2.改革の具体的方策

1.教職課程の質の維持・向上

(1)教職課程の改善・充実

 大学の教職課程が、教員として必要な資質能力を確実に身に付けさせるものとなるためには、何よりも大学自身の教職課程の改善・充実に向けた主体的な取組が重要である。教職課程の教育内容・方法等については、平成9年の教養審第一次答申や平成11年の教養審第三次答申において、様々な改善・充実方策が提言されており、必要な制度改正も行われたところである。課程認定大学においては、これらの答申をいま一度真摯に受け止め、学内に周知するとともに、学長・学部長等がリーダーシップを持って、カリキュラム編成や教授法の改善・向上、成績評価の厳格化等に取り組むことが必要である。

 今後、学生が教職についての理解を深め、将来教職に就くことについて多角的に考察する過程を援助し、動機付けを図るような指導(以下「教職指導」という。)を一層充実することが必要である。教職指導の重要性については、教養審第一次答申等でも指摘されてきたが、現状においては、「教職の意義等に関する科目」において、教職課程の履修の初期段階で行われているものの、それ以降は、個々の大学や学生の取組に委ねられている部分が多く、課程認定大学全体としての取組は必ずしも十分ではない。今後、後述するように、新たな必修科目の設定により、教職課程の最終段階で教員としての資質能力の全体を最終的に形成し、確認することとした場合、教職課程全体を通じて、教職に対する理解を深め、自己の教職への適性等を繰り返し考察させるような機会を設けることは重要である。このため、法令上も、教職課程全体を通じた教職指導の実施を明確にすることが必要である。

 具体的な実施に当たっては、教職課程の履修者に対して、早い段階から、例えばインターンシップ等の学校現場や教育関連施設を体験する機会や子どもとの触れ合いの機会、現職教員との交流の機会等を提供するなど、課外における活動も含め、体系的・計画的な教職指導の実施を工夫することが必要である。また、例えば個々の学生について履修履歴等を確認しながら、各学年の修了毎に必要な教職指導を行うなど、柔軟な指導の工夫や、それに応じた体制整備を図ることも必要である。

 教養審第一次答申等で提言された「教員養成カリキュラム委員会」の設置は、カリキュラムの体系的な編成や科目間の内容の整合性・連続性を確保する上で、重要な意義を有する。特に、今後、新たな必修科目を設定することとした場合、当該科目と他の科目等との関連性を確保したり、前述の教職指導を円滑に実施する上で、教員養成カリキュラム委員会は中心的な役割を果たすものと考える。このため、今後とも、各課程認定大学における設置を積極的に推進するとともに、学校現場の実態を踏まえたカリキュラム改善や教職指導が行われるよう、必要に応じて、学校関係者や教育委員会との意見交換を行ったり、教職経験者や学外者等の意見を求めるなど、運営方法の工夫を図ることも必要である。

 教職課程のうち、特に教育実習については、学校現場での教育実践を通じて、自らの教職への適性や進路を考える貴重な機会であり、今後とも大きな役割が期待される。このため、実習協力校の確保・拡充に向けた大学と教育委員会との連携・協力の一層の推進、教職課程全体を通じた計画的な実施の工夫、教育実習の実施に必要な知識・技能等を学生が身に付けているかを十分確認した上で実習を認めることとするなど履修要件の厳格化、大学の教員と受け入れ学校の指導教員による連携の強化、事前・事後指導の徹底、受け入れ学校の理解促進と負担軽減、単位授与の際の適切な評価等の点で、一層の改善・充実を図ることが必要である。

 教養審第三次答申で提言された教職課程のモデルカリキュラムの開発研究については、その後、複数のモデルカリキュラムが開発されたものの、必ずしも十分活用されるには至っていない。課程認定大学が、構造的・体系的にカリキュラムを編成し、教職課程全体を通じて計画的な履修指導を行う上で、モデルカリキュラムの開発研究は、大きな意義を有するものである。今後とも引き続き、教員養成大学等関係者を中心にして、その開発研究を行うとともに、国においても、教育内容・方法の開発・充実や実践性の高い優れた取組を支援することが必要である。

 変化の激しい社会状況や子どもの多様化等を考慮すると、教員には、これまで以上に広く豊かな教養を身に付けていることが求められており、課程認定大学においては、体験活動やボランティア活動等を充実したり、自然科学や人文科学、社会科学等の高度な教養教育を実施することが必要である。また、これらの教育を通して、地域社会に対する理解を深めたり、教材解釈能力を育成することも重要である。

(2)教職課程の認定審査や事後評価の充実

 課程認定大学における教職課程の改善・充実に向けた取組とともに、今後は、教職課程の質を維持し、その向上を促すため、教職課程の認定の際の審査や認定後の評価の充実を図ることが重要である。具体的には、教職課程の認定審査については、大学全体の教職課程の運営方針等を審査対象としたり、教員養成に対する理念・構想など、当該大学の教員養成に対する姿勢や、教職課程を必要とする理由を十分に確認するなど、改善・充実を図ることが必要である。

 認定後の教職課程については、課程認定委員会による実地視察の対象を拡充することや、教職課程の運営状況に関する定期的な報告を課すこと、教職課程が法令や審査基準に違反すると認められる場合には、是正勧告や教職課程の認定の取り消し等の措置を行うことを可能とすること等、教職課程の質が確実に維持されるような方策を講ずることが必要である。

 今後は、各大学の教職課程が適切に運営されているかどうかを、事後的・継続的にチェックし、必要な改善等を促す仕組みを整備することが重要であり、教職課程に関する外部評価や第三者評価を導入する方向で、検討することが必要である。なお、この際には、既存の認証評価制度や他の評価制度との関係に留意し、効率的な評価が行われるよう工夫する必要がある。

2.教員免許状の授与の要件の改善

 大学の教職課程で養成すべきとされてきた資質能力のうち、専門的な知識・技能以外については、これまで基礎資格(学士の学位等)の取得及び教職課程の単位修得等により確認されている部分があるものの、教員の役割等を踏まえた実践的指導力の基礎などの最終的な形成は、教職指導等を通じて個々人において形成されているとして、明示的には確認されてこなかった部分である。このため、今後は、課程認定大学において、教員として最小限必要な資質能力の全体について、教職課程の履修を通じて、確実に身に付けさせるとともに、その資質能力の全体を明示的に確認する方策を講ずることが必要である。これにより、免許状の授与の前提として、教員として最小限必要な資質能力の全体を確認(保証)することになり、免許状に対する信頼が高まる。

 具体的方策としては、「大学における教員養成」の原則や、我が国の教員免許制度等との関係を考慮すると、教職課程の中に、新たな必修科目(「教職実践演習(仮称)」)を設定し、その履修により確認することが適当である。当該科目は、教職課程の履修全体を通じて身に付けるべき資質能力を最終的に形成し、その確認を行うための総合実践を行う科目として位置付けられるものである。

 教員養成の水準や免許状の質を確保するとともに、この科目の履修を通じて、教員としての資質能力の確実な確認が行われるようにするためには、教職課程の他の科目と同様、科目に含めることが必要な事項を、法令上、明確にすることが必要である。当該科目の目的等を考慮すると、具体的には、教員として求められる4つの事項(1使命感や責任感、教育的愛情等に関する事項 2社会性や対人関係能力に関する事項 3幼児児童生徒理解に関する事項 4教科等の指導力に関する事項)を含めることとすることが適当である。また、科目内容等の検討に当たっては、最新の教育に関する動向等を踏まえつつ、例えば教職の意義や教員の役割等を再確認させたり、教員の具体的職務内容や学校現場の実態等についての理解を深めさせたり、教科指導や生徒指導等に関する実践的指導力の基礎を定着させること等に、留意する必要がある。

 この科目の実施に当たっては、講義形式は極力避け、演習(指導案の作成や模擬授業・場面指導の実施等)や事例研究、グループ討議等を適切に組み合わせて実施することや、基本的に複数の教員の協力方式により実施すること、最終年次の配当科目とすることなど、履修方法等を適宜工夫することが適当である。

 以上のような科目の目的・内容等を考慮すると、成績評価については、例えば複数の教員が多面的な角度から評価を行い、その一致により単位を認定することとするなど、適切な判定が行われるよう工夫をすることが必要である。

 具体的にこの科目をどのように構成し、実施するかは、基本的に各課程認定大学の判断に委ねられるが、実施に当たっての着眼点を例示するとすれば、別紙のような点が考えられる。

 この科目の単位数は1単位程度とすることが適当であると考えるが、2単位程度は必要ではないかとの意見もあり、さらに検討することが必要である。科目区分については、現行の教科に関する科目や教職に関する科目とは異なる新たな科目区分(「総合実践に関する科目(仮称)」)を設けることが適当である。この場合、教職に関する科目に属する既存の科目についても、あわせて科目区分の在り方を検討することが必要である。
 また、関連する教職に関する科目(例えば、「教職の意義等に関する科目」)の単位数を減ずるなどの措置を講ずることにより、現行の教職課程の修了に必要な総単位数は維持することが適当であると考えるが、総単位数の増加も含めて検討すべきではないかとの意見もある。この点については、大学等関係者の理解を得ることも必要であり、単位数を増加することとした場合の教育体制の整備等大学側の負担や学生の履修上の負担等を考慮しつつ、さらに検討することが必要である。

 この科目が、教員としての資質能力の全体を最終的に形成し、確認する上で、より実効あるものとなるためには、1.で述べたように、教職課程全体を通じた計画的な教職指導の充実を図ることが重要であり、今後、各課程認定大学においては、教員養成カリキュラム委員会等の組織を活用して、教職指導との関連付け等について検討することが必要である。

 新たに設定する必修科目の内容等については、上記の基本方向を踏まえつつ、今後、大学等関係者の意見を聴くなどしながら、専門的見地から、さらに検討することが必要である。

3.教員免許更新制の導入

(1)導入の基本的考え方

1.導入の必要性及び意義

 教員免許状が、教職生活の全体を通じて、教員として必要な資質能力を確実に保証するものとなるためには、免許状の授与の段階だけでなく、取得後も、必要な資質能力が保持されるようにすることが必要である。教員は、子どもが一生を安全に、幸福に、かつ有意義に生きることができる基礎を培うことを職務の本質としており、子どもの側が教員を選ぶことができない中で、一生を左右しかねない重要な役割を担っている。このため、教員には、常に研究と修養に努めることが求められているが、特に教員を取り巻く社会状況や学校教育が抱える課題、子どもの状況等が大きく変化している現在、これまで以上に最新の知識や技能を修得するなど、厳しい自己研鑽が求められている。仮に、このような自己研鑽が行われず、十分な資質能力が保持されていない場合、人格形成や能力の伸長を図る大切な時期にある子どもに回復しがたい多大な損失を与えるおそれが強い。

 こうした教員の職務の重要性や影響、教員を取り巻く今日的状況等を考慮すれば、一度取得した免許状を生涯有効とするのではなく、社会状況や学校教育が抱える課題、子どもの変化等に対応して、その時々で求められる教員として最小限必要な資質能力が保持されるよう、定期的に必要な刷新(リニューアル)とその確認を行うことが必要であり、このための具体的方策として、教員免許更新制(以下「更新制」という。)を導入することが必要である。

 更新制を、上記のような目的の制度として位置付けた場合、導入の意義としては、主に次の点が挙げられる。
 即ち、更新制の導入により、すべての教員について、社会状況や学校教育が抱える課題、子どもの変化等に対応して、その時々で必要とされる最新の知識・技能等を確実に付与することが可能となる。近年、学校教育をめぐっては、学習指導要領の見直しを含む教育内容の改善の動きや、LD(学習障害)・ADHD(注意欠陥/多動性障害)等、子どもに関する新たな課題の発生、学校運営への地域住民の参画の広がりなど、これまでの知識・技能だけでは対応できない本質的な変化が、短期間の間に生じてきている。このような激しい変化に対応して、すべての教員が自らの職責を果たしていくためには、教員として必要な資質能力を定期的に刷新(リニューアル)し、その時々で必要とされる資質能力が確実に保持されるよう制度的な措置を講ずることが重要である。
 特に、教員免許状は、国・公・私立学校を通じた教員資格であり、現職教員以外にも、多くの免許状保有者がいることを考えると、更新制の導入により、免許状がその時々で求められる教員として必要な資質能力を確実に保証するものとなることは、免許状保有者や教員全体に対する保護者や国民の信頼を確立する上で、大きな意義を有するものと考える。
 また、現在のように、民間企業経験者等、多様な人材の登用が進んでいる状況においては、現に教職に就いていない免許状保有者も対象とする更新制を導入することは、教員採用者全体の質を維持することにも寄与するものと考える。

 さらに、免許状の更新時に、その時々で必要とされる最新の知識・技能等を付与することとした場合、これを契機に、教員の自己研鑽が促進されるなど、教員としての専門性向上への動機付けとなることが期待できる。また、こうした向上意欲に富む教員の増加により、教員同士が互いに学び合ったり、自主的な研究活動が活発化するなど、教員全体としての専門性向上が促進されるなどの効果も期待できる。

2.平成14年中央教育審議会答申との関係

 平成14年の中教審答申「今後の教員免許制度の在り方について」では、更新制の導入の可能性について、1教員の適格性確保のための制度としての可能性、2教員の専門性を向上させる制度としての可能性の2つの視点から検討を行った結果、「なお慎重にならざるを得ない」との結論に至っている。今回は、当時指摘された課題等を踏まえ、どのような制度であれば導入が可能であり、また現在の状況にふさわしいのかという観点から、更新制の在り方を検討した結果、「その時々で求められる教員として必要な資質能力が保持されるよう、定期的に必要な刷新(リニューアル)を図るための制度」として、導入することが適当ではないかとの結論に至った。

 平成14年の中教審答申においては、前述した2つの視点それぞれについて、具体的な課題が指摘されたが、これらを大別すれば、(1)分限制度との関係、(2)専門性向上との関係、(3)一般的な任期制を導入していない公務員制度との関係、(4)我が国全体の資格制度との関係の4つに分類できる。

 このうち、(1)分限制度との関係については、資格制度としての免許状は、あくまでも個人が身に付けた資質能力を公証するものであり、個人の素質や性格等に起因するような適格性が確保されているかどうかについては、基本的に任用制度により対応すべき問題である。したがって、このような意味での適格性に欠ける者については、現在すべての都道府県教育委員会等で進められている指導力不足教員に対する人事管理システムや分限制度等の厳格な運用により、対応することが適当であると考える。一方、今回検討する更新制においても、更新時に、その時々で求められる教員として必要な資質能力が保持されるよう、定期的に必要な刷新(リニューアル)とその確認が行われることとなる。

 (2)専門性向上との関係については、基本的に教員の専門性の向上は、現職研修により対応すべき事柄であるが、今回検討する更新制において、定期的に必要な刷新(リニューアル)を図ることとした場合、国・公・私立学校を通じて、その時々で求められる資質能力が確実に保持されることになる。このことは、現職研修を個々の教員の能力や適性等に応じたより効果的なものに改善する上で、大きな意義を有する。また、後述する免許更新講習の受講をきっかけとして、個々の教員の専門性向上への自己研鑽が期待できること等も考慮すると、専門性向上を目的とする現職研修とは異なる施策として、更新制を導入する必要性は高いものと考える。

 (3)一般的な任期制を導入していない公務員制度との関係については、更新制はその時々で求められる教員として必要な資質能力が保持されるよう、免許状に有効期限を設け、その満了時に、一定の更新要件を課し、これを満たせば、免許状が更新される資格制度上の制度である。これに対して、任期制は、あらかじめ一定の任用期間を定めて職員を採用するという任用上の制度であり、業績評価等に応じて、再度任用することはありうるものの、一定の要件を満たせば、再任用されることを前提とした制度ではないことから、基本的に更新制とは趣旨・目的を異にするものである。

 (4)我が国全体の資格制度との関係については、本来、資格制度の在り方は、当該制度の特性や業務の性質等を踏まえて検討されることが基本であると考える。一度取得した職業上の資格が、事後において一定の要件を満たさない場合に失効となることは、職業選択の自由に関連する問題であり、慎重な検討が必要なことは言うまでもない。しかしながら、上記1で述べたような教員の職務の重要性や特殊性、影響等、さらには、これからの変化の激しい時代の中で、教員に必要な資質能力をいかに確実に保持させていくかということを考えた場合、教員免許状に更新制を導入する必要性は高いものと考える。

 平成14年の中教審答申は、将来的な更新制の導入を否定しているものではなく、科学技術や社会の急速な変化等に伴い、再度検討することもあり得ることが示されている。1.1.において述べたとおり、近年の学校教育をめぐる状況は、従来とは大きく変化している。これらの変化の萌芽は、平成14年の答申当時も一部現れていたが、現在、こうした変化が、より明確に、かつ複合的に生じてきており、そのことが学校に対する保護者や国民の信頼を揺るがす主な要因となっている。本年7月の中教審義務教育特別部会の審議経過報告においても、安心し、信頼して子どもを託すことのできる学校を求める保護者や国民のニーズが高まっており、「教師に対する揺るぎない信頼を確立する」ことが極めて重要であるという認識が示されている。このような状況を考慮しつつ、これからの社会の進展や国民が求める学校像を展望すると、教員の資質能力を確実に保証するための方策を講ずる必要性は、平成14年の答申時に比べて、格段に高まっているものと考える。

(2)具体的な制度設計

1.更新の要件

 更新制については、(1)において述べたように、教職生活の全体を通じて、社会状況や学校教育が抱える課題、子どもの変化等に対応して、その時々で求められる教員として必要な資質能力が保持されるよう、定期的に必要な刷新(リニューアル)を図る制度として、検討することが適当である。

 更新制をこのような目的・性格の制度とした場合、更新の要件については、免許状の有効期限内に、一定の講習(以下「免許更新講習」という。)を受講し、修了認定を受けることとすることが適当である。この場合には、いわゆるペーパーティーチャーについても、免許更新講習の受講及び修了認定の確認により、免許状を更新することは可能になるものと考えられる。

2.免許更新講習の在り方

 免許更新講習については、課程認定大学における所要の単位修得等により免許状が授与されるものであることを踏まえつつ、受講機会を幅広く確保する観点から、課程認定大学が開設する講習のほか、大学の関与や大学との連携協力のもとに都道府県教育委員会等が開設する講習等も、対象とすることが適当である。いずれの場合も、実施主体からの申請に基づき、一定水準以上にあることを国が認定するなど、講習の質の確保に留意する必要がある。また、以下に述べるような免許更新講習の内容・方法等を考慮すると、課程認定大学が実施する場合でも、学校や教育委員会等の協力や参画を求めるなど、できる限り学校現場の実態等に即した講習が行われるよう工夫することが必要である。

 免許更新講習の内容等については、あらかじめ国において基本的な内容等について定めておくことが適当である。具体的には、上記2.で述べた新設科目(「教職実践演習(仮称)」)に含めることが必要な事項(1使命感や責任感、教育的愛情等に関する事項 2社会性や対人関係能力に関する事項 3幼児児童生徒理解に関する事項 4教科等の指導力に関する事項)と同様の内容を含むものとすること、また、社会状況や学校教育が抱える課題、子どもの変化等に応じ、その時々で求められる教員として必要な資質能力に確実に刷新(リニューアル)する内容を含むものとすることが適当である。
 なお、それ以上のレベルの講習として、例えば、教職経験等に応じた内容の講習を開設することも、教員の専門性向上を促す契機となることから望ましい。これにより、個々の教員が更新時にどのような講習を受講したかについて、例えば免許状に裏書すること等により、その後の研修等の参考資料として活用することも考えられる。

 免許更新講習の実施形態については、その時々で求められる教員として必要な資質能力に確実に刷新(リニューアル)し、その確認ができるよう工夫することが必要である。具体的には、講義のみではなく、新設科目(「教職実践演習(仮称)」)に含めることが必要な事項に関する講習では、事例研究や場面指導、グループ討議のほか、指導案の作成や模擬授業等を取り入れたりするなどの工夫を図ることが必要である。

 免許更新講習の修了認定については、課程認定大学等の実施主体が、あらかじめ各講習科目の修了目標を定め、それに達していると判断した場合には、修了を認定することとするのが適当である。

 免許更新講習の受講時期については、当該講習の受講の有効性や、計画的な受講の促進、受講者の負担等を考慮すると、有効期限の満了時の直近1~2年間程度の間に受講することを基本として、検討することが適当である。また、講習時間については、講習の受講時期や受講者の負担、一定程度の時間確保等を考慮すると、有効期限の満了時の直近1~2年間程度の間に、全体で20~30時間程度の講習を受講する方向で、検討することが適当である。

 免許状の更新に際しては、免許更新講習の全てを受講することが原則であるが、教員としての研修実績や勤務実績等が当該講習に代替しうるものとして評価できる場合もあり得ると考えられることから、免許更新講習の受講については、更新対象者の研修実績や勤務実績等に応じて、その全部又は一部を免除することが可能かどうか、検討することが必要である。また、その時々で求められる教員として必要な資質能力に刷新(リニューアル)する内容以上のレベルの講習を受講・修了した場合には、その実績を上進制度における単位の修得に代替することが可能かどうかについて、検討することが必要である。

 免許更新講習の具体的な在り方については、上記の基本方向を踏まえ、課程認定大学等の開設に伴う負担等を考慮しつつ、法制度上の課題も含め、専門的見地から、さらに検討することが必要である。

3.教員免許状の有効期限

 教員免許状の有効期限については、更新制の目的や具体的な更新要件、教員のライフステージ等を総合的に勘案すると、一律に10年間とする方向を基本として、検討することが適当である。なお、初回の更新を、例えば5年間程度の早い時期に設けることにも一定の意義があるとの意見もあり、この点については、さらに検討することが必要である。

 育児休業期間中や海外の日本人学校に勤務中である等、免許更新講習を受講できない特別の事情がある者については、有効期限等について適切な配慮を講じることが適当である。

4.教員免許状の失効

 上記1の更新の要件を満たさない場合、教員免許状は更新されず、当該免許状は失効することとなる。現に教員である者については、引き続き教員としての職務に従事することはできなくなり、公立学校の教員の場合は、教員免許状の失効に伴い、教育公務員としての身分を失うことになるものと考えられるが、当該者を他の職として採用するかどうかは、任命権者の判断によるものであると考える。
 また、国・私立学校の教員の場合については、更新制の導入に伴い、教員免許状が失効した場合の取扱い等について、雇用主と教員との間で、あらかじめ取り決めておくことが必要である。

5.教員免許状の再授与の在り方

 教員免許状が失効した場合でも、学士の学位等の基礎資格や大学等における所要単位の修得は、従前と同様、将来にわたって有効であること、また、民間企業等に就職した後に、再度、教員を志すような者に対して広く門戸を開いておくことは有益であること等から、制度上、免許状の再授与の途を設けておくことが適当である。その場合、免許更新講習と同様の内容を含む講習を受講し、修了の認定を受ければ、失効してからの年数に関わらず、再授与の申請を可能とする方向で、検討することが適当である。

 なお、このような取扱いとする場合には、現在、懲戒免職等の事由により免許状が失効又は取上げとなった者について、3年を経過すれば、特段の要件を課すことなく、再授与の申請を可能としている点についても、あわせて見直しを検討することが適当である。

6.教員免許状の種類ごとの更新制の取扱い

 更新制は、全ての普通免許状(専修免許状、一種免許状、二種免許状)に、同等に適用する方向で検討することが適当である。特別免許状については、普通免許状に準じた取扱いとする方向で、検討することが適当である。臨時免許状については、現行制度上、既に有効期限が付されていることから、引き続き、現行と同様の取扱いとする方向で検討することが適当である。

7.複数の教員免許状を有する者の取扱い

 複数の教員免許状を有する者については、それぞれの免許状について更新制が適用されることとなるが、免許更新講習は、その時々で共通に求められる教員として必要な資質能力に刷新(リニューアル)するものであり、また、仮に各免許状について免許更新講習を課した場合、免許状保有者に過重な負担がかかり、複数免許状の保有促進に逆行することになりかねない。このため、複数免許状の保有者については、一の免許状について更新の要件を満たせば、他の免許状についても併せて更新されることとするなど、一定の配慮をすることが適当である。

8.現職教員を含む現に教員免許状を有する者の取扱い

 現職教員を含む現に教員免許状を有する者について、免許状に有効期限を設け、更新の要件を満たさなければ免許状が失効することとするのは、授与時に課されていなかった新たな要件をもって、免許状が失効するという不利益を課すことになるのではないかとも考えられる。一方、今回の教員養成・免許制度の改革において、現職教員に対する保護者や国民の期待に応えるためには、現職教員に対して、実効ある取組を行うことは不可欠である。このため、現職教員に対して、更新制を適用することが可能かどうか、法制度上の課題などについて、さらに検討することが必要である。

 同時に、現職教員については、都道府県教育委員会等において、指導力不足教員に対する人事管理システムの一層適切な運用や、現職教員に対する分限制度の厳格な適用を進めるとともに、新しい教員評価システムを早急に構築し、問題が認められた場合には、研修等による改善を促すとともに、状況に応じて、分限制度等の活用により適切に対処することが必要である。また、教職経験や職能等に応じて、必要な知識・技能等を速やかに身に付けることができるよう、現職研修の体系的な整備を一層進めていくことが重要である。

4.教員免許制度に関するその他の改善方策

 上進制度については、良好な成績で勤務した場合の在職年数を、大学における単位修得に代替するものとして評価するという本来の趣旨を踏まえ、教職員免許法別表第三に規定する「良好な成績で勤務」の評価がより適切に行われるよう、改善を図ることが適当である。
 また、上位の免許状の取得に必要な単位を修得する講習(以下「免許法認定講習」という。)については、都道府県や指定都市の教育委員会等が開設する講習のほか、中核市の教育委員会等が開設する講習も対象とするなど、上位の免許状を取得する機会が広く確保されるよう講習の実施主体を拡大することが適当である。この場合、上位の免許状を授与する上で、適切な内容・レベルが担保されるよう留意することも必要である。

 二種免許状を有する教員については、一種免許状の取得に努めることが求められていることを踏まえ、今後は、例えば、任命権者に一種免許状取得の努力目標の設定を求めるなど、より実効ある方策について、検討することが必要である。また、本年1月の中央教育審議会答申「子どもを取り巻く環境の変化を踏まえた今後の幼児教育の在り方について」において、幼稚園の教員について、一種免許状の取得促進が求められていること等を考慮すると、免許法認定講習の実施の拡大を進めるとともに、今後は幼稚園の教員も、いわゆる12年指定制度(二種免許状を有する教員について、教職経験が12年に達した時点で、一種免許状の取得に必要な大学の課程等を指定する制度)の対象とすることが適当である。

 二種免許状の今後の在り方については、例えば幼稚園のように、校種によってはなお多くの学生が二種免許状を取得し、採用されている実態があること、また、他校種や他教科の免許状を取得する方策として、二種免許状の活用が期待されている側面もあること等を考慮すると、当面は、二種免許状を存続させることが適当である。ただし、一種免許状の早期取得がこれまで以上に強く求められている近年の状況等を考慮すると、二種免許状の在り方については、引き続き検討課題とすることが適当である。

 分限免職処分を受け、既に教員としての身分を失った者について、明らかに教員としての資質能力に問題があると認められる場合に、当該者に引き続き免許状を保持させておくことは、教員免許状や教員に対する信頼を著しく損なうことにつながるおそれがある。このため、このような場合には、免許管理者(免許状を有する者の住所地の都道府県教育委員会)は免許状を取り上げることができることとすることが可能かどうか、検討する必要がある。

5.採用、研修及び人事管理等の改善・充実

(1)採用の改善・充実

 教員の採用については、養成段階で教員として最小限必要な資質能力を身に付けているかどうかを確認し、その上で、任命権者が求める教員像に照らして、より優れた資質能力を備えた人材を確保していくことが、今後とも重要である。

 今回の教員養成・免許制度の改革の趣旨を踏まえ、都道府県教育委員会等はそれぞれが求める教員像をより明確・具体的に示すとともに、それに合致する者を採用するのに適した選考方法を工夫するなど、採用選考の一層の改善・工夫を図ることが必要である。その際、多面的な人物評価の一層の充実や、ボランティア等の諸活動の実績の評価等のほか、例えば、大学の成績や教職課程の履修状況をこれまで以上に適切に評価すること等も考慮する必要がある。

 今後、教員の大量採用時代を迎えることが見込まれることから、都道府県教育委員会等においては、中長期的な視野から退職者数や児童生徒数の推移等を的確に分析・把握した上で、計画的な採用・人事を行うよう努めることが重要である。また、量及び質の両面で優れた教員を確保するため、募集から採用内定に至る採用スケジュール全体の早期化を検討するとともに、採用選考の受験年齢制限の緩和・撤廃、特別免許状や特別非常勤講師制度の活用による社会人経験者の登用促進、退職教員を含む教職経験者の積極的な活用、任期付任用制度の活用等、多様な人材を登用するための一層の改善・工夫を図ることが必要である。

(2)現職研修の改善・充実

 初任者研修や10年経験者研修等の教職経験に応じた研修については、都道府県教育委員会等においては、これまでの実施状況を検証するとともに、今回の教員養成・免許制度の改革の趣旨を踏まえて、研修内容・方法や受講者の評価の在り方を見直すなど、必要な改善・工夫を図ることが必要である。
 また、都道府県教育委員会等における研修が多様化する中で、国においては、研修の成果の把握や評価方法等についてモデルを作成するなど、全国的な水準を確保するための方策について検討することが必要である。併せて、国や都道府県教育委員会等においては、非常勤講師や民間企業の経験者など、多様な経歴を有する教員が増加している状況を踏まえ、個々の教員のキャリアに応じた柔軟な研修体系や研修内容について検討することが必要である。

 更新制を導入することとした場合の10年経験者研修の在り方については、更新制とは制度の趣旨や位置づけ、対象者等が異なることから、当面は存続させることが適当であるが、10年経験者研修の今後の実施状況や更新制導入後の教員の資質能力の状況等を総合的に勘案しながら、その在り方を検討することが適当である。

 平成11年の教養審第三次答申で示されているように、今後は、任命権者等が実施する研修や校内研修に加えて、教員の自主性・主体性を重視した自己研修が一層重要である。各学校や都道府県教育委員会等においては、大学や教育研究団体等における研修活動を奨励・支援するとともに、教員の自己研修への取組を適切に評価し、処遇に反映していくことが必要である。

 これからの校長等には、学校の自主性・自立性の確立に向けた学校運営の改善のためのマネジメント能力の向上や、教員評価にあたっての評価者としての能力の向上が求められており、都道府県教育委員会等においては、これらの能力向上のための研修の充実について、検討することが必要である。

 学校教育を取り巻く課題や教員をめぐる状況が大きく変化する中で、独立行政法人教員研修センターについては、全国的な教員の資質能力の向上を担うナショナルセンターとしての役割・機能を、これまで以上に発揮していくことが求められる。このため、各地域において中核的な役割を担う教員等を一堂に集めて行う研修や、都道府県教育委員会等に先行して実施する喫緊の重要課題に関する研修について、今後とも、一層の充実を図ることが必要である。
 また、同センターにおいては、今後、全国の優れた実践事例を収集するとともに、教育委員会や大学等との連携により、初任者研修や10年経験者研修等のモデルカリキュラムの開発や、研修の効果的な実施手法の開発を行い、都道府県教育委員会等に提供するなど、教育委員会等に対する指導、助言、援助の機能をより一層、充実・強化することが必要である。

 都道府県教育委員会等が所管する教育センターにおいては、研修の実施のみならず、学校現場や大学、独立行政法人教員研修センター等と密接に連携・協力して、地域に根ざした教材やカリキュラム等の開発研究を行うとともに、優れた指導実践を蓄積し、学校現場に提供していくなど、その機能の充実・強化を図ることが必要である。

 今後は、現職研修の面でも、大学と教育委員会や学校との一層の連携を図ることが重要である。このため、大学においては、研修プログラムの開発研究や現職教員を対象とした研修講座の開設、教育センター等との共同による研修事業の実施等について、検討することが必要である。

(3)人事管理及び教員評価の改善・充実

 大多数の教員は、教育活動や自己研鑽に熱心に取組んでいる一方で、教員の中には、教職に対する情熱や使命感が低下したり、教員として必要な資質能力が欠如しているなど、問題を抱える者が少なからず存在することも事実である。安心し、信頼される学校づくりを進めていくためには、このような問題のある教員は教壇に立つことのないよう、毅然とした対応をすることが重要である。このため、都道府県教育委員会等においては、引き続き、条件附採用期間制度の厳格な運用や、指導力不足教員に対する人事管理システムの活用による分限制度の厳格な適用等に努めていくことが必要である。

 学校教育や教員に対する信頼を確保するためには、教員評価の取組が重要である。教員評価については、単に査定のための評価ではなく、一人一人の能力や業績を適正に評価し、教員に意欲と自信を持たせ、育てていく評価とする必要がある。また、主観性や恣意性を排除し、客観性を持たせるよう、評価要素や項目の基準を明確にすることも大切である。現在、全ての都道府県・指定都市教育委員会において、新しい教員評価システムの構築が進められているが、今後、上記のような視点に留意しつつ、これらの取組を一層推進していく必要がある。また、評価の結果を、任用や給与上の措置などの処遇に適切に反映するとともに、優れた実践や高い指導力のある教員を顕彰するなどの取組を進め、社会全体に教員に対する尊敬と信頼が醸成されるよう環境を培うことが重要である。

6.教員養成・免許制度の改革の円滑な実施のために

 今回の教員養成・免許制度の改革を実施することとした場合、教育職員免許法等の改正のほか、課程認定大学や免許事務を行う都道府県教育委員会における準備、学生をはじめとする関係者への周知徹底等を支障なく進めていく必要があるが、教員を取り巻く状況や改革に対する国民の期待等を考慮すると、できる限り速やかに改革を実現することが求められる。

 今後、教員に優れた人材を得るためには、教職が魅力ある職業であることが不可欠であり、今回の改革が、教員や教員志願者の意欲を高めることにつながるようにする必要がある。このため、国や都道府県教育委員会等においては、教員や教員志願者に対して、更新制が教員に対する国民の信頼を獲得する上で重要な施策であることや、充実した教育活動を行う上で教員自身にとっても有益なものとなることなど、更新制の導入に対する理解を得る取組を実施することが必要である。

 また、更新制の導入が、今でも多忙感があると指摘される教員に対して、過重な負担を課すことにならないよう、免許更新講習の計画的な受講を可能とする校内の協力体制の確立や、学校の事務・事業の見直し、事後処理体制の整備等について、検討することが必要である。

 今後、各学校が、複雑・多様化する教育課題に適切に対応するためには、教員同士が学び合い、高め合っていくという同僚性や学校文化を形成することが重要である。このため、教員の資質能力の向上を図る際には、個々の教員の能力向上という視点だけでなく、職場の同僚同士のチームワークを重視し、全体のレベルを向上させるという視点を持って、校内研修の充実等に努める必要がある。

 また、有機的、機動的な学校運営が行われる体制をつくることも重要であり、このため、校務分掌などの校内組織を整備するとともに、個々の教員の知識・経験を他の教員も共有できるよう校内体制の在り方を検討することが必要である。校長や教頭等の管理職に優れた人材を確保するとともに、それを支える体制の整備についても、検討する必要がある。

7.その他

 小学校の教員については、今後の教員需要の高まりや、幅広い分野から人材を登用することの意義等を考慮すると、学科等の目的・性格と免許状との相当関係や、教員養成の質の維持等に十分留意しつつ、教員養成を主たる目的とする学科等以外の学科等においても、その養成を可能とすること等について、検討する必要がある。

 教員養成の専門職大学院の修了者に授与する免許状については、専門職大学院ワーキンググループの審議経過報告を踏まえ、教員養成部会において、総合的見地から検討することが必要である。

 教員を取り巻く社会状況や学校教育が抱える課題の複雑・多様化等に伴い、教員には、これまで以上に高度な専門性と豊かな人間性、社会性等が求められている。このような資質能力は、養成、採用、現職研修の各段階を通じて形成されるものであるが、社会状況の急激な変化や、学校・教員に対する期待の高まり等を背景として、養成段階には、これまで以上に教員として身に付けるべき多くのものが求められている。このような状況に対応し、養成段階において、円滑に教育活動に入っていける資質能力を確実に育成するためには、将来的には、我が国の教員養成は、大学院修士レベルまで含めた養成へとシフトしていくことが適当であるとの意見もあり、この点については、引き続き検討することが必要である。

 現在、中央教育審議会の他の部会において、義務教育の在り方や教育課程の基準全体の見直しに係る検討が行われているが、教員養成・免許制度の改革に関わる事項については、他部会における検討等を踏まえ、逐次、教員養成部会として検討することが必要である。

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