資料11:中澤委員提出資料

イギリスとアメリカ合衆国における障害のある子どもの就学について

中澤惠江
独立行政法人 国立特別支援教育総合研究所

(英語の和訳について:disabilityとimpairmentは共に「障害」、special educationは「特殊教育」、special schoolは特殊学校と訳した。その他はできるだけ直訳した。原意が損なわれると思われる用語は、その発音をカタカナで記した。)

イギリス(連合王国の中から、ここでは最も人口の多いイングランドを選んだ)とアメリカ合衆国(以下、アメリカ)について、以下の情報を紹介する:

  • 特殊教育にかかる基礎的な情報と特徴
  • 障害のある子どもの就学の原則
  • 障害のある子どもの教育の場にかかる統計

1 イギリス

1-1 関係法令: 特別な教育ニーズ・障害法 2001年

1-2 「特別な教育ニーズ(SEN)」の定義:特別な教育的対応を必要とする「学習の困難(learning difficulty)」があるならば、その子どもは「特別な教育ニーズ(SEN)」を有する。子どもが学習の困難をもつと考えられるのは次のような場合である。

(a)同年齢の大多数の子どもよりも、学習において有意に大きな困難を有する場合。

(b)障害があり、学校において、同年齢の子どものために通常提供されている類の教育施設を活用することを,その障害が阻むあるいは妨げる場合。なお、母国語を異にするために生じる困難はSENの中に含めず、異なる資源が提供される。(「障害」の定義は1989年子ども法と1995年障害差別禁止法に示されている。)

1-3 「インクルーシブ」の考え方: インクルージョンは、プロセスであり、固定した状態ではない。それは、可能な限り、SENのある子どもが通常の学校で教育を受けるべきであるということだけではなく、子ども達が、学校でのカリキュラムと生活において完全に仲間と一緒に参加すべきということでもある。例えば、SENのある子どもは、分離したUnit(特別学級のような学級)で孤立しているよりも、通常の授業に参加することが一般的であると信じられている。しかしながら、分離した措置も、特化した目的のためには必要になる場合もある。したがって、インクルージョンは、子どものニーズに合致した教育指導とカリキュラムを包含しなければならない。

1-4 SENに応じた段階的支援の枠組み:

1-4-1 スクール・アクション: 軽度のSENに対応。個別教育計画(IEP、法的な拘束力はなく、アメリカのIEPと対比して半角でIEPと記す)の作成・評価、校内資源・コーディネータの活用で対応。各学校が柔軟に対応できるよう、学校の予算に約10%上乗せがされている。低所得者層の住む地域は、さらに多く追加される。この段階では、障害がなくとも、学習の困難があれば支援の対象とされる。また、障害があるのかどうか定かでない場合も、判定を待たずに、早期から支援を提供できる。

1-4-2 スクール・アクション・プラス: スクール・アクションでは効果が十分でない場合は、スクール・アクションに加えて、地方当局からの資金や巡回教師などの外部専門家の活用などによる支援を提供する。

1-4-3 判定書(ステートメント): 判定書とは、子どものあらゆる特別な教育ニーズおよびそのために必要な支援を記述した法的な文書であり、スクール・アクション・プラスでも効果が十分でない場合、はじめて判定書を得るための法定アセスメントを申請できる。ただし、顕著な障害を有している場合は、スクール・アクションを通さずに、判定書を得るための法定アセスメントの申請ができる。

1-4-4 教育の場を決定する時の基準: 基本は通常学校(mainstream school)。判定書をもっていないSENのある子どもは通常学校で教育されなければならない。判定書をもっている場合も、通常学校で教育されなければならない。しかし、以下の条件と相容れない場合は除く。(a)親の望み、(b)他の子どもへの効果的な教育の提供。(He must be educated in a mainstream school unless that is incompatible with – (a) the wishes of his parent, or (b) the provision of efficient education for other children.)

1-4-5 特殊学校の位置づけ: SENのある子どもが、通常学校での教育を行うことが前記した二つの条件のいずれかと相容れない場合、特殊学校はその子どもに適した教育の場として位置づけられている。

1-4-6 就学先の決定: 判定書作成のなかで、地方行政局の教育担当部局が保護者の意見聴取を行い、親の望みまたは他の子どもへの効果的な教育の提供と相容れない場合以外は、通常学校への就学が決定される。最終決定は地方行政局が行う。

1-4-7 不服審査:地方行政局が下した決定について親が不服がある場合は、SENと障害に関する調停を行う第一層調停所に申し立てることができる。

1-4-8 統計(2009年):

1-4-8-1 SENのある子ども全ての数と当該年齢人口の中の%:

1,640,610人 (20.1%)

1-4-8-2 判定書を有する子どもの数と当該年齢人口の中の%:

判定書 221,670人 (2.7%)

1-4-8-3 特殊学校に在籍する障害のある子どもの数と当該年齢人口の中の%:

82,290人 (1.02%)

1-4-8-4 障害カテゴリー毎に、特殊学校に在籍する子どもの人数

重度学習困難(21,110名)、軽度学習困難(19,630名)、明確な学習困難(950名)、重度学習障害(7,680名)、情緒障害(13,240名)、言語コミュニケーション障害(13,240名)、視覚障害(1,570名), 聴覚障害(810名)、多感覚障害、盲ろう(170名)、肢体不自由(4,150名)、自閉症(15,280名)

2 アメリカ合衆国

2-1  関係法令: 障害のある個人の教育法2004(IDEA)

2-2 「障害のある子ども」の定義:  以下の括弧内の障害カテゴリーのいずれかについて、適格性が判定された場合、その子どもは障害のある子どもと見なされ、多角的なアセスメントを受け、「個別化された教育プログラム」(Individualized Education Program, 以下IEP)が策定され、特殊教育と関連サービスを受けることができる。なお、アメリカのIEPはイギリスにおける「判定書」と同様、法的な拘束力をもつ。少なくとも年に1回の見直しが行われる。(精神遅滞、聴覚障害、言語障害、視覚障害、情緒障害、整形外科的障害、自閉症、外傷性脳損傷、その他の健康障害(ADHDを含む)、特異的学習障害(LD)、重複障害、盲ろう)

2-3 「インクルーシブ」の考え方: IDEAの原則の一つとして、FAPE「Free Appropriate Public Education(無償かつ適切な公的教育)」がある。もう一つは、LRE「Least Restrictive Environment(最も制約の少ない環境)」であり、最大限適切な限り、障害のない同年齢の子どもと教育を受ける機会をもつべきであるという原則である。生徒の障害、ニーズ、能力などを考慮し、必要な支援を提供しても、通常学級ではその生徒が教育の恩恵を受けられないと判断された場合にのみ、通常学級以外の教育の場を考えである。

2-4 教育の場を決定する時の基準: 最も制約の少ない環境は通常の学級であり、そこが基本となる。もっとも制約の大きい環境は特殊学校となる。通常学級ではなく、特殊学級、特殊学校、その他の場で教育を提供するのは、支援機器や支援サービスを使っても、通常学級では満足のいく程度までに教育の成果が得られないくらいに、障害の性質や程度が重度である場合のみとされる。

2-5 特殊学校の位置づけ: 子どもの個別のニーズに応えられるよう、「サービスの連続体continuum of service」(教育の場の連続的なバリエーションを用意しておくことを意味しており、通常学級、通級、特殊学級、特殊教育学校、病院や家庭への訪問教育等までを含める)を確保しておくことがIDEAに規定されている。

2-6 就学先の決定:「個別化された教育プログラム(IEP)」会議は学区の責任で行い、必要な支援等が会議メンバーの話し合いで決定される。その上で、どの教育の場で、どのくらいの時間数そこで教育を受けることがその子どもに適切かを話し合い、決定する。なお、IEP会議は次のようなメンバーから構成されることが多い ー 親または保護者(不可欠)、適切なら子ども自身、特殊教育教師、通常教育教師、評価結果を翻訳できる人、子どもについての知識や特別な専門性のある人、学校あるいは学区の代表で学校の資源調達可能性について知識のある人等。なお、学区は、その学区内に居住する子どもが、どの教育の場に就学しても、その子どものIEPの実施に責任を有する。アメリカの学区のほとんどは、独自の税収入をもつ。

2-7 不服審査: 障害があるかどうかの判定、アセスメント、教育の場の選択、適切な公教育の提供について、親に不服がある場合、それを申し立てて審査を受けることができる。適正審査の手続きがIDEAには規定されている。

2-8 統計:

2-8-1 「障害のある子ども」(6~17歳、2008年)の数と、当該年齢人口の中の%:

5,538,889人、  11.1%

2-8―2 障害カテゴリー別の障害のある子どもの、当該年齢人口の中の%:

特異的学習障害(4.78%、最も大きな障害グループ)、言語障害(2.25%)、その他の健康障害(1.25 %)、精神遅滞(0.81%)、情緒障害(0.78%)、自閉症(0.55%)、重複障害(0.21%)、聴覚障害(0.13%)、整形外科的障害(0.12%)、視覚障害(0.05%)、外傷性脳損傷(0.04%)、盲ろう(0.02% 最も小さい障害グループ)

2-8―3 特殊学校に在籍する障害のある子ども(6~21歳、2008年)の数と全児童生徒の中の率:

194,110人、 0.3%

2-8-4 障害カテゴリー毎に、そのカテゴリー内で、特殊学校に在籍する子どもの率

言語障害(0.3%、最小の率)、特異的学習障害(0.7%)、その他の健康障害(1.8%)、整形外科的障害(5.7%)、外傷性脳損傷(6.4%)、精神遅滞(6.5%)、自閉症(9.3%)視覚障害(10.8%)、聴覚障害(12.2%)、情緒障害(15.2%)、重複障害(22.5%)、盲ろう(30.5%、最大の率)

3 イギリスとアメリカ、そして日本

3-1 就学率、2005年(UNDP人間開発報告書2007/2008、P305より)

イギリス:初等教育 99% 中等教育 95%

アメリカ:初等教育 92% 中等教育 89%

日本:初等教育 100% 中等教育 100%(四捨五入のため100%と表記されているが、実際は99.9%で、全員が就学いるのではない)

3-2 就学基準:  

イギリスとアメリカの基準と日本の基準の違い

イギリスとアメリカの基準の違い

日本のこれらかの就学基準への示唆

3-3 特別支援学校に在籍している子どもの率

イギリス 1.02%

アメリカ 0.3%

日本 0.5%

数値的に、日本は世界的に見て低い部類に入る。

しかし、これだけをもってして「インクルーシブ」とは言えない(就学基準、通常学校の支援不足)

3-4 特殊教育の恩恵を受けている障害のある子ども、SENのある子ども、

イギリス  20.1% (障害以外の学習困難を含む)

アメリカ  11.4% (全員障害を有すると判定されている)

日本    2.0%  (特別支援学校 0.58%、特別支援学級 1.26%、通級による指導 0.5%)

イギリスのSENのある子ども及びアメリカの障害のある子どもの大多数は、通常学校において特殊教育の支援を受けている。日本の通常の学級には、「障害があると認められていない障害のある子どもたちが、すでに多く在籍しており、特別支援教育の支援を受けていない」ことが推測される。

3-5 イギリスの「学習困難」とアメリカの「障害の適格性」

二つの異なる枠組み。日本にとって、インクルーシブな教育制度を推進するときに、どちらがより示唆に富むか。

3-6 イギリスとアメリカに見る、インクルーシブな教育制度を推進する資源配分の在り方

 

以上

お問合せ先

初等中等教育局特別支援教育課

(初等中等教育局特別支援教育課)