資料4:大久保委員提出資料

特別支援教育の在り方に関する特別委員会における
論点整理(委員長試案)についての意見

2010年11月19日
委員 大久保 常明

 

1.論点整理にあたっての基本的な視点について

 本特別委員会は、「障害者制度改革の推進のための基本的な方向について」(6月29日、閣議決定)を受けて設置されたもので、教育分野においては「障害のある子どもが障害のない子どもと共に教育を受けるという障害者権利条約のインクルーシブ教育システム構築の理念を踏まえ、体制面、財政面を含めた教育制度の在り方について」専門的な調査審議を行うこととされています。また、それに関連して、障害者権利条約が要請する国際人権法上の国の義務を示した「国連人権高等弁務官事務所(OHCHR)専門家研修シリーズ第17号人権モニターのためのガイダンス(2010年4月リリース)」を第3回の本委員会で、参考資料として配布させていただきました。
 その主な内容は次のとおりですが、「一般的モニタリング質問」と「尊重すべき(respect)義務」の項目は、国が行わなければならない義務とされています。さらに、「充足すべき義務」(fulfill)は、国が漸進的に行うものとされる義務とされています。

【一般的モニタリング質問】

    ○障害のある人はあらゆる段階におけるインクルーシブ教育が利用できるか

【尊重すべき義務】

    ○法律は明示的にインクルーシブ教育への権利を認めているか。
    ○国は障害のある生徒が就学を義務付けられている分離学校制度を維持していないか。

【保護すべき義務】省略

【充足すべき義務】

    ○国はインクルーシブ教育という目標に即して、個別的支援を含む支援を障害のある生徒のために手段を講じているか。
    ○国は障害のある教員を含む手話と点字についての適格性を有する教員を雇用するための手段を講じているか。
    ○国はインクルーシブ教育の確保を支援できる教員やその他の専門家の養成を提供し、義務づけているか。

 

 本委員会の論点整理の内容とのこれらとの整合性について、今後、さらに国において議論が予想されるところから、本委員会においてもこれらに配慮して論点整理を進める必要があると考えます。

 

1.「総論」(P.2の囲みの部分)

(1)1番目の○について

 インクルーシブ教育システムの理念とそれに向かっていくという方向性について基本的に賛成としていることについて評価したいと思います。

 

(2)2番目の○の部分について

○1 「インクルーシブ教育システムにおいて重要なことは、対象となる児童生徒に対し、その時点で教育的ニーズにもっとも的確にこたえる指導を提供できる多様で柔軟な仕組みを整備。」については同感ですが、インクルーシブ教育への方向性を裏付ける、明確な文言が欲しいと思います。例えば、「障害のある子どもが障害のない子どもと共に教育を受けるという理念を基本とし」というような文言が考えられます。

○2 「形式的に場を一緒にするのではなく」という部分は、「インクルーシブ教育」の解釈に誤解を与え、混乱を招くとともに、今後の「合理的配慮」の議論の意義を失わせることにもなりかねないと思われますので、削除することが望ましいと考えます。

 

(3)4番目の○について

 「今後の進め方について、短期的、中期的、長期的に行う制度改正を整理し段階的に実施する必要がある。」としていることを評価したいと思います。

 しかし、その計画の目標が判然としていないようです。例えば、「地域社会で共に学び共に育つこと」を目標にすることが考えられます。

 また、短期的、中期的、長期的というのはいつごろで、それまでに何を行うのかが示されていません。例えば、権利条約批准までを短期、批准後から5年を中期的、批准後から10年を長期的とし、自分の住む地域でインクルーシブな教育を受けることができる教育制度の構築のため、まず、権利条約批准の条件の一つとして短期的に障害に基く分離を制度付けている学校教育法施行令第5条の改廃を行い、合理的配慮義務履行のための法整備、全ての子どもに地域の学校への就学通知の送付や、初等・中等教育における管轄の市町村教育委員会への一元化など、具体的な改革の計画を立てる必要があると考えます。

 一方、権利条約は、国が報告書を作成し、国連の障害者権利委員会に提出することを締約国に義務付けています。批准して2年後にまず最初の国の報告書を提出し、その後は4年ごとの提出となります。第3回目の報告書提出が批准後10年目にあたり、上述の10年という期間はその点で一つの目安になると思います。

 

2.「就学相談・就学先決定の在り方について」(P.6の囲みの部分)

(1)2番目の○について

○1 現行の認定就学制度の見直しについては評価したいと思います。なお、併せて、認定就学制度と結び付いてきた「就学基準」の考え方や取扱い等についても見直す必要があると考えます。

○2 本人・保護者の原則同意

 就学先決定においては、本人・保護者の同意を原則として、行政上の措置の要件にすることが望ましいと考えます。なお、本人・保護者が同意しない場合は、新たな調整の仕組みの検討とともに不服申し立て制度の創設も検討する必要があると考えます。

○3 「(2)就学先決定の仕組み」のP.8の○3について

 「学校、市町村教育委員会は障害のある子を地域で受け入れるという意識を持って就学相談・就学先決定に臨む必要がある。」としている点は、インクルーシブ教育システム構築に向かって大変重要であると考えます。この点を何らかの形で今後の制度や仕組みに反映する必要があると考えます。

 

3.「特別支援教育を推進するための人的・物的な環境整備について」(P.10の囲みの部分)

(1)2番目の○について

○1 合理的配慮の協議調整の場

 合理的配慮等については、障害種別もさることながら、個別性が高いことに留意し、学校関係者、本人・保護者や支援者、第三者を交えた協議調整の場を整備する必要があると考えます。

○2通常学級における障害のある生徒に対する配慮

 P.12の3行目○5で指摘している通り、現在、通常の学級で学ぶ障害のある子ども一人ひとりに応じた指導のあり方を、個別の教育支援計画の活用も含め早急に検討すべきであり、報告書に明記する必要があると考えます。

 

(2)3番目の○について

 学籍については、将来的には、原則として地域の学校で一元化する方向性の中で検討する必要があると考えます。

 

 

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