資料6-3 委員提出資料

幼保連携型認定こども園保育要領(仮称)の策定に関する合同の検討会議提出意見
-幼保連携型認定こども園保育要領(仮称)の策定にあたって留意すべき事項について-

2013.7.3  柏女 霊峰
 

 これから幼保連携型認定こども園保育要領(仮称)を作成していくに当たっては、平成20年告示の保育所保育指針、幼稚園教育要領策定の際の基本的考え方を改めて確認しておくことが必要とされる。両方の告示策定に携わった経験から、それらのいくつかをここに提示しておきたい。 

1.指針、要領改定のキーワード:3つの連続性

 指針・要領改定のキーワードは「連続性」である。特に、「発達の連続性」「学びの連続性」「家庭生活との連続性」の3つの連続性の確保が大切とされている。その基本とされているのが、特定の大人との間の「絆」や「応答性」と表現されている。「親と子のかけはしをつくる」保育者の役割が強調されていると考えられる。

2.保育所、幼稚園の普遍性と固有性

 指針・要領は、保育所と幼稚園の接近を図りつつ、それぞれの固有性も大切にしている。保育所は児童福祉施設であり、幼稚園は学校であり、それぞれのミッションの違いを明確化しつつ、両者の接近も図られている。保育所から幼稚園への接近としては、1.指針の告示化と解説書の発刊 2.保育課程の編成 3.自己点検・自己評価 4.保育要録の小学校送付 の4点があげられ、一方、幼稚園から保育所への接近としては、1.預かり保育の位置づけの明確化 2.子育て支援の努力義務化 の2点があげられる。

3.保育所の社会的責任の明確化

 まず、保育所が「児童福祉施設」であることを確認し、子どもの最善の利益や親と子の生活を守る重要な社会資源であることを確認している。第二に、保育所の役割について、これまでの「家庭養育の補完」との表現を改め、「家庭との緊密な連携」のもとに行うことを明確にしたことも大きな特徴である。第三に、総則に新たに「保育所の社会的責任」という項目を起こして、子どもの人権に対する配慮と尊重、地域社会との交流や連携、保護者・地域社会に対する保育内容の説明責任、入所する子ども等の個人情報の保護、保護者等からの意見や要望に対する適切な対処(苦情解決)を明記したことも大きな特徴といえる。
 第四に、総則において、保育所の役割を大きく、入所する子どもの保育、入所する子どもの保護者に対する支援、地域の子育て家庭に対する支援の3つに整理したことも重要な視点である。そして、最後に、保育所保育の質の向上について、各種の規定をおいていることがあげられる。すなわち、保育所保育の自己点検・自己評価の大切さ、保護者や地域住民の意見を汲み取った評価とその結果の公表、施設長や保育士の保育の質の向上のための責務などを規定したことが特筆すべきこととして挙げられる。

4.「受け止める」ことの大切さ

 保育所保育指針は、総則その他随所において、子どもの思いや保護者の意向、気持ちを「受け止める」ことや「受容」の大切さを主張している。「受け止める」ことや「受容」は、「受け入れる」ことや「許容」とは異なる。子どもや保護者の行動の意味や思いをしっかりと「受信」できて初めて、子どもの発達促進や保護者支援、保護者の理解や協力を得るための発信ができることも肝に銘じておきたい。

5.子どもの保護者に対する支援(保育相談支援)の原理の明確化

 保育所保育指針が「保育士等の専門性を生かした保護者支援」や「保育所に入所している子どもの保護者に対する支援」を明確に打ち出した点は画期的である。指針第6章においては、保育者の保護者支援、保育相談支援の原理が7点、明確に示されている。たとえば、

(二)保護者とともに、子どもの成長の喜びを共有すること。
(四)一人一人の保護者の状況を踏まえ、子どもと保護者の安定した関係に配慮して、保護者の養育力の向上に資するよう、適切に支援すること。

などは大切な原理である。地域の子育て支援ではなく、保育所に入所している子どもの保護者に対する支援が大切とされているのである。

6.保育者の資質向上

 指針では、総則において保育士の力量を倫理、知識、技術、判断の4点に整理している。保育士の業務は保育と保育相談支援の2つであり、また、それぞれに受信型と発信型の2種があると考えられるため、保育士のコンピテンシ-(力量)は大きく、4×2×2=16となる。むろん、それぞれ重複もあるが、これを自身に当てはめてみることを通して、得意分野や課題などが見えてくる。保育者の資質向上や研修体系を考える際には、この16の視点を視野に入れていくことが必要とされる。
 特に、新保育士養成課程において新しい保育士養成科目とされた「保育者論」、「保育課程論」、「保育相談支援」などの科目を念頭に置くことが必要とされる。

7.保育観の確認 応答的関係による絆の形成から、民主的人間関係の育成、生きる力の基礎を培う保育者の役割

 保育所保育指針は、乳幼児の発達について次のように述べている。すなわち、
「子どもの発達は、子どもがそれまでの体験を基にして、環境に働きかけ、環境との相互作用を通して、豊かな心情、意欲及び態度を身に付け、新たな能力を獲得していく過程である」とし、そのうえで特に大切なこととして、「愛情豊かで思慮深い大人による保護や世話などを通して、大人と子どもとの相互のかかわりが十分に行われることが重要である。この関係を起点として、次第に他の子どもとの間でも相互に働きかけ、関わりを深め、人への信頼感と自己への主体性を形成していくのである。」
と述べている。
 指針の第2章における各発達過程区分の短い解説と第3章の「保育の実施上の配慮事項」とは相互に対応しており、子どもは、大人と子どもとの間の応答的関係をとおして形成される「絆」をもとにして、人として生きるに欠かせない民主的な人間関係の取り結び、個の尊重など「生きる力の基礎」を培っていく。そのための保育者の役割として、以下の4点が浮かび上がってくる。保育者は、こうした立ち位置を縦横に駆使しつつ、子どもと親とのよりよい関係の構築や子どもの発達の保障に取り組んでいる専門職といえるのである。

  • 親と子の間に介在し、よりよい親子関係の形成に寄与する
  • 子どもとの応答的な関係を取り結び、子どもの安全基地となる
  • 子ども同士の間に介在し、仲立ちをし、子ども同士の民主的な人間関係の取り結びを支援する
  • 子ども同士がきまりを守りつつ自主的に活動する場を見守り、必要に応じて介入する

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文部科学省初等中等教育局幼児教育課

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電話番号:03-5253-4111(代表)(内線2376)

(文部科学省初等中等教育局幼児教育課指導係)