資料19:中澤委員提出資料

アメリカのIDEA(障害のある個人教育法)に規定されている合理的配慮
―日々の教育場面と、州・地区標準テストでの合理的配慮ー

中澤惠江(国立特別支援教育総合研究所)

 

 合理的配慮(Reasonable accommodation、リーズナブル・アコモデーション)(注1)は、(1)日々の教育の場や校内テストにおいて提供される合理的配慮と、(2)州・地区で行われる標準テストにおける合理的配慮に大きく分けられる。(日々の教育およびテストの両方に関わる合理的配慮の一つである、プリント・ディスアビリティのある子ども達への教材へのアクセス確保については、2004年のIDEA改正で対象とする障害のある子どもの範囲が広がった。)
 ここで注意を要するのは、アメリカにおいては、「アコモデーション」という言葉は、より限定的に使われる場合が多く、合理的配慮とは同義ではないことである。アメリカにおける教育およびテストでの「アコモデーション」とは、障害のある人が、障害のない人と同等にその教育およびテストにアクセスできるようにするための配慮であり、教育内容やテスト内容そのものには質的変化を伴わない状態を指している。より大きな調整・変更を伴う場合は、「モディフィケーション」等の言葉で表される。
 具体的な例をあげると、高等教育機関の入学試験および入学後の授業等においては、障害のある人が障害のない人と同等にアクセスできるようにするための「アコモデーション」の提供が「障害のあるアメリカ人法(ADA)」によって規定されているが、授業内容自体を障害のある学生に合わせて変える「モディフィケーション」は求められていない。
 一方、IDEAで規定されている3歳から21歳までの障害のある子どもの教育においては、各々の子どもの状態に応じて、もっとも制約の少ない環境で教育が行われるよう、「アコモデーション」だけでなく「モディフィケーション」等の配慮や追加的な支援が考慮される。ただし、州・地区で行われる標準テストについては、テスト実施結果の妥当性が保証されるよう、「アコモデーション」のみが行われる。
 以上のような背景から、アメリカに関する以下の記述では「合理的配慮」という用語ではなく、「アコモデーション」、「モディフィケーション」等の用語を用いる。

 

 障害のある子どもの日々の教育および校内テストへの配慮はIDEA(Part B)614条(d)「個別化された教育プログラム(IEP)」に明記される。個別化された教育プログラムはIEPチームで作成され、法的拘束力をもつ。
 個別化された教育プログラムの中には、子どもの現時点での教科学習の達成レベル、機能的な遂行能力、測定可能な年間達成目標等、様々な事柄が明記されなければならない。そこには以下の記述も求められる:子どもに提供される「特殊教育」(注2)、「関連サービス」(注3)、「補助的エイドやサービス」(注4)、プログラムのモディフィケーション、研修を含む学校教職員に必要な支援等である。また、「考慮すべき特別な要因」(注5)も含めて検討されなければならないことになっている。 これらは以下の目的のために子どもに提供される:

  • 子どもの年間目標の達成にむけた適切な前進;
  • 通常の教育課程への参加と進歩、課外活動やその他の非教科的活動への参加;
  • 障害のある他の子どもおよび障害のない子どもたちと共に教育を受け参加するが、

(1)通常学級および上記の活動において、障害のない子ども達と共に参加しない場合には、その程度とその理由を説明すること;
(2)州あるいは地区における標準テストを受けるにあたっての、障害のある子どもの学習到達度および機能的遂行能力を測るために必要な個別で適切なアコモデーションの文書(注6)。
(3)もしも、IEPチームが特定の州あるいは地区における標準テストの実施において、ある特定の障害を有する子どもについて、標準テストではなくて代替アセスメントに替えるべきであると決定したならば、何故その子どもが標準テストを受けられないかの理由と、具体的に選ばれた代替アセスメントが何故その子どもに適しているかを説明する文書が必要となる。(代替アセスメントは、「アコモデーション」を超えた対応である。)
 なお、視覚障害、特異的学習障害、運動障害のためにプリント・ディスアビリティを有する子どもへの合理的配慮である教科書・教材へのアクセシビリティについては、612条「州の適格性」(23)「教材へのアクセス」に規定してある。州は、国が定めたNational Instructional Materials Accessibility Standardか、州独自でアクセシブルな教科書・教材を提供する方法のどちらかを選択し、プリント・ディスアビリティのある子ども達に適時に教科書・教材を提供することが求められる。

 

注1 「合理的配慮」とは、障害者が他の者と平等にすべての人権及び基本的自由を享有し、又は行使することを確保するための必要かつ適当な変更及び調整であって、特定の場合において必要とされるものであり、かつ、均衡を失した又は過度の負担を課さないものをいう。(障害者の権利条約、外務省仮訳より)

注2 「特殊教育」とは、障害のある子どもの固有のニーズに対応するため、保護者の費用負担なしに、特別に計画された指導で、以下を含むものである:(A)教室、家、病院、施設およびその他の場において行われる指導と、(B)体育の指導。(IDEA602条「定義」より)

注3 「関連サービス」とは、特殊教育から利益を得られるようにするために必要な諸サービスで、必要な交通手段、発達や矯正や支援に必要なサービス等を指す。(言語・オージオロジーサービス、通訳サービス、心理的サービス、PTやOTサービス、治療的レクリエーション、ソーシャルワークサービス、個別の教育計画で必要と記された学校看護師、カウンセリングサービス(リハビリサービスを含む)、歩行訓練、医療サービス(外科的に埋め込む医療機器は含まない)等。)(IDEA602条「定義」より)

注4 「補助的エイドやサービス」とは、エイド(補助員)、サービスおよび他の支援を意味し、通常学級あるいは他の教育関連環境において障害のある子ども達が障害のない子ども達と最大限適切に教育が受けられるために提供するもの。(IDEA602条「定義」より)

注5 「考慮すべき特別な要因」(1)自分自身あるいは他の子どもの学習を妨害する行動をとる子どもに対しては、望ましい行動へ変容させるための介入(positive behavior intervention)等の対応をする;(2)英語の習熟度が限られている子どもの場合は、その子どもの言語的ニーズを考慮する;(3)盲あるいは視覚障害のある子どもについては点字による教育の必要性について考慮する;(4)子どものコミュニケーションニーズを考慮し、聾あるいは難聴の場合は、子どもの言語的ニーズ、子どもの言語およびコミュニケーション・モードによる同年齢の仲間および教職員との直接的なコミュニケーションの機会について考慮する;(5)子どもがアシスティブ・テクノロジーの機器およびサービスを必要としているか考慮する。

注6 テスト・アコモデーションのガイドラインは州あるいは地区において開発し用意することになっている。当然ながら、連邦規定により、テストにおけるアコモデーションは、テストの結果を無効にしてしまうものは提供できないとしている。

一つの参考例として、以下にアリゾナ州のガイドラインからの抜粋を記す。

 

                                                       

 

アリゾナ州のテスト・アコモデーション・ガイドラインからの抜粋

 

ユニバーサルなテスト実施条件

どのような生徒にも提供される、快適で気を散らすものがないテスト環境には以下を含む:

  • テストの実施を、小グループ、一対一、別の場所、個別閲覧席でおこなう
  • テスト会場における、特定の場所あるいは特別な家具に座ってテストを受ける
  • よく知っている担当者によるテストの実施
  • 特別な鉛筆あるいは鉛筆グリップの使用
  • テストを見やすくするデバイスの使用:メガネ、コンタクト、拡大レンズ、特別な照明、色付きオーバーレイ
  • テストの指示を聞きやすくするデバイスの使用:補聴器や音の増幅
  • 書かれた指示が読み上げられた後に、騒音緩衝用のヘッドホンを装用すること
  • 「テスト実施指示」に含まれている書かれた指示を(生徒の要求に応じて)再度読み上げ且つ書かれた指示についての質問に答えること、あるいは、生徒が自身で読んだ指示についての質問に答えること

 

IEPのある生徒のための標準的アコモデーション

IEPのある生徒は、適切であれば、上記のユニバーサルなテスト実施条件や、以下の標準的アコモデーションを用いることができる:

  • 場所を記すマーカーの使用
  • より多くの休憩および/あるいはより短いセッションを複数回すること
  • 一日の内の異なる時間にテストを行うこと
  • 書かれている指示をより簡単な英語にすること
  • 生徒が自身で指示を読むとき、声を出して読む、あるいは手話をつかって読むこと
  • 書かれたプロンプト、 数学のテスト項目、あるいは科学のテスト項目を、声を出して英語で読むあるいは手話で表す
  • 拡大文字または点字によるテスト
  • 盲である生徒の、数学テストにおけるソロバンの使用
  • 盲である生徒の、電子辞書およびシソーラスの使用、ただし文法チェック、スペルチェック、百科事典、翻訳、インターネットアクセスの機能をオフにした状態で
  • 盲である生徒の、点字筆記具の使用
  • テスト冊子から答案用紙に答えを移すこと
  • 多項選択式の答えを、音声で答えて録音する、あるいは筆記者に口述すること
  • スペルチェック、文法チェック、スペル予測機能をオフにした支援機器の使用
  • 数学の問題における個人用白板の使用、ただしその生徒のみが見える状態にあり且つ一問ごとに消去すること

標準テストにおいては、正当な結果を生み出さないアコモデーションは許可されない。許可されないアコモデーションとしては、ライティングのテストにおける口述筆記の利用、リーディングのテストにおいて声を出して読むこと、数学のテストにおける計算機やその他の操作機器の使用がある。

テストにおいては、生徒のIEPに特定されているユニバーサルなテスト実施条件および標準的アコモデーションは、全て利用可能にしなければならない。

 

以上

 

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