資料7-1:清原慶子委員 提出資料

平成23年8月19日 特別支援教育特別支援委員会 発表資料

教育と福祉の連携による障がいの早期発見、早期療育と学校教育へのスムーズな引き継ぎ~三鷹市の事例から~

三鷹市長 清原 慶子

1 三鷹市における教育支援の位置づけ

(図1)
 三鷹市は平成13年に現行の基本構想を策定し、「平和の希求・人権の尊重・自治の実現」という理念の実現をめざして、「市民参加と協働のまちづくり」の市政を進めている。

 また、三鷹市は、健康福祉施策については「第3次三鷹市基本計画」に基づく「三鷹市健康・福祉総合計画2010」により、進めている。さらに、地域を基盤とした子育て支援、母子保健等については「三鷹市次世代育成支援行動計画2010」や「三鷹市子育て支援ビジョン」に基づいて進めている。平成23年度は、「第4次三鷹市基本計画」策定に取り組んでおり、これらの個別計画についても改定作業を行っているところである。三鷹市では、これらの計画の中で、すべての子育て家庭への支援、母と子の健康づくり、家庭・学校・地域の教育力向上、安心して子育てができる生活環境、支援が必要な子どもと家庭への取組みを推進してきた。

 一方、教育施策としては、「三鷹市自治基本条例」第33条で「学校と地域との連携協力」が定められており、その理念のもとに「三鷹市教育ビジョン」を策定している。すなわち、三鷹市では、保護者、地域住民等の学校運営への参加を進めることにより、地域の力を活かし、創意工夫と特色ある学校づくりを目指した「コミュニティ・スクールを基盤とした小・中一貫教育」に取り組んでいる。

 さらに、平成19年度の国の特別支援教育施策の指針に合わせ、三鷹市では特別支援教育の推進計画として、「三鷹市教育支援プラン」を策定している。この「教育支援プラン」は、これまでの健康福祉や子育て支援の施策と、「三鷹市教育ビジョン」の考え方に基づくものである。したがって、「障害」の「害」の文字を「障がい」と平仮名表記にしており、一人ひとりのニーズに応じた支援は決して「特別」なものではないという考え方から、三鷹市では「特別支援教育」を「教育支援」と呼んでいる。

2 三鷹市における自立を目指した教育支援の実際

(1)ライフステージを見通した教育支援

(図2)
 三鷹市では、地域で生まれた子どもたちが、それぞれ一人ひとりのニーズに応じた適切な支援や教育を受けて育ち、やがては地域に根付いて生活や就労を継続していくという、国連障害者権利条約の理念とも共通するインクルーシブな地域社会を目指している。

 まずは、総合保健センターの乳幼児健康診査で、発達の遅れなどの課題が発見された場合には、総合保健センターでフォローするほか、障がい児者の福祉センターである北野ハピネスセンターでの相談へとつないでいる。就学前は総合保健センターと北野ハピネスセンターで相談や療育を行いながら、幼稚園や保育園等での生活を支援する。障がいのある子の就学については、保護者からの申し込みによる就学相談と、保護者の同意を得た上で就学支援委員会での判断を行っている。

 また、就学相談を希望しない幼児でも、就学にあたって心配な場合には、平成19年度から「就学支援シート」を保護者と園とで作成し、教育委員会を通して学校へ提出し、園で行っていた支援を学校でも継続できるようにしている。

 義務教育段階は、三鷹市立の小・中学校の通常の学級か固定制の教育支援学級、もしくは都立の特別支援学校で学校生活を送ることになる。三鷹市を離れて都立の特別支援学校に通う児童・生徒については、東京都教育委員会が行っている「副籍事業」のもとに、それぞれの児童・生徒が居住する地域の指定校である三鷹市立小・中学校の行事や授業に参加したり、学校便りを受け取ったりという交流を積極的に行っている。

 義務教育修了後は、学校教育の継続や就労等、それぞれの状況に合わせた進路を選択しながら、地域での生活を送れるよう支援をしていく。

(2)健康福祉部における早期発見と早期療育

(図3)
 健康福祉部健康推進課(総合保健センター)では、妊娠・出産・育児に関する親の不安の軽減を図り、安心して育児ができ、子どものすこやかな成長を育むために、さまざまな母子保健サービスを実施している。

 乳幼児健康診査においては健診を実施するだけでなく、保護者の相談の場としてもとらえ、保護者の子育てに関する不安の軽減や、療育支援が必要な子どもの早期発見や個別相談、親子で参加する経過観察心理グループなどの早期対応を実施している。また、子育てについて不安な保護者には、保健師による相談や親グループなどで継続的に支援している。

 乳幼児健診を受けない、未受診者については、何らかの支援が必要であるのに保護者からSOSを発信しにくい事情があることも多いため、産後うつを発見するためのアンケートを実施するなどによりその把握に努め、地域で孤立することがないよう働きかけている。また、医療機関、都の保健所や児童相談所、三鷹市の子ども家庭支援センターとの連携による支援をしている。

(図4)
 北野ハピネスセンターでは、幼児部門で早期発見・早期療育を行っている。発達に課題のある子及び障がいのある子の保護者からの相談対応や対象児への専門療育等を提供している。

 このような療育や支援が必要な対象児は、総合保健センターや、地域の小児科から紹介を受ける他、幼稚園・保育園の勧めで保護者が相談に訪れることもある。幼児部門にはくるみ幼児園という2歳から5歳を対象とした通園部門があり、地域の幼稚園・保育園の統合保育を目指し、専門療育を行っている。外来部門では、個別または集団での専門療育を行っており、さらに、専門療法士とスタッフによる巡回発達相談では、直接市内幼稚園・保育園に出向き、園にいる療育が必要な子どもへの適切な対応法等の助言指導を幼稚園教諭や保育士に対して行っている。

 学校教育への引き継ぎという点においては、北野ハピネスセンターでは、相談・療育を学校教育段階に引き継ぎ、スムーズな就学への移行が可能となるように、就学支援シートに合わせて、それまでの療育経過と内容を記述した「療育のまとめ」を保護者に提供している。また、北野ハピネスセンターの幼児部門の代表や小児神経科医師が、教育委員会で行っている就学支援委員会に参加している。

(3)三鷹市の教育施策

(図5、6)
 三鷹市は、三鷹市教育ビジョンのもとに、「コミュニティ・スクールを基盤とする小・中一貫教育」を行っている。学校自由選択制は行わず、7つの中学校を中心とした、主に小学校2校、中学校1校から成る学園の中で、質の高い教育をどの学校においても保証し、9年間の義務教育に責任をもつものである。

 三鷹市ではこれらのすべての学園の中に、固定制か通級制の教育支援学級のいずれかを、設置している。

(4)三鷹市教育支援プラン

(図7)
 平成19年度に三鷹市の特別支援教育推進計画として策定した「教育支援プラン」は、「障がいのある子もない子も学校・家庭・地域の力を得て次代を担う人として育っていくことを支援するためのプラン」であり、4つの推進の柱から成っている。

 一番目は「一人ひとりの教育的ニーズに応える教育支援」で、学校においては個別指導計画・個別の教育支援計画の作成活用や学校長のリーダーシップ、また教員に対する研修の継続などを挙げている。 特に個別指導計画は各校の教育支援コーディネーターの研修を強化することにより、全学校で取組み、成果を挙げているところである。小学校1年生の個別指導計画は、特に就学支援シートが提出された児童については、これを利用して作成を行っている。

 就学相談においては、北野ハピネスセンターを利用する4歳児、いわゆる年中段階の保護者から就学相談のシステムの説明を行い、早期からの保護者の理解を促している。さらに実際の相談においては保護者の同意のもとに、専門の就学相談員が幼稚園、保育園、ハピネスセンターの通園部門等に出向いて、行動観察を丁寧に行い、専門医や都立特別支援学校の担当者も加わる就学支援委員会において判断を行っている。

 二番目は「小・中一貫教育校で推進する教育支援」である。三鷹市では、固定制ないしは通級制の教育支援学級教員が、学園内の教育支援のセンター的な役割を果たしており、支援学級の児童・生徒だけでなく、通常の学級の児童・生徒に対しても支援を行っている。

 また、義務教育9年間だけでなく、学園内の小学校は地域の幼稚園・保育園と支援の引き継ぎを行い、また、義務教育修了後の生徒でニーズのある者については、高等学校や特別支援学校高等部への引き継ぎも行っている。

(図8)
 さらに、教育委員会から学校に派遣するスクールカウンセラー、教育支援員の役割を果たす学習指導員、巡回発達相談員等は、学園内の小・中学校にはそれぞれ同一の者を派遣することにより、学園内の支援の引き継ぎや連携・連絡が行いやすくなっている。

 巡回発達相談員は、通常の学級の中で支援が必要と思われる発達障がい等の児童・生徒について、学校の教員に助言を行う専門家であり、三鷹市では当初は文部省の委託事業として、平成8年度から継続しているものである。現在では学童保育所の指定管理者である社会福祉協議会からも教育委員会が依頼を受け、学校に派遣しているのと同一の専門家を紹介している。地域の小学校と学童保育所を同じ専門家が巡回することにより、場面の違いによる児童の変化等を分析しながら助言指導を行い、効果を挙げている。

(図9)
 三番目は「総合教育相談室が担う教育支援」である。
 三鷹市の総合教育相談室は、それまで退職校長や嘱託の臨床心理士等で行っていた教育相談だけではなく、就学相談や医療に関する相談のほか、学校へのスクールカウンセラー、スクールソーシャルワーカー等の派遣事業、教育支援に関する教員や他職種への研修事業等を行うように組織化したものである。

 就学相談を担当する相談員については、教育支援学級担任を経験し、専門的な知識や経験のある人材を嘱託員として配置している。このことにより、保護者からの信頼が増し、たとえ就学時に就学支援委員会の判断とは異なる就学先を選んでも、保護者が継続的に相談するケースが増えている。

 また、従来の教育相談は、相談者に相談のニーズがあるケースについて、来所相談を行っていた。しかし、現在は、発達障がいを含む児童・生徒の障がいや発達の課題への相談・支援だけでなく、あまり相談の希望を持たない家庭への支援も含めて検討しなければならないケースが増えている。そのような場合には、学校と連携しながら家庭への支援を行うスクールソーシャルワーカーを中心に、市で小学校に配置しているスクールカウンセラーも活用しながら支援を行っている。

(図10)
 子ども政策部では、児童相談所と連携して、虐待等の要保護事業対策事業である子ども家庭支援ネットワーク事業を全国に先駆けて行ってきている。その構成員と児童・生徒の発達支援にかかわる者とが共通しているため、三鷹市では子ども家庭支援ネットワークを利用して、個別の支援の引き継ぎや連携等を行うこともある。総合教育相談室では学校がこれらのネットワークを熟知し、活用できるよう、教職員の研修を行うほか、個別のケースについての助言等を行っている。

 四番目の柱である「教育支援プラン達成の把握と課題の検討」については、学校管理職、教員、学識経験者、保護者、健康福祉部、子ども政策部等も含めた委員による「教育支援推進委員会」で検証作業を行っている。

3 三鷹市の事例からの問題提起

(1)担当者同士の信頼関係の構築の重要性

 三鷹市では、もともと健康福祉部の乳幼児健診から就学前の療育・相談の連携という実践があった。それに加えて、子ども政策部の行う子ども家庭支援ネットワークを中心とした事業や、幼稚園と保育園と小学校の連携を図る事業の実践など、教育委員会教育部と市長部局の健康福祉部及び子ども政策部の連携による、子どもの発達支援や子育て支援の施策が行われてきている。

 このことは、子どもの立場に立った継続的な支援というだけではなく、支援の担い手が多層的であるということである。そこで、個別的な支援を子ども本位に継続するうえでは、複数の部署でそれぞれのキーパーソンが役割分担をすることによる多層的な支援を生かすことが重要となってくるのであり、三鷹市では教育部に設置している総合教育相談室の機能が重要になっている。連携のキーパーソンとなる職員として、市の教育支援コーディネーター、統括指導主事、複数の事務局員を配置したことにより、教育と福祉が互いに顔の見える連携を実現しているが、こうした支援の担当者同士の信頼関係の構築がまずは重要である。

(2)子ども本位の連携のための情報共有の必要性と個人情報保護の兼ね合い

 三鷹市では、個別指導計画や就学支援シートの管理等の手続きについては、三鷹市個人情報保護委員会に報告し了承を得ており、日常的に個人情報の管理を徹底している。
 そして、子ども本位の適切な支援をしていくために複数の部門が有効に連携していくことが必要であり、個人情報は守りつつ、支援や指導に必要な情報については、共有の範囲を明確に定めながらその都度対応していくという、慎重な体制をとっている。
 たとえば、支援会議においては、それぞれの部署や機関がそれぞれの専門性を活かしつつ、個々のケースの実態把握、支援の目的や内容、期間の設定を、具体的かつ明確に行っていく過程が重要である。

 ただ、関係者が集まれば連携が生まれるわけではない。子ども本位の連携のための適切な情報共有が必要であり、個人情報保護との兼ね合いが現場の課題でもある。

お問合せ先

初等中等教育局特別支援教育課

Get ADOBE READER

PDF形式のファイルを御覧いただく場合には、Adobe Acrobat Readerが必要な場合があります。
Adobe Acrobat Readerは開発元のWebページにて、無償でダウンロード可能です。

(初等中等教育局特別支援教育課)