資料2-3 委員提出資料

幼保連携型認定こども園保育要領(仮称)の策定に関する合同の検討会議提出意見  ~音楽表現に関わって~

静岡大学 志民一成

 第4回(11月15日)の会議で提出された「幼保連携型認定こども園保育要領(仮称)の策定について(報告)」(案)を受け、この報告だけでなく、今後、保育要領(仮称)や解説のいずれかにおいて盛り込む必要があると考えている内容について、意見をまとめ提出いたしますので、ご検討いただければと存じます。

1 子どもの表現を基盤に据えた人間形成としての表現教育の方向性

◯遊びを通した学びや子どもの総合的な経験の中で音とかかわることの意義

 現行の幼稚園教育要領でも、生活や遊びの中で自然に表れる子どもの素朴な表現を大切にすることが示されており、これは極めて重要なメッセージであると考える。この理念は踏まえつつ、子どもの生活の中に表現の芽生えを見とったり、そこに文化や芸術へともつながっていく、根源的な表現する力や、そのもととなる感性を育む重要なものが包含されているという視点を持ったりすることの重要性を、より強調していく必要があると考える。
 例えば、多様で表情豊かな声を駆使して人とかかわったり、音にじっと耳を傾けたり、音を介してモノ(楽器を含め)とかかわったりする体験の中には、音楽だけでなく、表現者として極めて大切な学びが含まれており、美しい発声・正しい音程で歌えることや、ある特定の楽器の演奏技能を身につけることとは比較にならないほど重要な、表現する力の育成につながるものである。遊びを通した学びや子どもの総合的な経験の中で音とかかわることの意義を、明確にすべきであると考える。

◯文化にもつながる道筋の重要な基盤としての子どもの表現

 遊びを通した学びや子どもの総合的な経験の中で音とかかわることを通して育まれていることが、音楽などの文化にもつながって行く重要な表現の基盤であるという視点を、保育者だけでなく、保護者や小学校以上の教員に対するメッセージとして、保育要領にも書き込むことが必要であると考える。そういった文化へつながる道筋を明示していくことが、発表会などの場で体裁の整った成果を性急に追い求めることや、そのために必要な技能を身につけさせるための偏った指導から、子どもの表現を軸に置いた保育の在り方へと転換させる方向性を示すことにもなるのではないか。
 また、小学校教育への接続という観点から言えば、子どもの表現やそのなかで発揮されている豊かな表現能力を土台として、音楽など文化としての表現へ橋渡しして行くという、新たな表現力の育成の在り方を、小学校教育に対して示すことにもなろう。これは、教科としての音楽等の学習への接続を意識して乳幼児保育で備えるという発想ではなく、むしろ乳幼児の子どもの表現を基盤に据えた、人間形成としての表現教育へのパラダイム転換だと言える。

2 音環境への配慮と保育者の役割

◯身近な環境との相互作用を促す音環境への配慮

 保育においては環境を通した学びが基本とされているが、自然環境、遊具や用具、視覚的な環境への配慮に比して、音環境に関しては十分に意識が向けられているとは言えない。特に、すぐれた聴覚をもつ乳児は、視覚情報以上に聴覚情報から多くを学ぶのであり、子どもが身近な音とどのように関わり、どのように聞き、想像力を育てたり思考力を育んだりしているか、といったことに対しての意識を高めるべきである。 

◯文化的な環境としての園の在り方

 表現領域が設けられた平成元年の幼稚園教育要領の告示以降、「特定の表現活動」への過剰な警戒からか、例えば、一斉に歌うことすら控えるようになった園もあるということを耳にする。また、若い世代の保育者や親が、これまで歌い継がれてきたわらべうたや童謡や唱歌など、他の世代と共有できる歌をあまり持っていないという指摘は少なくない。
 友達や保育者と歌い合うことや音を共有し楽しむこと、また伝統的な遊びや行事など文化的な実践を想起して集団で協同して遊ぶことも、将来の文化の担い手としての子どもを育てる視点において重要であると考える。現行幼稚園教育要領の領域表現の「内容の取扱い」で示されている「遊具や用具」への配慮に止まらず、子どもが声を介して人とかかわる場や、音と関わって心地よい場所、そして文化的な実践が再生される時と場所としての豊かな音環境を、園生活において提供することが求められよう。

◯文化の実践者としての保育者の重要性

 豊かな音環境という意味では、文化の実践者としての保育者は極めて大切な存在である。生活の中で季節や行事にかかわる歌を何気なく口ずさむ保育者の姿が、子どもに歌という文化を貴ぶ心を芽生えさせることになると考えれば、文化的な環境としての大人の存在は大きいと言える。歌うことだけでなく、保育者自身が様々な文化の実践者としての姿を、子どもに対して示す貴重な存在であることを強調していくべきであると考える。さらには、園生活に歌や音楽などの文化が自然な形で取り込まれ、生活が潤いのあるものになるために生かされている環境が、音楽を生涯愛好していく子どもを育てていく上で重要であることを、示していくことが肝要であろう。

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