資料4-3:針持仙台市立小松島小学校長 提出資料

小松島小学校の特別支援教育
~ 「特別支援教室構想」に沿って ~

仙台市立小松島小学校 校長 針持 哲郎

1 本校の概要

 本校には490名の児童が在籍し,通常の学級15学級(弾力化学級を含む)特別支援学級4学級(知的:2,自情:2)が設置されている。教員の定数は教頭と養護教諭を含めて22名で,その外に4名(少人数指導:2,児童生徒支援:1,県単弾力化:1)が加配されている。

 昭和29年に開校した本校の学区には,児童福祉施設4施設(児童養護施設:3,情緒障害児短期治療施設:1)が置かれており,開校当初から入所児童を受け入れてきている。また,平成18~20年度の3年間,文部科学省研究開発学校(特別支援教育)の指定を受け,国の「特別支援教室構想」に沿った実践的な研究に取り組んだ。

 ここでは,その研究の成果と研究終了後の取組,研究終了後も継続できた要因を中心に,本校の特別支援教育の取組を報告する。

2 研究の取組と成果

(1)研究の取組

 本校の「研究開発学校(特別支援教育)」の研究は,「障害のある児童一人一人の教育的ニーズに応えるための教育的支援を目指す教育課程と指導方法等の実践的な研究開発」を課題と位置付け,「一人一人の学びを支える特別支援教育を拓く」を研究主題に,平成18~20年度の3年間取り組んだ。

 研究は,取り出し指導を必要とする発達障害児等を対象とした「特別支援教室A部会」,特別支援学級在籍児童を対象とした「特別支援教室B部会」,及び所属学級での配慮指導を必要とする児童を対象とした「授業作り部会」の三部会を中心に進めた。各部会では,「System(支援体制)」,「Support(支援内容)」,「Schedule(支援日程)」,「Shift(支援形態)」,「Space(支援の場)」の学びを支える5つのSを柱に研究を推進した。

(2)研究の成果

 前項の三つの部会の取組から,全ての児童の学びのタイプに応じた指導が実現した。さらに,学級担任と特別支援教室担当者の連携等による支援がもたらす学習効果について明らかになった。また,5つのSの取組をとおして,次のような成果が得られた。

○1 System(支援体制) ・・・・・・「特別支援教室」を設置し支援体制を整備したことで,実態把握や学習状況の観察,担任・担当者間,保護者等との連携,即時対応が可能になり,指導支援に有効であった。

○2 Support(支援内容)・・・・・・個別の指導計画の作成,学びのタイプの整理,支援の類型化を図ったことで,個々の教育的ニーズに応える適切な指導,必要な支援の実現につながった。

○3 Schedule(支援日程)・・・・・・「特別支援教室」で学習する児童について,学級担任と特別支援教室担当者が共同で時間割を作成したことで,「所属学級」,「特別支援教室」双方において必要な学びを保障することができた。

○4 Shift(支援形態)・・・・・・支援のタイプを類型化し実施したことで,必要な学びを保障する「学びの形態」が整備され,児童の不安感の払拭や情緒の安定及び所属学級の学習の一貫性・継続性の保障に有効であった。

○5 Space(支援の場)・・・・・・学習室6(うち4室を「特別支援教室」として使用)を設置し,各教室の機能と役割を決定して環境整備を進めたことで,それぞれの教室の機能性が高まり,児童や担任にとって効果的な活用が可能になった。

さらに,実践的な研究を通して,5つのSを整えたことによって校内における支援体制が確立し,児童一人一人に応じた指導が可能になった。この支援体制は,「特別支援教室」と「所属学級」双方が両輪として機能する体制であり,その結果,児童一人一人に大きな変容が見られた。その取組の中で教師の指導力や資質が向上するとともに,学級経営を土台とした授業改善の重要性が明らかになった。

3 研究終了後の支援体制

 研究開発学校の指定の終了にともなって,以下のことが実践できなくなった。

○1 通常の学級において,小学校学習指導要領にない教科等の授業を行うこと

○2 「通級による指導」以外において,通常の学級に在籍する児童を取り出して「自立活動」など特別な教育課程を編成して指導すること

 しかし,研究開発学校の指定の終了から3年かけて,その後の状況に合わせた特別支援教育体制を改善・構築してきた。

(1)特別支援教育の対象

 障害のある児童を対象として指定を受けた研究開発学校の取組であったが,そこで築かれた校内支援体制は,開校以来在籍している虐待,養育放棄,養育困難のある(あった)児童や不登校状態にある児童,いじめにかかわったり反社会的行動が継続したりしている児童,更には近年注目されるようになった食物アレルギーのある児童や震災による心的ストレスの大きかった児童などにも有効であることが分かってきた。

 そこで,改めて教育上特別な配慮を要する児童について整理した(P3表参照)。本校の特別支援教育は,「障害の有無にかかわらず,教育上特別な配慮を必要とするすべての児童」を対象としていることがはっきりした。

表:本校の特別支援教育の対象児童  H23.7.1現在

分類群

(%)

A群

特別支援学級在籍児童

18

3.7

B群

市就学指導委員会で「特別支援学級適切」と判断された通常の学級の児童

2

0.4

C群

特別支援学級への入級が適切か否か,校内で検討中の児童

5

1.0

D群

比較的軽度の障害や病気の診断のある児童

10

2.0

E群

比較的軽度の障害や病気の可能性のある児童

11

2.3

F群

かん黙の状態にある児童

1

0.2

G群

他校で「通級による指導」を受けている児童(言・聴・LD等)

0

0.0

H群

不登校の状態にある児童(別室登校を含む)

5

1.0

I群

虐待,養育放棄,養育困難のある(あった)児童(自宅生を含む)

72

14.8

J群

いじめにかかわったり反社会的行動が継続している児童

2

0.4

K群

食物アレルギーがあり,給食や調理実習等を配慮している児童

22

4.5

L群

東日本大震災で被災し転入した児童(地震・津波・原発)

16

3.3

M群

課題の原因や背景が十分整理されていない児童

16

3.3

全実人数

144

29.5

(2)校内指導・支援体制(P7図参照)

○1 支援体制

 校内支援体制の基礎をなすのは,「ケース会議」である。ケース会議は,児童の様子に変化があった場合や担任・担当者が指導に行き詰った場合などに,関係職員が情報を共有したり対応策を検討したりするために随時開かれる。

 そうしたケース会議を重ねたうえで,例えば関係機関につなぐ必要がある場合や取り出し指導を開始する必要が出てきた場合などには,校長も出席する「校内支援委員会」が開かれ,今後の方向性が検討される。ここで検討される児童の課題は,単に障害に起因するものだけではなく,不登校やいじめなどの生徒指導上の課題,食物アレルギーを含む様々な疾患に起因するものも含まれる。ただし,特別支援学級への入級や通級指導教室への通級の可能性がある場合には,校内就学指導委員会で改めて検討される。

○2 指導体制

ア)通常の学級の担任(15学級15名)

 小学校において通常の学級の担任は,学習指導や生活指導を通して集団づくりを行うことが最大の役割であると考える。特に,教育上特別な配慮を要する児童に対しては,学習面や生活面の負担(バリア)を軽減していくための工夫や配慮等をしっかりと行い,一人一人に学習や生活の具体的な目標を持たせることが必要になる。本校では,こうした学級担任が行う配慮指導を「教室支援」と呼んでいる。

イ)特別支援学級の担任(2障害種4学級4名)

 本校では,特別支援学級に在籍している児童も含めてすべての児童が通常の学級に所属している。特別支援学級の在籍児童は,所属する通常の学級で生活して一部の教科を学習しながら,個別の指導計画に沿って週授業時数の半分以上の時間,特別支援学級担任のいる「特別支援教室」に通って個々の児童の障害の状態に応じた指導を受ける。

 本校では,この指導形態を「B支援」と呼び,現行の小学校学習指導要領で新たに規定された「交流及び共同学習」の趣旨に沿った体制であると考えている。また,特別支援学級在籍児童の外に,この指導のねらいや学習内容を共有することが必要な通常の学級に在籍する児童もこの「B支援」の対象としているが,特別な教育課程を編成しない範囲で手厚く配慮した指導をしている。

 なお,特別支援学級の担任は,学年ごとに分担して「特別支援教育コーディネーター」として通常の学級にも積極的にかかわっている。

ウ)児童生徒支援加配教員(1名)

 この加配教員は,本校の場合児童福祉施設に入所している児童が全校児童の12%余りを占めていることから配置されている。したがって,児童福祉施設から通う児童の適応指導や教科補充指導に当たることが本務であるが,その専門性を生かして発達障害児や不登校(別室登校)児などの個別指導(取り出し指導)も担当している。

 本校では,この指導形態を「A支援」と呼び,この加配教員の教室も「特別支援教室」の一つである。また,この教員は,教育相談を担当するとともに,「特別支援教育チーフコーディネーター」も担当している。

エ)少人数指導加配教員(2名)

 この加配教員は,「確かな学力育成」のために配置されている教員で,本校では,中学年と高学年の算数の少人数指導を本務としている。今年度は教務主任経験者や学年主任経験者を充て,それぞれ生活指導部長と学習指導部長を分掌している。

 3年生以上の少人数指導の学習集団を工夫することで,それぞれ週数時間の空き時間を生み出し,その時間を使って学級での学習指導や生活指導を支援している。併せて,前述の児童生徒支援加配教員だけでは不足する「A支援」の児童の指導にも当たっている。

オ)教頭,教務主任(各1名)

 他校と同様に主に他の教員が出張や休暇等で不在の際の補欠授業に当たっている。本校の場合,発達障害児や虐待や養育放棄を受けた(受けている)児童が多く,教室にいられなかったり級友とトラブルになったりすることが日常的に起こる。こうした場合,まずは即時的にその児童の言い分を受け止めて対応する必要があることから,教頭や教務主任がその役割を担っている。

(3)通常の学級の指導

○1 教育課程

 研究の成果から,その年々の担任が独自に各学年の教育課程を編成するのではなく,6年間を見通した系統的な教育課程を編成・実施することが児童の学びやすさを保障することにつながることが分かった。

 本校では,指定研究の開始当初から「グランドカリキュラム」の編成に取り掛かり,現行の学習指導要領への移行や本格実施に対応して毎年改訂し,一貫性と系統性を持った学習指導が実現できるよう現在も活用している。本校の「グランドカリキュラム」は,他からの奨励というより,むしろ特別な配慮を要する児童の学びやすさを追求した結果からくる内発的な動機によって作られたといえる。

○2 学びやすい授業,暮らしやすい学級

 研究で得た成果の一つが,「学びやすい授業,暮らしやすい学級」の大切さであり,それを具体的にしたものが「こまつしまスタンダード」である。これによって,担任が不在で他の教員が補欠授業を行っても,進級して担任が替わっても,児童が安心して学習や生活に臨めるようになり,普段から一貫した指導が行えるようになった。

 このスタンダードは,指定を終えた翌年度に作成されたが,変化への対応に苦手さがあり,視覚情報優位といった発達障害のある児童の多くに見られる特性に配慮した結果として出来上がったものである。

○1 教室環境編

 *正面掲示
 *黒板
 *今日の予定
 *ホワイトボード(小)
 *学習用具・絵の具セット
 *ロッカー(児童用)
 *筆箱

○2 学習編

 *学習環境
 *開始
 *はじめ
 *なか
 *おわり
 *終了

○3 清掃編

 *準備
 *掃く
 *拭く
 *仕上げ
 *反省

○4 給食編

 *当番
 *配膳
 *片付け
 *返却

*小松島スタンダード・・・・・・ 特に発達障害のある児童のために考えた,教師のための指導スタンダード。○1教室環境編,○2学習編,○3清掃編,○4給食編で構成され,それぞれ4~7項目からなる。
 すべての学級で統一した方法で指導することにより,児童は学びやすく,暮らしやすくなるとともに,補欠授業の際も進級やクラス替えの際にも,安定した学校生活が送れるようになる。

 

4 研究終了後も継続できた要因

(1)本校は開校以来,児童福祉施設の児童を通常の学級で受け入れ,配慮を要する児童が通常の学級に在籍してきた。特に,情緒障害児短期治療施設の児童については専任の教員が加配されて専用の教室を持っていわゆる「取り出し指導」を行ってきており,研究当初から「特別支援教室」に対して具体的なイメージを持っていたこと。

(2)児童福祉施設の児童に対する実践をとおして,施設や児童相談所等と連携しながら「事例(ケース)を見ていく」ことを計画的,継続的に行う取組が積み重ねられてきたこと。

(3)研究開発学校の指定研究をとおして,教師一人一人が通常の学級での授業づくりや集団づくりの重要性に気付き,配慮や支援の必要な児童にとって学びやすい授業,暮らしやすい学級が,全ての児童にとっても学びやすい授業,暮らしやすい学級であることを実践的に再確認できたこと。

(4)特別支援学級や施設から通う児童を含め,全ての児童が通常の学級に所属していることを,他の児童や保護者,地域が理解していること。特に,保護者や地域の方々が,対象児童が所属している学級の支援ボランティアとして積極的にかかわってくださっている。

(5)対象となる児童が年々増加する中にあって,指定研究開始から今年度までの6年間,例えば国の就学基準の「特別支援学校適切」程度の障害があるような,極めて密度の濃い支援を必要とする児童が在籍せず,研究の延長線上で支援体制の充実に取り組むことができたこと。また,通常の学級数が減って,その教室を「特別支援教室」に充てることができたこと。

(6)この3年間,幸いにも特別支援学級数や加配教員の数が変動しなかったことから,取り出し指導や通常の学級への支援を安定して行えたこと。

 ただし,本校の本務教員の定数は,国や県の基準に従って他の学校と同じ枠組みで決められることから,特別支援学級が4学級から2学級減となる次年度以降は,取り出し指導や通常の学級への支援がこれまでのように行えない可能性が高く,今後の指導体制について頭を痛めているところである。

(7)指定研究終了後,3回の人事異動を経てほとんどの教員が入れ替わった。しかし,残った数名の教員が研究で手に入れた財産を次に伝えようと力を尽くしていること。また,新たに転入してきた教員も,最初は戸惑いながらも本校の実態を理解するにつれ,財産を受け継ぎ更に良いものにしようと日々努力していること。

 そのために,特別支援教育や学級づくり,SSTなどに関する校内研修を,毎年数回程度は継続して実施していること。

<平成23年度>

校内研究主題

伝える力・かかわる力の育成
 ~ユニバーサルデザイン:どの児童にも分かる教材・授業の開発を通して~

協働型学校評価重点事項

子供一人一人の言葉(母国語)を育む
 ~伝える力・かかわる力の育成をとおして~

お問合せ先

初等中等教育局特別支援教育課

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(初等中等教育局特別支援教育課)