資料4:障害者制度改革の推進のための基本的な方向(第一次意見)平成22年6月7日 障がい者制度改革推進会議-抜粋-

 第2 障害者制度改革の基本的考え方

     障害者権利条約の締結に向け、国内法制をその理念・趣旨に沿う形で整備するとともに、日本が目指すべき社会である、障害の有無にかかわらず、それぞれの個性の差異と多様性が尊重され、それぞれの人格を認め合う「共生社会」を実現することを目的とし、制度改革を進めるに当たっての基本的な考え方は次のとおりとする。

1.「権利の主体」である社会の一員

     すべての障害者を、福祉・医療等を中心とした「施策の客体」に留めることなく、「権利の主体」である社会の一員としてその責任を分担し、必要な支援を受けながら、自らの決定・選択に基づき、社会のあらゆる分野の活動に参加・参画する主体としてとらえる。

2.「差別」のない社会づくり

     何人も障害を理由とする差別を受けない権利を有することを確認するとともに、差別を禁止し、権利の侵害から救済を受ける法制度を構築し、差別のない社会づくりを目指すものとする。なお、差別には合理的配慮が提供されない場合も含むものとする。また、女性であることによって複合的差別を受けるおそれのある障害のある女性の基本的人権に配慮する。

3.「社会モデル」(注)的観点からの新たな位置付け

     障害者が日常生活又は社会生活において受ける制限は、様々な社会環境との相互作用や社会との関係性の在り方によって生ずるものであるという「社会モデル」的認識を踏まえ、障害のとらえ方や障害者の範囲、障害者への各種支援制度等を見直すとともに、障害者の日常生活及び社会生活のあらゆる分野への参加を可能かつ容易にするため、公共的施設、輸送機関、情報通信等の社会環境の改善を図る。

4.「地域生活」を可能とするための支援

     すべての障害者が家族への依存から脱却し、自ら選択した地域において自立した生活を営む権利を有することを確認するとともに、その実現のために24時間介助等を含む支援制度の構築を目指す。制度の構築に当たっては、地域間格差が生じないよう十分に留意する。

5.「共生社会」の実現

     障害者の自立及び社会参加の支援等のための施策を総合的かつ計画的に推進し、もって障害者への支援と人権の確保を図ることにより、障害の有無にかかわらず、それぞれの個性の差異と多様性が尊重され、それぞれの人格を認め合う共生社会の実現を図る。

第3 障害者制度改革の基本的方向と今後の進め方

  第2の基本的考え方を踏まえ、障害者制度改革の基本的方向と今後の進め方については次のとおりとする。

4.個別分野における基本的方向と今後の進め方

     以下の各個別分野については、推進会議の問題認識を踏まえて改革の集中期間内に必要な対応を図るよう、横断的課題の検討過程や次期障害者基本計画の策定時期等も踏まえた改革の工程表を示していくべきであり、事項ごとに関係府省において検討を進め、所要の期間内に結論を得て、必要な措置を講ずるべきである。

2)教育

(推進会議の問題認識)

 障害者権利条約においては、あらゆる教育段階において、障害者にとってインクルーシブな教育制度を確保することが必要とされている。

 障害の有無にかかわらず、それぞれの個性の差異と多様性が尊重され、それぞれの人格を認め合う共生社会の構築に向け、学校教育の果たす役割は大きい。人間の多様性を尊重しつつ、精神的・身体的な能力を可能な最大限度まで発達させ、自由な社会に効果的に参加するとの目的の下、障害者が差別を受けることなく、障害のない人と共に生活し、共に学ぶ教育(インクルーシブ教育)を実現することは、互いの多様性を認め合い、尊重する土壌を形成し、障害者のみならず、障害のない人にとっても生きる力を育むことにつながる。

 また、義務教育だけでなく、就学前の教育、高校や大学における教育、就労に向けた職業教育や能力開発のための技術教育、生涯教育等についても、教育の機会均等が保障されなければならない。

 なお、現行の教育基本法の第4条第1項の教育上差別されない例示に「障害」が明記されていないところであり、「障害」が除かれる趣旨ではないものの、今後明文化することも検討すべきである。

 

【地域における就学と合理的配慮の確保】

 日本における障害者に対する公教育は、特別支援教育によることになっており、就学先や就学形態の決定に当たっては、制度上、保護者への意見聴取の義務はあるものの、本人・保護者の同意を必ずしも前提とせず教育委員会が行う仕組みであり、本人・保護者にとってそれらの決定に当たって自らの希望や選択を法的に保障する仕組みが確保されていない。

 また、特別支援学校は、本人が生活する地域にないことも多く、そのことが幼少の頃から地域社会における同年齢の子どもと育つ生活の機会を失わせたり、通常にはない負担や生活を本人・保護者に求めたり、地域の子どもたちから分離される要因ともなっている。

 障害者が地域の学校に就学し、多大な負担(保護者の付き添いが求められたり、本人が授業やそれ以外の教育活動に参加しにくいまま放置されるなど)を求められることなく、その学校において適切な教育を受けることを保障するためには、教育内容・方法の工夫、学習評価の在り方の見直し、教員の加配、通訳・介助者等の配置、施設・設備の整備、拡大文字・点字等の用意等の必要な合理的配慮と支援が不可欠である。

 このような観点から、以下を実施すべきである。

 

  • 障害の有無にかかわらず、すべての子どもは地域の小・中学校に就学し、かつ通常の学級に在籍することを原則とし、本人・保護者が望む場合のほか、ろう者、難聴者又は盲ろう者にとって最も適切な言語やコミュニケーションの環境を必要とする場合には、特別支援学校に就学し、又は特別支援学級に在籍することができる制度へと改める。 
  • 特別支援学校に就学先を決定する場合及び特別支援学級への在籍を決定する場合や、就学先における必要な合理的配慮及び支援の内容を決定するに当たっては、本人・保護者、学校、学校設置者の三者の合意を義務付ける仕組みとする。また、合意が得られない場合には、インクルーシブ教育を推進する専門家及び障害当事者らによって構成される第三者機関による調整を求めることができる仕組みを設ける。
  • 障害者が小・中学校等(とりわけ通常の学級)に就学した場合に、当該学校が必要な合理的配慮として支援を講ずる。当該学校の設置者は、追加的な教職員配置や施設・設備の整備等の条件整備を行うために計画的に必要な措置を講ずる。

【文部科学省】

【学校教育における多様なコミュニケーション手段の保障】

 障害者の人格、才能及び創造力並びに精神的及び身体的な能力を可能な限り発達させるためには、教育が本人にとって最も適当な言語並びにコミュニケーションの形態及び手段によって行うことが確保されなければならない。

 このような観点から、以下を実施すべきである。

 

  • 手話・点字・要約筆記等による教育、発達障害、知的障害等の子どもの特性に応じた教育を実現するため、手話に通じたろう者を含む教員や点字に通じた視覚障害者を含む教員、手話通訳者、要約筆記者等の確保や、教員の専門性向上に必要な措置を講ずる。 
  • 教育現場において、あらゆる障害の特性に応じたコミュニケーション手段を確保するため、教育方法の工夫・改善等必要な措置を講ずる。

【文部科学省】

 

 (政府に求める今後の取組に関する意見)

  • 障害のある子どもが障害のない子どもと共に教育を受けるという障害者権利条約のインクルーシブ教育システム構築の理念を踏まえ、体制面、財政面も含めた教育制度の在り方について、平成22年度内に障害者基本法の改正にもかかわる制度改革の基本的方向性についての結論を得るべく検討を行う。
  • 手話・点字等による教育、発達障害、知的障害等の子どもの特性に応じた教育を実現するため、手話に通じたろう者を含む教員や点字に通じた視覚障害者を含む教員等の確保や、教員の専門性向上のための具体的方策の検討の在り方について、平成24年内を目途にその基本的方向性についての結論を得る。

 

(注)障害の「医学モデル」とは、心身の機能・構造上の「損傷」(インペアメント)と社会生活における不利や困難としての「障害」(ディスアビリティ)とを同一視したり、損傷が必然的に障害をもたらすものだととらえる考え方であり、障害の原因を除去したり、障害への対処において個人への医学的な働きかけ(治療、訓練等)を常に優先する考え方である。また、医学モデルは、障害を個人に内在する属性としてとらえ、同時に障害の克服のための取組は、もっぱら個人の適応努力によるものととらえる考え方であり、障害の「個人モデル」とも呼ばれる。

 障害の「社会モデル」とは、損傷(インペアメント)と障害(ディスアビリティ)とを明確に区別し、障害を個人の外部に存在する種々の社会的障壁によって構築されたものとしてとらえる考え方である。それは、障害を損傷と同一視する「医学モデル」を転換させ、社会的な障壁の除去・改変によって障害の解消を目指すことが可能だと認識するものであり、障壁の解消にむけての取組の責任を障害者個人にではなく社会の側に見いだす考え方である。ここでいう社会的障壁には道路・建物等の物理的なものだけではなく、情報や文化、法律や制度、さらには市民の意識上の障壁等も含まれている。

 なお、ここで示した両モデルは、あくまでも「障害」に対する基本的な考え方の枠組みと方向性を表すものであり、医療や福祉、リハビリテーション等での実際の個別の取組においては、両モデルは混在している。したがって、認識論としての医学モデルと、実践行為としての医療やリハビリテーションは区別してとらえるべきであり、その意味では、社会モデルに立脚した医療やリハビリテーションの実践が今後求められていると言えるだろう。

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