資料4-5:特別支援教育の在り方に関する特別委員会論点抜粋

中央教育審議会初等中等教育分科会
特別支援教育の在り方に関する特別委員会
論点整理(平成22年12月24日)抜粋

1.インクルーシブ教育システム構築に向けての特別支援教育の方向性について

(2)「共に学ぶ」ことについて

○1 基本的な方向性としては、障害のある子どもと障害のない子どもができるだけ同じ場で共に学ぶことを目指すべきである。その場合に、それぞれの子どもが授業や活動を理解し参加している実感・達成感を持ちながら、充実した時間を過ごせて、生きる力を身に付けていけるかどうか、これが最も本質的な点であり、そのための条件の整備が必要である。

○2 生命尊重、思いやりや協力の態度などをはぐくむ道徳教育を充実するとともに、障害のある子どもと障害のない子どもが共に学ぶことにより、同じ社会に生きる人間として、互いに正しく理解し、共に助け合い、支え合って生きていくことの大切さを学ぶなど、個人の価値を尊重する態度や自他の敬愛と協力を重んずる態度を養うことが期待できる。

○3 一方、学級規模など現在の教育条件が大幅に改善されない状況で、個々の子どもの障害の状態、教育的ニーズ、学校、地域の実情等を十分に考慮することなく、すべての子どもを同じ場で教育を行うことは、同じ場で学ぶという意味での平等は実現できても、子どもの健全な発達や子どもが適切に教育を受ける機会を平等に与えることにはならず、その結果、将来、社会に参加し市民として生きる時になって、障害のある子ども本人に対しより大きな不平等をもたらす可能性がある。財源負担も含めた国民的合意を図りながら、大きな枠組みを改善する中で、「共に育ち、共に学ぶ」体制を求めていくべきである。(参考資料6:OECD各国との初等中等教育段階における一学級当たり児童生徒数及び公財政支出の比較)

○4 特別支援教育は、共生社会の形成を目指すために必要な要素であり、インクルーシブ教育システムと同じ方向を向いているものと言える。したがって、インクルーシブ教育システムの更なる推進のため、特別支援教育を発展させ、必要な制度改革を行う必要がある。このような形で、特別支援教育を推進していくことは、子ども一人一人の教育的ニーズを把握し、適切な指導及び必要な支援を行うものであり、この観点から教育を進めていくことで障害のある子どもにも、障害があるとは周囲から認識されていないものの学習面又は行動面での困難を抱えている子どもにも、更には全ての子どもにとっても良い効果を与えることができるものと考えられる。

○5 障害のある子どもが、多様な子どもの中で共に学び、社会で生きる力を身に付けることと同時に、同じ障害のある子ども同士が共に学ぶことにより、それぞれの障害固有のコミュニケーション能力を高め、相互承認の感覚を深めていくことも重要である。

○6 特別な指導を受けている児童生徒の割合を比べてみると、英国で約20%(障害以外の学習困難を含む)、米国で約10%となっており、日本は、特別支援学校、特別支援学級、通級による指導を受けている児童生徒は約2%程度に過ぎない。教育支援の必要な児童生徒の多くは既に通常の学級で学んでいると考えられる。これらの支援を必要とする児童生徒への対応が早急に求められている。今後は、これらの児童生徒の実態把握を行うとともに、教育的な支援を一層進展させることが必要である。(参考資料7:日、英、米の特別支援教育として特別な指導を受けている児童生徒の割合)

○7 国は、共生社会の形成に向けた国民の共通理解を一層進め、社会的な機運を醸成していくことが必要である。学校教育においても、共生社会の形成に向けた理解の促進を図る教育の一層の充実を図っていく必要がある。また、財政的な措置を図る観点を含めインクルーシブ教育システム構築のために国としての施策の優先順位を上げる必要がある。

(3)インクルーシブ教育システムと地域性

○1 インクルーシブな社会の実現のためには、障害のある当事者がどれだけ社会に参加できるかということが問われる。インクルーシブ教育システムの推進に当たっては、普段から地域に障害のある人がいるということが認知され、障害のある人と地域住民や保護者とが相互に理解していることも重要である。学校のみならず地域の様々な場面において、どう生活支援していくかという観点も必要である。学校運営協議会制度(コミュニティ・スクール)や学校支援地域本部など地域と連携した学校づくりを進めるに際しても、各学校は、障害のある子どもへの対応も念頭に地域の理解と協力を得た連携の取組を考えていく必要がある。また、特別支援学校に在籍する子どもについて、一部の自治体で実施している居住地校に副次的な学籍を置く取組については、居住地域との結び付きを強めるために意義がある。今後、地域の学校に学籍を置くことについても検討していく必要がある。(参考資料8:学校運営協議会制度(コミュニティ・スクール)について、参考資料9:学校支援地域本部事業)

○2 地域の実情(交通アクセス、医療、福祉サービスが充実している都市部とその対極的な地域など)は様々であるが、どの地域の学校においても等しく達成されるべきもの(ナショナルミニマム)は何であるかという点に国は留意して制度設計すべきである。一方、地域の状況に応じた柔軟な選択肢があっても良い。

○3 地域内の教育資源(幼・小・中・高等学校及び特別支援学校等、特別支援学級、通級指導教室)それぞれの単体だけでは、そこに住んでいる子ども一人一人の教育的ニーズに応えることは難しい。こうした域内の教育資源の組合せ(スクールクラスター)により域内のすべての子ども一人一人の教育的ニーズに応え、各地域におけるインクルーシブ教育システムを構築することが考えられる。その際、交流及び共同学習の推進や特別支援学校のセンター的機能の活用が効果的である。さらに、特別支援学校は都道府県教育委員会に設置義務があり、小・中学校は市町村教育委員会に設置義務があることから、両者の連携の円滑化を図るための仕組みを検討していく必要がある。なお、通学の利便性の向上のため、特別支援学校の分教室を設置するなど、特別支援教育の地域化を推進している都道府県もある。また、通級による指導についても、児童生徒の負担軽減のため、巡回による指導により、児童生徒の在籍校において実施している例もある。今後こうした例を地域の状況等を考慮しながら広め、多様な仕組みの構築の方向を目指すことが重要である。(参考資料10:域内の教育資源の組合せ(スクールクラスター)のイメージ)

○4 インクルーシブ教育システムを構築する上では、福祉、医療、労働などの関係機関等との適切な連携が重要である。このためには、関係行政機関等の相互連携の下で広域的な地域支援のための有機的なネットワークが形成されることが有効であり、既に各都道府県レベルで「障害保健福祉圏域」や教育事務所単位での支援地域の設定などが行われている。それら支援地域内の有機的なネットワークを十分機能させるためには、保護者支援を行うこと、連絡協議会を設置することや個別の教育支援計画を相互に連携して作成・活用することが重要である。今後、関係機関に警察や司法も加えていくことについて検討していく必要がある。

○5 インクルーシブ教育システムの構築に当たり、障害のある子どもの地域における生活を支援する観点から、地域における社会福祉施策や障害者雇用施策と特別支援教育との一層の連携強化といった広い視野を持って取り組む必要がある。また、卒業後の就労・自立・社会参加も含めた共生社会の構築を考える必要がある。

○6 例えば、障害が重度の児童生徒等に適切な教育を提供するためには、施設・整備等の基礎的条件の整備、充分な知識と技量を持った教育スタッフチームの配置・育成、看護師と教員が連携した医療的ケアの実施体制の整備が必要であるが、これらの条件整備を地域で計画的に進める必要がある。また、キャリア教育の観点からは、ソーシャルワーク(人々の生活を社会的な視点から捉え、その解決を支援すること)が非常に重要であるが、それを学校、教員だけで行うことには無理がある。地域の中で、ソーシャルワークの機能をきちんと確保することが重要である。

○7 病院に入院した際は、病院にある学校や学級に籍を移動しなければ教育を受けることができない。退院すると地域の学校に戻るということや、近年は入院が短期化してきていることを踏まえ、現在の特別支援学校、病院内に設置された学級と地域の学校における転学手続の運用等を一層柔軟にしていくべきである。

3.インクルーシブ教育システム構築のための人的・物的な環境整備について

(3)交流及び共同学習

○1 特別支援学校と幼稚園、保育所、認定こども園、小・中・高等学校などとの間、また、特別支援学級と通常の学級との間でそれぞれ行われる交流及び共同学習は、特別支援学校に就学する障害のある児童生徒等にとっては、経験を広め、社会性を養い、豊かな人間性を育てる上で、大きな意義を有する。障害のない児童生徒等にとっても、障害のある児童生徒等とともに学び、多様性を尊重する心をはぐくむことができ、共生社会の実現を目指す観点とともに、子どもの成長にも大きな意味を持つ。特に、居住地校との交流及び共同学習は、居住地の小・中学校等の児童生徒等とともに学習し、交流することで地域とのつながりを持つことができることから、これを進める必要がある。

○2 一部の自治体で実施している居住地校に副次的な学籍を置くことについては、居住地域との結びつきを強め、居住地校との交流及び共同学習を推進する上で意義がある。この場合、児童生徒の付添いや時間割の調整などが現実的課題であり、それらについて検討していく必要がある。(参考資料20:副次的な学籍について)

○3 同じ障害のある者との交流を継続して体験することも重要であり、例えば、通常の学級や特別支援学級で教育を受ける視覚障害の児童生徒が、視覚障害特別支援学校の児童生徒との交流を定期的に実施するなどの仕組み作りが考えられる。また、中学校・高等学校に通っている視覚障害の生徒と視覚障害特別支援学校の生徒の両方を対象とし、サマーキャンプ等で学習体験をする実践もある。その実践においては、先輩であり現役の企業等で働いている視覚障害の技術者や教員が講師となり、それを支えているのが視覚障害特別支援学校の教員や大学の視覚障害教育にかかわっている人たちである。

(4)特別支援学校のセンター的機能の活用

○1 特別支援学校は、小・中学校等の教員への支援機能、特別支援教育に関する相談・情報提供機能、障害のある児童生徒等への指導・支援機能、関係機関等との連絡・調整機能、小・中学校等の教員に対する研修協力機能、障害のある児童生徒等への施設設備等の提供機能といったセンター的機能を有しており、その機能を活用してインクルーシブ教育システムの中で重要な役割を果たすことが求められる。そのため、センター的機能の一層の充実を図るとともに、その高い専門性の確保にも取り組む必要がある。その際に、市町村教育委員会との役割分担を念頭に協力体制を構築することが重要である。加えて、特別支援学校のセンター的機能を支援する仕組みを各都道府県において整備することが必要である。

○2 特別支援学校の教員による巡回相談等、小・中学校等と特別支援学校との連携が重要である。特別支援学校も加えた形で地域の特別支援教育の支援体制を面として作っていくことが必要である。また、特別支援学校が、地域にいる障害のある子どもの教育を担っている都道府県もあり、今後はこのような取組を一層積極的に進めていく必要がある。

○3 必要に応じて、分校、分教室の形で設置するなど、都道府県内に特別支援学校をバランス良く設置していくことも方策の一つとして考えられる。児童生徒の移動時間を考えると、分校、分教室の方が指導を充実できる可能性もある。小学校に設置している特別支援学校の分教室で、当該小学校のみならず周辺の小・中学校についても支援を行っている例もある。

○4 各市町村の小・中学校に設置されている特別支援学級をその市町村の特別支援教育のセンターとし、必要に応じ、特別支援学校のセンター的機能に類する役割を持たせることも考えられる。

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