資料7-2:湖南市 提出資料

滋賀県湖南市「発達支援システムに基づく特別支援教育の推進」

平成23年度中央教育審議会初等中等教育分科会
特別支援教育の在り方に関する特別委員会(第11回)
於:文部科学省 平成23年8月19日

滋賀県湖南市健康福祉部
社会福祉課発達支援室

1.はじめに

 湖南市は人口55,000人東海道五十三次の宿場町もある一方で、大阪の中心部までおよそ1時間半で通えるベッドタウンとして発展してきた。毎年の出生数はおよそ550人。平成14年4月から湖南市発達支援システムを機能させる中で、早期発見・早期発達支援に取り組んできており、2歳児の時点で出生数のおよそ10%の子どもの新規相談を受けている。

 湖南市では、公立・私立を問わず、市内すべての校園が発達支援システムに組み込まれており、教育・福祉・保健・就労・医療といった、各関係機関の横の連携による支援と、個別の指導計画による縦の連携とを機能的に関連させながら、特別支援教育を進めている。
 報告の中で、就学前の相談から就学までを、どのようにつないできたのかについても話をする。

 こうした機会を与えていただいたことで、今後の取り組みを考える契機にできればと考えている。

2.湖南市発達支援システム

 発達支援システムの横の連携について、「教育」を例にとって説明する。湖南市の場合、保育園を管轄するのは、子育て支援課で、幼稚園・小学校・中学校を管轄するのは学校教育課。また、義務教育を終了した人や、特別支援学校に在籍する児童生徒については、市の教育委員会が、直接かかわりを持つ必要はないが、成長していく一人の児童生徒の支援を考えると、支援の継続という点で関係機関の連携は欠かすことができない。
 それを、地域として支えていこうとするのが、発達支援室である。

 次に、縦の連携の要であり、校園における支援のよりどころとなる、個別の指導計画について。湖南市において、個別の指導計画は、早期発見・早期対応の重要性を確かめ合い、保育園・幼稚園・小学校・中学校が、校園間で引き継ぎ、幼児児童生徒への適切な支援を、継続して行うために、なくてはならないものになっている。また、一昨年度からは、中学校から次の進路先への引き継ぎが充実したものになるよう、個別支援移行計画の作成に取り組んでいる。(個別支援移行計画については、ハンドブック48・49ページ)

 発達支援室は、こうした縦のつながりにおいても、個々の情報や支援のあり方を統括するようになっている。

3.湖南市発達支援システムの活用について

 次は、どのような場面で、どのように発達支援システムを活用しているかについて。
 発達支援システムの活用によって考えられることは、乳幼児健診とその後のフォローを確実に実施するということである。また、療育教室やことばの教室幼児部において早期発達支援を行うこと。
 保育園・幼稚園・小中学校での個別で子どもの見立てをするとともに、集団の中での支援の方向を明らかにし、取り組んでいる。
 また、校園間での引き継ぎに留まらず、学年間での引き継ぎにも丁寧に取り組んでいる。これらの取り組みを高等学校等、その後の進路先にもつないでいくことに努力しいている。
 高等学校等の進路先との連携や、個別の相談は発達支援室が担っている。これらの支援の継続が、その後の就労支援にまでつながるようになってきた。

 このように発達支援システムを有効に活用していくためには、乳幼児健診や保護者、保育園、幼稚園、小学校、中学校での気づきと相談機関へどうつなぐかがポイントになる。

 保育園・幼稚園や小・中学校が活用できる相談の窓口は、すべて特別支援教育コーディネーターが担っている。園では副園長先生にコーディネーターになっていただき、小中学校には複数のコーディネーターを置いている。(保育園・幼稚園が活用できる発達相談・巡回相談についてはハンドブック10ページを、小中学校が活用できる巡回相談についてはハンドブック13ページを参照)どの相談についても言えることだが、校園ごとに回数や時期をあらかじめ振り分けていては、ニーズにあった相談、実効性のある相談にはなりにくい。本市では、要請に応じてタイムリーに実施する方法を採るようにし、支援や指導のあり方の相談、心理検査の実施、事例検討、職員や保護者の研修会など、校園の実情に合わせて実施している。
 市内にある滋賀県立三雲養護学校は、検査や相談以外にも、見学や体験、専門的な情報の提供など、さまざまな教育相談にご協力くださっており、システムの厚みを増すなくてはならない存在として、特別支援学校のセンター的機能を担っていただいている。

 相談が終わると、調整会議での決定を経て、各機関につなぐが、その対応は一様に決まっているわけではない。各機関でそれぞれの特質を生かした対応を心がけ、運用の具体はケースによって異なる。
 これらの経路はすべて保護者の了解が必要である。保護者の了解のもと、必要な情報を関係機関でやり取りしている。

4.発達支援システムを活用した小中学校における特別支援教育の進め方について

(1)巡回相談の活用。授業参観で得た情報やアドバイスをもとに授業を組み立てたり、個別のケースについても見立てを改めるなど、集団の中での支援を意識して取り組んでいる。

(2)教育委員会が編集・発行する「特別支援教育ハンドブック」をもとに、コーディネーターの役割を確認したり学習環境についてのチェックリストを作成するなど、特別支援教育の推進について共通理解を図っている。

(3)不登校や学校への行き渋りについても巡回相談を活用し、早期対応を進めている。こうした子どもたちの困り感を明確にすることは、特別支援教育の趣旨にかなうことであり、本人のペースにあわせた教室復帰に取り組んでいる。この取り組みが特別支援教育を普遍的なものにし、不登校児童生徒の減少につながる成果をあげている。

(4)「読み書きチェック湖南市版」の活用。湖南市ことばの教室で作成し、これを小学1・2年生全員に実施、ことばの教室で結果考察をした上で、読み書きの困難な児童に早期に対応するきっかけにしている。

(5)湖南市内にある保育園・幼稚園・小中学校が、湖南市発達支援ITネットワーク(KIDS)というイントラネットでつながっていること。これにより、個別ケースの情報集積と情報交換を可能にしている。

(6)学齢期終了後を見据えた就学指導。

5.湖南市発達支援システムを推進するための関係課の連携

 特別支援教育を推進していくためには、あれもこれもをやればいいというわけではない。これは何のための会議なのかといった、開催する会議の目標を明確にする必要がある。

 例えば、特別支援教育コーディネーター連絡会議では、推進状況の確認や研修を進め、校園間の連絡体制の充実を図ることをねらいとしている。開催にあたっては、保育園・幼稚園の連絡会議、保育園・幼稚園・小中学校の連絡会議、小学校・中学校の連絡会議といったように、ねらいによって会議に集まる校園種を設定している。

 専門家チーム会議は、各校園の特別支援教育コーディネーター等から示された事例について、障害の判断、医療対応、教育・支援内容等についての検討を行う。

 不登校ネット会議は、学校への行き渋りや不登校についての取り組みを検討する会議である。この会議と巡回相談員連絡会議がリンクしている。子どもが行き渋りを見せた時点から巡回相談につないでいくという方針を持ち、巡回相談員でもある通級指導教室担当者と、適応指導教室の担当者、発達支援室、学校教育課が情報を共有することによって、時間を置かない対応や、個々のケースに見合う方向での支援を考えやすくしている。

6.就学指導委員会の取り組み

 また、支援の方向を考えるには就学指導委員会での検討も重要である。どのような支援を経て今があるのか、またこれから先、どのような支援が必要であるのかといった視点を持って、園では4歳児の後半から就学を見据えた取り組みを進めている。4歳児の後半と位置づけるのは、就学についての意見を5歳児担任のみで判断しているという保護者の印象を払拭するには、4歳児から園内委員会で検討し、5歳児段階の始まりから就学について考える時間を十分とる必要がある。

 特に、就学の際に、対人関係の困難さや、見通しの持ちにくさから派生する不安の高さに寄り添うには、少人数での指導から始め、交流学級での学習の割合を高め、行く行くは在籍変更をすることが有効である。こうした早期かつ手厚い対応、例えば、○1 発達相談体制の整備、○2 保育園・幼稚園での保護者との丁寧な相談、○3 ことばの教室や療育教室と保育園・幼稚園との情報交換、○4 ことばの教室や療育教室での保護者との丁寧な相談、○5 保育園・幼稚園と小学校の情報交換、○6 小学校での参観や相談、○7 発達支援室での就学何でも相談、○8 三雲養護学校での教育相談、といったことによって、保護者の納得を得られる就学指導が実現している。

 以前は夏休みに就学相談会を開催していたが、就学について考える保護者の負担は大きなものがあり、疑問や不安を感じられたときにタイムリーに相談できる体制こそが保護者の納得につながりやすい。

7.甲賀地域障害児・者サービス調整会議(自立支援協議会)

 湖南市の発達支援システムは、隣の市である甲賀市と、厚生労働省が言うところの自立支援協議会に位置づけられる、甲賀地域障害児・者サービス調整会議においても連動している。特に、教育の部分では、特別支援教育部会を通じて、圏域全体で情報交換に努め、課題を明らかにすることに取り組んでいる。
 その特別支援教育部会が作成したのが、発達支援ファイル「ここあいパスポート」である。
 この「ここあいパスポート」を、本当に有効な資料にするために、校園からは、保護者の求めに応じて個別指導計画を提供することになっている。保護者は、個別の指導計画や、発達検査の所見といった、支援の方向を検討するために必要な情報を綴じていかれる。
 「ここあいパスポート」は、療育手帳等、手帳をお持ちでないけれども支援を必要とする方に有効である。手帳を持たない方には、どうしても支援をつないでいくことがおろそかになりがちだからである。この「ここあいパスポート」がその解決の一助となるよう各校園での周知徹底を図っている。

8.発達支援システムの効果と課題

 湖南市では発達支援システムが機能することによって、早期対応・早期支援が充実してきている。そのことによって、二次障害の防止につながっているものと確信している。
 また、校園では、保健や福祉サービス、相談支援事業所・専門機関とのつながりを柔軟に持つことができるようになってきた。これらは、就労や社会自立をゴールに考えた取り組みだが、このような視点を持つようになってきたこと自体が成果であると考えている。
 これから、このシステムを改善しながらいかに継続させていくか、また、地域課題を圏域で克服しながら、個々のケースによりよい手立てをどう提示していくか、まだ道は半ばと考えている。しかし、理解者と実践者を増やし、さらに進めてまいりたい。

お問合せ先

初等中等教育局特別支援教育課

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(初等中等教育局特別支援教育課)