資料7:中村委員提出資料

全国特別支援学校知的障害教育校PTA連合会 保護者意見

 

全国特別支援学校知的障害教育校PTA連合会会長  石塚 由江

 

1 はじめに

 日頃より、知的障がいのある子どもたちの教育向上と発展にご理解・ご尽力を賜り、深く感謝申し上げます。
 個人差はありますが、知的障がいのある子どもの保護者の多くは、我が子の誕生を喜び、育児をはじめて数年の間に、我が子の発達への違和感を感じるとともに、言いようも無い不安や社会からの孤立感に苛まされて生活している時期があります。保健・医療機関の受診により、我が子に何らかの【障がい】があることがわかると、絶望に近い気持ちを抱く一方で安堵感を覚え、【障がい】を受け容れる努力をし始めます。同時に、我が子に相応しい育児や学齢期の教育の手立てを必要とします。
 平成19年4月からスタートした特別支援教育も4年目を迎え、一年一年充実・発展してきました。
 平成20年3月に文部科学省と厚生労働省の連名で発刊された「障害のある子どものための地域における相談支援体制整備ガイドライン(試案)」により、各自治体では、医療、保健、福祉、教育、労働等の関係部局・機関が一体となり、独自の専門家チームや相談システムを構築し、早期からの相談・支援体制の確立、複数の関係機関の連携により、幼稚園・保育園から小学校へという大切な就学時の引き継ぎができるようになりました。
 地域のセンター校としての機能を担っている特別支援学校では、障がいのある子どもやその保護者に対し、一貫した相談・支援体制が整備され、就学前の保護者間での理解が広がり、一人一人に応じた教育への期待と希望から特別支援学校への就学希望者が年々増加しているように感じます。
 特別支援学校は、多様な障がい特性のある子どもたちにとって、個に応じたより専門的な指導を望むことができ、将来を見据えた発展的な教育の場であり、一般の教育制度から分離されているという認識は、多くの保護者にはありません。
 障がいのある子どもの保護者としては、障害者権利条約の批准に向け学校教育がインクルーシブ教育へ転換していくにあたり、インクルーシブ教育の理念には賛同を覚え、大きな期待を抱きつつも、「現行の特別支援教育の評価・功績、課題を多角的に検証していくことは十分されているのか」、「さまざまな障がいに対する理解啓発を早急に進め、インクルーシブな社会の形成が必要ではないだろうか」、「地域の小・中学校での教育と特別支援学校での教育をどのようにバランスよく受けられるのか」、「特別支援学校での教育を希望しているが、学校はなくなってしまうのか」、「通常学級の子どもたちの教育水準の低下を招くことが発生しないのだろうか」・・・等、不安な気持ちで、制度改革を見守っております。

 障がいの有無に関わらず、子どもたち一人一人が、その人格、才能、創造力並びに精神的及び身体的な能力を最大限度まで発展させることができ、子どもの実情に応じた柔軟な対応ができるインクルーシブ教育の仕組みづくりを切に希望し、以下、全国特別支援学校知的障害教育校PTA連合会として、特別支援教育の在り方に関する論点に沿って、代表的な意見を集約させていただきましたので、ご一読いただければ幸いです。

 

2 就学相談・就学先決定の在り方及び必要な制度改革について

 就学相談・就学先決定の在り方については

○児童・生徒の障がい特性を理解し、様々な質問や疑問等も相談しやすい就学相談スタッフの充実と保護者の意向を尊重した支援の決定ができるようになることが必要。(相談しやすいセンターの充実)

     これらを踏まえて、通常学級、特別支援学級、特別支援学校と、就学先を決定していく必要がある。また、はじめに選択した教育の場で早急に解決できない課題が発生した場合には、本人や保護者、相談スタッフ、学校関係者等の協議により、速やかに変更できるシステム構築も必要である。

○本人、保護者、学校・学校設置者の三者における就学先の決定の在り方が望ましい。

     合意を目指す段階においては、選択肢となる就学先別に、就学後の具体的な合理的配慮なども、学校生活だけでなく生活全体について検討する必要がある。合意が得られない場合は、個々の障害に精通した専門家らによって構成される第三者機関による調整を行い再度、本人、保護者、学校・学校設置者の合意を目指す。合理的配慮を実施するための計画案を策定し、個別の教育支援計画及び個別指導計画に反映させることも考慮する必要がある。

 

 必要な制度改革について

○出生時から発達段階に応じての保健指導を含め、必要なニーズを把握し、利用できるサービスを選択できる、教育・福祉・保健制度などを包括した子育てシステム構築が必要と考える。

     多くの子どもたちは、障がいの有無にかかわらず、保育所・幼稚園で就学前教育を受けており、重度の子どもたちの多くは各年齢の検診時の指導で医療機関受診がなされておりそれぞれの対応が図られている。地域や学校によっても対応できる状況が違い、本人と保護者の選択肢を制限しているのが現状。
     また、その都度、障がいの有無にかかわらず、年齢や本人の状況に応じて活用できる施策を提供するシステムが不可欠である。

○特別支援学校など特別の場の位置づけに課題がある。

     インクルーシブ教育を一面的にとらえると、特別支援学校は地域社会から子どもを分離する教育になりかねない。しかし、条約24条は、インクルーシブ教育の目的は、障害のある子どもたちの「最大限の発達」や「社会への完全かつ効果的な参加」をかかげている。これらの目的に照らして、必要ならば当然特別な場は確保されなければならない。条約24条第2項は(e)項で「学問的および社会的な発達を最大にする環境において、完全な包容という目標に合致する効果的で個別化された支援措置がとられることを確保すること」とあり、特別な場での教育に関する条件整備を述べている。こうした見地からすれば、特別支援学校などの特別な場は否定されるのではなく、「最大限の発達」や「社会への完全かつ効果的な参加」の方向で改善発展されるべきものである。

 

3 2の制度改革の実施に伴う体制・環境の整備

 ソフト面で

○特別支援学級、特別支援学校の他に、全ての小・中学校に特別支援教室の設置を義務付けていただきたい。

     現在、通常学級と特別支援学級間のグレーゾーンの子ども達、特別支援学級と特別支援学校間のグレーゾーンの子ども達が、十分な教育と適切な支援を受けにくい状況にある。この改善のためには、個々に応じたさまざまなタイプの教育の場の設定が必要であり、急務である。将来的に、障がいのある子どもが安心して通常学級に在籍出来るようになるためには、この特別支援教室が効果的に機能して行くことが重要と考える。

○障がいに対する正しい理解と制度改革の理念の理解、さらなる人権尊重教育をお願いしたい。

     地域の小中学校の全教職員、児童・生徒、保護者の皆さんに、さまざまな障がいに対する正しい理解と制度改革の理念の理解をしていただきたい。学校教育では、更なる「人権尊重教育」をお願いしたい。これらをそれぞれの地方自治体にまかせるのではなく、自治体による地域格差が生じないよう、国として取り組む必要がある。また、障がいのある子どもの保護者として、障がいの理解を求める立場にはあるが、理不尽な思いでお願いしている訳ではなく、糸賀一雄先生の「福祉の思想」からお言葉をお借りすれば、
     「この子らは、どんなに重い障がいをもっていても、誰ととりかえることもできない個性的な自己実現をしているものなのである。人間として生まれて、その人なりの人間となっていくのである。その自己実現こそが創造であり、生産である。私たちの願いは、重症な障害をもったこの子たちも、立派な生産者であるということを認め合える社会をつくろうということである。『この子らに世の光を』あててやろうという憐みの政策を求めているのではなく、この子らが自ら輝く素材そのものであるから、いよいよ磨きをかけて輝かそうというのである。『この子らを世の光に』である。この子らが、生まれながらにしてもっている人格発達の権利を保障せねばならぬ・・・。」ということであり、国レベルでの意識改革が、今私たち一人一人に求められているのであろうという思いからである。

○子ども達の実態に配慮し、将来を見据えた長期的な計画の中でのインクルーシブ教育への移行を望まれる。

 

 ハード面で

○制度改革の実施に伴う体制・環境の整備については、国としての基準を設け、予算上の措置をとることが必須。

 例えば

    ○1 各自治体に、障がいのある子どもの就学前相談、就学後の適切な教育相談、教員の心のケア・相談、その他障がい児教育全般の相談機能を有し、関係機関と連携して担うことができる(仮称)特別支援教育センターを設置:このセンターは、各種障がい特性を熟知し、アセスメントを研究・実施できる専門家、OT、PT、STなどの専門家、特別支援教育の内容に詳しく保護者の気持ちに寄り添って助言できるカウンセラー・ソーシャルワーカー、学齢期を卒業した障がい者の保護者などで構成され、要請に応じては教育現場にも出向が可能となる総合的な見地からの相談体制を設置する必要を感じる。

    ○2 インクルーシブ教育を推進するにあたっての計画策定と進捗状況の管理をする機関の設置

    ○3 教員定数の「定数算定表」の見直し

    ○4 学校建築物をバリアフリー化、ユニバーサルデザイン化するよう国として整備を義務化し、基準を設置

    ○5 特別支援学校の設置規模に応じた定員制の導入

○特別支援学校の義務教育段階である小学部・中学部においては、地域の小・中学校に学籍を移せるような、柔軟な就学の在り方が望ましい。

     小学校段階で特別支援学校に就学して教育を受け、本人の発達が促された場合を考えて、中学校段階では地域の中学校での教育が望ましいと保護者、学校設置者らが判断し、本人が希望すれば、学部の移行期に関わらず、学年での移行が出来るようにする。この実現には、区市町村が責任をもって教育することが必要である。
     今後は、特別支援学校の小・中学部は区市町村が設置者となり、障がいのある子もない子も区市町村が総力をあげて義務教育を実施する。そのために、地域が一体となって子どもたちを見守り、育んでいく社会を同時に形成していく。
     高等部にあっては、生涯を見据えた教育の観点から、都道府県立の特別支援学校での教育を実施し、さらに3年間という在学年数にとらわれず、本人または保護者の希望により、職業専科的な要素を取り入れた教育の継続や、機能・自立訓練的な要素を含んだ生涯学習が可能な教育を新設させるようなダイナミックな変革を試みていただきたい。

 

4 障がいのある幼児児童生徒の特性・ニーズに応じた教育・支援の実施のための教職員等の確保及び専門性の向上のための方策

○教員配置の基準の見直し

     個別指導計画、個別の教育支援計画に基づく学習指導、生活指導・進路指導力、また、外部との連携・折衝力・組織貢献力等を身に付けた教員の育成、リーダーシップやマネージメント力を有し教育現場で発揮できる人材を確保するための抜本的な見直しが必要。

○特別支援教育に関する教員の専門性が、正当に評価される環境の整備

○新採用の教員や通常学級からの転任者に対しては、研修や講習会をより一層充実させ、養成していただたい。

○障がいに対する教員の理解のための義務化。

     地域の小・中学校では、障がいのある児童・生徒に接する機会が少ないため、対応に苦慮している教職員も見受けられる。障がい児が取り組んでいるレジャー活動や放課後活動、学童等での関わりや障がいのある人もない人も一緒に取り組んでいるイベントなどのスタッフ体験を通して、障がいのある子どもたちと接することを必ずおこなうことを(組織貢献力)義務化すること。

○教職員のチームアプローチによる教育的課題の多角的分析・対応を可能に。

     このことにより、教職員のスキルアップが図れ、連帯感が生まれ、教職員の孤立感を抑制できる。さらに、コーディネーターが行政とのつながりを図ることで、地域の教育力向上がなされる。

○特別支援学校と地域の小・中学校とで期間限定での教員の交換留学を実施。

     特別支援学校の教員は、地域の学校の教員に対し、障がい児教育のアプローチとそのための意識づくりを支援できるし、通常学級の子どもたちには、障がいのある児童・生徒の様子を知らせる機会ができる。また、学校全体で障がいのある子どもとの共生教育やその体制の在り方について考え、意識改革ができる機会となる。一方、通常学級の教員は、障がい児教育を体験し、特別支援学校の教員と接することでの気付きや学びを自身のスキルアップとして身につけるだけでなく、勤務校に戻った時の効果的な活用も含め、特別支援教育の推進が期待される。また、特別支援学校の教員間にはよい刺激となる。

○教員免許取得のための必修科目に、特別支援教育に関する知識と理解のための単元と教育実習(介護等体験とは異なるもので、1週間程度の教育実習)を組み込む。

 

 

お問合せ先

初等中等教育局特別支援教育課

(初等中等教育局特別支援教育課)