通しながら,最初は物を便利にすればいいと思っていた。でも,清水さんから親切にすることの方が大切だと聞いて,いろいろと気持ちが変わっていった。しかし,今日の話合いで,親切にしたり話し掛けたりすることも大切だけれども,絶対に物に頼らなければならないのだなと。したがって,少し頭が混乱してしまった」と書いています。要するに,こういうふうに揺さぶられて,そこから次の新たな課題が出てきたり,また,この子なりにもっと深く考えていったりする。福祉の在り方というものは大人の世界でも結論の出ない課題であるわけですから,そういった中で自分たちなりに真剣に学んでいるわけです。
B児の方は,「そういった話合い活動や,ゲストティーチャーからの話や,それから自分たちの経験などを踏まえて,いろいろ考えたけれども,最後に,私は機械に頼りながらも,やはり人が関われる機会を少しでも増やしていってもいいのではないかなと思いました」というように,最後は私たち,人の心の問題であるということをこの児童は強いメッセージとして感じるような関わり方をしている。
このように,子供たちは他者との相互的な関わりの中で自分の考えをまとめ,表現することや,新たな知見を生むことを経験していきます。そのことを自ら振り返ることで思考や表現の仕方を見直し,それらの能力を高めていく。そういったところに総合的な学習の時間における学びの中には,子供が自ら学ぶ「アクティブ・ラーニング」というものが正にあるのではないかと思い,具体的にお示ししました。
本校では総合的な学習の時間だけではなく,各教科でもそういった思考ツールなどを使い,活動が問題解決的,主体的になっていくように,また協同的になっていくようにしているものです。協同的にやっていくために,ペア学習やグループ学習なども取り入れながらしております。
以上で私の方の説明を終わりにします。
【羽入主査】  ありがとうございました。大変興味深い御発表を頂きました。
それでは,続きまして平川委員から御発表をお願いします。「主体的・協働的に学ぶ学校づくりへの挑戦」ということです。よろしくお願いいたします。
【平川委員】  横浜市立市ヶ尾中学校の平川と申します。民間人校長として5年,目的は,子供たちが主体的・協働的に学ぶということでやってまいりましたけれども,本当の意味で主体的な学習環境が整えられない。いや,私の力不足のところも大きいのですけれども,理想に対して達成率は今,10%というところでしょうか。それが正直なところでございます。前職で留学仲介会社を経営しておりまして,欧米を中心に500校ほど視察した経験もありまして,日本の学校の良さと,それに加え,ここはもう少しこうした方がいいのではないかともどかしい部分を感じながら毎日過ごしております。本日は何分,経験不足と言葉不足でうまく伝えられるかどうか分かりませんけれども,どうかよろしくお願いいたします。
まず,実感といたしまして,主体的と協働的の協働的という部分に関しましては,例えば三宅なほみ先生が提唱されているジグソー法などを使いながら実践すれば今の体制でもできるかなと,少し勇気を頂いている次第ですけれども,しかし,主体的となりますと,もう本当に難しいなと。生徒の主体性を何が阻んでいるのかと考えさせていただいていまして,三つ挙げさせていただきたいと思います。
まず主体性を阻むものその1としまして,学習指導要領そのものです。こう言ってしまいますと元も子もないと申しますか,今このように議論しているにもかかわらず,大変失礼で勉強不足な言い方かもしれませんけれども,皆で同じことを,同じ時期に,同じペースで学ぶということ自体が主体性に結び付かないと私自身は思います。学ぶ内容に対して,例えば内容に系統性を持たせるという点において必要かもしれませんけれども,この学齢で皆が同じペースで学ぶということが主体的であるとはどう考えても無理があるように思います。例えば,これまで欧米の国に関わってまいりまして,ある国では,「小学校の授業の到達内容を作る」と。学ぶペースや学び方は個々それぞれでして,子供たちが決められるというやり方もございました。この場合,取りこぼしもございません。私も一度,ビジネスの世界におりまして,何十年かぶりに学校現場に入って感じたことは,中学校の50分授業10分休み,50分授業10分休みということ自体が既に工場のベルトコンベアーのようであるということです。これは昔の大量生産時代にはよかったかもしれませんけれども,今はクリエイティブな人間を求めているのではないかと思いまして,そうでないと自分の仕事をお手持ちのパソコンに取られるか,マニュファクチュアされるか,中国やインドの労働集約型の国に取られてしまうので,「工場型」から脱却する学習指導要領が必要だと感じております。
それから,主体性を阻むもののその2といたしまして,日本の子供たちで,授業が楽しみで楽しみでしようがないと,そのために学校に来ているのだというような子供が一体どれぐらいいるのかなと思っております。給食が楽しみだとか,友達に会いにくるとか,部活動が楽しみだとか,あるいは行かなければいけないからとか,こういうような生徒が比較的多いのではないかと。見学した欧米の学校では,学ぶこと自体が楽しいというふうな形で来ている子供が日本よりも多いように思いました。小学校の低学年などは,勉強が楽しいということで学校に行くのですけれども,高学年になったら,何となく,やらされ感というか,そういうように感じるところが多くて,ここは何とかならないかなと感じております。欧米で見てきた学校と日本の学校の違いは何かというと,欧米は1クラス15人から25人でやっておりますが,日本は御承知おきのとおり,うちも610人生徒がおりますけれども,40人学級です。その中で1人でも2人でも大変な子がいますと,結局,そこに大変なパワーと時間が費やされてしまって,とにかく授業は大変です。個々の対応ということで言うと,そんな時間も実は先生方はないというのが現状です。これが現場からのつぶやきでございます。
それから主体性を阻むものの三つ目に,学習指導要領でこの学年ではこの単元でこれだけの時間で教えるということまで決めて,「せーの」という形でやりますので,やはり先生方は全部こなすことで一生懸命になってしまっているということが現実問題としてございます。未履修とされてしまいますので,やはり全部やらなければならないのです。ワールドオリエンテーションという言葉がございますけれども,本当の意味で子供たちが,「これってどういうことなのだろう」と,身近なところで,例えば教室のドアノブが壊れたというところから入るとか,こういうようなことが現実としてできていない。今,生徒1人が学びたいと思うようなことが出されていないという現実もお伝えしておきたいと思います。
以上のような理由で,本当の意味で主体的に学ぶということにはほど遠いという現実がありますけれども,それでも,このような中でもやるべきことがあるのではないかということで,5年間,走りながら考えてまいりました。その模索をちょっと御披露させていただきたいと思います。まず,学校の教育理念です。私どもの教育理念は自立貢献という形で,お手持ちの資料の方にも学校だよりを本日お持ちいたしましたけれども,この右上にも必ず自立貢献と書かれてございます。集会や何かで,「はい,市ヶ尾中学校の教育理念は」と言いますと「自立貢献」と生徒が全員でとなえます。そういった形で生徒・保護者・教職員にほぼ100%の浸透度でこの教育理念が浸透しているわけでございますけれども,全国津々浦々の学校のうち,一体何校の学校の生徒・保護者・教職員が教育理念ですとか教育目標を口でとなえられるでしょうか。ここは非常に大きな問題だと思っておりまして,ミッションというのはやはり口でみんながとなえられて,必ずこれに従って,全てこれによってディシジョンメーキングされるというようなものであると思いますので,私はこの部分を本当に中心に据えてやっております。お手元の学校だよりですが,こちら,発行人が平川理恵ということで,毎月カラーで出してございます。ここの学校だよりの編集方針も自立貢献でございます。
日常の仕事は,本日のように外に出る場合は別ですが,学校にいるときは必ず授業を50分みっちりと参観に行っています。アポなしです。生徒ももうそれを分かっていまして,お手元の学校だよりを開いていただきますと,向かって左側に「おジャマします。授業拝見&お仕事拝見。」,それから,右の方にキャリア教育の取組がございますけれども,「おジャマします。授業拝見&お仕事拝見。」は,「これが不易,これが9割だとしたら,キャリア教育とかこういう風潮は1割でいいから入れようよ」というような話をしております。しかし,毎日の授業が一番重要ですので,突然,アポなしで行きます。子供の隣に座って授業を受けます。そうすると,いろいろなものが見えてきて,「何時何分,この先生がこういうふうに発問したら,この子がこう言った」ということも書き留めて,記録しておきます。その後,先生と校長室や職員室で隣に座って話をします。この仕事に就いて,「何て先生というのは褒められない仕事なのだろう」と思い悲しくなりました。私が企業におりましたときは,お客さんなり部長なり自分の上司なりが褒めてくれました。でも,先生は幾ら教材研究を一生懸命しても,生徒が「いやあ,先生,今日の授業はすごく面白かったよ。教材研究一生懸命やったんだね」とは言いませんので,褒められないのです。それどころか,やはり厳しい保護者からクレームをもらったりして,怒られることの方が多い。それが5年,10年,20年,30年続いたらどうでしょうか。やはり褒めてあげたいというか,現実,こんな頑張っているのだということを伝えたいと思い,学校だよりは毎月毎月,それから学校のホームページでも必ず「おジャマします。授業拝見。」ということで授業内容をアップしております。
そうしたところ,実はもうこの3年間,保護者からのクレームは一切ありません。やはり保護者も,先生がこんなに頑張っていることを知ると,何かちょっと言いづらいというか,「こんなに頑張っているからいいか」という点と,それから,「その頑張りを知らなかった」と。逆に先生に,「先生はこんなに工夫してくださっているのですね。ありがとうございます」と,直接言ってくださるのです。これがやはり先生にとっての一番のモチベーションアップになりまして,本当に私も助けられております。地域にもこの学校だよりは配っておりますので,地域の方からお声が掛かることもございます。
次に,特別支援でございます。市ヶ尾中学校では一般学級でもない,特別支援学級でもない,いわゆる特別支援教室を別室で設置しておりますけれども,定数がありますのでなかなか大変です。それを先生方に御理解いただいて,先生一人一人に少しずつこま数を多くしてもらって共通理解を図り,専任の先生を置いております。この先生も結局,英語を8コマ担当してもらいながらやってもらっているのですけれども,結果,不登校の生徒が十数名いたのが,ここだけの話ですが,現在では1人から2人に減っております。
ちょっと内緒で中の様子を録画してまいりましたので,御覧ください。入り口に入るときはノックをしたり,きちんと言ったりしてくださいということが書いてございます。左の方が地域の人材,それから前にいるのが学生ボランティア,それから若い先生も,自分が担任でやっていますと「おお,来たのか」ということでやはり声が掛かるのですね。全く違う場所にいましたらこういうこともないですし,いつも生徒指導に追われていますので,「今日も家庭訪問できなかった」と罪悪感にさいなまれることも多いのですけれども,これをやっているとやはりいろいろな人から声が掛かる。何よりも子供たちのいる場所があるということが重要なのではないかなと思っております。
それから,キャリア教育の充実です。これはとにかく日常の授業と世の中をつなげるということでやっております。学校だよりにも右側に書いてございまして,市ヶ尾中学校の場合は,地域連携という目的も兼ねて,本当に授業の中にトップリーダーや企業など,いろいろな人をお呼びしてオーラを感じてもらうという形でやっております。今までもサッカー選手の川島選手ですとか,芥川賞作家の平野啓一郎さん,ジャーナリストの佐藤和孝さんなど,いろいろな方に無料でお越しいただいております。有名人だけではなくて,企業の方で,例えば大日本住友製薬さんがDNA鑑定によって現代科学は人を幸せにするかという生命倫理のようなプログラムをお持ちでして,これは3年生の理科において遺伝のところで,メンデルの法則を学ぶときにやっております。メンデルの法則をそのまま学ぶと,面白いと思う生徒もいるかもしれませんが,多くの生徒はなかなか興味関心を持ってくれないのですけれども「このDNA鑑定というものが私の将来に響くんだ。」ということを思いますと,やはり生徒も一生懸命聞いてくれるのです。こういうような取組もありまして,とにかくキャリア教育を入れています。お手元にキャリア教育の詳しい資料もございますので,またお時間があるときに御覧になっていただければと思います。
こういう形で,「ようこそ先輩」ではありませんけれども,地域の赤ちゃんを呼んで,「これが市ヶ尾中学校の先輩の赤ちゃんなのです,命は大切なのですよ」と,イクメンを育てるためにも,赤ちゃんを抱っこする授業もあり,また,先ほどの大日本住友製薬の取組で言いますと,こういった形で発表の場を,ということで,個で考えて,グループでディスカッションをして,全体の場で共有するというようなことを,答えのない課題を見付けて取り組んでおります。
それから,グローバル教育でございます。今年度,市ヶ尾中学校は博報堂の博報財団さんの御支援を受けて,1銭も払うことなく子供たちを4人,ベトナムにつれていきました。それから,世界で日本語を学ぶ5か国の生徒が1か国につき4人ずつ来まして,富士山のふもとで合宿をいたしました。市ヶ尾中学校でも通常の授業を受けて,これは隣にロシア人が座っているのですけれども,こういうような取組もやっております。そして,彼らには市ヶ尾中学校の生徒の家庭にホームステイをしてもらいました。マイケル・サンデルの白熱教室にも生徒会の役員を連れてまいりました。ハーバード大学のクロコディロスというアカペラグループも招致いたしました。こういう日常の授業の中でいかに取り込むかというようなことで,私が校長になってから知り得た人に,とにかく学校に来てくれないかということをお願いしております。実は倍以上玉砕しておりますけれども,駄目でもともとという形でやっておりまして,結構,学校には,地方の方の学校だとちょっと難しい部分もあるかもしれませんけれども,都会の方の学校だと来てくれるのかなというのが実感でございます。
それから,コミュニティスクールの取組でございますけれども,こちらは平成23年度に学校運営協議会を設置いたしまして,昨年度,文部科学大臣賞を頂きました。これも学校運営協議会に教職員が出るっていうことが私どもの特徴でございます。今回は第1学年,今回は第2学年,今回は第3学年という形で,3時半から始まって,もちろん部活動と行き来していますけれども,「教職員が全員出なさい」と。臨時,非常勤,全員出なさいということで,彼らが学校運営協議会の委員の前でお話しするのは,どういう気持ちで担任をやっているのか,それから,どういう気持ちで自分がこの教科を教えているのかということです。そうするとやはり「頑張れよ」等,委員の方から声が飛んで,また先生もこれで頑張ろうというふうに思われるのではないかと思います。
お手持ちのコミュニティカレンダーというものもございますので,また,これは1中2小で私どもはやっておりますけれども,家庭と学校と地域を結ぶということで,全家庭と地域,合わせて800部配ってございます。2013年よりユネスコスクールにもなっております。
それから,図書室も,私が着任した1年目に手を入れまして,5,000冊の本を捨てて,それ以来,知の探究の場として,昼休みはこのように120人から160人,生徒が参ります。学校はファンタジーの本が多いのですけれども,社会学系ですとか科学系のリアルな本をとにかく多く入れるということと,それに加え,「ディスプレーをきちんとする。」という形でやっております。司書が去年から配置されまして,司書が調べ学習の報告書の書き方を授業に入って指導しております。
それから,開かれた学校ということで,これは「Dear校長」,私に対しての公聴ポストという形でやっておりまして,年間150通ぐらいで,お手紙が入ります。生徒からの率直な意見で,「こういうことを考えているのだ。」ということがよく分かって,返事は一筆箋で,担任の了解を得て,担任から渡してもらいます。秘密裏にしているというわけではございませんので,そういう工夫もしております。
いろいろやりました。本当に先生方の御協力もあって,いろいろ,思ったよりもできたのですけれども,今,5年目にどうしてもできないことがあります。それは授業と評価の一体化です。授業と評価の一体化というのは,目標と評価の一体化と,指導と評価の一体化のことなのですけれども,どうしてもできません。私の力不足もあるかもしれません。各教科の指導主事を呼んで,教科会に入ってもらったときも,「俺はこれでやってるのだ。」とお恥ずかしながらけんかになってしまい,なかなか,まず話し合う時間がない。インターナショナルバカロレアの学校とかを見に行って,ユニットクエスチョンを立てて,これも立てられると思うのですけれども,本当に一人一人がこの単元に対してこういうふうなことを指導しようと共有して,授業に入っているかというと,なかなかそれも難しいですし,ましてやこの単元でどういう人物像を育てるかというところまではできておりません。時間がないというのであれば,昼休みや夏休みとか春休みを使えばいいのではないかとお思いになるかもしれませんが,部活動の指導が毎日あるのです。放課後や夜は生徒指導がございます。昨日も,お休みの日ですけれども,私,学校に行きましたら,半分の先生が来ていました。これが現実でございます。臨時任用,非常勤が多いというのは市ヶ尾中学校32人の正規職員のうち,今,6人が産育休だからです。これが実は現実です。
ただ,どうにかして「アクティブ・ラーニング」はやりたいのです。そこで,何がいいのかなと思っておりますけれども,一つ目に40人学級ではなかなかできない討論型とか議論型,これを例えば二つのクラスに分けて,少人数あるいはTTのような形で人員の確保をお願いしたいというのが現場からでございます。
それから,もう一つ,部活動はそろそろ考えた方がいいのではないかと思います。もちろん部活動については,先生も子供たちのために大変御尽力を頂いておりまして,生徒育成のために大変大きな役割を担っているという現実があることも十分承知しております。けれども,一旦,学びを重視するというような学習指導要領に持ってくるのであれば,この問題についてきちんと取り組んで向き合っていく必要があると思います。コーチを付けるという話もありますけれども,だったらもう学校管理下から外してほしいと思います。それぐらいの形でやっていかないと,この問題は解決しないと思います。
最後に,学習指導要領の評価の部分でございます。初めに申し上げましたように,本気で主体的に学ばせることを今回の学習指導要領で行うのであれば,同じ年齢で,皆同じことを,同じペースでする学習指導要領の構造そのものをどうするか話し合っていく必要があると思います。現場では関心,意欲,態度,この評価が実は非常に難しいと感じております。ティーチャーズペットという言葉がありますけれども,どうしても生徒は先生の前ではまじめに,逆らうことなくやっていて,友達同士ではクリティカルなことも言い合うというようなことにならざるを得ない部分があります。関心,意欲,態度を評価するといっても,結局,説明責任が発生しますので,先生もこれをいいと思っていないのですけれども,ポイントカードにしたり,あるいはノートを見たり。でもノートを見るって何を一体見ているのでしょうか。やはりそこがなかなか厳しいのです。けれども,できない生徒を救ってあげようと思って,一生懸命,先生も夜遅くまで残って,ノートを見て,何とか点数を上げてあげようと思ってやっているのが現実です。でも,女子はきれいに書きますので。どうしても点数が高くなりがちです。そうしたら,男子の,例えば天才肌の人がマインドマップなんか書いたらどうなのでしょう。これは結構点数にならないのですね。ですから,こういう関心,意欲,態度で救ってあげるということもそうなのですけれども,それで点数が高くなって,クリティカルなことも言わずに,ただ授業に出て,写経のようにノートをとると。そんな子供をたくさん輩出するのが教育の目的なのでしょうか。
「アクティブ・ラーニング」のプロセスを評価の検討を含めてどのように今後書き加えていくのかということが大切だと感じています。1日でも早く子供たちが主体的に協働的に学ぶ日本の教育になりますことを私自身切に願いまして,私のお話はこれにて終わらせていただきます。御清聴ありがとうございました。
【羽入主査】  ありがとうございました。
それでは,続きまして渋谷区立渋谷本町学園の樋口郁代統括校長からお話をお願いいたします。「小・中9年間を見通した言語活動の充実について」ということでございます。よろしくお願いいたします。
【樋口先生】  皆様,こんにちは。御紹介いただきました渋谷区立渋谷本町学園,校長の樋口と申します。本日はこのような発表の場を頂きまして,心より感謝申し上げます。
私の説明はパワーポイントではございません。この場から申し上げますことをお許し願います。資料3及び本日お配りいたしました2枚組のA3判資料,左肩に「補足資料 渋谷区立渋谷本町学園H27.2.12」,大きく「理科で身に付けさせたい言葉の力」と書いてございます,この2種類の資料をお手元に御用意いただければ幸いでございます。
では始めます。本校は,渋谷区の中でも最も北に位置し,新宿区と中野区との区境にあります。平成24年の4月,小学校2校・中学校1校を母体とし,渋谷区で初めての施設一体型小中一貫教育校として開校し,今年で3年がたとうとしてございます。開校当初よりも150人ほど増加いたしまして,現在,児童生徒合わせて707名,常勤の教職員は61名,講師ですとか介助員等を含めますと80名ぐらいのスタッフとなりますでしょうか。「本校のコンセプトは,小学校1学年から中学校3学年までの9年間を見通した義務教育です。しかも,小学校と中学校という区切り,これも大事にしてください。プラス,9年間を三つのブロックに分けてください。1から4を初等部,5から7,いわゆる中学校への接続の部分を中等部,そして8から9を高等部という,こういう三つのブロックも考えてください」と,これが渋谷区教育委員会から拝命した私の使命でございました。こう両方言われましたので,ああ,どうしようかなというふうに考えたところです。
すみません,自席ではありますが,立っている方が声を出しやすいのでこのままでお話しさせていただいてもよろしいでしょうか。
本校では,私がここに着任したときから,といいますか,その前のときに東京都の言語能力向上の指定を受けておりましたので,その続きをやらなければなりませんで,2年目には研究発表会も行うように言われたので,研究主題をこのように「9年間を見通した言葉の力の向上」としました。お手元の資料のとおり,昨年度になりますが,平成25年11月22日に研究発表会を開催したところでございます。そして,本年度,また新たに東京都教育委員会から言語能力向上の拠点校という指定を受けております。今,この研究実践を継続しているところです。
いろいろ取組をしてございますが,今日はお題を頂きましたので,9年間を見通した言語活動の取組に特化してお話を申し上げます。それでは,お手元資料3の3ページと4ページをお開きいただければと存じます。まず3ページを御覧ください。研究の構想が書いてございますが,下の方に「言葉の力」と大きく書いてございます。本校が示す言葉の力とは,主に国語科を中心に小学校の低学年期から積み上げる,話す・聞く・書く・読むなどの基礎的・基本的な言語の力と,その上に,それを活用しながら養われていきます思考力・判断力・表現力等を含む言語の力,この二つの部分を両方合わせて,しかも基本となりますのは,主体的に学習に取り組む姿勢でございますが,「言葉の力」という表現としております。そして,これらを習得,若しくは活用・探究することができる子供たちを育てたいと考えております。
各教科,小学校も中学校も一緒に,例えば算数・数学教科部会とか,図画工作・美術部会とか,小学校と中学校が一緒であることを利用した教科部会を構成いたします。4ページを御覧ください。それぞれの教科部会におきましては,9年間で身に付けさせたい言葉の力を定めます。そして,これを基にして,初等,中等,高等の各段階における力を設定いたしまして,教科で身に付けさせたい言葉の力の系統性を明確にしました。
具体例としてお持ちいたしましたのが,別添資料でございます。先ほどの2枚組でございます。理科で簡単に御説明申し上げます。2枚組の1枚目,表側を御覧ください。ここは理科で身に付けさせたい言葉の力です。教員たちが考えたのはこういうことでございました。「事実に基づき,根拠を持って考え,表現する力」。これを基に初等・中等・高等の各段階ではどうしようかと考えて系統性を,矢印を三つ書いてございますが,そのように分割してございます。そして,この力を身に付けさせるための方法の一つとして,言語活動を利用したところでございます。言語活動はあくまでも各授業,各単元の狙いを達成するための方法です。言語活動が目標にならないように,その点については全校の全教員にしっかりと押さえさせたところです。例えば,理科でどのような言語活動に取り組んだかということを,実際に使ったものを下に五つほど記載してございます。
このような形で言語活動を授業の中に取り込んでいくわけなのですけれども,では授業はどんなふうに展開させていくか。これを一応,本校ならではの系統立てた授業を作っていこうということで,スタイルを作りました。先ほどの資料3の資料に戻ります。あちこち行って申し訳ございませんが,7ページをお開きください。ここにありますのが本校の学習の流れを示している渋谷本町スタイルと我々が呼んでいるものです。1時間の授業を「ねらいの提示」「考える」「学び合う」「まとめる・振り返る」に分けます。「いいか,分かったか。今日はこれを学んだぞ。終わり」というようなまとめや振り返りにならないということを大事にしています。「ねらいの提示」では,その授業の学習課題を明確にします。各授業では「ねらい」というカードを黒板に張りまして,子供たちには今日の授業は何を学んでいくのか,また,教員にとってはどのような力を身に付けさせるのかを視覚的に訴えさせます。次の「考える」の段階では,児童生徒が1人でじっくりと考え,自力解決を図る時間です。「学び合う」では,言葉で交流し合いながら課題解決を目指していきます。そして,最後の「まとめる・振り返る」でもう1回,個人に戻し,学びの定着を図ります。
全校で同じスタイルの授業を展開することで,児童生徒は学習の流れを身に付けることができます。そして,その積み重ねが基礎・基本の徹底と,思考力・判断力・表現力等を高め,主体的な学びにつながっていくと私たちは考えています。
ここで言語活動を取り入れた美術科の授業の一場面を御紹介いたします。先ほどの別添資料1枚目の裏側を御覧ください。ここには図画工作科・美術科で身に付けさせたい言葉の力をまとめてあります。「他者と学び合い,豊かに表現する力」,それをこのような形で先ほどの理科と同じようなパターンにしてございます。
次のページに,つい先日なのですけれども,実施いたしました美術科の学習指導の略案を載せました。本単元の内容といたしましては,これは7年生というのは中学校1年生です。絵や立体を動かす。その一つとしてゾートロープを制作するものです。ここに記載いたしましたねらいに示したこの力を身に付けさせるために言語活動を効果的に取り入れています。ちなみに,ゾートロープ,御存じのこととは思いますが,すみません,私の手元を見ていただいてもよろしいでしょうか。こういうものです。円筒形のものです。12個,分かれていまして,内側には絵が描いてあります。ここにスリットがありますね。このスリットを通して回します。こういうふうに回してやると,絵が動くのですね。アニメーションの原型と言われているものです。もしよろしかったらと思ってお持ちいたしました。
言語活動として,では,どういうふうにやったかといいますと,この略案の裏側のページを御覧ください。この真ん中にあります,確実に動いて見えるゾートロープを作るために気を付けることという,まずこの主題を基にして,一人一人がここにマインドマップを書きます。このマインドマップの方法によって,一人一人の考えがクモの巣状に広がっていて,頭が柔らかく,豊かになってまいります。次に,班ごとの活動をいたします。マインドマップで表した内容を意見交換いたします。意見交換しましたら,班にこういう紙を渡すのですけれども,半分に折らせて,意見交換して出てきた共通の単語を青いペンで書かせます。そして,この箇条書にしたものを今度は反対側に文で記させます。班で十分に話し合った後は,これを学級全体の活動に移します。話し合いましたことを,これを全部黒板に貼ります。そして,班ごとに発表していきます。発表の仕方については,お手元にありますような「話型(話し方)」を使っています。この「話型(話し方)」は,美術の時間に習うわけではなくて,国語の時間に言語活動の一つとしていろいろな「話型(話し方)」を学習しておりますので,その応用というところで,国語でやったことがほかの教科にもということで,「話型(話し方)」を使って,プラスアルファはもちろん子供たちで構わないのですけれども,「話型(話し方)」を使って全体で共有をします。全体で共有いたしましたら,そこからは教師の出番なのですけれども,「今,みんなの発表の中でこういうところが共通していたね」,などということを,こういう短冊に教師がその場で,子供たちの意見を大事にしながら書いて,貼っていきます。もちろん子供の思考では足りないところも教師がそこにプラスアルファをして貼っていきます。
大したことではないかもしれないのですけれども,こうやって子供たちが,「じゃあゾートロープ作るよ。12個絵を描いてね」と言ってやったのと,こういう過程を踏んでやったのでは,子供の発想の豊かさや向かう姿勢が全く変わってきたというふうに美術の教師は言っておりました。
生徒に意見を聞いてみましたら,こんなことを言っています。「A君の『繰り返し続く』という言葉が僕の頭の中で回っています」「僕は初め,好きなものを分割して書けばいいやと思っていたが,どんな題材だったらこの面白さが伝わるかを,先生,考え直してみたい」,こんなことが子供たちの生の声として上がっておりました。内容ありきではなく,課題を発見し,その課題に向けて自分から,また,友達と一緒に言語活動を媒体として学ぶことで,制作という美術科ならではの表現の質が深まっていくと考えております。また,制作をした後には,再び言語活動を取り入れて,相互に干渉し合うということです。
本校ではこうした授業を全校で取り組んでおりますが,試行錯誤の毎日でございます。そのため,小中学校の教員が合同で教科部会・分科会を組織すること,本校独自の指導案を全員が作成して年1回は必ず研究授業をすること,協議会では分科会ごとに付箋を使ってグループ協議を取り入れること。そのほかにも,本日お持ちした資料の8ページ以降にありますような掲示物ですとか,スピーチ活動・読書活動など,いろいろな取組をして研究実践をしてございます。まだまだ途中ではございますが,事例として発表させていただきました。
以上で終わります。御清聴ありがとうございました。
【羽入主査】  ありがとうございました。時間を厳守していただきまして恐縮です。ありがとうございます。
それでは,続きまして,新潟県上越市立大手町小学校の加藤誠雄校長,それから松岡貴徳研究主任から御発表をお願いいたします。「これからの社会を切り開いていく資質・能力を育む教育課程の編成について」ということでございます。どうぞよろしくお願いいたします。
【加藤先生】  皆さん,こんにちは。上越市立大手町小学校長の加藤です。
当校の研究系譜に若干触れさせていただきます。当校は昭和52年,教科と生活活動,これは今の総合的な学習の時間になりますが,その2領域プランで教育課程を開発してきました。以来,一貫して子供の生活経験や体験を重視した学習活動を展開してきております。その根底には,子供は本来,学びたい,できるようになりたいと願う存在であるという子供観があります。様々な対象と出会い,こうしたいとか,あるいはもっとこうしたいという願いが高まったとき,子供は自ら持っている資質,能力を十分に発揮します。そして,友達と協同しながら問題が解決するまでとことん取り組んでいきます。こうした学習をずっと継続してきておりますので,当校では授業が楽しみで仕方がないという子供がほとんどです。
折しも,資質・能力の育成というものが世界の潮流となってきています。そこで,当校研究の成果も踏まえ,総合的な学習の時間にとどまらず,教科も含めた教育課程全体を資質・能力の育成を基軸として構築できないものだろうかと考えまして,平成24年度から26年度までの3年間,研究開発学校の指定を受け,教育課程研究・開発に取り組んできました。本日はその研究過程の紹介をさせていただきます。ここからは研究主任が御説明申し上げます。
【松岡先生】  これから研究開発学校として3年間取り組んできたことを発表させていただきます。
当校が考える,これからの社会を切り拓(ひら)いていく資質・能力を育む教育課程の特徴は,この3点であります。当校のこれまでの子供観や教育観に基づく実践研究,それから21世紀の社会が求める資質・能力等も検討しながら,これからの社会を切り拓(ひら)いていく資質・能力をこれら六つに整理し,教育課程全体で育むこととしました。物事の本質を深く探ろうとする探究力,知識・情報を生かしながら考えを論理的に整理していく情報活用力,言葉を通して周りのもの・こと・人と関わっていくコミュニケーション力,新しいものを創り出していく創造性,自分で自分自身を調整していく自律性,そして周りのもの・こと・人との関係をよりよくしていく共生的な態度の六つです。そして,六つの資質・能力の自覚化を促すために,自分の考えや行動を振り返り,これからの自分の在り方を考えようとする内省的な思考を位置付けました。
私たちが整理した六つの資質・能力は,たくましく生き抜き,人々と協力して解決策を創造していくための汎用的な能力と捉えています。その六つの資質・能力を発揮する様相をこれまでの実践から整理してみると,このような関係性があるのではないかと考えています。他人の悩みであっても自分事として受け止めたり向き合ったりしながら共に解決策を導き出し,乗り越えようとする子供の姿があります。また,自分のうまくいかないつまずきや困惑をためらうことなく吐露できるつながりがあります。このような共生的な態度は,協働的に問題解決に当たる過程においての基盤として位置付けられると考えます。また,知りたい,学びたいという子供の願いを基に学習が展開されるため,物事の本質に迫ろうとする探究力が学びの原動力,推進力となって機能します。このように,共生的な態度を基盤に,探究力が推進力となって中核を担い,協働的に問題解決に向かう学習が成立したとき,一人一人が持っているそれぞれの資質・能力が十分に発揮されると私たちは考えています。
そして,資質・能力の発揮の関係性を検討していく中で,六つの資質・能力の発揮を促すポイントを以下のように整理をしました。探究力の発揮を促すには,このようなポイントが大切です。現代社会の課題,地域の暮らしや学校の特色に応じた課題を解決していく中で,子供一人一人が自ら考え,対象との関わりが自分事になっているとき探究力を発揮します。とことん対象と関わる,自己選択・自己決定を繰り返すなどを大切にした探究的な学習が求められます。
情報活用力の発揮を促すにはこのようなポイントが大切です。子供は,知りたい,考えたい,やってみたいという対象に出会ったとき,その対象を言葉や図,数など,何らかの形に情報化していきます。そして,それらを整理,分類,比較していく過程で論理的に整理をしていきます。系統性を重視した問題解決学習は,特に情報活用力の発揮を促す有効な手立てと考えます。
コミュニケーション力は,相手の心情を感じ取ったり,推し測ったりしながら,人と人とをつなぐ役割を果たしています。ですので,日常生活における他者との対話や交流,紹介や説明,インタビューなど,人と関わる場面において発揮が促されます。相手意識や目的意識を明確にした相互作用的な言語活動の設定がポイントと言えます。
子供は心が揺さぶられる体験があると,気付きや思い・願いを基に,「作りたい」・「表現したい」という気持ちを膨らませ,多様な学習内容や学習材を生かしながら表現を作り出します。その際,自己開示できる土台が前提となることや,発達段階に応じた発揮の様相の違いを生かした活動設定が大切です。
自律性の発揮を促すには,「めあて」を追究する活動の設定がポイントです。子供は運動したり,食や健康について考える際,より良い自分を意識していろいろな方法で工夫して挑戦したり,諦めずに何度も試行錯誤を繰り返したりします。その際,より良くしたいと願う自分への気付きを基に,自分の「めあて」が自ら生まれるような活動の設定が大切です。
共生的な態度を発揮するには,同年齢・異年齢集団活動と振り返りの活動を大切にすることです。本来,子供は仲間ともっと良い関係を築きたいと願っています。その願いを基に,仲間との関わりの中で協力して問題解決する場面や,新たなものを作り出す場面,折り合いを付ける場面を設けることがポイントです。その際,互いの思いや願いを十分に聞き合う,認め合うことも大切でしょう。
それでは,資質・能力を育む授業について,5年生「重さと体積」の実践から紹介します。この実践は,情報活用力を発揮しながら,身の回りのものの密度は異なるのかという問いを解決していく姿を目指しました。1,000立方センチメートルが1リットルであることや,1リットルの水が1キログラムであることを知った子供たちは,測ってみたいものを見付けては体積や重さを調べていきました。その後,プールの体積を知りたい,プールの水の重さも知りたいと動き出した子供たちは,プールの縦や横,そして深さなどを測りながら,プールの中の水の体積を調べ始めました。身の回りのものの体積を計算したり,水に沈めて計測したりしていく中で,自分の体の体積も調べてみたいと大きなたらいの中に入り,自分の体積を量り始めました。そこには情報活用力を発揮しながら,知りたい情報を数に表す子供たちの姿がありました。そんな子供たちに担任は,密度の高いウバメガシの木を提示しました。「Aさんは水に浮くのに,Aさんより軽い木が沈む!?」という事実に触れた子供たちは,一気に探究力を発揮して,本当に重いのはどちらなのかという課題を持ち,追究していきました。子供たちは,この課題に対して「体積を調べたい」「重さも調べなきゃ」「いろいろなものの情報も収集したい」「どうやって比べれば良いのか」と他者と協働しながら課題を解決していきました。「なぜだろう」「真実を突き止めたい」という子供の思いや願いが基になり,自分の知識や技能を駆使し,協働的に問題解決する姿がありました。また,情報収集力を発揮し,集めたデータを基に論理的に思考しながら課題を解決していく姿がありました。
当校では,このように資質・能力を発揮する授業を創造しながら,子供が自己の学びを振り返り,意味付けたり,関連付けたりしながら,内省的な思考を働かせ,自ら自分の学びを広げ,深めていくことを大切にしています。資質・能力を発揮している自分を自覚し,自分の行為を内省しながら振り返り,メタ認知しながら自ら学ぶ力を育むのです。そのために,学びを子供自身がつなぎ,統合する時間として学びの時間を設定しています。上学年では毎日,学びのシールにその日の出来事や感想を書きためます。そして,1か月に1回程度,書いたことを読み返し,様々な学びを結び付けていきます。これらの過程を通し,子供は自分の学びを改めて意味付けをしていきます。
また,当校では,資質・能力の発揮を目指す授業を開発する中で,発揮される資質・能力の発達段階別指標を基に,学習対象や学習内容,資質・能力を発揮するためのポイントや具体的な手立て等をカリキュラムベースに蓄積,整理をしています。つまり,カリキュラムベースを基に授業を作る,授業から視覚的カリキュラムやカリキュラムベースを見直す,このようにして子供の学びに寄り添いながら,カリキュラムを柔軟に更新していくのが大手町カリキュラムのシステムと言えます。
この教育課程において,子供だけでなく,教師の変化も成果として挙げられています。職員の姿からは,子供の資質・能力を促し,育んでいくためには,よりダイナミックな活動を構想する目や,長いスパンで子供の成長を期待していく姿勢,また,学びの結果ではなく,学びの過程を評価する評価観を転換していく姿勢が伝わってきます。また,新たな教育課程の創出が,職員の同僚性や協働性の発揮にもつながっています。また,子供の育ちについて,資質・能力の視点から肯定的に見てくださる保護者がほとんどです。特に,子供の思いや願いを実現する教育課程の良さや,自ら考え,動き出す子供,互いの良さや違いを認め合う子供の成長を認めてくださっています。さらに,子供と保護者に資質・能力を発揮する姿についてアンケートを実施しています。その結果では,13項目のうち7項目が,保護者の評価が児童の自己評価を上回っています。子供の学びに向かう姿を保護者が肯定的に受け止めている結果からも本教育課程の成果がうかがえます。
3年間の研究指定の終盤を迎え,自ら学び,共により良く生きようとする子供の姿の具現に向け,子供の変容や育ちが実感でき,かなりの手応えを感じています。しかし,この教育課程をより確かなものにするために引き続き良さや課題を検証する必要があると考えています。特に,資質・能力の発揮の様相や,発揮を促す良質な学習内容,学習材の在り方について検討を加えたいと考えています。
以上で説明を終わります。なお,体験から生まれる感性を他者とつながりながら連詩によって磨いていく授業事例も資料として紹介させていただいておりますので,後ほど御覧いただければと思います。以上で説明を終わります。
【羽入主査】  ありがとうございました。
それでは,続きまして清水委員,三宅委員から御発表をお願いいたします。「知識構成型ジグソー法を用いた協調学習の授業づくり」ということでございます。よろしくお願いいたします。
【清水委員】  それでは,発表させていただきます。当初,私が5分程度前座を務めて,三宅委員から10分程度,本題をと思っておりましたが,三宅委員ののどの具合がよろしくないため,私の方でまとめて話をさせていただきます。
お手元の資料につきましては,8ページまでが私の方で用意をさせていただいたもの,9ページ以降が三宅委員の方で用意をしていただいたものということになってございますので,よろしくお願いいたします。なお,このスライドの中に,お手元の資料にはないスライドも出てまいりますので,その際は前のスクリーンを見ていただければと思います。
早速,私の方の資料を説明します。いきなり皆様の手元にないスライドを出してしまいましたが,埼玉県では現在,平成26年から30年の5年間を通した「埼玉県教育振興基本計画」というものを策定してございます。その中に「未来を開く『学び』の推進」という項を設けて,協調学習など,子供たちが主体的に授業に参加する取組を推進しますということを明記しております。スライド2ですが,これは平成25年3月に発行した「県教委だより」です。埼玉県の教職員全員に配布した資料でございますが,この中に協調学習に取り組む経緯,そしてどのようなものかということを1枚の紙にまとめて周知いたしました。この右上赤い枠の中に書いてあるものを少し拡大したものを次のスライド3に用意をさせていただきました。文章でいろいろ書いてございますので,これをまとめたものがスライド4でございます。ここでは,「余りにも生徒が受け身になっている」という課題に対する埼玉県としての考えと取組をまとめました。この課題については,昔から言われていたわけですけれども,平成20年度,21年度頃からこの課題にどう取り組んだらよいかということを考え始めました。そして,「生徒がもっと主体的に参加する授業にすべきで」言い換えれば,「生徒の主体的な学びを引き出す授業作りが必要」なのではないかということを念頭に置きながら,それも特定の学校の1校だけでやるとか1人の教員が取り組むのではなく,全ての学校で授業改善に取り組んでもらいたい,そして,こういった取組をやるには,やはり多くの先生方に関わっていただかなければならない。是非,多くの先生に関わっていただきたいということの願いを込めながら,この授業改善のための教員のネットワークをどう作っていったらよいか,そんなようなことを考え始めた時期でございました。
当時,様々な大学や研究機関等を訪問させていただきましたけれども,東京大学の三宅先生のところで「知識構成型ジグソー法」と呼ばれる手法があることを聞き付け,東京大学の門をたたいたというような状況でございます。そして,平成22年から23年の2年間,「県立高校学力向上基盤形成事業」という名前で研究を進め,その後,平成24年度から今年度まで,未来を拓く(ひらく)「学び」推進事業という事業を立ち上げてまいりました。
この事業の進め方についてスライド5にまとめました。当然,先生方の多くの協力が必要になりますが,まず私たち指導主事がその「知識構成型ジグソー法」をしっかりマスターをして,そして先生方の協力を得ていくという流れで事業を進めてまいりました。この指導主事の研修会から始まって,協力していただける学校,先生方を集めた全体研修会であるとか,全ての教科が一堂に会する合同教科部会,そして,教科に分かれての教科部会を実施しております。こういったものは埼玉県全土から集まってまいりますので,年間何回も実施することはできません。そのために6月,11月,1月の年間3日,全体が集まる機会を設けて,それ以外はインターネットであるとか,教科ごとに個別に集まっていただいて打合せをしていただきました。そして,6月から7月,9月から11月の期間に各校で研究授業や公開授業を実施していただいております。この公開授業につきましては,今年度100を超える公開授業を実施していただきまして,多くの先生方があちらこちらへ出向いて授業を見て,協議をしてということを繰り返してきました。そして,今年1月17日に戸田市文化会館を会場に事業報告会を行いましたが,全国からも600名を超える多くの方々にお集まりいただきました。
事業の広がりについて少し紹介いたしますけれども,平成22年から23年の2年間,先ほど申し上げた「県立高校学力向上基盤形成事業」がスタートして,その後,「未来を拓く(ひらく)「学び」推進事業」と移っていったわけでございますが,平成22年度当初は指定校が10校,これに協力していただく研究する先生方が26名でスタートしました。この取組は,希望する学校に参加をしていただくことで実施しておりますが,それが年々,倍,倍と増えていきました。平成26年,今年度は埼玉県139校の県立高校のうち88校,276名の先生方に取り組んでいただいております。
教科部会も,当初は国語,数学など6教科程度だったものが,今は産業教育なども含めて17教科科目となり,多くの先生方に参加をしていただいております。
授業者の主な感想を幾つか紹介します。「生徒の学びをイメージすることができるようになって,1時間1時間の授業を以前より深く考えられるようになった。」「知識構成型ジグソー法という型があるということで,教科や年齢,学校の垣根を越えた授業研究が行われるようになった。そして,「生徒からは「脳に汗をかく授業だ」というような感想がもれる。」など,その時間に生徒が活発に子供たちが活動している様子をうかがい知ることができる感想も頂いております。ある意味,こういった感想そのものが,この取組の成果であると考えております。
今後の取組といたしましては,埼玉県だけではなくて全国の教育委員会や先生方と協力をしていきながら,更に広がりのある事業にしていきたいと考えているところであります。また,もっともっと質を高めていかなければならない,そういった課題もございますので,質を高く,そして更に深まりのある授業に発展させていきたいという思いを持っているというところでございます。
ここからは三宅委員のスライドでございます。三宅委員の思いが伝わるかどうか分かりませんけれども,少しずつ話をさせていただきます。
そもそもなぜ,埼玉県と東京大学,CoREFが連携を始めたのかということですが,東京大学CoREFでは,「人はどう主体的に学ぶのか」など,学びのメカニズムのような,こういった研究をされている。そして,もう一つ大きなきっかけとなっているのは,理念だけではなくて,共通の「型」を持って,取組ができる。そういったところに着眼をいたしました。そして,「人は実は自分で考えて,自分なりの答えを出す方が自然で得意」このような言葉を頂いたときに,私どもとしても共感を持って,この手法に取り組んでいこうと思い,東京大学CoREFとこの事業をスタートさせたところでごさいます。
先ほど申し上げた「型」なのですけれども,先ほど,埼玉県が出しています「県教委だより」の中で五つの活動の絵がありました。この五つの活動段階がこの知識構成型ジグソー法にはあると捉えておりますが,三宅先生の方からは,型が満たすべき条件として,この六つのポイントがあるのだということを伺っております。この六つのポイントを,先ほど示しました1から5の活動に当てはめてみたところでございます。1,授業の課題について自分はどう考えるかを確認する。ここは個人で考える時間。2がエキスパート活動といって,複数の人間で集まって,それぞれの資料をもとに考察をしていく。3はエキスパート活動のグループから一人ずつ集まった新たなグループによるジグソー活動,4がそれを発表し合うクロストーク,最後はもう一度自分一人になって考える振り返りというのでしょうか,そういった時間を取っています。詳しい内容につきましては,次のスライドにございます東京大学CoREFのホームページの方により詳しく載っておりますので,そちらを御覧いただければ有り難いと思います。
それでは,実践例を紹介させていただきます。例えば,生徒に投げ掛ける課題を「葉はなぜ緑色なのか」とします。今ここで実践をすることはしませんが,ここでは,葉はなぜ緑色なのかということを自分なりにこれまでの生きてきた中で得た知識や経験を基に,右のような資料にまとめていく。そういった時間を少し取っていきます。ここでは生徒が1人で自分の考えを自分なりのものとしてメモする,そのような時間です。そして,次がエキスパート活動。ここでは,1班,大体3人から4人ぐらいのグループを作って,例えば1クラス40人だとすると,1クラスに12から13の班が出来上がることになりますけれども,例えば,この1班から4班にはAの資料として,「色はどうして見えるのか」という資料を,5班から8班にはBの「葉緑体の光吸収スペクトル」の資料を,そして,9班以降のグループにはCの「エンゲルマンの実験」の資料を手渡します。まず,これらの資料を自分でしっかり読み解き,その後はグループとしての考えをまとめます。例えば,スクリーンにあるような,真ん中がAの資料,左側がBの資料,右側がCの資料。これは先ほど申し上げたとおり,AとBとC,それぞれ1枚しか手渡されないことになりますので,Aの生徒は,BとCの生徒がそのときどのような学習をしているか分からない,Bの班はAとCの内容は分からない,CはAとBが分からない,そんな状況の中で話合いを進めていってもらいます。
そのときの授業風景の写真ですが,どうでしょう,男の子が真ん中に写っておりますけれども,話し合っている雰囲気はないと思います。というのは,先ほどお見せした資料について,まず読み解かなければならない。そして,次にグループとして,これはどういうことなのだろうかということを討議,協議をしていく。そのような段階になっていきますから,エキスパート活動の最初では,すぐには話合いが行われないこともあります。その後「これは,こんなことなんだよね」というような打合せが起こります。この段階で,なぜ真剣にやらなければならないかというと,次のジグソー活動は,エキスパート活動の各班から1人ずつが集まったグループを再構成いたしますので,Aの内容を知っているのは1人だけ,Bの内容を知っているのは1人だけ,Cの内容を知っているのは1人だけというグループが作り上げられていきます。その中で自分がやってきたことをほかの人たちに説明しなければならない,そういう使命がありますので,この段階でしっかりとエキスパートの活動をしていかなければならない必然性が出てくるのです。
そして,ジグソー活動ですけれども,まず,先ほど申し上げたとおり,AとBとCのグループから1名ずつが集まってきた3人グループでこの活動が行われます。この資料では,上の方に(1)(2)(3)とございますが,それぞれAとBとCを学んできた生徒が,他者に自分の言葉で,例えば「エンゲルマンの実験というのはこういうことなんだよ」ということをまず説明をする。そして,一通りその説明が終わった後にグループ3人が一緒になって,(4)にある「葉はなぜ緑色なのか」ということの課題解決に向けて活動を始めていく。そのような段階になります。そのときには,写真にありますように,かなり活発な意見交換が行われ,そして時には,分からない子に,「これはこういうことなのだよ」ということを教え合い,学び合う活動がどんどん活発になっていきます。
4番目のクロストークでは,グループごとに少しずつ異なった答えを,私たちのグループはこういう内容でまとめましたということを発表し合います。写真では板書をして発表する準備をしているところですが,板書はしないで言葉だけで説明をしたり,プレゼンテーション資料を作って発表したりするなど,発表する方法は様々ですが,各グループがそれぞれのグループとしてまとめた答えを他者に発表する。他のグループに発表していく,そのような段階になります。
そして最後に,もう一度一人になって,最後のまとめとして,この1時間の授業を振り返って,最初の問いに対して,自分なりの考えをもう一度答えさせます。これが全体的な1から5の大きな流れになります。
今後の取組ですが,現在,東京大学CoREFでは埼玉県以外にも,全国の市町村や学校と連携した「新しい学びプロジェクト」に取り組んでいるほか,教育委員会が主催する研修会の支援などを行っているところでございます。
この「型」による授業成果の評価につきましては,例えば授業前の考え,そして授業後の考えを比較し,授業前より授業後で答えが深まったかどうか。そして,授業者である先生の期待にどれだけ近い状況になっているか。もしかすると先生の考えを超えた考えも生まれてきているかもしれない。そういったところを先生方は授業前の考えと授業後の考えを見ながら,一人一人がどういう動きをしてきたのかということを確認する。こういったもので評価につなげることができるのではないかというような考えもございます。
また,これだけではなく,今,取り組んでいるものに,クラス全員の全発話を記録して,一人一人がどのタイミングで,どのような話をしていたのか,そしてどのように理解をしていったのか,どの程度理解をしていったのか,そういったことをしっかりと把握できるようにしていきたいということを考えております。非常に見づらいものなのですけれども,この縦軸の枠のところは生徒1人が話をしているところです。非常に小さい枠なのですけれども,この小さい枠の中には生徒1人が一息でしゃべった内容が書かれています。それが,先ほどのジグソーの活動になったときに,3人が集まっていますので3人の内容,それが横に十何班分あるというような状態になっております。大体,これが大きなエクセルのシートになっているわけですけれども,この1枚のシートは大体1分間の発話の内容がここに載せられています。ジグソー活動は15分間から20分ぐらい行われますので,そうするとこのようなシートが20枚ぐらい出てきます。こういったものを見ながら,子供たちがどのタイミングで,どんな発話をして,どんな理解をしていっているのかということを細かく見ていくことができる。このような研究に取り組んでおります。
また,ここには「ナポレオンは独裁者か。もし独裁者ならなぜ,いつそうなったか」ということで,AとBとCの資料を使って研究させているわけなのですが,今この表の中では「ナポレオン」というようなキーワードが出たら色を付ける等,先生が知りたい情報,つまり,それぞれがどこで発話しているかということが確認できるようなシステムづくりにも取り組んでいます。こういったクラス全体の発話の推移が一覧できると,評価が変わっていくのではないだろうか,この発話を評価の基にしていくことはできないだろうか,そんなようなことを考えながら研究を進めているところでございます。
これからの課題といたしましては,ここには書いていないのですけれども,生徒の学びが今どういう状況なのか,この状況がしっかり把握できていないと,先ほどのAとBとCの資料を作るのもなかなか大変な状態であります。見当違いの資料を作ってしまうと,当然,会話の中で会話が成り立たない,会話が盛り上がっていかないというようなこともありますので,先生方は生徒の動きをしっかり捉えて,生徒に合った教材を作り,そして授業を行う。このため負担感はどうしても高くなってしまうということがございます。そういったものを少しでも和らげられるように,例えば教材を多く蓄積していって,互いが共有し合い,オリジナルの教材から少しずつ変えながら,授業に使っていくだとか,「研修方法をどうやれば先生方にもっと広めていくことができるか」,また,これは埼玉県だけではないのですけれども,縦・横・斜めの関係,先輩,後輩,同僚,そして他校の先生方も含めていろいろな方々と協力し合いながらこんな教材ができないかなということを考えているところであります。そして,評価の標準化,一般化に向けて取り組んでいきたいと考えております。
最後に,私たちの願いといたしましては,こういった「アクティブ・ラーニング」の授業が特別な授業ではなくて,広く一般的な普通の授業となる日が早く来ないかなということを願いつつ取組を進めているところでございます。
以上でございます。ありがとうございました。
【羽入主査】  どうもありがとうございました。
5組の方々から御発表いただきました。委員の皆様からの御質問が多々あろうかと思います。残り20分程度で御意見も伺いたいのですが,当面,ただいまの御発表についての御質問を順次していただければと思います。その際には名札を立てていただき,私から見えないところは手を挙げていただくと大変有り難いです。どうぞ。それでは,松川委員,最初にお願いします。
【松川委員】  所用によって退席させていただきますので,最初にお話しさせていただきたいと思います。
それぞれ大変刺激的な御発表を聞かせていただきましてありがとうございます。十分整理できておりませんけれども,二つほど論点として考えておりますことがありますので,質問も含めてお話しさせていただきたいと思います。
アクティブ・ラーニング的な学びというのがどなたのお話にもあったと思うのですけれども,主体的に学ぶというときに,どんな学習内容であってもそれが適用できるかどうか。もっと端的に申し上げますと,全ての教科あるいは内容というものに対して該当するのかどうかということ。大手町小学校の資料を見ていますと,六つの資質と能力のところにそれぞれ書いてある学習内容というのが,これは例なのかもしれませんけれども,例えば情報活用力であれば理数系,それからコミュニケーション能力であれば言語系,創造性であれば芸術系というふうに特定の分野における学習内容だと読むことができます。たまたま例示なのかもしれませんが,アクティブ・ラーニング的な学びは,どの教科や内容にも適用できるか否かは,一つの大きな論点だろうと考えます。
主体的な学びというのは,平川委員がおっしゃったように,本当のところは自分が興味のある内容についてでないとできないと思っております。一方で,学校教育の場合は,乱暴なことを申し上げますと,興味があろうがなかろうが学んでもらわなくてはならないという側面もあります。したがいまして,繰り返しになりますが,アクティブ・ラーニング的な学びというものが学習内容と結び付くのかどうかということでございます。
もう一つの論点は,発達段階についてでございます・本日,小中高と全ての校種で御発表があったわけですけれども,私は率直に申し上げまして,アクティブ・ラーニング的な学びというのは,これまで総合的な学習の時間を導入した際もあったわけですけれども,これが奨励されますと,小学校の先生が一番積極的にやられるだろうと思っております。小学校では教科担任ではなくて学級担任であって,全教科等を教えているということも,小学校で積極的に実施されるだろうと考える理由の一つです。
私は,一番,このアクティブ・ラーニングをやってほしいところは高校なのですけれども,高校はかなり難しかろうと思います。だからこそ,大学入試とセットで議論されようとしているわけですが,埼玉県教育委員会さんが高等学校でおやりになったというのは非常に勇気のあることであると思いますが,私どももそうですが,高校というのは大変多様でありまして,私は専門高校,総合学科の高校であれば大変やりやすいと思いますが,普通科の進学校,とりわけ,いわゆる有力進学校と言われる学校ではかなり抵抗があるというふうに思っております。
そういう意味では,アクティブ・ラーニングと,何を学ぶのかということがどういう関係なのかということと,それから発達段階で全ての段階で同じような重要度を持ってやるのかどうかというのが大きな論点ではないかと思いました。
言いっぱなしで申し訳ございませんが,これで退席させていただきます。
【羽入主査】  ありがとうございます。
質問を次々伺っておいて,そして本日御発表いただいた方々に順次,御説明あるいはお答えを頂くというふうにしたいと思います。どうぞ御質問をお願いいたします。髙木委員,どうぞ。
【髙木委員】  松川委員のお話の中にも出ていたように,アクティブ・ラーニングというのをどのような形でやるかというのは,中教審におけるこれまでの議論の中でも問題になっていました。中でもこれまでの学力観における習得と活用とが絡んできていると思います。そこではどのような学力を育てるかということをきちんと立てていきませんと,本日も先ほど平川委員の方で御発表になりましたが,観点別学習状況の評価における「関心,意欲,態度」の評価方法が十分理解させていないまま,誤解のあるままに「関心,意欲,態度」の評価が行われているということがありますので,授業と評価との一体化を含めて,これから考えていかなければいけないと思っております。
【羽入主査】  ありがとうございます。
荒瀬委員,どうぞ。
【荒瀬委員】  ありがとうございます。
埼玉県の最後の御発表に関してお尋ねします。どのような資料を生徒に提示していくのかというのが非常に重要だとおっしゃいましたが,具体的に三つに分かれてそれぞれのところで提示する資料というのを現在は埼玉県教委としてはどのような形でお作りになっていらっしゃるのか。あるいは,それをどのような形でまた県内全校に広めていらっしゃるのかということをお尋ねしたいと思います。
【羽入主査】  ありがとうございます。
御質問はありますか。よろしいようでしたら,ただいままでの御質問あるいは御意見に対して,最初に樋口校長先生,それから清水委員,平川委員も,もし可能でしたらお考えをお願いいたします。
【樋口先生】  樋口でございます。ありがとうございます。
アクティブ・ラーニングはどんな学習内容でもよいのか,主体的な学びというところについての御質問であったかと思うのですが,主体的というのをどういうふうに捉えるかということだと思うのですね。本当にこの言葉の持っている主体性でしたら,先ほどの平川先生がおっしゃったようなところになると思うのですけれども,日本の子供としてこれだけは押さえなければならない学習の内容,でも今度はこういう力を伸ばしたいということが初めに来ると思うのですけれども,この力を伸ばすためにこういう内容を押さえましょうと言っているわけですから,そこについては全ての子供に私は力を付けなければならないと思うのです。ですから,そこでその主体というのをどういうふうに関わるか。例えば小学校1年生の子供に,あなたの好きなように,あなたの勝手なようにというのは主体というふうには思っておりません。小学校の小さな段階でしたら,「学びたいな,勉強したいな」と思うことをまず学習の主体と捉えますよとかいうところがあれば,私はこの主体的というのを少し大きく捉えていただければ,全ての学年において考えることは可能であるとは思います。
学年が下がれば下がるほど,基礎,基本をどう積み重ねていくかということが非常に重要で,それがなければ学びが面白いとは子供たちは思いません。中学生でもそうなのですけれども,そこのところについてしっかりとした学びを重ねつつのアクティブ・ラーニングになっていただきたいなと思っております。
以上です。
【羽入主査】  ありがとうございます。
清水委員,よろしいですか。
【清水委員】  それでは,先ほど,進学校では難しいのではないかというようなお話も頂いたのですけれども,今,埼玉県で88校が取り組んでいただいておるわけなのですが,どちらかというと俗に言う進学校の方が積極的にこの取組を進めていただいているというのが現状でございます。ある意味,専門高校,総合学校高校は,日頃の活動そのものがアクティブ・ラーニングのような状態になっているということもありまして,委員として多くの委員がいますけれども,どちらかというと普通高校の方が積極性を持った状態で進んでいるかなと感じるところであります。
また,授業の導入の仕方も,全ての授業をこの協調学習だけでやっているというわけではございません。1単元に1回とか2回とか,そういった数が一番多いのではないかなと思うのですけれども,その中で例えば導入の段階で全体を網羅したような課題を与えて子供たちがどんどん考えていく。そうすると2時間目以降の授業が非常にやりやすくなる。そのような感想も寄せられているのが現状でございます。
そして,先ほど,資料等なのですけれども,実際,今,公開できる状態にしてあるものが250近く用意をさせていただいておりまして,全て埼玉県の教員等がそういったものを見られるように,グループウエア上の方に収めたり,東大,CoREFの方にもそういった資料の公開をしていただいたりしているというような状態でございます。こういった資料については,先ほど申し上げたとおり,1校1校,そのクラスによって学びの進み方は違っていると思います。ですので,サンプルとして見ていただいて,それを基に自分のクラスの子供たちにはどういう形にすれば合ってくるであろうか,そんなことを検討していただいて,資料を再構成していただきたいというような形で活用していただいているということになります。
先ほど申し上げた250というのは,昨年度末ということになります。今年度も多くの先生方が資料を作っておりますので,目標では今年中には500近くの資料が集まるのではないかというふうに考えております。まだこれは打合せをしておりませんけれども,例えば国立教育政策研究所のコンテントの中にデータベースがございますので,そういったところにアップをさせていただいて,全国の皆様方にも見ていただくことができるような状態を早く作っていきたいというようなことを考えています。
以上でございます。
【羽入主査】  ありがとうございます。
ただいまのお答えに対して更にディスカッションをするのがアクティブの委員会の進め方かと思いますが。では,キャンベル委員。
【キャンベル委員】  ありがとうございます。
今日は大変興味深いそれぞれの試みを実際に聞くことができて大変参考になりました。そこで,お聞きしたいことが二つあります。
一つは,日本の今の,特に中学校,高等学校の中では,一方では一人一人が自律的にどうやってこれからアクティブに学習をし,社会構成員として自らを育てていく,あるいは育て合っていくかということをこの委員会で大きな課題として私たちは今,考えていると思うのですけれども,学校の中では実際に一人一人の学生が,例えば成績によってランク付けされていたり,学級委員が成績によって決められていたりというような,ある競争的な原理の中で学級がある中で,本日紹介された幾つかの試み,アクティブ・ラーニングで,例えばジグソー法であっても,ほかの方法であっても,その中で協調は強くといいますか,協調し過ぎて,元々よくできる,テストの結果が非常によくできる人が結局引っ張っていって,そうではない,それほど意欲を示していない学生が,3人,4人の中で何となく示し合わせるまでもなく,受動的になってしまうのではないかということを,私はその現場を知らないものですけれども,想像します。
そうすると一人一人の学習能力や意欲を向上させるのに,その中で結局,乗っかっていて,そのままスルーしていくというような学生をどういうふうに学びの意欲を向上させていくことができるかということを考えます。特にジグソー法というのは,私の知っている限り,60年代,70年代のアメリカで開発されていて,特に南部,人種統合の問題が起きたときに,もともと協調がない,協調性が非常に欠けているところをどうやってお互いを尊重し合って,相手にそれぞれ責任を持って教室の中で存在するかというためにあるものです。日本は,言い方は少し乱暴かもしれませんけれども,逆ですね。そこに協調圧力のようなものが既に働いているところで,その中で学力がついてきていない,あるいは意欲を自分で感じていない学生をどのようにその中でフルに参加できるようにしていくかという工夫が必要なのではないかというふうに想像しますが,学習指導要領の中ではそれをどういうふうに位置付けるかということが一つです。
もう一つは,非常に知識取得や定着型の授業と,こういうアクティブ・ラーニングの授業の組合せや総合的な,あるいは横断的なコラボレーションのようなことを私は理想として,今,お聞きしながら想像しますけれども,どういうふうに一つ一つ個別にこの課題を学生たちが考え,あるいは出されて,例えばそれが障害者の問題や,先ほどの清水さんの発表で言えば,「ナポレオンは独裁者であったか」というような,イエスかノーかというような問題は面白いのですが,それをどういうふうに,より普遍的な知の体系,あるいは帰納法的な論理構築の能力に結び付けていくかということも課題かなと思います。
アクティブ・ラーニングの課題を終わった後に,学習した学びシールという話がありました。その点は面白いと思うのですが,1か月ごとにそれを読み直して横断させる,結び付ける,何を学んだかということの接続を作っていくということは重要だと思うのですが,もっとしっかりと知識習得の授業,その部分と,それからアクティブ・ラーニングでそれぞれが学び合う,意欲を学ぶ,感じる,習得していくというのを接続面のようなものがどこでどういうふうに仕組みとして作られるか。この二つについてできればお聞きしたいと思います。
【羽入主査】  ありがとうございます。
ほかに御質問がある方は。それでは,奈須先生,それから吉田先生。
お三方で質問を一応締め切らせていただきます。では,奈須先生。
【奈須委員】  よろしくお願いします。
今日,アクティブ・ラーニングということの具体像としていろいろな型というか方法が提案されました。探究的な学習の4段階というのもお話がありましたけれども,あれはたしか教授手続ではなくて探究がうまく進んでいるときの子供の学習の様子を原理的に記述したものだということだったと思いますけれども,ややもすると教師がその教授行為を段階的に取ればいいんだという誤解が生じていることがあるかなと思います。つまり,ある原理を浸透させる中で,その原理を典型的に満たす,とってもよくできた型や方法を提示するということは大事なことですけれども,原理が伝わらずに,型が単なる手続として広がってしまうという,常にこういうことがあって難しいなと思っているわけです。樋口先生の渋谷本町スタイル,あるいは清水先生がお話しくださったジグソー法なども,一歩間違えるとそうなりかねないと思うのですけれども,多分その辺りに既に埼玉県教委や樋口先生の学校の中で原理がしっかり浸透するように,つまり型の学習が手続の学習ではなくて,人はいかに学ぶか,子供の知識とはどういうものであるかという,まさに学びの質に関わるような原理的理解を浸透させる方向でこの型が運用されている,何かその工夫がおありなのではないかと思います。今後の展開の中でとても大事なことなのでお教え願えればと思います。
【羽入主査】  吉田委員,どうぞ。
【吉田委員】  すごくすばらしい実践を紹介していただいてありがとうございます。
今,キャンベル委員と奈須委員がおっしゃったことと重複してしまうかもしれませんが,先ほどどなたかがおっしゃったように,こういうような一種のプロジェクト的なものですけれども,こればかりやっているわけではないですよね。今,奈須委員がおっしゃったように,原理原則となるような部分をどういうふうに構築していって,最終的にどのようにここまで持っていっているのか。先ほどのジグソー法というのは語学教育ではよく使うやり方ではありますけれども,確かにやり方,考え方がはっきり分かっていないと,何だかよく分からない結果になってしまうということはよくあるわけです。ですから,言ってみれば,今日御紹介いただいたものがタスクだとすると,プレタスクとポストタスクの段階でどういうようなウオームアップ的なことをやっていってここに持っていって,終わった後で,先ほどキャンベル先生もおっしゃいましたけれども,その後,ポストタスク的に,やった内容をどう定着させていくか,浸透させていくか。その部分についてどういうことをやっておられるのかということをお聞きしたいと思います。
もう一つ,今の原理原則とも関連することですが,教員の研修ですね。こういう事例がそれぞれの学校でいろいろな形で出ているのはよく分かります。語学教育もいろいろなところで,いろいろなことをやっているのですが,それをどうやって浸透させていくのか。つまり,ほかの先生たちにどういうふうにしてこれを伝えていけばいいのか,どういう研修プログラムを作っていけばいいのかということは,非常に難しい問題なのです。その辺りについて,現在,例えば「こんなことをやっています」とか,「こういうことを考えています」ということがあったら教えていただきたいと思います。
【羽入主査】  ありがとうございます。
では,市川委員。
【市川委員】  簡単に申し上げたいと思うのですけれども,二つ質問がありまして,一つは,今日,アクティブ・ラーニングというときに,総合的な学習の時間における探究的な学習というのが出てきて,これは小川委員からも御報告がありましたけれども,まさに総合的な学習の時間ができたときに狙っていた活動が展開されていると思うのですよね。ただ,実際に十数年たってみて,やはり最初に懸念された,本当にこれがいろいろな学校で全ての子供たちがうまくできるのかという点があった。大学で卒論もなかなか書けないという学生がたくさんいる中で,小学校3年生からこういうことができるにはどうすればいいか。むしろそういう個人差が大きな学校の中で,どうやってこれをできるように対応していくか。そこを今,むしろ聞きたいと思っています。
それから,普通の,むしろ習得的な授業の中でもこれをしようというので渋谷本町スタイル,これがあると思うのですけれども,やはり公立学校で一番先生方が困っているのは,生徒の間の学力差,個人差ではないかと思います。つまり,狙いを提示して,個人で考えましょう,出し合って学び合いましょう,最後にまとめるということで,なかなか普通の公立学校のクラスでは対応できないことがある。一方では,「今日の課題,狙い,これはもう知っているよ」と,先取り学習して知っている子がいる。一方では,既習事項も怪しくてなかなか,「そこから考えましょう,学び合いましょう」といっても,それについていけない子がいる。その中で教師がどういう役割を果たしていったらいいのかというような辺り,どうやって個人差に対応するかというのが,これ,探究でも習得でも共通して出てくる問題だと思いますので,それを伺いたいと思いました。
【羽入主査】  ありがとうございます。
それでは,本日御発表いただきました順に,幾つかの御質問に対して御意見あるいは工夫の点などをお知らせいただければと思います。小川委員からよろしいでしょうか。
【小川委員】  それでは,私の方は,総合的な学習の時間の理念が形骸化しているのではないかというようなことと,それから,今,そういった10年間の総合的な学習の時間における学習がどのような成果があるのかというところについてお答えしたいと思います。
やはり,どうしても形骸化というようなことだと思うのですけれども,それについては総合的な学習の時間がどのような力を子供たちに身に付けさせたいとしているのかという目標をしっかりと常に確認してやっていくこと,それと,そういったことに取り組んだいい事例の中で子供がどんなふうに伸びているのかということは,ただ抽象的なことではなくて,具体的な子供の姿として全国で議論していくことがすごく大事であり,そういうイメージを共有していくことも必要だと思っています。
それから,これまでの10年間,総合的な学習の時間を続けてきた成果としてということで,私は全国的なことは分かりませんが,でも,現実問題として,今年埼玉で校長会の全国大会があったときに,文科省から今後どうなっていくかというお話を頂いたときに,英語が入ってきますという話が,要するに時数の関係のところでお話があったときに,近くにいらした校長先生が「じゃあ総合的な学習の時間がなくなるのだな」みたいなことをちらっとおっしゃっているような,そういう方も,全国大会のレベルでもおられましたけれども,やはり全国学力学習状況調査の結果の中からも,総合的な学習の時間を頑張っている学校は学力も向上しているよというようなこともいろいろと出てきていますよね。
ですので,やはり全ての学校で質的向上があるのかということについてはなかなか私もここではお答えできませんけれども,やはり総合的な学習の時間の学習指導要領解説に示されているものや,それを補強するような具体的な指導資料などに基づいて取り組んでいる学校では,やはり子供たちに力が付いているのではないかと思います。
以上です。
【羽入主査】  ありがとうございます。
では,平川委員,お願いします。
【平川委員】  平川です。ありがとうございます。
まず,とにかくやってもらわなければいけない内容は,一応,国として定めるのは,これは当然のことだと思います。問題は,みんな同じ学齢で,みんな同じペースでやるということ,やはりこれが問題なんじゃないかと。ではどうしたらよいのかと言いますと,これはやはり教員1.5倍,教室も1.5倍ぐらいあれば,いろいろな形で10段階ぐらいに分けて,アトリエに行くというふうに言いますけれども,アトリエに行って,そこで学んで,主体的にやっていくのだろうなというふうなイメージはあるのですけれども,それをどう展開するかというのは,ここはかなり議論を要するだろうなと思っております。
ただ,髙木先生がおっしゃったように,どうやって学力ということを打ち立てていくのか,これは本当に一番,この中教審においてお願いしたいところでございまして,関心,意欲,態度,これは二重人格を本当に作るのではないかと思うぐらい大変なところがございます。人の関心,意欲,態度を測るということはすごく難しくて,振り返りをさせるということでしたら分かるのですけれども,どうやってこの人がやる気があるかということは,先ほどキャンベル委員がおっしゃったように,言わないけれどもすごくやる気があるという生徒ももちろんいるのです。「はい,はい,はい」と言う人がやる気があるかというと,見せかけの,それが内発的な動機につながるのでしょうか。そこをやはり私は現場を見ていて,子供を見ていて,ある種,かわいそうだなと感じる部分がすごく多いです。そこをやはり御理解いただきたいと思うと同時に,先ほど,総合的な学習の時間で本当にうまくいくのかという部分のお話もございましたが,私はそのとき学校にいませんでしたけれども,でも,中途半端な任され方をして,それでできなかったと言われる先生方の方がかわいそうです。やはり先生方というのは,どんな先生であっても,子供のことを一生懸命考えてやっています。主体的な学習を育むといって,先生や学校に主体性がなければ主体的な学習はなり得ないと私は考えています。ですから,きちんと任せれば先生はやってくださる。初めは絶対に右往左往,迷い等あると思いますけれども,「先生,これしかない。もうこれでお願い」というふうに言ったら,何とか子供の未来を考え,将来を考え,工夫を絶対にしてくれます。そこを任せられるかどうかという度量のところなのではないかなと。これを教員の研修でどうやっていけばいいか。
市ヶ尾中学校もインテルの21世紀型スキル,インテルの方に来ていただいたり,ルーブリックをやったり,いろいろやっていますけれども,時間が取れないのです。やはり部活です,試合です,新人大会ですと,こうなのです。だから本当にそこの部分で時間の確保と教員研修の在り方と,それとやはり主体的な学習を行うために,本当に学力のことを考えたとき何を優先するのか。イメージ的には,今,小学校の教育課程で,いわゆるD層というふうに言われている子供たちが20%ぐらいかなと思っています。塾に行っている子は50%。そうしたら,残りの30%しか学校の学びを楽しい,わくわくする,初めて聞くっていうような子供はいないわけです。そこの現実をやはり考えていかなければ未来はないのではないかと思っております。
以上です。
【羽入主査】  ありがとうございます。
それでは,樋口先生。
【樋口先生】  型が先行するわけではなくて,やはり子供の学びのために教師がしっかりと狙いを押さえましょうというところから私は始まりました。授業を見ていましたら,今の授業で一体,子供は何を学んだのかということが分からないような授業が非常に多かったものですから。まず「ねらい」のない授業はどんな授業だってないと思うのですね。それから,振り返らない授業もないと思うのです。そのために必要なことは,1人で学ぶことと,学校だからみんなで学ぶこと,ここをどういうバリエーションを持っていくかというのを子供も大人も共通して持っていると,子供自身,学びが楽になっていくだろうなということなので,そこを大事にしていっています。
二つ目に研修の問題なのですけれども,本校も中学校ですので部活も盛んですし,いろいろありますが,校内研究の日は確実に月に1回程度取ります。そこはみんなで学ぶのだということで確保をします。それプラス区とか都の研修がありますし,「なるべく外に行って学んでいこうよ」と。顧問は2人体制にしていますので,何とかやり繰りをしながらやっています。それから,区の中で教科別の研究会もありますので,そんなことも工夫します。つまり,あるものを個人個人,どこだったらできるかというのを年度当初に作らせて,なるべく研修の場を確保しているということと,それから,もう一つは,本校がやっている研修を「渋谷本町学園の挑戦」っていうA判1枚にまとめていて,毎月の学校だよりと一緒にそれを出しているのですね。それを保護者にも地域にも区内にも出しますので,そうやって研修を,お互いに啓発をするということで今のところはやっているところです。
最後の御質問の,子供の差が大きいじゃないかというのはおっしゃるとおりで,本校は公立ですし,小学校においては特別支援の教育的ニーズの必要なお子さんが国の言う6.5%どころではなくて15%もいます。であるからこそ,「ねらい」をしっかりさせましょうというところと,グループだったりペアだったり,そういうことを育んでいくと,お互いの学び合いとか教え合いができるのですね。そうすると引き上がってくるお子さんもいらっしゃいます。でも,それでも,6年生になっても掛け算九九の苦手な子も実はおりまして,習熟度別の学習もやっているのですけれども,そういう子供に対しては放課後,「まなびー」と称してそこで個別の指導をする等,できる限りの工夫はしているところですが,本当に試行錯誤で,悩みながらやっております。でも,子供に力を付けたい,その一心だけを共有化しています。
以上です。
【羽入主査】  ありがとうございます。
では,加藤校長,お願いいたします。
【加藤先生】  基本的に材のないところに,あるいは対象のないところに学習はないわけですので,我々も資質・能力を基軸とした教育課程を作って,教科の再編もしていますが,少なくとも既存の教科の内容とか,そういったものを切り離してあるわけではありません。ですから,例えば先ほどお話がありましたように,芸術系の科目については創造性というのが色濃く表れるだろうと思って取り組んできたのですが,必ずしも一対一対応では全くない。今の六つの資質・能力,我々が考えているのはかなり汎用的なものだと思いますし,いろいろな既存の教科の中でも表れてくるものだと思います。だから,そういうものを意識した授業をしていくということがまず大事だと思います。
全ての教科で,全ての単元で今のような,当校が先ほど紹介したような取組ができるかというと,これは時間的に現在の内容が盛り込まれている学習指導要領,そしてこの時程ではかなり難しいと思います。だから,全てでそれができるとは限りませんが,少なくともこういう学習をすることで,学習に向かう姿勢というのはできる。これは間違いないと思います。ですから,嫌なことでも学ばなければならないことがあるのだとまで言い切れるのかどうか,それは私ごときには分かりませんけれども,また国の方で御検討いただければと思います。
それから,知識・技能の習得の話ですが,これは例えばアクティブな形で,かなり実感的に捉えて学んだときに,そういう知識・技能が身に付いたら転移するかというと,必ずしもすぐ活用できるものにはなりません。極めて個別的で実感を伴っていれば,むしろそのときにしか,余りにも強烈なものですから,それをすぐにあらゆるところに活用するというふうにダイレクトに結び付くかというとそうではない。したがって,一般化する,そういうところがすごく大事だと思います。我々としては,学びの時間,学んだことをシールにやって,ネットワークでつなぐと。ここにもう少し知識・理解とか,その教科で学んだことの中身が出てきて,そしてそれがネットワーク化されるといいなと思っているのですが,今のところはこんな自分に気付いたとか,そういう,かなり徳目とか自分の生き方的なものにとどまっています。もう少しそれが本当に学びの知のネットワーク化みたいなものにつながるといいなと思って,これから研究しようと思っています。
最後ですが,中学校,高等学校に変わっていただきたいというのは,私もそう思っていますし,いろいろな事情があるのでしょうけど,要は学習の主体は生徒であると。そして,子供の声を聞く,あるいはつぶやきを聞く,声なき声を拾おうとする,そういう姿勢をまず中学校,高等学校は持つと。これがまず原点ではないかなと思っております。
今までお話ししたようなことは,当校の研究紀要に載っているのであります。これは本日全部お持ちしようと思ったのですが,残念ながら予算がなくて,1冊2,500円するものですから40冊持ってくると10万円になってしまうので,文科省に出してくれないかと言ったら,それはまかりならんということでしたので,こういう御紹介でとどまっておりますが,当校ホームページからダウンロードしていただきますと申込書が付いております。かなりの部分,その資質・能力を基軸とした教育課程について述べてありますので,もし興味がありましたら,是非,当校ホームページを開いていただければと思います。
以上です。
【羽入主査】  ありがとうございます。
では,三宅委員。
【三宅委員】  すみません,最後になってしまったので,残った時間で御説明できるかわからないのですが,特にキャンベル委員,奈須委員,吉田委員から市川委員につないでいただいた質問に私の方で,少し原理のお話にお答えして,それから研修の話,肝だけお返事しようと思います。
アロンソンのジグソー型というのは,一つの型として使っていますが,知識構成型ジグソー法で使っている原理は人が一人一人,自分で考えることができる,判断も表現も生まれたときからやっているという,この信念でやっていますので,全ての教科で全ての子供たちが機会さえあれば,与えられれば,その中で,自分で答えを作っていきながら,ほかの人の答えが違うのに驚いて,それをチャンスに社会的に知識を構成していく。そこの中でコミュニケーション能力も協調学習能力も自然に開発をさせていくという,そのための手法です。そのためにやっていることなので,まずはこの原理,なぜこれがこの型でやったらとんでもないことをしゃべり出して,しかも試験をやったときに今までは予測しなかったような形でできないと思っていた子ができるのか,既存の私たちが考えていた,できる・できないや,知識のある・ないという考えが崩れていくのかということ自体を研修の中で,先生方お一人お一人が御自分の言葉で語れるようになっていく。そういう研修を目指していると思っております。
研修の話はちょっと清水先生,付け足してください。
【清水委員】  それでは,今現在,埼玉県でやっております研修について少しコメントをさせていただきます。
研修につきましては先ほど触れなかったのですが,実は授業以外に初任者研修というところ,教員になったばかりの教員を対象にした研修を行っております。これは授業力向上研修で,教員になったばかりでまだまだ日頃の通常の授業がうまくいかないのにそれができるのかというお話もあるのですが,実際,今,埼玉県では毎年約300人を高校教員として新規採用しているという状況になっておりますが,今年で3年目を迎えております。この協調学習の取組を進める中で,教員そのものが通常の一斉での学習だけではなくて,こういった取組をすることで,子供たち一人一人がよりよく見えてきたというような感想を述べている者が圧倒的に多いというような状況でございます。こういった若手の教員をまず育てていくということ。そして,やはり委員という人たちにも活躍していただいていますけれども,指導主事そのものがやはりしっかりと肝を確認しておかなければならない。それで,先ほど申し上げたとおり,まず指導主事の研修をして,そして委員の研修をして,初任者研修をして,やはりこういった様々な研修を基にこういったものが成り立っている。
さらに,この活動している先生方には公開授業だとか授業実践を実際やっていただいておりますので,そこを例えば校長先生が見て,これは一体何だろうということも時にはありますので,管理職を対象とした研修というものも去年からスタートをさせていただきました。これもある面,希望研修としてやっているわけなのですけれども,昨年度は先ほど申し上げた139校中80校からの校長からのお申出があり,実際,研修をさせていただき,今年もほぼ同数の校長,教頭が集まってこの研修に臨んでいただいております。ある意味,疑問視しながらの者もおりますけれども,これをどうやれば自分の学校のためになるか,子供たちのためになるか,そんな願いで様々な研修機会を捉えて,実際問題,動き始めていると。
さらに,一般の先生方から,委員になった方や初任者以外の先生方からも学ぶ機会が欲しいという要望がありましたので,来年度からは希望の研修,専門研と呼んでおりますけれども,そういった研修も立ち上げて,ありとあらゆるところでこういった活動の研修に取り組んでいるというのが,今の埼玉県の現状です。先ほどの授業一つだけで全てをやっているわけではなくて,裾野をどんどん広げていきながら,実際の授業者,管理職,そういった者,あと指導主事等が協力し合いながら実際進めているというところでございます。
以上でございます。
【羽入主査】  ありがとうございます。
まだ委員の方々から札も上がっておりましたけれども,時間になってまいりました。本日,議論はここで締めさせていただきますが,御質問,御意見を紙媒体等で,メールでもよろしかったでしょうか,事務局にお知らせくださればと思います。
本日,実は2月6日付で文部科学大臣補佐官に就任されました鈴木寛補佐官が御出席しております。一言御挨拶いただければと思います。よろしくお願いします。
【鈴木大臣補佐官】  御紹介を頂きました,2月6日の閣議で文部科学大臣補佐官に就任をいたしました鈴木でございます。2009年から2年間,文部科学副大臣を務めておりましたので,久しぶりの中教審でございますが,今日も大変活発で,また,示唆深い御議論をしていただいて,帰ってきて良かったなと思っております。
余り時間もありませんので一言だけにとどめますけれども,今回,いろいろな特命事項の中の最大の事柄が,この教育課程企画特別部会に関わることでございました。御案内のように,教育課程の部会には,他にもいろいろな部会がございます。それぞれの詳細な御検討を同時並行でしていただくわけでございますが,この教育課程企画特別部会の意義,あるいは文部科学省として御期待を申し上げているところは,これまでに,数え方にもよりますけれども,7回ないし8回学習指導要領が策定をされたと思いますが,私が大臣あるいは中教審会長の安西会長から伺い,また,御指示を頂いているところは,第8次なのか9次なのかは別といたしまして,8回目とか9回目の学習指導要領を作るということではなくて,まさに昭和33年の原点に立ち返って,もう1回再構成,再構築をしたいと,こういうことでございます。大変なことだと思っていますけれども,まさに既に今日もすばらしい御議論がございましたが,何を学習指導要領でやって,何を教員養成の方にお願いをしていくというか,そこの仕切りをもう1回,今までの仕切りで良かったのかどうなのか,何をナショナルカリキュラムとしてやって,何を現場の創意工夫,あるいはまさにカスタマイズしていかなければいけないわけですけれども,していかなければいけないのか,それを,恐らく小学校段階での考え方と高校段階の考え方もやや違うのかもしれません。もちろん共通する部分もあるかもしれません。そういう意味で学習指導要領というものは何であるべきなのか。今後ですね。そして何が特別なのか。こういう非連続性について是非皆様方からいろいろな御知見を頂ければ大変有り難いなと,このように思っているところでございますので,よろしく御指導のほどお願い申し上げます。
ありがとうございました。
【羽入主査】  どうもありがとうございました。
本日は非常にリアルなお話を皆様から伺うことができましたし,今,鈴木大臣補佐官からは,この位置付けについても御説明いただきました。
それでは,本日の議題はこれで終了させていただきますが,次回について事務局からお願いいたします。
【大杉教育課程企画室長】  ありがとうございます。本日は委員の先生方におかれましては十分な御発言の時間が取れずまことに申し訳ありませんでした。主査からもお話がありましたように,書面で頂きますとともに,質問事項等がございましたらお寄せいただきまして,次回会合までにはお答えを頂けるように事務局としても募らせていただきたいと思います。
次回につきましては,今のところ3月11日頃を念頭に調整をさせていただいておりますけれども,中教審全体の次期への動きもございますので,主査と御相談の上,御連絡をさせていただきます。よろしくお願いいたします。
【羽入主査】  本日はどうもありがとうございました。時間が少し延長いたしまして申し訳ございませんでした。これで企画特別部会を終了いたします。ありがとうございました。

── 了 ──

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