資料8:教員の特別支援教育に関する専門性の現状と課題について

教員の特別支援教育に関する専門性の現状と課題について
(「特別支援教育の推進に関する調査研究協力者会議 審議経過報告」(平成22年3月24日)抜粋)

 

(1)特別支援学校教員の専門性

○特別支援学校教員に関する免許制度

 特別支援学校教員については、幼・小・中・高等学校の教諭の免許状を基礎として特別支援学校教諭免許状を保有することが必要であり(*1)、特別支援学校教諭免許状には5つの教育領域(視覚障害、聴覚障害、知的障害、肢体不自由、病弱)がある。

 ただし、幼・小・中・高等学校の教諭の免許状を有する者は、当分の間、特別支援学校教諭免許状を保有しなくても特別支援学校の教員になることが可能とされている(教育職員免許法附則第16項)。

○研修による専門性の確保への対応

 独立行政法人国立特別支援教育総合研究所における都道府県等の指導的立場にある者を対象とした研修のほか、各都道府県等の教育委員会主催の研修、各学校における校内研修等により専門性の向上を図っているところである。

○特別支援学校教員に求められる専門性

 特別支援学校教員に求められる専門性について、平成19年4月の教育職員免許法改正において次のとおり整理した。

  • 5つの障害種別(視覚障害、聴覚障害、知的障害、肢体不自由、病弱)に共通する専門性として、特別支援教育全般に関する基礎的な知識(制度的・社会的背景・動向等)
  • それぞれの障害種別ごとの専門性として、各障害種の幼児児童生徒の心理(発達を含む)・生理・病理に関する一般的な知識・理解や教育課程、指導法に関する深い知識・理解及び実践的指導力
  • 特別支援学校のセンター的機能を果たすために必要な知識や技能(特別支援学校の特別支援教育コーディネーターには、小・中学校に比し、より幅広い専門性が要求される)

○現状・これまでの取組

 平成19年4月の特別支援学校制度化に伴い、従来の盲学校・聾学校・養護学校ごとの免許状が特別支援学校の免許状に一本化されたところであるが、平成20年度の特別支援学校における特別支援学校教諭免許状保有率は69.0%である。

 さらに、特別支援学校教員の専門性確保に関する国の取組は次のとおりである。

  • 各都道府県の教員等を対象にした専門性向上事業の実施
  • 文部科学省の「発達障害等支援・特別支援教育総合推進事業」による都道府県等の研修実施の促進
  • 独立行政法人国立特別支援教育総合研究所における指導的立場にある者を対象とした各種の研修実施
  • 放送大学における特別支援学校の教諭免許状取得に活用できる科目の開設

 また、都道府県等の取組は次のとおりである。

  • 各都道府県・指定都市教育委員会における特別支援学校免許状の保有率向上の計画について、中期計画(5年以内)として数値目標を設定している都道府県及び指定都市:24県・市
  • 特別支援学校教諭免許状に関する認定講習の開催
  • 教育委員会主催の教員研修や校内研修の開催

○検討の方向性及び課題

(特別支援学校の専門性の確保)

 特別支援学校教員の専門性については、教員の養成、採用、配置(人事異動)、研修等を通じ、組織的かつ体系的に専門性の向上を図るべきである。

 特に、複数の障害を対象とする特別支援学校として整備を行う際には、それぞれの障害種ごとの専門性を担保することが必要である。

(教員免許)

 特別支援教育に係る教員免許制度の在り方に関しては、次のとおり様々な意見があるが、現在、文部科学省において、教員の資質向上方策について抜本的に見直すこととしており、特別支援学校教諭免許状の在り方についても、その動向を踏まえて検討する必要がある。

  • 教育職員免許法附則第16項について、時限を設けた廃止について検討すべき。
  • まずは特別支援学校教諭免許状の保有率の向上を図り、附則第16項が不要となる環境を整備し、その次に内容の充実を図る方法について検討すべき。
  • 特別支援学級や特別支援教室構想も踏まえた特別支援教育についての免許状の在り方を検討することが必要。
  • 特別支援学校教諭免許状の保有率の向上については、都道府県等の中期計画等に位置付けた取組の推進や免許法認定講習等の拡充が必要。
  • 特別支援学校教諭の免許状の各障害種に対応した教育領域に共通する専門性や教育領域ごとの専門性を考えていくことが必要。
  • 免許状取得過程において、特別支援教育に関する科目を全領域教授することが可能となる38単位をすべて履修することは、その分、教科に関する内容が薄くなることが懸念される。免許状取得の手順についても考えることが必要。
  • 特別支援学校教諭の免許状を含め、一般の教員の免許状取得要件の中にも「連携・調整能力」を特別支援教育の専門性の要素として盛り込むべき。

(採用・配置(人事異動))

 特別支援学校の専門性については、教員養成や採用、人事異動が強く影響するため、教員の採用や人事異動に当たっては、特別支援学校としての専門性の確保を考慮することが重要である。具体的には、特別支援教育を推進する上で、担当教員が短期間で異動することは大きな影響を生ずるため、各地方公共団体の判断により、特別支援学校としての障害種ごとの専門性の確保を考慮しつつ、同一校内における教員の在職年数の延長や特別支援学校間の適切な異動など弾力的な人事上の配慮を行うことが求められるほか、人材が限られている分野については、広域単位での採用も検討すべきである。

 また、特別支援学校の障害種に対応した教育領域について、在籍教員の免許状保有率の向上を図ることに加えて、将来の人事異動を念頭に置き、他の障害種の免許状の取得についても計画的に促進すべきである。

 さらに、障害の重度・重複化に対応し、自立活動を主として指導する場合の授業づくりについて、経験ある教員を育成すべきである。

(研修)

 通常の学校との間での人事異動の多い特別支援学校においては、異動してきた教員が、可能な限り短期間に日々の教育において必要とされる専門性を身に付けることができるよう、研修の充実を図ることが必要である。

 また、独立行政法人国立特別支援教育総合研究所は、各地域・自治体レベルでは対応の難しい高い専門性が要求される障害種への指導・支援の在り方をはじめ、国全体の特別支援教育に関する研修システムを調整する役割が求められている。このため中央における研修同様、地方における研修の質及び量を充実させるべく、同研究所を中核として、各自治体の教育センターや地方の大学との連携による研修ネットワークの構築を図ることが期待される。

 

(2)小・中学校の担当教員等(特別支援学級担任、通級指導担当教員、特別支援教育コーディネーター)の専門性

○小・中学校の特別支援学級担任、通級指導担当教員に関する免許制度

 現行制度では、幼・小・中・高等学校の免許状を保有していれば特別支援学級担任、通級指導担当教員になることが可能であり、その他特別の免許状の所持は必要とされていない。

 ただし、幼・小・中・高等学校の免許状取得に当たっては、教職に関する科目(「教育の基礎理論に関する科目」)中、「幼児、児童及び生徒の心身の発達及び学習の過程」において、「障害のある幼児、児童及び生徒の心身の発達及び学習の過程」を学ぶこととされている(*2)。

 また、実態としては、教科又は教職に関する科目において、特別支援教育に特化した内容の科目を開設している大学も見受けられる。

 なお、特別支援教育コーディネーターについても、その他特別の免許状の所持は必要とされていない。

○研修による専門性の確保への対応

 独立行政法人国立特別支援教育総合研究所における都道府県等の指導的立場にある者を対象とした研修、都道府県等の教育委員会主催の研修、各学校における校内研修等により、専門性の確保・向上を図っているところである。

○特別支援学級担任、通級指導担当教員、特別支援教育コーディネーターに求められる専門性

 特別支援学級担任、通級指導担当教員、特別支援教育コーディネーターに求められる専門性については、次のとおり整理した。

  • 特別支援教育全般に関する基礎的知識(制度的・社会的背景・動向等)
  • 障害種ごとの専門性として、担当する障害のある子どもの心理(発達を含む)や障害の生理・病理に関する一般的な知識・理解や教育課程、指導法に関する知識・理解及び実践的指導力
  • 小・中学校の特別支援教育コーディネーターについて、勤務する学校の特別支援教育を総合的にコーディネートするために必要な知識や技能

○現状・これまでの取組

 平成20年度の特別支援学級担当教員の特別支援学校教諭免許状保有率は32.0%である。

 文部科学省においては、「発達障害等支援・特別支援教育総合推進事業」により、都道府県等の研修開催を促進している。

 また、独立行政法人国立特別支援教育総合研究所において指導的立場にある者を対象とした各種の研修を実施しているほか、各教育委員会や学校においても特別支援教育に関する教員研修や校内研修を開催している。

○検討の方向性及び課題

(専門性)

 小・中学校においても、特別支援学級担任や通級指導担当教員の専門性の向上等により、各障害種の専門性を担保できる仕組みをつくることが求められる。特に、特別支援学級が増加する中で、特別支援教育の経験の少ない若い教員への支援の仕組みについて検討する必要がある。

 また、小・中学校の学習指導要領の改訂により、必要に応じて個別の指導計画や個別の教育支援計画を作成する旨規定されたが、その作成のため、専門性のある者が支援する体制の確立を図ることが重要である。

 さらに、特別支援教育コーディネーターについても、その機能、役割を踏まえた専門性の確保が必要であり、3(2)に述べた配置の在り方も念頭に置きつつ、具体的な専門性確保の方策について検討すべきである。

(教員養成・免許)

 特別支援学級担任等についても、特別支援学校教諭免許状の取得を促進することが有効であり、免許状を取得しやすい環境の醸成を図ることが必要である。

 さらに、特別支援学級担任及び通級指導担当教員の養成の在り方や専門性の担保の在り方についても検討すべきであるとの意見があった。

(採用・配置(人事異動))

 特別支援学級担任等について、採用、配置、研修等を通じた専門性の向上方策について検討すべきである。

 また、特別支援教育を推進する上で、短期間での人事異動は大きな影響があるため、各地方公共団体の判断により、校内の特別支援教育の専門性の確保を考慮しつつ、同一校内における特別支援教育の専門性を有する教員の在職年数の延長や特別支援学校との適切な人事交流など、弾力的な人事上の配慮を行うことが必要である。

(研修)

 特別支援学級担任について専門的な研修を受ける機会を増やすことが必要である。特に、特別支援学級担任の授業力、学級経営力を育成するため、教育委員会が中心となり、研究授業等を内容とする研修システムについて検討すべきである。

 また、特別支援教育コーディネーターについても、専門性の確保が必要であるが、特別支援学級担任や通級指導担当教員と同様、校内における人員が少ないがゆえに特別支援学校教諭免許状を取得するための時間を確保することが困難な状況にある。このため、これらの者が免許を取得しやすい環境の醸成を図ることが必要である。

 さらに、民間主催の研修会や自主的な研究会を奨励し、特別支援教育コーディネーターの資質向上や連携協力を図ることも併せて検討すべきであるとの意見があった。

 

(3)小・中学校等の通常の学級担任の専門性

○小・中学校等の教員に関する免許制度

 学校教育法上は、幼・小・中・高等学校においても特別支援教育を行う旨規定されているが、教員免許については、特別支援学級担任等と同様、幼・小・中・高等学校の免許状の保有で足り、その他の免許状の所持は必要とされていない。

 また、幼・小・中・高等学校の免許取得に係る教職に関する科目における特別支援教育の内容としては、(2)で述べたとおり、「教育の基礎理論に関する科目」中の「幼児、児童及び生徒の心身の発達及び学習の過程」において、「障害のある幼児、児童及び生徒の心身の発達及び学習の過程」を学ぶこととされているように、内容は示されているものの時間数は示されていない。

 このため、小・中学校等の免許状を取得する者が特別支援教育について一層学べるよう工夫することが重要である。

 なお、実態としては、各大学において、教科又は教職に関する科目の中で、特別支援教育に特化した内容の科目を開設している例も見受けられる。

○研修による専門性の確保への対応

 独立行政法人国立特別支援教育総合研究所における都道府県等の指導的立場にある者を対象とした研修、都道府県等の教育委員会主催の研修、各学校における校内研修等により、専門性の確保・向上を図っているところである。

○小・中学校等の通常の学級担任に求められる専門性

 小・中学校等の通常の学級担任に求められる専門性については、次のとおり整理した。

  • 特別支援教育に関する基礎的知識(障害特性、障害に配慮した指導、個別の指導計画・個別の教育支援計画の作成・活用等)
  • 教育基礎理論の一環として、障害種ごとの専門性(障害のある幼児児童生徒の心理・生理・病理、教育課程、指導法)に係る基礎的知識

○現状・これまでの取組

 国公私立の小・中学校教員のうち、平成15年4月1日から平成20年9月1日までの間に特別支援教育に関する研修を受けた者の割合は58.8%である(*3)。

 文部科学省においては、「発達障害等支援・特別支援教育総合推進事業」により、都道府県等の研修開催を促進している。

 また、教育委員会や学校においては、特別支援教育に関する教員研修や校内研修を実施している。

○検討の方向性及び課題

(専門性)

 多くの通常の学級の教員は、発達障害等の理解や知識、経験が不足しているとの声が聞かれる。また、その一方で、特別支援教育固有の視点のみでは特別支援教育の推進は困難であり、学級経営力、授業力、人間形成力など教員としての基本的資質の総合力が求められるものである。加えて、各教科などに特別支援教育の視点を加えた授業力や、特別支援教育について最低限必要な知識・理解の上での応用力・判断力・対応力等も重要である。

 そのため、小・中学校等においても、学校組織としての専門性をどのように担保するか、養成、採用、配置、研修の在り方について体系的に考える必要がある。

 また、小・中学校等の学習指導要領が改訂され、必要に応じて個別の指導計画や個別の教育支援計画を作成する旨が示されたが、通常の学級においても、その適切な作成ができるよう専門性を備えた者が支援する体制の確立に関する検討が必要である。

(教員養成・免許)

 教育職員免許法施行規則第6条に規定される小学校教諭等免許状の取得に係る教職に関する科目等における特別支援教育に関する内容の位置付けについて、例えば、「障害のある幼児、児童及び生徒の心身の発達及び学習の過程」として取り扱うべき内容を具体化する等の検討をすることが必要であると考えられる。

 併せて、教員免許更新制度に関して、教員から大学に対して特別支援教育に関する講習開設の要望が強いこと等も踏まえ、教員養成及び資質向上方策における特別支援教育に関する内容について検討することも考えられる。

(研修)

 小・中学校等の教員についても、研修等を通じた特別支援教育に関する基礎知識の修得が必要であり、これらの教員を対象とした特別支援教育に関する校内研修や教育委員会等の主催する研修を充実すべきである。

 また、通常の学級で特別支援教育を推進するためには、学級経営力や児童生徒への的確な対応力が求められており、研修もより具体的で実践的な内容にすべきである。例えば、気になる児童生徒について、教員と専門医等が連携しながらケーススタディを行うことは、教員の理解を高める上で効果的である。

 

 

*1 なお、特別支援学校教員の免許状の種類としては、特別支援学校教諭免許状のほか、特別支援学校自立教科教諭免許状及び特別支援学校自立活動教諭免許状がある(ただし、幼・小・中・高等学校の教諭の免許状を基礎としているわけではない)。

*2 参考資料54頁:教育職員免許法施行規則第6条の表中、第3欄を参照。

*3 平成20年度特別支援教育体制整備状況調査結果(文部科学省調査)による。

 

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