全国都道府県教育委員長協議会・全国都道府県教育長協議会

全教委連第120号
平成22年10月27日

文部科学大臣
髙木  義明様

全国都道府県教育委員長協議会
会長  木村  孟

全国都道府県教育長協議会
会長  大原 正行

 

 

障害者の権利に関する条約の理念を踏まえた特別支援教育の在り方に関する意見について

 

 平成19年4月1日付け「特別支援教育の推進について」(通知)では、「特別支援教育は、障害のある幼児児童生徒への教育にとどまらず、障害の有無やその他の個々の違いを認識しつつ様々な人々が生き生きと活躍できる共生社会の形成の基礎となるものである。」としている。
 また、特別支援教育は、これまでの特殊教育の対象の障害だけでなく、小・中学校等の通常の学級に在籍する知的な遅れのない発達障害も含め、特別な支援を必要とする幼児児童生徒が在籍する全ての学校(園)において実施されるものである。
 その重要性に鑑み、下記のとおり意見を表明する。

 

 

1 現行の特別支援教育の評価

(1)特別支援学校による特別支援教育の推進の必要性

 特別支援学校に対する期待が高まっている背景には、特別支援教育そのものへの理解が進んだことはもちろんであるが、特別支援学校が障害種ごとの専門的指導力の向上に努めてきたことや、小中学校等からの様々な求めに応じ積極的な支援に努めてきたことなど、地域から信頼される学校づくりに取り組んできたことが挙げられる。
 一方で、知的障害特別支援学校を中心に児童生徒数の増加が著しいとともに、障害の重度・重複化による教育的ニーズが多様化傾向にあり、一人一人の自立と社会参加に向けた特別支援学校の教育の充実が一層求められている。
 さらに、就学前からのきめ細かな一貫した支援がより重要となり、市区町村教育委員会は就学前からの個別の教育支援計画の作成、活用に努めなければならない。
 そのため、こうした計画の作成、活用ノウハウを持っている特別支援学校には、通学区域の市区町村教育委員会を中心に、計画作成に関する支援など、センター的機能の発揮に対する期待がますます高まると考える。

(2)小・中学校の特別支援学級、通級指導教室による特別支援教育の推進の必要性

 特別支援学級が設置されている公立の小中学校数は年々増加し、平成21年度には、前年度より407校多い22,478校となり、国公私立の全小中学校の67.9%に設置されている。
 また、通級による指導を受けている児童生徒も年々増加し、平成21年度には、前年度より4,336名多い、54,021名となっている。
 特別支援学級などが設置されている学校では、個別の指導計画や個別の教育支援計画の作成も進み、発達障害などの児童生徒への適切な支援が行われ、学力向上や不登校の予防に効果をあげている。
 現状では、小・中学校における特別支援教育を推進する中核的な役割を果たす特別支援学級や通級による指導の充実は欠かせない。
 今後、国が構想として示している「特別支援教室」(仮称)については、現行の特別支援学級や通級による指導の制度の大幅な変更を伴うことから、教員配置や施設・設備の整備等の条件整備を含めた国としての基本的な考え方を示していただきたい。

(3)高等学校における特別支援教育の推進の必要性

 高等学校においては、発達障害を含む特別な教育的支援を必要としている生徒が在籍しているにもかかわらず、平成21年9月現在、公立高等学校における校内委員会の設置率が95.7%、特別支援教育コーディネーターの指名状況が93.0%である一方、個別の指導計画、個別の教育支援計画の作成状況は、それぞれ16.3%、12.9%に止まっている。
 平成21年8月の特別支援教育の推進に関する調査研究協力者会議高等学校ワーキング・グループからは、特別支援学校からの支援を得て「個別の指導計画」や「個別の教育支援計画」を作成し、適切な指導や必要な支援に活かすことが大切であるとの指摘もある。
 今後は、特別支援学校の教員などによる巡回相談について、必要に応じて個々のニーズに取り組めるよう対応していく必要がある。
 さらに、発達障害などの生徒の特別の教育課程や通級に類する指導の在り方などについて検討を進めるとともに、各障害種に対応する観点から特別支援教育支援員の配置についても、国が責任を持って検討を進めていただきたい。

 

2 平成21年2月の調査研究協力者会議の中間とりまとめにおける就学先決定に関する提言について

(1)就学指導の手続きについて

 中間の取りまとめでは、就学に向けて作成される個別の教育支援計画については、単に就学の場を決定するための資料ではなく、障害のある幼児児童生徒の可能性を最大限に伸ばし、必要な力を培うために、長期的な見通しを含めて作成することが重要であり、保護者等に十分に説明し、理解を得ることが必要であるとしている。
 すでに、ノーマライゼーションの理念に基づく教育を推進する観点から、これまで就学先を判断することが中心的な役割であった「就学指導委員会」を、個別の教育的支援の観点をより大切にし、就学前から就学後において継続的な相談支援の機能を有する委員会に見直すため、名称も「就学支援委員会」に改めている埼玉県の例もある。
 こうした取組例などからも、今後は、市区町村教育委員会が障害のある幼児児童生徒たちの就学に向け、就学前の早い段階から保健及び福祉関係部局などとも連携しながら相談を実施し、必要に応じ医療などの専門家の意見も聴きながら個別の教育支援計画を作成する仕組みづくりが重要である。
 今後、こうした市区町村の動きを加速させる必要があることから、国としてもこれまで以上に関係省庁間での調整と連携した取組を推進していただきたい。

(2)就学先の判断について

 国は、就学指導に関し、就学基準や就学手続きの弾力化等の見直しや、市区町村教育委員会が就学先を決定する際には専門家の意見のみならず保護者の意見聴取を義務付けるなどの改善を行った。
 障害のある幼児児童生徒の適切な就学を推進し、その可能性を最大限に伸ばし、一人一人の自立や社会参加を目指すためには、医療や福祉などの専門家の意見なども踏まえて市区町村教育委員会が判断することは非常に重要なことと考える。また、保護者に対して的確かつ適切な説明や理解啓発を行い、障害のある幼児児童生徒一人一人のよりよい就学先を考えることができるよう情報提供のあり方を工夫していく必要がある。
 また、こうした、長期的な視点に立った就学を支援するため、市区町村教育委員会は、就学後においても継続的な相談支援に努め、特別支援学校に就学しても、例えば、東京都における副籍制度や埼玉県における支援籍制度のように、地元の児童生徒として、積極的に居住地の小中学校における交流及び共同学習を実施するなどの支援の充実に取り組む必要がある。

 

3 障がい者制度改革推進会議の第一次意見の評価について

(1)すべての児童生徒は地域の小・中学校に就学し、かつ通常の学級に在籍することを原則とすることについて

 現状では、障害のある児童生徒に対する指導や支援は、特別支援学校や特別支援学級、通級による指導が中心であり、そうした児童生徒が原則通常の学級に在籍する状況に対応できる、専門性を有している教員は決して多くはない。
 また、特別支援学校や特別支援学級では、通常の学級とは異なる学級編制や手厚い教員配置のもとでの指導や支援が行われている。
 一方で、通常の学級に在籍させる制度を原則とするならば、当然通常の学級編制基準、教員の配置基準、さらに障害のある児童生徒及び障害のない児童生徒の教育課程編成の在り方等を抜本的に見直す必要もあるが、現在の小・中学校や市区町村教育委員会の現状を踏まえれば、多くの課題があるのも事実である。
 さらに、こうした制度へ移行する場合、単に教員を加配すればよいということでなく、特別支援教育に関する専門性のある教員・外部人材等の確保や現職教員のさらなる資質向上など、大学における教員養成や採用後の特別支援教育に関する研修の実施などの課題も出てくる。
 こうしたことから、制度の移行に当たっては、関係する制度の見直しに向け国が責任を持って検討を進めるべきと考える。ただ現実的には、障害のある児童生徒一人一人の多様なニーズを踏まえた指導や支援の必要性も踏まえれば、現行の特別支援教育の理念及び制度そのものが活かされることが重要である。

(2)特別支援学校に就学先を決定する場合及び特別支援学級への在籍を決定する場合について

 埼玉県の「就学支援委員会」の取組事例からも明らかなように、就学前の段階から、市区町村教育委員会が中心となって保健及び福祉関係部局と連携して個別の教育支援計画の作成や活用を支援できる仕組みづくりを進めているところであり、これら成果を参考にしながら、今後、より一層適切に幼児児童生徒が就学できるよう図っていく必要がある。
 就学に向け、保護者と一緒になって作成するこうした計画は、単に就学の場を決定するための資料ではない。専門家の意見も聴きながら作成することで、障害のある児童生徒の可能性を最大限に伸ばす指導や支援の在り方が整理でき、そして必要な就学先に結びつくと考える。

(3)合理的配慮について

 こうした「合理的配慮」を実施するには、障害のある児童生徒が通常の学級で必要な指導や支援を受けられるための教育課程の在り方、教員免許制度や教員養成の在り方など、国で整理、検討すべき課題も多く含まれていると考える。
 就学先における「合理的配慮」の具体的内容については、就学指導の手続きの中で、就学前から個別の教育支援計画が作成され、その作成過程において、保護者、学校、教育委員会の3者が合意形成をして策定されるべきものと考える。

 

お問合せ先

初等中等教育局特別支援教育課

(初等中等教育局特別支援教育課)