全日本教職員連盟

障害者の権利に関する条約の理念を踏まえた
特別支援教育の在り方に関する見解

全日本教職員連盟

 

1 現行の特別支援教育について

 現在、学校現場では、在籍する児童生徒の実態把握に努めるとともに、特別支援教育に関する校内委員会の設置や特別支援教育コーディネーターの指名、個別の指導計画や教育支援計画の作成等、特別支援教育の体制整備が推進されています。また、教員の専門性向上のため、教職員研修等にも積極的に取り組んでいます。そのため、特別支援学校・特別支援学級のみならず、通常の学級を含む全ての教育現場において、特別な支援を要する児童生徒に対応できる体制が整いつつあります。しかしながら、地域の財政状況の悪化等により、特別支援教育を推進する上での環境整備にも地域格差が生じていることから、ハード面の整備を進めるとともに、特別支援教育に係る教職員定数の充実等に、より一層取り組んでいくことが求められます。

 

2 平成21年2月の調査研究協力者会議の中間とりまとめにおける就学先決定に関する提言について

 平成21年2月の「特別支援教育の推進に関する調査研究協力者会議 審議の中間取りまとめ」では、「個別の教育支援計画の作成・活用を通じて、障害の程度が就学基準に該当するかどうかに加えて、必要な教育的ニーズ、保護者や専門家の意見、就学先の学校における教育や支援の内容等を総合的に判断して決定する仕組みとする」ことを提言しています。
 特別に支援を要する児童生徒は、障害の種類、程度、保護者や本人の思い、必要な教育的ニーズが個々に異なっています。その児童生徒が社会に適応するために必要な力を身に付けるには、より適切な教育環境を提供することが大変重要です。従って、就学先決定に関しては、この中間取りまとめで提言されているように、できる限り多くの意見や、その児童生徒が住んでいる地域・学校の特性等を総合的に判断することが必要です。
 この中間取りまとめでは、「そのような対応を十分に行うことを前提とした上で、制度としては義務教育を実施する責任を有する教育委員会において最終的に就学先を決定することが適当であると考える」としています。その際の判断基準に総合的な観点を取り入れようとするもので、より個々の児童生徒に応じた特別支援教育を行うためのものとして、評価することができます。

 

3 障がい者制度改革推進会議の第一次意見(教育関係部分)について

 障がい者制度改革推進会議の第一次意見では、障害者にとってのインクルーシブな教育制度の必要性について、「人間の多様性を尊重しつつ、精神的・身体的な能力を可能な最大限度まで発達させ、自由な社会に効果的に参加するとの目的の下、障害者が差別を受けることなく、障害のない人と共に生活し、共に学ぶ教育(インクルーシブ教育)を実現することは、互いの多様性を認め合い、尊重する土壌を形成し、障害者のみならず、障害のない人にとっても生きる力を育むことになる」としています。
 教育の目的は、人格の完成であり、ここに述べられている通りです。障害があり、特別な支援を要する児童生徒に対して、この教育の目的を達成するためにどうするかという視点で考えていかなければなりません。「共に学ぶことで、障害者のみならず、障害のない人にとっても生きる力を育むことになる」としていますが、生きる力を「知・徳・体のバランスのとれた力」と考えたとき、果たして「多様性を認め合い、尊重する土壌を形成」することで十分であるかどうかは、疑問です。
 現在、小中学校の通常学級に在籍する児童生徒のうち、LD、ADHD、自閉症スペクトラム等により、学習や生活の面で特別な教育的支援を必要としている者が、相当数存在します。学校現場では、「特別支援学級」に在籍する児童生徒のみならず、通常学級に在籍するそれらの児童生徒に対しても、個別支援計画を作成したり、教育的配慮をしたりしています。しかし、現在の通常学級では、十分な対応ができず、個々の教育的ニーズに応じた支援ができているとは言い難い状況です。現状の通常学級の環境のままで、インクルーシブ教育を取り入れた場合、更に対応が不十分になり、教育の本来の目的の達成が困難になることが容易に想像できます。
 「特別支援学校は、本人が生活する地域にないことも多く、そのことが幼少の頃から地域社会における同年齢の子供と育つ生活の機会を失わせたり、通常にはない負担や生活を本人・保護者に求めたり、地域の子供たちから分離される要因ともなっている」と、この第一次意見で述べられています。このことに関しては、正に記述の通りです。しかし、その対策として、「障害の有無にかかわらず、全ての子供は地域の小中学校に就学し、かつ通常の学級に在籍することを原則とする」「特別支援学校に就学先を決定する場合及び特別支援学級への在籍を決定する場合や、就学先における必要な合理的配慮及び支援の内容を決定するにあたっては、本人・保護者、学校、学校設置者の三者の合意を義務付ける仕組みとする」とあります。これらを優先する余り、教育の目的である「その児童生徒が社会に適応するために必要な力を身に付ける」という観点が十分議論されていません。全日教連の理論構築の場である「教育問題審議委員会」でも、著名な教育学者から、この点が指摘されました。同推進会議において、教育関係者を交えた議論が行われていないことも大きな課題であると考えます。
 障害のある児童生徒やその保護者が、不当な差別を受けたり、特別な負担を強いられたりすることのないような制度を整えることは大切です。しかし、その際には、それらの児童生徒に対する教育が、将来社会に適応して生きていくための力を身に付けるために行うものであるということを第一に考えなければなりません。従って、全日教連は、この「障がい者制度改革推進会議 第一次意見」には強く反対の意を表します。教育の目的を達成するためには、現行の制度を基本的に堅持しながら、特別支援学校及び特別支援学級の増設、特別支援教育コーディネーターの専任化や定数増等の施策を講じることが、有効であると考えます。

 

 

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