資料5-1:特別支援教育の在り方に関する特別委員会報告(委員長試案)(概要)

はじめに

 「障害者の権利に関する条約」の国連における採択、政府の障害者制度改革の動き、中央教育審議会での審議、障害者基本法の改正等について記述

1.共生社会の形成に向けて

(1)共生社会の形成に向けたインクルーシブ教育システムの構築

  • 障害者の権利に関する条約第24条によれば、「インクルーシブ教育システム」(inclusive education system、署名時仮訳:包容する教育制度)とは、人間の多様性の尊重、精神的・身体的な能力を可能な最大限度まで発達させ、自由な社会に効果的に参加するという目的の下、障害のある者と障害のない者が共に教育を受ける仕組みであり、障害のある者が「general education system」(署名時仮訳:教育制度一般)から排除されないこと、自己の生活する地域において初等中等教育の機会が与えられること、個人に必要な合理的配慮が提供される等が必要とされている。
  • 共生社会の形成に向けて、障害者の権利に関する条約に基づくインクルーシブ教育システムの理念が重要であり、その構築のため、特別支援教育を着実に進めていく必要があると考える。
  • インクルーシブ教育システムにおいては、同じ場で共に学ぶことを追求するとともに、個別の教育的ニーズのある幼児児童生徒に対して、その時点で教育的ニーズに最も的確に応える指導を提供できる、多様で柔軟な仕組みを整備することが重要である。小・中学校における通常の学級、通級による指導、特別支援学級、特別支援学校といった、連続性のある「多様な学びの場」を用意しておくことが必要である。

(2)インクルーシブ教育システム構築のための特別支援教育の基本的考え方

 特別支援教育は、共生社会の形成に向けて、インクルーシブ教育システム構築のために必要不可欠なものである。そのため、以下の考え方に基づき、特別支援教育を発展させ、必要な制度改革を行う必要がある。

○1 障害のある子どもが、その能力や可能性を最大限に伸ばし、自立し社会参加することができるよう、医療、保健、福祉、労働等との連携を強化し、社会全体の様々な機能を活用して、十分な教育が受けられるよう、障害のある子どもの教育の充実を図ることが重要である。

○2 障害のある子どもが、地域社会の中で積極的に活動し、その一員として豊かに生きることができるよう、地域の同世代の子どもや人々との交流等を通して、地域での生活基盤を形成することが求められている。このため、可能な限り共に学ぶことができるよう配慮することが重要である。

○3 特別支援教育に関連して、障害者理解を推進することにより、周囲の人々が、障害のある人や子どもと共に学び合い生きる中で、公平性を確保しつつ社会の構成員としての基礎を作っていくことが重要である。次世代を担う子どもが通う学校において、これを率先して進めていくことは、インクルーシブな社会の構築につながる。

(3)今後の進め方

 施策を短期(「障害者の権利に関する条約」批准まで)と中長期(同条約批准後の10年間程度)に整理した上で、段階的に実施していく必要がある。

  • 短期:就学相談・就学先決定の在り方にかかる制度改革の実施、教職員の研修等の充実、当面必要な環境整備の実施、合理的配慮の充実のための取組。それらに必要な財源を確保して順次実施。
  • 中長期:短期の施策の進捗状況を踏まえ、追加的な環境整備や教職員の専門性向上のための方策を検討。最終的には、条約の理念が目指す共生社会の形成に向けてインクルーシブ教育システムを構築していくことを目指す。

2.就学相談・就学先決定の在り方について

(1)早期からの教育相談・支援

  • 子ども一人一人の教育的ニーズに応じた支援を保障するためには、乳幼児期を含め早期から教育相談や就学相談を行うことにより、本人・保護者に十分情報を提供し、本人・保護者と学校、教育委員会が教育的ニーズと必要な支援について合意形成を図りながら決定していくことが重要である。
  • 乳児期から幼児期にかけて子どもが専門的な教育相談・支援が受けられる体制を医療、保健、福祉等との連携の下に早急に確立することが必要である。

(2)就学先決定の仕組み

  • 就学基準に該当する障害のある子どもは特別支援学校に原則就学するという従来の就学先決定の仕組みを改め、障害の状態、本人の教育的ニーズ、本人・保護者の意見、教育学、医学、心理学等専門的見地からの意見、学校や地域の状況等を踏まえた総合的な観点から就学先を決定する仕組みとすることが適当である。その際、本人・保護者に対し十分情報提供をしつつ、本人・保護者の意見を最大限尊重し、本人・保護者と市町村教育委員会、学校等が教育的ニーズと必要な支援について市町村教育委員会が主体となって合意形成を行うことを原則とし、最終的には市町村教育委員会が決定することが適当である。
  • 現在、多くの自治体に設置されている「就学指導委員会」については、就学先決定時のみならず、早期からの教育相談も含めた一貫した支援に重点を置くという観点から、「教育支援委員会」(仮称)といった名称とすることが適当である。「教育支援委員会」(仮称)については、機能を拡充し、一貫した支援を目指す上で重要な役割を果たすことが期待される。
  • 小学校段階6年間、中学校段階3年間の学びの場が就学時にすべて決められるのではなく、児童生徒のそれぞれの発達の程度、適応の状況等を勘案しながら、柔軟に転学ができることをすべての関係者の共通理解とすることが重要である。
  • 本人・保護者と教育委員会、学校等の意見が一致しない場合の調整の仕組みについては、例えば、「教育支援委員会」(仮称)を活用し第三者的な有識者から助言を得るなどの方法が考えられる。または、都道府県教育委員会による「教育支援委員会」(仮称)の設置・活用により、調整の仕組みの客観性・第三者性を高めることも考えられる。

(3)一貫した支援の仕組み

  • できる限り早期から成人に至るまで一貫した指導・支援ができるように、子どもの成長記録や指導内容等に関する情報を、その扱いに留意しつつ、必要に応じて関係機関が共有し活用することが必要である。

(4)就学先相談、就学先決定に係る、国・都道府県教育委員会の役割

  • 障害のある子どもの教育的ニーズに対応した教育が行われているかを相談・助言できる組織を「教育支援委員会」(仮称)として、都道府県レベルにおいても設置し、いつでも相談できるような仕組みを構築するなど、都道府県教育委員会の就学先決定に係わる相談・助言機能を強化する必要がある。
  • 就学相談については、それぞれの自治体の努力に任せるだけでは限界があることから、国において、何らかのモデル的な取組を示すとともに、具体例の共有化を進めることが必要である。例えば、市町村教育委員会において、就学相談にかかわる専門スタッフを配置する、また、県の特別支援教育センターの職員が、各市町村の就学相談委員となって就学相談にかかわる専門スタッフの役割を果たし全域をサポートするなどの例もある。

3.障害のある子どもが十分に教育を受けられるための合理的配慮及びその基礎となる環境整備

(1)「合理的配慮」について

  • 条約の定義に照らし、本特別委員会における「合理的配慮」とは、「障害のある子どもが、他の子どもと平等に「教育を受ける権利」を享有・行使することを確保するために、学校の設置者及び学校が必要かつ適当な変更・調整を行うことであり、障害のある子どもに対し、その状況に応じて、学校教育を受ける場合に個別に必要とされるもの」であり、「学校の設置者及び学校に対して、体制面、財政面において、均衡を失した又は過度の負担を課さないもの」、とする。なお、障害者の権利に関する条約において、「合理的配慮」の否定は、障害を理由とする差別に含まれるとされていることに留意する必要がある。
  • 障害のある子どもに対する支援については、法令に基づき又は財政措置により、国は全国規模で、都道府県は各都道府県内で、市町村は各市町村内で、教育環境の整備をそれぞれ行う。これらは、合理的配慮の基礎となる環境整備であり、それを「基礎的環境整備」と呼ぶこととする。これらの環境整備は、その整備の状況により異なるところではあるが、これらを基に、設置者及び学校が、各学校において、障害のある子どもに対し、その状況に応じて、「合理的配慮」を提供する。
  • 「合理的配慮」は、一人一人の障害の状態や教育的ニーズ等に応じて決定されるもの。設置者・学校と本人・保護者により、発達の段階を考慮しつつ、「合理的配慮」の観点を踏まえ、「合理的配慮」について可能な限り合意形成を図った上で決定し、提供されることが望ましく、その内容を個別の教育支援計画に明記することが望ましい。

(2)「基礎的環境整備」について

  • 「合理的配慮」の充実を図るため、「基礎的環境整備」の充実は欠かせない。そのため、必要な財源を確保し、インクルーシブ教育システム構築に向けた取組として、国、都道府県、市町村は、「基礎的環境整備」の充実を図っていくことが必要。
  • 共生社会の形成に向けた国民の共通理解を一層進め、インクルーシブ教育システム構築のための施策の優先順位を上げていくことが必要。

(3)学校における合理的配慮の観点

  • 「合理的配慮」の観点について整理するとともに、障害種別の「合理的配慮」は、その代表的なものと考えられるものを例示。示されているもの以外は提供する必要がないということではない。「合理的配慮」は、一人一人の障害の状態や教育的ニーズ等に応じて決定されるものである。
  • 複数の種類の障害を併せ有する場合には、各障害種別の「合理的配慮」を柔軟に組み合わせることが適当。

(4)「合理的配慮」の充実

  • これまで学校においては、障害のある児童生徒等への配慮は行われてきたものの、「合理的配慮」は新しい概念であり、現在、その確保についての理解は不十分であり、学校・教育委員会、本人・保護者の双方で情報が不足していると考えられる。そのため、早急に合理的配慮の充実を図るための調査研究事業を行い、それに基づく国としてのデータベースを整備し、各教育委員会の参考に供することが必要である。また、中長期的には、それらを踏まえて、合理的配慮、基礎的環境整備を充実させていくことが重要であり、必要に応じて、学校における「合理的配慮」の観点や代表的なものと考えられる例を見直していくことが考えられる。

4.多様な学びの場の整備と学校間連携等の推進

(1)多様な学びの場の整備

  • 多様な学びの場として、通常の学級、通級による指導、特別支援学級、特別支援学校それぞれの体制整備の充実を図っていくことが必要である。特に、通常の学級における少人数学級の推進や複数教員による指導など指導方法の工夫改善、通級による指導のための一層の教職員体制の充実が求められる。

(2)学校間連携の推進

  • 域内の教育資源の組合せ(スクールクラスター)により、域内のすべての子ども一人一人の教育的ニーズに応え、各地域におけるインクルーシブ教育システムを構築することが考えられる。
  • 特別支援学校は、その有するセンター的機能を活用してインクルーシブ教育システムの中で重要な役割を果たすことが求められる。そのため、センター的機能の一層の充実を図るとともに、その高い専門性の確保にも取り組む必要がある。

(3)交流及び共同学習の推進

  • 特別支援学校と幼・小・中・高等学校等との間、また、特別支援学級と通常の学級との間でそれぞれ行われる交流及び共同学習は、特別支援学校や特別支援学級に就学する障害のある児童生徒等にとっては、経験を広め、社会性を養い、豊かな人間性を育てる上で、大きな意義を有する。障害のない児童生徒等にとっても、障害のある児童生徒等と共に学び、多様性を尊重する心を育むことができ、共生社会の形成を目指す観点とともに、子どもの成長にも大きな意味を持つ。
  • 特別支援学校と幼・小・中・高等学校等との間で行われる交流及び共同学習については、居住する地域における交流及び共同学習の更なる推進が必要である。また、特別支援学級と通常の学級との間で行われる交流及び共同学習については、各校で計画的・組織的に取り組み、一層の充実が図られるべきである。

(4)関係機関等との連携

  • 医療、保健、福祉、労働等の関係機関等との適切な連携が重要である。このため、関係行政機関等の相互連携の下で、広域的な地域支援のための有機的なネットワークが形成されることが有効である。

5.特別支援教育を充実させるための教職員の専門性向上

(1)教職員の専門性の確保

  • すべての教員は、特別支援教育に関する一定の知識・技能を有していることが求められる。特に発達障害に関する一定の知識・技能については、発達障害の可能性のある児童生徒の多くが通常の学級に在籍していることから必須である。これについては、養成段階で身に付けることが適当であるが、現職教員については、研修の受講等により基礎的な知識・技能の向上を図る必要がある。
  • すべての教員がすべての専門性を身に付けることは困難なことから、必要に応じて、外部人材の活用も行い、学校全体としての専門性を確保していくことが必要である。

(2)各教職員の専門性、養成・研修制度等の在り方

  • 学校全体としての専門性を確保していく上で、校長等の管理職のリーダーシップは欠かせない。また、各学校を支援する、教育委員会の指導主事等の担当者の役割も大きい。このことから、校長等の管理職、教育委員会の担当者を対象とした研修を実施していく必要がある。
  • 特別支援学校教員の特別支援学校教諭免許状(当該障害種又は自立教科の免許状)取得率は約7割となっており、特別支援学校における教育の質向上の観点から、取得率の向上による担当教員としての専門性を早急に担保することが必要である。このため、養成、採用においては、その取得について留意すべきである。特に現職教員については、免許法認定講習の受講促進等の取組を進めるとともに、その後も研修を通じた専門性の向上を図ることが必要である。
  • 特別支援学級や通級による指導の担当教員は、特別支援教育の重要な担い手であり、その専門性が校内の他の教員に与える影響も極めて大きい。このため、専門的な研修の受講等により、担当教員としての専門性を早急に担保するとともに、その後も研修を通じた専門性の向上を図ることが必要である。

(3)教職員への障害のある者の採用・人事配置

  • 児童生徒等にとって、障害のある教職員が身近にいることは、障害のある人に対する知識が深まるとともに、障害のある児童生徒等にとってのロールモデル(具体的な行動技術や行動事例を模倣・学習する対象となる人材)となるなどの効果が期待される。このため、特別支援学校をはじめとする様々な学校において、障害のある当事者の教職員が確保されるよう、採用や人事配置について配慮する必要がある。

 

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