平成23年5月
中央教育審議会初等中等教育分科会
学校段階間の連携・接続等に関する作業部会
(目次)
制度導入時の背景・考え方
中高一貫教育の現状
各学校等において中高一貫教育を導入したねらい、成果、課題
教育課程の特例の内容
教育課程の特例の活用状況、活用した結果、活用に当たっての課題
公立学校(中等教育学校・併設型)における入学者選抜の在り方について
公立学校(連携型)における入学者選抜の在り方について
高等学校段階に進む時点での入退学等の配慮について
各地域における中高一貫教育校の整備
地域への影響
(本文)
○ 中高一貫教育制度は、「21世紀を展望した我が国の教育の在り方について」(平成9年6月中央教育審議会第2次答申。以下「平成9年答申」という。)においてその基本的な考え方や制度の骨格が示された。
○ 平成9年答申においては、心身の成長や変化の著しい多感な時期にある中等教育において、一人一人の能力・適性に応じた教育を進めるため、中学校教育と高等学校教育を6年間一貫して行うことについて、考えられるその利点や問題点を挙げつつ、一方で、中高一貫ではない中学校・高等学校の利点や意義にも触れつつ、子どもたちや保護者の選択、さらには地方公共団体や学校法人などの学校設置者による、自らの創意工夫によって特色ある教育を展開する観点からの判断の下に、その選択肢としての意義を提言した。
○ この平成9年答申における提言を踏まえ、子どもたちや保護者などの選択の幅を広げ、学校制度の複線化構造を進める観点から、中学校と高等学校の6年間を接続し、6年間の学校生活の中で計画的・継続的な教育課程を展開することにより、生徒の個性や創造性を伸ばすことを目的として、中高一貫教育制度が平成11年度から選択的に導入された。
○ 中高一貫教育には、様々な利点あるが、特に、「ゆとり」ある学校生活を送ることを可能にするということの意義は大(子どもたちは、様々な試行錯誤をしたり、体験を積み重ねること等を通じて、豊かな学習をし、個性や創造性を伸ばすことがより可能に。その中で、じっくり学ぶことを希望する子どもへの十分な指導がより可能に)。このため、中高一貫教育を享受する機会をより広く提供していくことが適当。
<利点>
○ なお、中高一貫教育には様々な利点がある一方で、留意すべき点もあり、それらに適切に対処していくことが必要。
<留意すべき点とそれらへの対処に関する考え方>
○ 中高一貫教育の導入に当たっては、子どもたちや保護者などの選択の幅を広げ、学校制度の複線化構造を進める観点から、中高一貫教育の選択的導入を行うことが適当(従来の中学校・高等学校に区分された中等教育も大きな利点や意義を持っており、中高一貫教育の利点と問題点の軽重を総合的に判断するのは子どもたちや保護者)。
○ 中高一貫教育の選択的導入は、地方公共団体や学校法人などの学校設置者が、自らの創意工夫によって特色ある教育を展開する裁量の範囲を拡大することに資する。
○ 中高一貫教育の具体的な在り方については、学校設置者の主体的な判断を尊重することが適当。国の役割は、そのための制度上の隘路を取り除くことを含めて、制度改革を行うこと。
○ 中高一貫教育の実施形態については、次のような類型が考えられ、中高一貫教育の円滑な導入を図るためには、学校設置者がそのいずれも選択できるよう、所要の制度改革を行うことが必要。
○ 教育内容については、「ゆとり」の中で子どもたちの個性や創造性を大いに伸ばしていくものとすべき。その類型としては、普通科タイプ、総合学科タイプ、専門学科タイプなどが考えられ、そのいずれを採るかは学校設置者の選択に委ねていくべき。ただし、普通科タイプの場合は、受験準備に偏した教育を行わないよう強く要請。
○ 中高一貫校においては、特色ある教育を提供していくことが望まれるが、例えば、次のような特色を6年間の一貫した軸に据えて教育活動を展開していくことが有意義。
○ 入学者を定める方法については、受験競争の低年齢化を招くことのないような適切な配慮が必要。特に、地方公共団体が設置する学校にあっては、学力試験を行わず、学校の個性や特色に応じて、抽選、面接、推薦等の多様な方法を適切に組み合わせることが適当。また、現在、学力試験を偏重する選抜や小学校教育の趣旨を逸脱した出題を行っている一部の国私立中学校に対しては、改善を要請。
○ 高等学校段階に進む時点での入退学等についての配慮が必要(進路変更を希望する生徒の他の高校への進学への配慮、高校段階での入学をある程度の数認めること、6年制の学校の第3年次修了者を中学校卒業者と同等に扱うことなど)。
○ 中高一貫教育校には、一つの学校として6年間一体的に中高一貫教育を行う「中等教育学校」、高等学校入学者選抜を行わずに、同一の設置者による中学校と高等学校を接続する「併設型」、及び、市町村立中学校と都道府県立高等学校など、異なる設置者による中学校と高等学校が、教育課程の編成や教員・生徒間交流等の連携を深める形で中高一貫教育を実施する「連携型」の3つの設置形態がある。
○ 中高一貫教育を行う学校は制度導入以降着実に増加しており、平成22年4月現在、402校を数えるまでになっている。その設置状況は都道府県により差はあるものの、全ての都道府県において、何らかの形で中高一貫教育校が設置されている。
○ 中高一貫教育制度においては、各学校が計画的・継続的に教育課程を編成し、それぞれ特色ある教育活動を展開することができるよう、教育課程の基準の特例が設けられている。
(*1) 「中高一貫教育に関する実態調査」(平成22年3月実施)をいう。以下同じ。
○ 各学校等において中高一貫教育を導入したねらいやその成果と、中高一貫教育実施にあたっての課題を設置者(国公私立)別、設置形態別に見ると、そのそれぞれにおいて上記のとおり一定の特徴が見られる。
○ 平成9年答申の理念に基づき、具体的な成果が上がっている学校が見られる。その反面、平成9年答申において示された懸念が現実になっていたり、平成9年答申には示されていない論点が課題として挙がっているなどの現状も見られる。
○ このような状況について、本作業部会では、平成9年答申において示された論点等に沿って、以下のとおり、具体的にその成果と課題を実態に即して検証するとともに、改善方策等について検討を行った。
○ 平成9年答申においては、中高一貫教育校では特色ある教育を提供することが望まれるとして、有意義な教育活動の特色の類型が例示されている。
○ 実態としては、多くの中高一貫教育校で、特色ある教育が行われている。中でも、海外留学や国際バカロレア認定校の取組など国際化に対応するための教育や、体験活動・地域の特性を重視するとする学校が多く見られる。
○ このほか、中高一貫教育校からは、特に高校入試がないこと等による時間的余裕を活用して、安心して自分の好きなこと、意欲的な活動に取り組んだり、挑戦できる、また、進路実現に向けて意欲的に取り組めるといった長所が高く評価されている。
○ 加えて、高校生との交流を通じて「自分がなるべき姿」を見いだしたり、読書活動を通じて高校段階の本に触れるといった経験が、中学生にとって、知的好奇心や学習意欲の向上につながっているほか、高校生のリーダーシップの育成といった効果もある。
○ 中高一貫教育校の学習満足度や特色ある教育、探求心を育てる教育などについては、生徒側からも高い評価を得ており、「企画・創造力」や「思考・探求力」といった観点で、他の一般的な同世代の者に比して高い効力を得たと自己評価されている。一方、詰め込み教育のようなものを受けたとの認識は少ない。
○ これらを総合すると、中高一貫教育校における教育では、例えば、単に難関大学への進学といったようなことのためではなく、平成9年答申において示されているように、様々な試行錯誤をしたり、体験を積み重ねること等を通じて、豊かな学習をし、個性や創造性を伸ばすといった考え方が、制度創設後10年を経た現在、一定程度達成されていると言うことができる。
○ このような現状を踏まえつつ、今後とも、各学校がその特色を活かした教育活動を展開していくことが望まれる。中高一貫教育校の最も良い点は6年間という長いスパンで一貫した教育を行うことが可能であることにあり、目的意識を6年間維持し続けることが課題であるとも言える。
○ そのためには、まず、目指す学校像や生徒像を明確にして目標を共有し、その目標を達成するために教育活動に特色を持たせていく、さらに、そういった特色を積極的に広報していく、といった取組が特に必要ではないか。
○ 加えて、海外留学や国際バカロレア認定校としての取組等をはじめとして、中高一貫教育校で行われている特色ある教育活動を積極的に支援していくことが必要ではないか。
○ 現行制度においては、中高一貫教育校においては、以下の教育課程の特例が設けられている。
(*1) 「規則」:学校教育法施行規則(昭和22年文部省令第11号)、「中等・併設告示」:中等教育学校並びに併設型中学校及び併設型高等学校の教育課程の基準の特例を定める件(平成10年文部省告示第154号)、「連携告示」:連携型中学校及び連携型高等学校の教育課程の基準の特例を定める件(平成16年文部科学省告示第61号)
(*2) (2)については、新学習指導要領の実施により選択教科の授業時数の定めがなくなることに伴い、平成24年度から廃止される。
(*3) (4)については、中等教育学校、併設型中学校・高等学校のみ。
○ 平成9年答申においては、様々な試行錯誤をしたり、体験を積み重ねるなどゆとりある学校生活を送るとの中高一貫教育のねらいを達成する観点から、選択履修の拡大など教育課程の弾力化等の必要性が示されている。
○ この考え方に基づき、教育課程の大綱的な基準である学習指導要領においても、中等教育学校・併設型及び連携型のそれぞれにおいて、上記のとおり所要の特例が設けられている。
○ 一方、現状として、教育課程の基準の特例については、中高一貫教育を行う上で一定の成果が認められるものの、その活用は一部の特例に限られ、決して十分とは言えない状況にある。
○ 加えて、中学校の新学習指導要領が施行されることに伴い、「中学校段階の各選択教科の授業時数の拡大」の特例が廃止される。このことから、中高一貫教育校の教育課程の特徴が弱まることとなるとともに、学校が独自に設定できる時間数が縮小される中で、学校の教科学習面での特色をどのように工夫すべきかが難しいとの意見が出された。
○ このような中、各学校の特色を活かした教育課程の編成をより柔軟に可能とする観点から、「高等学校段階における学校設定教科・科目について卒業に必要な修得単位数に含めることのできる単位数の上限」について、更なる拡大を求める意見が多い。例えば、各教科・科目には位置づけられていない特色ある取組(例えば、福祉に関する教育や表現力を育む教育など)を、学校設定教科・科目として行うに当たって、その単位数の拡大は今後とも必要になる。
○ ついては、中高一貫教育校が今後とも特色ある教育を展開することを促すため、教育課程の特例について、更なる拡充を講じるべきではないか。 具体的には、「高等学校段階における学校設定教科・科目について卒業に必要な修得単位数に含めることのできる単位数の上限」については、現行制度では30単位まで認められているが、これを、高等学校における学校外学修や外国の高等学校へ留学した場合における単位認定の制度の例等にあわせて、36単位までとすることとしてはどうか。
○ 加えて、中学校段階内において指導内容を他の学年へ移行し、かつ、その内容を本来の学年で指導しないこと(例えば、第3学年の内容の一部を第2学年において指導し、その内容について第3学年で指導しないこと)の可否については、現在、必ずしも明文の規定がないが、中高一貫教育校においては、上記のとおり、そもそも高等学校段階の指導内容の一部を中学校段階に移行することが認められていることから、6年間の特色ある教育課程を編成するに当たって、中学校段階内においても、各学年及び各教科の標準授業時数を確保しつつ、学年間において指導内容の一部を移行し、かつ、当該内容を本来の学年で指導しなくてもよいこととし、その旨を明確化してはどうか。
○ 一方、他の設置形態に比して特例が少なく、その活用が難しい連携型においても、例えば中高合同による6年間のシラバスの作成といった取組も見られる。連携型においても6年一貫のカリキュラムの作成は必要との意見も出され、連携型における特例についても、もっと柔軟なものにできないかとも考えられる。 しかしながら、連携型は、一般の中学校と同様に就学指定を受けて中学校へ進学し、高等学校入学者選抜を受けて高等学校へ進学するというその性質上、中等教育学校や併設型に比べると、他の高等学校等へ進学する生徒も多いことに留意することが必要である。
○ なお、本作業部会における審議では、教科内容の中高の入れ替え等に伴う検定教科書の取扱いについての柔軟な運用(中高の別や学年を超えた使用、事前購入や継続使用等)を求める意見も出されたが、これについては、現行制度下で対応可能である。
○ 平成9年答申においては、中高一貫教育の利点として、高等学校入学者選抜の影響を受けずにゆとりのある安定的な学校生活が送れること、6年間の計画的・継続的な教育指導が展開でき効果的な一貫した教育が可能になること、生徒の個性を伸長したり、優れた才能の発見がよりできること等を挙げ、ゆとりある学校生活を送ることを可能にすることの意義が大きいとしている。
○ 一方、制度創設後10年を経た現在、多くの学校において、在校生・卒業生・教員ともに、特に「高校入試がない」等を理由として、生徒間の学力差、あるいは学習意欲の低下(いわゆる「中だるみ」)を課題として捉えるようになってきており、6年間の間に学力差や学習意欲の差が大きくなる中で、それらをいかに向上させるかが課題となっている。
○ 中でも中学校段階と高等学校段階の接続に当たる時期において、学習意欲の向上の重要性が指摘されている。この点については、既に多くの学校で、この時期に色々な行事を取り入れたり、 生徒へ課題や試験を課したりする等の取組が広く行われており、このような取組は引き続き有効ではないか。
○ 加えて、学習意欲や学力の向上を図る上で、いわゆる内進生と外進生の交流の観点がある。すなわち、混合してクラス編成をする場合に、交流による人間性の涵養や学習意欲の向上が期待できる一方で教育課程の先取りは活用しづらい。一方、分けてクラス編成する場合には、学力差には対応しやすいが、交流の面で課題が残る。この点は、多くの学校でジレンマがあるところでもある。
○ 総じて、生徒の理想や目的意識・モチベーションを6年間にわたっていかに育んでいくかが重要であり、それがうまく行かない場合に「中だるみ」が生じるが、教員の側はこれを緊張感の少なさとして指導上の重要課題と捉える一方、生徒側はゆとりや中だるみをむしろ自分を再構築する時期として積極的に評価する向きもある。
○ このほか、高校入試の段階で試験がないことによって多様な生徒を受け入れることが可能になっている面もあり、中高一貫教育本来のゆとりをもって育てていくという理念がある中で、学力低下という課題との整合性をどのように考えていくかも重要な視点である。
○ なお、そもそも何をもって学力差とするのかを明確にすることも必要であるとの指摘があった。「生きる力」の理念の下、基礎的・基本的な知識・技能のみならず思考力・判断力・表現力といった要素も併せて考える必要があることに留意することが必要である。
○ 中高一貫教育校への進学に際しては、小学校という早い段階での進路選択が必要になるが、生徒側への調査結果によると、自分の進路について保護者と話をする機会を得つつ、保護者ではなく自らが選択して進学したという傾向が高い。
○ 平成9年答申や、制度導入時の法改正に際しての国会審議での附帯決議においては、中高一貫教育導入に当たっての懸念として「受験エリート校化」や「受験競争の低年齢化」が示され、この点を踏まえて、公立学校(中等教育学校・併設型中学校)での入学者選抜においては「学力検査を行わない」こととされている(*1)。
○ そのような中、現在、公立(中等教育学校・併設型中学校)の入学者選抜に当たっては、学校がその個性や特色に応じて、生徒に求める思考力、表現力、判断力といった総合的な適性を測る、いわゆる「適性検査」が広く行われているほか、 面接、作文、小学校からの調査書・推薦書を用いるなどしている学校も多く見られ、 学校の個性や特色に応じて、多様な方法を適切に組み合わせて入学者選抜を行い、受験競争の低年齢化を招かないための工夫が行われている現状が伺える。
○ その中で、「適性検査」について、生徒側は負担を大きく感じていないとしている。ただし、この点については、努力したものの結果として中高一貫教育校に進学できなかった生徒は必ずしもそうではない可能性もある。実際、受験産業において中高一貫教育校対策が行われているとの懸念の声もある。
○ 一方、上述のとおり、入学後の生徒間の学力差に苦慮しているとする学校も多くなっている。中高一貫教育の大きな特色の一つである「高校入試がないこと」とそれに伴う「中だるみ」と併せて、入学時に学力を問わないこともその一つの要因ではないかと考えられる。
○ このような中、中高一貫教育の考え方としては、思考力、判断力、表現力や探求心のある生徒を受け入れて更に伸ばしていくことが基本であるが、教科の内容に即した知識・技能の習得も学力の重要な要素であり、適性検査だけでこの点を問わなくてよいのかという問題意識があり、「公立の入学者選抜において学力検査を行わない」とする点は改めるべきとの意見が出された。
○ 教科の内容に即した知識・技能を活用することにより、現在の適性検査をより深く生徒の能力・適性を測るものにすることができるのではないかとの意見が出された。一方、仮に基礎学力を問うても良いこととした場合、難問奇問が出やすいとか、一定時間の中で多くの問題を解くために相当訓練が必要であるといった問題が生じ、中高一貫教育の理念と乖離するのではないか、との意見もあり、生徒の能力・適性を測る上では、知識・理解と思考力・判断力・表現力とのバランスが重要であると言える。そもそも、入学者選抜において何を見たいのか、どんな力を測るのか、そのためにどのような手法が適切であるか、という点について、検討が必要である。
○ また、学力を問うことについての生徒側への調査結果は、在校生は「どちらとも言えない」、卒業生は「賛成ではない」との意識が多数である。学力検査ではなく、現在行われている適性検査で良いのではないかとの生徒たちの考え方が反映されていると考えられる。
○ これらの意見を踏まえると、公立学校(中等教育学校・併設型中学校)での入学者選抜における学力検査の是非については、地域の状況にも考慮しつつ、
(1) まず、平成9年答申や、制度導入時の法改正に際しての国会審議での附帯決議において示されている「受験エリート校化」や「受験競争の低年齢化」といった懸念が、現在において解消されていると考えて良いか、
(2) その上で、その懸念を上回るニーズが現状生じているか、を見極める必要があるのではないか。
○ なお、公立学校においてはより積極的に抽選を導入すべき、との指摘も過去になされているが、抽選は生徒の努力と関係ないところで結果が決まり、生徒に不公平感や精神的ショックを与えるおそれがある点には留意が必要ではないか。
(*1) 学校教育法施行規則第110条(中等教育学校)及び第117条(併設型)。
○ 連携型高等学校における入学者選抜については、「調査書及び学力検査の成績以外の資料により行うことができる」(いわゆる「簡便な入学者選抜」)こととされており(*1)、実態としては、面接がほぼ全ての学校で行われているほか、レポートや作文、発表などを実施しているとする学校が一定数見られる。
○ この「簡便な入学者選抜」による結果、連携型においても、学習意欲の低下や学力差については課題意識がある。
(*1) 学校教育法施行規則第90条第4項
○ 平成9年答申においては、中高一貫教育校にあっても、高等学校段階に進む時点で進路変更を希望する生徒に対しては、他の高等学校への進学などの必要な配慮を行う必要性が示されている。
○ 実態において、高校段階に進む時点では、公立の連携型を除き、併設・連携高校(後期課程)への進学が圧倒的に多いが、一部、「他の高等学校等に進学」する例が見られる。
○ ただし、この場合も、転居等を除き、生徒本人の進路希望を踏まえた上で保護者を交えた面談を行い、他校への進学意思を確認したり、希望する進学先の概要・特色を説明した上で、生徒本人や保護者の進路意思を確認するといった必要な配慮が行われており、この点に関して、特段の課題は認識されていない。
○ 平成9年答申では、中学1年生から高校3年生までの異年齢集団による活動が行えることにより、社会性や豊かな人間性の育成に資するとの利点と、心身発達の差異の大きい生徒を対象とするため学校運営に困難が生じるおそれがある場合や、生徒集団が長期間固定されることによる問題点が示され、中・高を通じた教員の連携・配慮や生徒の発達段階の差異に応じた指導を行う必要性などが指摘されている。
○ 実態として、中高一貫教育を導入した結果、当初ねらいとしていた学校より多くの学校で異年齢交流による生徒の育成に成果があったとしており、学校運営が困難とする学校は少ない。また、生徒の人間関係の固定化を課題とする学校も決して多くない。
○ 心身発達の差異や人間関係の固定化に対する取組として、スクールカウンセラーの活用や、内進生・外進生、学級、年齢の別を超えた活動、行事や部活動等での交流が行われている。
○ 特に、中学校段階から高校生と深く交流することができる異年齢集団の活動については、その成果が学校側からも評価されている。
○ また、生徒側からの評価でも、人間関係の固定化・不安定さについての懸念も見られる一方で、中高の6年間において深い人間関係が形成されることについての高い評価が見られ、安定している。
○ 「教職員の負担」は、平成9年答申には示されていない論点である。
○ 一方、実態として、国による制度導入以前から相当の広がりをもって中高一貫教育を実施してきた私立を除き、国公立においては、教職員の意識改革・指導力の向上に成果を認める一方で、教職員の負担が増えているとする学校が多い。
○ これらのことから、教職員の負担感が、制度導入時には懸念されていなかった新たな課題として生じてきている現状が浮き彫りになっている。このような中、公立学校の条件整備としては、都道府県独自で加配措置を講じてきたものの、財政難の中でなかなか難しい状況がある。
○ 負担感の要因の一つとして、例えば前掲した中高間の交流授業実施にともなう打合せ時間の確保、教材研究等が考えられる。高等学校の教員が積極的に中学校の授業に入り、中学校段階での学習を高校教員が十分把握することで、高校で学ぶ内容をより厳選したり、中学3年生を担当していた教員が高校1年生の授業を受け持つことによって、生徒にとっての安心感につながることから、これらの取組自体は非常に有益であると考えられる。
○ よって、この点に関する負担感を克服する必要があり、例えば、校務分掌の中高一体化やITの導入による負担の軽減等の取組が認められる。また、6か年を見通したシラバスの作成は、生徒への指導の一貫性を保ちつつ、指導法の継承や教員の負担軽減に資するとの意見も出され、このような取組が広く行われることが有効なのではないか。
○ また、学校側からは、公立学校においては高等学校・中学校それぞれから背景の異なる人事により赴任することに起因する困難さも指摘されている。この点については、例えば職員室を同じにするといった取組や職員研修などを通じて、双方の教員の相互理解の促進に資することが重要ではないか。なお、教員の交流を行う場合には、中高の授業形態の在り方、各教員の授業の持ち時間のやりくり、評価、卒業後の進路に関する指導の在り方等についても、相互理解を進めることが必要であると考えられる。
○ 私立学校からは、中高一貫の趣旨や目的意識を明確に持つことができれば、さほど負担感はないのではないか、との意見が出された。
○ 制度導入後、中高一貫教育校の数は着実に増えているが、それ以上に中高一貫教育についての生徒や保護者のニーズが非常に高まっており、そういったニーズに学校の整備が追いついていないとの意見が出された。
○ このような状況の下、地方公共団体や学校設置者の主体的な判断により、今後とも中高一貫教育校の量的充実が図られることが求められているのではないか。
○ 私立学校においては保護者の学費負担の大きさが課題となっており、負担軽減が図られながら、公立学校と、また私立学校間でも切磋琢磨していけるような環境が整っていくことが望ましいとの意見が出された。
○ 中高一貫教育校の中でも中等教育学校は、新しい学校制度の選択が可能となり、学校が新しく一新され、地域の信頼が高まったとの指摘がある。
○ また、中高一貫教育校が核となり、地域全体の取組として、中学校と高等学校が情報提供を密にする観点からの中高連携を進める取組も行われている。
○ 他方、中高一貫教育校が生徒や保護者のニーズに応える形で際だった才能や意欲を示す子どもを受け入れ、地域のリーダーを育成するといった教育目標を掲げる一方で、地域の一般の公立中学校への影響を懸念する声もある。
○ もとより中高一貫教育校は、生徒や保護者にとって中等教育の「選択肢」として設置されるものであるが、中高一貫教育校ではない一般の公立中学校や高等学校についても、平成9年答申においては、
といった利点を有することが示されている点には留意が必要である。
○ これまで見てきたように、中高一貫教育制度は、その制度導入から10年を経過した現在、制度創設時に期待された成果が達成され、その理念が一定程度実現されている一方で、制度創設後に生じてきた課題なども見られるようになってきた。
○ こういった成果についての関係者の理解・認識がより深まるとともに、認識されている課題に対しては、必要な制度の改善や各学校における取組が促されることが必要ではないか。
○ その上で、本作業部会としては、子どもたちや保護者の選択の拡大や、学校設置者による特色ある教育の更なる展開の観点から、今後とも中高一貫教育校の設置が促進され、今後より一層、我が国中等教育の多様化・複線化が深まることを期待する。
初等中等教育局初等中等教育企画課教育制度改革室