資料1:合理的配慮等環境整備検討ワーキンググループ報告(主査試案)(概要)

平成23年12月16日

合理的配慮等環境整備検討ワーキンググループ報告(主査試案)(概要)
―学校における「合理的配慮」の観点―

 

はじめに

○中央教育審議会初等中等教育分科会特別支援教育の在り方に関する特別委員会の下に平成23年5月27日、本ワーキンググループを設置。障害当事者・保護者より、障害種別における「合理的配慮」を含む配慮すべき事項について聴取し、その内容を整理。その上で、障害種を超えた共通事項を整理する過程の中で、「合理的配慮」の観点を抽出。また、ワーキンググループとして「合理的配慮」について定義。

○「合理的配慮」は新しい概念であり、また、障害者基本法において、新たに「可能な限り障害者である児童及び生徒が障害者でない児童及び生徒と共に教育を受けられるよう配慮しつつ」と規定された趣旨を踏まえて、本ワーキンググループにおいて、障害のある子どもに対する「合理的配慮」の観点について整理を行った。学校教育においてこれまでも行われてきた配慮を、今回、本ワーキンググループにおいて「合理的配慮」の観点により整理したことで、それぞれの学校における障害のある子どもたちの教育が一層充実したものになっていくことを願ってやまない。また、「合理的配慮」については、教育委員会、学校、各教員が正しく認識しなければならないことは言うまでもないが、保護者、当事者も含めて、地域における理解は進んでおらず、理解促進のための啓発活動が必要である。

1.「合理的配慮」の定義等について

(1)「合理的配慮」の定義

○条約の定義に照らし、本ワーキンググループにおける「合理的配慮」とは、「障害のある子どもが、他の子どもと平等に「教育を受ける権利」を享有・行使することを確保するために、学校の設置者及び学校が必要かつ適当な変更・調整を行うことであり、障害のある子どもに対し、その状況に応じて、学校教育を受ける場合に個別に必要とされるもの」であり、「学校の設置者及び学校に対して、体制面、財政面において、均衡を失した又は過度の負担を課さないもの」、とする。

○「合理的配慮」の提供に当たっては、各学校の設置者及び学校が体制面、財政面をも勘案し、「均衡を失した」又は「過度の」負担について、個別に判断することとなる。各学校の設置者及び学校は、障害のある子どもと障害のない子どもが共に教育を受けるというインクルーシブ教育システムの構築に向けた取組として、「合理的配慮」の提供に努める必要がある。

(2)「合理的配慮」と「共通的環境整備」

○障害のある子どもに対する支援については、法令に基づき又は財政措置により、国は全国規模で、都道府県は各都道府県内で、市町村は各市町村内で、共通的な教育環境の整備をそれぞれ行っている。これらを「共通的環境整備」と呼ぶ。これらの「共通的環境整備」を前提として、設置者及び学校が、各学校において、障害のある子どもに対し、その状況に応じて、「合理的配慮」を提供している。

○本ワーキンググループにおいては、個別に「合理的配慮」を提供する前提となる「共通的環境整備」について現状と課題を整理した。また、「合理的配慮」については、個別の状況に応じて提供されるものであり、これを具体的かつ網羅的に記述することは困難であることから、本ワーキンググループにおいては、「合理的配慮」を提供するに当たっての観点を「合理的配慮」の観点として、○1 教育内容・方法、○2 支援体制、○3 施設・設備について、それを列挙・類型化すると共に、各「合理的配慮」の観点に、障害に応じた具体的な配慮を例示するという構成で整理した。

2.「合理的配慮」の決定方法等について

○決定に当たっての基本的考え方として、学校教育に求めることは、障害者の権利に関する条約第24条第1項の目的である

(a)人間の潜在能力並びに尊厳及び自己の価値についての意識を十分に発達させ、並びに人権、基本的自由及び人間の多様性の尊重を強化すること。

(b)障害者が、その人格、才能及び創造力並びに精神的及び身体的な能力をその可能な最大限度まで発達させること。

(c)障害者が自由な社会に効果的に参加することを可能とすること。

 であり、「合理的配慮」の決定に当たっては、これらの目的に合致するかの観点から検討が行われることが重要である。

○「合理的配慮」は、一人一人の障害の状態や教育的ニーズ等に応じて決定されるものであり、その検討の前提として、設置者・学校は、興味・関心、学習上又は生活上の困難、健康状態等の当該幼児児童生徒の状態把握を行う必要がある。このため、設置者・学校と本人・保護者により、個別の教育支援計画を作成する中で、「合理的配慮」の観点を踏まえ、可能な限り「合理的配慮」について合意形成を図った上で決定し、提供されることが望ましく、その内容を個別の教育支援計画に明記することが望ましい。
 就学時に「合理的配慮」を決定した後も、児童生徒一人一人の発達の程度、適応の状況等を勘案しながら柔軟に見直しができることを共通理解とすることが重要である。定期的に教育相談や個別の教育支援計画に基づく関係者による会議などを行い、必要に応じて「合理的配慮」を見直していくことが適当である。

○移行時における情報の引継ぎを行い、途切れることのない支援を提供することが必要である。個別の教育支援計画の引継ぎ、学校間や関係機関も含めた情報交換等により、「合理的配慮」の引継ぎを行うことが必要である。また、発達段階や年齢に応じた配慮を意識することが必要である。さらに、私立学校に在籍する幼児児童生徒についても、公立学校と同様の支援が受けられることが望ましい。

○通常の学級のみならず、通級による指導、特別支援学級、特別支援学校においても、「合理的配慮」として、「障害のある子どもが、他の子どもと平等に「教育を受ける権利」を享有・行使することを確保するために、学校の設置者及び学校が必要かつ適当な変更・調整を行う」ことが必要である。それぞれの学びの場における「共通的環境整備」を前提とした上で提供されるため、それぞれに提供される「合理的配慮」は異なることとなる。障害のある子どもが通常の学級に学ぶことを可能な限り配慮していくことが重要であるが、十分な教育を受けられるようにするためには、本人・保護者の理解を得ながら、必ずしも通常の学級で全ての教育を行うのではなく、通級による指導など多様な学びの場を活用した取り出し指導を柔軟に行うことも必要な支援と考えられる。

3.共通的環境整備について(それぞれ現状と課題について整理)

 「合理的配慮」の充実を図る上で、その前提となる「共通的環境整備」の充実は欠かせない。そのため、必要な財源を確保し、国、都道府県、市町村は、障害のある子どもと障害のない子どもが共に教育を受けるというインクルーシブ教育システムの構築に向けた取組として、「共通的環境整備」の充実を図っていく必要がある。その際も、「合理的配慮」と同様に体制面、財政面を勘案し、均衡を失した又は過度の負担を課さないよう留意する必要がある。現在の財政状況に鑑みると、そのためには、共生社会の形成に向けた国民の共通理解を一層進め、社会的な機運を醸成していくことが必要であり、それにより、財政的な措置を図る観点を含めインクルーシブ教育システム構築のための施策の優先順位を上げていく必要がある。

○1 教育のネットワークが形成され、連続性のある多様な学びの場として有効に活用されること

○2 専門性のある指導体制(校長のリーダーシップ、専門性のある教員の活用、指導方針の共有化、チームによる指導)が確保されること

○3 一人一人の状態を把握した上で、個別の教育支援計画や個別の指導計画を作成・活用・評価するなど、個に応じた指導が行われること

○4 障害の状態に応じた必要な教材が確保されること

○5 障害の状態に応じた必要な施設・設備が確保されること

○6 専門性のある教員、支援員等の人的配置がなされること

○7 取り出し指導や学びの場の設定など必要に応じて特別な指導を行うことができること

○8 交流及び共同学習が実施されること

4.学校における「合理的配慮」の観点

○1 障害のある幼児児童生徒については、障害の状態が多様なだけでなく、障害を併せ有する場合や、障害の状態や病状が変化する場合もあることから、個々の状態や時間的な経緯により必要な支援が異なることに留意する必要がある。また、障害の状態等に応じた「合理的配慮」を決定する上で、ICF(国際生活機能分類)を活用することが考えられる。

○2 各学校の設置者及び学校が体制面、財政面をも勘案し、「均衡を失した」又は「過度の」負担について、個別に判断することとなる。その際は、合理的配慮を決定する際において、現在必要とされている「合理的配慮」は何か、全てできないとすれば何を優先するか、について関係者間で意識共有を図る必要がある。

○3 「合理的配慮」の観点は、全ての場合を網羅することはできないため、その代表的なものと考えられるものを以下に示す。また、障害種別に応じた配慮を例示しているが、障害を併せ有する場合には、各障害に応じた配慮を柔軟に組み合わせることが適当である。

<「合理的配慮」の観点(1)教育内容・方法>

<(1)-1 教育内容>

(1)-1-1 学習上又は生活上の困難を改善・克服するための配慮

 その障害によって、日常生活や学習場面において様々なつまずきや困難が生じることから、小・中学校等の通常の教育課程による教育にとどまらず、障害による学習上又は生活上の困難を主体的に改善・克服するために必要な知識、技能、態度、習慣を養うことへの配慮を行う。

例:

視覚障害

 見えにくさからの学習上又は生活上の困難を改善・克服する配慮(座席を前にする、教材や掲示物の明確なコントラストや文字サイズの配慮、分かりやすい板書、採光の調整、見えやすい用具(太字のペン、表示が大きなものさしなど)や視覚補助具(弱視レンズ、拡大読書器など)の活用)
 見えないことからの学習上又は生活上の困難を改善・克服するための指導を個別に行うと共に学習活動に活用する(触察や点字、空間概念、白杖を使った歩行などの指導)

聴覚障害

 聴覚障害に起因する情報不足を補うための配慮(教師の話が受容しやすい座席の位置、板書及び視覚的教材の活用、児童生徒の聴覚障害の状態に応じたコミュニケーション手段の選択と活用)
 学校生活において自由にコミュニケーションができる環境を保障(周囲の児童生徒の理解啓発を促すための指導、聴覚に障害のある児童生徒同士の交流の場や機会の確保)

言語障害

 発音の明瞭度を向上させるための指導(一斉指導における発音の指導への配慮、個別指導による構音指導)
 学校生活において自由にコミュニケーションができる環境を保障(周囲の児童生徒の構音障害・吃音などについての理解啓発を促す配慮、言語障害のある児童生徒が集い交流する場や機会の確保)

LD

 文字を見て瞬間的にその読みを想起することや形の弁別などの未発達な能力を向上させるための指導(平仮名の読み練習や形を弁別する力を高めるための指導、音韻意識を高める指導 など)
 未発達な能力を代替させたりカバーしたりするための指導(ワープロによるノートテイクや電卓、使いやすい定規や分度器を使うこと、家庭や学校外の教育・療育機関などで使用しているデジタルカメラやカラーフィルターなどの機器などの学校での使用を認めること など)
 感覚過敏に対する指導(過敏さの自覚、対処方法など)
 得意な能力を更に向上させ、自信を高めるための指導(得意な活動を学級の係活動などに位置付け、活躍を賞賛するなど)
 得意な能力によって未発達な能力を補完するための指導(文章に代えて絵で説明することを認める。テストで、教員が読み上げた問題文に口頭で答えるなど)

(1)-1-2 指導目標の設定

(1)-1-3 学習内容の変更・調整

<(1)-2 情報保障>

(1)-2-1 感覚と体験を総合的に活用した概念形成への配慮

 一人一人の認知特性を把握し、それに応じた感覚と体験を総合的に活用できる学習活動を通じて、概念形成を促進するよう配慮を行う。

例:

視覚障害

 模型や実物に触るなど能動的な学習活動を十分にできるように配慮すると共に、学習活動を自分で最初から最後まで行い、手順やポイントの理解を明確にできるようにする。

聴覚障害

 言語経験が少ないことによる、体験と言葉の結びつきの弱さを補うための指導(経験したことを日記・作文などにまとめる、話合いの内容を確認するため書いて提示し読ませる、慣用句など言葉の表記と意味が別の言いまわしになる言葉の取り立て指導など)

病弱

 幼少時からの入退院の繰り返しなどによる日常生活上体験が不足、友だちとの遊びなどによる集団としての活動体験が不足しているため、学習に必要な概念が形成できていないことを理解し、それに配慮して指導
 ア 治療による体験不足を考慮し、絵やビデオなどを活用して概念形成を図る
 イ 直接触ったり、ビニール手袋をして間接的に触ったりするなどの体験的な活動を通して概念形成を図る

(1)-2-2 情報保障の配慮

(1)-2-3 認知の特性や身体の動き等に応じた教材の配慮

(1)-2-4 ICTや補助用具等の活用

(1)-2-5 学習機会や体験の意図的な確保

<(1)-3 心理面等での配慮>

(1)-3-1 他の子どもと比べ時間を要することへの配慮

 障害の状態により、他の子どもと比べ時間を要することについては、本人の能力の発達を妨げないように、授業や試験について時間等の配慮を行う。

例:

視覚障害

 視覚障害の状況に応じて時間の配慮をする(複雑な図の理解や理科実験など、触察や順序立てた理解への配慮)

聴覚障害

 発音練習、聴き取りの練習などの個別対応(教科書などの音読の練習、九九の発音などの予習復習時間の確保など、個別指導場所の確保)

肢体不自由

 肢体不自由の状態により、学習の量や学習時間を調整する(課題数を減らす、時間を延長するなど)
 肢体不自由の状態により、授業時間内にできなかった学習について、どこまでできるか見極めながら学習の機会を設定する(学習できなかった内容を確認する、ノートを提供する、宿題を出す、別途学習の機会を設けるなど)

病弱

 病気や学習空白などのため、操作などに時間を必要とする活動や、理解に時間がかかる場合の配慮

ADHD

 十分な時間の確保(活動に取り掛かるまでの時間や活動が断続的になり易いことへの配慮)

(1)-3-2 実施が困難な活動への補助や指導上の配慮

(1)-3-3 予測できる学習活動の実施など学習に見通しが持てる配慮

(1)-3-4 人間関係の構築への配慮

(1)-3-5 心理状態・健康状態への配慮

(1)-3-6 自立と社会参加に必要な指導内容の設定

(1)-3-7 共生の理念の涵養

<「合理的配慮」の観点(2) 支援体制>

(2)-1 専門性のある指導体制の整備

 校長がリーダーシップを発揮すると共に、学校全体として専門性の確保に努める。そのため、個別の教育支援計画、個別の指導計画を作成し、指導についての校内の教職員の共通理解を図り、学習の場面等を考慮した役割分担を行う。必要に応じ、学校内の資源(通級による指導、特別支援学級等)を活用したり、適切な人的配置(支援員等)を行う。

(2)-2 医療的ケアを行うための体制整備

(2)-3 心理的負担を軽減できる学校・学級における配慮

(2)-4 障害に対する児童生徒、教職員、保護者、地域の理解推進を図るための配慮

(2)-5 他の学校からの支援体制の整備

(2)-6 関係機関や外部専門家等との連携

(2)-7 緊急時の支援体制の整備

<「合理的配慮」の観点(3) 施設・設備>

(3)-1 校内環境のバリアフリー化

 障害のある幼児児童生徒、教職員等が安全かつ円滑に学校生活を送ることができるよう、障害の状態や特性、個別のニーズに応じた環境にするために、スロープ、手すり、便所、出入口、エレベーター等の施設の整備計画時に配慮を行う。また、既存学校施設のバリアフリー化についても、障害のある幼児児童生徒の在籍状況等を踏まえ、所管する学校施設に関する合理的な整備計画を策定し、計画的にバリアフリー化を推進することが重要である。

例:

視覚障害

 状況に応じ、下駄箱や教室のロッカーを分かりやすい位置にしたり固定したりする。各教室などに分かりやすい目印(色の変化、大きな文字での表示、点字の表示)を付ける。

肢体不自由

 肢体不自由の状態により、校内の移動ができるよう工夫する(教室配置の工夫、教職員などの協力など)
 肢体不自由の状態により、校内の移動ができるよう施設を改修する(段差の解消、スロープ、手すり、開き戸、自動ドア、エレベーターなど)

自閉症・情緒障害

 自閉症などの特性(形が統一されていたり、写真や図面を用意したりしたほうが理解しやすい)を考慮し、建物そのものを分かりやすい配置にすること、及び視覚的に動線が理解できるよう配慮を行う。
 必要に応じて、特有の感覚に配慮して施設整備する(明るさやちらつきへの過敏性、音や温度、触覚に対する過敏性や鈍磨性)

(3)-2 発達、障害の状態及び特性等に応じた施設・設備の配慮

(3)-3 災害等への対応に必要な施設・設備の配慮

5.関連事項

 以下の事項については、障害種別における「合理的配慮」をまとめる際に、併せて整理を行ったものであり、特別委員会において検討されることが望まれる。

(1)早期からの教育支援について

(2)学校外・放課後における支援について

(3)教職員の確保及び専門性の向上について

お問合せ先

初等中等教育局特別支援教育課

(初等中等教育局特別支援教育課)