合理的配慮等環境整備検討ワーキンググループ 報告 概要

平成24年2月13日

合理的配慮等環境整備検討ワーキンググループ報告(概要)
―学校における「合理的配慮」の観点―

 

はじめに

○中央教育審議会初等中等教育分科会特別支援教育の在り方に関する特別委員会の下に平成23年5月27日、本ワーキンググループを設置。障害当事者及び保護者より、障害種別における「合理的配慮」を含む配慮すべき事項等について聴取し、障害種別の検討を行いつつ、障害種を超えた共通事項を整理する過程の中で、「合理的配慮」の観点について整理。また、ワーキンググループとして「合理的配慮」について定義。

○「合理的配慮」は新しい概念であり、また、障害者基本法において、新たに「可能な限り障害者である児童及び生徒が障害者でない児童及び生徒と共に教育を受けられるよう配慮しつつ」と規定された趣旨をも踏まえて、本ワーキンググループにおいて、障害者の権利に関する条約の理念を踏まえた障害のある子どもに対する「合理的配慮」の観点について整理を行った。学校教育においてこれまで行われてきた配慮を、今回、本ワーキンググループにおいて「合理的配慮」の観点として改めて整理したことで、それぞれの学校における障害のある子どもへの教育が一層充実したものになっていくことを願ってやまない。また、「合理的配慮」については、教育委員会、学校、各教員が正しく認識して取り組むとともに、当事者及び保護者に適切な情報提供を行うことが求められる。さらに、地域における理解啓発を図るための活動を進めることが求められる。

1.「合理的配慮」の定義等について

(1)「合理的配慮」の定義

○条約の定義に照らし、本ワーキンググループにおける「合理的配慮」とは、「障害のある子どもが、他の子どもと平等に「教育を受ける権利」を享有・行使することを確保するために、学校の設置者及び学校が必要かつ適当な変更・調整を行うことであり、障害のある子どもに対し、その状況に応じて、学校教育を受ける場合に個別に必要とされるもの」であり、「学校の設置者及び学校に対して、体制面、財政面において、均衡を失した又は過度の負担を課さないもの」、とする。なお、障害者の権利に関する条約において、「合理的配慮」の否定は、障害を理由とする差別に含まれるとされていることに留意する必要がある。

○「合理的配慮」の決定・提供に当たっては、各学校の設置者及び学校が体制面、財政面をも勘案し、「均衡を失した」又は「過度の」負担について、個別に判断することとなる。各学校の設置者及び学校は、障害のある子どもと障害のない子どもが共に教育を受けるというインクルーシブ教育システムの構築に向けた取組として、「合理的配慮」の提供に努める必要がある。その際、現在必要とされている「合理的配慮」は何か、何を優先して提供する必要があるかなどについて共通理解を図る必要がある。

(2)「合理的配慮」と「基礎的環境整備」

○障害のある子どもに対する支援については、法令に基づき又は財政措置により、国は全国規模で、都道府県は各都道府県内で、市町村は各市町村内で、教育環境の整備をそれぞれ行う。これらは、合理的配慮の基礎となる環境整備であり、それを「基礎的環境整備」と呼ぶこととする。これらの環境整備は、その整備の状況により異なるところではあるが、これらを基に、設置者及び学校が、各学校において、障害のある子どもに対し、その状況に応じて、「合理的配慮」を提供する。(別紙1:合理的配慮と基礎的環境整備の関係)

○本ワーキンググループにおいては、「基礎的環境整備」について現状と課題を整理した。また、「合理的配慮」については、個別の状況に応じて提供されるものであり、これを具体的かつ網羅的に記述することは困難であることから、本ワーキンググループにおいては、「合理的配慮」を提供するに当たっての観点を「合理的配慮」の観点として、○1 教育内容・方法、○2 支援体制、○3 施設・設備について、それぞれを類型化するとともに、観点ごとに、各障害種に応じた「合理的配慮」を例示するという構成で整理した。

2.「合理的配慮」の決定方法等について

○決定に当たっての基本的考え方として、学校教育に求めるものは、障害者の権利に関する条約第24条第1項の目的である、

 (a)人間の潜在能力並びに尊厳及び自己の価値についての意識を十分に発達させ、並びに人権、基本的自由及び人間の多様性の尊重を強化すること。

 (b)障害者が、その人格、才能及び創造力並びに精神的及び身体的な能力をその可能な最大限度まで発達させること。

 (c)障害者が自由な社会に効果的に参加することを可能とすること。

 と方向性を同じくするものであり、「合理的配慮」の決定に当たっては、これらの目的に合致するかどうかの観点から検討が行われることが重要である。

○「合理的配慮」は、一人一人の障害の状態や教育的ニーズ等に応じて決定されるものであり、その検討の前提として、設置者及び学校は、興味・関心、学習上又は生活上の困難、健康状態等の当該幼児児童生徒の状態把握を行う必要がある。これを踏まえて、設置者及び学校と本人及び保護者により、個別の教育支援計画を作成する中で、発達の段階を考慮しつつ、「合理的配慮」の観点を踏まえ、「合理的配慮」について可能な限り合意形成を図った上で決定し、提供されることが望ましく、その内容を個別の教育支援計画に明記することが望ましい。個別の指導計画にも活用されることが望ましい。なお、設置者及び学校と本人及び保護者の意見が一致しない場合には、第三者機関により、その解決を図ることが望ましい。また、学校・家庭・地域社会における教育が十分に連携し、相互に補完しつつ、一体となって営まれることが重要であることを共通理解とすることが重要である。さらに、「合理的配慮」の決定後も、幼児児童生徒一人一人の発達の程度、適応の状況等を勘案しながら柔軟に見直しができることを共通理解とすることが重要である。

○移行時における情報の引継ぎを行い、途切れることのない支援を提供することが必要である。個別の教育支援計画の引継ぎ、学校間や関係機関も含めた情報交換等により、「合理的配慮」の引継ぎを行うことが必要である。また、発達や年齢に応じた配慮を意識することが必要である。さらに、高等学校については、入学者選抜における一層の配慮を行うこと、選抜方法の多様化や評価尺度の多元化を図ることが必要であるとともに、障害のある生徒に対するキャリア教育や就労支援の充実を図っていくことが重要である。また、私立学校に在籍する幼児児童生徒についても、公立学校と同様の支援が受けられることが望ましい。

○多様な学びの場の確保のため「基礎的環境整備」として設置されている通級による指導、特別支援学級、特別支援学校においても、「合理的配慮」として、障害のある子どもが、他の子どもと平等に教育を受ける権利を享有・行使することを確保するために、学校の設置者及び学校が必要かつ適当な変更・調整を行うことが必要である。それぞれの学びの場における「基礎的環境整備」の状況により、提供される「合理的配慮」は異なることとなる。

○障害のある子どもが通常の学級で学ぶことを可能な限り配慮していくことが重要である。他方、十分な教育を受けられるようにするためには、本人及び保護者の理解を得ながら、必ずしも通常の学級で全ての教育を行うのではなく、通級による指導等多様な学びの場を活用した指導を柔軟に行うことも必要な支援と考えられる。

3.基礎的環境整備について(それぞれの現状と課題について整理)

○「合理的配慮」の充実を図る上で、「基礎的環境整備」の充実は欠かせない。そのため、必要な財源を確保し、国、都道府県、市町村は、障害のある子どもと障害のない子どもが共に教育を受けるというインクルーシブ教育システムの構築に向けた取組として、「基礎的環境整備」の充実を図っていく必要がある。「基礎的環境整備」については、「合理的配慮」と同様に体制面、財政面を勘案し、均衡を失した又は過度の負担を課さないよう留意する必要がある。現在の財政状況に鑑みると、そのためには、共生社会の形成に向けた国民の共通理解を一層進め、社会的な機運を醸成していくことが必要であり、それにより、財政的な措置を図る観点を含めインクルーシブ教育システム構築のための施策の優先順位を上げていく必要がある。なお、「合理的配慮」は、「基礎的環境整備」を基に個別に決定されるものであり、それぞれの学校における「基礎的環境整備」の状況により、提供される「合理的配慮」は異なることとなる。

(1)ネットワークの形成・連続性のある多様な学びの場の活用

(2)専門性のある指導体制の確保

(3)個別の教育支援計画や個別の指導計画の作成等による指導

(4)教材の確保

(5)施設・設備の整備

(6)専門性のある教員、支援員等の人的配置

(7)個に応じた指導や学びの場の設定等による特別な指導

(8)交流及び共同学習の推進

4.学校における「合理的配慮」の観点

○「合理的配慮」は、個々の障害のある幼児児童生徒の状態等に応じて提供されるものであり、多様かつ個別性が高いものであることから、本ワーキンググループにおいては、その観点について以下のとおり整理した。

○障害のある幼児児童生徒については、障害の状態が多様なだけでなく、障害を併せ有する場合や、障害の状態や病状が変化する場合もあることから、時間的な経緯により必要な支援が異なることに留意する必要がある。また、障害の状態等に応じた「合理的配慮」を決定する上で、ICF(国際生活機能分類)を活用することが考えられる。

○各学校の設置者及び学校が体制面、財政面をも勘案し、「均衡を失した」又は「過度の」負担について、個別に判断することとなる。その際は、「合理的配慮」を決定する際において、現在必要とされている「合理的配慮」は何か、何を優先して提供するかなどについて関係者間で共通理解を図る必要がある。

○障害種別に応じた「合理的配慮」は、全ての場合を網羅することはできないため、その代表的なものと考えられる例を示している。示されているもの以外は「合理的配慮」として提供する必要がないということではなく、一人一人の障害の状態や教育的ニーズ等に応じて決定されることが望ましい。また、障害種別に応じた「合理的配慮」を例示しているが、複数の種類の障害を併せ有する場合には、各障害種別に示している「合理的配慮」を柔軟に組み合わせることが適当である。(別紙2:(1)-2-1 情報・コミュニケーション及び教材の配慮の例)

○「合理的配慮」は、一人一人の障害の状態や教育的ニーズ等に応じて決定されるものであり、全てが同じように決定されるものではない。設置者及び学校が決定するに当たっては、本人及び保護者と、個別の教育支援計画を作成する中で、「合理的配慮」の観点を踏まえ、「合理的配慮」について可能な限り合意形成を図った上で決定し、提供されることが望ましい。

<「合理的配慮」の観点(1)教育内容・方法>

<(1)-1 教育内容>

(1)-1-1 学習上又は生活上の困難を改善・克服するための配慮

 障害による学習上又は生活上の困難を主体的に改善・克服するため、また、個性や障害の特性に応じて、その持てる力を高めるため、必要な知識、技能、態度、習慣を身に付けられるよう支援する。

(1)-1-2 学習内容の変更・調整

 認知の特性、身体の動き等に応じて、具体の学習活動の内容や量、評価の方法等を工夫する。障害の状態、発達の段階、年齢等を考慮しつつ、卒業後の生活や進路を見据えた学習内容を考慮するとともに、学習過程において人間関係を広げることや自己選択・自己判断する機会を増やすこと等に留意する。

<(1)-2 教育方法>

(1)-2-1 情報・コミュニケーション及び教材の配慮(別紙2:(1)-2-1 情報・コミュニケーション及び教材の配慮の例)

 障害の状態等に応じた情報保障やコミュニケーションの方法について配慮するとともに、教材(ICT及び補助用具を含む)の活用について配慮する。

(1)-2-2学習機会や体験の確保

 治療のため学習空白が生じることや障害の状態により経験が不足することに対し、学習機会や体験を確保する方法を工夫する。また、障害の状態により、実施が困難な学習活動についての活動内容・方法を工夫するとともに、感覚と体験を総合的に活用できる学習活動を通じて概念形成を促進する。さらに、入学試験やその他の試験において配慮する。

(1)-2-3 心理面・健康面の配慮

 適切な人間関係を構築するため、集団におけるコミュニケーションについて配慮するとともに、他の幼児児童生徒が障害について理解を深めることができるようにする。学習に見通しが持てるようにしたり、周囲の状況を判断できるようにしたりして心理的不安を取り除く。また、健康状態により、学習内容・方法を柔軟に調整し、障害に起因した不安感や孤独感を解消し自己肯定感を高める。
 学習の予定や進め方を分かりやすい方法で知らせておくことや、それを確認できるようにすることで、心理的不安を取り除くとともに、周囲の状況を判断できるようにする。

<「合理的配慮」の観点(2) 支援体制>

(2)-1 専門性のある指導体制の整備

 校長がリーダーシップを発揮し、学校全体として専門性のある指導体制を確保することに努める。そのため、個別の教育支援計画や個別の指導計画を作成するなどにより、学校内外の関係者の共通理解を図るとともに、役割分担を行う。また、学習の場面等を考慮した校内の役割分担を行う。
 必要に応じ、適切な人的配置(支援員等)を行うほか、学校内外の教育資源(通級による指導や特別支援学級、特別支援学校のセンター的機能、専門家チーム等による助言等)の活用や医療、福祉、労働等関係機関との連携を行う。

(2)-2 幼児児童生徒、教職員、保護者、地域の理解啓発を図るための配慮

 障害のある幼児児童生徒に関して、障害によって日常生活や学習場面において様々な困難が生じることについて周囲の幼児児童生徒の理解啓発を図る。共生の理念を涵養するため、障害のある幼児児童生徒の集団参加の方法について、障害のない幼児児童生徒が考え実践する機会や障害のある幼児児童生徒自身が障害について周囲の人に理解を広げる方法等を考え実践する機会を設定する。また、保護者、地域に対しても理解啓発を図るための活動を行う。

(2)-3 災害時等の支援体制の整備

 災害時等の対応について、障害のある幼児児童生徒の状態を考慮し、危機の予測、避難方法、災害時の人的体制等、災害時体制マニュアルを整備する。また、災害時等における対応が十分にできるよう、避難訓練等の取組に当たっては、一人一人の障害の状態等を考慮する。

<「合理的配慮」の観点(3) 施設・設備>

(3)-1 校内環境のバリアフリー化

 障害のある幼児児童生徒が安全かつ円滑に学校生活を送ることができるよう、障害の状態等に応じた環境にするために、スロープや手すり、便所、出入口、エレベーター等について施設の整備を計画する際に配慮する。また、既存の学校施設のバリアフリー化についても、障害のある幼児児童生徒の在籍状況等を踏まえ、学校施設に関する合理的な整備計画を策定し、計画的にバリアフリー化を推進できるよう配慮する。

(3)-2 発達、障害の状態及び特性等に応じた指導ができる施設・設備の配慮

 幼児児童生徒一人一人が障害の状態等に応じ、十分に学習に取り組めるよう、必要に応じて様々な教育機器等の導入や施設の整備を行う。また、一人一人の障害の状態、障害の特性、認知特性、体の動き、感覚等に応じて、その持てる能力を最大限活用して自主的、自発的に学習や生活ができるよう、各教室等の施設・設備について、分かりやすさ等に配慮を行うとともに、日照、室温、音の影響等に配慮する。さらに、心のケアを必要とする幼児児童生徒への配慮を行う。

(3)-3 災害時等への対応に必要な施設・設備の配慮

 災害時等への対応のため、障害の状態等に応じた施設・設備を整備する。

5.関連事項

 以下の事項については、障害種別における「合理的配慮」をまとめる際に、併せて整理を行ったものであり、特別委員会において検討されることが望まれる。

(1)早期からの教育相談・支援について

(2)学校外・放課後等における支援について

(3)教職員の確保及び専門性の向上について

 

お問合せ先

初等中等教育局特別支援教育課

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(初等中等教育局特別支援教育課)