資料11:中澤委員提出資料

イギリスとアメリカ合衆国における障害のある子どもの就学について(補足)

中澤恵江
独立行政法人 国立特別支援教育総合研究所

 

英米における就学決定等への保護者支援システムと紛争の早期解決システム

(イギリス)

 Special Educational Needs and Disability Act 2001(特別な教育的ニーズと障害法2001)の「2 両親への助言と情報」が、両親パートナーシップ・サービスの法的根拠となっている。地方行政局は両親パートナーシップ・サービスを提供する義務があり、地方行政局自身が提供しても、他のプロバイダーに委託することもできる。その目的は、保護者の支援とエンパワメントである。役割には以下のものが含まれる:

  • SENの内容を決めるプロセスの中で、保護者の権利や役割や責任を元に、適切で中立な情報を保護者に提供する。
  • 子どものSENについて地方行政局以外の情報が得られる保健サービスや社会サービスや民間機関など、地方行政局以外の他の機関について情報を提供する。
  • SENに関する法律とSEN Code of Practiceで定められている、すべてのSENに関する手順について、正確で中立な情報を両親に提供する。
  • 情報サポートと保護者への研修を通して、SENに関するアドバイスを保護者に行うこと。
  • 保護者に、教師や市役所、地方行政局のSEN担当部署のスタッフと良いコミュニケーションと関係を作れるような研修を行う。
  • 学校、地方行政局のスタッフ、および他の政府機関と協働して、彼らが両親との積極的な関係を育むのを助ける。
  • 両親の意向について十分な理解をおこない、地方のSEN行政と実際について知らせ、理解の進展を図る。

 特別な教育的ニーズと障害法2001には続けて、「3 紛争の解決」が記されている。
 両親が裁判に訴えるに至る前に、意見の不一致についての解消の手だてを提供する義務を地方行政局に課している。早期の非公的な問題解決を促進することが目的である。公平で、独立したファシリテーターの任命が不可欠であり、ファシリテーターは以下についての経験と知識と資格を有することが必要である:意見の不一致の解決についての訓練と経験、カウンセリングと交渉のスキル;コミュニケーションを成立させ維持する能力;SENの法律とその枠組み、SEN実施ガイドライン、その他の教育の課題について精通していること。信頼性と中立性を確保し、子どもにとって最善の結論を導き出すために、調整を図ることが重要となっている。

 「2 両親への助言と情報」と「3 紛争の解決」は、両親を支援すると同時に紛争を早期に解決する支えとなる。

 

(アメリカ合衆国)

 アメリカは、イギリスよりも早くから、同様なシステムを法的に整備している。両親への研修と情報提供を可能にするセンターと、非公的な紛争解決の方法としてのmediation(仲裁)である。
 IDEA(障害のある個人の教育法)Part Dには連邦政府が競争的助成金を提供する領域が記されている。そのSubpart 3 Support to Improve Results for Children with Disabilities(障害のある子どもの成果を改善するための支援)のSection 671 両親研修・情報センター、672 コミュニティ両親リソースセンター、673 両親研修・情報センターへの技術的支援に、両親研修と情報センターの設立と役割等が記されている。
 両親研修・情報センターの理事会の過半数は障害のある子ども(0歳から26歳)の保護者であることが必要で、また、センターが支援する人口(低収入および英語を十分に話せない両親を含む)を反映する構成をもつことが必要とされている。
 両親への研修・情報提供は:自分の子どもの障害の特質および、教育、発達、移行支援についての理解;特殊教育、早期介入サービス、関連サービスを提供する職員と効果的にコミュニケートし、協働できるようにすること;3歳からはIEPの作成、0~2歳についてはIFSP(個別化された家族支援計画)の作成および意志決定の過程に参加すること;どのようなサービス、プログラム、テクノロジー、科学的根拠のある実践および介入方法のオプションがあるかを知ること;学校および家庭で、障害のある子どものために使える資源の情報等である。
 適性手続きを通して不服申し立てを行うまえに、Section615の(e)Mediation(仲裁)に規定されている、非公的な紛争解決を図ることができる。仲裁の利用は任意であり、それを利用することを両親および学校の双方が了解すると、仲裁者が両者の間に入って話し合いが進められる。仲裁者は中立な立場の人で、特殊教育および関連サービスの提供にかかわる法律に精通している。州は、有資格の仲裁者のリストをつねに用意しておくことが求められる。仲裁の間に行われる会話は決して公開されず、もしも仲裁が成立せず、不服申し立ての裁判に至った場合も、仲裁の過程で話された内容は証拠として決して使われないことになっている。
 なお、仲裁の利用をしないと考えている両親および学校に対しては、仲裁とはどういうものでどのような利点があるかの説明を受ける機会が提供される。その場合、その説明を担う人は、両親研修・情報センターと契約をしている公平な立場の人か、その他の適切な紛争解決を行う人となっている。

 

米国における義務教育段階の児童生徒の就学状況

 米国の多くの州では、義務教育に関する就学を「公立学校への就学」として規定している。このため、当該州では私立学校への就学は「義務教育の免除」として扱われている。また、州によっては、公立学校及び私立学校への就学以外に、家庭における教育(ホーム・スクール)や公式に認められた教室外での学習機会を利用する個人学習などを公立学校での義務教育と同等と認め、就学義務が免除される場合がある。

 連邦教育省所管の全米教育統計センター(NCES)によると、2007年、ホーム・スクールで学ぶ者、私立学校に在籍する者の状況は以下のとおりである。

  • 就学年齢の者は、約51,135,000人
  • ホーム・スクールで学ぶ児童生徒数(推計値)は、1,508,000人(就学年齢の者の2.9%)
    • ホーム・スクールを選んだ者にその理由を複数回答で問い、「身体的あるいは精神的な障害」を理由の一つに挙げた者(推計値)は169,000人(就学年齢の者のうちの0.33%)

  • 私立学校在籍者(推計値)は、5,072,451人
  •  うち、初等教育は、2,513,099人
        中等教育は、826,905人
        初等中等併設型は、1,732,447人

※一部の幼稚園や後期中等教育を含むデータであり、義務教育段階の在籍者数ではない。

 

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