中澤惠江(国立特別支援教育総合研究所)
合理的配慮(Reasonable accommodation、リーズナブル・アコモデーション)(注1)は、(1)日々の教育の場や校内テストにおいて提供される合理的配慮と、(2)州・地区で行われる標準テストにおける合理的配慮に大きく分けられる。(日々の教育およびテストの両方に関わる合理的配慮の一つである、プリント・ディスアビリティのある子ども達への教材へのアクセス確保については、2004年のIDEA改正で対象とする障害のある子どもの範囲が広がった。)
ここで注意を要するのは、アメリカにおいては、「アコモデーション」という言葉は、より限定的に使われる場合が多く、合理的配慮とは同義ではないことである。アメリカにおける教育およびテストでの「アコモデーション」とは、障害のある人が、障害のない人と同等にその教育およびテストにアクセスできるようにするための配慮であり、教育内容やテスト内容そのものには質的変化を伴わない状態を指している。より大きな調整・変更を伴う場合は、「モディフィケーション」等の言葉で表される。
具体的な例をあげると、高等教育機関の入学試験および入学後の授業等においては、障害のある人が障害のない人と同等にアクセスできるようにするための「アコモデーション」の提供が「障害のあるアメリカ人法(ADA)」によって規定されているが、授業内容自体を障害のある学生に合わせて変える「モディフィケーション」は求められていない。
一方、IDEAで規定されている3歳から21歳までの障害のある子どもの教育においては、各々の子どもの状態に応じて、もっとも制約の少ない環境で教育が行われるよう、「アコモデーション」だけでなく「モディフィケーション」等の配慮や追加的な支援が考慮される。ただし、州・地区で行われる標準テストについては、テスト実施結果の妥当性が保証されるよう、「アコモデーション」のみが行われる。
以上のような背景から、アメリカに関する以下の記述では「合理的配慮」という用語ではなく、「アコモデーション」、「モディフィケーション」等の用語を用いる。
障害のある子どもの日々の教育および校内テストへの配慮はIDEA(Part B)614条(d)「個別化された教育プログラム(IEP)」に明記される。個別化された教育プログラムはIEPチームで作成され、法的拘束力をもつ。
個別化された教育プログラムの中には、子どもの現時点での教科学習の達成レベル、機能的な遂行能力、測定可能な年間達成目標等、様々な事柄が明記されなければならない。そこには以下の記述も求められる:子どもに提供される「特殊教育」(注2)、「関連サービス」(注3)、「補助的エイドやサービス」(注4)、プログラムのモディフィケーション、研修を含む学校教職員に必要な支援等である。また、「考慮すべき特別な要因」(注5)も含めて検討されなければならないことになっている。 これらは以下の目的のために子どもに提供される:
(1)通常学級および上記の活動において、障害のない子ども達と共に参加しない場合には、その程度とその理由を説明すること;
(2)州あるいは地区における標準テストを受けるにあたっての、障害のある子どもの学習到達度および機能的遂行能力を測るために必要な個別で適切なアコモデーションの文書(注6)。
(3)もしも、IEPチームが特定の州あるいは地区における標準テストの実施において、ある特定の障害を有する子どもについて、標準テストではなくて代替アセスメントに替えるべきであると決定したならば、何故その子どもが標準テストを受けられないかの理由と、具体的に選ばれた代替アセスメントが何故その子どもに適しているかを説明する文書が必要となる。(代替アセスメントは、「アコモデーション」を超えた対応である。)
なお、視覚障害、特異的学習障害、運動障害のためにプリント・ディスアビリティを有する子どもへの合理的配慮である教科書・教材へのアクセシビリティについては、612条「州の適格性」(23)「教材へのアクセス」に規定してある。州は、国が定めたNational
Instructional Materials Accessibility Standardか、州独自でアクセシブルな教科書・教材を提供する方法のどちらかを選択し、プリント・ディスアビリティのある子ども達に適時に教科書・教材を提供することが求められる。
注1 「合理的配慮」とは、障害者が他の者と平等にすべての人権及び基本的自由を享有し、又は行使することを確保するための必要かつ適当な変更及び調整であって、特定の場合において必要とされるものであり、かつ、均衡を失した又は過度の負担を課さないものをいう。(障害者の権利条約、外務省仮訳より)
注2 「特殊教育」とは、障害のある子どもの固有のニーズに対応するため、保護者の費用負担なしに、特別に計画された指導で、以下を含むものである:(A)教室、家、病院、施設およびその他の場において行われる指導と、(B)体育の指導。(IDEA602条「定義」より)
注3 「関連サービス」とは、特殊教育から利益を得られるようにするために必要な諸サービスで、必要な交通手段、発達や矯正や支援に必要なサービス等を指す。(言語・オージオロジーサービス、通訳サービス、心理的サービス、PTやOTサービス、治療的レクリエーション、ソーシャルワークサービス、個別の教育計画で必要と記された学校看護師、カウンセリングサービス(リハビリサービスを含む)、歩行訓練、医療サービス(外科的に埋め込む医療機器は含まない)等。)(IDEA602条「定義」より)
注4 「補助的エイドやサービス」とは、エイド(補助員)、サービスおよび他の支援を意味し、通常学級あるいは他の教育関連環境において障害のある子ども達が障害のない子ども達と最大限適切に教育が受けられるために提供するもの。(IDEA602条「定義」より)
注5 「考慮すべき特別な要因」(1)自分自身あるいは他の子どもの学習を妨害する行動をとる子どもに対しては、望ましい行動へ変容させるための介入(positive behavior intervention)等の対応をする;(2)英語の習熟度が限られている子どもの場合は、その子どもの言語的ニーズを考慮する;(3)盲あるいは視覚障害のある子どもについては点字による教育の必要性について考慮する;(4)子どものコミュニケーションニーズを考慮し、聾あるいは難聴の場合は、子どもの言語的ニーズ、子どもの言語およびコミュニケーション・モードによる同年齢の仲間および教職員との直接的なコミュニケーションの機会について考慮する;(5)子どもがアシスティブ・テクノロジーの機器およびサービスを必要としているか考慮する。
注6 テスト・アコモデーションのガイドラインは州あるいは地区において開発し用意することになっている。当然ながら、連邦規定により、テストにおけるアコモデーションは、テストの結果を無効にしてしまうものは提供できないとしている。
一つの参考例として、以下にアリゾナ州のガイドラインからの抜粋を記す。
どのような生徒にも提供される、快適で気を散らすものがないテスト環境には以下を含む:
IEPのある生徒は、適切であれば、上記のユニバーサルなテスト実施条件や、以下の標準的アコモデーションを用いることができる:
標準テストにおいては、正当な結果を生み出さないアコモデーションは許可されない。許可されないアコモデーションとしては、ライティングのテストにおける口述筆記の利用、リーディングのテストにおいて声を出して読むこと、数学のテストにおける計算機やその他の操作機器の使用がある。
テストにおいては、生徒のIEPに特定されているユニバーサルなテスト実施条件および標準的アコモデーションは、全て利用可能にしなければならない。
以上
初等中等教育局特別支援教育課