日本高等学校教職員組合

インクルーシブ教育システム構築のための今後の特別支援教育の推進方策に関するヒアリング意見

団体名   日本高等学校教職員組合

 

1.合理的配慮等環境整備について

【他国との比較】

 インクルーシブ教育先進国との比較、例えば○1 教員1人あたりの児童・生徒数、○2 生徒と向き合える時間、○3 事務作業等に費やす時間、○4 施設・設備などの検証を行い、障害のある生徒の安全や教育を十分に確保するための勤務形態や教育環境を追求・整備すべきである。その整備ができていない状態では、当該児童・生徒の「命」と「人権」を守る観点から、「見切り発車」は決して行ってはならない。

【高等学校の特殊性】

 中教審・高等学校教育部会においても、高校教育が多岐にわたり複雑な課題を有することが改めて確認されており、当該部会における議論の進捗状況も見極める必要がある。また、発達障害や比較的障害の程度が軽い児童・生徒には施設等の整備は可能と思われるが、重度(特別支援学校に在籍している児童・生徒)であれば、施設や専門性を有する教員の配置等、個々のニーズに応じて整備していくことに対応が可能か十分な検討が必要と思われる。

【健常な児童・生徒への効果】

 インクルーシブ教育を推進することにより、健常な児童・生徒に対しても効果的な配慮がもたらされることが期待できる。これまでも、高校における特別支援教育は、教員間の連携により生徒の実態を十分に見極めて適切な配慮として行われてきた。しかし、インクルーシブ教育の観点に基づく新たな業務として、成果の検証等を実施するとなれば、負担の一層の増大は避けられない。障害のある児童・生徒が通常学級で共に学ぶのであれば、安全、人権、学力保障、個に応じた教育の観点からも、学級規模の見直しや、大幅な教職員定数増を行う必要がある。

【特別支援学校の役割】

 特別支援学校のセンター的機能を充実させ、地域の各学校との連携強化による指導方法の共有化や、教材・教具の貸出や使い方の指導・研修を行う体制も確立させるべきである。

【高校入試】

 入学者選抜において、障害を有する生徒をどのように扱うのか、現時点で見解の相違が存在することを踏まえた検討が必要である。

【教科書等、成績判定】

 高等学校は教科が広範であり、弱視専用または点字の教科書や参考書等が準備できるのか、また、例えば考査問題をどうするのか等の課題がある。評価においても、同一の高校を卒業した場合であっても、異なる評価基準による評価結果が許容されるのか議論が必要である。また、発達障害における「高発生頻度」の区分では、現時点で高校においては、明確に発達障害との診断を受けた生徒は多くはない。診断結果の有無を、対応の判定・認定の基準とするのは難しい。発達障害の生徒に原級留置はなじむのかどうかも検討すべきである。高校は、初等中等教育の最終段階であり、出口段階での「質の保証」の議論との整合性を図る必要がある。
 ※インクルーシブ教育の原点は、教育を受ける機会の平等・保障であり、学習時の合理的配慮は求められても、評価基準そのものを変えるものではない。原級留置に関しては、抵抗を感じる風潮があるが、質の保証という観点からは、「長い時間をかけても良い」という考え方も成り立つ。

【インターンシップ】

 地方においては、インターンシップなどの受け入れ先の確保が課題となる。

【ICTの導入】

 特別支援教育に係るICTの導入については、現状でも機器の維持・管理のため多大な負担を強いられている。教材として活用の幅をさらに広げるには、それに伴う人的配置が必要となる。

【災害等への対応】

 災害時の避難施設として、地域の拠点校に福祉避難所的な施設設備を配置すべきである。

【特別支援教育支援員等】

 高等学校においても、特別支援教育支援員等の人的配置を導入すべきである。

【医療等との連携】

 医療・福祉などとの連携による、学校教育システムの構築が必要である。

【保護者等対応】

 個別の事例に対応するため、保護者等から学校・教員への要望がエスカレートする懸念がある。保護者等の要望により実施内容の水準は引き上げられやすいが、継続性の観点からは、「合理的配慮」の範囲内で、「これ以上はできない」という限界を示す判断基準を明確化することが望まれる。

2.教職員の確保及び専門性の向上について

【専門免許取得】

 教員の特別支援教育に関する専門免許取得率の低さに関しては、多忙による時間的制約も大きい。取得に係る費用の公的負担や、職務軽減についての配慮など免許取得の推進に対する改善が必要である。また、免許取得者の人事異動に関しても、学校間における疎密が生じないようにしなければならない。

【修士課程化】

 特別支援学校教諭免許取得における修士課程化については、現在検討されている新たな教員免許制度との整合性を持たせた上、採用を保障することが前提となる。

【給与水準】

 特別支援学校に地域のセンター的役割を持たせ、特別支援学級担任教員を各学校の特別支援教育の中核として位置づけるためにも、免許所有者の給与水準の維持・改善をすべきである。

【特別支援学校との連携】

 特別支援学校におけるそれぞれの立場での指導実践を活用する工夫も必要である。高等部での進路指導では、就職先の開拓や就業を担保するための訓練など、多くの苦労と努力によって得られた実践例等の成果がある。こうしたものを活用して、学校現場における研修や研究などの共有が有効である。また、高等学校において同等の職務を遂行するためには、人的配置や特別支援学校、福祉行政との連携などを推進しなければならない。

【管理職】

 校長のリーダーシップと同時に、「組織力」としての横の連携、共に学び合い協力し合う体制づくりも必要である。また、カウンセラーや臨床心理士などが管理職と連携しやすい体制作りや、学校管理運営委員会(教育職、臨床心理士などによる)等、様々な専門性を有する者による運営を行える体制も検討すべきである。

【個人情報の取り扱い】

 特別な支援を要する生徒の情報を共有し、その生徒に関わる教職員全てが必要な支援を行う必要がある。しかしながら、現在の高等学校における生徒の個人情報の共有は、義務教育に比べ十分ではない。支援に活かす情報の共有と管理について徹底しなければならない。

【高校の教科】

 高校教育は、教科としての専門性が求められると同時に、学校種によっても教育活動の方向性や内容が大きく異なる。全ての高校勤務者について、特別支援教育に関する資質を一律に求めることは難しく、形骸化する懸念がある。

【研修】

 特別支援教育の専門性に関する研修について、大学等で系統的な講義を受け、学んだことを実践して力をつけていくためには、校内研修等において指導する教員として担任等を兼務しない教員配置のあり方も検討すべきである。

 

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初等中等教育局特別支援教育課

(初等中等教育局特別支援教育課)