資料4-1:上越市教育委員会 提出資料

「上越市における特別支援教育の推進について」
H23年度中央教育審議会初等中等教育分科会
「特別支援教育の在り方に関する特別委員会」(第12回)

文部科学省 平成23年9月15日

1 はじめに

 上越市は人口約21万人。児童数1万970人、生徒数5455人、合計1万6425人の小中学生がいる。小学校は54校、中学校は22校ある。小学校は54校中52校に117の特別支援学級が設置されている。中学校22校にはすべての学校に44の特別支援学級が設置されている。特別支援学級に在籍する児童生徒は744名で、全体の約4.5%にあたる。

 また、当市は毎年、通常の学級に在籍する児童生徒に対し「特別な支援を必要とする児童生徒の実態把握調査」を実施している。23年度1学期の結果は、通常の学級に在籍し発達障害を有する可能性ある児童生徒は697名、約4.2%であった。

 特別支援学級に在籍する児童生徒に、通常の学級に在籍する特別な支援を要する児童生徒を加えると1441名となり、全体の約8.5%の児童生徒がなんらかの特別な支援を必要としていることになる。

 上越市は2005年4月1日に合併し面積が広くなった(上越市973平方キロメートルで、東京都23区の621平方キロメートルより広い面積を有する)。また学校間の距離も離れているという地域の特徴があり、人的な体制も十分とはいえないため、域内に住んでいる子ども一人一人の特別な教育的ニーズに応じることは難しい。そこで、域内をブロック化したり、域内の教育的資源を組合せたりすることにより、子ども一人一人の教育的なニーズに応えるシステムを構築することが大切である。

2 域内の教育的資源を組織的に活用した特別支援教育の推進

(1)特別支援教室構想(key word:特別支援教室、弾力的運用、教育補助員)

 上越市は平成19年度から平成20年度まで文部科学省の指定を受け、特別支援教室構想を検証した。研究期間においては、○1A小学校では、通常の学級に在籍し、特別な支援を要する児童生徒を対象に、個別指導、小集団指導を実施する特別支援教室を設置し、効果を検証した。また、上記○2B小学校では、特別支援学級の担任が、特別支援学級が設置されていない域内の他校に出向き、児童生徒を指導する形態をとっていた。まさしく、域内の教育的資源の活用を実施していた。

 その後、ほとんどの学校で特別支援学級が設置されたことや定数等の関係で、特別支援学級担任が他校に出向く○2の域内の特別支援学級の弾力的運用は、実施されていない。

 現在、当市として、特別支援教室構想の継続とし、校内において、特別支援学級担任及び教育補助員(市雇用の嘱託職員)による通常の学級に在籍する特別な支援を要する児童生徒への小集団による取り出し指導を実施している。

 具体的には、特別支援学級では、担任が通常の学級に在籍するLD的な側面を有する児童生徒に対し、算数など特定の教科を受け入れ、学習指導を行っている。

 また、上越市では、通常の学級に在籍し特別な支援を要する児童生徒の対応に、教員免許を有する教育補助員を45名配置している。T・T体制による学習指導とともに、学級担任の具体的な指示を受け、LD的な側面を有する子どもたちの取り出し指導の効果を検証している。

 このように、文部科学省の研究指定を受けたことをきっかけに、児童生徒の実態や学校の実情に応じて、特別支援教室を実施しているところである。

(2)発達障害通級指導教室(key word:本務校・兼務校、巡回相談、就学支援委員)

 上越市では市内を3エリアに分けている。発達障害通級指導教室(以下通級指導教室)の担当教員は、各エリア内の小学校を本務校(週4日半勤務)とし、さらに兼務校(半日勤務)を中学校に配置し、広い域内の教育的ニーズに対応している。また、小学校と中学校に通級指導教室を設置することにより、よりスムーズな小学校から中学校への移行を目指している。

 また、通級指導教室はセンター校制をとっている。上越市全域からセンター校に指定した小学校に週2日、通級指導教室に通う子どもたち及び各エリアの通級担当者が集まり、小集団指導の授業を行っている。担当が集まった際、教員の研修として困難ケースについて協議することも実施している。

 担当者が1か所に集まり、チームで対応することにより、新たに加わった通級担当者の専門性が高まり、各エリア担当の授業力、心理検査技能、教育相談等の能力の均一性を保つことができる。センター校制は結果的に各エリア内の通級担当者の専門性を担保している。

 さらに、通級指導教室は巡回相談機能を有しており、直接的に児童生徒の通級指導を実施しないが、学級で「困り感」を有する児童生徒の参観、心理検査、教育相談を実施し、各学校の校内委員会に参加し、学校の職員と共に児童生徒の対応を検討している。

 加えて、発達障害通級指導教室の担当者は、就学支援委員も兼務している。

 このように発達障害通級指導教室は地域の教育的資源として、特別支援教育の推進の一翼を担っている。

(3)巡回相談事業(key word:巡回相談員、中学校ブロック、バックアップ機能)

 巡回相談事業を市独自で実施しており、22年度は年間361件の巡回相談を実施した。

 巡回相談は、中学校区を中心とした14ブロックに細分化して実施している。23年度は、19人の巡回相談員を配置した(小学校担当14人、中学校担当3人、特別支援学級担当2名)。

 巡回相談では、まず各ブロックの巡回相談員が各校の教育的ニーズに一次的に対応している。その後、対応困難なケースは、発達障害通級担当に連絡をとり、より専門的な対応を求めるシステムになっている。さらに重篤で、緊急性を要する案件は、特別支援教育担当の指導主事が2名で対応するというバックアップ機能を付加している。

 巡回相談員の業務は、学校訪問し参観を行い、その後、校内委員会に参加し、対象児童生徒の対応について、在籍校の職員と共に校内委員会で対応を協議することを行っている。相談の申し込みは、電話、メール等で各ブロックの相談員に直接申し込みをし、派遣申請を送付するようにし、できるだけ簡便な手続きにしている。

 このように巡回相談は、中学校区を中心として、通常の学級に在籍する児童生徒の困り感に関し、簡便な手続きで相談できる機能を有する地域の教育的資源として位置づけられている。

(4)就学支援委員会(key word ブロック別判断会議、心理検査)

 22年度、当市の就学相談件数は461案件であった。22年度までは、一部の学校の教員が就学相談員を担っていた。相談員1人あたりの相談件数が多く、負担が大きかった。また、自校に入学する子どもたちに関し、他校の就学相談員が保護者との相談を行い、実態調査を行っていた。その結果、各校には、入学してくる子どもたちの情報が間接的に伝達されていた。

 23年度、就学支援委員会の組織改編を実施した。23年度からは就学相談員を全ての学校から1名~3名を選出し、自校の就学相談員が自校に入学してくる保護者との面談、対象児の心理検査、参観を行うシステムに切り替えた。そのため、対象児の在籍予定先の学校が直接、特別な支援を必要とする子どもたちの情報を得ることができるようになった。但し、課題も多い。今まで就学相談員を配置していない学校が約1/3あり、相談員の専門性に課題がある。そのため、中学校区を中心とした組織的な対応を実施し、各校の就学相談員の専門性を高めることは急務である。

 そこで導入したのは、就学支援委員会におけるブロック別判断会議である。これは、就学支援委員会全体会の前に行われる就学に関わる子どもたちの1次的な検討会である。巡回相談事業と同様に細分化した中学校区を中心とした14ブロックを8グループに分け、就学相談にあがってきた子どもたち全員について具体的な対応方法、適切な就学先を検討している。相談員が、この会議で就学相談の結果を報告し、議論に参加することが、結果的に相談員の研修そのものになり、各校の就学相談員の専門性を高めることにつながる。

 また、就学相談員にとり必須である心理検査の実施に関し、各ブロック内の相談員間での相互援助を実施している。相談員の中には、心理検査の実施に関し、まだ経験の浅い相談員がいる。その場合、各ブロック内の心理検査の実施に関し習熟している相談員とペアになり、心理検査を実施している。さらに、中学校区を中心としたブロックで、心理検査実技講習会を少人数で実施している。このように中学校区を中心として、地域の教育的資源を組織的に活用し、各相談員の専門性を高めようと考えている。

(5)その他 関係機関との連携

○1 県立特別支援学校、大学、医療機関との連携

 市内には、県立特別支援学校が3校ある。各校から巡回相談員、就学支援相談員を選出している。また適宜、市教委から要請があった場合、保護者の教育相談や特別支援学級の支援相談を実施している。当市は特別支援学校のセンター的機能を利用している。

 また市内には上越教育大学、県立看護大学がある。研修会の講師派遣や巡回相談、就学支援委員会におけるスーパーバイサーを依頼している。

 同様に小児科、児童精神科の医師から巡回相談、就学支援委員会に参加してもらいスーパーバイサーに就任してもらい、専門的、かつ的確な助言を受けることができるシステムを構築している。

○2 発達支援センター

 発達支援センターは、就学前の子どもを担当している。「子ども課」の管轄である。対応内容は、保護者の教育相談、各種の心理検査の実施、幼児の個別指導、小集団指導、園への巡回相談である。また医師と連携し、医師から発達支援センターに来庁してもらい、保護者等の医療相談を実施している。

○3 上越市立教育センター、JAST(上越安心サポートチーム)

 教育委員会内に教育センターが設置されている。教育センターには8名の学校訪問カウンセラーがいる。ニーズのある学校を定期的に訪問し、子どもたちの教育相談に応じている。またセンター内にはJASTがある。弁護士、元児童相談所のケースワーカー、生徒指導担当指導主事、特別支援教育指導主事等からチームが構成されている。特別支援教育担当の指導主事は、発達障害に関わる案件の増加に伴い加入した。主に虐待案件、非行案件、クレマー案件など学校が単独では対応困難な案件を対応している。

3 おわりに ―総括及び今後の課題―

(1)総括

 上越市は面積が広い。また特別支援学級及び通常の学級に在籍する子どもたちの教育的ニーズの幅も広い。このような現状に対し、より丁寧に子どものニーズに対応するために、組織的に地域の教育的資源を活用することが有効な手立てだと考える。そのため、上記で示したように上越市は中学校区を中心とした2の(1)~(4)の地域の教育的資源との組織的な連携が効果的である。また恵まれた教育関係機関として、上越市全域をカバーする大学、病院、教育センター等がある。地域の貴重な教育的資源として、連携、活用を図っている。

(2)横のひろがり

 22年度、上越市では就学相談数は461案件であった。現在、課題になっているのは、知的に課題はないが、学習習得が困難な子どもたちへの対応である。この中には、認知構造の凸凹により学習習得が困難な一群の子どもがいる。域内において発達障害通級指導教室での対応、校内の特別支援学級での弾力的な運用等で対応しているが、子どもたち一人一人のニーズに追いついていない。今後、市独自の構想として、個別の指導計画に基づき、教員の具体的な指示の下、教育補助員による、取り出しの学習指導も検討していく必要がある。なお特別支援教育の横のひろがりを保障するため、各教員の専門性の向上が必要である。市独自の研修体制の検討が必須である。

(3)縦のつながり

 現在、当市では特別な支援を要する子どものへの支援に関し、就学前は「こども課」、就学後から中学校までを「学校教育課」、高等学校からは「福祉課」が担当している。小学校から中学校の間は、域内の教育的資源を活用し、比較的充実した教育的資源がある。しかし、上記したように子どもの年齢によって対応する課が異なっている。今後、生まれてから成人するまで対応できる各部署の密接な連携を図ること、さらには新しい機関の設置も望まれる。

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初等中等教育局特別支援教育課

(初等中等教育局特別支援教育課)